大阪都市圏防衛戦~凍れる森の美女たち

作者:baron

 竹の攻性植物による哨戒活動が行われていた、攻性植物との緩衝地帯。
 そこに第四王女配下の騎士とアイスエルフが侵攻を開始しした。
『氷と制圧を司る、アイスエルフの力に期待している』
『だが復活したばかりだ。戦闘になれば、無理はしないようにな』
 女騎士たちは訓練の一環としての行軍中に、女アイスエルフ達に様々な声を掛ける。
 色々な思惑はあるが基本的に善意なのだろう、率先して動いているのは騎士たちの方だ。
 だが……。
『エインヘリアルの反乱に利用されるだけじゃあ……。しかも攻性植物と手を組むだなんて……』
『でもアスガルドで再び暮らせるなら、戦う意義は充分ではないかしら?』
『それが本当なら……そうやね』
 対するアイスエルフ達もまた、色々な思惑があった。
 コギトエルゴスムのままでいるのか、自由の身になって生活を送るのかでは大きな差だ。
 だが反乱での勝利の保証を聞かされてもおらず、また、手伝わされるだけかもしれない。
 肯定的な意見もあれば、否定的な意見もあるのは仕方あるまい。
 とはいえここでは判断が出来ないのもまた事実、今は出来る事をしようと、アイスエルフ達は偵察を兼ねた、行軍訓練を続けるのであった。

「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる情報が、大阪城周辺から報告された」
 ザイフリート王子が珍しく緊張した顔で説明を始めた。
「大阪城周辺は、竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていた。
 その中に、妖精8種族が居たというだけならば洗脳されたのだと理解はできる。
 だがエインヘリアルの女騎士までがアイスエルフと思われる女と一緒に居たと言うのでは、少し話が変わってくる」
 王子の緊張が少しずつ理解でき始める。
 女騎士は王女たちの兵で、女性たちの地位向上のために様々な勢力との同盟を模索し、闘っている。
 つまりアイスエルフを自分の騎士団に組み込むと同時に、攻性植物との同盟を強化する事で、リザレクト・ジェネシスで消耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしているのだろう。
「敵はレリ配下のエインヘリアル8体程度、アイスエルフ8体程度の混成軍。計16騎だ」
 王子の説明にケルベロス達は緊張した面持ちで話の続きを待った。
 16というのはかなりの数で、しかもオークのような欲望に忠実であったり逃げ腰とは限らないだろう。
「だが相手は合同したばかりの混成集団だ。市街地の地形を利用して、うまく隠密で近づく事ができれば、奇襲攻撃が可能だろう」
「そっか。素人が混じってると、自分達の足音で判らなくなったりするもんね」
「見張るべき場所も慣れて無いでしょうしね」
 これが螺旋忍軍の守る拠点へ忍び込めと言われれば、流石に無理かもしれない。
 だが相手はそもそも警戒慣れして居ないし、攻性植物との緩衝地域とあれば地形慣れもして居ない。かなり奇襲できる可能性は高いだろう。
「それともう一つアイスエルフは復活したてで戦闘力が低い。士気も低いだろうから、積極的に攻撃せねば反撃はためらうだろう。
「なるほど。追い詰め過ぎなければ戦力になる可能性は低いのか」
 さすがにケルベロスが襲撃すれば自分の身を護る為に反撃してくるだろう。
 だがそれを避けて、勇猛果敢に向かってくるレリの騎士たちを先に倒せば、戦う理由も無くなる。
「騎士たちを全滅させた状態で、アイスエルフを説得する事ができれば、連れ帰って来る事もできるだろう。もちろんケルベロスをすぐに信用する事は難しいかもしれないが、ヘインヘリアルもまた信用されている訳でもない。取引が確実でないのは同じレベルだ」
「それなら……まあ」
「駄目もとで説得して、だめなら気絶を狙うとか、それも無理ならお引き取り願うか」
 今回、救いなのは相手が一枚岩ではない事。
 こちらは強行作戦ではないので、最後まで拠点制圧をする訳ではないことだ。
 相手の哨戒班を撃破し、戦力補充を邪魔するだけで良い。
 その上で、可能ならば説得ができればよいので、心理的にもお互いが追い詰められて居ないのは大きいだろう。
「だが仇敵であったエインヘリアルと攻性植物が協力関係を結ぶというのは、想定外だ」
 王子が緊張するのはコレが意外だったからだろう。
 長年の敵と組もうとするのは以外であり、本当に手を組んで居るのであれば、かなりの手腕と言える。
「とはいえ第二王女勢力が、敵と同盟しなければならない程に追い詰められているともいる。対して攻性植物側は、第二王女が反乱を起こしてエインヘリアルが混乱すれば、攻性植物にとってチャンスになるので今は協力している……と見るべきだろう」
 もちろん完全に手を組んで居る可能性もゼロではないが、まあ薄いだろう。
 そして第四王女勢力は……いちおう善意で行動しているようだが、アイスエルフとの認識には差があるようだ。
 なにしろ占拠してコギト化した勢力と、された側なのだ。
「将来に有望な取引するから、今までの仕打ちを忘れろと言っても、いきなり信用できる物でもあるまい。うまくそこを攻めれば、アイスエルフを味方に引き込む事ができるかもしれん。頼んだぞ」
 基本的には善人であるので、時間を掛ければ信用される可能性はあるが……解放されて信用も無く、戦力も低い今こそがチャンスだと言える。
 王子は可能性の高い案を示した上で、ケルベロスたちに激励の声を掛けた。


