幼い血を糧に、機械は進化をもくろむ

作者:青葉桂都

●試作進化型ダモクレス
 そこは、まるで工場のような機械に包まれた空間だった。
 宝石を手にして、4本腕の女性型ダモクレスが立っている。指揮官型ダモクレスの生き残りであるジュモー・エレクトリシアンは誰かに向かって言葉をかけた。
「日輪と月輪は進化することができなかったようですね。ですが、彼らの死は無駄にはなりません。試作進化型ダモクレスの礎となったのですから」
 淡々と語る彼女の前で、その試作型と思しきダモクレスが控えていた。
「さあ、行きなさい、試作進化型ダモクレス『クレイドール・クレイドル』よ。ダモクレスの未来を拓くのです」
 胸元に巨大な赤い目のようなものがついたダモクレスは、ジュモーの指示を聞いて無言のまま立ち上がった。

●襲撃するダモクレス
 とある都市の小学校は、その日終業式を迎えようとしていた。
 児童は明日から短い春休みを過ごし、そして新たな年を迎えるはずだ。
 だがそこに、5体のダモクレスが襲撃をしかけてきた。
 爪のようなものに囲まれた球体の中で、目立つのは赤い瞳のような部品だ。その目の上から、緑色をした人の上半身のようなパーツが突き出ている。
「助けて……!」
 子供の叫びが、体育館から響く。
 生物のような印象も受ける機械は、児童や教師を容赦なく抹殺し、グラビティ・チェインを奪っていった。

●ダモクレスの進化を阻止せよ
「先日発生していた日輪と月輪による襲撃事件は、ケルベロスの皆さんのおかげで無事解決し、コギトエルゴスムまで入手することができました」
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は静かに頭を下げた。
「ヘリオライダーの予知により、回収したコギトエルゴスムは『妖精グランドロン』の物であったことが判明しています」
 言うまでもなく『宝瓶宮グランドロン』に関係する種族だ。定命化させて味方につけられる可能性があるようなら、いずれ元に戻せるかもしれないと芹架は言った。
「ただし、ダモクレスはいまだ多くのグランドロンを確保しており、それを利用した作戦をさらに行おうとしているようです」
 新たに生み出されたダモクレス『クレイドール・クレイドル』は不完全ながらもグランドロンの力を引き出すことに成功しているようだ。
 状況によっては強大な戦闘能力を発揮することもあるという。
「クレイドール・クレイドルは完全体となるべく多量のグラビティ・チェインを求めており、市街地を襲撃しようとしています」
 その襲撃を阻止して欲しいと、芹架は言った。
 芹架が襲撃を予知したのは、終業式が行われているとある小学校だ。
 児童は体育館に集まっており、クレイドール・クレイドルもそこを狙ってくる。避難させれば別の場所を狙うと予想されるため、事前に逃がすわけにはいかない。
 とはいえ、余計なことをしなければ敵の襲撃の直前にはケルベロスが到着することができる。戦闘が始まれば教師が子供たちを逃がすだろう。
 襲撃を行うクレイドール・クレイドルは5体いる。詳しい役割は不明だが、範囲攻撃に巻き込まれにくいよう前中後衛に分かれて行動しているようだ。
「戦闘になれば、まず赤い眼のようなパーツから光線を放って攻撃してきます」
 光線には敵から体力を奪い取り、自身を回復する効果があるようだ。
 また、赤い宝石のようなものから範囲に電撃を放つこともできる。電撃は動きを鈍らせて、足を止める効果があるようだ。
 爪か牙に似た周囲のパーツを回転させながら、防具を破損させる体当たりも行える。
「それから重要な点ですが、クレイドール・クレイドルは体力が半減した後、戦闘能力が大きく強化されます」
 攻撃力、防御力、命中・回避能力の向上に状態異常への耐性付与など、あらゆる支援グラビティの効果を2回ほど重ねたくらいの強化が行われるようだ。
 体力半減から強化が発動するまでの時間は、1分に満たない程度だという。
「ただし、この状態は4分しかもちません」
