●新たなる試み
周囲の全てを奇妙な機械で覆われた場所。ダモクレスの拠点と思しき場所の中枢にて、ジュモー・エレクトリシアンは、コギトエルゴスムを片手に呟いた。
「日輪と月輪は、進化する事はできなかったようですね。しかし、彼らの死は無駄ではありません。なぜなら……彼らの死は、試作進化型ダモクレスの礎となったのですから」
そう告げる彼女の目の前には、既に新たなダモクレスが姿を現していた。
巨大な爪に覆われた、卵のような奇妙な形状。その外殻こそ冷たい機械を思わせるが、しかし内部に座するのは動物とも植物とも呼べぬ、不気味な物体。およそ、ダモクレスの外見とは懸け離れた、生物的な特徴を持った球体の中央からは、人型の上半身が生えている。それは頭部から伸ばした菌糸のような物体で、球体を覆う外殻とも繋がっていた。
「試作進化型ダモクレス『クレイドール・クレイドル』よ、ダモクレスの未来を新すのです」
全てはダモクレスという種族を、新たなるステージへ進化させるために。ジュモー・エレクトリシアンの命を受け、その身にコギトエルゴスムを宿した、新たなるダモクレスが出撃した。
●襲来、クレイドール!
白昼の市街地に火の手が上がる。逃げ惑う人々を襲うのは、ジュモー・エレクトリシアンによって放たれた、合わせて4体のクレイドール・クレイドル。
「ひぃっ! た、助けてくれぇっ!」
願いも空しく、全方位に放たれるレーザーによって、住民達は次々と身体を射抜かれてゆく。それでも、辛うじて逃げ延びた者もいたが、しかしそれを見逃す程クレイドール・クレイドルは甘くなく。
「あ……あぁぁ…ぁぁ……」
球体の中央に備え付けられた瞳より放たれた光線を食らい、生き残った者達も瞬く間に朽ち果てて行く。
全てはダモクレスの進化のために。その願いを叶えるべく解き放たれたクレイドール・クレイドル達には、一切の情けも存在してはいなかった。
●土人形の揺り籠
「招集に応じてくれ、感謝する。お前達の活躍で、『日輪』と『月輪』のダモクレスは無事に撃破された。同時に、強化に利用されていたコギトエルゴスムも、しっかり入手できたようだな」
『日輪』と『月輪』の強化に使われていたコギトエルゴスムは、ヘリオライダーの予知により、『妖精グランドロン』のものだったことが判明した。しかし、このまま手放しで喜ぶわけにはいかないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、新たな事件の予知を告げる。
「『日輪』と『月輪』による作戦を阻止されたダモクレスは、グランドロンのコギトエルゴスムを利用して、新たな作戦を行おうとしているようだ。そのために、新たに生み出されたのが、クレイドール・クレイドル……。不完全ながらも、グランドロンのコギトエルゴスムの力を引き出す事に成功している。状況によっては、非常に強大な戦闘力を発揮する厄介な相手だぜ」
クロートの話では、クレイドール・クレイドルは完全体となるべく多量のグラビティ・チェインを求めており、市街地を襲撃しようとしているとのことである。このまま放っておけば、街の被害は甚大だ。そうなる前に、なんとしても敵を撃破し、ダモクレスの計画を阻止せねばならない。
「敵のクレイドール・クレイドルは、合わせて4体。どれも防御に特化しているが、全方位にレーザーを放ったり、相手の生命力を吸収する光線を放ったりするなど、攻撃能力がないってわけじゃない。おまけに、外殻を閉じることで一時的に防御力を上げ、体力の回復を図ることもあるようだな」
これだけでも面倒な相手だが、クレイドール・クレイドル達の真の脅威は他にある。彼らは体力が半減すると、戦闘力が大きく強化され、圧倒的な殲滅力を以て襲い掛かってくるというのだ。
具体的には、攻撃力及び防御力の強化。命中率や回復力も軒並み強化され、様々なエラーも自動で修復してしまうようになる。加えて、こちらの魔術的防御も問答無用で破壊できるようになるなど、殆どチートに等しい圧倒的な強化が成されてしまう。
「正直、この状態のクレイドール・クレイドルと、正面から戦って無事で済むって保証はないぜ。ただ……急激な進化の代償ってやつなのか? この状態になってから4分ほど経過すると、『急激な定命化』によって敵は内部から崩壊して自滅するようだな」
まともに戦って勝つのが難しい場合は、敢えて敵の攻撃に耐え忍ぶことも必要かもしれない。もっとも、敵が定命化によって死亡した場合は、当然のことながらグランドロンのコギトエルゴスムを回収することは不可能になるが。
「グランドロン達のコギトエルゴスムを多く助ければ、彼らを救い出せるかもしれない。だが、強化されたクレイドール・クレイドルを、複数同時に相手するのは自殺行為だ」
敵に与えるダメージを調整したり、こちらの体勢を整えた上で、強化される前に一気呵成の集中攻撃で叩いたりと、瞬間、瞬間での判断力を要求される戦いになるだろう。単純な力押しやスタンドプレーではない、仲間との協力と優れた作戦行動が不可欠な戦いだ。
