大阪都市圏防衛戦～疑心のアイスエルフ

■リプレイ

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「エインヘリアルの反乱に利用されているだけじゃないのか？」
「そもそも、攻性植物と手を組むなんて……」
　アイスエルフたちは、指導してくれている白百合騎士団の目を盗み、思慮を巡らすも、何よりも情報が足らない。
「そもそも、ケルベロスとは何だ？」
「我々を殺す事が出来るだと？　比喩表現か、それとも本当に？」
　ケルベロスの事も『エインヘリアルを殺す恐ろしい敵』としか教わっていない。
　これから戦うかもしれない相手の情報がそれだけというのも、アイスエルフたちの中で疑心を育てる原因となっている。
「アイスエルフの方々、訓練といえども警戒を怠ってはならぬぞ！」
　会話の内容が聞こえたか不明だが、雑談をしているのには気づいたようで、注意を促す騎士たち。そんな彼女たちには疑心は無い。あるのは、第四王女レリへの忠誠。
「そこにいるのは誰だ！」
　そんな白百合騎士団の一体が警戒の声を上げる。
「貴方達がアイスエルフさん？？　こんにちは～～クロノでっす」
　そんな声に答えるように、のんびりとした声と共に、武器も構えず現れたのはクロノ・アルザスター（彩雲のサーブルダンサー・e00110）を先頭にケルベロスたち。
「……？」
　普通に挨拶してきたケルベロスたちに、白百合騎士団も含め、全員が困惑する。
「えっと、こんにちは……アイサリファスです」
　困惑の中で、思わず返事をしたアイスエルフの一人、アイサリファス。
「い、いや……えっと……私はア……じゃなくて！　誰に何を挨拶しているんだ！」
　白百合騎士団も、困惑している様子で、本来なら即座に攻撃すべき相手なのに、返したのは先制の攻撃ではなく言葉だった。
「はじめましてだね。私はノーフィア。ノーフィア・アステローペ。こっちのはペレ。よろしくさ？」
　続けてノーフィア・アステローペ（黒曜牙竜・e00720）も、ボクスドラゴンのペレと一緒に挨拶を交わす。
「あ、どうも……はじめまして。私はイリスサラーフィ」
　ノーフィアに答えたのは別のアイスエルフ。
「いや……えっと、お前ら、ケルベロスだよな？」
　リーダーらしき白百合騎士団の一体が慌てて武器に手をかけながらも、少し冷静になった様子。逆にケルベロス側の策略だと考えた様子で、周囲を警戒する。
「そうです。ケルベロスです。私は愛柳ミライ。明日のために、ストレートに仲良くなりにきました！」
「そして、アイスエルフの人たちに情報を教えに来たんだよ！」
　愛柳・ミライ（宇宙救命係・e02784）と那磁霧・摩琴（医女神の万能箱・e42383）が警戒する騎士たちへと勇気を持って笑顔と共に言葉を返す。
「……」
　反応に困る白百合騎士団やアイスエルフたちに、言葉を続けるケルベロスたち。
「私はフローネ・グラネット。貴女たちには、状況に流されるのではなく、自分自身で見極め、決断して欲しいと思い、話をしに来ました」
　フローネ・グラネット（紫水晶の盾・e09983）もミライを支えるように、背中にそっと手で触れながら自身も名乗り言葉を交わす。
（「やはり女性のアイスエルフだけなんだね」）
（「その理由の確認を行なったりは、しておらぬでござろうか？」）
　そんな警戒と困惑の入り混じった雰囲気の中で、静かに様子を見守るアトリ・セトリ（エアリーレイダー・e21602）と九部・玲（鳥獣戯画・e50413）。
　そして、この場で唯一の男性である竜ヶ峰・焔（焔翼の竜拳士・e08056）はちょっと距離を取り、周囲を警戒している。
「それで、ケルベロスって言うのは……」
　そのまま、ミライたちはケルベロスについて、説明を続けた。定命化の事、そしてデウスエクスを殺せる事、コギトエルゴスムを壊せる事を……。
「そんな事が……」
「……定命化？　それは、ただ殺される時間が変わるだけではないのか？」
　ミライの言葉に、アイスエルフたちは不安を抱き、恐怖に駆られ、焦燥を感じていた。
　それでもミライは言葉を続ける。知らないまま戦わせられるよりも、知って判断して欲しいから……。
　ミライの言葉にフローネも声を上げる。
「シャドウエルフやヴァルキュリアは仲間になりました」
　フローネの言葉に繋げ、他のケルベロスも地球で起こっていることを簡潔に説明する。
「今では、十を超える種族が暮らす世界です。もっと多くなって欲しい……」
「定命化の問題なぞ、解決し……」
　そんなミライの言葉に、被せるように口挟む騎士の一体。
　しかし、その前にミライが言葉を重ねる。
「だけど……定命化なんて、しなくていいと思ってます。ただ、ただ、仲良くできれば。好きになってくれれば、それでいいのです」
「え……いや……」
　『定命化』しなくてもいいと告げるミライの言葉に、困惑する騎士。
「私が、私達が、皆さんのことを好きになるって、約束、しますから！」
　そんな騎士も含め、アイスエルフたちにはっきりと気持ちを告げるミライの心に嘘は全く無い。だからこそ、困惑する。
「あ……それはともかく、アイスエルフの皆よ、定命化に関しては心配無い。この地はユグドラシルの一部であり、ここに居る限り、定命化は進行しない！」
「そうなのですか！」
　定命化の話で、混乱したアイスエルフたちは、騎士の言葉で、少し冷静さを取り戻す。
「そうだ。レリ様は、私たちの為にも、攻性植物と同盟を組む事を選んでくれたのだ！」
　アイスエルフを安心させる目的なのだろうが、とても重要だと思われる事をケルベロスたちにも聞こえる声で話してしまう騎士たち。

