ネギの怪物

作者:東公彦

 花粉。生物の肉眼では視る事さえ出来ぬ生殖細胞。通常のそれらは風に乗ってめしべに付着し受粉させる。無数と言えるほどに漂うその中の『ある一つの花粉』は通常のそれとは根本的に違っていた。
 その細胞は微細な繊毛をうごめかす。風に抗うことは出来なくとも、旅の終着点を多少なり変えるために。繊毛で飛行の方向性を定め、ゆらゆらと漂う。より攻撃的な、よりグラビティチェインを獲得するために必要な形、力を求めて。
 しかし悲しいかな。いち細胞の状態ではあまりに運任せな飛行である。ひときわ強い風に流されて、花粉はネギ畑の一柵、青々とした頭に付着した。
 宇宙から飛来した攻性植物の花粉は『めしべ』だの『おしべ』だのと面倒なことを問わない。それが植物であれば強制的に寄生し、自らと同義の『一個体』として支配する。
 青頭のネギはぐんぐんと背を伸ばし、近くに鎮座するケヤキの大樹にも負けじと畑に巨大な影をおとした。


「そりゃあネギって植物だけど……なんだかしまらないねぇ」
 人相のわりには穏やかに、平塚・正太郎(優しいおじさん・en0304)がつぶやいた。
 なるほど、ネギと闘うという場面や言葉だけ切り取れば、全くどんなに脚色しようがコメディでしかない。だがそれが攻性植物という地球外の脅威であるのだから、どんなに馬鹿馬鹿しくともケルベロスは出動せねばならなかった。
「静岡産まれの下仁田ネギが攻性植物に変化してしまったようだよ。農家の人が宿主にされてしまう前に皆さんを現場に降ろすから、戦いはよろしくね」
 歯をみせて正太郎はにこりとした。
「畑は一反くらいの大きさがあるから戦闘には問題ないと思うよ。ただ戦闘行為による作物の被害が心配だねぇ。収穫の減少は農家さんにとっては枯渇問題だし。攻性植物は地中から伸ばした根や蔦、本体での捕食なんかが主な攻撃手段みたいだね。大丈夫、皆さんなら冷静に対処できる攻撃ばかりのはずさ」
 正太郎がぽんと腹を叩き太鼓判を押す。その姿はなんとも頼りないが、ケルベロス達の心を適度に弛緩させた。
「さあ、世のため人のため仕事を片づけようか。頑張ろうね、正義のヒーローさんがた」


参加者
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
レミリア・インタルジア(咲き誇る一輪の蒼薔薇・e22518)
エリザベス・ナイツ(フリーナイト・e45135)
エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)

■リプレイ

 非日常的な光景にレミリア・インタルジア(咲き誇る一輪の蒼薔薇・e22518)は一度目をつむった。ケルベロスである彼女は本意ではないにしろ血生臭い戦場、命を賭けた闘いを潜り抜けてきた。生半な相手であれば怯むことさえない。
 だが目の前の存在を本能のどこかが拒否していた。恐怖ではない。言うなれば……困惑か?
 レミリアは再び瞳を開く。田舎にありがちな田園風景、のどかな青空に青頭の塔が屹立している。
「やっぱり。見間違いじゃありませんよね……」
「わーい、ネギダー、でっかいデスネー!!」
 軽く溜息をつくレミリア。対してケル・カブラ(グレガリボ・e68623)は歓声をさえあげている。
「これがシモニタネギー、デスカ? 白い部分に火を通して食べるト聞きマスケド、これだけビッグだト食べ応えがありそうデース」
 指をくわえ大ネギにジッと熱い眼差しを送るパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が言うと、ぎくりと音が出るほど不自然にレミリアが顔をあげた。
「食べるんですかっアレを!?」
「エッ、インタルジアちゃん食べないのデスカ!?」
 しばしの静寂、青と緑、互いの瞳が雄弁に語りあう。だがそれでもなお汲み取れぬ斟酌というものもある。
「とにかく! ネギさんと農家さんが犠牲になる前に終わらせマショー!!」
 長い沈黙に耐えられる構造をしていないケルが声をあげ駆けだすと、
「野菜はあんま好きじゃねぇが、食い物を粗末にすんのもなぁ……」
 ぼやき、エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)が首を回した。彼も大ネギを食べる気のようである。土遊びに夢中なウイングキャット『ロキ』はどうも主人に手を貸すつもりはないようだ。むしろその様を見るに、自分こそ主人と思っているのかもしれない。
 モノクルに手をかけながらセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)がひとり言のように呟く。
「食いではありそうだけど、あんまり美味しそうじゃないしね。いかに美味しく調理するか……」
「そ、そういう問題ですか」
 セルリアンは眉根を寄せるレミリアに意味ありげな微笑をし、すたすたと大ネギへ歩み寄っていった。取り残された形になったレミリアの肩を叩き、エリザベス・ナイツ(フリーナイト・e45135)が親指をたてる。
「大丈夫よ、ネギが苦手なら私が食べてあげるから」
「いえ、そういうわけでは――」
「そのためには早く敵を倒さないとよね!」
 言うや否や一人合点して畝をまたぐ。
「これって私がおかしいのでしょうか……」
 ぽつねんと声が残った。