街の人間だけでなく、グランドロン達をも救いたいのであれば、それを頭に入れて動いて欲しい。最後に、そう締めくくって、クロートはケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
---|---|
ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354) |
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466) |
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403) |
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793) |
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471) |
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) |
●新たなる進化のために
白昼の街に、突如として現れた4つの影。強固な外殻の内部に人型の物体を携えたそれは、しかし列記としたダモクレス。
放たれる閃光が街を焼き、逃げ惑う人々を追い立てる。到着早々にして悲鳴と絶叫の入り混じる街の中、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は敵の接近を仲間達へと告げた。
「敵、十二時の方向から二体。同じく、二時の方向から二体だ」
逃げ惑う人の波に逆らって立てば、敵のダモクレス達は新たな獲物を見つけたとばかりに、ケルベロス達へと狙いを定めたようだった。なるほど、確かに逃げる獲物を追うよりは、自分から向かって来る獲物を狩った方が効率的ではあるのだろうが。
「実験のために使い捨てられる存在……。彼らもまた、被害者なのかもしれませんね」
「よくもまぁ下らぬ策を考えるものだ……全て無駄に終わるというのにな!」
命は玩具でもなければ、誰かを進化させるための踏み台でもない。ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)やジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の表情は、どこか怒りと憂いに満ちたものになっており。
「新たなるダモクレス……試作進化型ダモクレス、か。無機体を捨て有機体になる、と言ったところだな」
果たして、それはダモクレスという種族のアイデンティティを、根底から覆すものではあるまいか。そんな問い掛けにも似た言葉を呟くジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)とは対照的に、柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は、どこか期待に満ちた表情で、軽く拳を打ち鳴らした。
「防御に優れた妖精種族か、面白いねえ。味方に引き入れることができりゃあ、もっと賑やかに楽しくやれそうだぜ」
ウイングキャットの虎が、その言葉に合わせて小さく鳴いた。どうやら、敵も完全にこちらのことを補足して、攻撃を仕掛けてくるようだ。
「見極めた上で敵を倒す……私の得意分野です」
敵の陣形や配置から行動を予測し、ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)が静かに告げる。リアルタイムで更新される敵の情報を得て戦えるのであれば、これほど頼もしいことはなく。
「ほな、まずは準備整えようか?」
「下支えデスネ! ワタシも頑張りまース!」
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が、満月にも似た輝く光の球を味方へと投げつければ、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)もまた銀色の粒子を展開して行く。
堅牢な防御と高い持久力を誇るダモクレス。その壁を突破し、利用されている妖精族のコギトエルゴスムを回収すべく、ケルベロス達は自らの火力を爆発的に高めるための行動を開始した。
●強行突破!
圧倒的なタフさを誇るダモクレスを相手に、正面から強行突破する。殆ど無謀としか思えない策を成功させるべく、ケルベロス達は普段とは異なる形でのアプローチを仕掛けることにした。
まず、初手からして味方を強化しながら敵の動きを止め、じっくりと力を高めて行く。その上で、最も体力の低い敵に狙いを定め、前衛に移動して高い火力で一気に叩く。
陣形の変更という悪手を前提にしているものの、それでも現状では理想的な策の一つだった。
「……皆さん、陣形変更のご準備をお願いします」
開始から3分が経過したことで、ユーリエルが陣形の変更を提案した。その言葉に、ジョルディとジークリット、そして瀬理が頷いた。
