アイスエルフ救出作戦～愛でる者・アーヴェイル

■リプレイ

●宝物庫グランドロン
　アイスエルフの手引を受けて大阪城ユグドラシルに潜入したケルベロス達は、彼女達と合流するため、グランドロンの入り口にやってきた。
　アイスエルフのコギトエルゴスムを積んだ宝瓶宮グランドロンの『破片』は、大阪城ユグドラシルに不時着した後、ユグドラシルの蔦に取り込まれ、その一部のようになっていたようだ。
　ケルベロス達が進む中、植物だけの迷宮から、ゴーレムとも機械迷宮とも思えるような一角へと差し掛かる。東京湾で戦った者達には見覚えがあった。間違いなく、この区域が宝瓶宮グランドロンの『破片』の一つだ。

　アイスエルフ達はケルベロス達から、カンギ戦士団がグランドロンの警備を自分達に任せるように横槍を入れてくる事を説明され、最初は驚いている様子であった。だが、横槍が入ること自体を疑いはしなかった。
「ひょっとして、バレたのかな」
　ボーイッシュな感じのアイスエルフが、気まずい様子で汗を流す。
　よくよく考えてみれば、色々と心当たりがある。
　もしかすると、アレかも知れないし、ひょっとすると、アレかも知れない。
　自分達なりに上手く誤魔化したつもりだが、そのせいで怪しまれてしまったのかも知れない……。
　そんな不安が頭の中で膨らんでいるのか、申し訳なさそうな顔をするアイスエルフ。
「まだ大丈夫。だからレリ王女の命を受けてグランドロン防衛にあたっていることを前面に押し出し、その上でアーヴェイルを持ち上げて、交渉を長引かせてほしいの」
　ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）が、アイスエルフの不安を消し去るようにして、力強く両手を握る。
「それでも、無理にここの警備をする事を選べば、美しくない上に、カンギの顔とレリの顔、両方にドロを塗りかねないと言えば、アーヴェイルも迂闊な事は言えないと思うよぉ～。最悪、此方からもレリに打診し、明日以降、変わって貰える様にいうから、今日の所は引いてほしいと言うか、守られているとはいえ、家族や恋人と離れるのは心苦しい為、今日残りの時間はそっとしておいて欲しいと嘆願してみるのも手かなぁ……」
　風陽射・錆次郎（戦うロボメディックさん・e34376）も、色々と言葉を選びながら、アイスエルフ達にアドバイス。
　アイスエルフ達は何やら不安げな表情を浮かべていたが、彼女達の交渉次第で命運が分かれる事は間違いなかった。
「場合によっては、私達が襲撃する事を伝えるのも悪くないかも知れないわね。もちろん、最終手段ではあるけど……。そこで戦果を上げれば、何かと都合がいい事を強調すれば、無理に引き継ぎをしようとは思わないと思うけど……」
　プラン・クラリス（愛玩の紫水晶・e28432）も、自分の考えを述べた。
　ただし、これは仲間達を危険な状態に追い込んでしまうため、あくまで最終手段である。
「だったら『赤い翼の７～８歳のオラトリオが大阪城に攻めてくるらしい』とか言って、彼の探している少女の存在をほのめかして、外に意識を向けさせるのは、どう？」
　ソフィア・フィアリス（傲慢なる紅き翼・e16957）が、思わせぶりな態度でクスリと笑う。
　そもそも、アーヴェイルは、自分の宿敵。
　５０年以上ぶりとはいえ、ある程度の思考パターンは読めるかもしれない。
　そういった意味でも、勝機があった。
「それに、時間稼ぎが主ですので、説得が無理そうであれば、交渉を長引かせてくれれば問題はありません。それに、ちょっと離れた所でちゃんと見守ってるから、自信を持って頑張って下さい」
　若生・めぐみ（めぐみんカワイイ・e04506）が、不安げな表情を浮かべるアイスエルフを勇気づけた。
