大阪都市圏防衛戦~三月の氷妖精

作者:のずみりん

 その日、大阪の地に踏み込んだデウスエクスは二種、十六体。
 八人は大柄な甲冑に白百合を飾り、八人は小柄な身体に霜をまとった。
「そろそろ緩衝地帯です、気を引き締めて」
「それはつまりヒメリ様、私たちが緩んでいるように見えますの?」
 だが歩調を合わせ進むデウスエクスの心は歩みほど近しいだろうか?
 大人と子供ほど背丈の離れたアイスエルフの少女に咎められ、白百合騎士団の女騎士は抑えた声で言う。
「悪し様に取るのは勘弁してもらえませんか、グレーシア様。我々はあなた方を心配しているのです」
「えぇ承知しておりますわ。貴重な戦力ですものね……白百合騎士団もお歴々を倒され、仇敵たる攻性植物などと組まねばならぬほどだとか?」
 騎士ヒメリは下げた頭をハイヒールで踏まれたような錯覚を覚えた。
 悔しく情けないことだが、事実の一部故に反論しがたい。
『彼女らも誇り高き種族の代表だ、くれぐれも無礼はするなよ』
 幹部らの訓示を思い出し、白百合騎士の忠節にかけてぐっと耐える。
「……それほどの敵なのです、ケルベロスは」
「そう、それは早く確かめたいものですわ。あなた方のことも」
 グレーシアに連れだって歩を早めたアイスエルフの少女たちに、騎士ヒメリはため息をついて号令を叫ぶ。
「いくぞ。ケルベロスと、アイスエルフたちに、白百合騎士団の統制を見せる!」

「リザレクト・ジェネシスから行方不明の『宝瓶宮グランドロン』について、大阪城周辺の緩衝地帯から新情報が報告された」
 確認された種族はこれだ、とリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は銀髪からヒュンと伸びた自分の耳を指し示す。
「妖精八種族の一つ、『氷』と『制圧』を司るアイスエルフ。彼女らは今、第四王女レリ率いる白百合騎士団の下にいるようだ」
 どうやら第四王女はアイスエルフの女性らを白百合騎士団に取り込み、また攻性植物との同盟を強化することで消耗した戦力を挽回しようとしているらしい。
「白百合騎士団とアイスエルフらは混成部隊を組み、緩衝地帯に侵攻を開始している。現地まで飛ばすので、混成騎士団を迎撃して大阪を守ってくれ」

 リリエの確認した部隊は白百合騎士団とアイスエルフがそれぞれ八人ずつ、計十六人。数だけなら二倍の戦力差だが、漬け込む隙は多くあるとリリエは言う。
「まず地形、今は緩衝地帯といえ大阪は我々の街だ。ビルや建物、埋もれた地下道など隠密奇襲のロケーションは事欠かない……身も蓋もない話、アイスエルフたちは実力でかなり劣るようだしな」
 歴戦のケルベロスや白百合騎士団の精兵と比べるのが酷というものだが、アイスエルフらは二人掛かりでケルベロス一人と互角程度。警戒はしているが土地勘もお察しだろう。
「もちろん向こうも……少なくとも白百合騎士団は承知しているだろう。戦闘になればヒメリと呼ばれた隊長を筆頭に積極的に前衛を引き受けてくる。主に相手取るのは彼女らだろうな」
 どうもグレーシアという少女がまとめるアイスエルフたちも、白百合騎士団の真意、実力を測りかねているらしい。
「まぁ少々プライドが勝ちすぎた雰囲気もあったが……根は白百合騎士団への不信だろうな。自分たちを女性しかよみがえらせず、攻性植物と同盟していた事などから、体よく使われることを警戒しているようだ」
 襲撃にはアイスエルフたちも反撃してくるが、うまく白百合騎士団だけを全滅させられれば交渉、説得してこちら側に引き込むこともできるかもしれない。
「ただすぐにというのは難しいかもな……白百合騎士団とは違う方向で面倒くさくも見えるし、無理せず撤退させるだけでも今は十分だろう。判断は皆に任せる」
 種族のプライド、騎士団への不信、今後の身の振り方。この辺りが説得材料になるかもしれない。