「手薄になってる間の抑えは任せな!」
「擬似螺旋力出力調整、私の螺旋力と完全同期」
仲間が陣形を変更する間、攻撃を引き受けるピコと鬼太郎。相反する二つの力をピコが敵の体内で接触、対消滅させることで崩壊に導けば、鬼太郎の繰り出した超怪力の拳が敵の外殻を強引に抉じ開け、破壊する。その上で、虎の爪が剥き出しになった敵の内部をズタズタに引き裂いたが……その途端、敵は激しい機械音を発しながら外殻を開き、その内部に鎮座する『人型』が高々と吠えた。
「……っ! 拙いな、これでは先手を取られる!!」
慌ててヴォルフが牽制弾を撃ち込むも、敵のダモクレスは何ら意に介さぬ様子で自らのリミッターを解除して行く。そして、前衛に立つ者達が体勢を整えるよりも早く、外殻に備えられたレーザー発振器から、四方八方へ光線を乱射した。
「くっ……こちらの強化を先に破壊して来たか!」
「しもた! こんなん、今までの苦労が水の泡や!!」
歯噛みするジョルディと瀬理。折角、今まで溜めて来た力を、一瞬にして崩壊させられてしまったのだ。
「まだだ! まだ、私は健在だぞ!」
鬼太郎に庇われたことで難を逃れたジークリットが、お返しとばかりに敵へ向かって駆けだして行く。狙うは、敵の外殻の付け根部分。そこを狙って、脆い部分を集中的に攻撃すれば。
「……捉えた、ここだなッ!!」
果たして、そんな彼女の読みは正しく、敵の外殻が一枚だけ吹き飛んだ。が、それでも敵の纏った強化までは、どうあがいても破壊できないのが悔やまれるが。
「壊されたナラ、また直せばイインダヨ!」
銀色の粒子を放ち、再び強化を張り直すパトリシア。敵の特性を考えると、効果は保って一分といったところだが……それでも、続けて攻撃する者達にとっては十分だ。
「悪く思わんでぇな。……いてもうたるわ!」
装甲と装甲の隙間に両手を突っ込み、瀬理は内部の球体を戦籠手で押し潰さんと攻撃を加えた。聖なる左手、闇の右手。それらを重ねて繰り出される技は、一度の攻撃で幾度も敵の肉体を粉砕する。
先程までの状況が一転し、形勢不利となるケルベロス達。だが、当初の見込みよりも火力が著しく落ちていても、彼らは決して諦めない。
「我が刃を以て……冥府に送ろう! HADES機関フルドライブ! 戦闘プログラム『S・A・I・L』起動! 受けよ無双の必殺剣!」
残り時間が一分を切ったところで、ついにジョルディが賭けに出た。
それは、かつての宿敵であり、同胞でもあった存在が使っていた必殺技。別名、天昇地雷光。地より天へと昇る雷光を思わせる一撃が、敵の装甲の割れた部分に突き刺さり。
「ライジィング……サンダァァァボルトォォォッ!」
最後は、斧と剣で十字に斬り付け、武器を振り抜きつつ背を向ける。
「クロォォォォス……ジャッジメント!」
刻まれた十字の傷跡から光が溢れ出し、盛大に爆発四散する敵のダモクレス。その爆風と煙が退いた時、ダモクレスの残骸に混ざって残されていたのは、実験に利用されていた妖精族のコギトエルゴスムだった。
●狂い出す歯車
想定外の反撃を受けつつも、辛うじて一体目の敵を撃破したケルベロス達。だが、続く二体目からの戦いは、先程のようには行かなかった。
「あかん! これ以上は、削り過ぎてまうわ!」
繰り出そうとした脚を、瀬理が慌てて引っ込める。中衛から前衛に移動した今、彼女を始めとした3人のケルベロス達は、純粋に攻撃へ特化したスタイルとなっている。
再び中衛に戻った状態であれば、こうも神経質にならずに済んだであろう。ゆっくりと時間をかけつつ強化をし直し、一体目と同様の戦法を取ることができた。
だが、隊列を変えずに押し切ろうとすれば、それは隊列の違いから微かな歪みを生む。こちらを一気に強化することもできないまま、ともすれば敵に強めのダメージを与えてしまい、覚醒を誘発し兼ねない。
「敵の動きが麻痺によって制限されているのが、せめてもの救いか……。だが、確かにこれでは、こちらも迂闊に攻撃できんな」
同じく、ジョルディもまた、自身の高い攻撃力を持て余しているようだった。
敵が超強化されていない今であれば、圧倒的に有利な条件で戦える。だが、超強化されてしまったが最後、戦況は一瞬にしてひっくり返る。敵が捨て身で特攻でもしてくれれば良いが、少しでも殻に籠って時間を稼ぐことを優先されれば、こちらの高火力も一転して中途半端な威力しか示せなくなる。
「正直、これは想定外でしたね。私の方でも、皆さんの攻撃力を増強する手段を用意しておくべきでした」
冷静に戦況を分析しつつも、ユーリエルの表情はどこか険しい。彼女が味方に施せるのは、命中率の上昇と防御力の増強のみ。長期戦を見越した堅実な選択ではあれど、圧倒的なタフさと防御力を誇る相手を強引に突破するにしては、些か心許ないのは否めなかった。
「弱気はキンモツネ! 手が回らないナラ、ワタシも手伝うヨ!」
ならば、応援は任せろとカラフルな爆発で味方を鼓舞するパトリシアだったが、それでも彼女の本職は回復要因。その意識が前衛のみに傾いてしまうというのは、即ち残された中衛に、否が応でも単独での立ち回りを強要することに繋がってしまい。
