大阪都市圏防衛戦~妖精たちの逡巡

作者:一条もえる

 竹の攻性植物の蠢く、大阪城近辺。
 しかし、通りの角から姿を現したのは、見上げんばかりの巨躯、エインヘリアルの女騎士たちと、氷の結晶を体から生やした見慣れぬ女たちであった。
 女騎士のひとりが後ろを振り返り、柔らかな声で呼びかける。
「貴女たちはまだ、コギトエルゴスムから蘇ったばかりだ。無理をするな。
 焦ることはない……だが、氷と制圧を司るアイスエルフの力には期待しているぞ」
 と、目を細めた。
「王を打倒すれば、アスガルドには再び妖精8種族が栄えることになるだろう。
 そのために、ケルベロスどもと戦おうではないか。奴らは、我らデウスエクスを容赦なく滅ぼす、忌むべき者どもだ」
 女騎士は苦々しく呟いて再び、前を向く。
「よし、ここは安全だな。次は向こうの区画だ。大丈夫か?」
「おう! あたしたちの力を見せつけてやる!」
 2名ほどは腕まくりして騎士たちの後に続いたが、仲間のアイスエルフたちは不安げに顔を見合わせた。
 核心とまではいかないが、彼女らもエインヘリアルの動きをおぼろげながら悟っている。
 まさか第二王女が、仇敵と言ってもよい攻性植物と結ぶとは。
 崩れた瓦礫の陰に身を潜め、ちらりと通りの向こうに目を走らせては、次の陰へと進む。
 その間にも、アイスエルフたちは何かを言いたげに視線を絡ませていた。
 その息苦しさに負けて、ひとりが口を開く。
「あの騎士たちは、第四王女の配下……。今は私たちに穏やかな顔を見せているけれど……私たち、エインヘリアルの反乱に利用されるだけじゃ……?」
「シッ!」
 仲間から漏れた呟きを、傍らの同胞が口元を押さえて黙らせた。

 『宝瓶宮グランドロン』に関する情報が、ヘリオライダーからもたらされた。
 場所は大阪城周辺。竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていた一帯だが、そこにエインヘリアルと、妖精8種族のひとつであるアイスエルフと思われる姿が確認されたのである。
 エインヘリアルは第四王女の配下のようである。アイスエルフを麾下に組み込むとともに、攻性植物とのつながりを深めることで、損耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしているのであろう。
 敵は、白百合騎士団のエインヘリアルが8体。同行しているアイスエルフも同人数のようである。
 数は多いが、ケルベロスたちの接近を敵はすぐに察知することは出来ない。
 敵と遭遇するのは、4~5階建てのビルが建ち並ぶ、かろうじて車が2台通れるほどの直線の路地である。途中、ビルのひとつが横倒しになって崩壊しているところもある。
 この地形を活用して奇襲をかけることが出来れば、優位に立てるだろう。
 アイスエルフの戦闘能力は低いが、もしケルベロスが襲撃してきたら、自衛のために反撃してくることはする。エインヘリアルにはどうやら、アイスエルフを訓練する意図があるようだ。そのため、エインヘリアルたちはアイスエルフたちを庇うように戦うと思われる。
 アイスエルフの帰趨は定まっておらず、敵と決まったわけではない。可能ならば、仲間に引き入れたいところだ。騎士たちを退けたのちであれば、話をすることも出来る。うまくいけば、連れ帰ることも出来るだろう。
 ただ、庇ってくれたエインヘリアルたちには恩義がある。その死を目の当たりにして、「やはりケルベロスたちは残虐非道な者たちだ」と思うようならば、説得することは難しいだろう。

「第四王女は、アイスエルフの女性たちを見習い騎士として仲間に引き入れようとしているようです。
 彼女らの身の上を哀れんでいるのでしょうか……?」
 もっとも、それがアイスエルフたちに伝わっているとは言いがたいようだが。


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)

