●新たなる目覚め
大阪緩衝地帯。竹の攻性植物による哨戒活動が続くその場所を進むのは、しかし地球を守るべき地獄の番犬達ではない。
エインヘリアルの第四王女。緩衝地帯に現れたのは、その配下である女騎士のエインヘリアル達。
デウスエクス間で小競り合いを始めるにしては、少しばかり妙な雰囲気だった。緩衝地帯を進む女騎士達の中に混ざって、見慣れぬ一団が同行していたのだ。
頭部には樹氷の如き氷塊を携え、その肌や髪もまた、永久凍土を思わせる程に白く美しい。エインヘリアルに比べ、彼女達の身の丈は随分と小柄だ。そして、何よりも妖精族の象徴である尖った耳が、彼女達がグランドロンの宝物庫にコギトエルゴスムの姿で納められていた、妖精8種族の内の1種族であることを物語っていた。
「諸君らも知っての通り、我らの主は不当に虐げられている全ての女性に対し、救いの手を差し伸べてくれる御方だ」
氷の妖精属達を前に、女騎士は高々と告げる。エインヘリアルの王さえ打倒すれば、再び妖精8種族がアスガルドで暮らす事が出来るようになる。これは、そのための戦いであるが、しかし復活したばかりのため、くれぐれも無理はしないようにと。
「なお……この地球には、ケルベロスという恐るべき敵がいる。彼らに我々の常識は通用しない。彼らとの戦いで敗北することは、即ちデウスエクスにとっての死を意味すると覚えておいて欲しい」
途端に、ざわつき始める妖精達。しかし、それも無理のない話だろう。彼女達からすれば、デウスエクスは不滅の存在。戦いで敗北し、宝玉の姿で虜囚になることはあれど、それで死ぬということは決してない。
そんなデウスエクスを殺せる、ケルベロスとは何者か。目覚めたばかりの妖精達の中には、早くも不安を抱いている者もいるようで。
「そんな敵がいるなんて、聞いてないわ。このまま戦っても、反乱に利用されて捨て駒にされるだけなんじゃ……」
「それに、エインヘリアルと攻性植物は敵同士のはず……。それなのに、手を組むなんて……いったい、何をしようとしているの?」
たちまち広がる不信感。しかし、中にはそれを払拭するようにして、敢えて戦意を高揚させるような言葉を紡ぐ者もいる。
「ふん……。なんだか知らないけど、もし、アスガルドで再び暮らせるなら、戦う理由なんて、それで十分だわ」
「ええ、そうね……。久しぶりの戦い。私達、アイスエルフの力、存分に見せてやりましょう」
それぞれの思惑を胸に秘め、あらたな戦いの兆しは、既にそこまで迫っていた。
●氷結と制圧
「招集に応じてくれ、感謝する。リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる情報が、大阪城周辺から報告された」
行動を開始したのはエインヘリアル。しかし、その中に見慣れぬデウスエクスの存在が確認されたと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、事の詳細に関する説明を始めた。
「お前達も知っているとは思うが……大阪城周辺は、竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていた。その中に、エインヘリアルの女騎士と、妖精8種族と思われる女性の姿が確認された」
アイスエルフ。それが新たなる妖精8種族の名前だと、クロートはケルベロス達に告げた。その名の通り、氷を制圧を司る種族で、絶対零度の凍気を武器とする。第四王女は、そんなアイスエルフを自分の騎士団に組み込むと同時に、攻性植物との同盟を強化する事で、リザレクト・ジェネシスで消耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしていると思われれる。
「今回、お前達に戦ってもらいたいのは、第四王女配下の白百合騎士団のエインヘリアル。そして、それに付き従うアイスエルフの混成軍だ。数は、それぞれ8体ほど。市街地の地形を利用して、うまく隠密で近づく事ができれば、奇襲を仕掛けることも可能だぜ」
コギトエルゴスムから目覚めたばかりのアイスエルフ達は、戦闘力こそ高くはないが、襲撃を受ければ自分達の身を護るために反撃してくる。また、白百合騎士団の騎士達は、そんなアイスエルフを守るように戦闘をするようだ。
ちなみに、アイスエルフには男性もいるらしいのだが、今回の作戦には同行していない。恐らく、第四王女達に何らかの思惑があり、女性だけがコギトエルゴスムから復活させられたのだろう。
