無数のパイプが走り、幾多のコンピュータが蠢く部屋に、女が一人いた。
否、それを一人と数えて良い物か。一見、人間と見まごう女はしかし、紛れもなく機械の身体を有す存在――ダモクレスであった。
「日輪と月輪は進化する事はできなかったようですね。しかし、彼らの死は無駄ではありません。彼らの死は、試作進化型ダモクレスの礎となったのですから」
片手で五つの宝石を弄びながら女――ジュモー・エレクトリシアンが口にしたのは、労いにも似た言葉だった。
そして、彼女は言葉の締めと共に宝石を宙に撒く。一見、無造作に投げられた宝石はしかし、それが意思を持つかのように宙を舞うと、佇むダモクレスの元へと着地。刹那、起動音が部屋に響き渡っていた。
「試作進化型ダモクレス『クレイドール・クレイドル』よ、ダモクレスの未来を新すのです」
それが、彼女の下した命令だった。
そして五体のダモクレスが殺戮を開始する。
グラビティ・チェインを得るため。
そして、主の命を遂行するために。
「「シンカ、コウシン、シンカ、ハッテン……」」
己が蝕腕を血に染め、クレイドール・クレイドルは口々にその文句を唱えるのであった。
「みんな。ダモクレス『日輪』と『月輪』の撃破、お疲れ様。みんなの活躍のお陰で、彼のダモクレスに使われていたコギトエルゴスムの調査も実を結んだわ」
リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の声は喜び半分、憂い半分と言った処だった。
即ち、それは新たな予知を視た、と言う事なのだろ。
「『日輪』と『月輪』に使用されていたコギトエルゴスムは『妖精グランドロン』の物だったわ。何れ、彼らもコギトエルゴスムから元の姿に戻して上げる事が出来るかも知れないわ」
そして、とリーシャはケルベロス達に向き直る。それが本題と告げるように。
「それで、ダモクレス達はグランドロンのコギトエルゴスムを用いた次の作戦に移行した様なの」
新たに生み出されたダモクレスの名は『クレイドール・クレイドル』。この機体は不完全ながらもグランドロンのコギトエルゴスムが持つ力を引き出す事に成功しており、状況によっては非常に強大な戦闘能力を発揮するようなのだ。
「そして、彼らは完全体になるべく、市街地でコギトエルゴスムを集めようとしているわ」
静岡県の東部に位置する地方都市で、襲撃を開始するようなのだ。
「それを止めて欲しい」
破壊の予知を真実にしないため。
リーシャはその祈りをケルベロス達に向けていた。
「出現するクレイドール・クレイドルは5体。何れも鋭利な蝕腕で周囲を破壊する能力を有しているわ」
その他、生体f部品の自己増殖機能による回復や、コギトエルゴスムからエネルギーを引き出しての電撃を行うようだ。遠近共に隙が無い相手となる。
「で、大事な事を2つ、忘れないで欲しいの」
その言葉と共に、一つ、と白魚のような細い指が立ち上がる。
「一つ、彼らは不利を悟ると能力の強化を行うわ」
それが『進化』にあたる能力のようだ。具体的には攻撃力の更なる増加とバッドステータスへの耐性が行われる様なのだ。しかも、質の悪い事に、このエンチャントはブレイクでは解けない様だ。
この能力は自身の被害度合いによって発露するようだ。
「二つ。進化の能力発露後、彼らは四分経過後、自壊しちゃうの」
これは進化の際に『定命化』することが原因の様だ。尚、自壊した場合、取り付けられたコギトエルゴスムも共に砕けるため、回収は不可能となる。
「可能ならばクレイドール・クレイドルは倒して貰って、コギトエルゴスムは回収して欲しい」
無論、最優先は地球人とケルベロス達の命だ。その為に自壊させる作戦を選んでも致し方ないとはリーシャの弁である。
「グランドロンのコギトエルゴスムを悪用するダモクレスの野望は阻止しなければ成らないわ」
その上でグランドロンを救い出せるのならば……。