「一応、第四王女と白百合騎士団は善意で行動しているようだが……アイスエルフたちとはだいぶ認識に差があるようだな」
 同情はしなくもないが、それは付け入る隙にもなるはずだとリリエは言う。
「気になることは多いが、まずは敵を食い止めてからだ。頼むぞ、ケルベロス」


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)
唯織・雅(告死天使・e25132)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ

●初陣との会敵
 緩衝地帯周辺へ降下してほどなく、デウスエクスらは姿を現した。
「ケルベロスたちは精兵ぞろいです。前衛は我々が対応しますが、初陣に油断は……」
「またそういう、騎士ヒメリ……」
「……話の通り、まぁ随分とじゃじゃ馬ねぇ」
 風に乗って漏れ聞こえる会話からうかがえる連携はけしていいものではない……マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は、白百合騎士団への同情めいた感想を、獲物を狙う声で言う。
「それで……まずは御挨拶だったかしら?」
「ああ。交戦目的からして、奇襲はデメリットが勝る」
 確認するマイアにマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が頷く。
 この人数と練度ならば正面突破は問題ない。むしろ奇襲は心証を悪くし交渉を困難にするとケルベロスたちは判断した。

「そこまでよ。進軍を停止しなさい」
「何事かと思えば……毎度毎度、突拍子もない事ばかりしてくれる、ケルベロス!」
 正面から呼びかけた青葉・幽(ロットアウト・e00321)の姿に、白百合騎士団の騎士ヒメリの声は少々面食らったようで、また疲れた様子でもあった。
「面倒くせェのはコッチもよ。拳で語った方がはぇぇが、話くらい聞いてやれ」
 逆立った赤茶の髪を掻きながら、ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)は臆面なく言い放つ。
 アイスエルフたちはさておき、白百合騎士団は状況の不利を理解したようだ。
「その……お付きの方がアイスエルフの方々でしょうか」
「既に知っての事か。王女殿下と白百合の誓いにかけて、我らの盟友に指一本触れさせん!」
 長斧を手に威嚇する騎士ヒメリに、そういうわけではと弁解しつつ、唯織・雅(告死天使・e25132)は庇われるアイスエルフらの様子を伺う。
 人で言えば十代半ば過ぎくらいだろうか? 白百合騎士団は彼女らを『盟友』と呼んだが、アイスエルフからの感情は少々異なる……強圧的な隷属ではないが、状況に流されるしかない……否応ない印象とでもいうべきだろうか。
「話は最後まで聞け。アタシたちケルベロスはデウスエクスを殺せる能力を持つけど、無益な殺生は行わない。レリ王女と協定を結んで一時休戦した事もあったでしょ」
「あら、その話は初耳ですわ」
 諫める幽と挟まれる涼し気なグレーシアの声に、騎士ヒメリの表情が露骨に歪んだ。
「……既に終わった話です。今ここでの対峙が結果というもの!」
「話し合いの時間は終わりか。ならば受けて立つ!」
 振るわれる長斧が間合いを開く。続く白百合騎士たちの突撃に、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)のゲヘノム・アックスが迎え撃った。
 白百合騎士団と縁ある仲間たちには残念かもしれないが、拳で語るという道もある。
「もう少しだけ時間を作ってもらえますか? アイスエルフたちの方に!」
 紫閃を刻む『Advanced Code : Alba Nocte』を構えながらも、八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)は言う。白百合騎士団へではなく、仲間たちへ。
 ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)の『白羊星剣』が描く、牡羊座のスターサンクチュアリの光が、白銀の鎖刃に輝いた。
「アイスエルフ達がどちらに付くにせよ……故郷やアスガルドに戻れるのは随分先になるでしょう……でも、目の前に魅力的な新天地があれば」
 ケルベロスや白百合騎士たちにワンテンポ遅れ、氷結輪を構えたアイスエルフたちの様子にベルローズは思う。
 アイスエルフたちに、彼女らの知らない地球の魅力を教えられるなら、心は開けるかもしれない。
「状況に流され、己が意思を見失ったまま生きるのは虚しいもの……必要なのは知ること」
 思いを胸に鎮紅は世界へと語りかける。世界を知り、理解すれば、自ずと決断は下されるはずだ。

