●眠れる者を閉じ込めて
「日輪と月輪は進化する事はできなかったようですね。しかし、彼らの死は無駄ではありません。彼らの死は、試作進化型ダモクレスの礎となったのですから」
ジュモー・エレクトリシアンは手にするコギトエルゴスムを見つめ、ダモクレスに必要な要素を分析する。
挑戦の過程に失敗はつきもの……いや。
失敗あればこそ、推量と改良の余地を測れるのだ。
どこまでも冷静な彼女は新たな試作ダモクレスを見つめる。
「試作進化型ダモクレス『クレイドール・クレイドル』よ、ダモクレスの未来を照らすのです」
青銅色の躯体をジュモーは一撫でし、新たな生命を呼び起こす。
――これから数時間後だった。
揺籃のダモクレスが千葉県銚子市を蹂躙し、住民達を容赦なく貪り尽くしたのは。
「皆様のおかげで日輪と月輪に組み込まれていた、コギトエルゴスムの保護が進み、解析も順調に進んでおりますわ」
解析結果も出ているとオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)から聞き、安堵の空気が広がる。
「それで結果は?」
「どうやら『妖精グランドロン』という妖精8種族のひとつで、間違いなく宝瓶宮グランドロンと関係のある種族でしょう。いずれは元の姿に戻してさしあげることも可能かと」
「……で、話はそれだけじゃないよね」
一人のケルベロスの言葉にオリヴィアも神妙にうなずく。
「ダモクレスは、確保した他のグランドロンのコギトエルゴスムを利用し、次なる作戦を展開しようとしていますわよ。先の戦いから生み出された『クレイドール・クレイドル』は、不完全ながらも、コギトエルゴスムの力を引き出すことに成功した試作ダモクレス。状況によっては、非常に強大な戦闘力を発揮するようですわ」
そして、完全体となるには大量のグラビティ・チェインが必要だと。
「市街地を襲撃するダモクレスを撃破し、内蔵されたコギトエルゴスムの確保を……今回は一筋縄では行きませんわよ」
と前置きしてオリヴィアは詳細に移る。
襲撃場所は千葉県銚子市の駅前ターミナル。
「今回は待ち伏せなど事前準備よりも、現場での柔軟な対応が最重要と言えますわね。……その理由は『敵の特性』にあります」
理由を伝える前に、まず敵戦力について触れる。
「出現するクレイドルは5体。戦闘開始時は通常のダモクレスと同程度ですが、残り耐久力が半分以下になった1分後、その能力は大きく強化されますの……それは」
――それは、グランドロンの生命力を酷使している状態でもある。
「この強化状態になってから『4分後、急激に定命化して崩壊』してしまいますわ。定命化によって死亡した場合、グランドロンのコギトエルゴスムを得ることは出来ません……繋がりが強いせいでしょう」
これが一筋縄ではいかない理由だと、オリヴィアは眉根を寄せる。
「崩壊の前兆である『強化状態を解除することは出来ません』わ……幸い、クレイドルは撤退しません。強化状態に切り替わった時点で、すぐに撃破すれば、双方の接続をシャットアウトできるでしょう」
一呼吸置き、オリヴィアは攻撃方法について語る。
「クレイドルは揺り籠の結晶体からエネルギー光線や、エネルギー弾を広域に放つなど攻撃モードを切り替えつつ、前中衛を頭上から轢き潰してプレッシャーを与えてきますわよ。長期戦になるかもしれませんので、後衛の皆様も体力には気をつけてくださいますよう」
ダモクレス勢力にコギトエルゴスムを復活させる気配は感じられない……同族ですら、実験用の素体として見ている節すらある。
「グランドロンの皆様にとっても、望ましい状況ではないでしょう。救い出すことが出来れば対話する機会も有り得ます……情勢は厳しいものですが」
ここが踏ん張りどころ、今はひとつでも多くのコギトエルゴスムを助けだすときだ。
参加者 | |
---|---|
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
マリオン・オウィディウス(響拳・e15881) |
