黒の殺戮者

作者:白黒ねねこ

●黒の殺戮者はただ嗤う
 晴れ渡った空の下、一面黄色に染まった花畑には、平日だが沢山の観光客が訪れている。
 花を摘んだり、休憩所で食事をしていたりと、穏やかな時間が流れているそこへ、一人の乱入者が訪れた。
 ぽっかりと空中に開いた穴から、全身が黒で統一された長身の男が現れる。
 黒い鎧姿だが頭に兜は被っておらず、首の後ろで束ねた黒髪が揺れていた。透き通る様な白い肌をした、美しい顔立ちの男は真紅の瞳を細めて嗤った。
「あーらぁ、獲物がいっぱい居るわねぇ」
 しんっと静まり返った後、観光客は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
 その様子を見て男……エインヘリアル『血染めの黒薔薇』は楽しそうに、口角を上げる。
「うふふ、楽しませてちょうだいねぇ」
 狂気を滲ませた笑い声をあげ、血染めの黒薔薇はゆったりとした動きで、観光客を追いかけて行く。
 後に残ったのは無残にも踏み潰された、菜の花だけだった。

●血染めの黒薔薇を討伐せよ
 テーブルの上に薄皮まんじゅうと緑茶を置いた稲川・紅葉(赤毛一尾のヘリオライダー・en0284)は、険しい表情をケルベロス達に向けた。
「エンヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知されました」
 ふぅ、と紅葉は息を吐いた。
「このエンヘリアルは、アスガルドで重罪を犯した犯罪者、名前を『血染めの黒薔薇』と言い、放っておけば、沢山の人がその命を奪われてしまう。そうなる前に皆さん、討伐をお願いします」
 資料を手にした紅葉は、内容を読み上げる。
「敵は一体のみ、仲間などは居ません。鉄砲玉扱いなので、自分にとって不利な状況でも撤退はしません。使用する武器はバトルオーラですね、使用してくるグラビティもバトルオーラのものになります」
 緑茶で口を湿らせ、紅葉は地図を広げた。
「出現場所は、千葉県某所の花畑です。花畑なので敷地はとても広いですが、花の植えられた畝があちこちにありますから、足場は多少悪くなります。観光客についてですが、皆さん、散り散りに逃げていますから、避難誘導は難しいですね。こちらがエンヘリアルに接触してしまえば、興味はこちらに移ります。ただ、戦闘中に迷い込んでくるのを防ぐため、人払いが必要になりますね。例えば、人払いした先に誘いだすとか……花畑の敷地からは流石に、出られませんが」
 以上です、と、紅葉は顔を上げた。
「赤い花は綺麗ですが、血染めの花なんてごめんです。観光客の皆さんの安全と、花畑の平和を守るため、どうか皆さんの力を貸して下さい」
 ケルベロス達を見回し、紅葉は頭を下げたのだった。


参加者
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
ウィル・ファーレイ(研究の虜・e52461)

