大阪都市圏防衛戦~迷える氷の妖精たち

作者:坂本ピエロギ

 美しい女の一団があった。
 体のあちこちに氷の結晶をつけた、つんと尖った耳を持つ妖精だ。
 彼女たちは廃墟と化した街を歩きながら、驚きを浮かべた目で辺りを眺めていた。
「これが地球……宇宙の根源、グラビティ・チェインが湧き出す星……」
「想像していた場所と、ずいぶん違うわね。地球の人々は何処にいるのかしら?」
 小声を交わして女たちは進む。封印から解かれたばかりで、自分たちが置かれた状況も殆ど知らないのだ。
 分かっているのは、この街がオオサカと呼ばれる場所であること。
 オオサカが地球における攻性植物の拠点であり、自分たちがそこの哨戒任務を命じられていること。
 そして――。
「おい、お前たち。レリ様に感謝するんだぞ」
 自分たちが、エインヘリアル第四王女レリの配下になったということだ。
「お前たちがレリ様に協力することは、第二王女ハール様の目指すエインヘリアル王の打倒にも貢献することだ」
「レリ様とハール様が王の打倒に成功すれば、お前たち妖精族が再びアスガルドで暮らせるように取り計らって下さるだろう」
 レリに仕える白百合騎士団のエインヘリアルたちに、妖精族の女性たちは頷いた。
「分かりました。同胞たちがアスガルドへ戻れるのなら……」
「ええ。戦いとなれば、私たちアイスエルフは躊躇いません」
 恭順の言葉を返しながら妖精族――アイスエルフの女たちは疑念の眼差しを交わし合う。
(「攻性植物はアスガルドの敵。どうしてエインヘリアルが協力しているの?」)
(「王の打倒……? まさか私たちは、反乱に利用されているの……?」)
 そんなアイスエルフの不安など全く知らぬように、エインヘリアルの兵士たちは言う。
「お前たちはコギトエルゴスムから復活したばかりだ。戦闘になったら無理はするな」
「そうだ。地球にはケルベロスという恐ろしい敵がいる。奴らの言うことには、決して耳を貸すんじゃないぞ」
 それを聞いていた妖精族――アイスエルフたちは、恐る恐る頷いた。
「……分かりました。氷と制圧を司る私たちの力、存分にお使いください」
 自分たちに選択肢がないことは理解している。
 アイスエルフたちは、エインヘリアルの言葉にただ頷くしかなかった。

「お疲れ様です。リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていたグランドロンの妖精8種族のひとつが、デウスエクスの手によって封印を解かれたようです」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はヘリポートに集合したケルベロスたちに、状況を説明した。
 攻性植物のゲートがある大阪城周辺が、竹型の攻性植物によって防衛されているのは既知の通りだ。しかし最近、そこに新たな勢力の影が確認されたのだという。
「それが、エインヘリアル第四王女レリ率いる白百合騎士団たち。そして、新たに発見された妖精族たち――『アイスエルフ』です」
 アイスエルフは『氷』と『制圧』を司る妖精たちだ。氷結輪と呼ばれるリング状の武器を念動力で操って戦い、標的を凍り付かせてその地域を制圧し、自分たちが過ごすための氷の地へ作り替えようとする。
 そんなアイスエルフたちを、レリは自らの軍に組み込んだ。攻性植物との同盟を強化し、敗北した第二王女ハールの勢力を盛り返すために――。

