大阪都市圏防衛戦~星のえにし

作者:東間

●2つの種族
 竹の攻性植物による哨戒活動が行われていた地帯に、14体のデウスエクスがいた。
 内7体は甲冑に身を包んだ第四王女配下の騎士。2体は別種族集団の後ろを守っており、守られている7体──その身に氷の結晶を生やした耳の長い種族は、雪の結晶に似た武器をしっかり携えている。
 その様子に最前列に立っていた騎士が微笑んだ。無言でハンドサインを出し、物陰に潜ませてから口を開く。
「今回は訓練を兼ねた哨戒任務だが……氷と制圧を司るアイスエルフ。お前達の力、期待しているぞ」
「だがな、お前達はコギトエルゴスムから復活したばかりだ。戦闘になれば、無理はしないように」
 他の騎士も柔らかに声をかけるが、ふいに目付きを鋭くさせた。
「ケルベロスという名の、我らデウスエクスに死をもたらす者が存在する。奴らは恐ろしい敵だ。忘れるな」
「では私が先に出る。合図を確認し次第、お前達も続け」
 そう言って騎士は飛び出していった。
 今行っている任務も、その言葉も、アイスエルフに対する想いが滲んでいる。それは真のものなのだろう。しかし。
「何で戦闘訓練なんか……エインヘリアルの反乱や戦争に利用されるだけじゃ……?」
「攻性植物と手を組んでるのも、ちょっとねぇ。一体何しようとしているの?」
「それに、死をもたらす『ケルベロス』ですって。そんなもの存在するのかしらね?」
 アイスエルフ達はエインヘリアル達に聞かれないよう小声で交わし、空を見る。
「もし、またアスガルドで暮らせたら……」
 故郷への想いを映すように、その瞳はきらきらと輝いていた。

●大阪都市圏防衛戦
 リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる情報をもたらしたのは、竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていた大阪城周辺からだった。
「あそこは竹の攻性植物による警戒が厳しくなってたろう? なんと、その中にエインヘリアル第四王女の騎士と、『妖精8種族』であるアイスエルフらしき女性の姿が確認されたんだ」
 ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は驚きを零した後、表情を引き締め語り出す。
 第四王女は己の騎士団にアイスエルフを組み込むと同時、攻性植物との同盟を強化する事で、リザレクト・ジェネシスで消耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしているのだろう。
「さて、早速だけど君達にはその現場に向かって欲しいんだ」
 相手はレリ配下の白百合騎士団エインヘリアルが7体に、アイスエルフが7体。
 市街地の地形を利用し、上手く隠密で近付く事が出来れば、奇襲攻撃が可能だろう。
 あちら側の特徴だが、1つはアイスエルフの戦闘力は低いようだが、ケルベロスが襲撃すれば己を護ろうと反撃してくる事。2つ目は、騎士達はアイスエルフを守るように戦うという事だ。
「君達が見るアイスエルフは女性ばかりだけど、多分これは、女性の地位向上を目指すレリの考えだと思うんだ」
 つまり、男性アイスエルフはコギトエルゴスムから蘇ってないのだろう。
 そしてもう1つ。
 エインヘリアルを全滅させた上でアイスエルフを説得出来れば、彼女達を連れ帰る事も出来る──かもしれない。
「説得出来なかった場合、アイスエルフを撃破しても殺さず撤退させたっていい。その判断は、現場で戦う君達に一任するよ」
 君達が挑んだ、その結果も含めて全てをね。
 そう言って笑ったラシードだが、タブレットで現場周辺の地図を見ながら、うーん、と零した。
「第四王女勢力とアイスエルフの間に認識の差があるみたいでね。王女側は完全に善意でやってるようなんだけど、アイスエルフ達は彼女達の言葉通りに受け取ってはいなかったんだ」
 説得する際、そこを上手く攻められればアイスエルフを味方に引き込める可能性もある。
 エインヘリアルと攻性植物の協力関係。
 新たな妖精種族・アイスエルフ。
 3種族の思いが絡む地へケルベロス達を運ぶべく、ヘリオンが春の空へと飛びだった。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
春日・いぶき(藤咲・e00678)
卯京・若雪(花雪・e01967)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
美津羽・光流(水妖・e29827)