僅かな微笑に望みを乗せ、リーシャはいつもの言葉でケルベロス達を送り出すのだった。
「それじゃ、いってらっしゃい」
参加者 | |
---|---|
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610) |
伽羅・伴(シュリガーラ・e55610) |
●灯火を掲げて
それは奇妙な形をした『何か』だった。
敢えて例えるならば緑色の機械によって形成された楕円型のボールと言った処か。機械で形成された蝕腕は拡がり、鶴嘴に似た先端部を、ガシャリとアスファルトに咬ませている。
その数五体。蜘蛛を思わせる動きで、五対十本の機械腕を蠢かすそれは――。
「で、デウスエクスだ!!」
悲鳴が零れた。地面に突き刺さり、自己を展開するそれは見紛う事なき侵略者であったのだ。
二〇万近くの人口を抱える地方都市の、その繁華街は平日の昼間であっても、相応の人々が行き交っていた。そして、デウスエクス――ダモクレス『クレイドール・クレイドル』の狙いは、その人々の魂に宿るグラビティ・チェインだったのだ。
鶴嘴を思わせる機械腕は振り上げられ、手近な若者へ振り下ろされる。恐慌を来し、尻餅を突いた彼にそれから逃れる手段はなく――。
どろりとした液体は、赤黒く、湯気混じりに温かく迸った。
それを浴びたクレイドール・クレイドルの一体はしかし、そこは機械生命体の道理。そこに如何に感情をも浮かべていない。
喜色も、ましてや、驚愕などは当然の如く無かった。
「コギトエルゴスムを埋めて無理矢理進化したり、潜入の為にレプリカント化装置を作ったり……ほんと、手段を選ばないですね」
電気鋸の一撃で機械腕の一本を切り飛ばした機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、静かに言葉を紡ぐ。辺りに充満する機械油の臭いは、半ばより断たれた機械腕から零れ出でた物だ。その疵口――破損箇所も、生体皮膜によって瞬時に塞がれて行く。
「ほら。ここは俺たちケルベロスに任せて逃げな」
まだ立てない若者を抱え起こし、ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)がその背を押す。這々の体で去って行く彼を見送った彼は、ふっと軽く息を吐くと、クレイドール・クレイドルに対し、正眼で身を構えた。
目の前に一体。そして、にじり寄る四体。敵は計五体。今し方の攻防で、その興味は自分たちに移った様子。ならば――。
「ヘリオライダーの予知通りだぜ」
横っ面へ一撃。旋回する右足を叩きつけたタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)がふっと笑みを浮かべる。
地面を削りながら後退するデウスエクスはしかし、その双眸――中心に生えた人型の球根が本体ならば――を開く事なく、しかし、取り付けられた宝玉がギラリと輝きを発する。相棒のミミックによる黄金斧の投擲を受けながらも、その輝きは昏い光を帯びていた。
まるで睨眼の様だと笑う。五体が抱く敵意は、確実に乱入者たちへと向けられていた。
「犠牲は抑える事が出来た。これは喜ぶべき事だけど――」
胸を押さえ、表情に陰りを抱く彼の名はシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)。虹色の跳び蹴りを食らわせながら、しかし、そこにある痛みはクレイドール・クレイドルに向けた物だった。
地球人を助ける。それは絶対の事。だが、ならば、彼らは誰が助けてくれるのだろうか。
進化の実験に、ただ生を消耗するそれだけの兵器。ダモクレスとして、デウスエクスとして生まれながら、死ぬ為だけに存在する彼らの救済は一体誰が――。
「それだけが存在意義ならば、救われたいとの願望なぞ、ないじゃろう」
流星の煌めきが、周囲に降り注ぐ。
