機械のネクストジェネレーション

■リプレイ

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　山間の大地がそのまま盛り上がり、岩を巻き込んで人型になった。
　そんなモンスターが居るとしたら、こんな奴らだろう。
　だが詳細に見れば、どことなく化学的にデザインされたような部分がある。
「確かにゴーレムとダモクレスの中間と言う感じだな」
　アルベルト・ディートリヒ（昼行灯と呼ばれて・e65950）は陸橋の上から眺めていたが、ストンと地面に降り立った。
　逃げ惑う人々が居ない場所を通ってダモクレスに直行する。
「うちらはケルベロスです！　デウスエクスは倒しますので落ち着いて避難を！」
　田津原・マリア（ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514）は人々の前に立ち、戦場では後方に当たる位置ながら、最後の壁となって声を張り上げる。
　避難を促し警察に頭を下げ、自身はじっとダモクレスが接近するのを見守って居た。
「他人を……妖精たちをこき使うのもそこまでだ。いつまでもポンコツダモクレスに好き勝手させるか」
　アルベルトは最前線に到着すると薄く透き通るような刃を抜き抜刀。
　敵もケルベロスを見付けた為か、速度を落として戦闘態勢に入ったようだ。避難も考慮してこちらは手を出さずに、他の仲間達の到着を待ちながら睨みあう。
「確か……。耐久力が一定を下回ると異常進化するのだったか」
「そのようだナ」
　ここでティーシャ・マグノリア（殲滅の末妹・e05827）とウォリア・トゥバーン（獄界の双焔竜・e12736）が到着。
「相手に気を使わねばならんとは難儀なことだ」
　ティーシャは溜息を吐く様に懸念を漏らす。
　同情する気はないが、本来、戦闘には不必要な筈のファクターだ。
「なに、解り易イ戦ダ。要は自壊を待たず叩き潰せば良いのだろウ」
　ウォリアはその意見に対し、倒せば良いのだとシンプルに考える。
　危険であることを否定はしないが、ソレを愉しむのも戦士のサガだ。

　そして敵が動き出したことで合わせて回避や迎撃を開始した。
『攻撃開始』
「なんとぉ！」
　一体が赤い光を放ち、残り二体が進撃して来る。
　そこへアルベルトが立ち塞がり、光を刀で叩き落として拳は自分の体で受け止める。
「ヤッテくれるワ。オレは力加減なぞしらヌ。気にせず遠慮無く征かせてモラウゾ」
　もう一体はそのままウォリアを殴りつける。
　メキメキと巻き込む様な腕力に抗いつつ、銃口を杖の様に突き立て……。
　零距離からビームを放って強引に抜け出した！
「今の段階だとそう強くはないな……とはいえ流石にたまらん。援護を頼む」
「任せとけっ！　問題無いぜ」
　アルベルトは無数の剣を呼びながら、フレデリ・アルフォンス（ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627）に声を掛ける。
　そして剣を投げつけて牽制し、敵を串刺しにすることにした。
「まず足を止める」
　ティーシャは鎧装の力を全開にすると、高速で周囲を駆け廻る。
　剣を投げたアルベルトと同じ様に、牽制を掛けて動きを止める為だ。
　ダモクレスは簡単に跳ねのけるが、むしろそれは幸い。あまり削り過ぎる訳にはいかないのだ。牽制くらいで丁度良いとも言えた。
「最初は苦戦しそうだな。まっいつものことだが」
「それを支えるのが、うちらの役目です。気を抜かんとやりとげましょう。命中補助しますね」
　フレデリは広範囲に雷鳴を放って敵を打ち払い、マリアは流体金属の膜を広げた。
　どちらも結界を張ることで、仲間達の傷を癒し、結界を張ることで戦い易くしていく。

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　数分後、最初の転機は唐突に訪れた。
　急に損傷の大きなダモクレスに変化が起き、圧倒的なグラビティを放出し始めたからだ。
　そして奇妙なことが二つ。一つは自らが壊れるほどの勢いでダモクレスが回転し始めたこと。
「来たな。構えろ」
「判ってる！」
　もう一つはケルベロスが即座に反応したことだ。
　ティーシャはバックステップで回避を試みつつ、アルベルトが超重力を受け止める。
『グオオ！！　抹殺っ！』
　これまで決して膝を付かなかったアルベルトが、剣を杖に立ちあがらねばならないほどの威力だ。
　しかしこの力はただの恩恵ではない。雄たけびとも悲鳴とも取れそうな声を聞いたような気がした。
「攻撃して居る方があの有り様か。聞いて居た通りだな」
「好き勝手にパーツ扱いしたら、今度は自壊させるのか、いい加減にしろよ！」
　ティーシャは攻撃側のダモクレスに亀裂が入って行くのを確認する。
　気の良いフレデリは、自分が使いつぶされている訳でもないだろうに、ダモクレスや融合させられた妖精の代わりに激昂した。
「こんなん酷い……。傷の方はこちらで直します。早よう何とかしたって下さい」
「判って居る。我に任せておくが良い」
　マリアがオウガメタルを震わせて重力結界の中に声を掛けると、ウォリアはこともなげに応えた。
　答えたではなく、応えた。
　溢れかえる血潮の代わりに炎が周囲を染め上げる。
「……来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ……神魔霊獣、聖邪主眷！！　総て纏めて……いざ尽く絶滅するが好いッ！」
　地獄を語ろう。
　大斧で、大剣で、長槍で地獄を語ろう。
　言葉は要らない、鉄拳制裁のみが宇宙の真理。地獄の炎で作りあげた分身たちがウォリアと共にある。
「おう、逝くか。この世の夜を謡い明かせ」
「オウ。逝くとも。夜啼鳥の様にはいかんがナ」
　アルベルトは苦悶の声を煙草咥えて誤魔化すと、ウォリアが出陣するのを見守った。
　そして一服しながら鉄槌に持ち替え、竜の後を追いかけるように飛び出していく。
　何、たった数歩の距離である。追いついて一撃浴びせるのに、いかほどの事があろう！