　だが、攻性植物が本当に信用出来るのだろうか？　その疑問を問いかけるのは焔。
「お前たちは、エインヘリアルと攻性植物との同盟について、どう思っているんだ？」
「いや、正直……信頼なんて出来な……」
　アイスエルフ、アイサリファスが本音を漏らすも、それを遮るように言葉を重ねる一体の騎士。
「いままでの攻性植物は、信用に足らぬ存在であった」
「しかし、聖王女の威光により、世界も攻性植物も良い方に変わっていくのだ！」
　きっぱりと言い切る騎士たち。しかし、そんな言葉にアイスエルフたちはやはり半信半疑。しかし、攻性植物が変化しているのは、ケルベロスたちも目の当たりにしている。それが、エインヘリアル……いや、レリ王女にとって良い方なのかは、やはり疑問だ。

「私が知っているレリ王女は、アイスエルフたち、貴女たちを利用するような人ではない。しかし、ハール王女はどうだろうか？」
　フローネは第三者の視点で見たレリ王女の人なりを伝える。
「そうだ！　レリ様は素晴らしいお方だ！　貴女たちも、我々に協力してくれるならば、アスガルドの王を廃した後は、必ず、この地球の『女性』にも手を差し伸べる。一緒に戦おうではないか！」
　熱い想いと共に語られる思想。しかし、その思想には残念ながら大きな隔たりがある。さらに騎士たちにとってはハール王女の事もレリ王女に任せれば大丈夫だと信じているのだろう。
「……」
　実際に、そんな熱くケルベロスの『女性』を仲間に誘い、レリ王女を忠義を捧げる白百合騎士団にアイスエルフたちは冷たい視線で見つめる。
　そんな視線に、玲が質問を挟む。
「復活したのはいいものの、男が居らぬというのは些か不可解な状況でござらぬかな」
　そう、別にアイスエルフは女性だけの種族ではない。なのに、この場にいるのは女性のアイスエルフのみ。
「……」
　玲の質問に沈黙で返すアイスエルフ。ただ、表情から、男性アイスエルフの事を心配しているのが伝わってくる。
「第四王女は、男性には不平等な扱いをする可能性があるよ」
　アトリは心配していた男性アイスエルフの事を伝える。白百合騎士団はエインへリアルにおける女性の地位向上を目指して結成された集団。
「女性が優遇さえていなかった結果だ！」
　そんなアトリの言葉に、迷いなく言い放つ騎士。しかし、それはアイスエルフの女性たちが望んでいる事ではない。なので、男性アイスエルフが人質にされていると感じている様子でもある。
　そんな、アイスエルフの様子からアイスエルフの男性たちを救出したいという願いを感じる事は出来たが、ケルベロスたちに協力を申し出るには彼女たちには、考えるべき事が多すぎるのだった……。