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308) |
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360) |
カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477) |
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820) |
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691) |
●微睡みの牢籠
ふわふわ。ゆらゆら。
樹枝の生えたような頭部。下体は揺籃と一繋ぎ。
クレイドール・クレイドルは、塗りつぶされた双眸の代わりに、赤い結晶体でギョロリと見渡す。
――その姿を捉える番犬は一直線に降下し、得物を引き抜く。
「んうー。やっつける、ぼくのしごと」
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)を中心に光輝が広がり、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)がライドキャリバーのプライド・ワンとともに降り立つ。
(「定命化後の自壊って、エレクトリシアンの想定内なのでしょうか……だとしたら」)
敵とはいえ同情を禁じ得ない真理だが、彼女の心情などお構いなしに、頭上から飛びかかった。
真理のいた場所には巨大なクレーターが残り、プライド・ワンの突撃に合わせ、カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)は超加速の鉄槌を下す。
「好き勝手に利用させてたまるかよ! 全員助けさせてもらうぜ!!」
振り下ろした大槌は籠に陥没を残し、強烈なスマッシュは機体の内部を露出させる。
「銚子市民のみなさーん。あとは私たちで相手するから、今のうちに避難しちゃってー!」
ぷらぷらと清弓を振りつつ、リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)が避難を呼びかける。
それを聞いた市民達は駅前から一目散に離れ、泥人形達はケルベロスに矛先を向けた。
バスターミナルごと破壊し始めるクレイドル達。
カーラを狙った一撃をファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)のボクスドラゴン・フレイヤが防ぐ。
「幻、道は作ってやる」
宣言通り、ファルゼンは九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)の射線を導き出し、地上に光る道を描く。
「ありがとうファルゼン。その花道、通らせてもらうよ――」
道に沿うようにして幻は疾駆する。――破損したクレイドルめがけ、抜刀。
「咲かせてあげよう、紅く染まった血の花を!」
愛刀に朱が滑り、雷光が迸る。
刺し穿つ雷撃は剥き出しの基盤……揺り籠の童女を瞬く間に半壊させていく。
「まずはあの機体から墜とすです!」
チェーンソーを鳴らす真理の一声で、膨らもうとする躯体に速攻をかけ。
中破したクレイドルは進化する間もなく、空所より黒煙を上げて墜落する。
行く手を阻むクレイドルの後方……ビームを乱射するクレイドル2機。
アスファルトを焼き焦がす熱光線から、ウイングキャットのシロハとともに、リリベルが鳳凰炎で後押しする。
その傍ら――マリオン・オウィディウス(響拳・e15881)が、両指にガチャリと装弾する。
弾詰めを済ます間際、ミミックの田吾作へ前線へ向かうよう指示をだし。
「――死神の鎌は刈るものではなく、貫くもののようです」
齧りついたサーヴァントごと、マリオンは弾幕を展開。
ホバリングを制限しようと、あえて威力を抑えた弾丸で主導権を引き寄せにかかる。
