大阪都市圏防衛戦~揺れる心

作者:ハル


 竹の攻性植物――バンブーソルジャーが警戒を強めている、攻性植物と人の居住区との緩衝地帯において、極めて奇異な光景が展開されていた。
「君達氷と制圧を司る、アイスエルフの力に期待しているぞ」
 一方は、攻性植物とは敵対関係にあるはずの第四王女配下の騎士達。
(「……うぅ、私達、何させられようとしているの!? どうして攻性植物とエインヘリアルが手を組んで……?!」)
 もう一方は、尖った耳と、纏う氷の結晶が特徴的な妖精8種族のひとつ、アイスエルフ達であった。
 それぞれ8体、合計16体からなる部隊は、気配を消し、物陰に隠れながら索敵を行っていた。
「行け! エインヘリアルの王を打倒すれば、再び妖精8種族がアスガルドで暮らす事が出来るようになる。武勲を立てれるように、今が頑張り時だぞ! だが油断もするな、ケルベロスという我らに死を与える悪魔達が、君達の命を狙っているからな!」
 騎士が、ハンドサインで前進の合図を出す。すると、アイスエルフ達が冷気を帯びた雪の結晶型の円盤――氷結輪を構えながら駆け出して、次のポイントにて身を屈めた。
「ケ、ケルベロス……! 死にたくないよぉ!」
「大丈夫だ、我らが君達を鍛えてやろう。だが君達はコギトエルゴスムから復活したばかり。もし戦闘になっても無理をしないようにな」
「う、うん……!」
 アイスエルフ達の中には、徐々に絆されていっている者もいる。それも、騎士達の言に裏が存在しないからこそ、なのであろう。
「私たち、アイスエルフだってやれるんだ!」
「本当にもう一度アスガルドで暮らせるなら!」
 そういったアイスエルフは戦闘に前向きであり、徐々に怯えが戦意に塗り替えられつつある。
 市街地を目指し、騎士が再びハンドサインを出した。
 応じて踏み出すアイスエルフ達の足取りは、幾分かしっかりとしたものとなっていた。


「ご報告があります。リザレクト・ジェネシスの戦いはまだ記憶に新しいとは思いますが、その後行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる情報が、大阪城周辺から出てきました」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)は、集まったケルベロス達に告げると、次いでモニターに大阪城周辺の地図を表示した。
「ここ――大阪城周辺は、竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていました。そこで私達も新たな動きがないかを注視していた訳ですが――」
 そこで、驚くべき光景が確認された。
「攻性植物の強い影響下にある領域にて、エインヘリアルの騎士と『妖精8種族であるアイスエルフ』と思われる女性の姿が確認されたのです」
 それは、仇敵同士であった二つの種族が、何らかの協力関係を結んだ可能性が高いという事。
「第四王女は、アイスエルフを自分の騎士団に組み込むと同時に、攻性植物との同盟を強化する事で、リザレクト・ジェネシスで消耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしているのでしょう」


「確認された状況について、まずはご報告させて頂きます。敵方の戦力は、レリ配下の白百合騎士団のエインヘリアルが8体に、アイスエルフ8体の混成軍。彼女達の思想が関係しているのか、アイスエルフも全て性別は女性のようです」
 市街地には瓦礫が散乱しており、身を隠す場所に困ることはない。ただそれは、状況によっては当然敵方に対しても有利が働く。また周囲には、廃墟となった背の高いビルがいくつか確認できた。
「白百合騎士団としてはともかく、アイスエルフを含めた混成軍としての練度は低いと見られ、地形や皆さんの動きなどによって隠密に成功すれば、奇襲攻撃が可能となるでしょう。アイスエルフの戦闘能力は低いですが、彼女達はケルベロスについて嘘の悪評を吹き込まれています。私達からの襲撃を受ければ、自分の身を護る為に反撃してくると思われます。白百合騎士団については、彼女たちの性質を思えば、アイスエルフを守るように戦闘を行ってくるでしょう」
 悪評を吹き込まれている上に、白百合騎士団はアイスエルフを守るように行動する。そういった状況では仲間意識も生まれやすい。ゆえに、困難ではあるが――。
「エインヘリアルを全滅させた状態でなら、アイスエルフを説得して連れ帰ってくる事も可能だと見ています。もちろん、そういった状況になった際の、アイスエルフのケルベロスに対する印象は極めて悪いでしょう。ですので、そうは思わせない、緩和させるような戦い方も必要になってきます」
 アイスエルフの説得に失敗した場合、殺さずに撤退させても構わない。
 その辺り、どうするかの判断はケルベロスに一任したい。
「攻性植物との協力関係一つ見ても、第二王女は相当に追い詰められているようですね。また、第四王女勢力は完全な善意でアイスエルフを鍛えてあげているつもりのようですが、アイスエルフの認識は違うようです。疑念と怯えを抱きながら従う者と、哨戒活動中に絆された者が半々……といった所でしょうか」


