白銀虎

作者:ふじもりみきや

 やけに湿気った、蒸し暑い日のことであった。雨が降る直前のようなむっとした、息が詰まるようなその空気。
 某所、街灯と信号機の人工的な光が静かに交差点を照らしていた。人はおろか車通りも殆ど無い十字路であった。……人の声も、獣の足音もないはずのその世界に、
 ふわりと、あるはずのない物が浮かび上がった。
 ふわ、ふわと浮遊するそれは魚のような形をしていた。であれば浮遊するというよりは空を泳いでいると言えばいいのであろうか。
 魚の体長は2メートルほど。数は3。当然ながら通常の魚ではない。青白く発光しており、泳ぎ回る軌跡が不思議と線を引くようにして空中に何か、魔法陣のようなものを浮かび上がらせた。
 ……と、陣が完成すると同時に、新たな生物が姿を現した。それは一匹の白い虎であった。虎は一つ、咆吼を上げる。静まりかえった交差点に、あるはずのない音を響かせて、
 そして怪魚を従え大地を蹴った。目的はただ一つ。……この息の詰まるような夜の中、眠る人間達を貪り喰らうためであった。

「群馬県伊勢崎市中心部で、死神の活動が確認されました」
 ヘリオライダー、セリカ・リュミエールは開口一番にそう言った。
「死神といっても、かなり下級の死神で、浮遊する魚のような姿をした、知性を持たないタイプです。……この魚の形をした死神は、死神の世界デスバレスから過去に死んだ『ウェアライダー』を、変異強化した上でサルベージし、人間を襲撃させようとしているようです」
 彼女は続けて言う。死神の目的は不明だが、このまま放置すれば変異強化されたウェアライダーと怪魚型の死神によって人々は蹂躙されてしまうことだろう。
「それを防ぐために、死神の出現ポイントに急いで向かって欲しいのです」
 事件が発生する前に避難勧告を出してしまうと、それを察知した死神はその場には現れず別の場所で儀式を行ってしまう。
 そのため避難勧告などは、変異強化されたウェアライダーが出現してからしか行う事ができない。
 戦闘現場付近には住民が近づかないように警察などが動いてくれる筈だが、できるだけ敵が市街地に入り込まないように気をつけてほしい。
 尚、事件が発生するのはとある街の交差点で、人通りは殆ど無いということも彼女は付け足した。無いと言っても何が起きるかは解らないのだから、周囲には気を配っていて欲しいとも伝えた。
 また、変異強化された虎のウェアライダーの全長は3メートルほど。ウェアライダーが使用するグラビティを使用し、
 知性を失って完全な獣型と化していること、
 そして魚の死神は『噛み付く』事で攻撃してくることを簡潔にセリカは説明した。
 話を聞いて、セルベリア・ブランシュは小さく頷く。そしてゆっくりと口を開いた。
「……このまま奴らを放って置いたら、罪のない人々がまた犠牲になるのだな。……それを、許すことは出来ない。だから私も共に行く。一緒に、頑張ろう」
 セルベリアの言葉に、セリカも頷く。そして、気をつけて行ってきてください、と言葉を添えるのであった。


参加者
アイン・テクストラ(レプリカントの鎧装騎兵・e00042)
支倉・瑠楓(虹色シンフォニカ・e00123)
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
アルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)
月枷・澄佳(天舞月華・e01311)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
シヲン・コナー(清月蓮・e02018)
千装・静(狂気に落ちる銀烈華・e02461)

