大阪都市圏防衛戦~凍てつく祈り、示せ熱き意思

作者:月見月

 攻性植物の支配下にある大阪城、それを中心として広がる緩衝地帯。これまで主に竹の攻性植物たちが部隊を組んで哨戒活動を行っていた地域へ、新たな者たちの姿が現れ始めていた。
「さて、この辺りで良いだろう……これより戦闘演習を開始する」
 純白の甲冑に身を包みし女騎士の小部隊、その数八名。彼らはエインヘリアル第四王女配下の白百合騎士団、そのメンバーである。攻性植物と協力関係にある彼らは、それを利用してここ大阪城にて練度向上の為の軍事訓練を行っていた。
「本演習の目的は貴様らの練度を確認し、それを強化することだ」
「だが、そこまで気張らずとも良い。まだ目覚めたばかりだからな、無理はするなよ?」
 しかし、そこに居るのは女騎士ばかりではなかった。彼女らとはまた別に、八人の人影が在った。こちらも女性ばかりであり、パッと見、儚げな少女の外見を白と蒼の氷が飾り立てている。彼らは不安と期待の入り混じった視線を、女騎士たちへと向けていた。
「なに、案ずるな。氷と制圧を司る『アイスエルフ』の力を知りたいだけだ。それに、貴様らが武功を立てれば、ゆくゆくはアスガルドで妖精八種族がまた暮らせるやもしれんのだ。損ばかりではあるまいよ」
 少女達……封じられてきた妖精八種族が一、アイスエルフたちへそう言葉を掛けながら、女騎士は周辺警戒へと戻ってゆく。それをしり目に、アイスエルフたちはひそひそと囁きを交わし合う。
「あの方らの言っていることは、真実でしょうか……?」
「分かりません。我々の眠りは余りにも長く、また状況は変化をし過ぎています。なぜ、敵対しているはずのエインヘリアルと攻性植物が手を組んでいるのでしょう?」
「彼女らは、我々を厚遇して下さいます。ですが、その裏にどのような意図があるのか……」
 アイスエルフたちが白百合騎士団の面々と言葉を交わした時間は短いが、それでも彼女らの人柄が良いものであると感じられた。ただ、彼女らはあくまでも末端の兵士だ。その上が何を考え、何を狙い、自分たちに何を求めているか。そんなものまでは分からない。情報が足りなかった。判断を下し、身の振り方を考えるだけの情報が。
「あ、そうだ。貴様らに一つだけ言っておくべきことがある」
 唐突に掛けられた言葉に、ビクリとアイスエルフたちが肩を震わせる。一方の女騎士はそれに気づくことなく、先を続けた。
「本来、不死不滅である我らを滅ぼす者、ケルベロスという者らが今の時代には存在する。劣るつもりはないが、決して侮れん敵だ。奴らにだけは注意しろ……本当に死ぬぞ?」
 そう告げて、警戒へと戻る女騎士。その言葉に、アイスエルフたちは緊張の度合いをさらに高めゆくのであった。


「さぁて、集まって貰って感謝っすよ! それじゃあ、早速説明するっす!」
 集ったケルベロス達を出迎えながら、オラトリオのヘリオライダー・ダンテはそう口火を切って説明を始めた。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる情報が、大阪城周辺から報告されたっす!」
 元々、そこは竹の攻性植物による警戒網が敷かれていたのだが、そこにエインヘリアルの女騎士と、妖精八種族の一つ『アイスエルフ』の姿が確認されたのである。
「どうやら第四王女はアイスエルフを自陣営に取り込んで戦力を強化するのと同時に、攻性植物との同盟を強化することで、消耗した第二王女の勢力を回復させようと目論んでいる見たいっすね」
 現在、大阪城周辺地域で、白百合騎士とアイスエルフの混成部隊が軍事訓練を行っている。数は騎士団員八名にアイスエルフ八名の計十六名。白百合騎士団の面々の戦闘力はともかくとして、アイスエルフたちの練度は目覚めたばかりとあってまだまだ低い。彼らの強化が、軍事行動の目的の様だ。
「戦場は大阪城近くの市街地っすからね、隠れられるポイントや奇襲を仕掛けやすいポイントはいくらでもあるっす。ばれない様に待ち受けて攻撃できれば、かなり有利に戦えるはずっすよ?」
 戦闘が始まれば、アイスエルフは自衛のために反撃を行う。アイスエルフは雪の結晶のような武器で武装し、それによる凍気を纏った斬撃、周囲を霜で凍らせ動きを封じる技、掌から氷柱を生みだし投擲する技の三つを使用してくる。