参加者
チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
パウル・グリューネヴァルト(森に焦がれる・e10017)
月岡・ユア(孤月抱影・e33389)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
柾木・真(グレースケール・e44982)

■リプレイ


 警戒しながら市街地を目指すエインヘリアルと、アイスエルフの混成部隊。
 ふいに彼女達は耳にした。
「オレ達はケルベロス、アイスエルフを助けに来たッス!」
 瓦礫に身を隠す事もせず、堂道・花火(光彩陸離・e40184)が堂々と上げた名乗りを!

「ケ、ケルベロス!?」
「だ、大丈夫! アスガルドで暮らすためにも、頑張らないと!」
 名乗りに対する反応は絶大だ。余程ケルベロスの行いが歪曲されて伝えられているのだろう。
「勘違いすんなよてめぇら。俺様達ケルベロスは、あくまで防衛戦力だ。侵略者以外の相手まで殺す気はねぇ! 悪魔なんかじゃねぇんだよ!!」
 怯えが戦意に変遷する前に、チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が誤解を解こうと試みる。
 ――が。
「アイスエルフよ。奴の……男の醜悪な欲望に満ちた顔を見るがいい。どちらが真実を語っているかなど、一目瞭然!」
「んだとテメェ!!!!」
 内心に若干の下心を抱えていたチーディは、騎士に図星を突かれて激昂する。
「チーディさん、ここは抑えて。――アイスエルフの皆さんは下がっていてください。今助けますので」
 と、パウル・グリューネヴァルト(森に焦がれる・e10017)が、チーディに代わって前に出た。
「……あっ」
 その顔を見て、アイスエルフが口々に驚き混じりの声を上げる。パウルが妖精8種族、シャドウエルフであると気付いたからだ。
「俺達は、仲間が言ったように、君達を助けに来た」
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)が大仰に、かつ紳士的に一礼する。
「……あ、あれ?」
「聞いてたのと違う……?」
 一連の流れにアイスエルフが、脳裏に疑問符を。
 何か問いたげに騎士達の横顔を覗き込もうとして……。
「――総員、構え!!」
「……はっ、はい!」
 だが騎士も、悠長に吟味する時間は与えない。告げると、アイスエルフが戦闘態勢に。
「戦うコトを怖がってる彼女達を戦場に立たせるなんて騎士のやるコトか?」
 月岡・ユア(孤月抱影・e33389)は確かに見た。氷結輪を構えるアイスエルフの腕が震えている様を。
(「――俺にも多少は分かるぜ、その気持ち」)
 恐怖こそないものの、緊張という意味では柾木・真(グレースケール・e44982)も大差は無い。真は個人的な事情のため、アイスエルフは自身、種族のために。
「貴女達がエインヘリアル内の権力抗争に勝つ為に、地球を蹂躙するなら放ってはおかないっすよ。でも武装解除して共存する道を選ぶなら、戦うつもりは無いっす」
 あくまで対決の姿勢を崩さない騎士に、中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)が告げる。聞く耳を持つはずがないと半ば理解しつつも。
「戯れ言を。その道は既に断たれた! 貴様らも承知しているはずだ!」
 騎士は、レリ王女の決断に殉ずる。そこに、一片の迷いもなし。
「……とにかく力を尽くすしかないのですね」
「降り掛かる火の粉は払う。これは、どの世界でも当たり前の事っす!」
