大阪都市圏防衛戦~彷徨える氷花たち

作者:小鳥遊彩羽

 ――大阪市内、某所。
 大阪城と民間人居住区域の間のいわゆる緩衝地帯に、その一軍の姿はあった。
「アイスエルフ達よ。氷と制圧を司るお前達の力に期待しているぞ。虐げられるだけでなく、それに抗う力を身に着けてほしい」
「エインヘリアルの王を打倒すれば、妖精8種族が再びアスガルドで暮らすことも叶えられよう」
「他にも、ケルベロスという恐ろしい敵もいる。奴らとはいずれ相見えることになるだろう。その時のためにも、お前達は強くならなければならない」
 前方を警戒しつつ、後方へそう声をかけるのは、エインヘリアルの騎士達だ。その出で立ちから、第四王女レリの配下――白百合騎士団の兵士達とわかる。
 対する少女達は、いずれも『尖った耳』と『体から生えた氷の結晶』が特徴的な姿をしており、エインヘリアル達が呼ぶところの『アイスエルフ』という種族なのだろう。
 アイスエルフの少女達は緊張した面持ちではいと返事をしながらも、不安げに顔を見合わせて。
「私達、どうなっちゃうんでしょうか……ケルベロス……怖いな……」
「強くなっても、……エインヘリアル達の戦いに利用されちゃうだけじゃない……?」
「でも、この戦いが無事に終われば、アスガルドに帰れるんでしょう? なら、あたし達ももっと強くならなくちゃ! それこそ、ケルベロスとかいう奴らを倒せるくらい!」
 不安げな色を覗かせる者。戦いに前向きになっている者。
 様々な思いが交錯する中、時に建物の影に身を隠したり、あるいは前方に出て敵を探すなど――活動は続いていた。

●彷徨える氷花たち
 リザレクト・ジェネシスの戦いの後行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』――。
 それに繋がる情報が大阪城周辺から報告されたと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はケルベロス達に話を切り出した。
「大阪城の周辺は竹の攻性植物による警戒が厳しくなっていたんだけど、その中にエインヘリアルの騎士と、『妖精8種族』のひとつである『アイスエルフ』と思われる女性の姿が確認されたんだ」
 このエインヘリアルとは、第四王女レリの配下である白百合騎士団の一般兵だろうとトキサは推測する。
「そして、第四王女は、アイスエルフを自分の騎士団に組み込むと同時に攻性植物との同盟を強化することで、リザレクト・ジェネシスで消耗した第二王女の勢力を盛り返そうとしているようなんだ」
 何にせよ、そこにエインヘリアルが居る以上、野放しにしておくわけにはいかない。
 敵はレリ配下の白百合騎士団のエインヘリアルが8体、そして、アイスエルフが8体の混成軍だ。
 彼女達は、アイスエルフの戦闘訓練を兼ねて市街地の警戒任務を行っている。
 隠密と索敵を重視しつつ、市街地の地形を利用して敵の警戒を潜り抜けながら近づくことが出来れば、奇襲攻撃も可能だ。
 アイスエルフは戦闘力こそ低いが、ケルベロスの襲撃を受ければ自分の身を護るために反撃してくるだろう。そしてエインヘリアルの騎士は、アイスエルフを守るように庇い、立ち回りながらケルベロスと戦うだろう。
「激戦になることは必至だ。だから皆、油断なく臨んでほしい。けれど、この戦いでエインヘリアルを全滅させた上でアイスエルフを説得することが出来れば、一緒に連れて帰ってくることも出来そうだよ」
 だが、アイスエルフにしてみれば、自分達を守って戦ったエインヘリアルの騎士を殺したケルベロスをすぐに信用するというのはなかなか難しいだろう。
 ゆえに説得を目指すのであれば、戦闘中の声かけや戦い方なども含めて、アイスエルフに好印象を与えられるような振る舞いが出来れば理想的ではある。
 もし説得に失敗しても、アイスエルフの命を奪う必要はない。判断は、現場のケルベロス達に一任される。
「仇敵であったエインヘリアルと攻性植物が協力関係を結ぶというのは、正直想定外だったけど。第二王女の勢力が、敢えて敵と同盟しなければならない程には、追い詰められているということなのかもしれないね」
 一方の攻性植物側にも、思惑がないわけではないだろう。攻性植物は、第二王女が反乱を起こしてエインヘリアルに混乱が生じれば、攻性植物にとってもチャンスになるので協力していると見るべきだろう。
「そして、第四王女勢力。彼女達はあくまでも善意で行動しているみたいだけど、アイスエルフとの認識には差があるみたいだ。上手くそこを突くことが出来れば、アイスエルフを味方につけることが出来るかもしれない。――皆、頼んだよ」
 トキサはそう言って説明を終え、ケルベロスたちに後を託した。