参加者
奏真・一十(無風徒行・e03433)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ


 攻性植物の哨戒エリアのあった場所の一つ。
 その一角で七人のケルベロスの内、先行する数人が足を止めた。
「戻ってきたみたいね」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は腰を落とし膝を地面に着ける時、衣服に違和感が無いのに満足した。
 迷彩や消音対策の効果があったようだ。
「あちらはまだ気が付いてませんか?」
(「もちのろんよ」)
 アウレリアが抱え上げた狐……遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が言葉ではなく仕草で答える。
 彼女は変身による体高の低さを活かして先行偵察して居た。
「大丈夫ないみたいだね。来ても問題なさそうだよ」
「それは助かるのう」
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)もニュアンスを組み取ってサインを送ると、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)らが後方から追随。

 一同は能力に合わせて進軍ペースを調整しており、隠密出来る者が先行。
 残りは問題無いと判ってから移動して居たのだ。
「攻性植物にアイスエルフ。……わたし達はまだ、ハールの掌の上から抜け出せていない」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)達は四方を見はり、後続の仲間達が集結するのを見届ける。
 ここから先は戦いだ、その前に見つかる訳にはいかない。
「けれど戦ってきた中で、一つだけ判った事がある。納得できないまま戦ったって、わだかまりが残るだけ」
 ひなみくは全員が揃い、あるいは人型に戻るのを確認。
 入り口とでも言う場所と自分達の陣形を確かめながら呟く。
「でも、何も知らないまま向かい側に立ってるだけなら……選択させてあげたい、と思うんだ」
「そうだな。俺達は何も知らなさすぎる。互いに未知に等しい故、先ずは互いを識りたいのも本当だ」
 ひなみくの呟きを拾って、最後に合流した奏真・一十(無風徒行・e03433)が頷いた。
 箱竜のサキミに指示を出し、いつでも突入できる様に戦闘態勢を整える。
「僕もひとまず解放したいかな。……じゃあ行こうか」
 ロディは全員の準備が整ったのを見ると再び先導。
 タイミングを合わせて飛び出した彼に続き、仲間達も速攻を掛ける。

 向こうからは既に足音や声が聞こえ始めており、ここからは時間と心の勝負だ。
「右から三番目!」
「了解よ!」
 篠葉が指示したのは比較的にリーダーと言えるエインヘリアルだ。
 暫定リーダーだろうが、それでも十分だとアウレリアは思いっきり突進した。ロディを追い抜く勢いで接近しながら殴り掛る。
『敵か!? アイスエルフを前に出すな!』
『入り混じっては混乱するだけだ、前に出るな!』
 エインヘリアルとて正々堂々とした戦いばかりを潜り抜けて来た訳ではない。
 螺旋忍者など倫理も通じない相手との戦いがあるゆえに、棒立ちになどなりはしない。
 だが、それが限界とも言える。訓練中で戦力にならないアイスエルフを挙げ、一同の推測通りの行動を取ったのだ。
「流石に戦い慣れしておるな!」
「それで十分だよ!」
 アデレードは輝く翼を広げながらハンマーを構え、ロディはエンジンを冷やす冷却剤を吹かし高速機動を掛け目標の人物に迫る。
 援護の砲撃の中でロディは巧みに戦場を駆けた。
「我はヴァルキュリアが正義の告死天使、アデレードじゃ! 我らの同胞を悪の尖兵にせんとするものよ! 神妙に覚悟せよ!」
 アデレードは周囲に響く爆音に負けない勢いで名乗りを上げた。