「今回の依頼では、敵エインヘリアルの撃破または撤退が目標となります」
 そう言ってムッカは、作戦の概要を話し始めた。
 まず、攻撃目標の部隊は全部で16名。白百合騎士団の兵士とアイスエルフが8名ずつでポジションは明らかになっていないが、エインヘリアルが全て前衛、アイスエルフが中衛と後衛に分かれているところまでは判明している。
「白百合騎士団の兵士たちは、大阪市街地の索敵を兼ねて、アイスエルフの訓練を行っているようです。現場周辺は身を隠す場所が多いので、身を隠して奇襲をかけられれば、戦闘を有利に進められるでしょう」
 敵はかなりの大部隊だが、アイスエルフは攻撃を受けない限り戦闘に加わることはない。彼女たちの撃破は必須ではないので、殺さずに撤退させることも可能だ。
 王女レリは種族の隔てなく、女性の自立に力を尽くす人柄で知られている。それゆえか、彼女はアイスエルフの女性たちに訓練を施すにあたり、同じ種族の男性たちを、一人残らずコギトエルゴスムに封印したままだという。
「レリは善意で行動しているようですが、アイスエルフにはそうした認識はないようです。そこをうまく突ければ、彼女たちを説得して味方に引き入れることも可能かもしれません」
 ただし、騎士団の兵士はアイスエルフを守って戦うので、まずは兵士を全滅させなければ説得は難しいだろう。加えてアイスエルフたちはケルベロスに関する悪い情報を吹き込まれているので、悪印象を与えるような戦い方をすれば説得の成功率は下がってしまう。
「どうかアイスエルフたちを助け出し、エインヘリアルと攻性植物の野望を止めて下さい。皆さんにしか頼めない困難な仕事ですが、どうかよろしくお願いします」
 ムッカは話を締めくくると、ヘリオンの発信準備を開始するのだった。


参加者
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
朧・遊鬼(火車・e36891)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
パシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)

■リプレイ

●一
 その街には、音がなかった。
 鳥のさえずりも、人々の雑踏も、春の風も、あらゆる音が存在しなかった。
 攻性植物が支配する大阪の地、地球の生命の痕跡が途絶えた死の街を、ケルベロスは今、静かに進んでいる。
 先頭を行くのは、クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)とフィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)だ。隠密気流をまとい、消音コンバットブーツに迷彩レインコート『アクアカーモ』を装備した二人の動きは、足音一つ響かせない。
(「敵影なし。そっちは、フィー?」)
(「平気だよ。油断しないでね、クラリスさん」)
 クラリスとフィーが交わすハンドサインを、二人の頭上でアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)が読み取り、後続の仲間へそれを伝える。
(「前方は敵影なし。引き続き警戒を続行するね」)
(「了解だ」)
 朧・遊鬼(火車・e36891)がサインを返した。
 諜報と暗殺を司る妖精族だけあって、遊鬼やクラリスの身動きは自然で、尚且つ素早い。水を得た魚、そんな言葉に相応しい動きだ。
 アルシエルは光の翼を背に、ビルの陰から周囲を伺う。発見され難いギリギリの高度を保ちつつ、地上の仲間の視線が届かない場所を、彼は丁寧かつ確実に拾っていく。
(「いないね……そろそろ発見できてもいい頃だと思うけど」)
 殿を務めるアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が張り巡らした気配の網も、いまだエインヘリアルを捉えるには至らない。尖った耳をそばだてながら、アンセルムは周囲の物音を慎重に拾っていく。
(「氷と制圧を司る妖精アイスエルフ、か……」)
 ふとアンセルムは、自分の先祖たちのことを考える。
 彼らがどんな気持ちで地球に来たのか。どんな思いで定命化を受け入れたのか――と。
(「かつてデウスエクスだったシャドウエルフとヴァルキュリアも、今では共に肩を並べて戦っている。そこにアイスエルフが加わることも、決して夢物語なんかじゃ――」)
 と、その時。
(「気をつけて。……いた」)
 フィーのハンドサインが、アンセルムと仲間たちに注意を促した。
 彼女が指さす先、十字路の角から複数の足音が響いてくる。遊鬼は即座に注意を向けて、拾った音から情報をかき集めた。
(「武装していて隊列を組んだ、10人以上の女の集団――間違いないな」)
(「ふむ。できれば囲んでから臨みたかったが……ちと厳しいか」)
 オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)は仲間たちと頷き合うと、静かに陣形を組み始めた。此方からは仕掛けず、しかし敵の攻撃には即応できるように。
「……来ましたね」
 葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)の目と鼻の先、十字路の右側から、巨大な人影が次々に現れる。
 純白の鎧装束。盾の紋章。かつて、かごめが戦った白百合騎士団のエインヘリアルたちに間違いない。その後ろには、彼女達よりも一回り小さな女性の一団が見える。
(「あれが、アイスエルフ……」)
 あちこちに氷の結晶をつけた体に、透き通るような水色の髪。周囲を伺うように身の回りを飛ぶ円盤は、彼女たちの操る武器だろう。
「――!」
 先頭のエインヘリアルがかごめたちに気づくと同時、オニキスが大声で誰何する。
「エインヘリアルが何をしている? 攻性植物が吾らから奪った土地で!」
「ケルベロスだ! 排除しろ!」
 剣や槍斧を抜き放ち、統率された動きで陣形を組む白百合騎士団の兵士たち。
 そこへパシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)は笑顔を浮かべ、意気揚々と手を掲げた。
「宣誓! 僕たちはアイスエルフには――」
「ケルベロスは総勢8名! 油断せずかかれ!」
「アイスエルフたちは後ろへ! 絶対に前には出るな!」
 パシャの呼びかけは、しかし騎士団の兵士とアイスエルフには届かなかったようだ。
 一斉に突撃してくる兵士たちに、アルシエルはやれやれと肩を竦める。
「問答無用ということか。ははっ、相変わらず分かりやすいレディたちだね」
 アイスエルフを背に迫る騎士団の兵士たち。陣形を組んで立ち向かうケルベロス。
 かくして戦闘は開始された。