■リプレイ

●接触
 ケルベロス達は自分達の姿が視覚的にも完全に隠れる場所で足を止めると、そのままそこで待つ事にした。住む者をなくしても尚残る建物と壁が、気流纏ったケルベロス達を隠し続けてくれる上、屋上から行き先を確認させてもらった『彼女達』が、身を潜めながら進むに適したルートには当たりをつけてある。
 このまま待てば、恐らくは。
 『それ』が確かなものとなった瞬間、ぴんと張り詰めた空気へとルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は堂々と声を落とした。
「見慣れぬ者達を連れているが……侵略者か?」
「なっ!?」
「え? え?」
 一斉に武器を構えた騎士達のただならぬ様子に、アイスエルフ達は緊急事態と察するも、どうすべきかわからないといった顔で顔を見合わせている。その様子に美津羽・光流(水妖・e29827)は眉間にしわを寄せた。
「何でこないな所で新兵訓練してんねん! ここは境界や、何かあれば俺らがすっ飛んでくるのはわかってるやろ!」
 自分達が最初の一手に攻撃を選んでいたら、ここにいるのが自分達でなかったら、騎士達が最初に聞いたのは仲間の言葉ではなくアイスエルフの悲鳴だった筈。
「攻性植物と反乱起こしても故郷に帰れへんやろ。弱った国ごと侵略寄生されるんがオチや」
「ハッ! 随分とお優しいな、ケルベロス」
 あれが。背後のアイスエルフ達が漏らした驚きに、騎士の1人がケルベロスの視界から彼女達を隠すように立った。
「確かに、今までの奴らであれば信用ならなかっただろう」
 『今までの』?
 卯京・若雪(花雪・e01967)は春陽思わす微笑の下に疑問を隠し、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)も瞳に僅かな興味を浮かばせる。種族特有の長い耳にアイスエルフ達が目を見開くが、騎士は背後の様子に気付いておらず、ケルベロス達が密かに抱いた疑問の答えを語る。
「攻性植物も変わろうとしているのだ。それに、聖王女の威光があれば世界は良い方に変わっていけるのだからな」
(「ふぅん。あっちも色々起きてる、ってコト?」)
 桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)は目の合ったアイスエルフにニッコリ笑顔を向け、口を噤む。深く探ろうとすればそれに勘付かれ、反抗心を強められてしまうかもしれない。光流も今得た情報には敢えて触れないでおいた。
(「つか、レリ王女はハールに騙されてるて思わへんのか。諫言もでけへんのか」)
 武器を手に身を寄せ合うアイスエルフ達は、驚きと不安を浮かべている。ルースはその様を見ながら冷静に続きを紡いだ。
「俺達はこの力無き地球の盾だ。意思無き者に牙は剥かぬ」
 そう言ってアイスエルフを全員を見て。次に騎士を見て、続ける。
「無駄な殺生や争いなど面倒だとは思わぬか」
「ええ。僕達は話をしたくてあなた方を訪ねたんです」
 春日・いぶき(藤咲・e00678)は柔らかに笑み、その視線を受けたレヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)はハッキリと頷いた。
「この星にはケルベロスじゃない人も沢山いて、この辺にいる攻性植物の様なグラビティ・チェインを奪おうとする奴らは、簡単にその人達に死を与える事が出来る事を知ってるだろ?」
 王女が理想とする世界を創る為に、それは本当に必要なのか? 誇り高き騎士団に頼みたい、とレヴィンは真っ直ぐな目を向ける。
「どうか無抵抗な人達の未来を奪わないで欲しいんだ……!」
 しかし対話の意志に返されたのは、騎士達の燃えるような戦意だった。4振りの剣が流れるように守護を描いていく。
「もっともらしい言葉で我々を欺こうとしたようだが、無駄だ! 貴様等ケルベロスの死はレリ様の益となる。やるぞお前達!!」
「おう!!」
 一斉に広がった守護魔方陣の層はアイスエルフ達の足元でも輝きを放っていた。それに顔を強張らせた1人にオーラ纏う騎士が笑顔で寄り添い、鼓舞するのを見て大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は、ふう、と息を吐く。
(「仲良くできれば、と思ったけど向こうがそれを選ぶならしょうがないわよね」)
 ガタガタぷるぷるしていた箱竜・ぶーちゃんの頭を撫で、構える心は冷静だ。だって、どうするかを皆で話し合い、決めてきた。後は目標を達するべく、容赦なしで挑むだけ。