●主張と対立
「幾千の想いも、幾万の願いも。いずれ散りゆくものならば、アナタはどうして哭くのですか――?」
 語りかけるような鎮紅の声に、彼女が抱く『死の印象』が辺り一面に咲き、散って舞う。紫の花弁は死の世界、其れは死の印象、終焉の心象。
 無人の大阪の街を駆ける白百合騎士団を、いつか訪れる結末の断片が包み込み、不癒の呪いへと蝕んでいく。
「この力は……成程」
 アイスエルフたちがざわめく。ケルベロスのの練度と戦力は彼女らにも十分伝わったようだ。
「ケルベロスの脅威、お判りでしょう……グレーシア殿、支援を!」
「承知しておりますわ。悪く思わないでくださいな」
 誰とはない返しを告げ、グレーシアは耳元に伸びる結晶を一撫でする。春近い大阪に風が吹いた。
『体感温度低下を警告。未知のグラビティが敵前衛を強化。一部個体、ヒール阻害を回復』
「やむを得ん……後は頼むぞ。R/D-1、重力装甲展開。SYSTEM COMBAT MODE」
 雪だるまめいたスノウエレメンタルに寄り添うや力強い歩みを取り戻す白百合の騎士たちへ、マークは戦術AIに対グラビティ防御を頼み、鋼の肉体を前進させる。
「怨嗟に縛られし嘆きの御霊達よ。ここに集いて、我らに報復の剣を与え賜え!」
「PS8000、READY」
 ベルローズの詠唱が『ファントムアヴェンジャー』を惨劇の記憶を宿らせ、仲間たちの破剣と為した。
 構えられた盾目掛け、マーク『PS8000』プラズマビームソーが大薙ぎに振るわれる。
「く、だがここはっ!」
 盾を深々と切り裂かれながらも打ち返される大斧が重力装甲を破り、マークの『1型追加装甲』を叩く。
 激しい攻防を目端におきつつ、ベルローズは向けられた視線へと呼びかけた。
「皆さんが復活させたレリ王女に従うのは理解します。それはそれとして、地球の様子はどう思われですか?」
「それはありがとう。故郷は懐かしいですけれど、悪くない空気ですわ」
 ころころと笑うグレーシアと対照的に、騎士ヒメリは苦虫を噛み潰した顔。
 これはこれで面白そうだけど、とマイアは共生する『結晶花『Amber Mistelten』』から蔓触手を伸ばし、エインヘリアルの騎士を絡めとる。
「きさっ、むっ、ぐ!?」
「物事は順番があるの。少し遊ばせて頂戴」
 叫ぼうとした騎士ヒメリの口腔を弄び、アイコンタクト。多少の同情を覚えつつも、ティーシャは『全て破砕する剛腕』で締め上げた白百合騎士を鋭い声と共に投げ飛ばした。
「害する敵意はないが、下手に出るつもりもない! 欲し選択するのはグレーシア、そちらの側だ」
「ぶはっ……惑わされては! レリ王女殿下からの申し出、今一度思い出していただき、っぐぅ!」
 蔦の拘束を抜け出し騎士ヒメリが叫ぶ。『冥刀「魅剣働衡」』を抜き構えたジョーイが再び妨害する。
「あー……一応言っとくけどよ。一発デケェの行くから口閉じて、歯ァ食いしばってしっかり受けろよ?」
「なにっ!?」
 無造作な警告から、無造作に振り下ろされる『鬼神の一太刀』。血を求める家宝の刀が、鬼神が如きオーラと共に振り下ろされる。そのプレッシャー、エインヘリアルの体格差などあって無きが如し。
「でぇりゃァァァ!!!!」
「っ、がぁっ!」
 ヒメリの盾を叩き割り、打ち据えられた鎧の白磁がひび割れる。十分に耐えると見込んでの一撃ではあるが、実際大したものだ。
「これは……ヒメリ様!」
「と、ちょっと!」
 追撃すべきか否か、グレーシアの声に戦意を砕かんとした幽も思わず叫ぶ。
 アイスエルフの代表が投げかけた二つの氷結輪が吹雪を呼んだ。
「エンジン全開! アフターバーナー点火! 」
 咄嗟、高機動モードに移行した幽めがけ、出現した氷の巨人がエインヘリアルにも匹敵する巨体で割り込んでくる。
「目ン玉ひん剥いてよく見てなさい! ケルベロスのやり方を!」
 滑る地面に『タンクシューズ』を噛みこませ、その場で後方宙返り。ウェポンスラスターベンを対地方向へ全開。彼女の『フルヴェロシティ・マニューバー』は振り下ろされる拳を一歩も引かず回避し、上昇と同時に展開した『Eurypterid Mk-Ⅱ"Pterygotus"』アームドフォートの火砲を斉射。巨人のみを粉砕、相殺する。
「さすがだな……見込まれた事はある」
「褒める余裕があるなら、話くらい聞きなさいっての……!」
 荒い息で賛辞を送る騎士ヒメリに、幽は思わずとつぶやく。ある種余裕のある二人と、最大の手札を切ったグレーシアの息を飲む表情はいかにも対照的で、そして好機だ。
「妖精族の仲間である……皆さん。どうか、武器を……納めてはもらえませんか……?」
 白百合騎士が戦いへと集中していくなか、静かに雅はグレーシアたち一行へ呼びかけた。