●二
「待って! 私たちに敵意はないよ、話を聞いて!」
「問答無用!!」
 クラリスの言葉を遮り、剣が、槍斧が、隊列を組んで押し寄せてきた。
 白百合騎士団、開幕と同時の総突撃である。相手に対話の意思がないと悟り、クラリスは覚悟を決めた。
「出し惜しみなしの、全力ってわけだね……!」
 兵士の剣が、アンセルムに格闘戦を挑んできた。クラリスはそれを庇い、敵の振り下ろす剣を鮮やかに打ち払う。
 赤と白の縞模様が入った、巨大なキャンディケインで。
「なっ……!?」
「ふふん。エクスカリバール『Candy Holic』の力、甘く見ないことだね!」
 兵士を蹴飛ばし、クラリスが胸を張って笑う。
「おのれ……!」
「怯むな、攻撃続行だ!!」
 先制攻撃を控えたケルベロスめがけ好機とばかりに猛攻撃を続行する兵士たち。かごめはサークリットチェインで前衛を強化しながら、後方のアイスエルフたちに目を向けた。
(「……恐怖2割、疑念8割といった表情ですね」)
 疑念の幾らかは、ケルベロスが正面から堂々と来たことによるものだろう。兵士たちから聞かされたイメージとあまりにかけ離れた姿への戸惑いであることは、かごめにも容易に察することが出来た。
「奇襲のアドバンテージをあえて取らなかった甲斐がありましたね」
「そうだね。さあ、ここからが頑張りどころだよ!」
 フィーが特製の秘薬を調合し、攻撃の集中している前衛へとふりかけた。
 七色秘薬『橙』。傷を塞ぎ、攻撃力の上昇をもたらすフィーの薬を浴びたケルベロスが、じわじわと反撃に転じ始める。
「ルーナ! アンセルムを癒せ!」
 遊鬼は相棒のナノナノに回復を命じると、敵の剣を弾き返して、バリケードクラッシュを叩き返す。
(「……さて、そろそろアイスエルフと説き伏せないと」)
 半透明の御業で兵士の1人を掴みながら、アルシエルは思った。
 アイスエルフたちには明らかな狼狽の色が見て取れる。この機を逃す手はない。
(「猫かぶりはナシだ。正々堂々といく」)
 下手な小細工は逆効果。そう判断したアルシエルは、態度も口調もふてぶてしく、槍斧を薙ぎ払う兵たちに向かって大声で告げた。
「エインヘリアル! 相変わらず妖精族を虐げることには熱心のようだな!」
 ヴァルキュリアの証である光の羽を広げ、アルシエルはアイスエルフに向かって言う。
「聞くんだアイスエルフ! 俺たちヴァルキュリアは、かつてエインヘリアルの下僕として使役された! アスガルドに戻ることも叶わず、地球人の虐殺を強いられたんだ!」
 アルシエルの言葉を聞いたアイスエルフの間に大きな動揺が走る。だが、それを察知した騎士団の兵士たちも、負けじと言い返した。
「アイスエルフ! ケルベロスの言葉に耳を貸すな!」
「あのヴァルキュリアを落とせ!」
 邪魔者を黙らせようと飛んでくる兵士たちの攻撃に耐えながら、なおもアルシエルは語り掛けることをやめない。
「気をつけろアイスエルフ! お前たちも、かつての俺たちのように利用され……!」
 白百合騎士団の猛攻に、アルシエルの話が途切れた。
 そこへ兵士たちが、すかさず胸を張って言い返す。
「……エインヘリアルが、奴らヴァルキュリアを使役していたことは事実だ。だが!」
「レリ様は、いずれ種族の隔てなく、全ての女が自立した世界を築いて下さる!」
 兵士たちの態度は堂々としたものだった。櫛の歯を欠くように仲間が斃れ始めているというのに、恐怖や怯えは微塵もない。
 それを見てクラリスは思う。彼女たちは、それが良いことだと信じているのだろう、と。
 しかし――。
「ねえ。アイスエルフの男の人はどこにいるの? 封印から解いてもらったの?」
