大阪城内に取り込まれた、宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつで、エインヘリアルの第四王女レリは、同じく宝瓶宮グランドロンの『破片』のひとつを拠点とする、第二王女ハールとの間で回線を開き、情報を交換していた。
議題は、当然、ケルベロスへの対策である。
『ケルベロスの襲撃の情報が欺瞞情報の可能性があります。アイスエルフの忠義を確かめる為にも、男のアイスエルフを復活させ、前線に配置しなさい』
このハールからの指示に、レリは、
「男のアイスエルフこそ、裏切る可能性が高いでしょう。ケルベロスの迎撃は、信頼できるものだけで行うべきでしょう」
と答え、白百合騎士団による防衛すべきだと意見を返す。
ハールは、何度か注意を重ねた後、
『砕かれたグランドロンの『破片』が、再び揃おうとしています、その前に、大阪城の『破片』が失われる事だけは無いように、心して守り抜きなさい』
と念を押し、通信を切る。
この通信の後、第四王女レリは、グランドロンの警護として、騎士団の後方支援を担う蒼陰のラーレと、戦力としては期待できないアイスエルフの女性達を残すと、騎士団主力を率いて、ケルベロスの迎撃へと出陣したのだった。
「大阪都市圏防衛戦、お疲れさまでした。おかげで多くのアイスエルフたちを連れ帰り、その話を聞くことができました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロスたちを出迎え、丁寧に一礼した。
「彼女たちによれば、エインヘリアルの第四王女レリは女性のアイスエルフしか信用していないようです。アイスエルフの男性はコギトエルゴスム化したまま、拠点であるグランドロンの宝物庫に閉じ込められている――という情報が得られました。そして同時に、彼らを救出して欲しいという嘆願がありました」
彼女たちはそのためなら何でもすると言った言葉の通り、ケルベロスの元から脱走したと偽って大阪城へ戻り、敵を攪乱する作戦を流す役割を申し出たのだ。
「その性格上、第四王女レリはこの偽情報を信じて行動する可能性が高いと考えられます。故に、こちらは陽動部隊と潜入部隊に分かれ、アイスエルフ救出作戦を行うことになりました。皆さんにお願いしたいのは、アイスエルフの偽情報通りに大阪城を正面から襲撃する陽動作戦の担当です」
大阪城の警備に当たる敵勢力は、第四王女レリ徘徊の白百合騎士団の面々及び『竹の攻性植物』の混成部隊。
「相手にとっては防衛戦となりますから、襲撃を受けた場合は守りを固めて増援を待つという戦い方をすると思われます。こちらの目的は陽動ですから、できるだけ彼らの目を引き付けられるように頑張ってください」
場合によっては、第四王女や精鋭の騎士たちと遭遇する可能性もあるだろう。これを撃破する場合、1班だけでは力不足だ。他班との連携が必要になるだろう、とセリカは説明する。
「出撃すると思われる有力敵は、『第四王女レリ』、『沸血のギアツィンス』、『絶影のラリグラス』ら3名。連携のみならず、どうやって他の敵から引き離すか、増援を躱すかなど綿密な作戦が必要になるでしょう」
「潜入チームが作戦を成功させるための陽動とはいえ、『第四王女レリ』達と交戦する可能性もある危険な任務です。どうか、お気をつけて」
セリカはそう言い結んで、ケルベロスたちを送り出す。アイスエルフ達を救出するための大作戦が今、決行されようとしていた。
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
連城・最中(隠逸花・e01567) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574) |
●譲れぬ戦い
(「凄い敵の数――」)
隠密気流を纏い、他の仲間らと協力して部隊全体の気配を外部から遮断した新条・あかり(点灯夫・e04291)は大阪城周辺に展開する白百合騎士団と攻性植物の混成軍を前にしてぴくぴくと耳を震わせた。
(「……直進は不利……ビル影になる東側から回り込む……」)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)はあらかじめ用意した地図とスーパーGPSによって得られた現在情報を照会し、綿密に進軍ルートを定める。ハンドサインによって伝達された情報に連城・最中(隠逸花・e01567)は頷き、同じく隠密気流を操る前衛の尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)と並んで先陣を切った。
(「頑張れよ」)
有力敵を狙い、他の陽動班とは別れて進む者たちを見送りながら広喜は少しずつ彼らとは距離を取っていく。
(「敵の奇襲や不意打ちは今のところ無し、と」)