参加者
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
輝島・華(夢見花・e11960)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)

■リプレイ

「ケルベロス共め、我らが同胞たるアイスエルフ達を拐かそうなど……!」
「――拐かしているのはそっちだろう?」
 光の呪力を帯びた巨岩の塊のような斧が振り下ろされる。それを紙一重で躱し、イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)は微かな笑みを綻ばせながら、纏うオーラが綴る文字列を弾丸に変えて放った。
 イブの想いに応えた文字の一つ一つが、敵を喰らう牙となってエインヘリアルに襲い掛かる。
「銀天剣、イリス・フルーリア――参ります!」
 直後、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が空を翔けるように懐へと踏み込んでいた。
「エインヘリアルにどう言われたかは分かりませんが、私達の話を、先ず聞いてほ欲しいんです!」
 緩やかな弧を描く斬撃で巨躯の足を斬りながら、イリスは震えながらも立ち向かってくるアイスエルフ達へ訴えた。
「わたしたちねぇ、アイスエルフさんたちとお話がしたくてきたんだよ! ちゃあんとお話できるようにするから、ケガしないように待っててくれないかなぁ?」
 空野・紀美(ソラノキミ・e35685)は人懐っこく笑い、けれどすぐにきりりと表情を引き締めて、エインヘリアルへピストルの形にした手を――射手座のネイルで彩られた指先を向ける。
「そーれ、ばきゅーん!」
 無邪気な射手の加護を受けた魔力の弓矢は、一直線に標的とした巨躯の元へ。
「ケルベロスの甘言に耳を貸すな!」
 エインヘリアルがすかさず声を張り上げ、ケルベロス達の姿を隠すようにアイスエルフの前に立つ。
「もーっ! わたしたちの、ジャマしないで!」
 頬を膨らませる紀美の抗議に、無論、聞く耳を持つはずはない。
「そっ、そうだ、お前達に、何がわかるんだっ!」
 アイスエルフの一人が掌から巨大な氷柱を放ち、別の一人が冷気を帯びた雪の結晶型の円盤を操って地面に魔法の霜の領域を展開させる。
「ケルベロス……怖い人たち!」
 アイスエルフが吐き出したのは、全てを凍てつかせる吐息。盾としてそれを受け止めながら、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)はアイスエルフへ呼び掛ける。
「どうか話を聞いてください! 貴女達と戦うつもりはないのです!」
 別の一体と交戦しながら、エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)がフィルトリアに続く。
「私たちは、貴方がたに危害を加えるつもりはありません」
 アイスエルフ達にとって、王女レリの言葉はとても惹かれるものなのだろう。けれど、とエレは思う。
(「確か、妖精八種族を滅ぼしたのって……」)
 その答えを辿る間は今はなく。エレが降らせるのは天駆ける星のカケラの光。その加護を受けたフィルトリアが巨大な戦鎚に退魔の力を持つ真紅の炎を纏わせ、巨躯へ叩きつける。
「フィルトリア様の回復をを行いますね、華さん」
「はい、リコリス姉様、私も前衛の皆様の守りを固めます!」
 リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)と輝島・華(夢見花・e11960)は互いに声を掛け合い、守りと癒しの力を重ねる。エレの翼猫、ラズリもエレの傍で、懸命に翼を羽ばたかせて邪気を祓い。
 リコリスが放った半透明の御業が鎧となってフィルトリアを守り、さらに華が黒鎖で守護の魔法陣を描き出す。
 悲愛を讃える瞳でエインヘリアルとアイスエルフを見つめながら、リコリスは静かに胸中に想いを灯らせた。
 故郷に帰りたいという想いと願いは、かつて帰りたいと思える場所があったリコリスにはよくわかる。
 余所者だった自分達を受け入れてくれた、優しい場所――今はもう、ないけれど。
 けれどリコリスは流浪の旅の果てに、今、新しい故郷だと思える場所にいる。
 ――故に、願わくば。
(「アイスエルフの方々にとって、地球がそう思える場所になれば……」)
 アイスエルフ達は戦闘訓練を強要されているとはいえ、レリの配下としては抗う力をつけて欲しいという親切心も確かにあるのだろう。
 けれど、何も分からないまま自分の行動を縛られるのは、やはり不幸だ。
 例え誤解を解けなかったとしても、彼女達の現状を何とかしてあげたいという想いに変わりはない。
 そのためにも出来ることをやるだけと華は愛用の杖をぐっと握り締め――彼女の想いごと、ライドキャリバーのブルームが炎を纏い敵の元へ飛び込んでいった。