 4分が経過するとダモクレスは急速に定命化し、崩壊してしまう。
 体力が回復するわけではないので早々に撃破を狙うか、あるいは4分間耐えきるか……どちらがいいかはケルベロスの作戦次第になるだろう。
「なお、定命化による崩壊でなく、ケルベロスが撃破した場合はグランドロンのコギトエルゴスムを回収することが可能です」
 芹架はそう付け加えた。
「グランドロンのことはともかく、ダモクレスの進化を見過ごすわけにはいきません。それが、一般人を虐殺することで行われるならなおさらです」
 必ずダモクレスを止めて欲しいと告げて、彼女は頭を下げた。


参加者
望月・巌(昼之月・e00281)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●小学校の襲撃者
 近くに降り立ったケルベロスたちは、ダモクレスに襲われる校舎へと急いでいた。
「進化を武器にするクレイドールと、どんどん成長してく子供達。惹かれるものでもあったのでしょうか……そんな興味は迷惑ですが」
 無表情に走りながら、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が思案する。
「理由など関係ありませぬな。よりによって子供を狙うとは看過できませぬ……! 必ずやその目論見、阻止してみせますぞ」
 結んだ髪を揺らし、尾神・秋津彦(走狗・e18742)は壁や塀も利用して、軽やかに道を駆け抜ける。
「ああ、その通りだね。一人の被害も許す訳にはいかない。全力で敵の思惑を阻止してやろうじゃないか」
 強く拳を握る九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)の口元から、八重歯が覗く。
「あいつらの意図なんざ関係ねえな。小さな個体の居場所は壊させねえ」
 笑顔を浮かべたままで尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が言う。
 小学校の校庭を囲むフェンスが見えてきた。
 素早く回り込み、あるいは軽々と飛び越えて、ケルベロスたちは体育館を目指す。
「これから来るほうも助けてやんねえとな。意図せず殺戮に使われるのは、不本意だろうによ」
 望月・巌(昼之月・e00281)が言った。帽子に軽く手をやり、周囲に目を配っている。
「うん、取り込まれたグランドロンも助けなくちゃねぇ。けど、巌が来てくれて助かったよ。ありがとうね」
 その背後から秦野・清嗣(白金之翼・e41590)が抱きつこうとした。
「気にすんなよ、清嗣。仲間になるかもって下心もねぇ訳じゃねえけど……。今は、シンプルに助けてぇ、それだけだ」
 普段からの知り合いである2人は、気安い調子で言葉を交わす。
 広喜にも清嗣は声をかけようとしたが、残念ながらゆっくり友人たちと親睦を深める時間はなかった。
 フェンスが壊される音が聞こえてきたからだ。もっとも、ケルベロスたちはもう体育館にたどり着いていた。
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は校庭とつながる体育館の扉を開ける。
 校長の話を聞いていた児童や教師がルーシィドを見た。
 彼女は眩しそうに目を細めた。それは彼女にとって失った記憶だった。
「皆さん、すぐに避難してください。デウスエクスの襲撃です」
 言うべき言葉を思い出す。
「先生様方、どうか子供たちを欠けることなく安全な場所に避難させてあげて下さい」
 近くにいた教師たちが、わかったと答えを返してきた。
「みんな、先生の言いつけを守って、まっすぐに避難してください。年長の子は下の子を助けてあげて、ね」
 ケルベロスたちへ、子供たちが声援を送ってくる。
 それを背に聞きながら、ケルベロスたちはクレイドール・クレイドルと対峙する。
「理由がなんであれ……子供達に危害を加えることは許さない……ダモクレスの企み……止めてみせる……」
