たけのこ荒らしのきのこっこ

作者:遠藤にんし


 ずん、と重い音を立てて、ソレは出現した。
 高さ7メートルの威容――円柱型のボディは黄色く、三角屋根のようなパーツは赤地に黄色の水玉模様。
 キノコだ。
 辺りの建物が破壊されるのもお構いなしに、キノコは市街を爆走。
 その先にあるのは――竹林。
 たけのこだ!


「春の旬は筍なんですけどォ???」
 どうなっているのかと混乱中の霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)。
「天ぷらに塩をつけて日本酒……天ぷらに塩をつけて日本酒……」
 きのこたけのこというワードから酒のことしか頭になくなってしまった高田・冴。
 ――ケルベロスたちが配布された資料に目を通せば、巨大ダモクレスが出現するという事件のようだ。
「ふぅ……すまない、落ち着いたよ。今回のダモクレスは、巨大なキノコ型をしている」
 キノコ型ダモクレスは市街を爆走、竹林めがけて移動中だ。
「放っておけばグラビティ・チェインを補給し、小型ダモクレスを作る工場と化してしまうだろう」
 巨大キノコの内側で量産される小型キノコというのも面白そうだが、面白がっていられる場合ではない。
「そのため撃破したいところだが、このダモクレスは戦闘開始から七分経つと魔空回廊を開いて撤退してしまう」
 七分以内に、この敵を倒さなくてはならないのだ。
 さらに、ダモクレスは一度『フルパワー攻撃』が出来る模様。
 これは強力な攻撃だが、同様にダモクレス自身もダメージを負う。
 ピンチとなるかチャンスとなるかは、ケルベロスたちの作戦次第だろう。
「竹林が破壊されてしまっては、美味しい筍料理は台無しだ。ぜひ守ってきてほしい!」
 戦いを終えたら、近所でたけのこ料理を食べるのも良いかもしれない――そう言って、冴は説明を締めくくった。


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)

■リプレイ


 巨大にして巨悪のきのこマシンを前にして、セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)は夜色の刃を手に取る。
 きのこもたけのこも、セルリアンからすればどちらも美味しいと感じられるもの。
 そうは言っても、今は春。ならば、筍を食べたくもなるとセルリアンは呟いて。
「はた迷惑なきのこは刈り取ってしまおうかね」
 言葉と共に地を蹴って、即座にきのこ型ダモクレスへと肉薄するセルリアン。
 刃の一閃は黒い軌跡となってダモクレスを引き裂く。鋼鉄から成るはずのダモクレスの体に一筋の亀裂が残され、しゅう、と毒煙が漏れ出る。
 溢れた煙と共に転がり落ちたのはちっちゃなキノコたち――赤地に白の水玉模様というベタな色合いのチビキノコたちは紫色の煙のようなものを纏い、見るからに毒がありそうだ。
「春だってのに、よくやるよ」
 うららかな天候には似つかわしくない毒毒しさに、思わず八崎・伶(放浪酒人・e06365)は苦笑を漏らす。
 伶の頭上を飛ぶのはドローンの群れ。薬液の癒しが伶たち前衛陣の護りとなる中、ボクスドラゴンの焔は炎を吹いてチビキノコたちを一掃する。
 伶の手の中でタイマーは針を進めて、戦いの時間を刻む。
 きのこマシンはケルベロスたちの攻撃を疎ましく払いのけながら進軍。目指す先が竹林であることに変わりはないようで、その事実に渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は目を伏せる。
「キノコとタケノコ、やはり血で血を洗う戦争は避けられないのか……」
 たとえキノコにとってタケノコが憎むべき存在だとしても。
 それがダモクレスであるならば、止めなくてはならない。
 数汰の視線はダモクレスへ。
 狙いを定めて跳躍すれば、数汰の背中でM・P・Cマントが風を孕んで膨らんだ。
 風の中で数汰の脚を包む星の煌めきがある。煌めきを叩きつけるように足の裏全体でダモクレスを叩くと、確かな硬さが数汰を押し返す。
「意外と強い!」
 敵の姿も在り方もふざけて見えるが、それでも敵はデウスエクス。
 何らかの執念すら感じられるほどの屈強さ、キノコ型だというのに攻性植物が一切関係のない謎っぷり……一筋縄ではいかない敵だと、数汰は改めて気を引き締める。
 霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は改めるまでもなく気を引き締めて殺気満々。
 圧倒的タケノコ派である裁一は頭のサバト頭巾をわざわざタケノコカラーに染めるほどの気合の入りよう。日サバ刀の斬撃には、微塵の容赦も見当たらない。
「雌雄を決するまでもなく筍が勝ってるのは有名な話。このダモクレスもまた往生際の悪い茸一派の刺客ですか!」
 リア充も茸も裁一にとっては同じくらい許せない存在――ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)の青い瞳もまた、私怨を込めて爛々と輝いている。
「この闘いでは犬の餌に出来なかったがこの闘いでドサクサに……」
 しかし、ソロの場合は怨恨の眼差しの先には裁一はいる。
 少し前に闘技場の決勝戦でやられたことを忘れはしないソロ。あの時の意趣返しにフロストレーザーでもぶっぱしたい気持ちはあるものの、目の前のダモクレスも捨て置くことはできない。
「しょうが無いから協力するわ!」
 ソロの電子頭脳はそのように答えを弾き出し、ザムザグリードはダモクレスへと向ける。
 一息に発射――地面や建物が衝撃に揺らぐのと同時に、ウイングキャットのカイロは翼を打って宙を舞い、上からの風でケルベロスたちの髪を優しく撫でる。
 カイロの、日輪を思わせる尾のリングは陽光を受けて煌めいている。倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)はその様子につと目を細め、爆破スイッチ『Cynical bomb』で地上からも癒しを送り出す。
 カラフルさのために改良を重ねてきただけあって、生まれた煙は戦いのさなかにあっても目を奪われるほどのもの。
「キノコは滅ぼさねばならないと聞きました」
 そのためには協力を惜しまないと決意を固くする柚子を取り囲むかのように、カラフルな爆煙が大きく膨らんだ。