「こちらに敵対しているとはいえ、アイスエルフ達の方も、事情が完全に飲み込めているわけではないからな。白百合騎士団のエインヘリアルを全て倒した上で説得できれば、彼女達を連れ帰ることも可能だとは思うが……」
そこまで言って、クロートはしばし言葉を切った。
先にも言ったが、白百合騎士団のエインヘリアル達は、アイスエルフ達を守るようにして立ち回る。こちらの事情を知る由もないアイスエルフ達が、自分達を守って戦った騎士を殺したケルベロスを、直ぐに信用するとは言い難い。
それでなくとも、彼女達は永き眠りから目覚めたばかり。中には猜疑心の塊になっている者もおり、説得するにしても一筋縄では行かないだろう。
「アイスエルフ達を説得するなら、相手に良い印象を与えるような戦い方が必要だろうな。かといって、白百合騎士団を全滅させる前に説得しても、混乱させてしまうだけだろうが……」
場合によっては、より不信感を抱かれて、続く説得が全て失敗に終わってしまうかもしれない。だが、その場合でも、アイスエルフを全て撃破するか見逃すかは、現場の判断に任せるとクロートは告げ。
「仇敵であったエインヘリアルと攻性植物が協力関係を結ぶというのは、想定外の事態だな。恐らくは、敵と同盟しなければならない程に、王女達の側が追い詰められているという事だろうが……」
攻性植物側は、王女達の反乱による混乱に乗じて、エインヘリアルとの勢力争いを優位に進めるつもりなのだろう。第四王女勢力は善意で行動しているようだが、アイスエルフ達との間には認識の差も存在する。
「エインヘリアルとアイスエルフ……その認識の差を上手く攻めれば、あるいはアイスエルフを味方に引き込むことができるかもしれないが……」
様々な者の思惑が絡む、この戦い。恐らく、一筋縄では行かないだろうが、それでも黙って眺めていられる事態でもない。
この戦いは、地球の側にとっても大きな転機となるはずだ。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
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エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557) |
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506) |
霧島・絶奈(暗き獣・e04612) |
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996) |
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532) |
神楽火・勇羽(蒼天のウォーバード・e24747) |
風柳・煉(風柳堂・e56725) |
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) |
●氷結と白百合
大阪の地に集いし、白百合騎士団とアイスエルフ。既に放棄された土地だけに、ゲリラ戦を仕掛けるのも容易な場所だが、そんな状況を敢えて利用せず、ケルベロス達は正面から戦うことを選択した。
「我が名はジークリット・ヴォルフガング! 同じゾディアックソードの使い手と見受けた……手合わせ願いたい!」
邂逅と同時に、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は、白百合騎士たちに、そう告げる。奇策を用いぬ正面突破には、白百合騎士団も敵ながら感心したようだった。
「ほぅ……我らと正面から戦おうとは、随分と己の力に自信があるようだな?」
もっとも、それが真の勇気なのか、それとも匹夫の蛮勇がさせる業なのかは、直ぐに結果が出るはずだ。そう言って、エインヘリアル達は、それぞれに剣と斧を抜く。彼女達に付き従うアイスエルフ達もまた、氷の結晶を模した形の円盤を武器に、臨戦態勢へと突入した。
「また会った。白百合騎士団。前回は殺し損ねた。だが、今回はそうはいかない」
アイスエルフ達のことは眼中に入っていないのか、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)は白百合騎士団にだけ狙いを定め。
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)もまた、腕に鎖を巻き付けて頷いてみせる。
