大阪都市圏防衛戦~白百合と氷の戦舞

作者:柊透胡

「これより、緩衝地帯の哨戒任務を開始する」
 大小様々の人影を前に、小隊長らしきエインヘリアルの女騎士が声を張る。
「基本は隠密行動を主とする。緩衝地帯を抜けた先は、地球の領域だ。この領域に少しでも食い込む為の情報収集が我々の任務だ……特に、氷と制圧を司る、アイスエルフの力に期待している」
「まあ、貴女達の戦闘訓練も兼ねているんだけどね。コギトエルゴスムから復活したばかりだし、戦闘になっても無理はしないでね?」
「……また、お前はそんな甘い事を。士気が緩むではないか!」
「だって、ハール様が王を打倒すれば、再び妖精8種族がアスガルドで暮らせるようになるのよ。その時に、女の子の顔に傷が残っていたりしたら、大変じゃない」
 毅然として堅そうな小隊長とは対照的に、副小隊長の方は慈しむような笑みを浮かべている。
「そうそう、『ケルベロス』には特に気を付けなさいね」
「ああ、彼奴らに倒されたら、コギトエルゴスムにも戻れず、本当に『死んで』しまう事になる。これまでにない恐ろしい敵だ。最低限、己の身は護るように」
「……っ。そんな怖いものがいるなんて」
 最後列で怯えたように身を震わせるアイスエルフの肩を、同族の少女が宥めるにように抱く。
「大丈夫。キミの事はボクも護る」
「でも、やっと復活出来たと思ったら、エインヘリアルが攻性植物と手を組んでるなんて……あたし達、エインヘリアルの内乱に利用されてるだけじゃない」
「だとしても……アスガルドで再び暮らせるなら、戦う意義は充分ある」
 腰に下げた雪の結晶型の円盤に触れ、中性的な面立ちのアイスエルフは、凛とエインヘリアルの女騎士達を見据える。
「久々の出陣だ。エインヘリアル達にも、アイスエルフの戦い方を思い出させてやるさ」

「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を静かに見回す。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明となっていた『宝瓶宮グランドロン』。これまでも、関連する事件が複数起こっていますが、大阪城周辺からも情報が寄せられました」
 攻性植物との緩衝地帯となって久しい大阪城周辺は、竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていたが、その中に――エインヘリアルの騎士と『妖精8種族であるアイスエルフ』と思われる女性の姿が確認されたという。
「これは、復習ともなりますが……『エインヘリアル』の故郷、『アスガルド』は隣接する世界『ユグドラシル』に支えられて存在しており、ユグドラシルに住まう『攻性植物』と緊張関係にあります」
 敵の敵は味方、という言葉の通り、内乱を目論む第二王女ハールは攻性植物との同盟を強化する事で、リザレクト・ジェネシスで消耗した勢力を盛り返そうとしていると推測される。
「第四王女レリが、アイスエルフを自らの騎士団に組み込んだのもその一環でしょう」
 敵はレリ配下の白百合騎士団のエインヘリアル8体、及び、アイスエルフ8体の混成軍。エインヘリアルはゾディアックソードとルーンアックスの使い手に分かれ、アイスエルフは氷を操る種族の業と独特の円盤を武器に使うようだ。
「この小隊の移動ルートは、ヘリオンの演算より大凡把握出来ています。市街地の地形を利用し、隠密行動での接近が叶えば、奇襲攻撃も可能でしょう」
 復活したばかりのアイスエルフは戦闘力こそ低いが、ケルベロスの襲撃があれば自衛の為に反撃してくるし、エインヘリアルの騎士達もアイスエルフを守るように動くようだ。
「エインヘリアルの女騎士は、何れも白百合騎士団の一般兵です。アイスエルフの方も女性ばかりのようですね」
 無論、アイスエルフが女性ばかりという訳ではないだろう。女性の地位向上を目指すレリの思想と意図に因る所が大きそうだ。
「エインヘリアルを全滅させた状態で、アイスエルフを説得する事が出来れば、連れ帰る事も可能でしょう」