■リプレイ


 深夜、道と道の交わる交錯点。
 其処に、あるはずのない物が浮かんでいた。
 青白く発光する魚。そして月の光を落としたような銀色の虎。
 虎はその寝静まった夜という常識を破るに相応しい、空気を裂かんとするかのような咆吼を上げよう……として、
 更に強い音がその声をかき消した。精神を研ぎ澄まし、放った銃撃はただ一度。しかしその一撃は確実に、白銀の虎の眉間を打ち抜いた。
「さぁて、始めるか。《蠍》には毒がつきものさ!」
 アルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)はそう言った。何処か面倒臭そうな口調であったが、その手は古めかしい拳銃を構えたまま視線は虎から外さない。アルトゥーロの放った毒の弾丸『Picadura de Escorpion』は確かにその効果を発揮しているであろうがだからといってそれだけで倒れる敵では勿論ない。彼自身がそれをよく知っている。
 眉間を撃ち抜かれた虎はゆっくりと顔を上げる。同様にして千装・静(狂気に落ちる銀烈華・e02461)もまたゆっくりと顔を上げた。静の尾は不機嫌そうに揺れて、唸るように前方の虎を見る。何だって自分と同じホワイトタイガーなのだと毒づくのは口の中だ。だというのに皮肉にも両者は次の瞬間、同じように口を開き、
「テメェにゃ直接的な恨みはねぇんだが……、死神は嫌いなんだよ」
 彼は人後を話し、虎は人語を解さない変わりに一声、声にならぬ声音で吼えた。
「――、――!」
「だから……死神に操られてるテメェもうぜぇってことだ!」
 咆吼を静の叫びが遮る。虎の声をかき消すような咆吼は魔力を帯びて虎の足を止めようとした。しかし虎は構わず地を蹴る。猛然と自分に攻撃を加える敵に突進しその腕で重い一撃を放とうとし、
「ひゃ……っ」
 声を上げたのは和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)だった。暮れの色を写した様な瞳が心配そうに揺れている。けれども傷を追ったのは彼女ではない。静の間に割り込んだ西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)は引き裂かれて血で染まった己の腕を見つめ、それから紫睡の顔を見てゆっくりと微笑んだ。
「大丈夫です」
 儚げな微笑み。そして霧華はゆっくりと眼鏡を外す。その瞬間霧華の顔から全ての表情が消え失せた。
「この程度……痛みですらありません」
 納刀していた斬霊刀の柄に、血塗れの手を置いた。そう思った瞬間、桜吹雪のような幻惑と共に虎を切り伏せていた。共に並んでいた一体の魚もそれに巻き込まれる。
「……」
 先程の穏やかな表情とは裏腹に、無表情のまま霧華は敵を見つめた。血は流れぬ、痛みに揺らぐことすらしない、その姿を。
「死者の蘇生……ですか。それが叶うなら……。……いえ」
 止そう、今は。霧華がそう言って顔を上げたとき、セルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)が殺界形成を使用した。万が一にでも人が迷い込んでくるのを避けようとしたのだ。
「静ー。避難誘導しておくから撃破はよろしくー」
 同様に手伝いに来ていたサンダルが声をかける。野木や相上達も手伝って、警察達が防ぎきれない一般人の対処に当たる予定だ。
「はい、私も避難、手伝います……!」
「どれ、近くで動けずにいる者がいないか、確認してこよう」
 クロユリが頷いて走っていく。玄蔵も頷いてそれぞれ適所へと向かっていった。少し離れた場所で殺界形成を使用する者もいるし、ここは彼等に任せて大丈夫だろう。
