アイスエルフ救出作戦~暴かれしグランドロン

作者:坂本ピエロギ

 大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
 議題は、当然、ケルベロスへの対策である。

『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
 このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
 と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
 ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
 と念を押し、通信を切る。
 この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。

 先の大阪都市圏防衛戦は大成功に終わり、ケルベロスは多くのアイスエルフを救出することにも成功した。しかし――。
「残念ながら、救出できたのは女性のアイスエルフだけだったようです」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はヘリポートに集合したケルベロスに挨拶を済ませると、そう言って本題を切り出した。
「今回の作戦では、大阪城に囚われたアイスエルフの救出を行います。というわけで、まずは作戦の概要から説明しますね」
 救出対象となる男性のアイスエルフたちは、現在コギトエルゴスムと化したまま、大阪城のグランドロンの宝物庫に閉じ込められていると思われる。
 エインヘリアルの第四王女、レリの手によって。
「ケルベロスが保護しているアイスエルフからは、彼女たちの恋人や家族、友人である男性のアイスエルフを救出して欲しいという嘆願が出てきます」
 今回の作戦では、有志のアイスエルフが、ケルベロスの元から脱走したと見せかけて大阪城に戻り、偽情報で敵を混乱させる手筈になっている。裏表のないレリの性格から言って、アイスエルフたちの偽情報をさして疑わずに行動する可能性が高いだろう。
「アイスエルフの救出作戦では、班をふたつに分けて行動します。少数精鋭で大阪城に潜入を行う隠密作戦と、アイスエルフの流した情報通りに、大阪城に向かうと見せかけた襲撃を大阪緩衝地帯に仕掛ける陽動作戦です」
 今回ムッカが担当するのは、陽動作戦のグループとなる。
 その目的は、敵の部隊に戦いを仕掛け、潜入班が脱出するまでの時間を稼ぐことだ。敵の全滅を狙うよりも、いかに彼らの注意を引きつけられるかが成否を分けるだろう。
 現在、大阪緩衝地帯の守備にあたっているのは、レリの配下である白百合騎士団の兵士たちと当該エリアで活動していた竹の攻性植物からなる混成部隊だ。
 陽動班は緩衝地帯に攻撃をしかけ、迎撃に出向いてきた敵の部隊と戦闘しつつ、頃合いを見て撤退すればよい。ただし、陽動であることが敵に気付かれては意味がない。本気で攻撃していると思わせるような戦い方が必要になるだろう。
「それから留意点がひとつ。この戦いでは、レリや幹部たちも兵士と共に戦うようです」
 ムッカによれば、第四王女レリのほか、沸血のギアツィンスと絶影のラリグラスの姿が確認されているらしい。いずれも、単独班で相手取ることは極めて困難な強敵ばかりだ。
「戦場で強力な敵と遭遇した時は、迅速な対応が必要です。複数のチームで連携して釣り出して撃破を試みるか、撤退して戦闘を避けるか。その判断は皆さんにお任せします」
 大阪都市圏防衛戦で騎士団の兵を多く失った第四王女レリの勢力は極めて戦意が高く、復讐の機運が高まっているという。逆に言えば、それを何らかのかたちで利用することで、戦いを優位に進められるかもしれない。
「アイスエルフたちを救出し、地球の新たな仲間として迎え入れるため……どうか皆さんの力を貸して下さい。お願いします」
 ムッカはそう言って一礼すると、ヘリオンの発進準備にとりかかるのだった。


