ミッション破壊作戦~邪なる妖精

作者:洗井落雲

●剣はともに
「集まってくれて感謝する。今回は、『グラディウス』が再使用可能になったので、ミッション破壊作戦を行う事になった」
 と、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロスたちへ向けて、そう言った。
 『グラディウス』とは、長さ70cm程の、『光る小剣型の兵器』だ。だが、このグラディウスは、通常の武器として使用できるものではない。
 その真価は、『強襲型魔空回廊を破壊できる』という能力にある。この能力により、デウスエクスの地上侵攻が行われている地域、『ミッション地域』を解放できる。これが『ミッション破壊作戦』だ。
 ただし、一度使用したグラディウスは、そのエネルギーを空にしてしまう。エネルギー、つまりグラビティ・チェインを吸収し、再使用可能となるには、かなりの時間を要する。
 そのため、頻繁にミッション地域に攻撃を仕掛けることはできない。攻略を行うミッション地域の選択はケルベロス達へとゆだねられているので、現在の状況などを踏まえ、決める必要があるだろう。
 なお、今回の作戦で目標となるミッション地域は、『シャイターンが支配する地域』となっている。
「作戦の内容について説明しよう。皆はグラビティを極限まで高めてグラディウスを使用。ミッション地域の中枢にある『強襲型魔空回廊』、この周囲に存在するバリアに触れさせてくれればいい」
 まずは、グラディウスの使い方について説明しよう。グラディウスはアーサーの言う通り、バリアに接触させれば、降下を発揮する。ただし、グラビティを極限まで高め、そのうえでグラディウスを使う必要がある。
 グラビティを高める方法……それが、『魂の叫び』だ。
 ミッション地域を必ず解放するという意思。あるいは、敵デウスエクスを必ず倒すという意思。地元愛とか、願いとかそう言ったものでもいい。
 とにかく、心の奥底から湧き上がる魂の叫び、それこそが、グラビティを極限まで高めるカギとなるのだ。
 さて、アーサーの言葉通り、『強襲型魔空回廊』はミッション地域の中枢にある。グラディウスは敵にとっても重要度の高い兵器であるため、これを保持しつつミッション地域を突破し……という行程は、あまり現実的ではない。
 そこで、ミッション破壊作戦は、『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』となる。目標となる『強襲型魔空回廊を覆うバリア』は、半径30mほどのドーム型をしており、的は大きい。そのため高空からの降下作戦を行ったとしても、充分に攻撃が可能であるのだ。
 8人のケルベロスたちが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては、一撃で強襲型魔空回廊を破壊することもできるだろう。
 もし一回の作戦で破壊できなくても、与えたダメージは蓄積する。そのため、多くても10回程度、作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊することができる、と思われる。
 さて、作戦は、攻撃をして終わり……というわけではない。降下先は敵地。当然ながら、降下地点周囲には、強力な敵戦力が存在する。この敵戦力は、ケルベロスたちの降下攻撃そのものを防ぐことはできないが、降下後のケルベロス達を逃がすまいと、襲い掛かって来るだろう。
 だが、こちらにも対応策はある。グラディウスは、強襲型魔空回廊への攻撃の際に、雷光と爆炎を発生させるのだ。
 この雷光と爆炎は、グラディウスを所持しているもの以外に、無差別に襲い掛かる。いかに強力な護衛戦力と言えど、これを防ぐ手立ては存在しない。
 ケルベロスたちは、この雷光と爆炎、それによって発生するスモークを利用し、混乱する敵戦力から撤退する……というのが、作戦の流れだ。
 なお、グラディウスは貴重な兵器だ。敵に奪われる可能性もある。確実に持ち帰ってもらいたい……が、場合によっては、グラディウスを囮にして撤退する……そんな場面もあるかもしれない。