 また女騎士たちも彼女らを守るために攻撃を仕掛けてくる。となれば必然、アイスエルフを集中的に狙えば相手を防戦に徹しさせる事も可能ではある、が。
「もしエインヘリアルを全滅させた状態で、アイスエルフたちを説得できれば、彼らを連れ帰ることだって出来るかもしれないっす。ただ、思惑はどうあれ自分たちを守って戦った騎士を殺した相手っすからね……言葉だけで信用を勝ち取るのは難しいかもしれないっす」
 つまり、アイスエルフたちを連れ帰りたければ、彼らの印象を良くするような戦い方をしなければならない。彼らの間に完全な信頼関係はないかもしれないが、さりとて初対面のケルベロスはそれ以上に異質な相手だ。エインヘリアル以上の信頼を得るには相応の方法を考えねばならない。
 無論、今回の目的は敵軍事演習の阻止。最悪、アイスエルフの最終的な生死は成否に関わらない。
「もし説得できなかった場合、そのまま撤退を許すのも、戦力増加を防ぐために全滅させるのも、現場に一任するっす」
 後味は悪いが、そういった選択肢も無い訳では無いのだ。そこは戦闘時の流れによって下すべき判断は変わってくるだろう。
「攻性植物側としては、エインヘリアル内で勢力が分散すれば、それだけつけ入る隙が大きくなるっすからね。戦局がどちらに転ぼうが、得になると踏んでいるかもしれないっすね」
 どちらにせよ、ケルベロスとしては最善を尽くすほかない。そう話を締めくくると、ダンテはケルベロス達を送りだすのであった。


参加者
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●正々堂々、態度を示せ。
 大阪城市街地周辺。攻性植物に支配されたこの地で、白百合騎士団の面々が、アイスエルフの練度向上の為に軍事演習を行っている。その阻止と説得の為、番犬たちもこの地へと潜入を行っていた。
「何も分からぬ状況で目覚めてすぐ戦え、というのも酷な話。少しでも迷いや不安を払うお手伝いがしたいでありますな」
「私自身こそドラゴニアンだけど、祖母がシャドウエルフだからねぇ……やっぱり、ほっとけないわ」
 相手が来るであろう進路上で待機しながら、尾神・秋津彦(走狗・e18742)やコマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)は氷妖精の身を案じている。最終的な意思表示は彼女らの判断だが、番犬側も出来る限りのことはしたいと望んでいた。
(新しい、妖精8種族……ですか。出来れば、お話を、伺ってみたい、ですけれど……ヴァルキュリアの、時の、事も、あります)
 戦力を望むということは、波乱の前触れでもある。不穏な予感に眉根を寄せる神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)の様子に、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は気遣うように声を掛ける。
「我々もかつては彼女らと同じような立場だったが、現に今こうしてここにいるのだ。分かりあえる目も必ずある」
「確かに同じエルフ同士、妖精種同士でなし崩しに戦いになるのは避けたいよね」
 影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)もエメラルドの言葉に頷き、同意を示す。前例が存在するということは、それだけで自信と信頼に繋がる。
「……っと、みんな気を付けて。どうやら、あちらのご到着みたいだね」
 と、その時、周辺を警戒していた九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が道路の先を指し示す。そこには都合十六の人影が見えた。演習を行う白百合騎士団と氷妖精の混成部隊。彼らも番犬の姿を認め、進軍を停止する。
「何者……と、聞くだけ意味もないか。こんなところで我らを待ち受け、何が狙いだ」
「こちらの望みはアイスエルフとの対話だよ。そちらの行動を把握した上で、こうした姿を見せたんだ。これはその為の誠意と受け取って貰いたいね」
