アイスエルフ救出作戦～陽動襲撃指令！

■リプレイ

●強襲
　大阪城へ続く旧市街地――無人の住宅街を真剣な面持ちで進むのは、７人のケルベロス達だ。
「はーい、皆さん。あまり離れないで下さいねー」
　ちりん、と鈴を象ったオウガメタルを鳴らし、七奈・七海（旅団管理猫にゃにゃみ・e00308）は気配を隠す気流をまとう。すらりと伸びた手足に程良く力を籠め、周囲を見回す藍色の瞳は真剣そのもの。頭の上ではウェアライダーの証である獣耳が、気配を伺う様にぴんと立てられている。
「ありがと、七海さん。他のチームが上手くやってくれるまで、派手に暴れて引き付ける……簡単じゃないけど、やることはシンプルだね」
　明るく応じるのは、黒髪黒瞳のサキュバス少女――峰谷・恵（暴力的発育淫魔少女・e04366）だ。まだ１２歳とは思えない程に発育した身体に露出度の高い黒ビキニとケルベロスコートを纏い、隠密気流を使う七海の傍に身を寄せている。
「ソウデスネ。派手に火柱でも立てマショウ、きっと目立ちマスヨ」
　青い髪の少女、アップル・ウィナー（キューティーバニー・e04569）は、紫の瞳を輝かせ、自信有り気な笑みを浮かべた。頭にはウサミミ型ヘッドホン、懐にはウサギのお守りに、白兎が跳ねる懐中時計。全身でウサギを表現する彼女は――実はレプリカントの少女である。
「とにかく派手に、だね。おばあちゃんの為にも、陽動頑張るよ！」
　小さな拳を作って元気よく答えるのは、本日最年少の幼いオラトリオ――鷹崎・愛奈（死の紅色カブト虫・e44629）だ。特徴的な赤い髪と魅力的な青い瞳を持つ少女は、憧れの人の為にも、と決意を燃やす。
「ええ。一緒に頑張りましょう！」
　幼い少女の誓いに、中性的な顔立ちの少年が、純真一色の笑顔で相槌を打った。燈家・彼方（星詠む剣・e23736）―― 瞳と同じ漆黒の髪、細身の身体には白と黒、二刀の斬霊刀を携えた、地球人の刀剣士だ。仲間達の力になりたい、という真っ直ぐな思いが、全身から溢れている。
「王女レリ、やっぱり駄目な人ですね……」
　――あるいは残念な人と言うべきか。
　黒いスーツを着込んだ若きシャドウエルフの女性、シフカ・ヴェルランド（血濡れの白鳥・e11532）は、灰色の瞳で高くそびえる大阪城を見上げ、そっと溜め息を漏らす。
　女性差別を変えようとして、男性差別同然の方針を打ち出した王女レリには呆れるしかない。そして、捕らわれた男性アイスエルフを救うためとはいえ、そんな王女レリの下へ危険を冒して戻って行ったアイスエルフの女性たちには頭が下がる思いだ。
　嘆息する彼女の傍らには、どこか面影の似た、男性型のビハインドが守る様に寄り添っている。
「ま、そんだけ歪んじまってるって事なんだろうよ」
　シフカの呟きに応じたのは、赤髪赤眼に燃え盛る翼を背負うドラゴニアンの青年、竜ヶ峰・焔（焔翼の竜拳士・e08056）だ。
「お互いに死なねぇし、殺せねぇんだ。閉じ込めてでも置かなきゃ、おっかねぇって事なんだろうさ」
　不死のデウスエクス同士の間に上下関係が出来たなら、それは誰かが覆さない限り『永久に』続く。終わりの見えない差別の日々を延々と甘受させられ続けてきた苦悩は、王女レリに大きな歪みをもたらした――エインヘリアル以外の、アイスエルフの男性すらも受け入れられない程に。
（「……居ました。標的発見、８体です」）
　曲がり角の先を確認した七海が、仲間達へ向けて合図を送る。
（「戦闘準備完了……では、行きましょうか」）
　両腕に巻き付けた白い鎖を確かめ、シフカが目配せすると、仲間達からも同意の意志が返ってくる。
（「良し、一気に行くぞ」）
　赤い瞳を鋭く光らせ、焔は地獄の炎を身に纏う。胸に宿すのは『もう誰も失いたくない』という強い想い。互いに視線を交わし、タイミングを合わせて行く。
　多少でも奇襲効果があれば良し。それが無くとも、インパクトがあれば陽動としては大成功！ という事だ。
（「３……２……１……突撃！」）
　合図と共に、怒涛のごとき勢いで、ケルベロス達は駆け出して行った。