 とはいえ、自分達を守って戦った騎士を殺したケルベロスを、すぐには信用し難いかもしれない。説得を目指すならば、アイスエルフからの印象を良くするような戦い方も考慮すべきだろうか。
「説得出来なかったアイスエルフは、撃破しても撤退させても構いません。判断は、皆さんにお任せします」
 内乱に勝利する為に敵国と組む行為は、けして褒められた事ではない。それだけ、第二王女勢力が追い詰められているという事か。
「攻性植物にしてみれば、エインヘリアルが内乱で混乱すれば、都合がいいからという思惑のようですね」
 尚、今回の偵察任務は、復活したばかりのアイスエルフの戦闘訓練も兼ねている様子。
「戦闘種族であるエインヘリアルにとっては、善意の訓練であるようですが……アイスエルフの認識に乖離が窺えます。上手くそこを突けば、アイスエルフの説得も叶うかもしれませんね」


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)

■リプレイ

●説得の相手は
 緩衝地帯は静かだった。奇襲は警戒するものの、これから会う『彼女ら』への言葉を考えながら、ケルベロス達は往く。
「レリ王女、ザイフリート王子と似てると思う。何か切欠があれば、仲良く出来ると思うんだけど」
 第四王女と親和を願うウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、白百合騎士団とも敵対的になりたくない。
「まあ、戦う努力だけするよりいいんじゃないかなぁ」
 そう応じた秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)だが、彼女の目的は「エインヘリアルを倒し、アイスエルフを説得する事」。青年より少女の方が、シビアという現実。
(「話し合いだけで済めば最上だけど……ま、無理だよねえ」)
 余り口は上手い方じゃないと、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)は頬を掻く。
「正直説得とか苦手だけど。やるだけはやってみようか」
「けどさ、ピンチになったからって、アイスエルフの女性だけ目覚めさせるってのも、虫が良過ぎないか」
 シャドウエルフ故に、妖精8種族でに何となくシンパシーを感じるヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。一方で、エインヘリアルに余り良い印象はない。
「それぞれの陣営に正義があるんだろうな。だから、俺はどちらも否定はしない」
 ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は、公平に見ようと努めている。アイスエルフがエインヘリアルの事情ばかり、一方的に吹き込まれている現状は良しとしない。
「アイスエルフ自身の目で見て、感じて、そして判断して欲しいものだ」
「まあ、アイスエルフとは、共存の道を探るべきだろう」
 ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は、静かに瞑目する。
(「ボクスとの邂逅を、思い出す」)
 ビーツーとボクスドラゴンは以心伝心。ローブからひょっこり出てきた白橙色の頭をそっと抑えながら、ビーツーは今1度、ボクスが共に在る事を感謝する。
「いたよ、あそこだ」
 果たして、曲がり角からティユ・キューブ(虹星・e21021)が指差す先――広めの交差点に、彼女らはいた。
(「アイスエルフの説得……難しそうですけど、わたくし達ヴァルキュリアも地球に受け入れて貰いましたし。上手くいくといいですわね」)
 やはり様子を窺うシフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)だが……ふと首を傾げる。
「それよりお昼ご飯はまだでしたかしら」
「お、お昼……?」
「そう言えば、この頃、家に現金は幾らあるかとか、やたらと尋ねる電話が掛ってくるのですけど……」
「……OK、そっちの心配は後回し。今は目の前に集中しよう」