「こちらの火力を削ぎながら、体力維持を優先するか……面倒な連中だな!」
苛立ちを隠し切れず、虹を纏った蹴りを炸裂させるヴォルフだったが、それは敵の怒りを呼ぶ諸刃の剣。中衛である彼が狙われた場合、現状では回復に手を割くだけの余裕がない。
「させません!」
すかさず、ピコがヴォルフを庇いながらも分身を彼に纏わせるが、彼女の受けたダメージの幾分かを、敵は自らの糧として吸収した。
正直なところ、一番厄介なのは、あの体力吸収光線だ。ヴォルフの駆る太古の魔術を以てしても、あの吸収だけは阻害できない。
「歯ぁ、食いしばんな。荒療治で行くぜ!」
ヴォルフの代わりにダメージを受けたピコの傷を、鬼太郎が強引に殴り飛ばすことで、『負傷』という概念そのものを吹き飛ばし、治療する。その隙に、虎がリングを投げつけて敵を攻撃したが……その一撃が急所に直撃したことで、二体目の敵も、異様な挙動を見せ始めた。
「超強化だと!? まだ、こちらが体勢を立て直せていないというのに……!!」
状況が良くない方へ向かっていると察し、ジークリットは斬霊刀を片手に突貫する。
現状、先の戦いで運よく強化を壊されていないのは自分だけ。今までは攻撃を控えていたが、もはやそれをする必要もない。
「奴が有機体ならば斬る! 機械なら壊すのみ!」
どこまでやれるかは解らないが、可能な限り、やってやる。振り下ろされた刃は外殻の内側に鎮座する『人型』の物体を両断し、その傷口から侵食を始める。が、それでも、やはり超強化されているだけあって、彼女の力だけでは追い込むのにも限界がある。
命中率よりも攻撃力。防御力だけでなく、攻撃阻害に対する強固な耐性。それらの優先順位を見誤った結果、泥試合にもつれ込んでしまったのは残念だ。
やがて、幾度かの応酬を経た結果、残るダモクレスは次々と朽ち果て自壊した。結果として、ケルベロス達の勝利ではあったが、しかし妖精族のコギトエルゴスムもまた、ダモクレス達と一緒に破壊されてしまった。
●希望の欠片
戦いの終わった街の中。ビルを覆う火の手は既に静まり、後には黒い煙が静かに立ち昇っているだけだ。
街は守られ、人々の命も救われた。だが、それでも救いきれない命があったことに、ケルベロス達は自責の念を抱かずにはいられなかった。
「……未来の同胞、無事確保完了しました。ですが……」
「手に入ったのは、一つだけ……か」
互いに顔を見合わせ、重たい口調で呟くユーリエルとジークリットの二人。途中までは予定通りに事を運べたが、そこから先、想定外の混戦になった結果、僅差で敵を時間内に倒し切ることができなかった。
強化された力をぶつけることを前提とし、それが崩された際のことまで考えていなかったことが悔やまれる。せめて、スタンドアローンで瞬間火力を高める術や、隊列を元に戻してから戦うことを考えていれば、あるいは残る三つの命も救えたのではあるまいか、と。
「敵の残骸からも、特に何も回収できませんでした。証拠を残さないやり方は、毎度、さすがとしか言いようがありませんが……」
同じく、撃破した敵の残骸を調べていたピコも、力無く項垂れて首を横に振った。せめて、この先に同様の事件が起きた際の抑止方法が解れば良かったのだが、それをさせない辺り、事件の首謀者であるジュモー・エレクトリシアンも、実験体がケルベロス側に鹵獲された際のことを考えていたのだろう。
「シカシ……そんなに要ル? コギトエルゴスム」
「さあ、どうだろうね? 彼らを新たな同胞と思っている者にとっては、重要なものなんだろうさ」
それが組織全体の意向なら従うのも已む無しといったパトリシアに、ヴォルフは肯定も否定もせず返した。全ての敵を排除した今、彼にとって残ったものは、興味の対象外だった。
「ああ、もう! 辛気臭い雰囲気は、止め、止め! そんな顔しとったら、折角助けた妖精族に顔向けできへんで」
見兼ねた瀬理が、手を叩きながら仲間達の間に割って入った。それを見たジョルディも、回収した宝玉を手に取って、陽の光に透かしながら呟いた。
「たった一つ、されど一つ。今は、少しでも多くの命を守れたことを喜ばねばな」
この先、彼らが地球で生きることを望むのであれば、せめて彼らに恥じぬような生き様をせねば。妖精族を『命』ではなく『力』としてカウントすれば、彼らを利用しようとしたダモクレス達と、何の変わりもなくなってしまう。
「新しい妖精族か……。いったい、どんな連中なんだろうな」
今は想像するしかない状況に、鬼太郎は少しばかり歯痒さを覚える。
再び目覚めたとき、彼らは人類の新たなる友となるのか、それとも恐るべき敵となるのか。
願わくは、前者であって欲しいものだ。宝玉の中に、確かな命の輝きを感じながら、ケルベロス達は妖精族との新たな未来へ想いを馳せた。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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