飛来するエネルギー弾を頭上にやり過ごすフレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)だが、その激情は全身から溢れていた。
「たった4分。強化のために、他の種族の命を使い捨てる……」
主に呼応するかのごとく、ボクスドラゴンのゴルトザインも翼を広げ、黄金のブレスを見舞う。
紅眼を刮目するフレイアは高らかに叫んだ。
「そんな所業を許しておけるか! 何としても、グランドロン達を救い出すぞ!」
吼え猛る叫びは、あらゆる苦行苦難を討ち破る為に。
燃え盛る憤怒は、ただ眠り続ける民草の為に。
フレイアの咆吼がさらなる攻勢をもって戦局を押し上げていく。
フロートのごとく地を滑る揺り籠は、射線を妨げようと右往左往に――光熱の弾幕を展開。
「決死の想いはこっちも同じなのです。負けないですよ……!」
白い肌を爛れながらも、真理は敵陣後方に照準合わせ。
狙撃する2機めがけ、ミサイルとレーザーで妨害を試みる。
射線上に飛び込む防衛のクレイドルは自らを盾に。
防壁となった一機に勇名の低空ミサイルが迫っていた。
「うごくなー、ずどーん。もひとつ、ずどどーん」
重ねて小型ミサイルを放つ勇名の足止めが稼いだ時間は、フレイアの振るうパイルバンカーが牙を剥くまでには充分なもので。
「受けるが良いッ!!」
装甲を引き剥がすように杭は隙間を広げていく。
バキバキと音を立てて剥離する装甲は地べたを跳ね転げ、けたたましい騒音が響いた。
フレイアごと焼き払うべく放たれたビーム乱射に、サーヴァントやディフェンダーが前のめりに飛び込む。
「どうした、そんなものか」
痺れが走る細腕に力を込め、ファルゼンは挑戦的な視線を返す。
燃え立つファルゼンの断撃は剥き出しの基盤に熱を走らせる。
過負荷によるオーバーヒートか、あるいは内側からの無言の抵抗か。
――火花を散らしながら、それの進化が始まった――。
清涼な風が戦場を抜けて麻痺を緩和させる中、集中攻撃を受けるクレイドルは頭部のみを極端に膨張させていく。
違和感しかない『進化』にリリベルはギョッと目を見開いた。
「うえぇぇ……! な、ななな、なにあれ!?」
「まさか、あれが進化した姿? 不完全、とは聞いてたけど……なんて」
なんて悪趣味な。あれを進化と呼ぶのか?
――あまりに醜悪、あまりに奇怪な変容に幻は眉を顰める。
コントロール不能な状態が続けば、内蔵されたコギトエルゴスムもただでは済むまい。
内部崩壊に巻き込まれる、という話も合点がいく。
「ヒェ……知らないうちに人生終了のお知らせとか……さすがにしんどすぎて草はえねーって」
風前の灯火にありながら、狂戦士じみた蛮勇ぶりはいっそ憐れなもの。
渋い顔をするリリエルは腕部に装着するキーボードを操作し、カーラに向けると、
「名人芸、やる気スイッチ秒間16連打!」
闘志を賦活する炎弾で闘争心をさらに燃やしていく。
炎熱は裂傷を溶接させ、身を焦がす暑気はカーラにとって心地よいくらいだ。
「待ってろグランドロン、いま助けるぜ!」
破壊衝動のままに暴れるクレイドルにはもはや、マリオンの光刃にすら怯む気配はない。
カーラはtypeHを砲撃モードにシフト。概念を付与した砲弾の必中を確信し。
「穿け、刻め――――!!」
轟音とともに繰り出された砲弾は想定通りに着弾。
構造崩壊の概念が形となり、無数の刃と棘が内側から傷つける。
不自然に痙攣した幼子は、重量の増した頭部を支えきれなくなったように仰向けに転倒……二度と起き上がることはなかった。
マリオンは戦場に視線を巡らす。
「きっと何者にもなれないあなた方に告ぐ――なんてセリフもありましたかね」
後方の2機への進撃を阻むは一機のみ。
真理の射撃から援護しようと駆けずり回った結果、多少の損耗が見られる。
(「道徳なきプロセスに疑問すら感じない……ダモクレスの機械種族たる部分を、嫌でも感じますね」)
いまは湧き上がる嫌悪を押し殺そう。
「残り3機。まず前衛から陥落しましょう」
マリオンの大斧が、田吾作の頭上ギリギリから一撃を落とす。