 攻撃手と思われる騎士が一斉に襲い掛かると、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が悲しげに眉根を寄せ、憐が力を示す事を決断。
 ステラとノッテ、真が、重力の十字斬り、上空から振り下ろされるルーンアックスに備え、身を晒した。
(「騎士さん達だって、決して悪い人達ではないのです……っ!」)
 同じ卓につき、言葉を交わした。炎を纏って突撃するプライド・ワンを見送りながら、真理はそこに一縷の可能性を見てしまう。真理はプラズマで具現化した光の盾で真の守備を固めながら、グッと拳を握る。
「オラトリオの女性よ、貴女は言ったな。騎士のやることか、と。我々も本意ではない。ゆえ、レプリカントの女性の非難の視線を含め、甘んじて受け入れよう。しかし、アスガルドの王を廃した後は必ず安住の地と平和をアイスエルフ達に約束している。そして手を差し伸べる先には、地球の女性達も含まれている。貴女達こそ我々と共に戦うべきだ、女性が差別されない世界のために!」
「だからって、『死にたくない』と言う人達を戦場に立たせちゃダメだよ! 僕達だったら、絶対に武器を持たせて戦わせたりしない! 行くよ、ユエ!!」
 ユアは怯まず、真っ向から立ち向かう。ユエの金縛りで硬直した騎士に、流星の如き煌めきと重力を宿した飛び蹴りを叩き込んだ。
 憐が電光石火の蹴りを放つ。
「やり方を間違えちゃダメッスよ!」
 花火が後衛から順に陣形に対して破魔力を付与する。
「やむを得ない、か」
 近くに居るのに、両者の思想はあまりに遠い。ステラはノッテの漆黒の翼の羽ばたきに耐性を得ながら、輝き流れるような足技で騎士を翻弄する。
「そうして、また妖精族を捨て駒として駆り出すつもりか」
「アスガルドの王さえ廃してしまえば、そんな事態は二度と起こさせん!」
「ッッ!? 私達の先祖を一人残らず使い捨てておいて、よく言えたものだエインヘリアル! 貴様達の方こそ、それ以上の戯れ言は言わせん!」
 パウルが突きだしたファミリアロッドの先端から、小動物が射出され騎士を穿つ。
「私達だって!」
「アイスエルフここに在りって所を見せないと! 未来のために!」
 瞬間――前・中・後衛全体に、一斉に極寒の冷気が吹き荒れる。
「うぉっと!!」
 チーディは、その大半を回避に成功。
「そもそもよぉ、ヤツらのやり口が詐欺師のそれだよなぁ! まともな判断もさせねぇでなし崩しに従える気満々じゃねぇかよ」
 捕食モードに変形させたブラックスライムをアイスエルフを避けて嗾ける。
「……なあ、アイスエルフ。考えろよ。考えるのを、止めるな。何かおかしいと思ってはいないか?」
「そ、そんなことぉ!」
 言われなくても分かっている。だが、余裕がないし、常に騎士達の目が光っている。
 ケルベロス側も、厄介な凍傷を負わされたケルベロスが多数。
 真が花びらのオーラを舞い踊らせる。ミケが清浄の翼で癒やしの力を散布した。
「――い゛っづぅ!!?」
「ユア!?」
 アイスエルフが地面に「魔法の霜」を展開し、ケルベロス達の動きを制限する。その隙を狙って騎士に双肩をルーンアックスで裂かれたユアに、ステラが瞠目する。
「援護、するですよ!」
 負傷状況を確認した真理が、ドローンの群れを操って的確にユアを集中的に治療する。
(「まずは一体っす!」)
 力なき者の言葉に意味はない。精神を集中させた憐が、騎士の周辺を次々に爆破させた。
「ただ信じるものが違う……俺と君達の違いがそれだけだとしても!」
 Dfの間隙を縫って放たれたステラの飛び蹴りが、二振りのルーンアックスを手にする騎士を地に沈める。
「エルフ達を解放するならこれ以上の戦闘はしない、降伏してくれないッスか?」
 犠牲者を出して底冷えするような戦場に、花火の勧告は寒々しく響き渡るのであった。