「……叶うなら、共に肩を並べたいですけれどね」
例え道が交わる事が無くとも、使われる道具としてではなく、戦うに値する相手として相対したい。そんな想いを胸に、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が静かに呟いた。
願わくは、この戦いの先に、アイスエルフ達と共に歩んで行ける未来があらんことを。そう思いつつ、他の者達も武器を抜いたところで、戦いの火蓋が切って落とされた。
●それぞれの思惑
攻性植物に侵食された大阪の地で、互いにぶつかる白百合騎士団とケルベロス達。しかし残念ながら、戦いにおける足並みという点では、白百合騎士団の方が一歩上手だった。
「そこだ! もらったぞ!!」
連携の穴を突いて、白百合騎士団は強引に攻撃を割り込ませて来る。集中攻撃で撃破したいのは山々なのだが、こうも連携が途切れてしまえば、それも難しい。
「陣を崩すな! 集団戦なら、訓練された我らの方が有利だ!」
守りに特化し、陣形を大切にする白百合騎士団達の方が、今のところは優勢だ。アイスエルフ達の攻撃はケルベロス達にとって脅威ではないが、しかしその半数は白百合騎士団の援護に回っている。
回復量こそ心許ないが、それでも搦め手を即座に除去されてしまうのは面倒だった。唯一の幸いは、敵が全て同じ隊列に存在しているが故に、効果が拡散して本来の性能を発揮できていないこと。もっとも、それを総勢4名という人数で強引にカバーさせている辺り、敵も馬鹿ではないのだろう。
「汝らエインヘリアルは神々からアスガルドを奪い、そして今もなお、地球からグラビティ・チェインを奪い尽くそうとしておる。汝らは神々に望まれた勇者ではなく、忌まわしき侵略者に堕した!」
黄金の果実を掲げて怒りを露わに叫ぶ神楽火・勇羽(蒼天のウォーバード・e24747)だったが、その言葉には、どこか苛立ちも混ざっていた。
まあ、それも無理のない話だ。敵のエインヘリアル達の中でも剣を持った者達は、こちらの魔術的防御を破壊する技を使用する。斧を武器にする者達が破壊のルーンを宿すことで、その力はより盤石なものとなり、ケルベロス達に自身を強化する隙を与えない。その一方で、敵のルーンを破る術を殆ど持たないケルベロス達には、戦況を覆すための術がない。
「我が父の魂と、我らを地球に迎え入れてくれた人々の優しさと、新たな我が家族の誇りにかけて、我は汝らを決して許さぬ!」
隊列単位で守りを固めてから戦うという勇羽の判断は、今回に限っては戦術ミスとしか言いようがなかった。それでも、せめて内から湧き上がる怒りだけは言葉にしてぶつけたが、そんな彼女の言葉をエインヘリアル達は一笑に伏した。
「ふっ……何かと思えば、とんだ言いがかりだ。我々が、グラビティ・チェインを奪い尽くす侵略者だと?」
「そんなことをすれば、我々とていずれは滅びてしまう。その加減も判らぬ程にまで愚かではないぞ!」
お前達が生きるために草花を摘み取り、家畜を殺して食すように、デウスエクスにはグラビティ・チェインが必要だ。故に、その供給源を根本から断つ程の搾取を行うつもりはない。それが、白百合騎士団からの返答だった。
「ああ、うるさいよ。お前達の話なんか、こっちは聞く気もないんだ。下らないお喋りが終わったら、奈落に落ちて、さっさと死ね」
したり顔で反論する白百合騎士団の首元を掴み、エステルは重心を崩して顔面から大地へと叩き付けた。それも、一度ではなく、何度も何度も、徹底的に壊すように。
「ひっ……! や、やっぱり、私達は殺されるのね!」
「嫌よ、そんなの! あんな敵と戦って、どうやって勝てばいいのよ!」
後ろで見ていたアイスエルフ達が、あまりに凄惨な光景に、思わず涙を浮かべて叫び出した。さすがに敵前逃亡する者はいなかったが、それでも彼女達の間に走った動揺は大きく、ケルベロス達への恐怖から戦意を喪失しつつあるのは確かだった。
「こ、来ないで! 悪魔! 怪物! あっちへ行って!」
完全に錯乱状態になったアイスエルフの一人が、氷の結晶のような形の円盤を滅茶苦茶に振り回して叫ぶ。その実力の低さ故に、彼女の攻撃は脅威ではない。しかし、このまま誤解されているのは腹に据えかねたのか、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)は白百合騎士団のエインヘリアル達がいるにも関わらず、その目の前でアイスエルフ達への説得を開始した。
