新ジャンル『ボディコンメイド』

作者:遠藤にんし

●メイド服とはなんなのか
 多種多様混迷を極めるメイド喫茶。
 その中でも『怪店』として有名なそこのメイド喫茶の女の子たちの着ているソレは、果たしてメイド服なのか。
 体のラインをあらわにする服、肩のあらわな衣装、手には羽扇、申し訳程度のホワイトプリム。
 新ジャンル『ボディコンメイド』を売りとするその店では、今日も客が目を白黒させながら奇抜メイドの接客を受けている。
 そこに、ボディコン大好きなオークが迫っていることにも気づかずに……。


「予想通り、ボディコンメイドカフェにオークが現れるようですね」
 高田冴の予知を聞いて、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は呟く。
 ビハインドのヘイドレクもどことなく笑っているような気がする……冴はどことなく疲れた表情で。
「世界広しと言えども、ボディコンメイドはもはやメイドなのか怪しい気がするね」
 メイドとは一体何なのか。
 悩ましく思いつつ、冴は事件の詳細を語る。
「店内は比較的狭くて、10人も客が来ればいっぱいになるような店だ」
 事件が起こる時は男性客が1名、研修や清掃などのために出勤しているボディコンメイドは10名いるようだ。
 現れるのは12体のオーク。そこにケルベロスも加わるので、かなり狭く感じるかもしれない。
「店内は正面の出入り口と、バックヤードから出入りできる裏口だけだ。店が狭いのもあるから、なるべく早く避難してもらいたいね」
 オークは店内に魔空回廊を開くようだ。
「オークは全個体、倒さなければならない」
 ボディコンのように体のラインが出やすい服、そして起伏のある成熟した体をオークは好むようだ。
 体型や服装によっては、オークを引きつけることができるだろう。
「オークの所業は女性としても許せないよ。どうか、倒してやってほしい」


参加者
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
除・神月(猛拳・e16846)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)
エイシャナ・ウルツカーン(生真面目一途な元ヤン娘・e77278)
 

■リプレイ


 ボディコンに申し訳程度のメイド要素を添えたボディコンメイドたちを前にして、旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)は視線をさまよわせる。
 体の線を強調する衣装だから、ついつい目が行ってしまう……ボディコンメイドたちもそれを平然と受け入れており、嘉内は鼻の下を伸ばしてしまう。
 メイドとしてはどうなのかと思う気持ちと眼福を満喫する気持ちは両立するもの。とはいえ出入り口付近の席に陣取った嘉内は、いつオークが出現しても良いよう警戒することも怠らない。
 嘉内がデレデレと表情を緩める間、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は深刻な表情だ。
 年齢的に店員としての潜入は不可能なテレサ。客としてというのも成立するかテレサとしては不安なところもあったが、メイド喫茶はえっちなお店ではないので、小さい体をソファに埋めるように座ることができた。
 十歳の客を可愛がってナデナデする店員。店員たちのボディコン姿を見て、テレサの脳内はなおのこと混迷を極める。
 ボディコンメイドはメイドなのか。メイド服を着ていなくてもメイドなのか。
(「ボディコンを着ているこの女性たちは何をもってしてメイドなのでしょうか」)
 そもそも、ボディコンメイドとは一体何なのか――表情こそ変わらないもののぐるぐると悩みながら、テレサはりんごジュースを口にする。
 店員らの視線は愛らしいテレサと、美麗なるシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)へ二分。
 紫色のボディコンはテカテカとした輝きを放ち、シフカの豊かな体を艶やかに彩る。動くたびに揺れるところは魅力が満載だが、クールな顔立ちにはまた別の魅力がある。
「おっぱいのついたイケメン……!」
 誰かがシフカを見て呟いたその言葉こそが、シフカを表す最も的確な表現だろう。
 そしてまた、除・神月(猛拳・e16846)もボディコンによって肉体を彩る。
(「もう後ろにメイドって付けとけば全部メイドになるんじゃねーカ?」)
 などと考える神月の纏う鮮烈な赤のボディコンの生地は薄く、ダイナマイトモードで誇張された腹筋の筋やほかの部分も浮きだたせる。
 店の裏口付近にいる神月は決して目立つ位置にこそいないものの、目にした少ない人々は神月の姿に目を奪われてしまったようだ。
 ボディコンメイドというコンセプトもあってか、店員らもほとんどが豊満な肉体の持ち主ばかり。
 そんな中、エイシャナ・ウルツカーン(生真面目一途な元ヤン娘・e77278)だけはフラットな肉体のボディコンメイドとして立っている。
 集まる客が客だから、エイシャナは人気が高いわけではない。
 しかし、
「ぺたん娘……!」
「何がとは言わないがちっちゃい……!」
 そんな中でエイシャナに集う人々の視線にはアツいものがある。
「おかしいです……なぜこんなに不人気なんでしょう」
 自分の周囲に人が少ないことに納得できないでいるエイシャナは、きょろきょろと周囲に視線を巡らせている。
 ――ふと、赤茶けたエイシャナの瞳に留まったのは、店内の床に不穏な渦が生まれていたから。
 渦は染みのように滲んで広がる――エイシャナが渦の前へ飛び出るのと同時に、魔空回廊からオークが飛び出した。
「勝負です!」
 叫びと共に、エイシャナは黄金のハンマーをオークへと向ける。