参加者
春日・いぶき(藤咲・e00678)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ

●一
 その日、大阪城の周辺は濃密な戦の空気に包まれていた。
 デウスエクスと人間の境界領域である大阪緩衝地帯、そこの廃ビルが建ち並んだ一角を、ケルベロスの一団が疾駆していく。
 彼らの目標は陽動――敵を誘き出し、アイスエルフが逃げる時間を稼ぐことだ。
「新たな友たる者たちの為、頑張りましょう」
「ああ。この作戦、絶対に成功させる」
 パイルバンカーを装着して駆ける葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)に、光の翼を広げるアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)が素の口調で返した。
 先の大阪都市圏防衛戦で、ケルベロス側につくことを選んだアイスエルフの女性たち。その気持ちに報いるため、アルシエルはこの作戦に参加している。
 彼女たちに、自らの選択を後悔させたくはない。そのためにも――。
「俺は、すべき仕事をこなす」
「アイスエルフたちの現状は、私も許容出来ないわね」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は家族や恋人と引き裂かれたアイスエルフの苦悩を思いながら、亡き伴侶のビハインド『アルベルト』を振り返った。
 愛する者と会えないことの辛さ、苦しさ。彼女はそれを嫌というほど知っている。
「共に在りたい人と自らの意思で決められるように、力を尽くしましょう」
「うむ。男衆の解放のため、吾も一肌脱ごうではないか」
 オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)はそう言って、獰猛に笑った。戦の気配が濃くなっていくのを、オウガの少女は敏感に察しているのだ。
 砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを、オニキスはぐっと握りしめる。どこから敵が来ても、応戦できるように。
 と、その時――。
「みんな気をつけて。正面に敵がいる」
 先頭を走る桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)が、警戒を呼び掛けた。
 彼女が指さした先に見えるのは、白百合騎士団とバンブーアーミーの混成部隊。
 剣を握り、槍を構え、爆破スイッチを手にしたデウスエクスたちだ。
「よーし。新しい地球の一員のために、レッツゴー!」
 熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)は隠密気流を解くと、オウガメタルをまとって駆けだした。ここから先は、ひたすら暴れて敵を引きつけるのみだ。
『ケルベロス! ここから先は通さん!!』
 武器を手に、次々と襲い掛かってくる騎士団兵と竹兵士たち。
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は、そんな敵の前に颯爽と立ちはだかり、
「この怪盗ステラ! 約束を守る為に参上したぜ!」
 そう言って、戦いの火蓋を切って落とすのだった。

●二
『突撃だ! 続け、バンブーアーミー!』
「やれやれ、何とも勇ましいことですね」
 あっという間に迫ってくるデウスエクスの一隊を、春日・いぶき(藤咲・e00678)は皮肉な笑みと共に眺めていた。
「内輪揉めの滑稽な喜劇に付き合う気はありません。――始末させてもらいましょうか」
 いぶきは『幸憑娘』で呼び出した黒兎の幻影を用いて、後衛のアルシエルたちに鋭利な刃を分け与えていった。幸せを勝ち取りなさいと語る、魔女のささやきと共に。
『バンブーアーミー、応援を――』
「遅いんだよ。間抜け」
 アルシエルはビルの壁面を足場に、流星の蹴りを放った。
 直撃を浴びたキャスターの竹兵士が緑色の破片を撒き散らし、悲鳴をあげて吹き飛ぶ。
「自分、アイスエルフさんは初めましてだけど……頑張っちゃうよー!」
 騎士団兵が放つゾディアックミラージュの嵐を突き抜け、まりるが鋼の拳を振るった。
 吹き飛ぶ鎧の破片。反撃で襲い来る竹兵士の稲妻突きと不可視の爆弾を、すぐさまステラとアウレリアが盾となって庇う。
「アルベルト。中衛の敵をお願いね」
「今日盗み出すのは大切な人々の宿る宝! 君たち、この俺を止められるかな!?」
 かごめが散布するオウガ粒子を浴び、アウレリアとステラが騎士団兵に襲いかかった。
 振り下ろされる惨殺ナイフの一閃。騎士団兵のしぶいた鮮血を体中に浴びたアウレリアの傷が、みるみる塞がっていく。
「怪盗の一撃、その目に焼き付けろ!」
 鋼の鬼と化したステラが、鉄槌のごとき拳を振り下ろした。鎧が吹き飛ぶのも構わずに、必死に反撃を試みる騎士団兵。
 しかし。
『――がっ!?』
 気づけばその喉が、棘のついた何かに絡め捕られていた。
 萌花の放った幻想の白茨、『World's End Nightmare』に。
『き、貴様……!』
「ばいばい。――至上にして最高の絶望を」
 骨が砕ける鈍い音が響き、騎士団兵が縊り殺された。
 瞬く間に前衛の守りを失った敵部隊。オニキスは変形したドラゴニックハンマーを担ぎ、砲門を中衛の竹兵士に向ける。
「隙だらけだな。もらったぞ!」
 アルベルトの金縛りを浴びた竹兵士が竜砲弾の直撃を浴び、粉微塵に吹き飛ぶ。
 残る敵後衛も集中砲火で仕留めると、ケルベロスはすぐにその場を離脱した。
 もたもたしている暇はない。戦いは始まったばかりだ。