●応酬
 蔓巻線に裂かれた空間から現れた白縄が騎士達を次々に捕らえていく。光流の技が自由を奪ってすぐルースが見せたのは、空気すら砕くような一振り。紅蓮の炎が騎士達の身も悲鳴も灼けば、若雪はそこへ大地の霊力と御業を乗せた一太刀を鋭く重く、浴びせていった。
「僕達は滅する為でなく、話す為に、そして護る為に此処におります」
 若草色の視線は呻く騎士の向こう、強い緊張を浮かべるアイスエルフ達へ、静かに注がれている。
「見慣れぬ方々――明確な害意がないのなら、どうかその目で、番犬の在り方を見定めてください」
 氷雪に似た瞳が揺れた刹那、1人の騎士が神斧を輝かせた。
「貴様等、彼女達を誑かそうというのか!? させんぞ!」
「癒しは私に任せお前達は彼女に続け! 恐れるな、奴等は我々と違い定命の身だ!」
「は、はい!」
 振り下ろされた一撃はレヴィンの全身を駆ける衝撃となり、アイスエルフ達の足元、アスファルトを覆いながら押し寄せた魔法の霜も牙を剥く。
「させないわよ!」
「はい、チェンジね♪」
 ぱしり。言葉と萌花はクラッシャー2人の腕を掴み、踊るように、入れ替わるようにして守る。足元から上がってきた冷気は肉の内側を刺すようだが、耐えられない程ではない。
「お返ししちゃう? サイガおにーさん」
「万倍返しのがいいだろ」
 トンッと着地しつつした質問には即答。賛成、と笑う声の後、漆黒と青が向いたのは剣持つ騎士1人。降魔の力満ちたサイガの拳撃は狙い通り標的の肉体と生命を引きちぎり、萌花の生命啜る大鎌は間に飛び込んだ別の騎士を鮮やかに斬り裂いて。
 舞う血の向こうから堕ちてきた3つの氷柱が前に立つ『盾』3人を次々と穿って、すぐ。どちらも傷付いた仲間を癒し、敵の動きを止めようとほぼ同時に動いていた。
 いぶきは己を中心に踊る黒兎の幻影を広げていき、騎士とアイスエルフ、癒しのオーラと雪だるま似の精霊を見た言葉の声を受けたぶーちゃんも、目いっぱいに涙を浮かべながら萌花を癒す。
 前衛の頭上から降ってきた花片が癒しと共に揺らめく中、言葉の指にはいつからあったのか判らぬ赤い糸。ひらり踊って翻った糸は運命を引き寄せるように騎士達を捕らえて離さず――騎士達が守護魔法陣を幾重にも紡ぐ中、光流といぶきが起こした癒し――翔た黒鎖とハッピーエンド謳う黒兎の加護に乗ったのは2つの牙。
「ふたつだ」
 諸々を端折ったルースの『授業』は『死』という解を導き出し、サイガの体を流れて翔た銀色が命砕く拳と化せば、地面に叩き付けられた騎士が、甲冑を纏っているにも関わらず人形のように転がって動かなくなる。
 アイスエルフ達の間に動揺が走った刹那、ぴょんぴょんと跳び回る兎に言葉はニッコリ笑い、礼の言葉を弾ませながら掌に炎弾を生み出した。その勢いにぎくりと顔を強張らせたエルフは、ついさっき氷柱を放った1人。それに気付いた眼差しが――騎士に移る。
「え?」
 炎の赤に重なり絡み付いた白茨は萌花の技。心身に絡み付いて引き裂く絶対絶望は夢より鮮烈に騎士を呑み、その痛みを取り払おうと癒しのオーラが注がれ、ケルベロスを喰らうべく放たれた星座が一際強く輝いた。
「怯むな! 我らは共に在る!」
「止まるな、止まるのは奴等を全員倒してからにするんだ!」
 騎士達の声は力強く、迷いが無い。故にレヴィンはハールに騙されていそうなレリ王女一派と戦う事に葛藤し、光流は僅かに顔を顰める。始めは行動が不可解だった為、彼女達が行っていた訓練自体も罠ではないかと思っていたが、その線は無さそうだ。
(「せやけど、盲従は不忠や」)
 そしてその盲従が、気付かぬうちに綻びを生む。