「我らは第四王女配下白百合騎士団! ケルベロスに、男に屈するつもりは毛頭無い! そして我らが命に代え、アイスエルフには手を出させん!!」

 降伏勧告は、騎士達の総意によって一蹴された。
「なら、全力で相手させてもらうッすよ。それがオレにできる最大の礼儀ッスから!」
 より苛烈に攻めてくる騎士に、花火が流星の如き飛び蹴りで応戦する。
 チーディの日本刀が、急所を的確に斬り裂いた。
 以降は激戦が繰り広げられ、騎士達も半数が戦死、ケルベロス側も真とパウルが激しい消耗を強いられている。
 だが、その最中で、アイスエルフ達は気付いていた。ただの一度も、自分達がケルベロスに狙われていない事に。それは、悪魔とされていたケルベロス像からは程遠く。
「これで本当にいいのかな!?」
「う゛ぅ!」
 アイスエルフの胸中にも、少しづつ変化が。それは、ケルベロスの堂々とした行動が、想定通りの影響を与え始めている証。
(「――っ、エインヘリアルめ! 同胞の彼女達にあのような顔をさせるなんて……!」)
 氷の巨人の一撃が、パウルを穿つ。
 だが、彼に攻撃が命中した瞬間、アイスエルフ達は苦渋を感じるように表情を歪めていた。パウルは安心させようと無理矢理にでも笑みを作り、咆哮を上げて体勢を立て直す。
「攻性植物と手を組むなんて、変な話だと思わないかい?」
 続く攻撃を、回復を交えながらステラとノッテが堪え忍ぶ。
「僕らはね、アイスエルフさん達と戦いに来たんじゃない。助けたくて来たんだ! 疑問に思っている事があるんじゃない? もしそうなら――」
「その口を閉じよ!!」
 斬と、ゾディアックソードとユアの月光の刃が交錯し、火花を散らす。
「ここは俺が請け負う!」
 その時、オーラを溜めて戦線に復帰した真が、星座の重力を宿す斬撃を灰色のバリケードを盾に受け止めた。
 ユアが真に感謝の視線を投げかけると、騎士の背後を取ったユエが援護する。
「私達は貴方達に敵意がある訳じゃないのです。皆さんと同じで、自衛の為に戦ってるだけなのですよ!」
 ヒールドローンを展開させ、プライド・ワンのガトリング砲で騎士の侵攻を押し止める真理の懸命な呼びかけに、アイスエルフが顔を見合わせた。
「皆騙されてたッス、無理やり戦う必要なんてないんスよ」
 また、エンチャントがブレイクされたのを見計らい、花火が再び陣形を整える。
「キミ達だって攻性植物に利用されている可能性だってあるんだよ!?」
「攻性植物も変わろうとしている! 聖王女の威光があれば、世界は良い方に変わっていけるはずだ!」
 ユアの呼びかけにも、騎士は耳を貸さず。
(「か~、これだからレリ王女率いるエインヘリアルは手強いんッスよね!」)
 そしてそんな彼女達だからこそ、花火は――ケルベロス達は己が陣営に引き込もうと思ったのだ。
「何を言っても無駄、みたいっすね……分かってた事っすが」
 生きるよりも忠誠を選ぶ騎士の思想は、憐にはあまり理解できないか……それとも。
「たとえそこが泥船だとしても、喜んで邁進するつもりっすね。その前向きさ加減だけは――」
 認めざる得ない。ゆえ、憐達は矛を交える他にない。
「これがケルベロスの真の力っす! くらえケルベロスビィィィーム!」
 憐が、両目から青白いビームを発射する。
(「確か凶悪な攻撃? はNGっつてたな。だが、後ろのオンナ共に見えなきゃバレやしねぇよな!!」)
 チーディは風のように、ダメージを負って膝をつく騎士の背後を取る。
「ああ、そういやてめぇらも一応オンナだったなぁ!? 色気なさすぎて気付かなかったぜ、その鎧剥いてちったぁーオンナらしくしてやるからから感謝しろよなぁ!!!!」
「き、貴様アアァァ!!」
 騎士達だけに見えるように、チーディがゲラゲラと嗤いながら惨殺ナイフで蹂躙。また一体の騎士を仕留めた。
 それにより、さらに状況が変わる。騎士の総数が過半数を切った事で、元々騎士に疑念を抱いていたアイスエルフが、騎士への援護の手を止める。絆されかかっていたアイスエルフ達も、明確な迷いを見せた。
「女性たちに手を差し伸べる……そう口にできるあなた達と、どうしてこうなってしまうですか!?」
「くっ!」
 援護の手がなくなろうとも、騎士はアイスエルフへの不平や批判の声が上げなかった。
 しかし、このような好機を逃すケルベロス達ではない。その正義感や女性に対する思いの一片でも他に向ける事ができれば……真理が、小型戦闘支援無人機を展開する。
「さあ、流れ星がみえるかな?」
 ステラの足技が炸裂。
「……俺は、口下手だからな。上手く伝えられる自信は、ないが」
 真が、グッと息を呑んだ。無愛想だが、人の気持ちは分かる。
「俺たちは、俺たちの故郷を守りたいだけだ。殺したくなんて、ない」
 その端的な言葉が、アイスエルフの胸に届くことを願って。花びらのオーラを降らせ、ミケと共に仲間の援護に努めた。
「エインヘリアル……私は貴様達に容赦するつもりは毛頭無い。貴様達もそんな事は望まないだろう。だから、最後は私が」
 燃え盛る憎悪の炎を、パウルは今だけアイスエルフ達のために抑えつつ。
「其は土より生まれぬもの、誓約を逃れしもの。光無き手を借り、光を隠す悪意の矢」
 パウルは両目を閉じ、神殺し・不死殺しの性質を帯びた投げ矢を投擲した。貫かれた最後のエインヘリアルは、もう二度とその瞳を開く事はない。