●三
「急ぎましょう。レリや幹部とご対面、というのは遠慮したいですからね」
 いぶきは冗談を飛ばしながらも、常に戦場の注視を怠らない。転戦を続けながら、時おり休息に適した場所はないかと辺りを伺うも、
(「……難しそうですね」)
 そう結論付けるを得ない。
 何しろここは敵支配領域の真っただ中だ。休息を取るのはリスクが大きすぎる――そう判断し、いぶきは仲間たちと作戦を続行した。
 見つけては倒し、倒しては走る。
 襲撃と撃破と撤退を繰り返し、ケルベロスの陽動は続いた。
「んー。敵の増援、あんまり来ないね」
「それだけ他の皆の動きがいい、ってことじゃないかなー」
 ブーツから放つ蹴りで騎士団兵の魂を喰らい、傷を癒す萌花。まりるはケルベロスの陽動が思ったよりも効いているようだと感じ、更なる手を打つことにした。
 偽情報の拡散である。
「よーし、さっさとしばいて大阪城に攻め込むよー!」
『なにっ! や、やはり……そうはさせんぞ、ケルベロス!』
 偽情報にまんまと乗せられ、動揺を見せる騎士団兵。
 一瞬だけ生じたその隙を、まりるは突いた。
 ホーミングアローという名の、妖精弓と矢を使ったブッ叩きで。
「えーい!」
『ぐわっ!』
 カァン、と派手な音を立てて吹き飛ぶ騎士団兵。コギトエルゴスムとなって転がった敵をかごめは踏み砕き、イガルカストライクの構えを取った。
(「今頃、城内はどうなっているのでしょう」)
 ふとかごめは、同族救出のため城へと戻った有志のアイスエルフに思いを巡らせる。
 ケルベロスより非力でありながら、同族のために危険に身を晒した彼女たちはうまく脱出できているだろうか、と。
(「私たちも負けていられませんね。今は彼女たちを信じ、戦うのみです」)
 かごめはパイルバンカーを狙い定め、杭を射出。頭を穿ち貫かれた騎士団兵が全身を氷漬けにされ、物も言わずに崩れ去る。
『貴様ああぁぁっ!』
「無駄よ」
 残る最後の騎士団兵が、雄叫びを上げて剣を振り下ろした。
 そこへアウレリアが割って入り、かごめの盾となる。
 重力を込めた斬撃に黒兎の幻影がかき消えるのも構わず、アウレリアはコアエネルギーを銃身に込め、一撃で兵士を消し飛ばした。
「さて、さっさと倒れてくれないか? 俺たちも忙しいんでね」
 キャスターの竹兵士を轟竜砲で吹き飛ばし、アルシエルはちらと周囲を見回した。
 攻性植物と白百合騎士団の部隊は数こそ多いが、その連携は乱れているようだ。まりるが言った通り、それだけケルベロスの浸透戦術が効いているということだろう。
(「あとは引き際の見極め……か」)
 眼下を見下ろせば、オニキスが混沌水に血を混ぜる姿が見えた。
 狙いはスナイパーの竹兵士。脇から挟み込むように、ステラが息を合わせて走る。
「雪げぬこの血の呪い、汝にも分けてやろう。祟れ、捕喰竜呪!」
「怪盗の一撃、よく拝め!」
 呪いの血を含んだ液体の弾丸が、治癒阻害の力で竹兵士を絡め取った。
 そこへステラが足に魔力を纏わせ、跳躍。朽ちたビルの壁を足場に、最後に残った後衛の竹兵士めがけ、輝く足技を叩きつける。
「さあ、流れ星がみえるかな?」
 一筋の帚星が降り注ぎ、怪盗の蹴りが竹兵士の頭を蹴り砕く。
 戦闘開始から十数分。
 アイスエルフの姿は未だ見えない。