●奮戦
「来たな、ケルベロス！」
　突貫してくるケルベロス達の姿を認め、甲冑に身を包んだ白百合騎士団のエインヘリアルが声を上げる。
「怪我をしたくなければここを通しなさい！」
　瞳に宿ったパラディオンの力を開放し、光の双刃を手に敵陣へと斬り込んで行く愛奈。
「我が想う故に、彼らあり。命燃やして生き抜いた瞬間を再び今！」
　歌によって招き出された戦士達の幻影が、竹兵士達に襲い掛かった。
「居ますネ……では、まずはメディックからデス！」
「了解です！」
　敵陣後方に竹指揮官の姿を見つけたアップルの声に、七海が応じる。
「白き兎が描きしは、乙女の純情恋の炎！」
「不吉の黒猫が招きしは、母なる抱擁、不滅の黒！」
　闇の髑髏が檻となり、逃げ場を失った竹指揮官に炎の花びらが襲い掛かる。
　――さあ、燃え果てろ！
「「生火死華」」
　クラッシャーの力で増幅された、最大火力の火柱が竹指揮官を包み込んだ。
「合わせます！」
　後に続いたのは、白黒二刀の斬霊刀を構える、彼方。放たれた凍結の螺旋は狙いを過たず、焼き焦がされた竹指揮官を捕らえた。螺旋の冷気が溢れ、灼熱から一転、その身を瞬時に凍てつかせる。
「ボクも行くよ！」
　ケルベロスコートをひるがえし、恵は目にも止まらぬ速射を披露する。
「おのれっ……調子に乗るな、ケルベロス！」
　後衛への集中砲火を遮らんと、白百合騎士団員達が動き出す。だが、その眼前に炎をまとったドラゴニアンが立ちはだかった。
「行かせねぇよ……お前たちの相手はこの俺だぜ！」
　地獄の炎を燃え上がらせ、焔は不敵な笑みを浮かべて見せる。
「今すぐ此処で死に絶えろ……！ 殺技肆式、『鎖拘・Ge劉ぎャ』！」
　狙い澄まして放たれた、シフカの鎖――縛神白鎖『ぐlei伏ニル』が竹指揮官の首に深々と食い込んだ。鎖に引きずられるように、竹指揮官の身体が宙に舞い、周囲の外壁や舗装された地面へと連続で叩きつけられる。
「まず１体！」
　あらぬ方向に折れ曲がった竹指揮官の四肢が、急速に朽ち果てるのを見届け、シフカは鎖を引き戻した。