 二振りの星辰剣を構えた隊長の問いに、クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)は堂々と応ずる。相手は不審げに眉根を顰めるも、さりとて拒む様子もない。身を晒したことに対する敬意か、無下に断って氷妖精の信頼を損ないたくなかったのか。
「良いだろう。一言程度は耳を傾けてやる……だが、それ以上は無しだ」
「ああ、感謝するよ。さて、我々については聞き及んでいるだろうから、割愛しよう」
 クリムはエインヘリアル側の情勢をかいつまんで氷妖精へと告げる。男性優位社会の打破、攻撃性植物との同盟、その果ての内紛。それは氷妖精の漠然とした不安を明確な形にする内容だった。
「このまま事態が進めば、必然的に君達は戦力に組み込まれるだろうね」
「軍事行動には大量のグラビティチェインを必要とするんだぜ。でも地球での収集方法は、力なき人々の虐殺のみだぜ。必然的に俺たちと敵対することになるよだぜ?」
 クリムの言葉を引き継ぎ、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)ががちりと戦籠手を打ち鳴らす。対話は試みる、だが刃を交える事態になればこちらも全力を以てあたると、言外に示していた。
「私は口下手だし、君達の選択に何か言ったりするつもりはないよ。君達に害意が無いのなら敵対せずに済むし、命に代えても私達を倒したいというのならそれに応じよう」
 ケルベロスと騎士団、どちらが信に値するかな。幻の問いかけに、氷妖精が若干動揺する。練度の低い氷妖精たちにとって、戦闘は極めて恐ろしいものだ。その怯えを見て取った隊長は、前へと踏みだし会話へ割って入る。
「ふん、好き勝手言ってくれる。それは飽く迄も貴様らが我々より強いという前提の話だ。ならば、そうでないと示せば何ら問題ない」
 下がって我らの戦いを見ているがいい。氷妖精を後ろに控えさせながら、白百合騎士団が前へ出る。本格的な説得をしたければ、彼女らを排するしかないだろう。
 対話の時間は一旦終わり。ここからは武を以て語る時間だ。

●真っ向勝負、劣らぬ強さを。
「ここよりは最早遠慮は無いぞ!」
「ああ、こちらも全力で挑ませてもらおう」
 開戦一番、先陣を切るのは隊長と幻。両者ともに様子見などせずに初手から全力を叩き込むつもりだ。隊長は超重力を宿した十字斬りを放つも、幻は格闘術で機動を逸らし被害を最小限に抑え込む。そのまま回転拳銃型のガジェットを向け引き金を引くや、紅雷が相手を撃ちぬいた。
「ちぃ、競り負けたか……っ」
「総員続け、隊長を援護するぞ!」
 闘気使いのうち二人が気弾を放って幻を牽制、残る一名がオーラによって隊長の傷をすかさず癒した。また、戦線を構築すべく近接武器の使い手たちも前へと出てくる。
「さて、こっちの実力も見せないとアイスエルフに信用してもらえないんだぜ。いくぜ、ミミック!」
「速やかな立て直しは見事。だが、私達の連携も侮ってもらっては困るぞ!」
 無論、それに臆する番犬ではない。ミミックを連れたタクティ、クリムがそれに応じて前線へと飛び出す。結晶棘を煌めかせた籠手が戦槌の如く相手の鎧を打ち砕き、雷速の突きが鳩尾へと吸い込まれ、武装を具現化させた箱怪が足元より狙いをつける。
「流石にやる……だが、一手足りんぞ!」
 だが相手は四人、こちらは三人。フリーとなった一人が攻撃後の隙を狙い、タクティへと魔力を籠めた斧刃を顔面に叩き込む。
「っぅ! オウガメタルが無ければそのまま真っ二つになっていたよだぜ!?」
「浅かったか、なればもう一撃!」
 攻撃は仮面に阻まれたが、衝撃までは防ぎきれない。体勢を崩すタクティへ、斧使いは再度の攻撃を試み……。
「さ、せ……ない、よ」
 か細いながらもしっかりとした意思を宿した声が響く。あおの強烈な蹴撃によって板金鎧を凹ませながら、吹き飛ばされた斧使いは道路わきのブロック塀へめり込んだ。
「こればかりは戦場の習いであります……まず、一つ!」
 間髪入れずに叩き込まれるは、秋津彦による電光石火の突き技。かばう暇さえ許さぬ一閃は斧使いの胸元へと吸い込まれ、鎧を深々と穿ち、心の臓を貫いた。その一撃は、もう二度と立ち上がることを許さなかった。