●四
 隠密気流で走る萌花とまりるを先頭に、ケルベロスは戦場を駆け続ける。
 幾度となく繰り返すヒットアンドアウェイ。次から次へ押し寄せる敵。疲労と負傷の影がじわじわとケルベロスに忍び寄り始めた。
「さてさて。戦いも佳境、といったところですか」
 ゴーストヒールとウィッチオペレーションを振るういぶきの手は、休まる暇がない。余裕を見ては『幸憑娘』で攻撃力の強化を施すが、それも騎士団兵が振るう重力の斬撃で削り取られていく。
「流石に、誰も倒れさせないなんて大きな事は言えませんけど……ね!」
 いぶきはステラの傷を塞ぎ終え、大槍を振るう竹兵士を睨んだ。
 医者である自分がこの場に立つ以上、簡単に倒せると思うな。そんな思いを込めて。
(「嫌いだったこの力も、役に立つなら重畳です」)
 と、そこへ――。
『GO! GO!』
 カラフルな煙幕が、エインヘリアルの隊列を包み込んだ。
 竹兵士が発動したブレイブマインだ。騎士団兵が剣を掲げ、ケルベロスへ迫る。
「く……っ!」
 萌花を庇い、剣を受けるステラ。
 切り裂かれた腕から血がしぶき、怪盗の頬を赤く濡らす。
「もう少しの辛抱よ。耐えて」
「ああ。こんなところで、倒れてたまるか! ノッテ、援護を頼む!」
 アウレリアの気力溜めで踏み止まるステラ。ウイングキャットの翼がもたらす清浄の風を浴びながら、彼は愛用のガジェットを変形させ始めた。
 彼の脳裏をよぎるのは、先の戦いで救出したアイスエルフとの約束。彼女たちの家族を、恋人を、必ず助けると誓った一言だ。
(「彼女たちが望むなら、俺は力を惜しまない。なぜなら……」)
 なぜならステラは、怪盗なのだから。
 コギトエルゴスムを盗みに行けずとも、怪盗は約束を違えないのだから――。
「バスターフレイム、発射!」
 ガジェットの発火装置が作動し、消し炭と化す竹兵士。
 萌花とまりるは血で濡れた足でアスファルトを踏みしめ、敵前衛めがけ殺到する。
「こんな程度で落とせるなんて、思わないでね?」
「やっぱり殴り慣れたスマホが一番だねー」
 絡みつく白い茨。振り下ろされるスマホの角。
 体中の骨を砕かれ、ガンッと強かに頭を殴られ、騎士団兵が次々に斃れた。
『まだまだ……っ!』
「ぐうっ、やるな、汝!」
 残る騎士団兵が放った星座のオーラに耐えると、オニキスは反撃の轟竜砲を叩き込み、これを葬った。
「アルシエルさん。レリは……周囲に怪しい動きはありませんか?」
「大丈夫だ。この一帯に奴等はいない」
 最後の騎士団兵にフロストレーザーを発射するかごめに、アルシエルはそう返した。
「レリも幹部たちも、他の部隊と接触したということだな」
「そうさ。あの面倒くさい王女が、この光景を指をくわえて見てるって? 考え難いね」
 レリと対峙した経験を持つ彼の言う事だけに、その言葉には重みがあった。
 アルシエルはスターゲイザーで後衛の竹兵士を吹き飛ばし、声を振り絞る。
「行くぞ皆。最後のひと頑張りだ」