 ボディコン姿で逃げ惑うボディコンメイドたちを見て舌なめずりをするオーク。
 汚らわしい触手は迷うことなく彼女たちを狙おうとするが、テレサとテレーゼはそれを許しはしない。
「入口から逃げてください、急いでください」
 呟いた次の瞬間、テレーゼは触手もろともオークを轢き潰す。
 オークは苦悶の声を上げるが、テレサは人々を裏口へ誘導しながら、ジャイロフラフープ・オルトロスによる一撃をオークへ放つ。
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
 立て続けに攻撃を受けることに危機感でも覚えたのか、オークは立ち上がって慌てて逃げ出そうとする。
 しかし、神喰の双円刀『デウスエクリプス』は追い縋り、無防備なオークの背中を切り刻んだ。
 ボディコンとはいえメイドはメイド。決して傷つけさせないと決意を籠めて、テレサとテレーゼはオークと対峙する。
 神月が体を伏せれば重力に胸がゆさゆさ揺れて、高く突き上げた臀部はボディコンの赤を映えさせる。
「こういうのはどうダ?」
 逃げることがないということもオークにとっては都合が良かったのか、メイドを襲うことに失敗したオークの熱視線と触手は神月へ向けられる。
「いいゼ、来いヨ!」
 ワンピースドレスの裾をまくり上げ、メタリックな艶を愛でるかのように撫でまわすオークの触手。強調された胸元や臀部に群がる触手を神月は拒むことなく受け入れ、そのおかげで女性たちはスムーズに避難を進めることができた。
「ケルベロスです。仲間がオーク達を引きつけているうちに、速く逃げて下さい」
 嘉内は人々に呼びかけながら、ドローンによる癒しを組み上げる。
 嘉内の放つ癒しは護りにもなり、オークたちの魔手に耐える力を仲間のケルベロスたちへも与える。
 ほとんどのオークは神月に夢中で逃げるボディコンメイドには目もくれなかったが、少しのオークが逃げ回る女性の尻を追い回そうと動き出す。
「どこへ行くのですか?」
 そんなオークへ迫るのはシフカ。
 ボディコンは踊る時の正装――とシフカは教わっているからか、オークに近づく動作もどことなく優雅。一歩進み出るたびに揺れる胸に心奪われて、オークはシフカの肉体へとしゃぶりつく。
 己の肉欲に溺れるオークの隙を突くことはエイシャナにとって容易なこと。シフカのビハインド『ヘイドレク』が赤い刃を振るうのに合わせて、エイシャナはオークへ接近する。
「隙だらけですね」
 あんなことやこんなことに耽るオークの背中に砲撃形態へ変えたゴールデンハンマーを押し当てて、一発。
 重い砲撃音は店内の空気をかき回すように響き渡り、更にオークの体を吹き飛ばさせる――天井に衝突してくぐもった悲鳴を上げるオークを見て、エイシャナは快哉の声を上げるのだった。