■リプレイ

●血染めの黒薔薇を誘い出せ
 温かな日差しの溢れる花畑をの咲き誇る花を踏み潰しながら、血染めの黒薔薇は逃げ回る観光客を追いかけていた。
 その足取りはゆったりとしていて、本気で追っているわけでは無く、遊びながら追いかけている事がわかる。
 獲物が弱る過程を楽しんでいるかの様に。
 その視界に、己と同じ黒が躍り出てくる。翼を広げたそれはハイテンションで、血染めの黒薔薇へと声をかけて来た。
「全身黒づくめですが何か一つ、物足りないと感じませんか? 俺は感じます。具体的には頭部。サバト頭巾! お一つ!! 如何ですか!!!」
「え、いらない」
 ノンブレスで言い切った霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)に真顔で血染めの黒薔薇は答え、足を止めた。
 ハッとした血染めの黒薔薇は、振り返りざまに体を横にずらした。
 先程まで立っていた場所に、刃が振り下ろされる。
「……危ないわねぇ」
 血染めの黒薔薇は言葉とは裏腹に、楽し気にロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)見つめた。
 その笑みを浮かべたまま、後方へと飛び退く。
 そこへ氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)の蹴りが降って来る。彼は血染めの黒薔薇と距離を開けた。
「皆さん、こっちへ!」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が声を張り上げ、観光客が走って行った方とは逆に走りだした。他の三人も彼女の後について行く。
 その後ろ姿を見ていた血染めの黒薔薇は、ニヤリと口角を吊り上げた。
「熱烈な招待ねぇ……いいわ、のってあげる」
 四人を追いかけ、血染めの黒薔薇は花畑を進んで行く。
 たどり着いたのは別の区画。緊迫感に包まれたそこは、今だ綺麗なままの花畑だった。
「さぁ、来てあげたわよ? 何をして遊んでくれるのかしら?」
 自分を取り囲むケルベロス達を順繰りに見つめると、口元に指を当て、首を傾げた。
「俺には無闇に命を奪う趣味はないんでね。一応、聞いておくが……殺すのを止めて投降する気は?」
 緋桜の問いに血染めの黒薔薇は目を眇め、鼻で笑った。
「はぁ? そんなもんあるわけ無いわよ。……そんな事ができるのなら、今、ここに居ないわ。それに、楽しい事は我慢しない主義なんでねぇ」
「そうか……無いのなら俺たちは……お前を殺してでも止める!」
 血染めの黒薔薇の答えにため息を吐き、前髪をかき上げる。彼の目に宿る闘志に血染めの黒薔薇はニンマリと笑った。
「さぁ、アタシと遊びましょうか!」
 オーラを纏った血染めの黒薔薇に、ケルベロス達はそれぞれ身構えた。

●戦闘開始
「オウガ粒子よ、味方の感覚を極限まで澄まさせて下さい!」
 綴の放つ粒子が、自分を含めた後衛を包み込む。
「殺界形成はしたし、遠慮なく暴れていいよ? ただし、足場は少し悪いので各々十分注意するようにお願いします」
 仲間に声掛けをしたセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)は、血染めの黒薔薇を見てうんうんと頷いた。
「悪いエインヘリアルはさっさと倒すに限るよね、うん。ていうか、こいつオカマじゃないですかやだー」
「は?」
 ピシッと血染めの黒薔薇の表情が固まった。そのまま、発言者へ向かって肉薄し、音速の突きを繰り出した。
「オカマじゃないわよ、失礼ねぇ」
「……オカマだと思いますよ?」
 二人の間に割って入り、攻撃を受け止めたバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は、少し視線を血染めの黒薔薇から外した。そのまま、相手を押し返す。
『――死線を超えた罪、己が原罪の刃に蝕まれることで贖え』
 離れた血染めの黒薔薇を追ったセルリアンは、そのまま通り過ぎた。
「……え?」
「とーう! デストローイ!」
 底抜けに明るい裁一の声と共に、砲撃が放たれる。
 その二の腕に紅い線が引かれ、唖然とする血染めの黒薔薇へ砲撃が浴びせられた。
 思わず後退する血染めの黒薔薇の足の装甲にヒビが入った。
 追い打ちをかける様に、血染めの黒薔薇へ蛇使い座の剣が迫る。
『時の秩序、生命の調和――乱し刻む我が剣戟、時流の妖!! 受けよ!! 時を断ち切る活殺の剱!!』
 ロウガの特殊な気を纏った高速の峰打ちは、血染めの黒薔薇の息を一瞬、詰まらせた。そこへバジルの蹴りが迫る。
「逃がしません! この飛び蹴りを受けてみなさい!」
「……っ、当たってばかりじゃ、無いわよ!」
 横にそれて避けた血染めの黒薔薇は、背後から聞こえた声にハッとした。
「……月喰み、行く、よ」
 ぽそりと聞こえて来た声に振り向くと、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)が刀を手に立っていた。
「……その首、もらった、よ」
 すでに居合の構えを取っていた十三は血染めの黒薔薇の狙い、一気に刀を抜いた。
 その一閃は血染めの黒薔薇がその身を後ろへと反らし、そのままバック転する事で避けられてしまう。
「こわっ、首を狙ってくるなんてずいぶん乱暴ね。遊べなくなるじゃない」
「こちとら、遊んでる訳じゃないからな」
 頭上から降って来た緋桜を避けた血染めの黒薔薇は、若干つまらなそうに口を尖らせた。
「えー、ゆっくりじっくり、それでいてスパッと殺すのが面白いんじゃない。何でわからないのかしらねぇ?」
「……わかりたくも、ありませんよ」
 ウィル・ファーレイ(研究の虜・e52461)が、冷たい視線を血染めの黒薔薇に向けた。
「人々の殺戮を娯楽としている、そんな悪の存在は許せませんよ」
「ふーん、悪、ねぇ……」
 血染めの黒薔薇が何かを言いたげな目をした。
『この薬品は少々危険ですが、こういう使い方も出来ますよ』
 合成された痺れガスを吸い込んだ血染めの黒薔薇は舌打ちをしながら、ウィルから距離を取った。
 ケルベロス達の連携によって、だんだんと追い詰められていく血染めの黒薔薇。応戦するも累積した変調にその動きは鈍くなっていった。