「我が部下が男の手に掛かるとは、何たる屈辱か!」
「男とか女とか……そうやって区別しつづけて。また妖精八種族が一緒に暮らせると、本当に思っていたの?」
 その光景に歯噛みする隊長へ、リナは問いを投げかける。氷妖精に手を差し伸べるというが、この場にいるのは女性のみ。そんな騎士たちの描く未来など、彼女は歪なモノにしか思えなかった。
「この世界とて、少なからず男優位で歴史を刻んできたのだろう! 寧ろなぜそこに疑問を抱かんのだ!」
「虐げられた地位向上の為、というのは至極結構だ。そうした運動は地球の歴史にも数多くあった……だが、そうだといってどちらかを切り捨てようとしたことは無いぞ」
「性別だけじゃない、種族だってそう。だから、私たちは此処に居る!」
「甘い、考えをっ!」
 エメラルドは相手の主張に一定の理解を示しつつも、続くリナがその歪さを身を以て指摘する。リナの放った数多の風刃を纏いながら、エメラルドの放った矢が鎧を貫通し突き立つ。それを引き抜きながらも、隊長は言葉に詰まる。
 もし彼女らの言葉を切り捨ててしまえば、氷妖精の悪印象は免れぬと悟っての事か。返答代わりに乙女座の魔力を解き放ち周囲を薙ぎ払いながら、黙らせるように部下を突撃させた。
「その様子じゃ、やはりアイスエルフにも男性はいる様ね? 女性優位を過剰に推し進める姫様のところで、あの子たちは本当に自由と呼べるのかしら」
「それはまだ我らと共に居て日が浅い故……時間を掛ければ理解もされよう!」
「それこそ洗脳って言うんじゃないかしら、ねっ!」
 星辰剣を手にした騎士が苛立たしげにコマキへと刃を振り下ろす。典型的な術師、白兵戦であれば分があると踏んだのだろうが甘いと言わざるを得ない。彼女は祖母譲りの星斧を盾代わりに軌道を逸らすや、もう片方の手に握った猫目石より水晶炎を展開。刃の如く相手を袈裟に焼切り、沈黙させた。
「一人のみならず、また部下を……」
 血が出るほど得物を握りしめる隊長。眼前の番犬を睨みつける彼女は、背後より不安げに注がれる視線など、もはや意識の外へと締め出してしまってるのであった。

●伝われ、我らの熱よ。
「お、ぉおおっ!」
「流石の腕前だ……だが! 貫くは己の信念、穿つは悪しき妄念。我が敵を突き抜けろ、ルーン・オブ・ケルトハル!」
 減った前衛の穴を埋めるべく前に出た闘気使いが、音速を超える拳でクリムの槍を弾き返す。しかし、彼は衝撃を利用して得物をくるりと回転させるや魔力を纏わせ、強烈な投擲を放つ。それは闘気を突き破り、相手の命をも貫いた。
(土壇場で介入するかとも思っていましたが未だ様子見……いい傾向でありますね)
 仲間が敵をまた一人打ち倒すのを見て秋津彦は敵の背後、氷妖精を見やる。
 戦闘開始より暫しの後、番犬側は先の闘気使いも含めて、既に計五体の敵を討ちとっていた。にも拘らず氷妖精が手を出してこないのは、心情がこちらに傾きつつある証拠だ。
「余所見とは余裕だな……勝った気になるのはまだ早いぞ!」
 それを侮りと見た斧使いが高々と飛び上がり、秋津彦目掛けて刃を振り下ろす。対して彼はゆらりと腰に佩いた太刀に手を掛けると、迅業の抜き打ちにて返答とする。
「葬頭河まで見届けましょう――彼岸の先へは独りにて」
「く、おっ……まだ、だ!」
 斧撃は彼の左肩に食い込むが、騎士は首を真一文字に断たれていた。傷口より呪詛が流れ込むも、最後に一矢報いんと足を踏みだし。
「いいや、これでお終いさ。既に彼女らの腹も決まりつつあるようだしね……申し訳ないが、早々に片づけさせて貰うよ?」
 ズンッ、と傷口を金色の角が穿った。幻はゆっくりと角を引き抜きながら、力尽きた相手の体を抱き留め、横たえる。氷妖精の手前丁寧な振る舞いを心掛けるも、隊長の怒りはより燃え上がってゆく。
「よくも、王女より預かりし我が部下をっ!」
 地面を踏み砕きながら隊長が激情のまま吶喊する。壁役として双剣を戦籠手で受け止めながら、タクティは疑問を呈す。
「こうして攻撃を仕掛けられることは予想していたんだよねだぜ? 何で攻性植物と行動しなかったんだぜ?」
「同盟を組んだと説明しても、すぐには呑み込めん。故に我らと行動し、徐々に鳴らしてゆく予定だったのだ……それを貴様らが!」