 ケルベロス達は奇襲を選ばず、正々堂々、正面からエインヘリアルとアイスエルフ達の前に姿を見せた。
 アイスエルフに対し、自分達が奇襲を行う卑怯な存在だという印象を与える可能性を避けたのだ。
 決して有利な状況での開戦とはならなかったが、ケルベロス達は各々が自らに課した役割を存分に果たすべく全力で戦いに臨んだ。
 八体のエインヘリアルの内、既に盾を担う二体は倒された。残る盾役が同胞達を守らんと守護の星座を描くと同時に、後方に控える癒し手たる二体が練り上げた気の力を盾役へ注ぎ込む。
 その癒し手の片割れに狙いを定め、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)がガネーシャパズルから竜を象った稲妻を放つ。
 敵が傷つくのは、少しだけ痛い。けれど同じ妖精族としても、囚われ道具として虐げられてきた境遇からも、アイスエルフを全力で助けたいとロナは心から想う。
 ロナは薔薇のスピネルの瞳に、懸命に戦うアイスエルフの姿を映す。
(「わたしたちの、こえ、……とどくかな……?」)
 ――その願いが届くかどうか。今はまだ、わからない。

「信じるって難しいよね。自分を守ってくれる人は良い人に見えるよね」
 そんな相手に想いを届けるのは、きっと、とても困難で。
 けれど、言葉を尽くして、心を尽くして、歌に籠めれば――きっと、届くと信じたい。
 故に、イブは自らの想いを、清い心を、魂を、歌に籠める。
 ――Holy,holy,holy.Lord God Almighty.――どうか去りゆく魂に、安らぎをお与えください。
 イブがボーカルを務めるアーティスト、[Raison d'etre]の一曲、『アルヌワブランに捧ぐ小夜曲(サヨナラノセレナーデ)』――それは殺すためでなく、救うための歌。
 オーケストラやクワイアが織りなす重厚な音に乗せて、天啓の如き澄んだ歌声が闘うように響き渡る。
 歌を聴いたエインヘリアルの一人が膝を付き、そのまま崩れ落ちた。
 抗う間もなく在るべき場所へ還りゆく姿が、アイスエルフ達の瞳にも焼き付いて。
「わ、私達も、あんな風になってしまうの……?」
「恐れるな! その前にケルベロス共を殺すのだ!」
 コギトエルゴスムに戻ることなく、世界から消え失せたエインヘリアル。その姿を目の当たりにしたアイスエルフが、俄に『死』を意識し始める。戦わなければ殺される――その思いと、絶対に勝てないだろう相手を前にしての、二つの恐怖がせめぎ合う。
「――光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 すると、間髪をいれずに距離を詰めたイリスが、全天から刀と翼に光を集め、まずは煌々と輝く刀でエインヘリアルを一閃、『物質の時間を停止させる』力を帯びた光によって動きを止められた巨躯へ、さらにイリスの翼から溢れた光が無数の刃となって襲い掛かった。
 凄まじい光刃の乱舞に、敢え無く倒れ伏すエインヘリアル。