●選択
 最初に散った1人は、アイスエルフ達にとって『あの話は真実だった』という証になった。1人2人と倒れる数が増えていき、その証に別のものが加わっている事に騎士達は気付いていない。
「……どうして……?」
 戦いのさなか、1人のアイスエルフが声を震わせた。
「ほう、何がだ」
 煙草をくわえていたなら余裕の一服をしそうな雰囲気纏ったルースが、アイスエルフへ視線を向けつつも、対峙する騎士に容赦ない攻撃を見舞う。
 なぜならこれは今後を左右する作戦の1つ。本質を見失う事は無いし相手が異性だろうと贔屓はしない。喧嘩殺法に近い戦い方を指摘されようと、討つべき相手の言葉は右から左へ華麗に流していく。必要なのはこの戦いに影響を与える全てを、余さず拾う事。
「わ、私達は敵よ!? なのに、何でっ……」
 ケルベロスと戦い、討たれたデウスエクスがコギトエルゴスムとなって生き延びる事は無い。なのに――なのに自分達は、ケルベロスからの攻撃を一切受けていない。デウスエクスを殺す力を持った攻撃は全て、騎士にのみ向けられている。
 今はまだ利用されているだけだけの立場なのだろう。その予想はほぼ間違いないと感じたいぶきは、それを口にはせず、確かな癒しで仲間達を支え続ける。
(「妖精タイタニア、そして人馬一体型の妖精……色々と関わらせて頂いておりますが。敵対者としてでもいい、味方としてでも良い。いつか彼らと対等な目線に立ちたいものです」)
「ハール王女は王座を取るために攻性植物と手を組んだの。男優位社会を覆すため手段は選べないからね」
 戦いながらさらっと言ったのは言葉だった。
「男のアイスエルフ、蘇生されてないでしょ?」
「そ、そうだけど……」
 ケルベロス達がアイスエルフを攻撃していないように、男のアイスエルフは今もコギトエルゴスムのまま眠っている、という事実。
「でも他のエインヘリアルがそれを反乱とみなさないでいるかしら」
 エインヘリアル同士で争いが起きれば、ハール側についたアイスエルフも滅ぼされ、再び永き眠りにつかされるだろう。それでも、故郷を思う気持ちは捨てられない筈。
「故郷の為に王女に付くとしても、戦う術がない人達への攻撃は避けて欲しいんだ。もし今後の方針が未定なら……何か協力させてくれないかな?」
 ゴーグル越しに向けられるレヴィンの眼差しは語った言葉と同じように熱い。だが敵対者である騎士には、その熱さが純粋なものには見えないらしく。
「彼女達を利用するつもりか! 野蛮な犬め、連れて行かせはしないぞ!!」
 迸った星座の輝きは、そんなに言うとかひどくない、と呟いた萌花に遮られ。そして。
「あ? 守る為の戦いをご存知ねぇらしいな」
「ぐ、あ……ッ!」
 サイガの戦篭手、その漆黒の爪が肉に食い込んでいく。
 この地球は、死に物狂いで戦って守っても、それでも取りこぼすような脆い命に溢れた星だ。50年程前にケルベロスが現れ始めてようやく、こぼれ落ちる命の数は減り始めたが──力を得ても全てを『すくう』事の難しさを、この騎士は知らない。
 若雪がふたつの力乗せた一太刀を見舞えば、足掻いていた騎士の体は花や蔦に絡み付かれ、大地へ沈む。どさりという音にアイスエルフ達が身を震わせ、
「己の善意を押し付ける事こそ、悪気なき悪意と成り得る。そいつらといる時のアンタらに考える余地は与えられているのか?」
 ルースの声に、びくりと肩を跳ねさせる。
「それ以上! 彼女達を弄ぶなァ!!」
 神斧が振り下ろされた。響く鋼の音と痺れるような衝撃に、大鎌の柄で受け止めた萌花はくすりと笑い、言う。ケルベロスにとっての地球は、アイスエルフ達にとってのアスガルドのような。守りたい故郷のようなものじゃないか。
「エインヘリアルの彼女たちの善悪はあたしには判断できないし、そこをどーこー言うつもりないけど──せっかく復活できたんなら、生きたいように生きていいんじゃん?」
 きらきらと問いかける青色に氷雪に似た瞳が揺れ、口を噤む。
 彼女達から漂う揺らぎを押さえるように騎士達は声を上げ、ケルベロスに突っ込んだ。刃と刃が火花を散らし、肉を裂いて、血を踊らせる。そこに、柔らかな冷気が寄り添った。雪だるまに似た精霊が――ケルベロス達に刻まれた傷を、ひやりと癒していく。
「馬鹿な! なぜ、なぜだアイスエルフ!!」
「選んだっちゅー事やろ!」
 駒としてでなく、レリ王女の騎士として相応しい終わりを与える為に。光流は練り上げた螺旋を氷結の力と共に解き放った。