■リプレイ

●奇襲
「うす気味の悪いところだよねぇ」
 デウスエクスの侵攻により、かつての姿を失ってしまった大阪城付近。
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は肩をすくめて、辺りを見渡した。
 その傍らで、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)がうなり声をあげた。黒豹へと姿を変えた彼は、身を屈めて顎を突き出し、仲間たちを促した。
「見てみろよ、騎士様たちのお出ましだ」
 軽口めかして。しかし吐き捨てるように。陣内は瓦礫の向こうを示した。
 指揮しているとおぼしきエインヘリアルの女騎士が、一方を指さしてなにやら言っている。それに応じるように、残りの者たちは指し示した方へと動き出した。
「情報通りだな。白百合騎士団が8人、アイスエルフが8人」
 崩落しかかった建物の陰から様子を窺い、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が頷いた。
「『新兵』を含むとはいえ、数はこちらの倍近く。油断はできないねぇ」
 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)の口振りは落ち着いているのか呑気なのか、やけに間延びしていた。
「ま、なんとかなるさ」
 日月・降夜(アキレス俊足・e18747)が、ニヤリと笑う。
 しかし実際、正面切って戦うのは得策ではない。
「幸い、こちらはまだ気づかれていない。奇襲をかけるに越したことはありませんね」
 と、綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)。しかし奇襲と一口には言っても具体的には……。
 それを発案したのは、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)である。
「あそこに、横倒しになって崩落しているビルがある。あれを目隠しに使おう。
 できるだけ距離を詰めてから……ブラッド。先頭で進んでくれるか?」
「了解。任せてよ」
 自信たっぷりに頷いたピジョンの前髪が、かすかな風でゆらりと揺れる。
 それを見送ったアジサイが顎を撫でた。
「エインヘリアルが俺たちと同じ、文明を築いた存在だってことがわかるな。
 ……レリの反乱が起これば、敵の陣営も混乱する。地球を守るという意味では、放置しておくのが、正解かもしれないが」
「理屈だけじゃないのが、わたくしたち。そうでしょう?」
 と、いつの間にか傍らにいた千手・明子(火焔の天稟・e02471)が言葉を先取りし、微笑んだ。
「そういうことだ。納得できないから、俺はアイスエルフに助力する」
「同感ね。わたくしも、同じ女として彼女たちには言いたいことがあるもの」
 息を潜めるケルベロスたちに、敵はまだ気づいていない。
 埃っぽい瓦礫の中で、ケルベロスたちの緊張が高まっていく。
「……今日は、ここまでにしておくべきか」
 先頭のエインヘリアルが後ろを振り返った、そのとき。
「おっと、ここからがいいところだぞ!」
 倒壊したビルの瓦礫の上から、降夜が飛び出す。右手を一閃、風を斬って飛んだ螺旋手裏剣が、見上げた騎士の肩に食い込む。
「く……ケルベロス!」
 敵はそれをすぐさま抜いて投げ捨てたが、おびただしい血が噴き出し、毒はすでに肉体を蝕み始めていた。
「敵襲!」
 ほかの騎士たちもすぐさま体勢を整えようとしていたが、ケルベロスたちの方が速い。
「そこから動くなッ!」
 アジサイの怒声が、辺りを震わせる。大きく踏み込んだ足もとから砂煙が舞い上がった。
 その大音声に、駆けつけようとした騎士たちは思わずたたらを踏む。
「よし。皆、かかれッ!」
「きゃあ!」
 アイスエルフたちが悲鳴を上げる。
「危ないから、物陰にでも隠れていて!」
「ちょっと、離れてな!」
 レプリカントである錆次郎の胸部パーツが開き、その開口部から眩い光線が発射された。
 それと同時に、陣内が腰を落として構えたバスターライフルからは凍結光線が放たれる。
 エインヘリアルを貫いた2本の光は、辺りに激しく反射した。
「ぐ、あ、あ……」
 おびただしい血を吐き、崩れ落ちるエインヘリアル。
「退くなら、いまのうちですよ!」
 大槌を振りかぶった鼓太郎が声を張り上げる。しかし、彼と目があった騎士は、動揺しつつも歯を食いしばって剣を振り上げた。
「ならば……穢れはすべて祓いましょう!」
 大槌が風を斬る音とともに放たれる竜砲弾。吹き飛ばされた騎士は、背をビルのコンクリートに打ち付けた。壁に大きく、人型にヒビが入る。
「退かないというなら……わたくしがあなたを、よいところへお連れします」
 明子の刃が、その騎士を切り裂く。不思議と痛みは感じない。だが騎士は、膝から崩れ落ちた。力が、入らない。
「あなたの絶望……請け負うわよ」
 傲然と敵を見下ろした明子は、目を細めて笑う。

