卒業祝いに血の薔薇を

作者:伊吹武流

●祝福の歌は絶望の歌へと転じ
 柔らかな日差しの中、ほんの少しだけ春の暖かみを帯びた風が、校舎と校庭に流れていく。
 ここは、名古屋市某所にある、とある私立高校。
 その体育館には、多くの学生と教師、そしてその家族達が着席し、この地を巣立つ者達の到来を待ちわびていた。
「卒業生――入場!」
 館内に響くアナウンスの声と、次いで流れる厳かな音楽……次いで開かれた正面扉より、制服に身を包んだ男女が列を組んで入場してくる。
 やや緊張した者、笑顔で愛想を振りまく者、そして既に瞳を潤ませ、目を腫らせる者。
 彼ら揃って、新たな門出の日を迎えようとしていた。

 ……しかし、運命と言うものは、時に非情である。
 卒業証書の授与、在校生達からの送辞が厳かに進み、壇上に立った卒業生の一人が答辞の言葉を紡ぎ出そうとした瞬間。
 突如、響いた轟音と共に、体育館の壁の一部が吹き飛び、続けて館内に驚きの声と悲鳴が響き渡る。
 そして、大きく穿たれた壁の穴から……真紅の甲冑を纏った巨躯の女性が現れたのだ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……ヒャハハッッ! 嬉しいねぇ……こんなに獲物が集まってるじゃないか!!」
 そう告げた甲冑姿の女性……エインヘリアルは、恍惚めいた笑みをを浮かべながら、その身に佩いていた二振りの湾刀をすらりの抜き放つや、眼前に広がる制服姿の群れへと飛び込むや否や、流れる様な動きで刃を振るう。
 次の瞬間、辺り一面には阿鼻叫喚の悲鳴に彩られた真紅の薔薇が次々と咲き始める。
「ヒャハハハッッ! さあ、もっと苦痛の声を……もっと絶望の声を! お前達の嘆きの調べを、この私、『血薔薇のラウラ』に奏でておくれよ!」
 パニック状態に陥り、我先にと体育館から逃げ出そうとする者達へと、ラウラと名乗ったエインヘリアルはまるで旋舞を踊っているかの様な動きで刃を振るいながら、悦びの声を上げる。
 そして、その忌まわしくも美しき彼女の舞踏は……この日、祝福の地となる場所の全てが、鮮血の色に染まるまで続いた。

●卒業式を守り抜け!
「卒業式、っすか……いやあ、もうそんな季節になったんすねぇ」
 青く広がる空を見上げながら、そんな言葉を黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はしみじみと発してみせる。
「……でも、そんな卒業式を、とあるエインヘリアルが滅茶苦茶にしようとしてるっすよ」
 ダンテは、集まったケルベロス達の前でそう切り出すと、事件についての詳細を語り始めた。
「どうやら、このエインヘリアルは、過去にアスガルドですっげぇ重罪を犯した凶悪犯罪者らしくって、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるだけじゃなく、人々に恐怖と憎悪をもたらす事で、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせてしまう可能性もあるっす……だから、ケルベロスの皆さんには、急ぎこの高校に向かって頂いて、このエインヘリアルの撃破して欲しいなー、って思う訳っすよ」
 そう告げたダンテは手にしたファイルに目を通しながら、ケルベロス達へと更なる情報を伝えていく。
「えーっとっすね……自身を『血薔薇のラウラ』と名乗るこのエインヘリアルは、卒業式が行われている真っ只中、会場である体育館の西側の壁を破壊して侵入して来るっす……ちなみに彼女は意外と用心深くって、体育館に近付くまでは周囲を警戒してるので、体育館の周囲で下手に待ち伏せするのは避けた方がいいっすね……その代わり、壁を破壊した直後、目の前の獲物を見付けた興奮から、周囲への警戒がおろそかになるので、そこを狙うのが一番いいと思うっす」
 つまり、敵が壁を破壊した瞬間、ヘリオンから降下して急襲する事も出来るし、事前に学校に赴いて体育館の中で敵を待ち構える事も出来る。
 前者であれば、敵の眼前への降下によって、敵が体育館内に侵入する事を阻む事が出来るだろう。
 後者の場合、体育館内に集う人々の避難誘導に数名の人員を割く必要が生まれるものの、不意打ちによって敵の先手を抑え、戦いをより有利に進められる。
 どちらを選ぶかは、ケルベロス達の自由だ。
「そして、皆さんが戦う事になるエインヘリアルは、一体のみ……なので、彼女は配下も連れていないっす。でも、使い捨ての戦力として送り込まれているせいもあって、たとえ戦闘で不利な状況になっても彼女は撤退しないっす。ただし、その死をも恐れず繰り出してくる双刀の威力は、すっげー強力っすから、絶対に注意が必要っすよ」
 そう話し終えると、ダンテはファイルを閉じ、集まったケルベロス達へと向き合うと。
「アスガルドで凶悪犯罪を起こしていた……なんて危険なエインヘリアルを、野放しにするわけにはいかないっす……そして何より、そんな奴に晴れやかな卒業式を滅茶苦茶にされる訳にもいかないっす! だから、ケルベロスのみなさん、必ずこのエインヘリアを撃破してくださいっす!」
 その告げたダンテは、ケルベロス達へ頭を下げ終えると、自身のヘリオンの下へと導くのであった。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)