「騎士団に、レリ達に力を貸してしまえば、他の妖精族……例えばヴァルキュリアの様に使われ、アスガルドに帰るどころではなくなってしまいます!」
 それを見届けたイリスは、真っ直ぐにアイスエルフ達を見つめて。
「それに他のデウスエクスとの戦いにも巻き込まれて、またすぐコギトエルゴスム化してもおかしくないんです!」
「貴様ら……!」
 声を上げようとするエインヘリアルへ鋭く迫りながら、フィルトリアが言葉を繋ぐ。
「やり方はともかく、彼女達は女性であれば敵対する地球の人間をも救おうとしました。ですが、男性は……同じエインヘリアルであっても排除しようとしています」
「……っ」
 途端に、アイスエルフ達の間に動揺が走った。
 その反応を見逃さず、フィルトリアは畳み掛ける。
「友人や家族など、皆さんにも親しい男性がいるはず。このまま彼女達に従えば、その方々がどんな扱いを受けるか分かるはずです」
「どうしよう、お兄ちゃん……」
「父さん……っ」
「私達は地球の人々を守る為に戦っており、アスガルドを侵略する意思はありません」
「かつて、妖精八種族であるヴァルキュリアは、エインヘリアルに消耗兵として扱われてました。貴方たちが同じような道を辿る可能性だってあります」
 リコリスが、エレが真剣に、優しく落ち着かせるように言い聞かせる。
「彼女たちじゃない、他のエインヘリアルに利用される可能性だってある。どうするか、よく考えて答えを出してください」
「戯言を言うなッ!」
 エインヘリアルが振り下ろした巨斧を星の煌めきを封じた古木の杖で受け、エレはそのままアンクに宿した肉食獣の霊気で殴りつける。
 癒しの力を振るいながら、華もまた想いを口にした。
「私達は貴方達アイスエルフに何かを強制したり、危害を加えるつもりはありません。むしろ仲良くなれたら嬉しく思います」
 その最中、ロナがぽつりと、確かめるように呟いた。

「みんなや、わたしのごせんぞさま。さいしょにころしたの……ほかでもない、エインヘリアルだよね……?」
 シャドウエルフであるロナを見つめるアイスエルフ達の眼差しが、大きく見開かれる。
「わたしたちをころしたら……こんどは、おうさまをころしにいくの……?」
「止めろ、ケルベロス共!」
「だーめ! 邪魔はさせないんだよーっ!」
 声を荒らげたエインヘリアルを、紀美が飛ばしたカラフルなインクが塗り潰す。
「負けて言うとおりに戦わされて、生活も相手の思う通りで! そんなの、ちーっとも面白くないと思うんだ!」
 不安な空気を払うような紀美の明るい声にも、アイスエルフ達は心を揺さぶられている。
「そんな、……そんなことって」
「そうだよ、……このままじゃ、ずっとりようされるだけ。えいえんにしはいされたまま……ほんとに、それでいいの?」
 ロナはふるふると首を横に振り、懸命に声を振り絞って、アイスエルフ達へと訴える。
「……そんなの、だめ。ようせいぞくのほこり、わすれちゃだめ……!」