 猛攻を仕掛けるケルベロスたちが気にするのは、残り時間とフルパワー攻撃のこと。
 残り時間までは折り返し地点。ケルベロスたちを意に介さず進軍しようとするダモクレスの動きを阻むように焔はタックルを敢行。それでもなお竹林へ向かおうとするダモクレスの姿に、伶は何かの記憶を刺激される。
「このキノコが筍に攻め入る構図はどっかで聞いたような気がするンだが」
 あとちょっとのところまで出かかるが、深く考えたら負けという気持ちもまたある。
 既視感があることだろうとないことだろうと構わない、五分目のタイマーの鳴り響く中、バトルオーラ『群雲』を弾丸に変えて。
「俺は筍たちの里を護る、それが仕事だからな……!」
 弾丸がきのこマシンの表面を歪ませて、接合部に緩みが出来て内側の構造部が覗く。そこへ更なる追撃を仕掛けようとした時、伶はダモクレスから不穏な気配が漂っていることに気付く。
「――っ!」
 焔を伴って前へ飛び出した瞬間、激しい衝撃が伶の全身を襲う。
「これが、フルパワー攻撃……というものなのですね」
 後方から様子を伺っている柚子にも、その苛烈さは見ているだけで分かるもの。
「大丈夫か? 動けるか?」
 もうもうと舞う土煙の中で視認は困難な中、ソロの声に反応してシルエットだけは見える伶がうなずくのが分かった。
 衝撃が収まるより早くカイロは翼を打ち、柚子はサキュバスの霧を濃縮した恋愛色塗料ですぐさま回復を施す。
「これが私の万能薬です」
 ダモクレスの体力は順調に削っているとはいえ、撃破まであと少しの時間は要する。残り僅かのところで倒れる仲間がいないようにと、柚子の癒しは受けたダメージを相殺していく。
 ケルベロスたちを追い込もうとするダモクレスの意図が数汰には感じられるが、それはダモクレスもまた追い詰められているからだということも分かっている。
 動くたびに機体に負荷をかける氷のほかにも、ダモクレスを取り巻くバッドステータスは山のよう。軋むダモクレスを前にして、数汰は限界までグラビティを圧縮。
「刹那は久遠となり、零は那由他となる」
 呟く数汰の横、裁一は全身に嫉妬の力を滾らせている。
「ええい、茸自体がでかくなるとは。某配管工ならいざ知れず!」
「悠久の因果は狂い汝の刻は奪われる」
 グラビティをダモクレスに注ぎ込むのと同時に、ダモクレスが異音を発する。
「リア充……茸……! 許せない、許せません!」
 急速に悪化していく症状がダモクレスの動きを止めた瞬間、裁一は瞬時に距離を詰める。
「爆発しろ! 特にリア充!!」
 カッ! と光が満ちた瞬間、激烈な爆発音が響き渡った。
 自爆攻撃の直後、ソロは生成した蒼白の蝶をダモクレスへと差し向ける。
 伶の攻撃によってダモクレスの機体には隙間が出来ていた――その隙間へと這入り込んだ蝶が招き入れた呪いは、加速度的にダモクレスの体力を奪っていく。
「たけのこの里は私が守護る! きのこなんかに屈したりしない!」
 そんなソロの決意を受け取ったかのように、蝶たちは妖しくはためいた。
 全力攻撃により疲弊したところへ畳みかけるようなケルベロスたちの攻撃。異常を示すかのように怪音を上げ続けるダモクレスを前にしても、セルリアンには油断も躊躇もない。
「今ならやりたい放題だと思うんだ」
 フルパワー攻撃は終わって、あれさえ凌ぐことが出来たのだから後は問題ないはずだと感じるセルリアン。
 戦いは間もなく終わる――美味しく筍を食べるためにも、セルリアンはダモクレスの意識から己を外すように静かに迫る。
「――これから先に、キミは必要ない」
 果たして、双鎌に刈り取られたことにダモクレスは気付くことが出来ただろうか。
 きのこ姿の巨体は消滅し、目前にまで迫っていた竹林は風に凪いで穏やかだった。