●五
 残る気力を奮い立たせ、ケルベロスは最後の襲撃を敢行した。
 既にいぶきとノッテだけでは回復が追い付かず、盾役のアウレリアとステラも、気力溜めとシャウトで傷を塞いで決壊を防いでいる。
 敵の攻撃を、一撃でも耐えるために。陽動の時間を、一秒でも稼ぐために。
 しかし――ついにその時は訪れた。
『食らえ、ケルベロス!』
「ぐう……っ!」
 オニキスを庇ったステラが、騎士団兵の放つ凍結オーラの前に倒れたのだ。
「私はまだ大丈夫よ。回復は他のメンバーを優先して頂戴」
 アウレリアは不可視の爆弾からかごめを庇うと、冷たく光る指を騎士団兵に向けた。
「夜の指先がそっと触れるように、速やかな滅びをあげる……」
 鋭い指を敵の腹に突き刺し、心臓部のコアへと生命力を届けるアウレリア。生命力を吸い取られた兵士が、絶叫して悶絶する。
「いくよー! えーいっ!」
 まりるは傷だらけの腕をオウガメタルで覆い、敵ジャマーめがけて振り下ろす。
 鋼の拳が直撃し、竹の破片をまき散らして粉々になる竹兵士。だがそこへ、2名の騎士団兵が、反撃の剣をまりるとかごめ目掛けて振り下ろした。
 攻撃を浴びたまりるの体が、ぐらりと揺らぎ、倒れる。
 魂が肉体を凌駕したかごめは、イガルカストライクで騎士団兵の胴に大穴を開けて屠り去ると、肩で息をしながらアルシエルに尋ねた。
「味方の応援は……来られそうですか?」
「……いや、無理だ」
 一時は押されていた敵兵たちも、次第に反撃の態勢を整え始めている。
 大きな被害を出しながらも決して敗北することはない、そんな兵数だ。どこの班も目の前の対応で手一杯だろう。
「潮時やもしれぬな」
 これ以上の長居は無意味。オニキスと仲間たちは頷きあい、撤退を決意する。
 まりるを担ぎ上げた萌花を庇うように、アルシエルは血の弾丸を大量に生成し始めた。
 狙いはクラッシャーの騎士団兵。片割れのディフェンダーを倒すまでの時間稼ぎだ。
「……血に、沈め……」
 斉射された『Blood Bullet』が騎士団兵に命中し、呪いの力で身動きを封じた。
「さあ、出し惜しみはなしと行きましょう」
「これで終わりよ……」
 いぶきの『幸憑娘』によって力を増したアウレリアは、コアエネルギーを残らず愛銃へと注ぎ込んだ。
 発射されるフルチャージの一撃。ディフェンダーの騎士団兵が木っ端微塵に吹き飛ぶのを確かめ、オニキスは呪詛を乗せたチェーンソー剣の一撃で敵クラッシャーを両断した。
 最後に残る後衛の竹兵士が悪あがきで起爆する、不可視の爆弾。萌花は爆発で頬についた煤と血を払うと、幻想の白茨で竹兵士を絡め捕る。
「気はすんだ? それじゃ、バイバイ」
 断末魔すら上げられずに竹兵士が砕け散り、戦場には束の間の静寂が満ちた。

●六
 負傷したまりるとステラを担ぎ、ケルベロスは撤退を開始した。
 陽動作戦は成功だ。後は城内のアイスエルフが助かることを祈るのみ――。
 と、そこでアルシエルは異変に気付いた。
 大阪城の方角が、やたらと騒がしい。
(「あれは……アイスエルフ!?」)
 彼の目が捉えたのは、城門から雪崩れるように出撃するアイスエルフの一団だった。
 エインヘリアルの増援を偽装し、脱出を図ろうというのだろう。宝物庫に忍び込んだ班の安否は未だ不明だが、この分ならばきっと成果は上々に違いないと思えた。
(「……死ぬなよ、皆」)
 大阪城に背を向けて、アルシエルは仲間たちと離脱していく。
 アイスエルフたちに届く報せが吉報であるよう、心の底で祈りながら。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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