「いっちばんのりデース!!」
 悪路も何のそのと走り抜け、ケルが血染めの包帯を振るう。凝固させた血液は尋常でない強度をほこり、呪いの包帯を鋭い刃物のように硬化させた。曲刀のような包帯が大ネギの身を刻む。
 あわや一刀両断と思われたが、大ネギの硬度は呪いの血に勝るとも劣らないもので、刃は弾かれてしまう。
「いったぁ~、太くてすっごくかったいデス~」
 口をとがらせるケル。そんなケルを飛び越えてパトリシアが拳を打ちつける。全体重を乗せた大振りの一撃は白さやの壁を揺らしたものの、それ以上の効果はない。続けざま数発叩きこむもビクともしない。
 むぅ。唸りながらパトリシアはふっくらとした唇をペロリと舐めた。
「こいつはガッチガチデスネ~」
「キミ達の発言はどこか卑猥に聞こえるから不思議だ」
 言葉と共に、空の青よりもなお蒼い蒼雷が大ネギに炸裂した。セルリアンの放つ『code』と称する独自の体系により構築された魔術、シンプルな論理に裏付けされた一撃は全てを消し去る強力無比な攻撃ではないが、あらゆる状況において汎用的である。
 長期戦になる感じだし、焦らず慌てずじっくりいこう。
 セルリアンは足元に注意をやりながら続けざま魔術を放った。蒼雷の破裂音が耳をつんざく。白煙がたちこめ、大ネギの姿を包むほどになってもなお、セルリアンは攻撃の手を止めない。
 不意に怖気がして、セルリアンは飛び退いた。地面にネギが――いや青と白のコントラストをした触手が突き立つ。さらには身を捻って触手をいなすが、なにぶん数が多い。
 覚悟を決めて腰元から夜塗りの鎧通し『壊世』を抜き放ったが、触手はその鋸刃に触れる前に、別の強靭な肉体によって阻まれた。
「良い馬力じゃねえか、オバケネギ!」
 腕に纏わせたオウガメタル。それはエリアスにとって盾だけでなく矛をも担う武装である。エリアスの膂力がそこに加われば、硬化した触手でさえも難なく引き千切れ地面に落ちる。いかんせん、大振りは否めないところだが。
 エリアスがつくった間隙にセルリアンが下がると、轟竜砲を構えているエリザベスが目にはいる。彼女が引き金しぼると、行くあてのないエネルギーが砲の後部から噴出され土埃が舞った。砲撃は見事、大ネギの上部に直撃する。黒煙にまかれ青頭がぐらりと傾いた。
「ここまでおっきなネギだと、ほんとにオバケネギって感じね!」
「オバケネギかー。……うん、やっぱりシュールな感じだね、これ。いや、真面目にしなきゃいけないのはわかっているんだけどね」
 言いつつ攻撃の手は止めない。隣り合わせたエリザベスも砲火を浴びせながらにっと悪戯っぽく笑った。
「シュール……う~ん、これと闘ってる私達ってどう映るのかしら?」
「少なくとも格好良くは映ってないのでしょうね」
 合流するなりレミリアがぽつりとつぶやく。そして練り上げた氣を前方に放つと、氣はパトリシアとそっくり同じ姿を形作った。
 触手が鎌首をもたげ、戸惑うように幻影と本体を左右する。
「ルチャドーラお得意のスピードワーク、見せてやるゼ」
 パトリシアとその幻影が機敏に大ネギの周りを動き回ると、味方でさえも彼女が幾人もいるかのような錯覚をうけた。狙い澄ましたつもりの触手が空を切り、代わりにパトリシアが腕を振るう。右の金籠手は打撃、左の銀籠手は斬撃。それぞれに役割を果たし触手を打ちおとす。
 危機を察知したのか、大ネギは全ての触手を総動員してパトリシアの動きを止めにかかる。その全てを捌くことは出来ず、触手は幾度も彼女を打ち据えた。幻影が消えると、一層劣勢に立たされるが、パトリシアはいつもの調子を崩さない。
「んふっ。こんないっぱいの触手がお相手なんて、とぉってもイケナイ感じデスネ」
「ハハッ、いい根性してるぜパトリシア!!」
 敵の背後へと回り込んだエリアスは道中で拾った二本のネギにオウガメタルを纏わせた。ネギを芯にオウガメタルを外装として二本の鉄棒が出来上がる。
「野郎に一泡吹かせてやろうぜ、ネギタ、ネギコ!」
 エリアスは駆け寄った力のまま、強烈な一撃を打ち込んだ。
「こいつで鬼に金棒! しかも二本だ!!」
 続けざまに連打。衝撃は表皮を伝い大ネギの奥底にまで届く。と、目に見えて触手の動きが鈍くなる。
 咄嗟、パトリシアに群がる触手をエリザベスが大剣で斬り裂いた。等身大の鋼の大剣を体全体で振るい、次々と触手を薙ぎ払う。
「ありがとデース、ナイツちゃん。オブリガーダ!」
 弾みをつけてエリザベスに抱き着くパトリシア。豊満な体のため男性は勿論、女性でも頬の赤らむような礼は本人も自覚して行っているふしがある。が、奔放がいきすぎている所のあるエリザベスは笑顔で応じて共にハシャいでいる。