「大丈夫ですか!? 助けに来ました!」
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)はキャリバーのこがらす丸を途中まで押して来た。
 だが戦いに際して遠慮は不要、爆走させながら突入する。
「やあ、クールなお嬢さん方。ボクは見ての通りヴァルキュリアさ」
 豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)もそれに続き速くも説得を始めた。
 テンガロンハットの庇を銃で押し上げ飄々とした語り口だ。
「騎士のみなさんから見たら、裏切り者に見えるかもしれないけどね。でも、この地球は悪くない」
 彼女もまた輝く翼を広げヴァルキュリアであることを主張。
 敵意はないのだとニコリと笑顔を見せながら、銃口はあくまでエインヘリアルにのみ向けた。
「行くぞこがらす丸! これが! 俺達の! 精一杯だッ!!」
 ここで計都はドリフト・ターン中にワザとタイヤを滑らせると宙に舞い、キャリバーを鴉の足状に変形させる。
 自身の右足に合体させ、増幅させたグラビティ・チェインと共に叩きつけた。
(「利用されてるのはアイスエルフだけじゃなくて、きっとこのエインヘリアル達も」)
 ひなみくはそう思いつつも騎士団に対して矛先を向けた。
 全てを同時に救うことは不可能。アイスエルフを優先しつつ、撤退するならば見逃すくらいだ。
「今のところ予定通りか」
「陣形を立て直す前に攻勢を掛けるよ。タカラバコちゃんも援護お願い」
 一十は流体金属を操り、ひなみくは時間を固定する事でエネルギーを奪い凍結を掛けた。
 そしてミミックのタカラバコにも指示を出し、仲間たちを守りつつ攻撃を掛けさせる。
「今くらいしか余裕はないからな。此処まで来たんだ……今更立て直されても困る」
 一十は振り抜いた斧槍にオウガメタルを纏わせ激しい斬撃を浴びせた。
 鋭く伸びる流体金属は刃と化してリーダー格を切り裂く。
「さてと、反撃される前に対策しておかないとね。いまどきの呪いには予習と復讐対策が大事なの」
 物騒な事を言いながら篠葉は鎖を引き千切り、仲間の周囲に配置した。
 解けたチェーンが規則正しく輪を描き、十重二十重の防御壁を築く。
「エインヘリアルの顔色を窺う必要もないし、自分の意志で自分のやりたいことができる。どこかの洗脳教育とは大違いさ……っとそろそろ時間?」
 姶玖亜はまるで口説く様に説得を続けていたが、奇襲の効果が長く続く訳でもない。
 少なくともエインヘリアル達が向かって来たのを見て、肩をすくめてトリガーを引いた。
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
『くっ!? 動きを読まれたか』
 姶玖亜が銃を連射すると、今まあに向かって来ようとしていた敵が足を止める。
 絶え間なく撃ち込まれる銃弾を避けようとして、足を止めている間に次々に撃たれ、その姿はまるで踊っている様も見えた。