 ――その時。
「う、うわあああっ!」
 アイスエルフの一人が、ケルベロスではなく――エインヘリアルへと刃を向けた。
「なっ……お前達、何をしているかわかっているのか!?」
 氷柱に貫かれ驚愕の表情を浮かべるエインヘリアルに、アイスエルフは毅然と告げた。
「だって、ケルベロスに勝てるとは思えない、もん……!」
「それに、私達はアイスエルフ……エインヘリアルの支配は、もう、受けない……!」
 他のアイスエルフ達も、ケルベロスの側につくように立ち位置を変えていた。
 ケルベロス達の想いは、確かに伝わったのだ。
「さて、それじゃあ、幕引きと行こうか。――アンコールはいらないぜ?」
「――貴方に、葬送曲を」
 最後に残ったエインヘリアル達へ、イブは白薔薇の乙女の闘いを歌い、リコリスは氷のように静謐な深い悲しみの旋律を紡ぎ上げる。
「これで、お終いです!」
 イリスが再び煌々と輝く刀と翼の光を向ければ、残る一体が消え去った。
「――『神』にこの歌を捧げましょう。愛しき民も、仇なす者も、全て儚き夢の世界へ」
 先程まで幼くたどたどしかったロナの唇が、滑らかに力ある言葉を口にした次の瞬間。
 ロナの身体に降りた姫巫女の御霊の力により、『神』をも魅了する聖歌が紡ぎ上げられた。
 儚く麗しくエインヘリアルの身を蝕む、甘美なる毒。
「つぎはわたしの番っ!」
 紀美の指先の射手座が煌めいて、魔力の弓矢が最後の一体目掛け真っ直ぐに飛んでいく。
「では、私も……、――逃がしませんの!」
 華の掌の中で、魔力で編み上げた無数の花弁が綻ぶ。そうして放たれた花は風に舞い、エインヘリアルを瞬く間に切り刻んでいく。
「あなた方が真に女性の事を考えているのなら。何を選択するか、彼女達自身に決めてもらうべきではありませんか?」
 とは言え、それを聞き届けるべき『彼女』の元へ、帰すことは出来ない。
 フィルトリアは巨大な戦鎚に纏わせた真紅の炎で、エインヘリアルを『断罪』した。

「今後の事をを考えるためにも、良かったら一緒に来て頂けませんか? 知って欲しい事や話したい事が沢山あるんです」
 華が控えめに告げる傍ら、紀美はにっこりと笑って。
「一緒に来てくれたら、ここでわたしたちとだって暮らせるんだよ。そしたらもっともっと、すきなこと、たくさんできると思うんだー」
 ちょびっとでも、考えてもらえないかなぁ、と紀美は可愛らしく『お願い』をする。
「アイスエルフの皆様、どうか地球の生活をその目で一度見てください。ヴァルキュリアの方々も、ザイフリート様もいらっしゃいます」
 その上でどうするべきか、ケルベロスと戦うべきかを決めてほしい、と、リコリスも願うように紡いで。
「……だいじょうぶ。私たちは無理に戦いを強いたりしません」
 エレがアイスエルフ達に向けるのは、曇りのない純粋な笑顔。笑っていれば絶対大丈夫という信念と、アイスエルフを怖がらせないようにという意味合いを込めて。
「仲間と認めた者は絶対に守り抜く。それが、ケルベロスなのですから」
「どんな立場の人にだってその人なりの正義はあって、どの正義を信じるかはきみたちの自由だけど……僕らはきみたちが思うほど、恐ろしい存在じゃないよ」
 この場に残った八名のアイスエルフ。その一人一人をしっかりと見つめながら、イブは優しく語り聞かせる。
「かつて敵だったイマジネイターも、今は僕らの仲間として楽しく暮らしてるんだ。良かったらきみたちにも見に来て欲しい」
 ――きみたちと同じように、懸命に生きる僕らの暮らしを。

 ケルベロス達の説得を受けたアイスエルフ達は、互いに顔を見合わせ、そして幾つか言葉を交わし合った後、改めてケルベロス達へと向き直った。
「……第四王女が持つグランドロンから、仲間のコギトエルゴスムを救い出して欲しいんだ」
「私のお父さんや、この子のお兄ちゃんや、他にも、……男の人がいっぱい、います」
「勿論です、必ず、助けることを約束しましょう」
 アイスエルフ達の願いに、フィルトリアも他の仲間達もしっかりと頷いてみせる。
「大丈夫ですよ。皆で、帰りましょう」
「――ん、だいじょうぶ、こわくないよ。……いっしょに、いこ?」
 イリスが明るく笑い、ロナも微笑んで手を差し伸べ――そうして、ケルベロス達はアイスエルフと共にその場を後にする。
 アイスエルフ達がどのような道を選ぶかは、まだわからない。
 だが、ささやかでも、小さくとも、『縁』は確かに結ばれたのだ――。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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