 現場での判断はケルベロスたちに任されているが、しかし最も貴重なのは、ケルベロスたちの命であることは忘れてはいけないだろう。
 さて、前述したとおり、大半の護衛戦力は、グラディウスの攻撃の余波によりある程度無力化できる。
 だが、中枢に控えるもっとも強力な敵との戦闘は、免れないだろう。
 幸い、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくることは無いため、素早く目の前の強敵を倒し、撤退できるよう、行動してほしい。
 もし、強敵との闘いに時間がかかりすぎて、こちらが脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか、あるいは暴走して撤退するかしか、残された手はなくなってしまうかもしれない。
 この、戦闘を免れない強敵は、攻撃するミッション地域ごとに異なる。作戦目標を選ぶ際に参考にするのもいいだろう。
「リスクは大きいが、リターンも大きい作戦だ。君たちなら、無事に作戦を完了させられると信じているよ。作戦の成功と、君たちの無事を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロスたちを送り出した。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)

■リプレイ

●突き崩せ、焔の悪夢
 香川県三豊市――。
 その上空を、一機のヘリオンが行く。
 目指すは、シャイターンたちが拠点とする、ミッション地域の上空。
 ここを根城とするシャイターンたちは、病院や学校、老人ホームと言った施設を火災にて襲い、無差別に勇者選定を行うという凶行に手を染めたのだ。
 決して、許せるものではあるまい。
 ――ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)。
 ミリムはヘリオンの中、静かに『グラディウス』を手回し、強く、握りしめた。
 思うは、敵について。
 敵は、子供や病人、老人と言った、抵抗することも難しい人々を標的にした。
 多くを苦しめ、殺した――自らの利益のために。
(「街を脅かし、罪の無い人々を焼き殺すシャイターンが許せません!」)
 胸中で、叫ぶ。グラディウスを握る手に、力を籠める。
 犠牲者の無念を、晴らさなければならない。
 これ以上の犠牲を、防がなければならない。
 そのための力は手の中に。
 そのための想いは胸の内に。
 ヘリオンが、目標地点へと到着した。
 想いを胸に、想いを言葉に、ケルベロス達は、次々と空へと降り立っていく。
 ミリムもまた、その身を空へと投げ出した。
 逆手に掲げるは、グラディウス。
「この地を今日限りで返せ! 此処から今すぐ立ち去れ!! そして犠牲になった人達に死んで詫びろおお!!」
 その叫びは確かな力となって、グラディウスを強く輝かせるのであった。
 ――ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)。
 ユグゴトは、総ての生命は己の仔である、と考える。
「泥の翼が燃え盛るとは、随分と綺麗な『もの』だが。果たして貴様等は人間の……弱者の棲家を奪いに奪った。此れが生存競争でも、貴様等は貪り過ぎなのだ」
 勇者を望む精神は立派である。ユグゴトはそう考える。
 されどシャイターンが欲したのは、快楽的な『強制』と『強要』である。ユグゴトはそう考える。
 故に――故に、ユグゴトは、こう考える。教養の無い餓鬼にはお仕置きが不可欠で在る、と。そして、それを為すべきなのは――。
「私は黒山羊として。貴様等の母親として『裁き』を下す。さあ。貴様等の罪を『かえす』時だ!」
 それを為すべきなのは、自分であるのだ――。
 グラディウスへと注がれるグラビティ。仕置きの時は、確実に、近づきつつある。
 ――岡崎・真幸(花想鳥・e30330)。
 真幸にとって、この土地とはどのようなものだったのだろう?