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　最初に声をかけたのが、クロノたち女性だったのが、効果があったのだろうか、最初の想定とは違い、かなり色々と話をしてくれている。
「……！？」
　そんな状況に、やっと気付いた騎士が現れた。
「そ、そもそも我々は敵同士！　貴様らの言葉などに耳を貸さぬ！　レリ様の為のグラビティチェインとなれ！」
　かなり今更ながらだが、このままではアイスエルフに訓練にもならず、任務を果たせない。柔和な空気を切り裂くように抜刀し、クロノへ斬りかかる。
「ちょっと待ってよ、私達交流したいだけなんだって」
　クロノは剣を避けながら、嫌々ながら応戦の構えを見せる。話し合いが目的であるが、殺される訳にはいかない。
「全員抜刀、攻撃を開始せよ！」
　リーダーらしき騎士が声を上げる。いまさら、剣を引く訳にはいかない。血気盛んな……いや、騎士として真っ当な判断をした彼女により切られた火蓋は、容易に閉じる事は出来ない。
　多数の思惑が入り混じった戦いが開始されてしまった……。

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「アイスエルフたちも後衛より攻撃を開始しろ！　我々が守る！」
　アイスエルフへも攻撃の指示を出すと、彼女たちは悩みながらも、攻撃を開始する。現状では、彼女たちには他の選択肢は無いのだろう。
「……やるしかねぇか」
　アイスエルフの攻撃を真正面で受け、踏ん張り一歩踏み出す焔。
　竜の爪を地獄の炎で覆い、騎士へと叩きつける。
「貴様もいい加減剣を抜け！」
　星座の重力を込めた斬撃を避けきれず、受けてしまったノーフィア。
「あー、もう仕方なしー！」
　やっと剣を抜くノーフィア。
「ペレ、応戦するよ」
　彼女の言葉に応え頭の上から飛び上がるボクスドラゴン・ペレ。
「黒曜牙竜のノーフィアより、アイスエルフの勇士たちへ。剣と月の祝福を」
　戦いの名乗りをあげるノーフィア。
「『制圧』と『氷』を司るアイスエルフ・イリスサラーフィ、運命により貴女を制圧させていただきます！」
　ノーフィアの名乗りに答えたアイスエルフ。
「貴女の情報には感謝するも『定命化』などは理解出来ません」
　決別の言葉と共に、氷結輪を放ちノーフィアを狙うも、割り込むのは紫水晶の輝き。
「できれば、私達の友人になって欲しい。けれど、故郷に戻りたい恩義に報いたいならば、決断は尊重します」
　言葉と共にアームドフォート・トパーズキャノンを展開、前衛の白百合騎士団に無数のレーザーを放つ。
「ここに居ない皆とも、相談してほしいな！　私達はその決断を尊重するよ！」
　騎士を攻撃しながらも、アイスエルフたちへ言葉を投げるノーフィア。
「いい加減、黙れ！」
　会話を続けようとするケルベロスに業を煮やし剣を振るう騎士。
「どちらに着くか、決めるまで、手を出すつもりはないよ」
　アイスエルフへの攻撃は一切せずに戦うアトリたち。機敏な動きを生かし、影の残像を残すほどの動きで攻撃を受け流すと同時に、視覚困難な斬撃を繰り出す。
「星に帰ったって良い事なんて無いわよ、そいつら見限って地球で暮らしたら？」
　グラビティチェインを込めた矢で騎士を居抜きながらも、アイスエルフに声をかけ続けるクロノ。
「……すみません。少し時間を下さい」
　アイサリファスが困惑しながら言葉と共に、氷結輪を放つ。クロノたちの言葉が届いていない訳ではないだろうが、それを飲み込むには時間をかけ、歴史から説明する必要がある。