 とはいえ敵も果敢に反撃して来る。少なくともこの時点では一同に倍する数なのだ。
『おのれ! 我らの悲願を邪魔する気か!』
「不死に奢り、自らが死する覚悟も無く一方的に蹂躙する侵略者を殺す牙。それが私達ケルベロスよ」
 アウレリアは吹雪を潜り抜け、仲間に迫る刃を我身で止めた。
 そして敵の前衛集団が攻勢と防御を使い分ける中、後衛が散発的にしか攻撃してない事を確認する。
 エインヘリアルは歴戦ゆえに的確に戦うが、アイスエルフは素人ゆえに攻撃が分散して居たり回復過剰と機能して居ない。
「殺す者は殺される。地球に住む者の命を絶とうとするならば……永劫の滅びを覚悟なさい」
 そう言ってナイフを素早く引き抜くと、アウレリアは迫る敵に逆襲を掛け血潮を吹き出させた。
「聞け! お主らは覚えておらぬかも知れぬが我らはヴァルキュリア。かつては故郷と志を同じとした同胞である。そしてお主らと同じくエインヘリアルの地球侵略の尖兵として利用されておった」
 アデレードはもう一度叫ぶと、吹き武器の中を飛び抜け光を周囲に振り撒きながら突撃。
 かつての雄姿を思い起こさせるべく傷付きながらも空を翔けたのである。
「なんとかなりそうかな」
「そうですね。闘い慣れて無いのもあるけど、殺意に乏しいです」
 ロディはグラビティを集めた強烈な突進を掛け、計都は流星の如き蹴りで動きを縫い留める。
 さすがに相手もカバーに入ってくるが全ての攻撃を止められるわけでもない。
 戦いは序盤こそ数に苦労するが、徐々に巻き返して行った。


 やがて時間が経過し、アイスエルフ達は雪の精霊を連れて後方に引き籠る。
 攻撃は次第に減って行き……時折りに猛烈な吹雪がケルベロスを襲うこともある程度。
 雪の精霊の援護があるゆえに面倒だが、戦い慣れていないのか脅威はそれほどでもなかった。
「ああっ……もう。あの子たちも引いてくれれば良いのに」
「彼女達自身は主君たちの理想に共感して居るとだろう……それに……」
 ひなみくは翼から暖かな光をもたらし、周囲の氷を溶かし始めた。
 彼女の苦悩も判らないではないが、一十は少し難しいのではないかと思う。
 そして真白き斧槍を飾っていた鍵束をシャランと慣らす。
「一応は相手の方が数が上だったんだ。それに彼女達も守るつもりだから逃げ出す筈もない。その傷を記憶ごと癒すとしよう」
 一十は銀色の鍵を取り分けると、残った傷の内、もっとも酷い傷に挿し入れる。
 残る傷を箱竜のサキミに任せ、ケルベロス側面の方は何とか態勢を立て直した。
「喰らえ、彼氏に『最近太った?』って聞かれる呪い!」
 一方で混戦から抜け出せないのがエインヘリアルだ。
 篠葉は呪われた死者のうち、悲しい運命で無くなった霊を呼び寄せる。
 些細なことで不仲になって仲直りしたいなーと思っている内に、デウスエクスに殺されたと言う悲しい経歴の持ち主だ。
『だからどうした!』
「あっ、彼氏居ない? へえーそう……」
 狙った女騎士は霊の言うことに耳を貸さないが、一つの状況で終わらせるのは霊能者の仕事では無い。
 篠葉は意味深な眼差しと言葉を投げかけることで、心の傷を抉ろうとしたのである。
 なお同じことをケルベロスとの試合でやると、三角関係で刺されたり、同性同士で見つめ合ったりする事もあるので侮れない。
 ちなみに篠葉にも彼氏は居ないゾ! 拝み屋のメンタル攻撃は基本よね!
「定命化ってのも、慣れれば悪くない。延々と生き続けるってことは、延々と命の終末を見届けるってことさ」
『黙れ!』
 姶玖亜が銃弾を叩き込みながら説得を続け、それを邪魔しようと女騎士の生き残りが攻撃を仕掛けて来る。

 だが残る人数が減り、攻め手が減ることでカバーし易くなって行く。
 結果としてエインヘリアル……白百合騎士団よりもケルベロスの方が強いことを示すだけだった。
「おかしいとは思わない? 他種族と違いグラビティチェインに困窮していないエインヘリアルが、他の星に攻めて来るのは攻性植物との戦争に備える為だった筈」
『ぐっ……』
 アウレリアはビハインドであるアルベルトと共にその攻撃を防ぎ、振動を叩き込みながら説得を再開した。
 これまでは戦闘中も声を掛けるのは姶玖亜や計都くらいだったが、残る騎士団が最後の一人になったことで、比重を切り替えたのだ。
「何故手を組み、その先はどうするのか。答えられる方は此処にいないでしょう」
「エインへリアルのやり方が正しいと本気でお思いですか? 倒すべき仇敵と同盟を組んだり、男のアイスエルフは復活させなかったり……」
『それは……』
 アウレリアだけでなく計都も戦闘と説得を続けた。
 最後の一人を蹴り倒し仲間がトドメを入れるのを導いた。
「お主らと同じくエインヘリアルの地球侵略の尖兵として利用されておった。無理強いはせぬが、デウスエクスとしての力や故郷を永久に失うかもしれぬが再び我らの同胞となってほしい!」
 アデレードは豪砲を放った後、ハンマーを降ろしながら吹雪の壁の向こうに語りかけていく。