 この地は、四国という地は、真幸にとっては、故郷だ。
 故郷とは、自分のものだ。自分の今を構成するものだ。
 ある人を思い出す。
 子供のころ、独りでいた時に、食事をご馳走してくれた人。
 身支度を知らなかった時には、教えてくれた人。
 本気で自分を叱ってくれた人。
 手を引いて、遊びに連れ出してくれた人。
 そうしたものが、この地に在った。
「お前らが殺したのは……俺の『家族』だ」
 それは、自らの弱みを、さらけ出すような言葉であっただろうか。
 だが、この言葉こそが、自分の魂の叫びを、グラビティを限界まで高められる手段であるのだと、真幸は理解していた。
「俺のものに危害を加えるものは、何であろうと、どんな事情があろうとも……許さない……!」
 たいせつなものを守るために。想いはグラビティを極限まで高め、グラビティを限界まで輝かせる。
 ――シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)。
 シヴィルの想いはシンプルだ。
 その騎士道にかけて、非道なるシャイターンを、絶対に許すわけにはいかない。
 何故ならシヴィルは、太陽の騎士であるのだから。
 未だ未熟と自ら語れど、歩む道は決して逸れぬ。
 弱きを助け、強きを挫く。騎士たらんと進む道に、一片の迷いなし。
 だから太陽の騎士は、この地を解放するために、その力を、想いを、今、振るうのだ。
「これまで犠牲になった人々の仇を……取らせてもらう!」
 騎士の想いは力となって、破邪の力を、グラディウスへと注ぎ込むのだ。
 ――旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)。
 かつて自分は、火災によって死にかけた経験がある――と、嘉内は言う。
 だから、炎に襲われる恐怖を、苦しさを、理解できる、と。
(「あれから二ヶ月……この時をずっと待っていた!」)
 真っ黒な煙に巻かれ、呼吸も困難になることの恐怖を。
 燃え盛る炎に身を焼かれることの苦しみを。
 そして、そんな炎を弄び、人々を苦しめるものを――決して、許すことはできない。
 想いを胸に、そして言葉へと。力強く、叫べ。
 犠牲者の無念を晴らすために。これ以上の犠牲を出さないために。
「今回こそ……きっちりとこの回廊を破壊する!」
 想いは輝きとなって、グラディスへと、注がれる。
 ――エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)。
(「私もかつては選定を行う側だった。だから、私が最も赦せないのはお前達のやり方だ」)
 シャイターンの選定は、悪意に満ちている。
 発生する被害を顧みず、無差別に多くの人を巻き込み、その命を奪う。
 それは、ただの殺戮だ。
(「そんなものは……選定ではない! 定命化した今、選定は勿論させぬし、殺戮など論外なのだ!」)
 だから、止めなければならない。命を弄ぶ行為を、許してはならない。
「その暴虐、此処で断ち切ってみせる!」
 エメラルドは叫ぶ。その決意を力に変えて、グラディウスへと注ぐために。
 ――フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)。
 この地のシャイターンは、逃げ足の遅い子供やお年寄り、病人を狙って、事件を起こした。
 弱き者を狙い、そして日ごろ、彼らを手助けする人々を巻き込むように、事件を起こした。
 まさに外道のやること。考えれば考えるほど、虫唾がはしる。
「今度こそぶっ壊す!」
 フレデリは叫ぶ。怒りを言葉に。力に変えるために。
「お前らを、ゴミ焼却炉まで運ぶ手間も惜しい! ここで、くたばれーーーー!!!」
 その怒りは己のグラビティを高め、外道を討つ力を生み出す。
 グラディウスは想いを受けて、その力を解放するのだ。
 ――ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)。
 ノイアールは思う。この地のシャイターンたちの行いについて。
(「弱っている病人や老人、まだ未熟な子供たちみたいな逃げ切れない人々を狙うなんて……絶対に許せねえっす!」)
 選定をしている、とシャイターンたちは言うだろう。その過程で生じる被害など、シャイターンたちは気にも留めないだろう。
 まったくもって、許せない。選定などとうそぶくが、これは選ぶなどと言うものではない。ただただ無差別に命を弄び、その中から偶然を拾う作業。
「ただの暴虐めいた行動なんて絶対に止めてやるっすよ!」
 想いを言葉に変えて、叫ぶ。非道を止めるという決意を、力に変えるために。
「……いますぐ! 潔く! ぶっ壊れやがれ!」
 叫びを、想いを力に。グラビティを極限まで高め、グラディウスを、奴らへと叩きつけるのだ。

 八つの想い。八つの叫び。
 ケルベロス達は流れ星のごとく尾を引いて、邪なるものたちの潜む地へと、その刃を叩きつけた――。

●追撃のヘイヴンズ
 ケルベロスたちが地上へと降り立った時、グラディウスの攻撃の余波によるスモークが周囲の視界をふさぐ中、上空よりキラキラとした、雪のようなものが降り注いでいたことに気づいた。
 それは、破壊された『強襲型魔空回廊』のバリアのかけら。
 そう、攻撃は成功し、そして『強襲型魔空回廊』の破壊に、成功したのだ!