■リプレイ


 うららかな春の日差しの下、生きるもの全てに希望と期待を与えんと一斉に咲き出す季節の中。
 音を立てる事も無く滞空する一機のヘリオンから、幾人の支援が地上を見下ろしていた。
 その眼下に見えるとある高校の一角では……いま正に、卒業式を執り行っていた。
「高校の卒業式、か。私がこのくらいの時は、ひたすら修行と戦いに明け暮れていたな……」
 フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)の口から、ほんの少しだけ羨まし気な呟きが漏れる。
 15歳の誕生日に起きた悲劇によって味わう事が出来なかったハイスクールでの生活は、彼女にとっては決して得る事の出来なかった宝物の様にも感じられる。
 だからこそ、この祝いの日を破壊しようとするデウスエクスを許す訳にはいかない。
 そんなフレイアの心の内を知ってか知らずか。
「……しかし、まあ、こんな人生の門出の日にに何て事しやがるんだ……ったく、こんな巫山戯た奴、許すわけにはいかねえなあ!」
「ええ、祝いの日に血の薔薇なんで……ナンセンスだと思うわ。絶対に、そんなことさせないわよ」
 愛用するリボルバー銃の照門を調整しているランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)の声に、自身も降下の準備を始めていた城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)が、互いに不敵な笑みと、冷たき微笑を崩さぬまま言葉を交わし合えば。
「うんうん、せっかくの門出を邪魔するなんて、不粋なお姉さんですっよね……卒業生や生徒達のトラウマにならないように、さっさとぶっ飛ばさないとね」
 喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)も二人に同意しながら大きく頷き返してみせる。
「ああ、確か『血薔薇のラウラ』とっか言う名だったな」
「そういえば。敵の名前って妙に可愛いけど……実際は、きっとムキムキマッチョさんなんですよね」
「どうだろうな……まあ、それは兎も角、折角の門出を血で染めようする輩だ。きっちりと倒してやろうぜ」
 ランドルフと波琉那のやり取りを見、過去への想いから戻ったフレイアがそう口を開いた瞬間。
 彼らの決意に応えるかの様に、ヘリオンのドアが音も立てずに大きく開かれる。
 と同時にケルベロス達は眼下の地表へと視線を向け、そこにいるであろう敵の姿を探す。
「……来たわね」
 愛用の髪飾りが機内を吹き抜ける風に飛ばされていない事を確認しつつも、いち早く敵を発見した橙乃が、その姿を指差すと、残る3人も視線をそちらへと向ける。
 そんなケルベロス達の存在に気付かぬまま、紅き甲冑に身を包んだ巨躯の女騎士は両の腰から二振りの湾刀を抜くと、体育館の壁面へ向けて構えを取る。
 次の瞬間。
「構えた! 今だよっ!」
「おう、先にいくぜ!」
 波琉那が素早く作戦開始を告げるや、ランドルフが橙色のマフラーを風に靡かせながら眼下で立ち昇る土煙の中へと飛び込むと、続く様にフレイアと彼女のサーヴァントである小さな金竜のゴルトザイン、そして橙乃が機外から飛び出していく。
 そして波琉那も手にした長槍の重みを確かめ直すと。
「よーし、あたしも!」
 負けられないぞ、と言わんばかりの勢いで、彼女も宙へと身を躍らせていった。