 クラリスはアルシエルを気力溜めで癒すと、アイスエルフに問いかけた。
 彼女は無論、真相を知っている。その上での問いだった。
「……貴方たちとは、口を利くなって……」
「解いていない。全ては彼女たちを、男性の支配から解放するため!」
 アイスエルフの狼狽を感じ取ったのだろう、兵士の一人が即答する。
 クラリスはそれを無視して続けた。
「それは貴女たちが望んだこと? そうでないなら、貴女たちが受けているのは支配そのものだよ」
「そうだよ! アイスエルフを不幸にしてるのはエインヘリアル、貴女たちでしょう!」
 雷刃突を放ちながら怒りに声を荒らげるパシャ。その言葉に兵士たちは驚愕を浮かべ、中には目元を拭う者まで出始めた。
「私たちの行いが、支配だと!?」
「ああ……すっかり男性優位の社会に毒されてしまって、可哀そうに」
「せめてアイスエルフだけでも、レリ様のお導きが必要だ!」
 それを聞いたオニキスは轟竜砲の弾幕で兵士を捉えつつ、静かに嘆息する。
「ふむ。薄々感じておったが」
「何がだい、ヴェルミリオン?」
 鋼の鬼と化した姿で兵士を蹴り飛ばしながら、アンセルムが首を傾げた。
「あの者共には本当に、欠片程の悪意もないのだな」
「そのようだね。ある意味、悪意ある敵より厄介かもしれない……だったら」
 だったら、少し手を変えよう。
 そう判断したアンセルムは、静かにアイスエルフに語り掛けた。
「ねえアイスエルフ。どうやら王女レリは、キミたちに優しかったようだね」
 けれど、とアンセルムは続ける。言葉の裏に、疑念の毒を忍ばせながら。
「他のエインヘリアルたちはどうかな? キミたちを駒扱いしない保証があるかな?」
 そこに遊鬼が頷きながら加わる。
「そうだ。特に王女レリの姉貴とかな。奴が王位を取ったらレリと言えども、その命令には逆らえないだろう? お前らは知らないだろうが、あの女は謀略・策略何でもやるぞ」
「馬鹿を言え! レリ様が信用できると仰るのだ、信用できるに決まっている!」
 アンセルムと遊鬼の問いに、負傷した兵士が防御態勢を取りながら割って入る。既に手勢の半分以上を失ったというのに、その戦意は微塵も衰えていない。
 だが、そんな白百合騎士団の面々とは対照的に、アイスエルフの動揺はどんどん広がっているようだ。初めはケルベロスを威嚇するように飛んでいた氷結輪は、今やすっかり大人しくなってアイスエルフの手に収まっている。
「ケルベロスを攻撃しろ、アイスエルフ! このまま帰れば厳罰が待っているぞ!」
 兵士の何人かはそう言って加勢を促すが、それに応じる者は誰もいない。
 積極的に裏切りこそしないものの、アイスエルフが兵士の命令を拒否しているのは誰の目にも明らかだった。そうするうちにも騎士団の兵士は次々と斃れ、ついに最後の1人を残すのみとなった。
「く……っ、おのれ!」
「攻性植物と手を組むなど、正気とは思えませんね」
 かごめは最後に残った兵士の薙ぎ払う槍斧を回避すると、降魔真拳でカウンターパンチを叩き込んだ。致命打を浴び、血を吐いて崩れ落ちる兵士を見下ろして、かごめは容赦なく言い捨てる。
「寄生されて彼らの駒になったのでは、生き恥を晒すだけではありませんか」
「攻性植物が敵だったのは過去のこと。彼らも変わろうとしている……!」
 血を吐いて言い返す兵士に、かごめの声は容赦を知らない。
「浅はかですね。爆殖核爆砕戦で私たちに敗れた勢力と手を組んで、どうするのです?」
「ふ、ふふ……この地に集うのは、彼らだけでは……」
 その一言を最期に、兵士はコギトエルゴスムとなって砕け散った。