風が建物の隙間を吹き抜ける音、白百合騎士団が身に纏う鎧がこすれ合う微かな軋み。嵐の前の静けさが戦場を包み込んでいた。フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は耳を澄ませてそれらを聞き分ける。
(「まだですよー、暴れるのはがまんがまんー」)
彼らは半ば崩壊したビルを背に、防衛ラインの外縁を守備する十人ほどの小隊のほぼ頭上を取ることに成功した。
「――――」
最中は眼鏡を仕舞い、手袋をした手を大きく振った。
それが、開戦の合図。
「なにッ、敵の奇襲か!?」
部隊長と思われる女騎士の叫びごと、周囲を激しい火柱が包み込む。
「サaサ踊リマ瀬ウヤ、盛リマセUヤ!」
辺り一帯を煉獄と化す炎が燃え盛る様はまるで祭りの篝火が天を焦がすかのようでもあった。激しい爆竹のような音を奏で、踊り狂うように掲げられるフラッタリーの手を離れた火球が幾つも連続で爆ぜる。大地に突き刺した刃から溶岩流のようにあふれ出た焔の奔流に数体のバンブーソルジャーが押し流されていった。
「さて……派手に暴れよウか。相棒」
ガトリングガンを構えながら、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が囁いた。互いの背を守り合うように佇んだ広喜が両の拳を打ち鳴らす。
「さあ、派手にぶちかまそうぜ」
「あア。何が来よウとも関係なイ。ただ眼ノ前にある敵を屠るだけダ」
直後、戦場を青い炎が迸り、眸の斉射するガトリングガンの弾幕と化学反応を起こすようにして目も眩むほどの閃光を放った。
ほとんど悲鳴に近い女騎士の指示が飛ぶ。
「ケルベロスたちの襲撃だ!! 援軍を呼べ!!」
「させるかよっ!!」
「!?」
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が溌剌と叫んで拳を振り上げた途端、敵の足元に仕込んでいた爆竹が花火のように炸裂。辺り一帯を更なる紅蓮の炎と粉塵が飲み込んだ。即座にキリノがポルターガイストを起こして逃げ道を塞ぎ、機動力を削ぎ落す。
「くっ、完全に先手を取られ――がっ!!」
「悪いね。せっかく士気の高いところ、隙をつくような真似をしちまってさ」
背後から女騎士の首を掴んだ千翠の囁きが呪詛となり、彼女の皮膚に禍々しい呪いの文字を浮かび上がらせた。
「ああああッ……!!」
力尽きた体を放り捨て、千翠は迫りくる攻性植物たちに向けて声を張り上げる。
「ミリシャの恨みだ、根こそぎ倒させてもらう!」
呼応するかの如く、バンブージェネラルの指揮によって6体ものソルジャーたちがケルベロスたちめがけて襲いかかった。
「おやおや、敵に不足はないって感じだねえ」
軽く揶揄するような響きの言葉と共に、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)の腕からボクスドラゴン のシロが飛び立った。
「アタシの鎖を越えられるもんなら越えてみなよ」
翔子が指先を躍らせれば、敵と味方との境界線を引くかのようにケルベロスチェインが幾何学模様の陣を刻んでソルジャーたちの蔓を弾き返す。
「脱走は痛手ですが、今こそ此の地を返してもらいますよ」
千代見刀を手に背後に回り込んだ最中へと彼らの注意が引き付けられる中、完全に死角となっていた頭上から無数の刀が降り注いだ。
「ギャギャッ!!」
「手前の方が防御手と見受けます。そちらから倒しましょう」
「わかったよ」
こくりと頷き、あかりは舞うように両の手に持つ扇で迅雷を呼び寄せる。元気な鳴声とともに白い尾を揺らしてシロが応援すると、尖った耳がぴんと上向いた。くすぐったそうに「ありがと」と呟き、一気に扇を振り下ろす。
(「潜入班は無事に城内へ入れただろうか」)
この戦いが無事に終われば、アイスエルフの女性たちは愛しい恋人たちと再会できる。同じ戦場で戦っている大切な人を思い、あかりは射程に捉えた全てのソルジャーを雷撃で射抜いた。
「……増援が来る……」
こちらに向けて近づき来る軍団を見据え、千里は周囲にいたソルジャーたちを押しのけるように千鬼を薙ぎ払った。
「近くに……誘い込めそうな堀がある……そこまで退く……」
了解、と翔子はわざと敵へ聞こえるように叫ぶ。
「エインヘリアルや攻性植物には用は無いんだ、一旦態勢を整えるよ!」
「よし、殿は任せてくれ」
広喜は全身に仕込ませたミサイルを解き放ちつつ、じりじりと後退を始めた。つられて追いかけようとするソルジャーたちを、白百合騎士兵が叱咤する。
「持ち場を離れるな! 我々の任務はこの本拠地を守ることである!!」
「――――」
追撃を諦める敵軍を後目に、フラッタリーはにたりと笑って濡れた舌をくねらせた。獣じみた跳躍でビルを越え、彼らの視界から身を隠しながら次の獲物を求めてひた駆ける。
●混迷と裏切りと
(「敵の援軍が少ない?」)
再び、別の敵軍へと波状攻撃を仕掛けた最中は予想よりも抵抗が少ないことに気が付いた。鋭い襲撃に腹部を穿たれたバンブージェネラルが消滅し、その後ろから手負いの白百合騎士が襲いかかる。
「おのれッ!」