 突如巻き起こされた土煙が、徐々に晴れていく中で。
「……何者だい、アンタら?」
 これから始まる鮮血の宴を前に心躍らせていたラウラは、不意に眼前へと現れた4人の姿を訝しげに見やる。
 最初に視界に入った者は、長槍を構え、褐色の肌を露に見せた赤毛の娘。
 次に捉えた者のは、橙色のマフラーを春風に靡かせながら不敵に笑う、銀狼の貌持つ男。
 三人目は、静かな微笑を絶やさぬまま、その体格に不釣り合いな程の大きな鎌を軽々を構えた白き髪の女性。
 そして最後に、光の剣を構えた銀髪の竜人の纏った黒き外套を目にすると。
「ああ、わかった……アンタらがケルベロス、って奴かい……で、私を倒しに来た、と?」
 眼前に現れた者達が何者かを悟ったラウラは、にやりと妖しげな笑みを浮かべてみせた。
「ええ、抵抗できない一般の子よりは私達ケルベロスの方が潰し応えがあって自慢の得物も気持ち良いんじゃないかな……なんて言っても、筋肉だらけのお姉さんの脳みそじゃわからないか」
「……言ってくれるじゃないか、小娘の分際で」
 そんなラウラjへと、波琉那は挑発の言葉を放ってみせる……が、ラウラはやや機嫌を損ねたような素振りを見せるものの、怒りを露にはしない。
「皆さん、ここは私たちに任せて、今のうちに避難を」
 そんなやり取りの中、橙乃は体育館に集った者達へと手早く避難を促すと、自身の初撃の為、敵との間合いを探り始める。
 その様子を確認した、フレイアとランドルフも、対峙したラウラへ向けて口を開く。
「その真紅の甲冑、そして殺戮を好むからこそ『血薔薇』か……では、その薔薇の血でその甲冑を染めてやろう!」
「散り際を弁えねえ薔薇には、痛い目見て貰うとするか……覚悟しやがれ!」
「ヒャ……ヒャハハハハ! いい度胸だよ! だったら精々抗ってみせるがいいさ!」
 人々を護らんとする故、仇討ちを成さんとする故、英雄の娘に相応しくあらんとする故。様々な理由とともに幾多の死闘を戦い抜いてきたフレイアの在り様が、負けられないと言う魂の叫びが、味方を勇気づけて奮起させる。
 次いで放たれた二人の挑発的な言葉に、ラウラは哄笑を返す……そして、それは戦いの合図となるには十分なものだった。
「さあ、この血薔薇のラウラ様の為に、真っ赤な花を咲かせておくれ!」
 ラウラの構えた湾刀より星座のオーラを解き放つと、それは薔薇の吹雪へと変じて、前衛に立つ波琉那とフレイア、ゴルトザインへと襲い掛かる。
「くっ! この程度の攻撃で……私は、私達は――倒れる訳にはいかないんだ!」
 凍て付く闘気を全身に浴び、その予想を超えた苦痛に耐えながら、フレイアは不退転の決意を口にする。
 屈するな、人々を護れ、とばかりに発せられた彼女の熱い叫びは、共に前衛に立つ者達の心を勇気付け、奮起させる。
「やるじゃないの、脳筋お姉さん! 今度はこっちの番だよっ!」
「じゃあ、俺からもテメエに流星の一撃をプレゼントしてやるぜ!」
 波琉那はラウラへと構えた長槍から稲妻を帯びた超高速の突きを繰り出すと、そこへ続け様にランドルフの放った流星の煌きを宿した飛び蹴りが炸裂する。
「へえ、やるじゃな……ぐっ!?」
 二人の放った攻撃を受けつつも、続くゴルトザインの体当たりを躱してみせたラウラの軽口を、弧を描く様にして飛来した大鎌の斬撃が止めてみせる。そしてその鎌は再び弧を描くと、その所持者たる橙乃の手へと舞い戻った。
「背中の守りが、お留守の様ですわね」
「……舐めた真似を!」
 橙乃の言葉に触発され、流石にラウラも怒りの表情を露にする。
 そしてその怒りは、この戦いをより激しいものへと変じさせるのであった。