「なるほど、表層への攻撃はあまり効果的ではない。現時点で一番の脅威を本能的に察知し行動していると推測も出来る……」
 そんな二人から遠く、セルリアンはひとりごち、魔術の構成を変化させた。
「だったらおナカの奥に力を溜めテ――」
 エリアスに負けじとケルが大地を踏みしめ加速をつけ、一息に間合いを詰める。
「一気に打ちマス!」
 一連の動きを止めることなく、おとした腰の回転を胸、肩、腕と連動させてゆく。音速の拳は螺旋を描きながら巨木のような大ネギの中心に炸裂した。衝撃は殺されず大ネギの内部で暴れる。
 すかさずセルリアンが斬霊刀を抜き打ちに斬り抜ける。更には振り返りざま魔術を放った。ただの蒼雷ではない、錐のように細く鋭く変化したそれは大ネギを貫き破裂した。
 二人の攻撃に大ネギが身をくねらせた。効いている。確信じみた直感がケルベロス達にはあった。
「皆さん、このまま一気に止めを!」
 レミリアがブーツの踵を叩き合わせながら舞踏会さながらに舞う。陽に透かされて金髪が輝き、多色の花弁が戦場のそこここに降り注ぐ。レミリアは愛用のコルセスカ『Skakar skakande ljus』を抜き放ち、他のケルベロス達との連携をとるべく身構えたが……なぜだろう誰も動こうとしない。
「何にする?」
 不意にエリアスがそんなことを言った。レミリアの頭に疑問符が浮かぶ。当然とばかりにケルが、いつになく神妙な顔つきで答えた。
「焼きネギ!」
「フェイジョアーダやムケッカに投入するのモ良さそうデスヨ~」
 唇に指をあてながら、とろんとした目でパトリシアが呟く。もう思考はそちらへ飛んでいるようだ。
「皆さん、何を言っているんですか!?」
 レミリアが目を白黒させながらケルベロス達を見回す。と、エリザベスがまたも身を乗り出して雄弁に言い放った。
「そうよ! そんな料理想像できないから答えようもないじゃない!」
「だからそういうことでは――」
 そうこうしているうちに大ネギは立て直し、言い争うケルベロス達に魔手を伸ばしていた。二本の鉄棒でネギをいなしつつ、歯を剥きだしにエリアスが叫んだ。
「ならよっ。誰もが知っててササッと作れる。あれだっ、ネギマにしようぜ、ネギマ!」
「オー、それも捨てがたいデス!」
 ケルが叫び返し、黒布をはためかせながら肉弾で触手を迎え撃つ。前後左右にステップを踏み軽快に、四肢をいっぱいに使って動き回る。そして唐突に、何を考えたのか掴んだ触手を噛み千切った。途端、目尻から大粒の涙が溢れる。
「うえ~、辛いデス、メッチャ辛いデス!!」
「気が早い。火を通せばその分、甘くなるはずだよ」
 触手を噛むケルの気はしれないけど、また一つ判断材料が増えた。寄生されているとはいえ、おそらく味は通常の下仁田ネギなのだろう。
 セルリアンはひとつ唸って、斬霊刀で触手を受け止める。毒が塗布されている壊世をやたらと振るうわけにはいかない。
 一瞬の隙を縫ってエリザベスが大ネギに肉薄し、その根元へファミリアロッドを打ち込んだ。自らの手がじんと痺れるほどの痛打だったが、不意に地中から生えてきた触手に足を掴まれて宙ぶらりんにされてしまう。
 吊るされた中空からエリザベスが見れば、戦場の至る所から触手が生え出ていた。戦っている最中も成長を続け、密かに地中に伸ばしていたのだろう。エリザベスが頭を巡らせれば同じようにしてレミリアが宙ぶらりんに下げられていた。
「きゃっ、どうなってるんですかっ!」
 憤懣やるかたないといった様子でレミリアが頬を紅潮させ、必死にドレススカートを押さえている。エリザベスははためくスカートも気に留めず必死にもがくが、触手は一向に緩まない。
 突如として大ネギの青頭が震えた。かと思うと、頂点に巨大なネギ坊主が飛び出る。
 ぱかり。真っ二つに開いた中には鮫のような歯がびっしりと、柘榴の身のような口内が不気味に広がっていた。流石にエリザベスの頬が引きつった。
「うわわわっ、このままじゃ食べられちゃうっ!?」
「ちょっ――ハーフタイム! タイムアウト! インターバルデース!」
 あまりの気味の悪さにケルが総毛だって悲鳴をあげる。あれに食われるとしたら誰だってゾッとしない。
「アアァーン、このままじゃ同人誌みたいに嬲られちゃいマァス」
 触手に体を縛られながらも、どこか喜々とした声も聞こえたが、しいて言及はしないでおこう。レミリアは顔を青白くして呟いた。
「もぉ、ネギなんて嫌いです!」