●三者の思惑
 不意をついたケルベロスたちは、相手の体勢が整わぬうちに敵陣を縦横無尽に駆ける。
 しかし、敵も名のある白百合騎士団。指揮者を失った狼狽からもやがて立ち直り、隊列を整えて反撃に転じた。
「安心して、君たちを傷つけるつもりはないからねぇ!」
 錆次郎はそう訴えたが、エインヘリアルの手前、そうもいかないようだ。はっきりと敵対を宣言するようなものである。
「むむむ、仕方ないね」
「援護を頼む!」
 その騎士たちの声に応じ、アイスエルフたちは雪の精霊を呼び出した。
 援けを受けた敵陣から、無数の星座のオーラが襲いかかってくる。
「させるか!」
 飛び出したリューディガーは可能な限りのそれを弾き返しながら、自らを含めた仲間たちの前にドローンを展開した。
「じゃあ僕も、さっそく使わせてもらおうかな。防御、展開」
 ピジョンの左腕から、おびただしい茨が伸びていく。ドローンと茨とが、襲い来る星座のオーラからの盾となり、仲間たちを守る。
 しかし、凄まじい冷気を防ぎきることはとうてい出来ず、全身が凍てついていく。
「く……」
「死ね!」
 よろめくアジサイに向けて、2人の騎士が斬りかかってきた。一撃は防いだが、もう一撃が肩を深々と割る。
「アジサイ!」
 ブーツの踵を鳴らし、明子が舞う。花びらのオーラが降り注ぎ、仲間たちの氷を溶かしていった。
「このッ!」
 血気盛んなアイスエルフが2人、掌をリューディガーに向けて突き出した。そこから巨大な氷柱が生じ、襲い来る。
 しかし、
「やはり、経験は浅いな」
 リューディガーは身を翻してそれらを避ける。狙いをはずした氷柱は、閉ざされたままのシャッターを無惨に打ち砕いた。
「レリが必ずしも悪人ではないということは、わかっているが……」
 その思想は「浅慮な正義感」でしかないと、彼の目には映る。自滅するだけならいい。周囲を巻き込みながら崩れていくのではないだろうか?
 ともあれリューディガーは口元に当てていた羽扇を振るい、仲間たちの陣形に力を与えていく。
「不意打ちなんて、卑怯者!」
 血気盛んなアイスエルフが怒鳴った。
「こっちも必死ということだ!」
 続けて斬りかかろうとした騎士めがけ、崩れたビルの上から陣内が跳ぶ。その蹴りを側頭部に受けた騎士はアスファルトに叩きつけられた。
 その敵を、鼓太郎が追う。
「此処に捧ぐは吾が勲。以て軍御神の御力を、かけまくも齎し給え降し給えと、恐み恐み白す」
 鼓太郎の祝詞とともに、剣が中空に顕現した。倒れたままその刃を受けた騎士は、雷電に打たれて全身を震わせる。かろうじてまだ、息はあるか。
「……アイスエルフたちを、いったい如何にするつもりなのですか」
 見下ろして呼びかけるも、
「……男などに、何も言うことはない」
 と、顔を歪めた。