「春になりますし、タケノコは旬ですね」
 炊き込みご飯や筍の刺身を前に、柚子は嬉しそうに顔をほころばせる。
 外での食事ということもあって今日は香辛料は自粛。
 しかし滋味あふれる優しい味わいと確かな歯ざわりは、それだけで十分なほどのご馳走と柚子には思えた。
 ソロはたけのこご飯に箸をつけながらも、次に何を食べるか悩み中。
 そんなソロの横で伶は天ぷらに塩をつけて日本酒の猪口を傾ける――ヘリオライダーがここにいたら血涙を流して羨みそうな光景である。
「塩振っただけのも旨かったけど、これは格別だな」
 シャク、と衣が崩れる軽い音と共に感じられるのは塩気。油の香りは良い意味で後を引くもので、ソロはたけのこご飯を食べつつもそわそわと気になっている様子だ。
「天ぷらも美味しそうだな……春巻きもいいな……」
 日本酒はセルリアンの手元にも。
 天ぷら、焼き筍、若竹煮に土佐煮。きんぴらや炊き込みご飯もあれば味噌汁も……日本酒の肴としては上等なほどの品揃えに満足げな表情を浮かべつつ、セルリアンは呟く。
「筍人気に嫉妬したきのこの理不尽な破壊活動かー」
 きのこも好きなセルリアンとしては、ダモクレスの凶行とはいえどこか残念な気持ちになる今回の事件。
 しかしそんな気持ちも吹き飛ぶほどに、戦いの後の一杯は心地よいものだった。
「第三勢力のすぎのこまで乱入してくるとか無くてよかったぜ」
 目の前で爆ぜるタケノコステーキを一口、数汰はそんな風に安堵する。
 結局きのこマシンが何のために製造されたのか、というところは分からずじまいだが、どんなものであれデウスエクスの目論見を阻止することが出来たのだという達成感が数汰の胸にはあった。
 和のテイストで食卓をまとめ上げた裁一は、筍の丸焼きを前にしてご満悦。
 食後のデザートにはタケノコ型のチョコレート菓子でも買っておきたいと思いながら箸を入れると、ふわりと浮かぶ湯気すら美味しい。
「娘たちにもお土産の筍用意せねば」
 和やかに、勝ち取ったタケノコの時間は過ぎていく。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月2日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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