「や……った……!」
 フレデリが声をあげる。喜びと達成感が、ケルベロスたちの胸に浮かぶ。
「これで……この地は解放されるんっすね……!」
 ノイアールが喜びの笑顔を浮かべる。
 破壊確率は、決して高くはなかっただろう。だが、ケルベロスたちの想いが、この結果を掴んだのだ。
「……信じられない」
 ふと、ケルベロスたちとは違うものの声が、あたりに響いた。立ち込めるスモークを切り裂いて、飛来するのは――。
「ヘイヴンズ……!」
 エメラルドが声をあげる。そう、強襲型魔空回廊の破壊が成功したと言え、まだそこに潜むシャイターンは残っている。
「……ヴァルキュリアか」
 ヘイヴンズがそう言うのへ、エメラルドは声をあげた。
「お前達の主は、あの時から変わっていないのか?」
 ヘイヴンズは目を細め、答えない。
 ケルベロスたちは、しっかりとグラディウスをしまい込むと、ヘイヴンズへと対峙した。
「あなた達のせいで、この地の選定は失敗。また別の作戦を実行する必要がある」
「……『また』? 『べつの』? ずいぶんと甘ったるい認識だな。胸やけがする」
 ヘイヴンズの言葉に、真幸が声をあげた。
「次の機会など、お前にはない!」
 シヴィルが武器を手にし、叫ぶ。
「いとおしい仔に『存在否定』を。仕置きの時間で在るぞ、仔等よ」
 ユグゴトもまた、その武器を両手に携え、笑う。
「……成功体験に浮かれているようね。でも、あなた達のそれもここでお終い」
 ヘイヴンズが、タールの翼をひるがえす。途端、その周囲に炎が巻き起こり、確かな熱が、周囲の温度を跳ね上げた。
「ここで終わるのは貴様たちだ! やってきたことの報いを受けろ!」
 嘉内が叫び、それを合図にしたように、ケルベロスたちは一斉に武器を手に、戦闘態勢に入る。
「……来ます! あいつをやっつけて、作戦完全成功で帰りましょう!」
 ヘイヴンズの動きを察知したミリムが、注意と、激励の言葉をあげる。ヘイヴンズはそれをかき消してやるとばかりに、炎の一撃を撃ち放った。
「貴様の邪悪な炎など、太陽には、通じんッ!」
 その炎を先陣切って受け止めたのは、シヴィルだ。『騎士の威風』を身に纏う、その身を嘗め尽くす炎を見事に耐えて見せる。
「あなたの炎も! あなたも! 私のグラビティで叩き消してやります!!」
 ミリムが吠え、その拳を構えた。邪なる炎を吹き飛ばす、光輝のエネルギーの奔流! 輝く拳がヘイヴンズを捕らえ、吹き飛ばす!
「ああ、莫迦な、そしていとおしい仔よ。母の愛で在るぞ」
 それを待ち構えていたのは、ユグゴトだ。両手の獲物を振るい、ヘイヴンズの頭を捕らえ、強かに殴りつける。
「くっ……!」
 衝撃に表情をゆがめたヘイヴンズは、しかしそれでも跳躍して態勢を整える。
「調子に……」
 しかしヘイヴンズの怒りの声は、
「乗ったのは、お前だ」
 さらなる怒りを込められた声にかき消された。
 声をあげたのは、真幸である。その背後には、巨大なる異世の神、その一部が浮かんでいた。
「前にも食らわせたか? まぁ、どっちでもいい。次は無いだろうからな。ここで思う存分食らって逝け」
 主の言葉に、自らもまた力を添えんと、ボクスドラゴン『チビ』が吠えた。放たれるチビのブレス。そして、すさまじいまでの氷の暴風。それらはヘイヴンズへと襲い掛かり、その身を無尽に斬り付ける。
「く……うっ!」
 その攻撃に、ヘイヴンズは思わず怯んだ。ケルベロスたちの怒涛の攻勢が、ヘイヴンズを確実に、追い込んでいったのだ。
「効いてるっすね!」
 ヘイヴンズの様子に、ノイアールが喜ぶように声をあげる。
「畳みかけるぞ!」
 シヴィルが叫び、
「了解っすよ! ミミ蔵も、働くっすよ!」