 隊長は籠手を嵌めた腕をかち上げると、無防備な胴体へ十字斬りを叩き込む。苦痛に顔をしかめ、タクティは大きくのけぞる。更には唯一残った闘気使いが追撃を狙い飛び出してきた。
「騎士の相手はこちらが! その間に治療をお願いします!」
「ええ、任されたわ。さぁ、後ひと踏ん張りよ!」
 それを阻止せんとリナが飛び出す背後では、コマキが斧へ走らせた魔力をルーン文字へと変換、タクティの傷口へと付与することにより傷を塞ぎ、体力を取り戻させる。
「貴様らがアイスエルフを幸福にできるなど……!」
「それは彼女達が自分で決めること。誰かに強制されるものじゃないよ!」
 直線的な拳打と曲線を描く斬撃。両者のぶつかり合いは、リナに軍配が上がった。突き出した拳が断ち落とされ、そこから流れ込んだ呪詛が命を侵し、絶命させる。
「例え……例え己一人だけになろうとも、私には騎士の誇りがある! 第四王女殿下の為、アイスエルフの為、ここを退くことなど出来ん!」
 最早、この状況を覆すことは不可能。そう悟りながらも最後の攻撃を試みる隊長の姿に、エメラルドは一抹の寂しさを見せる。
「主義主張はどうあれ……あのとき、シャイターンではなく君達が私の主だったら。少し、未来が変わっていたのかも知れないな」
「かこ、は……かえられ、ない、けど。みらいは……かえられ、ます」
 思うところこそあれ、あおの言う通り氷妖精の先行きはこの一戦で決まる。あおのか細くも明瞭なる唄声によって生み出された風を背に、雷槍を構えたエメラルドによる突撃が隊長の防御を崩し、腹部を抉り貫く。
「倒れる、訳には……っ!」
「……いや、ここで決着だよだぜ」
 せめて、死に際に一矢報いる。残った力を振り絞り刃を振り上げた隊長の見たのは、自らへと迫る翠緑竜の顎。
「我らの前に道は無く。我らの後に道は有る……それじゃあ行こうかミミック。この道の続きに……!」
「申し訳ありません、王女殿下……!」
 氷妖精と手を取り合うという未来の為。戦線復帰したタクティの一撃は、隊長の信念ごと、相手の全てを食らい尽くすのであった。

●共に、手を取り合う先へ
 戦闘は番犬側の勝利で決した。氷妖精は不安交じりの視線を送りながらも、逃走する気配は見受けられなかった。武器を収めつつ、クリムは彼女らへ問いかける。
「この場に留まってくれるということは、我々の話に耳を傾けてくれるのかな?」
「はい……そうしても良いと、思えましたから」
「そうと決まればこちらをどうぞであります。よろしければお菓子もいかがですか」
 秋津彦は地球側の視点であると断りつつ、チョコやクッキーと共に資料を手渡す。こわごわとそれを齧りながら、氷妖精は紙面に目を走らせて行く。
「……長い歴史の中で、私達シャドウエルフも地球側に立つことを選んだの」
「私みたいに、色々な種族の血を引く人間も居るわよ?」
 その傍ら、リナやコマキは氷妖精が眠る前は、デウスエクス側であった諸種族との融和を自らの存在で示し。
「見て分かるように私もヴァルキュリアで、最初は地球を攻撃する尖兵だった。ヴァナディース様の、ニーベルングの指輪によってな」
「えいんへりあるは、かつて、ヴァルキュリアを、つかいすて、ようと、していました……それでも、ほんとうに、しんじられ、ますか……?」
 エメラルドは自らの身に起こった出来事と番犬になるまでの経緯を話し、あおはそれをもってエインヘリアルの非を説く。
「私たちのスタンスは変わらない……どうなろうとも、君たちの選択を尊重するよ」
 急かさず、強いず。幻を始めとする面々は氷妖精が情報を理解し、判別するのを待つ。彼女らは小さく言葉を囁きあい、頷くと番犬へと向き直った。
「私たちは、皆さんを信用したいと思います。騎士団の方々にも良くしていただきましたが……此方の方が、自由があると感じました」
「いよっし! みんな歓迎するよだぜ!」
 氷妖精の返答にタクティはガッツポーズし、他の者らも安堵のため息や笑みを零す。
 かくして彼らは氷妖精八名を連れ、警戒しつつ大阪城周辺地域より離脱するのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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