「遠い昔に別れた同胞の皆さん、話す機会を得られて嬉しく思います」
 開口一番、パウルは穏やかに告げた。
「……う、うん、それは嬉しいけど……」
 緊張していたアイスエルフ達であるが、同族であるパウルが間に入ることで、幾分か落ち着きを持って話を聞いてくれた。
「今の貴女達が知る選択肢は二つしかなかったと思うっす。ハール王女に従って戦うか、俺達ケルベロスに殺されるか。でも、実際には俺達が新しい第三の選択肢を与えられるっすよ。貴女達が地球で俺達と共存するっていうね」
「出来れば地球で一緒に情報を得て欲しいッス」
 憐と花火が告げる。
「今はまだ、信用はできないかもしれません。でも、私達の住む世界は、決して貴方達の不利益にはならないはずです」
 パウルは自分を証拠として、既に同族とドワーフの顛末を説明している。
「お前らに必要なのは時間だ。ゆっくり考えろ。決断はそれからでも遅くないはずだろ?」
 真はずっと、アイスエルフには落ち着いて考える時間が必要であると感じていた。こんな戦場ではなく、温かく心を落ち着けられる場所で、だ。
「うん、そうだね。心が揺れてるままに戦っちゃ駄目。君達のように疑問や不安を抱えてる人達を戦闘に立たせなくていいように、ボクらケルベロスがいる訳だしね」
「そうそう、そうなのです! 私達と一緒に来てくれるなら、戦いたくない人は戦わなくて良いのです。私達が守ってみせるですよ」
 信じてくれるなら、全力で護る。ユアと真理の瞳に嘘の色をアイスエルフ達は見出すことができなかった。
 救いを求め、信じたくなる。
 極めつけは――。
「君たちの男性の仲間はどうしたんだろう、大事な人もいたんじゃないか?」
「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」
 ステラの問い。
「……だっ、第四王女が持つグランドロンから……仲間達を救い出してくれる?」
「恋人がいるの!」
「家族がいるんだよ!!」
 アイスエルフ達が大事な人を頭に思い浮かべたのか、涙を浮かべ、感情を弾けさせる。
「もちろん、君達がそう望むなら」
 ステラが手を差し出すと、仲間達もそれに続く。
「まっ、今回の事は詐欺師に騙されたとでも思って気にすんな。俺様もよく引っかかるからよ」
 空気を読まずチーディが告げると、場にようやく笑いが戻った。
「……ありがとうですよ」
 真理が、一人一人、アイスエルフの手を取り感謝を告げる。
 騎士の弔いを終えたケルベロス達は、アイスエルフを連れて帰還を果たすのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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