 一方、地上に残ったエリアスは吊るされた四人を見上げていた。
「喰うのは女だけってか。スケベなオバケネギだぜ」
「ひとり男がいるけどね」
 セルリアンは至って平静に返す。エリアスが頭を掻いて、
「細かいことはいいんだよ。それよりどうやって助ける?」
「そこはエリアスの馬鹿力の出番だな」
「なんだ? 力仕事なら任せておけよ!」
 さらりと毒を流してにっと歯をみせるエリアス。その様子にセルリアンもつい笑ってしまった。
「君のそういうところ、好きだな!」
 セルリアンが走り、エリアスの手に足をかける。
「そいつはどーも!!」
 エリアスが思い切り両腕を振り上げると、セルリアンが空高く、ネギ坊主のさらに上へ躍り出た。
「ハッ――!」
 斬光一閃。斬霊刀が彼女達を縛る触手を切り落とす。中空でくるりと身を翻してレミリアが一直線にネギ坊主、その口中へと落下した。
「よくもあんな――許しません!」
 常ならば穏和なレミリアの雰囲気も、流石にこの時には凄みがあった。レミリアが投擲した三叉の槍は稲妻を帯びて大ネギの口中、その柔い部分に突き刺さり電撃を奔らせた。更には口内へ着地すると心の赴くままに槍を振るい、突き刺し、薙ぎ断つ。
 大ネギが身もだえするように体を揺らす。パトリシアは落下際、ネギ坊主の細い茎もとにしがみついた。
「このまま根腐れするまで締め上げてヤル」
 腕を回し、渾身の力で締め上げる。ネギ坊主から生えた細い触手が彼女の体にからまり歯をたてるが、そんな痛みさえもパトリシアは闘いのエクスタシーに変えていた。
「ンフフ。命がけのエクスタシーの与えあい、とことんまでヤろうゼ!」
 敵の攻撃は受けてカエス。それが南米のルチャドーラ魂ネ。
 双方一歩も引かない力比べは、ネギ坊主のギブアップで決着がついた。茎が音を立ててへし折れ地面に落ちる。
「二人ともやるぅ!」
 エリザベスが手を叩き、すぐさま前転。迫りくる触手をかわして大ネギの根元へ走る。と、併走するエリアスに気づいた。
「エリアスさんも?」
「おう。考えることは一緒みたいだな」
「なら二人で連携してぇ!」
 先んじてエリアスが宙を舞い、振りかぶった拳を大ネギの根元に叩きつける。腕と拳から伸びた無数の黄金角が地中から大ネギの根を引き千切りながら地表に突出する。エリザベスは飛び込むようにして地面と大ネギの隙間に轟竜砲を差しこんだ。
「強火でいくぜ、オバケネギ」
 言葉と共にエリアスが腰のベルトに繋がるピンを引き抜いた。同時にエリザベスが轟竜砲のトリガーを引くと、エスケープマインが連鎖して爆発。大ネギが一瞬のうちに炎上する。
「これでぇぇ、最後デス!!」
 ケルが大ネギを根元から抱え、引き抜こうとする。だがたった一人では荷が重い。なおも大ネギの根は大地にしがみつき抵抗をつづけた。するとパトリシアがケルと肩組むように大ネギに組み付いた。
「ツープラトンっっ」
「ブレーンバスタァー!!」
 ケルベロスの膂力に遂に大ネギは引き抜かれた。そのまま天高く持ち上げられると垂直落下式に落とされる。
 巨大な地響きが鳴りやむと、ケルとパトリシアは固く腕を組み、高らかに勝利を宣言するように青空へ突き上げた。
「なんていうか……なんですか、これ」
 ネギ坊主の中から出てきたレミリアは二人の姿を見て、キョトンと首をかしげるしかなかった。