両断の一撃が引き金となり、最後の防衛クレイドルは結晶体を無作為に増やし始め――さながら百目の悪鬼か目目連を想わせる姿に変わり始める。
「貴様達の進化は生命への冒涜そのもの。他者を踏み台に成立させようなど、もっての外だ!!」
「自助努力あっての進化だよ、他人の力を利用する前提では理解しがたいだろうが」
怒れるフレイアの放った大鎌は空を切り、反撃を恐れぬ幻は果敢に懐へ肉薄する。
援護に回ったサーヴァント達は被弾の消耗が見え始め、シロハの羽ばたきに加えて勇名のオウガ粒子が意識領域の拡大と疲労感を和らげる。
「ここはバフ盛って安定? こいつで勝ち確っしょー!」
グロテスクな外観を直視しないようにしつつ、リリベルは気合いの発破でさらに強化。
リリベルの爆風は鼓舞すると同時に、痺れを取り除いて気勢をあげる。
エネルギー弾を斬り捨てる幻が大きく踏みこんで、懐へ――。
「簡単に進化できるほど生物は単純ではない、理解したか?」
もっとも、その学びが生かされることはないが。
……幻の剣筋がクレイドルの核部分ごと結晶体を斬り落とす。
ズル、と裂け目が生じて地べたに転がった瞬間、狙撃する童女らの盾がなくなった。
プライド・ワンとゴルトザインが突撃し、田吾作の金貨が戦場にばらまかれる。
シロハのカバーに回るようにして、フレイヤは自らの属性を注いで前線の治癒を担う。
「んぅ、ぎゅるぎゅるのぱーんち」
「一息に終わらせよう。街の景観もだいぶ損なわれてきたからな」
回転拳で真っ先に飛びかかった勇名に続き、ファルゼンの炎弾が小破する装甲を削るが、クレイドル達も黙って撃墜されるつもりはない。
数メートル跳ね上がったと思うと、アスファルトを容易く粉砕する殺人技を勇名に見舞い、真理がシールド状に発生させたプラズマで受け止める。
「っ、くぅ……ここから、全力です!」
ミシミシと全身が軋むのを感じながら、アームドフォートの砲口を押しつける。
ゼロ距離での砲撃にクレイドルが勢いよく打ち上げ……もう一機の童女が動く。
エネルギー弾で死角から狙おうと立ち回る気配に、ファルゼンが割り込みマリオンが牽制をかけた。
上空からの落着と同時に揺籃の外装が分厚くなり始め、幻とカーラが畳みかけて一気に押し潰す。
――リリベルの地道な支援が目に見えて猛威を振るっていた。
「ふふん、地道な積み重ねはレベリングの基本スキルなんだよねー! これこそニートの強み?才能? みたいな」
「あと一機……いや、最後の一人! ぜってぇ救いだす!!」
もはや阻むものなし。
膂力を数倍にも増強されたカーラは怪気炎をあげ、超速の大打撃で装甲をひしゃげさせ、一挙に攻撃の手が伸びていく。
――不完全な成果、進化の根底を理解できなくては太刀打ち出来ぬ。
それを証明するかのように、5体の青銅童女は崩壊前に倒れていった。
●未知なる生命
リリベルと真理、勇名が駅前の修復を済ませている間に、マリオン達は残骸からコギトエルゴスムを拾い上げた。
「もう、安心だ。私達は奴らのように、お前達を使い捨ての素材になんかしたりはしないからな」
砂埃を払いつつ救い上げた宝玉をフレイアは覗きこむ。
胎動する赤子のように無防備で、しかし無垢な魂が手の中にあることを強く感じさせた。
「グランドロン。どんな妖精、かなー?」
「へへ、仲良くなれたら嬉しいな!」
いまだ明かされぬ正体に勇名もカーラも疑問は尽きない様子。
「驚くことは多いだろうが、きっと大丈夫だ。私たちオウガだってこの星にいるのだから」
同じように永らく眠っていた幻も、目覚めたばかりの頃を思いだし、感慨深く何度も頷いた。
春の暖かな陽射しの中、グランドロンは今も夢を見続ける。
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年4月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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