「あ、あの、怪我が……」
「大丈夫だ、シスイ。キリカの傷は見た目ほど深くない」
 心配そうに霧華を見つめる紫睡に、シヲン・コナー(清月蓮・e02018)が淡々とそう断じた。暖かみのある紫睡とは裏腹に、シヲンは仕事の延長のように淡々と周囲を見回す。
「足止めを試みる」
 杖を翳すと雷光が現れて、虎を撃った。その成果を確認することもせずにシヲンはボクスドラゴンに指示を送る。竜、と淡々と呼ぶ彼であったが一方で、
「フェリア、お願いね!」
 支倉・瑠楓(虹色シンフォニカ・e00123)のボクスドラゴンが走った。二体の竜達はお揃いのように共に駆けて突撃していく。
「あ」
「え?」
 シヲンの言葉に瑠楓は振り返る。聞かれてしまったらしい。気負い無くまるで町中で歌を唄っている続きのように力強い楽曲で魚たちを圧倒させて押さえつけていこうとする彼に、シヲンは今更無視をするわけにも行かずに、
「そういえば僕のドラゴンには名前がなかったな……と」
「ああ、じゃあ、つけたら教えてね? あ、紫睡、落ち着いて落ち着いてー。大丈夫!」
 『つけてなかったからつけなくては』という風に誤解したのか、あっけらかんと言う瑠楓は、次いで紫睡に声をかける。
「ん、敵への妨害はお任せください! えっと、流石に誤射とかはしません! あ、違う、その前に……!」
 励まされて紫睡はすぅっと、深呼吸。
「我が身に宿る十二輝石、アメジスト輝石の力よ、その身を伝う聖なる雫で満たして癒しと守りの力を与えん。 アメジスティア!」
 紫水晶で作り出した幻の泉を周囲に作り上げる。その幻想的な姿で正面を切って戦う仲間達に、守りの加護を与えていった。
「ありがとうございます。後ろのことは可能な限り、お任せします」
 月枷・澄佳(天舞月華・e01311)もそう言って、とんと軽く地を蹴った。軽い雰囲気であったがその速度は一瞬だ。素早い動きで虎の懐まで潜り込むと、強烈な勢いでその胸の当たりを蹴りつける。
 ぐぅ、と虎が鳴いた気がした。澄佳は瞬きを一つ。
「大きな虎ですね。これが市街地で暴れる事があれば、被害も大きくなってしまいますね。何としても、ここで倒して置かないとです」
 当たり前の感想かもしれなかったが、長い間人里から隔絶した環境で生きてきた彼女にとっては本当に心からの、しみじみとした感想であったのだ。
「ははっ。確かに、違いないねぇ」
 アルトゥーロが追撃するように弾丸を撃ち込む。跳ね返った弾丸は虎の背にぶち当たった。
 邪魔するな、とでも言うように魚たちが一斉に泳ぐ。此方は声を発しはしないがただ淡々とその鋭い牙を剥いて噛みついた。
「く……っ!」
 霧華はとっさに手を伸ばす。一匹目はその身で受けた。声を上げたのはもう一匹が庇いきれなかったのだ。
「ちぃ……! いや、気にするな!」
 静が怒りの滲む目でその腕を振り払う。シヲンのボクスドラゴンが残り一匹の攻撃を受けて小さく声を漏らした。しかしシヲンは全く気にせぬ風である。アイン・テクストラ(レプリカントの鎧装騎兵・e00042)目にも止まらぬ早さで魚たちへと制圧射撃を行って足止めを試みた。
「さーて本気出す時はいつ? 今でしょ!」
 もう少し後方で巌がニートヴォルケイノで後方の魚へと同じように追撃を行う。その言いように同じ手伝いの相方が頭を抱えたちょっと呆れた顔をしたのは秘密だ。攻撃に魚たちはその身を微かにくゆらせる。
「全く……このいい天気に死神とは無粋ですね」
 このむせるような日をキールがそう表現し、ペトリフィケイションを続けて放ち、魚たちを着実に傷つけていった。