　刻みタバコが血で染まる僅かの間に、彼ら以外でも、重力を跳ねのけようと努力がなされた。
　負った癒す為に、あるいは光すら曲がるような重圧をはねのける為に相克するグラビティを放つ。
「今が一番苦しい時だ。此処を乗り切れば何とかなる」
「判っとります！」
　ティーシャはまるで相手が巨大ダモクレスであるかのように、近くの建物を足場に斧を振り下ろした。
　その声を聞いたマリアは珍しく声を荒げて、必死に治療を施して居る。
　重力場をグラビティのメスで切り割き、形の無い糸をやはりグラビティで作りあげ、普段のぼんやり差がどこかに入ったのでは無いかと思うほどだ。
「落ち付け。俺も手伝う。……本当はそろそろ攻撃に切り替える予定だったんだがな」
「ほんまですわ。こない強力やと、うちもその余裕が全然ありません……深手ですね、今すぐ治療します！」
　フレデリが爆風で薙ぎ払う様に、重力場や赤い光線に干渉する。
　ふっと押し返す力が少なくなったのを感じながら、マリアは傷口を縫合して行った。
「もうちょっとだけ待っとって下さいね」
「なに、望んだ結果さ」
　一気に火力が上がったと言う訳ではないが、カバーしているアルベルトが危険だ。
　ウォリアとティーシャは彼が庇っている分だけ傷が少ないが、その分だけ彼に累積して居るからである。
　そして何より、普通の戦闘と違って、グラビティの使用無しに急に力を増したのだ。
　この異常進化がどれだけ恐ろしいかが判ろう。
「ダガ、これを乗り切れば倒せるというのもまた真実ダ」
　進化した個体は数分で自壊するほどの力を出して居るが、同時に、残り二体も攻撃して居るからこれだけ苦労して居るのだ。
　一体目を乗り切れば、後は順次倒すのは難しくないだろう（それだけに、同時に追いこんだら危険だったろう）。

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　そして二度目の転機が訪れる。
　今度は先ほどよりも速く、僅かな間だ。
　敵は攻撃役ばかりであり、こちらと違って護る者も居ないがゆえに追い込み易い。
「トドメは任せタ。やれ！」
「了解」
　ウォリアが強引に叩きつけて抑えつけて居る所に、ティーシャが猛追して打ち壊したのである。
　彼女が突撃態勢に入り、腕部が消えた一瞬のすきを見逃さず、ウォリアは蹴りを入れて直撃コースへ叩き出す。
「……終われ」
　ティーシャは瞬時に腕を爆砕用のアームに変更すると、掴んだ後に粉砕したのである。
　そこに容赦など一切なく、躊躇するとしたら、コギト珠があるかないかの確認くらいだろう。
　こうしてケルベロス達は最初の一体を倒し、なんとか苦境を乗り切った……かに見えた。

　だが、まだだ。
　まだ一同の苦境は完全に乗り越えられた訳ではない！
「やったか！？　いや、やったぜ！」
「あ……あ。やった……な」
　フレデリが声を上げて皆を励ました時、アルベルトは頷くのではなく精いっぱいの声で相槌を打った。
　なぜならば、ダモクレスの歯車の様な拳が二本、彼を両側から挟みこんで居たからだ。
　プロレスで言えばラリアットとラリアットに挟まれたような感じだが、見た目にはまさに歯車に入り込んでしまった工場の人間である。
「くそっ。無茶……しやがって」
「一刻も早く治療せへえんと！」
　再びフレデリとマリアが共同で治療を始める。
　よく無事だなと思うほどだが、おそらく何度か、自分で治療を施したのが間にあったからだろう。
「血が流れ過ぎて……治療不能なダメージが多過ぎです。早よう戦いを終わらせへんと」
　この自体を招いたのは、敵が全て攻撃型だったことだろう。
　相手に盾役が居ないので、思ったよりも速く倒す事が出来た。
　だが同時に敵の攻撃も激しく、傷の累積が予想よりも速かったのだ。
「なあに……もう少しくらいは、保つさ」
『消去』
　アルベルトが剣で隙間をこじ開けると、ダモクレスはすかさずビームと重力波を放つ。
　今度は他をついでに狙うのではなく、明らかに彼を狙っている。
　どうやら先ほどのタイミングから、ダメージの累積を見て対象を固定したらしい。
「ここで躊躇するよりも、先に倒してしまった方が早そうだ」
「そうダナ。……再びモードが切り替わるまでまだ時間があるダロウ。それまでに……」
　ティーシャとウォリアは心配するのではなく、早く倒して治療を前倒しにした方が良いと判断した。
　鉄槌が振り抜かれ、ライフルがダモクレスを狙う。ここで凍結光線が外れたのは、故意か、ただの偶然か。
「判ってるさ。う、……おおお！」
「しゃべらなくていい、大人しく治療だけしていろ！」
　無茶を言う、これは発声と気合いが重要なんだぞ……と言いかけて、喉に血がたまって居るのにアルベルトは気が付いた。
　血を吐き出しながら、次は攻撃するかと思って居ると、殴りつける様にフレデリが治療して行く。
「ほんまです。無茶し過ぎなんですから」
　マリアもそれに付き合いながら、早く戦いが終わればいいとだけ思うことにした。
　決してアルベルトが前線から下がらないだろうというのが、予想できたからである。