「一番の料理上手が男の人っていうのは、ちょっと悔しいわね」
 セルリアンのつくったネギのフルコースがテーブルを彩ると、エリザベスがそんなことを言う。セルリアンは顎に手をやってしばし言葉を選び、
「料理を作れることが良い女性の条件じゃないよ」
 優しく口にした。
「えへへ、セルリアンさん優しい」
「とりあえず料理で人を殺そうとするのは、やめたほうがいいけどね」
 すかさず付け加える。と、レミリアもおずおずと口をひらく。
「えーと、大剣で食材を切るのは、私もどうかと思います」
 レミリアは厨房での惨劇を思いかえした。セルリアンの隣でおもむろに剣を振りかざしたエリザベス、それからは――。そこでレミリアは首を振るう。セルリアンさんは生きた心地がしなかったろう。
「むぅ~。いつか料理もできるようになるわ!」
「まっ、美味いなら男も女も関係ねえだろ」
 エリアスが皿からネギマを数本さらい、まとめて口のなかに入れると串だけ引き抜いた。ロキは串からネギを抜いて肉だけを咀嚼している。主従同じく器用である。
「お前は動いてないだろ? 肉だけ喰いやがって」
 見咎めて、エリアスがロキの皿から肉をさらい、喉を鳴らしてビールをごくり。
「にゃにゃっ!?」
「かぁーーっ! やっぱ肉は美味えなぁ!」
「このネギの肉巻きも美味しいデ~ス。ん~っ、中からトロットロのあっつぅーいのが出てきマシタァ」
「バランさん、それわざと言ってるでしょう」
 パトリシアの艶美な声にレミリアが顔を赤くする。そして自分もネギを一口。甘い、思ってたより。それにとっても美味しい。
「これじゃネギ、嫌いになれそうにないです」
 拗ねたような口調でレミリアが呟いた。
「ガデッサさ~ん、今日は本当にただ見てただけなのデスカー? え、ネギがダメ? 喰わず嫌いはいけマセン! ネギってほら……男性機能をぉ、向上させるらしいデスヨ! もおっ、変なこと言わせないでくださいヨ~! はい、あーん!」
 響く断末魔。ケルベロス達は強いて聞こえぬふりをし、食事をつづけた。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月10日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。