雑木林の決闘

作者:一条もえる

 雑木林のなかにぽっかりと開けた空き地に、若者が十数人集まっている。
「よぉ、オマエがリーダーか」
 よく見るとそれはふたつのグループに分かれていて、互いににらみ合っていた。
 その一方から歩み出た金髪の男が、ヘラヘラと笑いながら相手を見やる。
 対するグループの先頭に立つ短髪の男は、不機嫌そうな顔つきのまま無言だった。
 それを意にも介さず、なおも金髪はヘラヘラと笑いながら、
「ん、待てよ? なんかオマエ、見たことある顔だぞ」
 と、首をかしげる。
 すると仲間の1人が、これまたヘラヘラと笑いながら歩み出て、
「こいつ、向こうの空手道場にいた奴ですよ。俺も通ったことがあるから、知ってます。
 ガキの頃は大会で優勝するくらいで、ときどき地元のニュースにもなってましたから。だから知ってるんじゃないですか?」
「へぇ?」
「でも、昔の話ですよ。今じゃ道場の後輩にも追い抜かれちまって、成績もさっぱりだそうで」
「へへッ! 空手の落ちこぼれかよ?」
 と、金髪が笑う。
「てめぇッ!」
 そのときになってはじめて、短髪の男が激高して口を開いた。
「おー、怖い怖い。やだなぁ、怒らないでくださいよ『先輩』。事実らしいじゃないっすか」
「ダッセェな! そんな弱虫くんだから、『この力』を当てにしたってのか?」
 男が腕を突き出すと、そこが大きく盛り上がって出現したのは巨大な葉。ハエトリグサを思わせるそれは巨大な掌のように伸びた。
「ぐちゃぐちゃうるせぇんだよ! 黙ってろ!」
 短髪の男が怒鳴ると、こちらの肩も大きく盛り上がった。無数の蔓草が肩から生え、金髪の取り巻きを絡め取ろうと蔓を大きく伸ばす。
「ひぇッ!」
「おい、待てよ。弱い者いじめとは、空手家サマがダセェじゃねえか」
 ヘラヘラと笑った金髪は葉を大きく広げ、それを受け止める。
 つま先で、足もとで小便を漏らして腰を抜かした取り巻きの腹を遠慮なく蹴り上げ、宣言するように大声を張り上げる。
「さぁ、勝負しようじゃねぇか! 俺とオマエ、勝った方がグループのボスだ!」

「茨城県かすみがうら市ですが……近ごろ、若者のグループ同士で抗争が激化しているのをご存じですか?」
 と、セリカ・リュミエールは問うてきた。
「もちろん、それだけならば警察のお仕事なのですが。
 どうやらグループの中に、攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化してしまった人がいるようなのです」
 それどころか、中には好んでその力を求めようとする輩までいるらしい。
「どうやら、その強さを『格好いい』と捉えているらしく……理解出来ませんね」
 しかも彼らは、互いに決闘して相手を傘下に収めようとしているようなのだ。
「それを繰り返して組織が大規模になれば、それだけデウスエクスが攻勢をかけてくる危険も高まります。できる限り早いうちに対処しましょう」
 無論、異存のあるはずがない。
「敵は2体。
 1体はハエトリグサのような葉を広げて襲ってくる個体です。
 ですが、別の茎が伸びて花のように見える箇所が現れたら注意してください。そこから破壊光線を放ってきます。
 2体目は、蔓草のようなものを伸ばしてきます。
 なるべく、それを地面には打ち込ませないようにしてください。ヒールで治せますが、地面が攻性植物と同化して浸食されてしまいます。
 なるべく2体、最悪でもどちらか1体は撃破してください。
 決闘している両者ですが、一時休戦してこちらに立ち向かってくると、厄介ですね……」
 そういったセリカは、なおも表情を曇らせる。
「空き地の周辺は雑木林が広がり、見通しがききにくい場所です。そこに逃げ込まれると厄介ですね。
 反面、若者のグループをのぞいては人気も少ないので、誰かが巻き添えになる心配はないでしょう。若者たちも、さっさと逃げ散ると思います」