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　そして戦いは終盤に差し掛かり、全てが同時に決壊した。
　三体目が進化して一分か二分目、盾役であるアルベルトが倒れたのである。
「みんな……すまない」
　腹を赤い光線が貫いたアルベルトは、最後にそれだけ告げるのが精いっぱいだった。
　気絶しはしたが、重傷ではないのが奇跡だと思えるほどだ。
　もし防壁や結界が張られて居なかったら、あるいは敵の数が多ければ暫く病院送りだっただろう。
「問題無い。後は我々で倒せる」
　だが逆に言えば気絶しただけで、入院の必要はないということだ。
　ティーシャは顔色を変えずに声を掛け、斧を担いで足場に出来る場所を探した。
「……行け」
　ティーシャは斧を振り被り、体重を載せて圧力をかけた。
　軋むような音を立てて、ダモクレスの体が揺らいでいく。
　先ほどから攻め立てている事もあり、後少しで倒せるだろう。
『ガガガ！』
　それに、敵は強化されているとはいえ、命中力も攻撃力もバランス良く上がるタイプで、一撃で誰かが倒れるほどではない。
　あくまでデータ取りと、後の新型を作る礎なのだろう。今回は、それが幸いして居ると言えた。
「此処まで来たら治療するより倒す方が速い！　アルベルトの仇討ちだ。後悔するなよ」
　フレデリは狂乱したかの様に魔力を放ち始めた。
　右手と左手から交互に放出し、次々に魔力弾を放って追い込んで行く。
　敵が爆炎を上げてもまだ手を止めず、最後に巨大な魔力の波を放って追い込んだのである。
「死どりませんってばっ。……でも、うちもそうさせてもらいます！」
　マリアもフレデリに習い攻撃に参加。
　装甲の亀裂に杖を突き立てて、直接内部に電流を流しこんだのである。
『逆襲！　次なる標的……』
「来るがいい。それで最後だ」
　ティーシャは駒の様に大回転する敵の腕部を、他人事のように見つめていた。
　回避はするが、命中力も強化されているので避けるのは無理そうだ。
　吹っ飛びはするがこの一撃で大怪我はしても、重傷にはならないと判断したのである。
　ブロック塀を粉砕して転げ回ったが、手を上げて無事を知らせる余裕すらありはした。
「フン。ならばコレで終わりダ。天に輝く七の星を見よ……死と解放を告げる赫赫たる凶星を……。此処で殺され、新たなる目覚めを迎える覚悟は出来ているな？」
　ウォリアは再び分身すると、炎に燃える籠手で殴りつけ、脚部全体を燃やしながら蹴りを放った。
「……さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
　巨大な杭が突き刺さる様にダモクレスを貫き、最後の一体にトドメを刺したのである。

「……ん。俺は生きているのか」
　死んでたら花畑で頼むぞ。
　アルベルトは堅い感触を後頭部に感じながら目を覚ました。
「起きられました？　もうちっと休んどいてください」
　その時は、マリア達は総出でヒールして居たところだ。
「手伝ってくれるなら起きても構わんぞ」
「ウム。人手は多い方が良イカラナ。それに、立って居る者は、親でも使えと言うダロウ？」
「勘弁してくれ」
　全員で手分けしており、ティーシャは残骸を処分したり、ウォリアは家屋の一部を持ち上げてヒールするのを待って居た。
「コギト珠も回収できたし、一人くらい寝ててもバチは当たらなさそうだぜ」
「……そうさせてもらおう……か」
　フレデリが声を掛けたことで、全員の無事を確認したアルベルトは安心して眠りに着く。
　額に文字を書くなと言う冗談も思いつかないほどであった。
　こうしてケルベロス達は街を守り抜き、帰還を果たしたのである。

作者：ｂａｒｏｎ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年3月31日 難度：普通 参加：5人 結果：成功！
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