●縁
 この通り。サイガは骸となった騎士達から心身を緊張で強張らす妖精達を見る。戦いの中で示したのは抗え得る番犬の道。不死の神も殺してしまえる力が『地球』にあるという証。
「侵略された故郷に帰りたい……だったよな? もしも約束果たされたって、頭下げて暮らすのが、はたして帰郷になんのかね」
 支配者の顔を伺うばかりでは故郷の空を満足に見る事も出来まい。
「駒に使われて戦うか。てめえの意志で戦うか。選ぶなら今日だと思うがな」
「妖精の仲間はおる。危害は加えない、まずは話しよ。判断はそれからでも遅くないやろ。仲間を助けに行くちゅうなら手伝うで」
 光流は明るくニカッと笑って見せた。両手で武器を握り締めたアイスエルフがどうして、とか細い声を漏らし、俯く。言葉はチラッとそれを見て、震えがおさまりつつあるぶーちゃんを抱っこした。
「私ね、誰かが利用されてるのを傍観するのはあまり好きじゃないのよ」
「でも、」
「ややこしいしがらみがあるらしいが……知った事か。俺達は、アンタらが見て考える選択肢をここに置いていく」
「そ。どーしたい?」
 ルースは接触した時のように、非常に堂々ともとい大きな態度で相手の意志表明を待ち、柔らかに流れる髪をくるんと弄った萌花も『聞く』姿勢だ。自分達を見るアイスエルフに若雪もそっと頷いた。見定めるのに必要な時間は、まだあるだろうから。
 顔を見合わせ、次の言葉に迷う彼女達に言葉を差し伸べたのは、いぶきだった。
「我々ケルベロスの根幹は守る事。搾取されるばかりの地球を守るために在り、侵略する事ではありません。だからこそ、ただ故郷へ帰りたいだけの貴方達と戦う事をよしとはしたくない」
 それ以上に、手伝いたいと思う。
 恩を尊ぶなら貫けばいい。
「僕は、貴方達の意志を尊重したい」
 ケルベロス達の変わらぬ『答え』に、アイスエルフ達は再度互いに見つめ合う。
 それから少しして、1人のアイスエルフが口を開いた。その視線は、まだ地面に向いている。
「目覚めたばかりで、わからない事が、多いわ。きっと……他にもあると、思う」
 ──だから。
 顔が上がる。儚げなかんばせには、確固たる意志が浮かんでいた。
「私達は、あなた達ケルベロスについて行きます」

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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