「いい加減に、目を覚ましてください! エインヘリアルは、攻性植物と同盟を組もうとしているんですよ! あなた達は、エインヘリアルに騙されているんです!!」
これが、戦いの終わった後であれば、彼女の言葉も少しはアイスエルフ達に届いたかもしれない。だが、今は戦闘の真っ最中。未だ、戦闘が続いている状況では、彼女の言葉も余計にアイスエルフ達を混乱させ、白百合騎士団を怒らせるだけだった。
「我々がアイスエルフを騙しているだと? そんな証拠が、どこにある!」
「確かに、今までの攻性植物は確かに信用できなかっただろう。だが、攻性植物も変わろうとしている。聖王女の威光があれば、世界は良い方に変わっていけるのだからな!」
それを邪魔するケルベロスこそ、全てのデウスエクスにとっての敵であると叫ぶエインヘリアル達。そればかりか、根も葉もない言葉でアイスエルフ達を懐柔させようとしたと思われたのか、白百合騎士団の何人かは、露骨にリュセフィーへと怒りを向けて来た。
「先程から、下らぬ詭弁と嘘で、我らを惑わそうとする……戦いに勝つためなら、手段を選ばぬというのか、地球の者は!」
「そ、そんな……。私は、ただ……」
慌てて弁解しようとするリュセフィーだったが、それを止めたのは若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)だった。
「今は混乱させるだけだから、あとにしましょう」
見れば、アイスエルフ達は完全に混乱しており、こちらへ向ける眼差しもまた、疑念の色が濃くなっている。相手からすれば、根拠のない理屈で難癖を付け、ともすれば裏切りを誘発させようとしているようにしか見えず、印象としては最悪だった。
「さあ、詭弁はそれで終わりか?」
戦斧を高々と掲げ、先程、エステルに投げられたエインヘリアルが立ち上がった。その身に破壊のルーンを纏おうとしていることを察し、リュセフィーが慌ててウィルスカプセルを投げようとするが。
「ふっ……どこを狙っている? 正論で反論され、己を見失って耄碌したか?」
それよりも早くルーンを纏った上で、エインヘリアルは投げ付けられたカプセルを、余裕の表情で避けてみせた。
発動したグラビティに割り込んで技を発動させられないのもそうだが、それ以上に使用するグラビティの源となる力が、重なってしまったのは拙かった。リュセフィーの得意技であるオラトリオヴェールと、ウィルスカプセルの投射は、力の源を同じとするグラビティ。故に、二つを続けて使用すれば、当然のことながら敵に攻撃を見切られる。
「まずは、やつらの口を塞ぐぞ。これ以上、アイスエルフ達を惑わされても面倒だ」
そう、エインヘリアルの一人が告げるや否や、剣を持っていた者達が、一斉に後列目掛けて星辰のオーラを飛ばして来た。狙いはリュセフィーなのだろうが、広範囲を纏めて攻撃する技しか持っていない以上、エインヘリアル達の集中砲火は後列全域に渡るわけで。
「くっ……」
「こちらまで、纏めて排除するつもりですか……」
絶奈やシフカも巻き込まれ、付着する氷結に顔を顰める。
「めぐみも頑張ります。皆さんを守ってください、らぶりん!」
ならば、とナノナノのらぶりんを壁にしつつ、リュセフィーに代わり回復に専念するめぐみだったが、回復力では後衛に一歩劣る。しかし、肝心のリュセフィーが敵の回復に合わせて攻撃に回ってしまうので、メディックの半分が機能していない分は、彼女とらぶりん、そして他の者達のサーヴァントで補うしかない。
「このままでは、やられてしまいますね……。聞きたいことは色々ありますが、今は無心で攻撃しましょう」
攻撃の巻き添えを食らいつつも、シフカは白刃と白鎖を武器に敵へ突貫した。こうなれば、回復は捨てて攻撃あるのみだ。とにかく、威力の高い技で、一気に攻め立て倒すしかない。
「咲け『炎』よ! 真夏の『向日葵』のように! フィアンマ・ジラソーレ!」
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
風柳・煉(風柳堂・e56725)の投げつけたHot Spotから凄まじい熱量の光と炎が放出され、絶奈の召喚した巨大な『槍』のような物体が、その光と輝きを以て、仇なす者を破壊して行く。その様は、まさしく天の裁き。状況的には押されているケルベロス達ではあったが、それでも大技を立て続けに食らわせたことで、ついに白百合騎士団の一人を撃破することに成功し。
「風よ……白百合の騎士を打ち倒せ、烈風!!」
