機械とオーク

作者:神無月シュン

「話によるとこの辺のはずだけど」
 任務を終え、空腹を満たそうと噂に聞いた屋台を探し、一人夜の街を歩く瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)。
 路地へと入ってすぐ、違和感を感じ辺りを見渡す。
 周囲から人の気配が一つも感じられない。周囲の建物、道の先どこからも……。
「どうしたんでしょうか。……っ!?」
 突如前方から光を浴び、燐太郎は怯む。光の先から足音が聞こえてくる。重量のある足音になにやら機械の駆動音も混じっている。
「あのシルエットは……オーク?」
「ケルベロス ミツケタ」
 大きな体躯に無数の触手。紛れもなくオークだ。しかしその体にはいたるところに機械が埋め込まれていた。
「出会った以上見逃すわけにはいかないですね」
 燐太郎は臨戦態勢に入るとすぐさま攻撃に移ろうとする。
「なんだ……力が上手く……」
 力が入らない事に困惑する燐太郎。その様子を眺めニタニタと笑みを浮かべていた、オーク『ネクサス・トーキオー』はやがて拳を振り上げた。
「ケルベロス コロス!」

「燐太郎さんが宿敵の襲撃を受けることが予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊急招集に応じたケルベロス達へと説明を始める。
「急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡がつかない状態です。燐太郎さんが無事なうちになんとか救援をお願いします」

「敵はこちらの戦力を削ることに長けているようです」
 現場は夜の路地だが、敵の人払いによって周囲に人影はないようで、避難を行う必要はない。

「燐太郎さんが心配です。準備が出来次第、至急現場に向かってください」
 よろしくお願いします。とセリカは頭を下げた。


参加者
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)
 

■リプレイ

●襲撃者は機械か? オークか?
 日が落ちてまだ間もない路地、外灯に照らされ、瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)は一人、異形と相対していた。
 一目見てそれが、オークだという事はわかる。わかるが……身体中に埋め込まれている機械が、このオークが異常であると語っている。
「何だァ、てめェ。メシ時だってのに……!!」
 楽しみにしていた夕飯を邪魔され、燐太郎は腹立たし気にオーク――『ネクサス・トーキオー』を睨みつけた。
「ケルベロス コロス グヒヒヒ」
 自我はなく、ただケルベロスを殺すという本能で動いているのだろう。燐太郎の言葉も届いている様子はない。
「大丈夫か!?」
 最早、問答無用と、戦闘を開始しようとしたその瞬間、フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)とボクスドラゴンのゴルトザインが、燐太郎とネクサス・トーキオーの間に割って入る。
 少し遅れて残りの3人も到着する。
「どうやら、間に合ったようだな」
「緊急だったので、人数が少なくて申し訳ないですけど」
 フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)とジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)の2人は燐太郎が無事なのを確認して、ほっとする。
「普通のオークでも気持ち悪いのに……うわぁ、なんか機械っぽい!」
 対してチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)はネクサス・トーキオーの方へ視線を向けていた。
「むしろ機械のおかげで普段よりかっこよくないか?」
「えー……そうかな?」
 フレデリの楽観的な意見にチェリーは首を傾げた。チェリーは目を閉じてネクサス・トーキオーと普通のオークを思い浮かべてみる。そして考える事しばし……、
「どっちにしても、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪いっ!」
 受け入れることは到底できなかった……。
「何と言うか、サイバーな感じのオークだな……オークの屍体か何かをダモクレスに利用されているのか?」
「言葉が通じない以上、確認のしようがないです」
 フレイアの疑問に燐太郎は首を横に振り、先ほどのやり取りを説明した。
「ま、自分で取り込んだにしろ、誰かに埋め込まれたにしろ、敵には変わらないんだ。さっさと倒すぞ! ほっといたら犠牲者が出てしまう」
 フレデリは我先にと武器を構える。
「ソウダ ケルベロス コイ コロシテヤル」
 戦闘の気配を感じ、ネクサス・トーキオーが嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「こいつを野放しにはできない。皆、力を貸してくれ!」
『おう!』
 戦闘へと気持ちを切り替えた燐太郎の言葉に、一同は頷き武器を構えた。