「よ、避けても無駄ですよ! ……あ、当たった!」
 赤い鉱石を握りしめ、吐き出された紫睡の竜の炎は魚たちを舐めるようにして焼き付き爆発する。攻撃に加え毒と炎が合わさって、徐々に虎は体力を減らしていく。
「あ、でも、やっぱりたまたま……」
「もうっ。それは紫睡の力だよ。大丈夫だって」
 励ますように瑠楓は微笑む。戦闘中でも会話を忘れない彼はしかし、ちらりと敵の様子を伺った。虎と魚。そして魚二体が同じ場所にいる。
「だったら……こっちかな?」
 片翼のアルカディアを魚二体の方へ。気負うことなく的確に敵の行動を留めてくる瑠楓を澄佳は肩越しにちらりと盗み見る。
「……」
 口には出さない。ただ無言で彼女はカードを翻した。暴走ロボットのエネルギー体は彼女の真正面に現れ、そしてぶつかって弾ける。
 おぉぉぉぉ、と、虎が吠えた気がした。澄佳は即座に一歩後退する。頬を掠める拳に彼女は眼を細めた。
「え? 何かこっち見た?」
 視線に気付いて瑠楓が声をかけるも澄佳はそれどころではないと退いては避け、退いてはよけと順繰りにその拳を避けていく。その代わりにアルトゥーロが、
「いいや、わかるぜ。さっきはお前『デウスエクスがこんなに一気に……。不安だよ……』なんて言ってた割に、随分人が変わるんだな……って」
 言うや否や、アルトゥーロが虎の背後に回り込んでいた。瑠楓は照れたように頬を掻いた。
「あー。演奏してると、段々元気出てくるんだー」
「あぁ、いいねぇ若いってのは!」
 再びアルトゥーロは虎へと銃口を向ける。そんなに年取ってるわけじゃないのに、と澄佳は無表情ながらも僅かに首を傾げた。
「……成る程、これが都会のおつきあいというわけですね」
「そう……でしょう、か……?」
 得心がいったような澄佳の顔に、霧華がその時ばかりは曖昧に言葉を濁した。
「回復がちと厄介なんでな。悪く思うな。ゾンビは頭を潰せばいいってよく聞くが、こいつもそうなのかね?」
 そんなやりとりを知っては知らずか、アルトゥーロの二丁の拳銃が火を噴く。至近距離から、後頭部に向けて再び銃声を響かせた。頭に二度目の攻撃を受けて虎は蹌踉めく。しかし頭に穴を開けたまま、それはぶんと首を振った。
「いや……頭が潰れても動きそうだな、お前。……悪い、仕留め損なったぜ」
「構わない。任せろ! こいつらは全部殺す……。もう二度と、絶対に白い虎なんて呼ぶ気にもなれねぇくらい、殺して、挽きつぶして、粉々にしてやる!」
 静が獣のように吼えた。その吠え声は何か複雑な色を持っているような気がして霧華は目を伏せる。
「……静さん、援護をします。止めを」
 そのまますらりと霧華は刀を抜き放ち、目にも止まらぬ早業で刃を虎のみに叩き込んだ。逃れようとするかのように、虎は身をかわそうとする。……その隙を静は逃さず、
「あぁ、八つ裂きにしてやるぜぇ!」
 接近した。虎が防ごうとして腕を振るわせる桃は八尾添い。静は霊力を帯びた己の獲物で、虎を躊躇うことなく切り裂いた。
 おぉ、と虎は鳴いた気がした。
 しかしそれも一度だけ。崩れ落ちるようにしてそれは消えていく。
「残りは魚か。油断は出来ないな。……回復する。まだいけるな?」
 しかしそれには何の感情も見せずに、シヲンは気力を送って霧華の傷を癒していく。それを助けるように、顔見知りが援護をくれるけれども彼は微かに視線をやっただけであった。
「ありがとう御座います。ええ、まだまだ耐えてみせます」
 霧華も即座に反応して走った。魚が噛みついてくる、その攻撃を仲間達のかわりに受け止める。紫睡が後方にいる魚に駆け寄ると、足止めするかのように跳び蹴りを炸裂させた。
「だ、大丈夫です、今、楽にしてあげます……!」
「え、それはちょっと……」
 瑠楓が迷いで心を蝕むような曲を奏でながらも丁寧にそうつっこんだ。その攻撃を受けて虎と共に並んでいた魚も、砕けるようにして消え失せる。
 即座にセルベリアがミサイルポッドから焼夷弾をばら撒く。燃え上がる魚たちに追撃するかのように、アインが銃弾を放った。
 傷を受けながらも後方の魚たちが牙を剥く。二体はふよふよと泳いで澄佳とシヲンの竜に噛みついた。
「……」
 澄佳は僅かに眼を細め、平気。とでも言うように脚を上げた。お返しとでも言うように、全力で降魔の一撃を持って叩きつけると、ぐしゃりと骨が歪むような音がする。その重い一撃で、魚も粉々に砕け散った。
「……っし、後一匹だな。……そろそろうぜぇ。ご退場いただこうか!」
 静が咆吼を上げる。すぅっと動き出そうとした魚を抑えるように、
「抜けさせるわけがねぇだろうがっ! お前の死に場所はここだ!」
 咆吼に魔力が籠もった。それに最後の魚が揺れる。しかしアルトゥーロがそれ以上の動きを許さず、
「さて、致死の毒だ。貰ってくれるな?」
 必殺の銃撃、蠍の毒でその魚を撃ち抜いた。