 シフォルのピントのずれた言葉に困惑して、ティユはボクスドラゴンのペルルと顔を見合わせた。

●意識の齟齬
 奇襲はしない――それが、ケルベロス達の選択だった。
「戦うなら全力で。騎士に対する礼儀だよね……でも、まず話したい」
 だが、ウォーレンの穏健な姿勢に、彼女らが応えるとは限らない。
「敵襲! 直ちに戦闘態勢に移れ!」
 ケルベロスと見るや、間髪入れず白百合騎士団もアイスエルフも臨戦態勢。
「グラビティと眼力で、ポジションを見定めよ!」
「そうねぇ……アイスエルフちゃん達は、後ろのボクスドラゴンはどうかしら?」
 前衛にて号令したのが小隊長なら、中衛で標的を指示したのが副小隊長か。
 ケルベロス達とて、対話の為の主導権の確保も目指した。だが、対話は相手が応じてこそ。先制攻撃は一方的な速度勝負だ。
「……っ!」
 息呑むビーツーを掠め、巨大な氷柱が、強烈な冷気が、迸る――標的は、ボクス。
 咄嗟に氷柱を遮るビーツー。ティユもペルルも、冷気発する六花の円盤を阻む。だが、ディフェンダーも総て庇えない。最後に氷の巨人の狙い澄ました拳がボクスを叩き伏せる。
「く……」
 愛し子掻き消え、奥歯を噛み締めるビーツー。
 その間に、騎士らは破壊のルーンを宿し、地面に守護星座を描く。前衛をエインヘリアルが固め、後衛にアイスエルフ。中衛は混成だが、対アイスエルフの命中率は明らかに低い。キャスターだろう。
「……もう仕方ない?」
 ヴィルフレッドは顔を顰めている。「敵が攻撃するまで説得」の心算でいたが……ここは敵地。彼女らが対話してくれると考えたのは、甘かったかもしれない。
「よく出来ました。次は……」
 既に、副小隊長は次の標的を値踏みしている。このままでは一方的に削られるだけだ。
 小さく溜息を吐き、後衛を爆煙で鼓舞するヴィルフレッド。深呼吸したビーツーはフィニクスロッドを掲げ、やはり後衛に雷壁を巡らせる。
「やあ、御同輩……っていうにはちょっと遠いかな?」
 アイスエルフ達に声を掛け、エリシエルは軽やかに駆ける。
「ボク達、別に君達と戦いたい訳じゃないんだよね……」
 小隊長に炎の蹴打を叩き込むが、その感触は『硬い』。ディフェンダーか。
「そっちもそうじゃない?」
「『氷』を浴びて、まだそんな事が言えるか!」
 小隊長は高々と跳躍、斧刃を頭上から叩き付けてくる。
「そっちの陣営、お先明るくないでしょ? 敵の敵は味方だけど。敵がいなくなったら? 狡兎死してってよくある話だよ」
「コウト……?」
「狡兎死して走狗烹らる――敵国が滅びると、功臣は却って邪魔者扱いされて殺されるのよ」
 面倒くさそうな副小隊長の補足に、小隊長はフンッと鼻を鳴らす。
「確かに、これまでの攻性植物は信用に値しない……だが、聖王女の威光があれば!」
(「聖王女?」)
 内心で首を傾げるティユ。どうやら、攻性植物に変化があった模様。
(「ここまで愚直だと、虚言の可能性は低いけど……そもそも、騎士達が知らされた情報が虚偽かもしれない。過信は、禁物」)
 故にティユも、癒しの花を撒きながら揺さぶる。
「都合の良い女性のみ復活させて、内乱に利用されるだけの状況で、本当に正しい情報を得ていると思うかい?」
「うんうん。どうしても利用されてる感じに見えちゃうよね……」
 違うと言うなら話し合いたい結乃だが……騎士達の様子からして難しそう。
「心外な。我々に協力するならば、アスガルドの王を廃した暁には必ず、この地球の女性にも手を差し伸べる」
 小隊長の言葉に、騎士達も深く肯いている。
「だったら……虐げられた女性の為に戦う、弱きを助け強きを挫くレリ王女と、僕らが願う方向は同じだと思う」
 ケルベロスは、地球の人達をデウスエクスから守る為に戦っているから――チェーンソー剣を振るうウォーレンだが、対話はまだ諦めていない。
「先の会談で、ハール王女の為に手を汚す覚悟と聞いたけど。今のレリ王女の処遇を考えると――」
「笑止」
 男性であるウォーレンの言葉にはにべもない。
「地球でも、女性は差別され抑圧されている」
「そんな事……!」
「この国の代表は『総理大臣』らしいけど。女性がなった歴史はないそうねぇ」