星屑を散らしながら、最も傷ついた一体――最初に機械腕を吹き飛ばされた一体だ――を蹴り飛ばしたウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は肩をすくめ、悲しげに表情を曇らせる。
シルディの痛みを理解しないわけでもない。だが、それでも、同じ感情を彼女は抱けない。それは、今為すべき事ではなかった。
「一般人の被害を出さない。妖精グランドロンのコギトエルゴスムを全て確保する。やー。辛いわー」
オウガ粒子を放出しながら、伽羅・伴(シュリガーラ・e55610)が人当たりの良い笑顔を浮かべる。声は明るく、表情も明るく。しかし、そこに抱く真意は誰も掴む事が出来ない。
「あんじょう行きませんでしたわ。減衰は厳しいわぁ」
そして呟きは、自身の行ったグラビティの影響に対する物だった。撃破を主とした結果、前衛を務めるメンバーはタクティのミミックを含め五人と一体。当然ながらその全てに伴の補助は有効とならず、複数名に留まってしまう。
「ま、それでもクラッシャー二人に掛かったのは僥倖やわ」
「ありがたく貰っとくわ!」
そして飛び出したのは八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)だった。態勢の崩れたクレイドール・クレイドルに光と闇に輝く両拳を叩きつけながら、猛き虎の如く咆哮する。
「一体ずつ、確実に仕留めるのですよ!」
自身に、そして自身のサーヴァントに命じて強化能力を付与するヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)は、それが勝利する最適解と大声で宣言した。これと頷く仲間たちと共に、ウイングキャットのヴィー・エフトもまた、短い鳴き声で応じる。
「来るですよ、デウスエクス! 悪しき進化の実験、ここで引導を渡してやるです!」
真理の短い声が、鬨の声の如く、拡がって行った。
●殺戮人形の宴
甲高い金属音はダモクレスの振り下ろす機械腕の一撃。轟く電撃は、ダモクレスの放つ電光だった。
「うぎゅ」
「くっ」
「きっついな!」
「ミミック! 頼んだ!」
それらを引き受けたシルディ、真理、ラルバ、そしてタクティのミミックの四者はしかし、苦痛に満ちた悲鳴を零す。
「進化前でもこの威力かよ」
「でも、これならまだ耐えられる!」
ラルバの独白に応じたのはシルディだ。敵の攻撃に対する防具適正。即座に飛ぶ伴かからの治癒グラビティ。それが間に合わずとも、自身らが持参した自己治癒が、疵口を塞いで行く。
そして何より敵の決定打を防いでいる物があった。
「シンカ、コウシン、シンカ、ハッテン……」
群れと化した殺戮機械はしかし、その攻撃を一点に集中させる事が出来ないでいた。
「私はここにいるです。こっち、向くですよ……!」
戦場に投影された真理の虚像が、シルディと伴の紡ぐ虹色の蹴りが、彼ら個人への執着をデウスエクスに抱かせていたのだ。
仮にクラッシャーの加護を抱く五体によって集中攻撃が為されれば、如何にケルベロスたちと言えど、瀕死の重傷は免れない。それはディフェンダーの加護を纏う三者と一体と言えど、避けられぬ事態だった。
だが、それを妨げる挑発――怒りのバッドステータスは、クレイドール・クレイドルの連携を乱す大きな役割を果たしていた。
連携が取れない群体に何の恐れを抱こうか。
ましてや――。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から! ……あはっ、丸見えやわアンタ」
瀬理の顎が、猛虎の顎と化した拳の一撃がクレイドール・クレイドルの機体を捉え、吹き飛ばす。
ぐしゃりと破砕音をまき散らしながら壁に叩きつけられたそれは、機械腕の一本を振り回すと、自身を包む瓦礫を破砕。
次なる異変は、宝玉に宿る色合いの変容であった。