 魚たちは粉々に砕け、虎は地に伏す。しかしそれも一瞬のことで、彼等の死体はゆっくりと消えていった。
 後にはただ、信号が点滅するのみである。むせるようなその気温を肌で感じて、彼等はその勝利を確信した。
「や……ったぁ! フェリアもよく頑張ったね!」
 静寂を破ったのは瑠楓であった。いぇーい。とフェリアの尻尾とハイタッチ。後にぎゅーである。
「……」
 成る程そういう風にする人もいるのか、とシヲンは己の竜を淡々と見つめる。竜はくるりと回って不思議そうに主を見た。尚、この新たに得た知識を活用する気は全くないようであった。
「やれやれ、目的は何だったんだろうな。死神っていうのは、死者を冥府へ連れて行くのがお役目じゃなかったのか? 呼び起こされた側も困るだろうに」
「確かに、くそ死神は何がしてぇのかね? 死体漁りとかあいつらの思考はホント理解できねぇな」
 まあ、殺し直したけどな、とアルトゥーロは肩を竦める。散り際は派手で良かったな。等とは口の中。静も同意して肩を竦めた。その瞳からは既に狂気の炎は身を潜めていた。
 そしてアインはやることはもう何もないとでも言うように、そっとその場を立ち去った。
「けれども、無事に倒せて良かったです。やはりここは人多き里。被害がなかっただけよかったと」
 とんとんと澄佳は靴の爪先で地面を蹴って、それで一つ頷いた。漸く戦いが終わった気がしたのだ。……沢山の人に囲まれて、沢山の人を守っていく。それが、彼女のこれからの役割なのかと、漠然と感じた……ような、そうでなかったような。そんな顔で。
「ふー。それでは、民間の方や警察の方に、終わったことをご報告したいですね。……あっ」
 言うなり、紫睡はその場に座り込んだ。何だか気が抜けたら力が抜けたのだ。頼りなさそうな目で、紫睡は微笑む。
「あぁ、いえ、ちょっと緊張してました。はい」
「そうね。お疲れ様でした」
 霧華が眼鏡をかけ直して、紫睡に手を貸す。
「あぁ……。本当にみんな無事で良かった」
 セルベリアがしみじみと言ったので、霧華は微笑んだ。
「私が立っている限り……。皆さんに傷は追わせませんよ。そのつもりでした」
 なんて何でもないことのように霧華は言って顔を上げ、信号機の下に花を供えた。供えた花ざくろの花言葉は『安息』。安らかに眠ってくださいと口の中で呟いて。
 死者の魂が利用されたこと、それ自体は忌むべき事であっただろう。だからこそ、
「お休みなさい。ゆっくり眠れて良かったね」
 瑠楓がそう呟いた。それは少しだけ歓迎すべき事だった。

 蒸し暑い夜の中、ゆっくりと風は流れ、何処かへと消えていった……。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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