グラビティ・チェインを刀身に集中させて、ジークリットが放つは重力を纏った真空の刃。大地を削りて大地を這い、風に向かいて風を切る。あらゆる物体を切断し、あらゆる標的を逃さず追尾する斬撃は、白百合騎士団の纏った星霊甲冑でさえも、例外なく両断してみせた。
●氷は未だ解けず
戦いの終わった緩衝地帯には、再び静寂が訪れていた。
アイスエルフを従えた白百合騎士団と、その進軍を止めるべく駆け付けたケルベロス達。結果として、戦いを制したのはケルベロス達の方だったが、しかし彼女達の被害も大きかった。
激戦により、サーヴァント達は悉く消滅させられ、おまけに後列にいた者達も、集中攻撃により壊滅状態。戦力の半数をズタズタにされ、正に辛勝といった形である。
だが、それでも勝ちは勝ちであり、ケルベロス達は改めて、残されたアイスエルフ達に言葉をかけた。
「我らヴァルキュリアは神々の遺産によって従属させられ、侵略の駒として使われておった。汝らが我らと同じように扱われないとは思えぬ」
エインヘリアルは、本来のアスガルドの主ではない。それを打ち破り、平穏な故郷で暮らしたいとは思わないかと尋ねる勇羽だったが、アイスエルフ達からの返事は微妙なもの。
「でも……アスガルドに戻っても、グラビティ・チェインが得られなければ、いずれ私達だって狂ってしまうわ」
「それに、神々の遺産で従属させられるなら、どうして最初から私達にそれを使わなかったの?」
アイスエルフ達はエインヘリアルを完全に信用したわけではないが、しかしこちらの言葉にも疑念を抱いているようだ。ならば、より具体的な真実を教えてやろうと、今度は絶奈が前に出た。
「知っていますか? ハール王女は手当たり次第に多種族と同盟を結び、妖精8種族のコギトエルゴスムをばら撒いています」
自分達の都合で復活させ、道具のように使役する。果たして、それが本当に正しいことなのか。そして、かつて同じ扱いを受けていたヴァルキュリアが、今では地球の側に立って戦っている現実を知った上で、もう一度考えてみてはくれないかと。
それでも信じられないのであれば、せめて本心だけは聞かせて欲しいとジークリットが尋ねた。
「第四王女は利用するだけ利用し、全て終われば再びコギトエルゴスムに戻されるかもな。問おう。お前らの本心はどうなのだ? 奴らへの服従か? それとも自由か?」
「服従は望みません。でも、あなた達に降伏したら、それで自由になるとも思えないです」
やはり、疑念はそう簡単には払拭できないか。どうにも話が平行線のまま進まない。ならば、同じ妖精8種族として、せめて幸せに生きて欲しいとシフカが告げた。
「たとえ、アスガルドでなくとも、生きて行くことはできますよ。私達、シャドウエルフやヴァルキュリアの存在が、その証拠です」
それでも信じられないなら、せめてしばらくの間は中立の立場でいてくれないかと、めぐみが続ける。ただし、定命化の関係から、時間は限られていると。その言葉は、悪い意味での決定打だった。
「そ、そんな! やっぱり私達は、遅かれ早かれ死ぬしかないのね!」
完全に錯乱し、散り散りになって去って行くアイスエルフ達。定命化について説明している時間の少ない今、彼女達を止めるための言葉はない。
だが、そんな中、たった一人だけその場に残ったアイスエルフがいた。彼女はケルベロス達を前にしても退くことはなく、自分を連れて行けと身を差し出した。
「良かった……私達ケルベロスの事を分かってくれて……」
「勘違いしないで。別に、あなた達の全てを信用したわけじゃない。逃げる仲間の背中を撃たせるわけには行かなかったし、私の首を取って満足して、他の者を見逃してもらえたなら本望ってだけよ」
安堵の溜息を吐いたリュセフィーを、アイスエルフが睨んだ。
自分は捕虜だ。殺すなら殺せ。そして、もしも本当に殺さず連行するだけというのであれば……。
「そこにいる者達の言葉が本物かどうか……私の目で見て、判断させてもらうわ」
少しばかり皮肉めいた笑みを、煉やシフカ、そして勇羽に向けるアイスエルフ。
互いの想いは未だ擦れ違ったままだったが、それも時間の問題だろう。同行さえしてもらえれば、彼女に地球の事情を説明するだけの時間は、たっぷりと用意できるのだから。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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