●危機と選択
「ケルベロスは貴女達と……見ての通り、積極的に戦う意思を……持ちません。むしろ、貴女達を…新たな仲間に、迎えたく思います」
 回り込まれた事に動揺し氷結輪から霜を吹き付けてくるものもいるが、ウイングキャット『セクメト』に守りを任せ、雅はライフルを下ろして続ける。
「ヒメリ様の背を討てとと……?」
「今すぐとは、申しません。使役されるだけの運命を…変えてみたくは、ありませんか?」
 探るようなアイスエルフの視線に、雅は動揺を抑えるように言う。すぐにでなくとも、考え直す機会になればいいと。
「我々シャドウエルフやヴァルキュリアも歓迎され、今は地球に暮らしています。地球にも季節があり、南北に長い日本は四季があって……」
 重ねられるベルローズの説得が動揺から興味、そして信用へとグレーシアたちの心境を目に見えて変えていく。言葉を証明する彼女らの呼びかけは極めて効果的に響いたようだ。
「あなた方は協定や隷従なく、自分の意志でこの場にいると?」
「そう。エインヘリアル王族であるザイフリート王子もケルベロスと共に戦っているわ。嘘だと思うなら帰って、レリ王女に聴いてみなさい!」
 確認するようなグレーシアに幽が全てを伝える。一片の嘘もない真実は確認されても困ることはない。それは事実のみ語る彼女の意志表示でもあった。
「いけません……その選択はデウスエクスたる不死の身を捨てる事……グレーシア様っ、ぁっ!」
「……っ、まだわかんないの!? これじゃ、今アンタたち自身がアイスエルフを虐げてるって事に!」
 息荒く立ち上がる騎士ヒメリを幽は加減しながら蹴り飛ばす。
 ハール王女に利用されているだけのレリ王女と白百合騎士団を殺したくはない。さっさと引いてくれればというのが偽らざる心境だった。
「どういうことですの?」
「永劫の隷属より。限りある時間を……自らの意思で、生きる。それが、定命化を選んだ……私達の、誇りです」
 雅は自ら選んだ道だと強調し、全てを答える。
「不死でなくなる事への葛藤は理解しております。すぐでなくても構いません、自らの意思で考えて欲しいのです」
「SYSTEM HIBERNATION……もういいだろう。定命化したら最後には必ず死ぬ、それはデウスエクスも逃れえぬ地球の掟だ。だが迫害されたり戦争に利用されることはない」
 重ねて鎮紅がいう。『HW-13S』防盾で騎士らを抑えたマークはシステムを一時切り替え、アイスエルフ、そして騎士たちに呼びかけた。
「勝負はついた。今日のところは帰って今後どうするかは自分達の意志で決めて欲しい」
「そのようなことが、できると……?」
 だがそれはグレーシアの求めた答えではなかったらしい。
「まだだ……!」
「おもくそ面倒くせぇ事になってきたようだぜ」
 盾を構え、破壊のルーンを刻んで再起する白百合騎士団にジョーイが叫ぶ。手加減攻撃ではデウスエクスを無力化……戦闘不能にはできない。
「既にこの地はユグドラシルの一部、この地にいる限り定命化の楔は届きません! そして我々は、約束を果たす!」
「攻性植物との同盟はそういうことか……どうする? 状況はだいぶまずいぞ!」
 不屈の闘志を燃やす白百合騎士を『ゲヘノム・アックス』の石突で打ち据え、ティーシャは仲間たちを呼ぶ。
 背後にアイスエルフたちがいる限り、使命を重んじる騎士団が引くことはない。そしてアイスエルフたちの現状は自分たちだけ撤退するという選択肢を閉ざされている。
 気づけばケルベロスたちも選択を迫られていた。