「そ、それなら、まあ……」
　ボーイッシュなアイスエルフが、小さくコクンと頷いた。
　他のアイスエルフ達も、何となく同意。
「それでも、難しい顔をするようなら……」
　錆次郎が用意したチェキで写した写真を、アイスエルフ達に手渡した。
「……これを彼に渡すですの」
　シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858）も、見た目15歳以下の女子が多めなケルベロスの写真を、アイスエルフ達に配っていく。
「ちょっと恥ずかしいけど、これも持って行ってください」
　めぐみも自分の水着写真を渡し、恥ずかしそうに頬を染めた。
「ま、まあ、これも最終手段って事で……」
　そんな空気を察したアイスエルフが、苦笑いを浮かべた。
　ある意味、一番効果がありそうではあるものの、最悪……興味のない無駄話を延々と聞かされそうな感じであった。
（「……さすがにグランドロンの内部を調べるのは無理か」）
　ヴォルフ・フェアレーター（闇狼・e00354）が、警戒した様子で物陰に隠れた。
　現在、グランドロン内部で、別のケルベロスが行動をしているため、あまり迂闊な行動をする訳には行かなかった。
「……」
　そんな中、風魔・遊鬼（鐵風鎖・e08021）が異変に気付き、仲間達に対してハンドサインを送る。
　それに気づいた仲間達が警戒した様子で、アイスエルフ達から離れていき、自らの気配を殺すようにして物陰に隠れていった。
　そして、カンギ戦士団に所属するエインヘリアル『愛でる者・アーヴェイル』が配下の攻性植物達を引き連れ、アイスエルフ達の前に姿を現した。

●愛でる者・アーヴェイル
「やあ、君達。相変わらず、無駄に時間を潰しているようだね。まあ、それもこれで終わり。今後は私達がグランドロンの警備を引き継いでやろうじゃないか」
　アーヴェイルがアイスエルフ達に要求したのは、予想通りグランドロンの警備を引き継ぐ事だった。
　その理由は不明ではあるものの、エインヘリアルの第四王女レリがいない間にグランドロンを奪おうという意志があるのか、あるいはアイスエルフの裏切りに気づいているのかのどちらかである可能性が高かった。
　もちろん、現時点では憶測でしかないが、アイスエルフ達はケルベロス達に言われた通りの言葉を口にして、アーヴェイルの説得を試みた。
「なるほど……。その考えも一理ある」
　アーヴェイルが何やら考え事でいる様子で、アイスエルフ達の顔色を窺った。
「それにほら！　安全な攻性植物の大拠点の更に内部にあるグランドロンの警備だったら、ボクらでも何とかなるし！　ボクらが外で戦ったとしても、足手纏いになるだけでしょ？　だから、せめてこのくらいは役に立ちたいなぁ……と」
　アイスエルフがぎこちない笑みを浮かべ、言い訳をつらつらと並べていく。
「まあ、お前達の気持ちも分かる。本音を言えば、外で戦うのが怖いのだろう？　そんな事は口にしなくても分かる事だ。まあ、勝ち目のない戦いを無理強いしたところで、役に立つ訳がないしな」
　アーヴェイルがアイスエルフ達を見下した様子で、フンと大きく鼻で笑う。
　これにはボーイッシュなアイスエルフがイラッとしたものの、ケルベロス達との約束を守るため、グッと唇を噛み締めて我慢した。
「……待て！」
　その途端、アーヴェイルがケルベロス達の隠れた場所をジロリと睨み、思わせぶりな態度で人差し指をピンと立てた。
「ど、どうしたの……？」
　アイスエルフ達が驚いた様子で、目をギョッとさせた。
　それでも、何とか冷静でいようとしているものの、嘘をつく事が出来ないのか、動揺の色を隠す事が出来なかった。
（「まさか……バレた……！？」）
　ガートルードが隠密気流を使いつつ、驚いた様子で息を殺す。