 剣に宿した星座のオーラを飛ばし、皮肉を挟む副小隊長。
「100代近くも男の支配を許容していて願う方向が同じ? 戯言も甚だしい!」
 埒が明かない。エインヘリアルは自説を曲げないし、アイスエルフ達も戦わざるを得ないだろう。
 まずは指揮官を――メディックを始めヒール偏重で手控えていた攻撃が、一斉に小隊長へ殺到する。無論、彼女らとて盾がいるが、やはり全ては阻めない。
「導こう」
 ティユが星の輝きを以て星図を投影すれば、ペルルもエリシエルに属性をインストール。
「もう逃がさない」
 黒き竜――ウリルが嗤えば、禁断の契約は闇黒と血の虜となり、鎖で繋ぐ。即ち、麻痺伴う斬撃。
 ――山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり。「万理断ち切れ、御霊布津主!」
 脱力から一気に加速。エリシエル最速の斬撃も鮮やかに。重ねて回復されようと、それを上回る火力を畳み掛ければ。
「……そんな!?」
 声も無く崩れ落ちた小隊長を前に、副小隊長が息呑む暇があればこそ。
「君の動きも把握済さ……なんてね!」
 菓子を核に氷を形成、死角から螺旋氷瀑波を放つヴィルフレッド。シフォルと結乃の厚い回復を見て取り、ビーツーも星形のオーラを蹴り込む。
 顔は傷付けない――ウォーレンの電光石火の蹴りが急所を貫けば、とうとう副小隊長も倒れる。
「今は退いてくれないか」
「貴女達が倒れたらきっとレリ王女が悲しむ。増々後に退けなくなる」
 だが、男性であるウリルやウォーレンの気遣いはそれこそ『余計なお世話』。
「そろそろ風が吹くころですわね……大きな戦の風が。次は誰と戦争なのかしら」
 独り言にしては大声で呟くシフォル。
「レリに理想はあっても、理想を実現する手段も理想を支える器もありませんわ。このままでは依存するハールの捨て駒……その時、真っ先に使い潰されるのはアイスエルフですわね」
「なっ……!!」
 レリを愚弄されたと思ったか。騎士の攻撃は苛烈を増す。
「この地に居る限り、定命化は進行しない。レリ様は私達の為に、攻性植物と同盟を結んだのだ!」
「我々と攻性植物だけではないぞ! ドラゴンを初め、定命化を恐れるデウスエクスも何れ仲間となるのだ!」
 意気揚々と、己が情勢を誇る騎士達。
「男に恐れをなして退くなど、レリ様の誇りに泥を塗るも同然!」
 対話は互いに聞く耳あってこそ。それは、白百合騎士団に致命的に無いものであった。

●アイスエルフ
 最後の騎士が倒れた時、アイスエルフ達は身を竦ませた。
「……っ」
「大丈夫、アイスエルフに危害は加えないと約束する」
 穏やかに話し掛けるウォーレン。
「此処は大阪、地球の上だ。今は攻性植物との緩衝地帯とされているが、元々此処にも民が住んでいた……今は避難中だがな」
 ビーツーは努めて冷静に、状況を説明する。
「俺達ケルベロスは、侵略を防ぐ為に戦っている。俺達が戦わねば、地球の皆が死に怯えることになる……貴殿等が俺達に抱いたであろう、その感情をずっと」
「アスガルドで、皆で共存出来たらいいよねっ。難しいと思うけど……」
「アスガルドで?」
 続く結乃の言葉に、アイスエルフは怪訝そうだ。アスガルドは今やエインヘリアルの星だ。そこをどうこうするという事は、エインヘリアルと事を構えるという事に他ならない。
「戦いたくないなら、戦わなくていい。平穏に暮らしたいなら、最大限の便宜を図るよ。ボク達と一緒に、来てくれないかな?」
 アイスエルフ達の怯えを敏感に感じ取り、エリシエルは言い添える。
(「セントールとかタイタニアの事もあるし、手伝ってくれるとありがたいんだけど」)
 アイスエルフにも、ケルベロスの知らない知識もあるだろうし。
「ねぇ、アスガルドってどんな所? 楽しく良い所なのかい?」
 好奇心旺盛に話し掛けるヴィルフレッド。
「地球はさ、色んな種族がいて面白いんだ。もし安住の地を求めるなら、地球も検討してみて……エリシエルさんの言う通り、戦わなくてもいい選択肢もあるよ」