●決断
「レリのバカ。本当に攻性植物と手を組むとかバッカじゃないの……虐げられてる女の子たちに救いの手を差し伸べるのがアイツの望みの筈でしょ……」
「そのための同盟だ。攻性植物だけではない……聖王女の威光があれば、世界は良い方に変わっていける……既に殿下はグランドロンを通じ、定命化に苦しむデウスエクスの大同盟を呼びかけている」
 ヒメリの弁がどこまで真実なのか、幽は知らない。だが王女の行動力が予想以上だったことは認める他ないようだ。
「不倶戴天のものにそこまで心配されるいわれはないが……そこまで心配なのなら、共にくればいい。レリ王女殿下は強き女性を歓迎する。アスガルドの王を廃した後、地球の者たちにも必ず手を……」
「違うそうじゃない!」
 説得するはずの自分たちがされる側になるとは。思いもよらぬ展開に応えなど出せるはずもない……背後には守るべき人々がいる、引くこともできない。
 事実上選択肢のない選択を投げつけられた苦しさは、あるいはアイスエルフたちも同じだったのだろうか?
「やるわ……やるしかない」
「了解。面倒くせェ話だ……が、王女様の差し伸べる手に俺らは含まれんだろ。なら最初から決まった事だ」
 思い詰めすぎんな、と言うようにジョーイが『特注のスーツ』の襟を正す。人斬りの冥刀が待ちかねたように光を反射する。
「その答えは残念だが、感謝する。決着をつけるぞ」
「手早く片すわよ……戦乙女とか騎士ってのは、ほんともう」
 生真面目な騎士ヒメリへ忠信の戦乙女に遺された『白銀の選定者』を抜き放ち、マイアは小さく溜息を吐いた。
 既に満身創痍の騎士団、全てを倒すまでそう時間はかからない。

「戦い敗れ、従属者の我々に逃げ帰る場所などない……という点は理解していただけてると期待しますけれど」
「あぁ。最終的にどうするかは自分自身で決める事だが、決断まで匿う事に異論はない」
「ではしばらくご厄介になりますわ。定命化の話は、また後程」
 ティーシャの答えにグレーシアは黙って頭を下げる。
 デウスエクスの世はさながら戦国、情報より、信念より、差し出す身の安全こそが彼女らが今欲したものだったのだろう。
「失点は分析し、次に繋げればいい。得られた情報は多い」
「御父様の研究に触れた時の衝撃を思いだします……ヒメリさんの話が、真実なら」
 確認するマークに、ベルローズは躊躇いつつも言う。
 デウスエクスの大同盟、全ての企てがうまくいくとは限らないが、それが為されれば恐るべき災厄となるだろう。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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