 鼓太郎がさらに口を開こうとしたところに、氷柱が飛んでくる。ゆとりを残してそれを避け、いったん距離をとった。騎士のもとに、アイスエルフたちが慌てて駆け寄っていくが……あれでは、無理だろう。
「なんて容赦のない……」
「えぇ。容赦なくとは、確かにその通り。敵は、斬る。それだけのことです。
 しかし、お気づきですか? 我々は地球から一歩も出ていないことに」
 その目に見つめられたアイスエルフたちが、思わず唾を飲み込んだ。
「ここは僕たちにとって、歴史ある名所だよ。
 僕だって、ここを奪還するために何度か戦った。人間の命を渡すわけにはいかないから、命をかけて、ね」
 ピジョンが杖を構えた。退いてくれるなら、追うつもりはない。しかし……。
「無理だろうねぇ。仕方がない、チョロ!」
「利用されているのではと、お前たちも疑っているんじゃないのか?」
 アジサイの投じたカプセルは敵の兜にぶつかってウイルスをまき散らし、そこに、杖から元のヤモリの姿に変じたピジョンのペットが飛びかかった。
「エインヘリアルにいろいろ言われてると思うけど。できれば穏便に済ませたいところなんだけどなぁ」
 錆次郎は苦笑混じりに、攻性植物を蠢かせた。伸びた蔓からは黄金の果実が実り、その光が仲間たちに力を与えていく。
「僕らと戦うと、本当の意味で命の取り合いになっちゃうよ」
「ずいぶんな言われようだが、エインヘリアルも信用できるかね?
 地球を襲った中には、処刑を兼ねた使い捨ての駒もいた。要らないモノは、そうしても惜しくないということだな。
 女主導の社会に要らない奴も、じきにそうなるのかな……?」
 陣内が苦虫を噛み潰したように、騎士たち、そしてアイスエルフたちを睥睨した。アイスエルフらは困惑を見せて視線を交錯させたが、騎士が間に立ちはだかった。
「黙れ! 諸君、耳を貸すな!」
「お前らが、黙れよ。偽善、詭弁、正当化……。あまりに稚拙な言い分で、裏でもあるのかと勘ぐりたくなるほどだ!」
 敵の刃を浴びつつも、陣内の舌鋒は揺るがない。
「地球から一歩も出ず、住処や家族を奪われるだけの俺たちの方が、はるばる侵略に来る連中よりも酷いって?」
「そう。あなた方が地球に来なければ、我々はあえて刃を突き立てる必要もないのですよ」
 と、鼓太郎は目を閉じる。
「黙……ッ!」
 黙れと言い掛けた騎士の腹に、降夜が渾身の力で拳を叩きつけた。鋼の鬼と化したオウガメタルを纏った拳は、エインヘリアルの鎧を粉々に打ち砕く。
 悶絶する騎士を見下ろしつつ降夜は、アイスエルフたちを見渡す。
「ここ大阪は、俺たちの住まいだ。だが攻性植物に占領されてしまった。だから、俺たちは戦ってる。
 ……おっと!」
 星座のオーラを避けて跳び下がりつつ、
「君たちの事情も聞かせてくれよ。まずは、こいつらを片づけてからだがな」
「後ほど、ゆっくりお話しさせていただきたく存じます!」
 鼓太郎の振るった大槌が、騎士へと襲いかかる。