「攻性植物に寄生された彼らを救う手立ては……もはやありません。残念ながら。
 せめて、これ以上人々を傷つける前に。どうかよろしくお願いします」


参加者
佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)
ペリム・エストルテ(インペリアルウィザード・e03609)
グレア・リーダス(三叉角の騎士・e05352)
サラ・エクレール(銀雷・e05901)
大原・大地(元守兵のチビデブドラゴニアン・e12427)
相摸・一(刺突・e14086)
ヴェルーリヤ・ラディウス(ヒュギエイアの杯・e15269)
ラズリア・クレイン(蒼晶姫・e19050)

■リプレイ

●狂気の決闘
「さぁ、勝負しようじゃねぇか! 俺とオマエ、勝った方がグループのボスだ!」
 金髪の男はそう言って、ハエトリグサのような葉を大きく広げて襲いかかった。
「くだらねぇ……!」
 短髪の男は吐き捨てるように呟き、滑るような体裁きでそれを避ける。
 短髪の男から棘のついた蔓が勢いよく伸び、金髪の男に迫った。
 しかし金髪の男はハエトリグサの葉を広げ、噛みつくようにして蔓を押さえ込んだ。
「おぉ、スゲェ!」
「やれやれ、やっちまえッ!」
 取り巻きどもの興奮が増していく。眼前に広がっているのは恐るべきデウスエクスの戦いであるというのに、見ようによっては無邪気に、歓声を上げ声援を送っていた。
「……若気の至りじゃすまないのですが。わからないんでしょうか?」
 佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)の呟きに力がないのも、眉間を抑えてから遠くを見ているのも、すべて昨夜の仕事が遅かったせいだ。ケルベロスとしてではなく、会社勤めの。
「わからないのでしょうね。ケルベロスでもない彼らが攻性植物を手にしたところで、寄生されるだけですのに」
 ラズリア・クレイン(蒼晶姫・e19050)は眉を寄せて、
「最近の若者は嘆かわしいですわ」
 と、呟いた。
 あなたが「若い」とか言い出したら、私はどうすればいいんでしょう?
 と、みのりは思ったが、なんだか今日は肩こりもひどくて、何も言わず黙った。
「今しか見えてないんだろうなぁ」
 と、大原・大地(元守兵のチビデブドラゴニアン・e12427)。
「あんなもの、『自分の力』とは言えないでしょうに」
 サラ・エクレール(銀雷・e05901)は呆れたようにため息をついた。
 傍らで、それまで押し黙っていたペリム・エストルテ(インペリアルウィザード・e03609)が口を開く。
「寄生された人を助ける手段はありません」
 穏やかな声だ。
 彼女は『隠密気流』で息を潜め、仲間たちとともに、若者たちの『決闘』の場所となっている空き地から少し離れた雑木林で様子を窺っている。
「あぁ。少年たちを手にかけるのは気が進まないが……こうなった以上、他に方法はない。
 他で被害を拡大させることにもなりかねないしな」
 渋い表情で言ったグレア・リーダス(三叉角の騎士・e05352)は巨躯を屈め、若者たちの戦いを凝視する。
 戦いは一進一退。金髪の男が別の茎を伸ばしたかと思うと、花のように膨らんだそこから光線を放つ。
 光線は短髪の男の胸を貫き、血飛沫が舞った。
 しかし常人なら即死しかねない傷を負っても短髪の男は平然としたままで、蔓を伸ばして金髪男の腕を絡め取り、折られた骨が露わになるほどの勢いでへし折った。
 目を背けたくなるような光景だというのに、取り巻きの若者たちは目を血走らせて怒声を放つ。
「血の興奮が、連中を狂わせるか。……やっていることは、ここでも変わらないな」
 相摸・一(刺突・e14086)が思い出したのは、かつて大陸にいた頃の日々か。
 ケルベロスたちは大きく二手に分かれて状況を見守っている。
 すぐに制圧に乗り出さないのは訳がある。
 奴らが『同士』討ちをして、消耗するのを待っているのだ。いかに彼らケルベロスといえど、攻性植物を2体同時に相手をするのは骨が折れる。
「できれば、一方が倒れるまで待ちたいところですね」
 ラズリアが茂みから顔をのぞかせ、呟いた。