「大地の精霊さん、お願い、力を貸して！」
　友達になりたくても、殺される訳にはいかない。ミライも先生から教わった精霊魔法で自衛する。
「いざいざ、ご賢覧あれ！」
　言葉と共に、巻物を開きながら筆を取る玲。
「我が渾身の一筆にて描き上げるは黒塗りの獣たち！！」
　そのまま、巻物に筆を走らせ描くのは、虎の群れ。
　玲が巻物に描いた虎の群れが、実体化し白百合騎士団へと襲い掛かる。
　墨の虎に襲われた惑う騎士たちへ摩琴が動く。
「手は抜けないよ」
　言葉と共に懐から取り出すのは、お手製の調合薬。封を切ると、霧化して騎士たちを包み込む。
「霧はキミの栄光を包み込む。過ぎ行く日々が霞みゆく。その目に写るはイヌサフランの危険な美しき絨毯」
　摩琴の言葉と共に、包み込んだ霧が重力を帯び、騎士たちの体を侵食しダメージを与えていく。
「がはっ……」
　摩琴のグラビティにより、倒れたのは最初にケルベロスに攻撃を仕掛けた騎士。
　そのまま、霧に飲まれるように消滅していく……。
「これがデウスエクスを滅するケルベロスの力だよ」
　倒れた騎士が、消滅していく様を様々な感情を込めた言葉で説明する摩琴。
「デウスエクスの地球侵攻の時には、ただ殺されるしかなかった地球の民が身に付けた……自分を、大事な人を、地球を守る力さ」
「……」
　シャドウエルフの摩琴の言葉に、息を飲むアイスエルフたち。
「ボクたちはこの力で、ただデウスエクスを滅している訳じゃない。力を振るう相手は選んでいるよ……」
　摩琴の言葉に、戦場が沈黙に支配される。
「……ここまでか。アイスエルフの皆よ、撤退せよ！」
「は、はい……」
　消滅した仲間に黙祷を捧げたのち、リーダーらしき騎士が指示を出す。数的有利があるものの、最優先事項はアイスエルフの訓練及び守護。
　戦意減退したアイスエルフを守りながらの戦いに危険を感じ、アイスエルフたちに撤退の指示を出す。
「……この子のお名前、教えてもらえませんか……？」
　自衛の為とはいえ、倒れてしまった騎士の名前を聞くミライ。
「……」
　一瞬躊躇するも、何も告げず撤退していくエインヘリアルたち。
「戻ったなら、皆で話し合い、自分達の道を自身で決めて欲しい」
「地球で暮らしたいなら、おねーさん、全力で頑張るわよ」
　撤退していくアイスエルフへ言葉を投げるフローネとクロノ。
「……」
　その言葉には応えず、様々な想いを抱えながら、撤退を開始するアイスエルフたち。
「彼女たちに伝わってれば、いいんだが……」
　そんな彼女たちを武器を収め、見送る焔。
「私としては、友達が増えて欲しいけどね！」
「次は仲間として会いたいね」
　ノーフィアと摩琴は、静かに自分の想いを口に出す。それは遠くない未来に再び出会う願いだろうか。
「しかし、この話を鵜呑みには出来ないんだよね」
　摩琴が呟く。彼女の言う通りだ。今回得られた情報は、白百合騎士団の中でも、下位の騎士からの情報に過ぎない。あの騎士たちが知らされていない……又は意図的に間違った情報が教えられている可能性もある。
　『敵を騙すにはまず味方から』という言葉を忘れず、最低限とはいえ、作戦の成功を手土産に帰路に着くケルベロスたちであった。

作者：雪見進	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年3月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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