 ノイアールも頷き、共に突撃。
「シャイターン相手にはシャイターンの技をお見舞いしてやろう!」
 シヴィルの『ザ・イフリート・アックス』に、炎が纏わる。宿敵の技をアレンジした、シヴィルの必殺の一撃。荒々しい炎の斬撃が、ヘイヴンズの炎を吹き飛ばしながら、ヘイヴンズの身体へと無数の傷を刻み込む。
「そこに追撃っす! ばっつーん!! ってハジけさせてやるっすよ!」
 と、身に纏う『紅碧の練魄』、そのオーラを放つノイアール。ヘイヴンズの身体、その傷口へと着弾したオーラは、即座に爆発することによって、その傷口をさらに深刻なものへとえぐり込む。衝撃にたたらを踏むヘイヴンズへ、ミミック『ミミ蔵』が隙をついてかぶりついた。不意打ちのような『いたずら』に成功したミミ蔵が、喜ぶように跳ね回る。
「よくも……あなた達……!」
「よくも、って言うのは、被害者たちがお前にぶつける言葉だ!」
 嘉内は叫び、装備していたすべてのミサイル、そのありったけを、
「貴様がこれまでやってきたことがどう言うことか、その身にしっかりと教えてやるぞ!」
 怒りと共に撃ち放つ。無数のミサイルがヘイヴンズへと殺到、ヘイヴンズは慌てて逃げようとするが、ミサイルはそれを許さない。ヘイヴンズを追跡し続けたミサイルは、やがてその身体を捕らえ、次々と着弾、爆発していく。
「逃がさない……ここで絶対に、仕留める!」
 続いたのは、フレデリだった。繰り出される刺突。シンプルだが、それ故に極めし一撃は深く、重い。
 刃を受け、そして引き抜かれたヘイヴンズが、思わず片膝をつく。ダメージは、大きい。そのヘイヴンズの前へと立ちはだかったのは、エメラルドだった。
「お前達の非道、一分一秒たりとも長引かせる訳には……いかない!」
 エメラルドが叫ぶ。ヘイヴンズは笑った。
「綺麗事よ……」
 ヘイヴンズは、ゆっくりと立ち上がる。
「一応、聞く。そのわずかな命、せめて私たちのために役立てる気は」
「無いッ!」
 エメラルドは答える。ヘイヴンズは頭を振った。
 両者がゆっくりと、構える。動いたのは同時――だが、先に届いたのは、エメラルドの刃だった。
 冥府深層の冷気を纏うとされる、手刀の一撃。氷結地獄の刃、『ジュデッカの槍』。その一撃が、ヘイヴンズの胸を貫き、身震いするほどの冷気が、その焔を吹き消した。
 ふっ、とヘイヴンズが息を吐く。そのまま、体の力を失う。
「先に地獄で、主の席を整えておくが良い――!」
 エメラルドがその手を抜き放てば、ヘイヴンズは、その身体を地へと横たえる。
 この地にて、多くの命をその炎に飲み込んだ悪意は、今この瞬間、潰えたのだ。
「終わった……っすね」
 ノイアールが感慨深げに、そう言った。
「お待たせ……しました。皆さんの無念は晴らしました。どうか、安らかにお眠り下さい」
 涙ぐみながらも、嘉内は、そう祈った。
「かくて仕置きは成った。眠るがいい、仔よ」
 ユグゴトが静かに、言った。
「感慨深かろうが、いつまでも長居をするわけにもいかんな」
 真幸の言葉に、フレデリが頷く。
「ああ、スモークも晴れかけている……脱出を急ごう」
「最後の詰めをしくじったら、笑いものになってしまうな」
 シヴィルが言って、
「無事に帰るまでが作戦ですからね! さぁ、いきましょう!」
 ミリムが続ける。その言葉にケルベロスたちは頷いて、脱出への道を走りはじめた。
「さらばだ……ヘイヴンズ」
 エメラルドの静かな呟きは、風に消え、流れていった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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