●三
「平気? 怪我はない?」
「はい。ありがとうございます」
 クラリスの気遣いに、アイスエルフの少女は小さく頷き、礼を言った。
「あの……私たち、これから……」
「好きにしろ。レリの元へ戻るも俺たちと来るも自由だ。その判断を俺は受け入れる」
 恐る恐る問う少女にアルシエルは答えた。口調こそぶっきらぼうだが、込めた思いに嘘はない。そんな彼の言葉に、少女は怯えた表情で口をつぐんだ。
「ケルベロスたちと……」
(「彼女たちは知らない。ケルベロスがどのような存在か、何のために戦っているか」)
 それを察したかごめは、マインドリングを地面にかざし、言った。
「貴女たちに、見てほしいものがあります」
 足元のひび割れたアスファルトに、温かい光が注がれた。マインドシールドの効果で修復されていく歩道を見下ろして、かごめは言う。
「ここ大阪は、地球の拠点のひとつでした。しかし地球の人々はデウスエクスに対抗する力を持たず、グラビティ・チェインを奪われ、今も脅威に晒されています」
 かごめは暫し言葉を切ると、アイスエルフたちを見つめて言った。
「私たちケルベロスは、そのような人々を守るための存在です」
「人々を、守る……」
 呟くアイスエルフにフィーとオニキスは頷いて、提案を持ちかけた。
「ねぇ、僕たちと一緒に来ない?」
「分からぬことは山ほどあろう? 情報を与える事を、吾らは惜しまぬぞ」
 二人の話に、クラリスとアンセルムも頷く。
「そうだよ。聞いた上でどう判断するかは、貴女たちの意思次第」
「シャドウエルフもヴァルキュリアも、今では地球で平和に暮らしている。望むなら、いつでもボクたちは歓迎するよ」
 それを聞いたアイスエルフたちは、お互いに視線を交わし合うと、
「分かりました。貴方たちケルベロスを信じます」
 小さく、しかしはっきりと頷いた。
 安堵の空気が流れ、帰還の準備を始める一行。
 だがそのなかで一人、浮かない顔をする男がいた。遊鬼である。
「どうしたんですか、遊鬼さん?」
「ああ……いや」
 パシャの声を聞いて、遊鬼は我に返って言う。
「あの兵士が残した言葉が気になってな。まるで……」
 まるで、攻性植物以外にも手を組む勢力がいるような口ぶりだった――そう言おうとした遊鬼に、アイスエルフの少女が告げる。
「エインヘリアルが言ってました。私たち以外のグランドロンも、いずれ集まるって」
(「やはりか。兵士や少女の情報が事実である証拠はない。鵜呑みには出来んが――」)
 それでも、と遊鬼は思う。
 どうやら大阪城の中で、何かが起こり始めていると。
 そんな遊鬼たちに、アイスエルフは懇願する。
「大阪城には私たちの家族が囚われています。お願いです、助けて下さい」
「分かった、まずは本部に戻ろう。救出の手立てを考えないとね」
 アンセルムの言葉に、アイスエルフの女性たちは目に涙を浮かべた。ケルベロスが本当に自分たちを案じてくれていることが分かったのだろう。
「ありがとうございます。本当に……」
「大丈夫。種族の皆が一緒に幸せになる方法、考えよう」
 クラリスは笑顔を浮かべ、少女を優しく抱きしめる。彼女たちアイスエルフと築く未来が明るいものであることを祈り、そして、
(「最後のグランドロン、か……」)
 胸に湧き上がる、微かな不安を感じながら――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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