「シンカ、コウシン、シンカ、ハッテン、シンカ――!」
「来るようやわぁ」
電子音と伴の台詞が重なる。
刹那、クレイドール・クレイドルの球根が開いた。
「これが、進化?!」
シルディの浮かべた驚愕は、当然であった。そして、その変貌そのものもまた、当然の様に思えた。
球根の中心に存在する人型の外観は、出現当初、確かに幼体であった。人間で言うならば十代に満たぬ子供、と言っても過言ではなかった。
だが。
「ア、アアアアアア」
悲鳴を奏で、ぶちぶちと音を立てるそれは、紛れもなく――。
「成長したのです!」
「なるほどな!」
ヒマラヤンとラルバの驚愕が重なった。
十代に満たない幼体は、その刹那、ハイティーンと思わしき外躯へと変貌を遂げていた。薄かった胸は柔らかく膨らみ、幼い体躯は縦横に伸びている。
「ア、アアアアアア」
そして唄う。
悲鳴混じりに奏でられた力場は身体を包みこみ、同時に活力をみなぎらせる。
だが。
「それまで、じゃよ」
ポトリと落ちたカプセルは、ウィゼが投擲した物であった。
瞬時に融解したそれから暗霧は、デウスエクスを侵すべく、拡がって行く。
「次の瞬間、お前はこれを振り払うじゃろう。だが……その暇は与えんのじゃ」
「冷式誘導機全機準備完了。さあ、突撃するのですよ!」
ウィゼの宣言に応えたのはヒマラヤンの詠唱だった。
召喚した無数の小型ミサイルは、主の命に従い着弾。その側からデウスエクスの機械の身体を凍結させて行く。同時に投擲されたヴィー・エフトの戦輪は主に付き従うよう、ガリガリと機械の身体を削って行く。
上がる悲鳴は壊れたスピーカーの如く、不快な物だった。
そして、竜の幻影が疾走る。
「宿る全ての力、ここに姿を現せ。仇なす物を打ち砕く、竜と狼の怒りとなれ!」
それは一陣の風と化したラルバの吶喊であった。
詠唱と共に喚び出した力を纏った少年は、裂帛の気合いと共に、己が手に抱く戦槌を叩きつける。
甲高い金属音は、竜の顎にも、狼の牙の様にも思えた。
「たとえ、何者であろうとも砕き潰すのみ……!」
それが、そのクレイドール・クレイドルの終焉だった。
成長仕切ったその身体を覆うそれは、無数の辺から成る水晶で、そして、それら全てを鷲掴みする腕を伴っていた。
「魔王掌! 晶滅!」
自身の召喚した水晶毎、空間そのものを握りつぶしたタクティは己の手に残る結晶の欠片をふぅっと吹き飛ばす。追従する様にさらさらと崩れて行く敵の中に、ころりと転がる輝きは、おそらく――。
「一体、撃破やね」
すかさず懐にコギトエルゴスムを回収した伴がにぃっと笑う。
残りは四体。
だが、ケルベロスたちの優位は、疑うべくも無かった。
金属同士が打ち合う音と破壊にまみれた爆砕音が響く。
機械腕の鶴嘴は地面を抉り、電光はケルベロスたちを、そして街を焦がす。
だが、それでも、それは末期の抵抗に過ぎなかった。
一体目を撃破した瞬間、勝負は決していた。そこからは掃討戦――いわゆる消化試合だったのだ。
(「クレイドール・クレイドルが雑魚っちゅーわけやないけどな」)
自身に強襲する一体を弾き飛ばした瀬理は、冷静に独り言ちる。
グランドロンのコギトエルゴスムを抱き、進化する攻性体。それがクレイドール・クレイドルと言うデウスエクスだ。クラッシャーの加護によって増幅された攻撃力は脅威の一言に尽きた。ケルベロスたちが判断を誤れば、全滅の危険性だって在ったはずだ。
――判断を誤れば、やけど。
此度、彼らの取った戦術がカチリと填まったと言うべきか。
群体である敵の連携を乱し、進化の制約を各個撃破によって打ち砕く。自己増殖を上回る速度で繰り出されるケルベロスたちの攻撃は、一体、また一体と侵略者を倒して行った。
残す敵は後二体。
否。
「グランドロンの皆を無事、助けるのじゃ!」
ウィゼの蹴打がクレイドール・クレイドルを穿つ。機械腕を盾にと構えたそれは、しかし、根元からへし折られ、瞬く間に本体を旋回した爪先で貫かれる結果となった。