 四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の普段は茶色い瞳は、敵を前にして赤に変わっていた。
 ケルベロスたちがそれぞれに油断なく武器を構える。
 5体のダモクレスが突撃してきて、戦闘が始まった。

●ダモクレスの襲撃
 まっすぐに突撃してくるクレイドールへと、ケルベロスたちは向かっていった。
「行きますよ、プライド・ワン」
 ライドキャリバーを駆った真理が、ミサイルの発射口を体から出現させた。
 だが、狙った1体ではなく別の1体が仲間をかばってミサイルを代わりに受ける。
「今かばったやつが……ディフェンダー……」
「さようでありますな。まずはあの敵を狙いましょう!」
 千里と秋津彦の会話を受けて、プライド・ワンがかばった敵へと突撃する。
 後方に陣取ったクレイドールが不可避の間合いで電撃を放ってくるが、必要以上に警戒せずケルベロスたちは狙いを定める。
 機甲靴に『月』の文字を浮かばせて、千里は月と星の輝きをまとって飛び蹴りを放つ。
 足の止まったところに秋津彦の砲撃が突き刺さり、敵をよろめかせた。
 敵も黙ってやられてはいない。5体のダモクレスと、その倍の数の味方が校庭に入り乱れて戦いを始めた。
 広喜は中衛から敵を狙っていた。だが、狙う相手は仲間たちとは違う。
 見据えていたのは、後方からこちらを狙っている敵だ。
「広喜、清嗣、BSは任せた! 俺はジグザグでBS漬けにしていくから、そっちはお任せあれ、だぜ」
「おう任せとけ、巌」
 子供たちの安全を考えれば、集中していない敵も放置はできない。
 牽制するのは広喜の役目だった。
「俺はてめえらを非難できる立場じゃねえけどな。ただ……」
 ガネーシャパズルを掲げると、そこから竜をかたどった電撃が飛んだ。
「あの小さな個体たちは壊させねえし、居場所を奪わせもしねえ」
 笑顔で告げた言葉の意味を、クレイドールは理解しなかっただろう。きっと、かつての彼も、そんな言葉には耳を貸さなかったろうから。
 電撃はクレイドールを捕らえて包み込む。
「咲かせてあげよう、紅く染まった血の花を!」
 幻の声が響いた。
 紅き光を放つ刀は彼女自身の紅き血に染まっている。
 雷光まとう刀が敵を断つと、クレイドールの動きが鈍った。
 その間に、清嗣が九尾扇を振って妖しくちらつく幻影を巌へと与える。
 さらにルーシィドが彼の動きにタイミングを合わせて、前衛の仲間たちの背後に背景を描き出した。
 巌がまとった幻影から、もう1人の男が姿を見せた。綺麗に刈り込んだ髭を持つ、金髪混じりの藍色をした髪の男。
 頼れるその男はこの場にはいないが、記憶はいつでも心の中にある。
「人生ってのは、良い時も悪い時もあるモンだ。俺と穣にも、なっ」
 幻影の彼の肩を抱き、声をかけると共に過ごしたいくつもの思い出があふれだす。
 歩んできた道のりのように曲がりくねった光線が、先ほど広喜が電撃で打った場所をさらに焼く。
 ジグザグの効果が広喜が与えた麻痺の影響を増やしていた。
 ケルベロスたちはうまく攻撃を集中できていた。しかし、敵もただのザコではない。
 ディフェンダーを倒しきれずにいる間に、中衛から2体のジャマーが動きを縛ろうとしてくる。
 ルーシィドはそんな仲間たちを支えていた。
「ご安心下さい 茨の棘に刺されても あなたがたは決して死にません ただ眠り続けるだけ」
 黒いゴシック調のドレスの袖から、緑の茨があふれだす。
 次の瞬間、まるで幻だったかのように茨は消え去った。仲間たちをさいなむ痛みも、棘と共に消えていく。
 防衛役の敵が叫びを放ったのは直後のことだった。
「チッ、奴さん、強化した様だぜ」
 巌は舌打ちをして、タイマーを素早くセットする。
 時間制限があるため、守りを固めた敵というのはもっとも厄介だ。
 倒しやすくするために工夫も凝らしていたが、徐々に回復されているようだ。赤い瞳から放つ光線が真理を貫き、彼女から体力を奪い取る。
「今は……攻撃に集中します」