●決着
 とはいえ敵の数は多く、迷いがあるとはいえアイスエルフたちもエインヘリアルを援護している。その猛攻にさらされたケルベロスたちに、傷を負っていない者など誰ひとりとしていない。
「く……」
 降夜の肩にも、長剣が食い込んだ。すでに赤く染まっているコートが、血でさらに濡れていく。
 立っているのが不思議なほどであったが。
 降夜は歯を剥き出しにして笑い、眼前の敵めがけて両手を押しつけるように開いた。氷結の螺旋が襲いかかり、全身が凍り付いていくよりも前に、敵は崩れ落ちる。
「大丈夫? もぉ僕、手に汗握っちゃったよぉ~!」
 緊張感のない言葉を吐き出しながらも、錆次郎が傷を癒やしてやる。
「なに、まだ終わりゃあしないぜ」
「そうだね。僕らも苦しいけど……?」
 錆次郎が敵陣に視線を送る。
 それでもやはり、奇襲されて隊長格を失い、その間に深手を負った騎士たちの限界が先に来た。
「ち……仕方がない。我々が援護する、先に逃げてくれ!」
「でもッ!」
 血気盛んなアイスエルフたちが、氷柱を放つ。彼女らの必死さが通じたか肩口に命中し、喰らった明子が顔をしかめる。
「あきら!」
「大丈夫よ……!」
 身を案じるアジサイに手を振り、明子はアイスエルフたちを睨みつけた。
「あなたたち、コギトエルゴスムはどうするつもりなのよ!」
「……!」
「見たところ、『男性』が見当たらないようだが……彼らはどこだ?」
 リューディガーから視線をそらすように、アイスエルフたちは顔を見合わせる。
「目をそらさないでよ! そいつらは女しか助ける気がないのは、わかってるでしょう!
 父は、兄弟は、恋人は? その人たちはどうするの!
 男だとか女だとか、そんな馬鹿馬鹿しいことで仲間が苦しめられてるのに、領地のためだからといって黙ってるだなんて……目を覚ましてよ、もうッ!」
 迷い、動きが遅れたアイスエルフたち。残った2人の騎士は業を煮やして踵を返し、明子に斬りかかった。
 しかし陣内のウイングキャット『猫』とピジョンとが、それを防ぐ。
「よくやったぜ、『猫』。
 ……よその人間を巻き込んで、兄妹喧嘩だ? いい加減にしてもらいたいね!」
 傍らで励ますテレビウム『マギー』の頭を軽くなで、ピジョンはため息をついた。
「レリ王女にしてみれば善意かもしれないけど……。人質とってるようなものだよね」
 陣内のケルベロスチェインが伸びる。そしてピジョンが手元で操作したパズルから、竜のごとき稲妻が解き放たれた。
 絡め取られ、痺れ、悶絶する騎士たち。
「アジサイ!」
 明子の日本刀は、長剣で防ごうとした敵の腕を斬り飛ばす。
 応じたアジサイの刃が、敵の心臓を深々と貫いた。
「残りは……!」
「目標補足……動くな」
 リューディガーの放った銃弾が、最後の騎士を貫いた。
「もし、俺が『彼ら』の立場だったら。
 自分が封じられて何も出来ないままに、愛する人が戦場に送られ、もしかすると永遠の別れをすることになってしまったとしたら……きっと正気ではいられないだろうな。
 そんな悲しい想いは、君たちにも、君たちの大切な人にも、させたくはない」

「畜生!」
「待って!」
 血気盛んなアイスエルフは、激高して飛びかかってこようとした。
 しかし、仲間がその腕をつかむ。
「……どうやら、穏便に片付きそうかな?」
 錆次郎が小声で、仲間たちに囁いた。
「私たちの力を反乱のために使おうとしているのは、感じていました。
 ですが、コギトエルゴスムを握られている以上は……」
 彼女らを守る騎士たちが全滅した以上、どうしておめおめとエインヘリアルの元に戻れるだろうか。その不安を和らげるように、降夜が頷く。
「あぁ。わかってるぜ。
 妖精8種族のうち、シャドウエルフやヴァルキュリアは、今は俺たちに味方してくれている」
「強制するつもりはありません。もしあなたたちが望むのなら、我々はその2種族と同じく受け入れたいと願っているだけです」
 鼓太郎が続けた。
 急いで結論を出す必要はない。だが、自分たちの目で見てから判断してほしい。
 アイスエルフたち自身の、意思で。
 しばし逡巡したアイスエルフたちだったが、
「どうすべきかは、まだ私たち自身にもわかりませんが……グランドロンに捕らわれたままのコギトエルゴスムを救い出したいのです。
 どうか、お力を……」

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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