残り、一体。
「シンカスル。シンカシ、我々ハ、定命化ニ抗――」
「そうしてグランドロンのコギトエルゴスムを使い潰すなんて、許される事ではないのですよ」
ヒマラヤンの言葉は怒りではなく、咎の響きを以て叩きつけられる。
共にクレイドール・クレイドルを捉える呪術は、石化の魔力であった。可憐な指先が紡ぐ光線はダモクレスの身体を貫き、ガキリとその動きを阻害する。
続くヴィー・エフトの爪は主人の一打に添える物であった。
「機械生命体やからなぁ。死っちゅう概念は判らんやもしれんけど、やっぱりそこは生き物と同じかえ?」
伴が繰り出す扇の一撃は、獣の気を纏って。
にんまり笑う彼の笑顔は、むしろ、獲物の最期を目撃する肉食獣のそれに近かった。
「――!」
それを恐慌と言うのだろうか。見開かれたクレイドール・クレイドルの双眸に映った色は、確かに目前に迫る何かへの怯えを色濃く反映し。
「誰かを傷つけてまで上に行く方法なんて、認められるかよ」
そんな淘汰は認められない。
己が心情を以て、ラルバは蹴り技を繰り出す。彼の気持ちを量るよう、その一撃一撃は重く、クレイドール・クレイドルの装甲をひしゃげさせて行く。
「キミらは倒さなきゃいけなかった。でも――今、抱く痛みは無為にしないよ」
それはシルディが唱える約束。地球に住まう皆も、ダモクレスを始めとしたデウスエクスたちも、誰もが心安らかに過ごせる世界が来れば良いと望む。――その未来が如何に困難な道程であろうとも、それを望む事をやめるつもりはない。
そして、五つの影が走る。
瀬理の殴打と、タクティの掌打、そしてミミックの咬撃はクレイドール・クレイドルの身体を圧壊して行き、そして。
「行くですよ。プライド・ワン。敵を打ち砕くです!」
真理の砲撃とライドキャリバーの轢撃が終局となった。
「シンカヲ……我ラハシンカヲ……」
「その未来は来ないのです。グランドロンのコギトエルゴスム、返して貰うですよ」
壊れた電子音を繰り返し、機能停止して行くクレイドール・クレイドルに、寂しげな呟きだけが残されていた。
●宝玉を我が手に
「グランドロンのコギトエルゴスム、無事回収なのじゃ」
ウィゼの喜色に富んだ声が響いていた。
彼女の目の前に拡げられたコギトエルゴスムは五個。自壊したクレイドール・クレイドルは存在しなかった為、当然の数でもあった。
「よし。後はヒールを施すだけだぜ」
ミミックと共に瓦礫を撤去しながら、タクティは豪快に笑う。自己回復しか持っていない為、事後処理のヒールそのものに貢献出来ないが、こうして他の方法でも助力となるのだから、問題ない。
「見回りも完了。被害者ゼロなんよ」
「こっちも確認終わりだ。問題ない」
戦場となった街を一通り見終わった瀬理とラルバの報告は、明るい物だった。犠牲者が出なかった事は僥倖以外の何物でもない。
「進化、ですか」
「面白い事考えますわなぁ」
ダモクレスたちの動きに思う事があるのか、真理と伴がぽつりと言葉を零す。
(「急激な進化に耐えられないのであれば、ゆっくりとしたそれならもしかして――」)
(「進化の果てが死――定命化なら、或は――」)
それ以上紡がないのは、やはり、それ以上を口にする意味はないと悟ったが故か。
「……何にせよ、誰も傷つかない世界を望むよ」
「ですね」
シルディの呟きに、応じたのはヒマラヤンだった。
次の瞬間、彼女の腹の虫がくーっと成ったのは、愛嬌と言うべきか。
「ともかく、その世界平和の為に、美味しいご飯を所望するですよ」
顔を朱に染めた彼女はてへっと笑う。
その笑顔は勝利を掴み取った証と言わんばかりの喜びに溢れていた。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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