 無表情で痛みに耐えながら、真理はレーザーを放った。
 1分、2分、3分……時間は経過するが敵はなかなか倒れない。
 広喜も牽制をやめて集中攻撃に加わり、回転する腕でどこか生物的な外皮を引き裂く。さらに千里の烏揚羽の形をしたオウガメタルが、鋼の鬼と化して裂け目を広げた。
 ひらりと跳躍した秋津彦が、その裂け目に呪いを込めた美しく閃く刃を突き入れた。
 無数の霊体を帯びた幻の刀も敵を断つ。
 まだ敵は倒れない。
「俺は諦めねえ、0になるその瞬間まではな!」
 叫びと共に巌が放った魔法の矢が敵へ次々に突き刺さる。
 そこで、ようやく敵は倒れた。

●揺り籠を殲滅せよ
 敵のうち1体は倒れたが、他の敵もその間黙ってみていたわけではない。
 容赦のない攻撃で集中攻撃をしかけるケルベロスたちの体力を削り、さらには隙をついて体育館へ近づこうとする者もいた。
 けれど、8対の翼を広げた男がその前をさえぎった。
「そっちには行かせないよ」
 清嗣はしっかりとクレイドールの動きを視界にとらえていたのだ。普段はのんびりしゃべる清嗣だが、今日はだいぶ余裕がない。
 体当たりで突破しようとする敵の前に、さらに小さな影が飛び込んできた。清のサーヴァントであるボクスドラゴンの響銅は代わりに体当たりを受け止めていた。
「助かったよぉ。響銅にはいつも前を張らせてごめんねぇ」
 戦闘中でなければモフモフの体を抱きしめてやりたいところだったが、さすがにそんな場合ではない。
「悪いけど、足止め手伝ってくれるか?」
「ああ……来いよ。てめえの相手は、こっちだ」
 仲間たちに声をかけると、広喜がすぐに来てくれた。笑顔で放つ鋭い蹴りが、ダモクレスの体を切り裂く。
「お前らはどこにも行かせない……死なせやしねえからな!!」
 嘉留太を広げて、召喚した殺戮機械が広喜の切り裂いた傷口を広げた。
「広喜、清嗣、そっちはよろしくな」
 2体目の敵へと惨殺ナイフで惨劇の幻影を見せながら巌が言う。
 他のケルベロスたちは、クラッシャーへ攻撃を集中していた。
 クレイドールの反撃もまた、激しい勢いでケルベロスに襲いかかる。
「強力な攻撃だね。だからこそ、全力で攻撃させてもらうよ」
 幻が迷わず正面から突撃していく。秋津彦は駆け回って翻弄しながら攻撃を加える。
 反撃と撒き散らされる電撃から、真理と響銅が秋津彦と幻をかばった。
「進化すれば貴方は必ず死んでしまうのですよ。それで良いのですか? 例え私達を倒せても、死んじゃうのに」
 真理は退くことなく攻撃してくる敵へ問いかけた。
 だが、クレイドールは首をかしげただけだった。なんの問題があるのかと言いたげに。
 問いかける間に召喚しておいた無数のドローンが治癒の光を前衛たちへと放った。稼働範囲を狭めることで集中的な治療を可能とした無人機だ。
 やがて2体目の戦闘能力が強化され、さらに強烈な攻撃をしかけてきた。
 猛然と突撃してくるダモクレスに、真理は正面から向かって行く。
 華奢な吹き飛ばされる。衝撃でひと房だけ赤い髪が浮き上がり、口から血が吹き出す。
「機理原様、大丈夫ですか」
 ルーシィドが声をかけてきた。
「今のところは。ですが、回復してもらえると助かります」
「はい。ミーティングでお勉強させていただいたお礼に、尊敬を込めて描かせていただきますね」
 彼女のペイントブキが真理の体にカッコいい絵を描いてくれた。
 腕に力が湧いてくる。自分自身で改造した動力剣を構えると、真理は強化されたその敵をズタズタに切り裂いて止めを刺した。
 残るは3体。
 2体のジャマーによる攻撃は厄介だが、響銅がこまめに属性をインストールしていたおかげで大きな影響は出ていない。
 集中攻撃で1体ずつ確実に片付けていく。
「桜も花開く季節、惨劇など決して起こさせませぬ。そして勝手に他の種族を尖兵にする真似も狼の牙で砕いてみせます」
 秋津彦は追い込むことができた3体目へ決意と刃を向けた。
「これなるは黄泉の穢れ。災禍はここより生じる――禍津陽、解放」