●能力低下に長けた敵
 戦闘が始まると同時、無数のドローンを操り、前列に配置していくジュスティシア。重い一撃はなさそうだが、護りは固めておきたい。
 チェリーは跳び上がると、大きなロップイヤーを揺らしながら、ネクサス・トーキオー目掛けて蹴りを入れる。普段とは違い硬い金属を蹴り飛ばした感覚が足から伝わってきた。
 蹴りを浴びても怯むことなく、ケルベロス達を見据えネクサス・トーキオーが微笑む。そして放たれた光線は前列のメンバーを飲み込む。
「とりあえず、夕飯を邪魔された恨み、受けて貰おうか」
 燐太郎が放つ達人の一撃が蛍光グリーンの軌跡を伴い、ネクサス・トーキオーの胴へ。
「対策は早めにだな」
 前列の仲間の目の前に、雷の壁を構築するフレデリ。
「こんなところで、私は、私達は――負けるわけにはいかんのだ!」
 フレイアの負けられないと言う魂の叫びが、仲間に勇気を与える。
「お次はこっちの護り」
 ジュスティシアは更にドローンを用意し、フレデリの前へと展開していく。
「これはどうかな? 憑霊弧月!」
 チェリーは喰霊刀『妖刀:桜花一門・影打』を構え、無数の霊体を憑依させる。準備が整うと同時、一気に距離を詰め――ネクサス・トーキオーへと斬撃を放った。
 憑依させた零体によって斬撃跡から汚染されていくネクサス・トーキオー。反撃に伸ばされた触手がチェリーの離脱より先にその腹部を貫いた。
「が……ああっ!?」
 触手を振るうとチェリーの身体は宙へと投げ出されて、地面へと叩きつけられる。
「チェリー! 無事か!?」
 燐太郎が駆け寄るとすぐに治療を始める。傷口が塞がっていくにつれてチェリーの顔から苦痛の色が消えていく。
「癒しと護りを」
 フレデリは燐太郎とチェリーの元へ雷の壁を展開。
 治療が続いている間フレイアはドラゴニックハンマーを砲撃形態へ。
「いくぞゴルトザイン。合わせろよ?」
 フレイアの掛け声にひと鳴きすると、ゴルトザインはネクサス・トーキオー目掛けて飛び出す。それを確認したフレイアは竜砲弾を放った。
 フレイアの放った弾がゴルトザインを横から追い越し、ネクサス・トーキオーへと着弾。衝撃に怯んだ所へとゴルトザインが体当たりで追いうちをかけた。