 小さな戦場で、刃が閃き、拳が唸り、雷音と銃声が轟き渡る。
 それぞれの攻撃はより激しさを増し、互いの敵の生命を共に削り合っていく。
「ヒャハハ! いい抗いっぷりだねぇ……さあ、私の旋舞をとくと味わうといいさ!」
 橙乃の雷撃と鋼の鬼と化した波琉那の一撃を浴びたラウラは強敵の存在を愉しむかの様に笑うと、舞踏家のの様な仕草で二振りの湾刀を構え……そのまま軽やかなステップを踏みながら前衛達へと襲い掛かる。
「なっ……!」
「きゃあっ!」
 その華麗なる斬撃の数々は、フレイアとゴルドザイン、そして波琉那へ次々と斬り付けていく。
「そうらっ! まだまだいくよ!!」
 優雅で、だがそれ以上に激しくもあるステップを踏みながら、ラウラはその湾刀を閃かせる。
 その姿は、さながら花々に囲まれて舞い踊る巫女の様でもあった。
「くそっ! 斬られた所から力が……抜けていく……っ!!」
 斬り付けられた箇所からまるでその名の通りに血の薔薇が咲き誇る。
 すると、その薔薇の花弁から紅のオーラへと変じ、ラウラの力の糧となっていく。
 対して、傷口から力を奪われたケルベロス達の意識が遠くなるも、今はまだその時ではない、と気力を振り絞り何とか踏み止まってみせる。
「今はまだ倒れる時じゃない、そうでしょ?」
「ああ、戦いはこれからだ」
「ならやるべき事はひとつ……目の前の敵を倒す!」
 その言葉と共に、波琉那が全身の装甲から光り輝くオウガ粒子を放出すると、仲間の超感覚がより研ぎ澄まされていく。
 それと同時に、ランドルフが自身の感覚をさらに研ぎ澄まさんと、その力を増幅する。
 そこへ、ゴルトザインの放った金色のブレスのに援護されつつ、フレイアが超硬化させた己の拳を超高速で突き入れる。
「敵は攻撃しながら回復出来る……ならば、その攻撃を封じるのが上策かしら」
 消耗戦では分が悪いと踏んだ橙乃は、手にした避雷針を掲げ雷を集め、敵へと一気に迸らせる。
「小賢しい真似を……だけどこの程度じゃ、このラウラ様の旋舞は止められないよ!」
 ケルベロス達の攻撃に苛立ちつつも、さしたるダメージではないとばかりに、ラウラは湾刀に守護星座の重力を宿らせ、斬撃を放った。
「いい加減、抗い過ぎなんだよ!」
 そして、その重き一撃は全ての守護を打ち砕き、ゴルトザインを地へと叩き落とした。
「……よくも、やってくれたな!」
 その様を見たフレイアの怒りの声を発する。対するラウラといえば。
「キャンキャン煩いねぇ……だったら、もっと啼かせてあげるよ!」
 そう言うと、フレイアの怒りを嘲笑うかのように、再び鮮血の剣舞を披露すべく二刀を構え直した。


 戦闘はより熾烈さを増していく。
 その巨躯にして軽々と舞い踊りながら、ラウラは刃を閃かせ、更なる血の華を咲かせんとする。
 対するケルベロス達も持てる力を全て注ぎ込んだ攻撃を繰り出し、眼前の敵を討たんとする。
 ……それでも、窮地は尚、彼等の前に再び現れる。

「身体が……動かない……ぐはあっ!」
 金縛り状態になったラウラの体内へと、ランドルフの掌から破壊の螺旋を流れ込む。
 立て続けに波琉那とフレイアの拳を叩き付けられ、更に橙乃の投擲した大鎌に斬り付けられたラウラは怒りの声を上げる。
 そして、その怒りは一時的にであれ、彼女を施された拘束の呪縛から解放し、自由となった彼女は怒りに満ち溢れた瞳でその元凶たる者を探す。
「そうか、やっぱりお前が……いちばん鬱陶しい奴はッッ!」
 そして、それが橙乃であると見破ったラウラは、一気に間合いを詰めるやその手に構えた二刀に星座の超重力を籠めるや、渾身の力で十字の斬撃を放つ。
 その威力は……間違いなく、橙乃の意識を闇の底へと叩き落とすであろう。
 そして、それは正に致命的と呼ぶに相応しい威力に思われた。
「……っ!!」
 その攻撃を避けられぬと悟った橙乃は覚悟を決め、来たるべき激痛に耐えるべく思わず目を閉じかける……が、次の瞬間、一つの影が彼女の前に飛び込んで来た。
 その影の正体は……誰あろう、フレイアその人であった。
 彼女は橙乃の前に飛び込むと、身を盾にしてラウラの刃を受け止めると、がくりと膝を落とす。
「フレイアさん……! なんで、そんな事を……」
「もう少し、だ……だから、あとは……任せた、ぞ……」
 その身を護られ、思わぬ言葉を発する橙乃へと、フレイアは残る気力を振り絞って鼓舞の言葉を伝える……そのままスローモーションの様な動きで倒れ込んでいく。
 そして、地に横たわった静かに目を閉じると、呟きにも似た問いを漏らす。
「私は……英雄の娘足りえただろうか、か……」
 その問いの答えは……きっと、意識を失いつつも浮かべた、その満足げな微笑みの中にあるのだろう。