 古雅な大太刀に黒不浄の汚れを纏わす。撒き散らされる電撃を、半円を描くように駆け抜けてかわしながら、彼は3体目の背後に回り込む。
 死、そのものをまとった刃が、獣の咆哮の如き音とともにクレイドールを断ち切る。
 4体目も、程なく体力を半減させることができた。
「企みも……ここまで。グランドロンを利用することも……子供たちを殺すことも……させはしない」
 千里は千の鬼を屠ったとも、千の鬼が宿るともいわれる名刀を構えた。
「死出に咲くるは死人花…その身体に刻んであげる―――千鬼流……奥義」
 引力と斥力を素早く、そして的確なタイミングで切り替える。高度な技術を必要とする重力操作が妖刀“千鬼”を加速させる。
 はた目には一度しか斬りつけていないように見えただろう。だが、42回もの斬撃はクレイドールを確実に断ち、生物的な機械は血の彼岸花を咲かせて動きを止めた。
 残るは1体。
 狙い撃ってくる敵にケルベロスたちが攻撃を集中する。
 これまでの準備で数分とたたずに追い込むことができた。
 雷をまとった秋津彦の刃が敵を貫く。
「どっちが先に壊れるか、勝負しようぜ」
 青白い地獄の炎を腕部パーツから噴出しながら、猛烈な勢いで広喜が連打を叩き込む。
「仕事もあと一息だ。気を抜くんじゃねえぜ」
「もちろん。グランドロンをしっかり助け出さなきゃいけないからね」
 巌と清嗣が声をかけ合いながら攻撃をしかける。
 清嗣が嘉留太の1枚から毒の矢型を放つと、巌の杖が使い魔に戻って襲いかかり矢傷をさらに広げていった。
 有利になっても油断はせず、光線による狙撃を受けていた真理をルーシィドが自然と接続して回復させる。
 その真理は神州技研製アームドフォートから砲撃を加えていた。
 だが砲撃の直前、クレイドールの強化が発動し、その威力を軽減していた。
 敵は赤い瞳から光を放とうとしていたようだ。削られた体力を少しでも奪い返そうとしているのだろう。
「私たちの体力なら奪えばいい。すぐに削り直すだけだ!」
 幻は真正面から突っ込んでいく。プライド・ワンを駆る真理と響銅が攻撃を防ごうと移動し始める。
 けれど、クレイドールの攻撃は放たれなかった。電撃がその体を縛っていたのだ。
 千里のまとう流体金属が敵の表皮を破る。
「不運だったね。でも、これで終わらせてもらうよ」
 斬ることに特化した薙刀に呪詛を乗せ、幻は最後の1体を真っ二つに断った。

●子供たちの歓声
 戦いが終わった。
 敵の残骸を探って、ケルベロスたちはコギトエルゴスムを探す。
「よし、あった。5個全部あるぜ」
 巌が回収した宝石を確かめる。
「君らどんな子なんだろな早く会いたいねぇ」
 自分が回収したものを抱きしめて、清嗣が語りかけた。
「無事……助けられたようで……なによりです」
 千里が言った。
「そうだね。みんなお疲れさま。飴でも舐める?」
「いまだ言葉を交わす機会を得られていない命を、助けない理由はありませんから。先輩方が集まってくれて助かりました」
 差し出された飴を受け取ってルーシィドが静かに言った。
 コギトエルゴスムを回収している間に、体育館に人が戻ってきたようだった。
「もう大丈夫だぜーっ」
 満面の笑顔で呼びかけた広喜の声を聞いて、子供たちが駆け寄ってくる。
「怖い想いをしましたな。ですが、もう大丈夫でありますよ」
「ケガした子はいない? いたら教えてね。手当てするから」
 秋津彦や幻が、子供たちへ優しく声をかける。
 壊れた校舎を直しながら、彼らは子供たちの相手をしていた。
「ケルベロスのお兄さん、お姉さん、どうもありがとう」
 声を合わせてお礼を述べる子供たちに、ケルベロスたちが笑顔を見せる。
 普段は無表情な真理さえ、その姿を見て顔をほころばせた。
 救うべき者をすべて救いケルベロスたちは帰っていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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