 ネクサス・トーキオーの能力低下を伴う攻撃によって、予想以上のダメージを受けたり、攻撃時に力を出せなかったりと、戦いが長引くほどにケルベロス達を苦しめる。そして何より、その姿を眺め微笑むネクサス・トーキオーがケルベロス達を苛立たせる。
「当たれ」
 ジュスティシアがバスターライフル『J&W2000 対物狙撃銃』を構え、光線を発射。
「チッ! いちいち笑いやがって目障りなんだよっ!」
 どうやらこちらが素なのだろう。あまりの苛立ちに取り繕う事を忘れてチェリーは『妖刀:桜花一門・影打』を振るう。
「クルシメ……モット モット」
 ケルベロス達の苛立ちや焦りを感じ、嬉しそうにネクサス・トーキオーは更に光線を浴びせる。
「ほんと厄介な相手だぜ」
「聖王女よ、彼の者に加護を!」
 燐太郎とフレデリがフレイアを治療する。その間にフレイアは瞳を閉じて、集中する。しばらくすると、フレイアの全身には禍々しい呪紋が浮かび上がった。
 いくら威力が落ちようと、ダメージは蓄積し、やがて限界は訪れる。ケルベロス達はネクサス・トーキオーへトドメを刺さんと一斉に攻撃に転じた。ついでに、今までの苛立ち全てをぶつけようと……。
「ここで終わらせる」
 ジュスティシアはアームドフォート『ヴァルターGSS04携行式ランチャー』を展開。主砲の一斉射。
「衣帯不解! 死ぬまで殴るから――――覚悟してよ!」
 凶暴性を限界まで高め、ネクサス・トーキオーへと飛びかかるチェリー。全力で殴りつけたネクサス・トーキオーの顔からは血飛沫がまるで火の粉の様に飛び散った。
 ライトニングロッド『風雷剣サンティアーグ』を天高く掲げるフレデリ。
「この『風雷剣サンティアーグ』の雷撃を受けな!」
 『風雷剣サンティアーグ』の先端から雷撃が放たれる、放たれた雷撃は辺りを白く染め、轟音と共に地面を抉りながらネクサス・トーキオーへと襲い掛かる。
「中に機械が混ざっているなら、電撃には弱いだろう! 回路をズタズタにしてくれる!」
 雷に撃たれ、身体中から黒い煙と焼け焦げたにおいを発するネクサス・トーキオー目掛け、追いうちにとフレイアはゲシュタルトグレイブに稲妻を纏わせ、一突き。
「グガガガ……」
 ネクサス・トーキオーに埋め込まれた機械から、突如けたたましい警告音が鳴り響く。機械の故障かそれとも生命の危険を知らせるものか……。
「瀬部さん、トドメを」
「燐太郎! いまだっ!」
「ああっ!」
 仲間の声に頷くと燐太郎はネクサス・トーキオーの目の前へと躍り出る。
「お前のような存在を俺は認めない! この『邪眼』で終わらせるっ!」
 吹雪のように冷ややかな殺気と雷のように鋭い眼光。燐太郎の視線がネクサス・トーキオーを射貫く。
「ガガ……ケルベロス……コロコロコロコロコロコロコロコロコ……」
「様子が変だ。皆離れろっ!」
 けたたましい警告音がピタリと鳴り止むと、限界に達したネクサス・トーキオーは爆発し、跡形もなく消し飛んだ。

●屋台は何処……?
「は? なんであそこで爆発するの!?」
 思い切り爆風に飛ばされたチェリーが、全身砂ぼこりに塗れた姿で戻ってきた。
「ま、無事だったんだからいいじゃないか」
「怪我はないけど、髪がボサボサになったし……」
 フレデリの言葉に文句をもらしながら、チェリーは手櫛で髪を整えていた。
 燐太郎とジュスティシアは倒壊した建物や壁などの修理に当たっていた。
 修理の最中にジュスティシアは足を止める。視線の先はネクサス・トーキオーが爆発し、焼け焦げた地面。
「瀬部さんが調査しているものについて興味がありますが、流石に手掛かりになるようなものは、残ってないですね」
「機密保持の為なのか、ただ機械が暴走した結果なのか。それすらもサッパリです」
 修理を終えた燐太郎はジュスティシアの横に並び、地面に視線を向ける。
「――もし何かあったら、遠慮無く連絡してくれ。協力する」
 これは私の連絡先だ。と燐太郎へメモを渡すフレイア。
 ありがとう。と燐太郎がメモを受け取った矢先――。
 ぐぅ~~~~~!
 燐太郎のお腹から大きな音が辺り一面に鳴り響いた。
 夕飯を食べ損ね、ネクサス・トーキオーと戦闘をしたのだ。燐太郎の空腹は限界に達していても無理はない。
「チクショーめ、豚肉かスルメが無性に食べたくなってきたぜ……」
 恥ずかしそうに頬をかく燐太郎。全員が無事だからこそできる会話に皆、笑いがこみあげてくる。
 ネクサス・トーキオーは倒され、燐太郎は無事。任務は達成された。
「これからどうする? 私は屋台で遅い夕飯を食べに行くけども」
「任務完了の報告もしなければならないし、戻るよ」
「燐太郎は遠慮せずに、空腹を満たしてくるといい」
 フレイアとフレデリはそう言うと、手を振り歩いていく。
「ボクは帰ってお風呂に入りたいかな」
「報告書が先でしょうけどね」
「そんなー」
 その後ろをチェリーとジュスティシアが続いた。
「さてと、『ぶらり再発見』といきますかね」
 仲間を見送った後、燐太郎はぐぅぐぅ主張するお腹を押さえ、屋台を探すため、路地へと歩みを進めた。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月23日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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