「他にも手駒にされた妖精種族の皆さんが居ます。従属させられて戦いを続けるより、自分の生を全うしませんか!?」
「ヴァルキュリアだけではない。シャドウエルフもおる、ドワーフだってそうじゃ」
 計都が語りアデレードが八種族の内、幾つかの種族が居る事を告げるとはっきりとした変化が見られた。
『シャドウエルフも……?』
 吹雪の壁の向こう側から戸惑いの声が聞こえ、影響された雪だるまが首を傾げているのが判る。
「聞きたいんだけどさ。あんた達は何のために何と戦ってきたんだ?」
『それはもちろん故郷に……』
「本当に返してくれるならば、ね」
『え?』
 ロディの質問にアイスエルフが答えようとした時、アウレリアがそれを遮った。
「ハールはヴァルキュリアの土地を対価に螺旋忍軍を引き込んでいた。おそらくアイスエルフとの約束を守るか怪しいでしょうね」
『だってレリ王女が言うのだもの。あの人なら信用出来るわ』
『それに何もできないよりは……』
 アウレリアの言葉を信じたくないと何人かが首を振るのが判った。
「わたしの仲間はレリさんとお話をした、だからその人柄を知ってるよ。でも、お姉さんに従う事も知ってるの」
『あっ』
 ひなみくはレリの人格を肯定した上で、ハールとの関係を付け加えた。
 レリの人格は信頼できても、ハールが囮にしろと言えば姉への信用と戦略、どちらの意味でも頷くだろう。
「アスガルドに帰りたい気持ちはわかるけどさ。それを理由にかつての仇敵と同盟を組まされ、望まない戦いに駆り出される事についてどう考えてる?」
「エインヘリアルに加担するとケルベロスとの戦争に巻き込まれて全滅するわよ。勝率なんて、元敵だった貴方達をわざわざ徴用してる時点で追い詰められてるに決まってるじゃない」
 ロディが再び戦いの話に話題を向けると、篠葉がその先を否定した。
 騎士団が壊滅したのを目の前で見たばかりである。何よりの答えではないか。
「でも定命化までは自分で決めて欲しいから、今は私達と敵対しないなら、こっちも攻撃しないって約束するわ」
 篠葉は定命化を押しつけ無かった。
 それは遠い未来に死を選び、力を失わせることだからだ。
「迷いがあるなら、どうか判断を急かないでくれ。攻性植物と手を組む理由はおろか、同胞男性の処遇も知らぬのではないか?」
『……確かに』
 一十が判断を伸ばし確認して欲しいと言うと、頷く声が連なった。
 ここで殺さない、仲間の安否を確認してからでも良い。と言うならば否定する理由は何処にもないからだ。
「君達には知らぬ事が多過ぎる。先ずは地球がどんな星なのか自身で確かめてほしい」
「なぁ、あんた達はどうしたい?自分の意志で生きたいのなら、この選択がその第一歩だぜ」
「さあ、自分で決めてごらん」
 一十たちの言葉が功を奏したのを見て、ロディや姶玖亜もそれを促すに留めた。
 最初は定命化の提案もする気だったが、むしろ地球を知ってからでも遅くないと言うのは確かだから。
 姶玖亜もそうしたし、人々の暖かさや愉しい文明を知れば、きっと同じ道を辿るのではないだろうか?
『ならお願いがあるの。せめて、あの人達を助けてくれませんか?』
『みんなで話し合った後でなら、もしかしたら』
 気が付けば雪が晴れ、凍れる心が融けだして居た。
 最後に提案されたのは、アイスエルフの男性救出依頼である。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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