●黄色の中の黒
「ま、まだまだぁ!」
 血染めの黒薔薇が声を張り上げるのと同時に、オーラが膨れ上がり、その傷をいくらか癒した。
 それと同じく累積していた変調のいくつかが解除される。
「さ、さぁ、続きをしましょうか」
 獰猛に笑う血染めの黒薔薇だが、疲労が目立つ。
 動きにもそれは現れていた。
(……少しだけ、試してみようかな?)
 セルリアンは血染めの黒薔薇を畝の方へと誘導する様に動く。その動きに気が付いたウィルが仲間達に指示を飛ばした。
 そして血染めの黒薔薇は菜の花の咲く畝へと足を踏み入れ、柔らかな土と背の高い花に足を取られその体は傾いた。
「なっ!」
 バランスを崩した血染めの黒薔薇に、裁一と十三が迫る。
「ほーら、これが嫉妬製薬より生み出されし黒薔薇を枯らすお薬ですよ。お試しあれ」
 顔面にパイをぶつける様な勢いで、血染めの黒薔薇に薬を飲ませる。
『非リアに与えた苦しみは苦しみを持って返すまで!!』
「う……げほっ」
 咳き込んだ血染めの黒薔薇は、走った痺れに目を見開く。できた隙に刀が迫った。
 切り裂かれた血染めの黒薔薇は、飛び散った自分の血を見てため息を吐いた。
「終わっちゃったかぁ」
 つまらなそうに呟いた声色と裏腹に、薄っすら浮かんだ笑みは満足そうに見える。黄色の花の中に倒れた血染めの黒薔薇は黒の残滓を残して消えた。

●続く世界に小さな幸せを
 すっかり荒れてしまった菜の花畑を見て、バジルは少し悲しげに花を撫でた。
「終わった、ね……」
「えぇ、でも花畑が荒らされて、花が可哀そうですね」
「うん……お片付け、手伝う、よ」
 花畑をぐるりと見回した綴は折れた花にヒールをかけ、何とか真っ直ぐに治した。
 十三も崩れた畝をできる限り元に戻していく。
「なら、退治が終わった事を教えるついでに、花畑を見回る?」
「おー、いいですね。なら、これは脱ぎますか」
 全員に提案するセルリアンの横で、裁一がサバト服を脱ぎ始める。
「そうですね。荒れている場所があったら、ヒールをかける事もできますし」
「あ、僕も手伝います!」
「はは、俺も手伝うかのぅ」
 立ち上がったバジルがウィルの元へと駆け寄り、穏やかな表情でロウガも続いた。
 移動を始める仲間達に続こうとして緋桜は、血染めの黒薔薇が居た場所を振り返り、手を合わせて黙祷を捧げてから仲間の元へ向かう。
 その背中を風に揺れる菜の花が見送った。

作者:白黒ねねこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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