 戦いの中、オークはあっけないほどに次々と倒れていく。
 ケルベロスたちは五名、対するオークは十二体と数こそ優れていたが、連携の取れたケルベロスたちの前になすすべもなく倒れていく。
 オークたちの攻撃をかいくぐって避難を進めることも難しいわけではなく、既に店内にはケルベロスとオーク以外の姿はなかった。
「私も攻撃に回るとしましょう」
 戦況にも余裕が出てきていた――嘉内は魔法の力で翼の幻像を作り出す。
「此はデウスエクスの闇を祓い、未来を導く希望の翼――」
 煌めくエメラルドの残像を残して嘉内が羽ばたけば、舞う羽根は自律攻撃兵器となって辺りへ散る。
「その羽ばたきは、何人たりとも逃しはしない!」
 魔力に満ちた羽根から放たれたビームがオークへ収束。体だけでも守ろうとして触手でビームを受け止めるオークだが、その触手を切り落とすのもまた嘉内の広げた羽根だ。
 切り傷まみれになった触手へとエイシャナは日本刀を振り下ろす。貫かれ引き裂かれた触手にオークは甲高い悲鳴を上げるも、エイシャナはそんな悲鳴も意に介さず体にまで刃を届かせ、斬り捨てた。
 力なく崩れ落ちるオークの姿……それを見下ろしたエイシャナは、どこか自慢げな表情で刃を振って。
「私ってば最近調子いいんです。攻撃は見なくても当てれるし、何でも斬れるしお師匠にも頭突きされないしお胸もおっきくなったし――」
 ドヤっとするエイシャナにイラっとしたらしきオークの触手が大接近。
 とはいえその触手も度重なるダメージによって威力はそう出ていない。テレーゼに踏み潰された痕も生々しい触手へとテレーゼは炎と共に突撃、テレサはそこへ続くようにジャイロフラフープを構え、砲撃による猛攻を仕掛ける。
 10さいモノクルの奥の瞳はオークから逸らされることはない。重い反動もものともせず攻撃を重ねるテレサの眼前で、オークはまた一体と倒れ伏す。
 充分に愉しんだ後だからかシフカはどこか満足げな表情。
「続きは、邪魔ものを排除してからとしましょうか」
 いまだ欲望に満ちた視線を向けるオークを前にして、シフカは両腕に鎖を巻き付ける。
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 愉しむ時も、戦う時も躊躇なく。
 ヘイドレクのお陰でオークの動きは鈍い。
 オークの目の前でシフカの両腕に巻き付けている鎖がぬらぬらとした触手へ変貌する……快楽漬けに処されるオークは、過剰な愉悦に脳と体を壊されて崩れ落ちる。
「もう終わりですか?」
 つまらなそうにシフカが呟くのと同時に、腕に巻き付けていたものは鎖へと戻る。
 神月はオークによってずり上げられた布地を戻すことなく参戦。可愛がられた分も可愛がろうと凶悪な笑みを浮かべ。
「相手してやるゼ!」
 殺気を伴う神月が如意棒をくるり回すと紅蓮の炎が宿される。
 床を蹴って接近する動きに合わせて攪拌された周囲の空気。酸素を得た炎はより激しさを増し、その苛烈さを神月は余すことなくオークへ叩き込む。
「喰らってみロ!」
 轟音と共に炎が勢いを増す――オークの姿は、一体残らず炎の中へと消えたのだった。


 戦いを終えたケルベロスたちは、避難していた店員らを呼び戻す。
「頑張ったのねぇ、えらいえらい」
 戻ってきたボディコンメイドになでなでされるテレサ……表情を変えず粛々とヒールを施すテレサの中で、結局彼女らがメイドなのかどうなのかということの結論は出なかった。
 どうあれ、メイドたちに指一本触れさせないという決意は守られたのだ。それだけでも十分だとは言えるだろう。
「片付けも終わりだナ! 営業再開ダ!」
 仕上げのヒールまで終わった店の中を見回して、神月はそんな風に声を上げる。
「よく似合っていますね」
 シフカは客として、一人の店員に声をかける。
「今度、お食事でもいかがですか?」
「ぜ、ぜひ……!」
 端正な顔立ちのシフカに誘われてすっかり舞い上がった様子でうなずくボディコンメイドに、涼やかな微笑を浮かべるシフカである。
 嘉内も戦い前と同じく席について、ボディコンメイドたちの姿をじっと見つめる。
 戦いも済んだ後なので、心おきなく満喫できる――色々なものをガン見しつつ、嘉内は顔を緩める。
「いやぁ、最初はどうかと思いましたが、これはこれでセクシーで素晴らしいですね」
 メイドである理由や意義は別としても、ボディコンとは実に良いものだと感じいる嘉内。
 エイシャナもまた店内へ残り、油断なく周囲の店員たちを見回している。
「第二、第三のオークが現れないとも限りませんからね!」
 護衛、そう護衛のため、と言いつつ、エイシャナの視線はボディコンメイドの豊かな体つきであるとかどこか婀娜っぽい動作だとかを追っている。
「なるほど、腰をひねって歩くと色っぽく……」
「ン?」
 呟いているところを神月に見つかって、びくっとしてからエイシャナはふるふる首を振る。
「ち、違います! お色気アップを狙うとか、個人的な目的では断じてありません! これは護衛なんです!」
 強硬に言い張りながら、エイシャナはボディコンメイドたちを見つめるのだった……。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月6日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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