 最後の護り手を失い、残されたケルベロス達にはより確実に体力を削られていく。
 しかし、退けぬ理由がある限り、彼らは諦める無く己の武器を振るい、眼前の敵へと叩き込んでいく。
 対するラウラも、時にその動きを封じられ、生命力を啜る事すら容易ではない。
 そして、互いに何度目か攻撃を交わした時だった。
「……ウ、ウラアアァァァッッ!!」、
 己を縛る呪縛から一時的に解き放たれたラウラが、獣の如き咆哮を響かせるや手にした二振りの刀身に重力を宿らせると、波琉那へ向けて超重力の十字斬りを叩き込んだ。
「が、はぁ……!」
「ヒャハハハ! これであと2匹……」
 その一撃を受け、波琉那の長槍がその手から滑り落ちる。その様子を見たラウラは哄笑を放つ……が、それは一瞬で驚きの表情へと変わる。
「な、何故だ……何故、倒れないのさ!?」
「……」
 そこには……致命的な一撃を与えても尚、立ち続けっる波琉那の姿があったからだ。
 そして波琉那は、己が肉体すら凌駕した魂が命じるまま、ラウラとの間合いへと踏み込んでいく。
「……この一撃、で……決める……っ!」
「……此処で終わらせてみせるわ」
 波琉那の振るった刃が緩やかな弧を描くと同時に、橙乃が再び生み出した氷の水仙が、共にラウラを斬り裂き、その動きを完膚無きまでに封じていく。
 そして。
「テメエに此の世からの卒業証書をくれてやるよ!」
 ランドルフは己の気を練り合わせた特殊弾を生成すると、愛銃のシリンダーに装填し、その銃口をラウラへと向ける。
「……喰らって、爆ぜろ!!」
 そして、撃ち出された弾丸はラウラを貫く……が、すんでの所で振るった彼女の刃にその軌道をずらされた為か致命傷には至らない。
「この程度じゃ……私は、まだ……!」
「……だろうな。だからもう一度……喰らって、爆ぜろ!!」
 ランドルフの銃のシリンダーが回転する……次の瞬間、普段では装填される事の無い2発目の特殊弾が轟音と共に撃ち出される。
 次の瞬間、その胸を大きく穿たれたラウラは、大輪の血薔薇をその身に咲かせながら地へと崩れ落ち……そのまま動かなくなった。

 戦いが終わって。
「壁のヒールは完了したから、あとは生徒さん達を呼び戻すだけだね」
「ええ。では一緒に参りましょうか」、
 壁の修復を完了した波琉那と橙乃が、避難した者達のいる校舎の一つへと歩き出していく中。
「……どうやら、勝利できた様だな」
 意識を取り戻したフレイアが安堵の言葉を漏らしつつ身を起こし、倒れたラウラの姿を探す。
 そして、彼女がその視線の先に見たものは、今や半分以上が光の粒子へと変じ、空へと消えゆくラウラの姿であった。
「……薔薇の名らしく。散り際だけは綺麗じゃないか」
 その光景を眺めていたランドルフは、小さくそう呟くと目を細め、空を見上げる。
 それから暫くして、再び卒業式の再開された体育館に、去り行く母校の歌を唱う生徒達の声が響き始める頃。、
 新たな未来への道へと進み始める少年少女達へと、幸あれと願いつつ、ケルベロス達はその場をから去っていくのであった。

作者:伊吹武流 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月2日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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