●転戦
「大変、敵の援軍だよっ！」
　竹指揮官に続き、爆竹兵と狙撃竹兵を葬った所で、遂にそれが来た。戦いながら周囲を警戒していた恵が一早く気づき、仲間達へ警告の声を上げる――……なるべく、焦ったような声になる様に。
「残念だったな、時間切れだ。お前達も、もうこれま……なっ、ドコへ行く！？」
　形成逆転とばかりに勝ち誇りかけた白百合騎士団の表情が一変。あっさり踵を返したケルベロス達に意表を突かれる形となる。
「元々、アナタ達に用は無いネ。この辺には隠れていないみたいだし、逃げたアイスエルフを探しに行くヨ！」
　駄目押しに欺瞞情報をばら撒きながら、アップルは民家の向こうへと身をひるがえす。
「くっ、逃がすかっ……っ、いや、配置に穴を空けるのはマズイ！ 一旦、援軍と合流しろっ」
　混乱する白百合騎士団の声を背中で聞きながら、ケルベロス達は住宅地を駆け抜け、手頃なビルの陰に身を潜める。
「はーい、また集まってくださいねー」
　先ほどの戦場から十分に離れた所で、七海は再び、ちりん、と鈴を鳴らし、隠密気流を発動させる。一つ一つの部隊は大きな脅威では無くとも、ここは敵地で敵は多勢だ。うっかり包囲されれば、全滅も十分あり得る。用心に越した事は無い。
「今回の戦場にも連斬部隊の姿が見えない……少し、気になりますね」
　一体、どこで何を企んでいるのやら――周囲を警戒しながら、シフカは不安そうに呟いた。
「負傷や疲労があったら、遠慮せずにボクに言ってね？」
　本日唯一のメディック担当、サキュバス少女の恵が仲間達の状態を確認する。
「うん、ありがとう。あたしはまだまだ、大丈夫！」
　それに元気いっぱいに応じるのは、幼いオラトリオの少女、愛奈だ。その言葉にも嘘は無く、疲労はともかく、被弾はまだ一度も受けていない。幼いながら一線級の実力に加え、回避を重視するキャスターの立ち回り。有象無象の雑兵の刃が彼女を捕らえられる可能性は非常に低かった。
「次の標的を見つけた。行けるか？」
　ビルの窓から周囲を伺っていた焔が戻り、仲間達に告げる。
「大丈夫です。この調子で、次も頑張りましょう！」
　まぶしい笑顔でそう答える、彼方。気負いは無く、驕りも無し。ただ真摯に自らの役目を果たさんと努める姿勢に、一同の間にも笑みが浮かんだ。

●退却
「はぁっ！」
　竹槍兵の回転斬撃に割り込むように、彼方は二刀を構えて前に出る。
「っ、助かる！」
　深手を負った焔が歯を食いしばって、身をひるがえした。塵も積もれば山となる。元々、一番耐久力が低かったのは焔だった。加えて、守りよりも攻めを取った果敢なスタイル故に、回復不能な傷は既に限界近くまで積み上がっている。
「できる範囲で引きつけは出来たとは思うけど……１３・５９・３７１３接続。再現、【聖なる風】っ！」
　そろそろ限界かもしれない――……そう感じながら、恵は前衛の４人に癒しの力を届ける。前衛が一番人数が多かった――故に、敵の範囲攻撃が前衛に集中した。それもまた、前衛が疲弊した一因でもある。
「これで……っ」
　外壁を足場に、空高く駆け上がる、愛奈。流星の煌めきと重力を宿した、愛奈の強烈な飛び蹴りが、白百合騎士団員の頭部に炸裂し。
「とどめです――ラブ＆ピース！」
　七海の放つ闇と炎の抱擁が、敵の身体を呑み込んでゆく。
　この時までに、７人のケルベロス達は２０体以上の敵を葬っている。疲弊は大きいが、その戦果は決して小さくは無い。
「アッ、アイスエルフ達ネ！」
　戦場に、歓喜に満ちたアップルの声が響く。見れば、大阪城から次々と出撃してくる、アイスエルフの一団の姿があった。
「行きましょう。もう、ここに用は無いわ」
　邪魔な竹槍兵を白刃一閃で切り伏せ、シフカはスーツ姿のビハインドと共に、踵を返す。
　アイスエルフ達が大阪城から出てきたという事は、中の状況が動いたに違いない。ケルベロス達は作戦が上手くいっている事を祈りつつ、大阪城周辺から足早に離脱して行った。

作者：ｏｋｉｎａ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年4月12日 難度：普通 参加：7人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。