 ヴィルフレッドは説明を続ける。やはり妖精8種族であるシャドウエルフとヴァルキュリアは、エインヘリアルに地球侵攻の尖兵として送り込まれ――その後、地球を愛し定命化したと。
「地球は、地球を愛する者すべてを受け入れますわ」
「定命化……?」
 シフォルも優しく言い添えたが、アイスエルフ達は定命化という言葉に、寧ろ恐怖を浮かべた。
(「まずい……」)
 内心で焦るビーツー。デウスエクスにとって定命化は『不死ではなくなってしまう』という、大きなデメリットがある。特にアイスエルフは大侵略期以前からコギトエルゴスム化しており、『定命化するべき理由』も全く理解出来ない。理解を求めるには『時間を掛けて、歴史から説明する』必要がある。
「そちらにも事情があると思うけれど、エインヘリアルの話のみでなく、こちらからも地球の現状を説明させて貰えないだろうか?」
 だから、ティユは結論の先延ばしを提案する。
「信じて貰う他ないが、話を聞いた上で行く道を決めてみないかい?」
 状況に流されるまま、エインヘリアルに従う事が本当にアイスエルフの為になるとは思えない。
(「何の為にどう動くべきか。僕らの話も判断材料に過ぎないけど。ただ、考える機会を」)
「ケルベロスはデウスエクスを殺せますが、無闇に殺戮するつもりはありませんわ。名目が必要でしたら……『捕虜』という形式で、地球を見てみませんか?」
 シフォルの言葉に、ウリルも静かに頷く。ケルベロスにデウスエクスにない力があるのは事実。でも、誰も彼も構わず力を使う訳ではない。
(「仲間、家族、大切な人……俺達にも守りたい人達がいる。大切な人が居る場所が、故郷だ」)
 脳裏に最愛の妻の顔を浮かべながら、ウリルも説得を口にする。
「エインヘリアルに恩義もあるだろう。でも、君達は今、自分でちゃんと選んでいるんだろうか?」
 その上でエインヘリアルと共に戦いたいなら、もう止めはしない。
「もう1度考えて欲しい。選択肢は1つだけじゃないんだ」
「僕らが地球を守る為に戦っているのも自分の意志で、男女とか関係ないしね」
 アイスエルフ達が落ち着いてきたのにホッとして、ヴィルフレッドも笑顔で付け加えた。
「改めて聞こう、俺達と共に来る気はないだろうか? 全員が徒に戦う以外の道が、きっと在る筈だ」
「エインヘリアルの騎士達の情報は断片的だよね。僕達からも状況を説明するから」
 ビーツーとウォーレンの言葉に、アイスエルフ達は顔を見合わせ……やがて、1人が進み出る。
「この状況で、ボク達が逃げ戻ったとして……恐らく処罰を受ける」
「それは……」
 女性に優しいレリ王女が、アイスエルフの女性達に厳しくは無いと思うウォーレンだが、彼女の言葉は兵としての常識と言えよう。
「確かに、キミ達はボクらアイスエルフを攻撃しなかった。言動の一致は信用に値する」
「だったら!」
「1つだけ条件……ううん、お願いがあるの」
 もう1人が、おずおずと口を開く。
「グランドロンから、仲間のコギトエルゴスムを救い出して欲しいの……特に、男性のを」
「レリ王女も騎士も、私達には優しかったけど……男のアイスエルフをどうするか、心配」
「私達の家族とか、恋人だっているのに……」
 漸く緊張が解けたか、他のアイスエルフ達も口々に。
「エインヘリアルの王女って、攻性植物を仲間にして反乱を起こそうとしてるんでしょ?」
「妖精8種族も反乱の戦力にする気みたい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 何だか、色々と駄々漏れている……慌てて遮ったビーツーは、先に帰還を提案する。
「じゃあ、握手! 情報交換は後で、ね?」
 女の子がお喋り好きなのは、どんな種族も変わりなさそうだ。そんな事を思いながら、握手する結乃。
「折角だし、盛大に歓迎しないとね。やっぱり、熱いものとか苦手?」
 忙しくなりそうだと、エリシエルは楽しげに碧眼を細めた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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