だが、その剣先は最中まで届くことなく、割り込んだ眸の指輪から放たれた円環状の碧光によって阻まれた。
「なに!?」
「俺達には背を預けられる仲間がいる。その力を思い知るといい」
半身を引いた最中の背後から捲り返るようにしてあかりの小柄な姿が現れる。その指先が、くんっと微かに動いた。
――途端、無数の針金――否、極細の氷柱が白百合騎士の全身を貫く。
「あぁぁ、ああッ……!」
「さよなら」
呻きを上げたその舌が刺された瞬間、全身から血を噴き出してその体が頽れた。
「これで何人?」
「……10……12……1部隊と少し、といったところかな……」
千里は刀についた血を振り払い、現在位置を地図で確かめる。増援が来る前に移動しているのでそれらと交戦していないこともあるが、それを差し引いても敵の数があまり増えていない。
「つまり、陽動がうまくいってるってことだろうね」
翔子は器用に広喜の傷跡を縫い合わせ、損傷を最低限に食い止める。
「盾になってくれてありがとうよ」
「ああ、誰も壊させねえよ」
にやりと笑い、広喜はひとつ所に留まることなく敵陣へと突撃。全身を包み込んだバトルオーラが両翼のような形状へと爆ぜた瞬間、眼前に立ち塞がった攻性植物が襤褸切れのように宙を舞った。
「くそ、なぜ援軍が来ないのだ!?」
悔しげに歯ぎしりする女騎士の剣撃をその拳で受け止め、広喜は天衣無縫の笑顔で告げた。
「俺を壊すにはちょいと足りねえな」
「はッ――」
死角から迫る刃に女騎士の目が見開かれ、その双眸に迫りくる千翠の妖しげな笑みが映り込む。深々と突き立てた喰霊刀がまるで流れる血を咀嚼するかのようにどくんと脈打った。
「く、ああッ」
「あんたの魂は美味い、だってさ」
引き抜いた刀で、背後から襲いかかって来たバンブーソルジャーをそのまま斬り捨てる。広喜の指先がそっと左耳の蒼石に触れ、植物でできた体が爆ぜたその時、後方から戦況を窺っていた翔子が鎖を迸らせて仲間を守りながら叫んだ。
「そろそろ次に行くよ!」
「了解しタ」
紅蓮の炎を纏わせたガトリングガンの銃身で攻性植物を燃やし尽くし、眸は次の敵が近寄る隙を与えないままに後退する。
「キリノ、前を頼めルか?」
黒衣のビハインドが闇のように揺らめき、ポジションを入れ替わる。追いすがる攻性植物をすり潰すように野干吼を振るったフラッタリーの狂態を目の当たりにした女騎士たちがごくりと喉を鳴らした。
「ば……化物ッ……」
彼女が通った後には火の粉が舞い、アスファルトは焼け焦げてまさに草一本残らぬ有り様だった。
「ほら、こっちにもいるよ」
目立つフラッタリーを援護するかのように、あかりは殊更大きく扇を舞わせる。雷が轟音と共に戦場を迸り、次々と攻性植物の群れを貫いた。
「いつまでもやられてばかりだと思わないでください!」
気迫で雷撃の中を突き進んだ白百合騎士の槍の穂先が、真っ向から翔子の柳緑花紅と噛み合う。
「そんな!? なぜ、ずっと戦い続けているのにまだ力が残っているの……?」
彼女は知らない。
先ほど、移動時にケルベロスたちがそのポジションを変えてそれまで敵の攻撃を引き受けていた者を後ろに下げていたことを。
「どうやら、こちらの方が一枚上手だったようだね」
「きゃあっ!!」
不意に降りしきった豪雨に怯み、白百合騎士はそのぬかるみに足元をとられる。翔子のもたらす洪霖だ。その隙を眸は逃さなかった。
「例え作戦が陽動だとしても、ぶち抜いてやろウ」
視界を全て覆いつくすほどの苛烈な弾幕が敵前衛を屠って陣形に穴を空けた。その崩れた一角へと丙子椒林剣を提げた千里がひらりと躍りかかる。
眼前に構えた斬霊刀に宿るは、光すら呑み込む重たき深淵の黒。恐るべき重力を纏わせながらも、千里はそれを一切感じさせないほどに軽々と操って攻性植物の四肢たる蔓を、根を瞬く間に断ち切った。
「……あれは……」
その緋に染まる瞳が、大阪城から出撃する氷の精たるアイスエルフの集団に気づいた。最中もそれを見て、潜入班の説得が成功したことを知る。
「どうやら、城内にいたアイスエルフたちが出撃を偽装して脱出を図っているようですね。こちらもそろそろ限界ですし、タイミングを合わせて引きましょう」
「合点承知! そんじゃ、あばよっ」
狂気の形相で気炎を吐き続けるフラッタリーの代わりに進み出た千翠は、撒菱のような物をばら撒いた。それらの引き起こす爆炎が追手の追撃を拒み、仲間の撤退を手助ける。
(「さて、レリたちを狙っていた皆の首尾はどうだろうね……?」)
翔子はついぞ遭遇することのなかった有力敵たちとの戦果に思いを馳せ、最中は眼鏡をかけ直してケルベロスたちが撤退する方角へと合流するように動いていくアイスエルフの集団を見守った。
「この結果が、彼女達と仲間の笑顔へと繋がりますように――……」
作者:麻人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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