「……」
　それは他のケルベロス達も同じであった。
　隠密気流を使って、気配を消しているものの、何やら嫌な予感しかしないようである。
「幼女の……ニオイがする」
　それはアーヴェイルにとって、もっとも好むフレグランス。
　それだけで身体をビクビクさせているものの、ケルベロス達の存在に気づいた……と言う訳ではないようだ。
「あ、そ、そうなの？　ボクらは見てないけど……」
　ボーイッシュのアイスエルフが、ドン引きとした様子で、乾いた笑いを響かせた。
「……いる。絶対にいる。私好みの幼女が……ここにいる！」
　アーヴェイルが何やら察した様子で、キッパリと言い放つ。
　それと同時に、グランドロン内で戦闘が発生し、アーヴェイルの表情が険しくなった。
「ええい、こんな時にッ！　悪いが中を確認させてもらう。もちろん、中に入るのは私だけだ。中で何が起こっているのか確認したら、すぐに戻ってくる。それならば、文句はあるまい」
　アーヴェイルが幼女の残り香を目で追いつつ、自らの役目を優先させた。
「ま、まあ……それなら……」
　アイスエルフ達も愛想笑いを浮かべつつ、アーヴェイルを中に招き入れた。

●騙し討ち
「これは一体、どういう事だ！？」
　アーヴェイルがグランドロン内部に足を踏み入れた途端、そこに待っていたのはケルベロス達であった。
「久しぶりじゃない、アーヴェイル」
　ソフィアがアーヴェイルの前に立ち、含みのある笑みを浮かべた。
「誰だ、お前は……」
　そう言いつつも、アーヴェイルは動揺しているようだった。
　心の何処かで『……もしや』という気持ちがありつつ、それでもその事実を認めたくないような感じであった。
「……え？　覚えてない？　あたしよ、あたし。アンタを倒したソフィアよ」
　それでも、ソフィアはまったく気にせず、アーヴェイルに迫っていく。
「し、知らんなッ！」
　アーヴェイルが明らかに動揺した様子で、ソフィアから視線を逸らす。
「あたしに会いたかったんでしょ？　もう孫もいるけど……。あの頃は大して変わっていないでしょ？」
　ソフィアがアーヴェイルの顔色を窺いながら、トドメの一言を言い放つ。
「ま、孫……だと！？　ふざけるなッ！　き、貴様は間違いなく、偽物だッ！　本物の訳が無い！」
　その途端、アーヴェイルの中で、何か大切なモノがガラガラと音を立てて崩れ落ち、爆発的に殺気が膨らんだ。
「かなり怒っているよね、これぇ……」
　錆次郎が身の危険を感じつつ、ジョブレスオーラを使う。
　それに合わせて、めぐみがナノナノのらぶりんと連携を取りつつ、ブレイブマインを発動させた。
「……怒っている？　違うな。冷静になろうとしているだけさ。キミ達がふざけた事ばかり言うから、少しカチンと来たものでね」
　アーヴェイルが自らの感情を押し殺し、独特な形をした鞭を振り回す。
　それはまるで生きているかのように妖しくウネり、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「……なるほど、冷静に＜ね。だったら、これも羨ましくない？」
　プランがアーヴェイルを挑発するため、【氷結の槍騎兵】を使い、氷で出来た美少女や、美幼女を召喚した。
「ああ、羨ましくない。何故なら、それはリアルではないッ！　幼女にとって、大切なモノ。それは若草の如く素敵なニオイッ！」
　アーヴェイルが犯罪者一歩手前のオーラを漂わせ、幼女とは何たるかを語り出す。
　それは、その場にいた全員が『よし、殺そう。この世界のために、こいつだけは殺しておこう』と思ってしまう程、アレな考えであった。
「ならば……Question。あなたはアシュトレテさんを覚えていますか？」
　それでも、シエナは怯む事なく、ヴィオロンテの蔦を文字通り手足の如く扱いながら、アーヴェイルにファナティックレインボウを使う。
　アシュトレテはカンギ戦士団の一員であり、シエナの母。
　アーヴェイルならば、彼女について何か知っているのでは、と考えたようである。
「例え、知っていたとしても、ケルベロスに話す義理はない。それとも、キミは私が仲間の事を聞かれたら、ベラベラと話すお調子者だと思っていたのか？　だったら、余計に心外だな」
　アーヴェイルがイラついた様子で、その場から飛び退いた。
　この様子では、アシュトレテの事を知った上で、あえて語ろうとしなかったのだろう。
　もしかすると、シエナの事も何か聞いているかも知れないが、それ以上の事は口にしなかった。
「だったら、これ以上……話す事もないな」
　すぐさま、ヴォルフが稲妻突きを放ち、アーヴェイルの行動を阻害した。
　ヴォルフにとって、アーヴェイルに対する感覚は、純粋な殺す為の対称としての興味と好奇心。
　ただ、それだけの感情しか抱いていないため、攻撃にも無駄がない。
「……少し力を借りるよ」
　その隙をつくようにして、プランが殺戮機械のエネルギー体を召喚し、自らに憑依させて半機械化した翼を刃でアーヴェイルに攻撃を仕掛けていった。
　先程、アーヴェイルが妙な事を言ったせいで、かなり引き気味ではあるものの、それでもサキュバスとして可愛く、セクシーに舞うようにして、次々と攻撃を仕掛けていった。
「……」
　遊鬼も短期戦闘を主眼に、淡々とアーヴェイルに攻撃を仕掛けていた。
　ここが敵地である事も考えると、言葉を発する時間すら惜しいほど。
　ありとあらゆる時間を削って、短時間で決着をつけなければ、敵の増援が来る可能性もあるのだから……。
「お前の悪事もここまでよ！　どこまでも追い詰める……地の果て、天までも届け！　ワイルドアーム！」
　次の瞬間、ガートルードがワイルド化された左手をアーヴェイルめがけて伸ばし、左手に持った武器で串刺しにした。
「目に見えぬ刃をかわせる者はなし」
　それに合わせて、遊鬼は風魔流投擲術『刃風』を使い、極小の手裏剣を風にのせて投擲し、無数の刃でアーヴェイルを切り刻んだ。
「クッ……！」
　そのため、アーヴェイルは反撃を仕掛ける事さえ出来ず、バランスを崩して激しくよろめいた。
「捕まえた。さあ、ひしゃげて潰れなさい」
　それと同時に、ソフィアが巨大化させた縛霊手で、アーヴェイルを挟み込み、バリバリと音を立てて押し潰した。
　そのため、アーヴェイルは悲鳴すら上げる事が出来ず、物言わぬ肉の塊となって地面に落ちた。
「後は外で待っている配下の攻性植物を倒すだけですね」
　めぐみが警戒した様子で、物陰に隠れた。
　アーヴェイルが健在であれば、攻性植物相手に苦戦を強いられたかも知れない。
　しかし、アーヴェイルが倒された今であれば、話は別。
　例え、他の攻性植物と比べて強かったとしても、めぐみ達の敵ではない。
「それじゃ、みんな覚悟はいいな……？」
　そう言ってヴォルフが覚悟を決めた様子で、正門前に待機していたアーヴェイル配下の攻性植物に攻撃を仕掛けていく。
　それに気づいた攻性植物達が一斉に攻撃を仕掛けてきたものの、アーヴェイルを失った痛手は大きく、ケルベロス達の足元にも及ばなかった。
　その後、アイスエルフ達は『守備を引き継いだアーヴェイルのおかげで、グランドロンは守られたものの、ケルベロスが大阪城の奥に向かってしまったため、私達はレリ王女に報告した後、指揮に従う予定だ』と誤魔化し、ドサクサに紛れて逃走に成功するのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 0
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