●乱入
「仕方がありませんね。状況、開始です……!」
 ヴェルーリヤ・ラディウス(ヒュギエイアの杯・e15269)は茂みから飛び出し、『サークリットチェイン』を展開する。
 状況を見守っていたケルベロスたちだったが、若者ふたりの戦いはさらに激化していき、やがては周囲の木をなぎ倒すほどになってしまった。
 ふたりが取り巻きどもなど気にもかけていないだけに、彼らは慌てふためいて逃げ惑うしかない。
 自業自得。救いがたい連中だが、あれでも守るべき人間たちである。
「やむをえんか」
 一も苦い顔で飛び出す。
「なんだ、てめぇら!」
「たとえ薄い障壁でも、重ねれば……!」
 そのヴェルーリヤを目がけて、金髪男が茎を伸ばし、葉を大きく広げて襲いかかる。
 それは猛獣の牙のように鋭く、そして中にのぞく毒針はヌラヌラと光を放って禍々しく、ヴェルーリヤを捕らえた。
「大丈夫か?」
 グレアが『紙兵散布』で敵の攻撃に備えつつ駆け寄る。
「……なんとか」
 幸い、直前に放った『サークリットチェイン』と、ウイングキャット『アイルロース』が背中の羽を羽ばたかせ、『清浄の翼』で彼女らを守っていたこともあって、傷は浅く、毒もヴェルーリヤの身体を蝕むことはなかった。
 ケルベロスたちは、2体の攻性植物と対峙する。
「なんだと言われたらこう言うしかないですね。ケルベロスです!
 弾き飛ばすッ!」
 大地は大声を上げながら、盾を構えて金髪の男に突進した。
「ぐえッ……!」
 その『シールドプッシュ』の突進をまともに喰らった金髪の男は吹き飛ばされ、転倒した。
 その身体は短髪の男との戦いで、右腕をはじめとして各所が歪に折れ曲がっている。
「狙うは、こちらの方からか」
 グレアは縛霊手を向けると、『御霊殲滅砲』を放つ。光弾を浴びた金髪の男は悶絶し、反撃にと葉を伸ばそうとしたものの、うまく身体が動かない。
「てめぇら、隠れていやがったな!」
 ひどく充血した目でこちらを睨む。
「卑怯と言われればその通りかもしれないが。これ以上、君たちが暴れるのを見過ごす訳にはいかないのでな」
「クソが!」
 再び金髪の男が光線を放とうとする前に、一が距離を詰める。
 『旋刃脚』。紫電の蹴りが、ハエトリグサの葉がひしゃげるほど強烈に食い込んだ。
「こちらから、一気に畳み掛けましょう。……大地に眠りし、邪眼の光!」
 ペリムの放った光線が、金髪の男の胸板を貫く。
「存分にやってください。私とアイスロースとで支えます」
 と、ヴェルーリヤ。
「邪魔を、するな! そいつは俺が殺す!」
「そうはいきません」
 怒鳴る短髪の男の前に立ちはだかったのはサラだ。
 金髪の男と共闘するつもりはなさそうだが、この男もケルベロスに対し殺意をむき出しにするデウスエクスに成り下がっている。
 我が剣は柳の如し。『柳枝の陣』をとり、サラは短髪の男が蔓を伸ばすのを見据える。
 しかし蔓はサラに迫ってくるのではなく次々と地面に突き刺されていったのだ。
 まずい、と思った時にはすでに遅く、埋葬形態と化した地面がサラたちを襲う。
「く……」
 予想以上に強烈な一撃だ。頭がくらくらする。目の前にいるのは、敵か味方か?
「エクレール様、しっかり!」
 ラズリアがケルベロスチェインを展開し、サラを励ました。
 そのおかげで、はっきりしなかった思考が鮮明に戻ってくる。
「ご安心を。皆様の背中は私が守ります!」
 と、ラズリアは頼もしい。
「ありがとう」
 笑顔を向けたサラは大きく跳躍し、短髪の男の側頭部に強烈な跳び蹴りを命中させた。
 常人なら絶命確実な部位だが、短髪の男はまだまだ平然とした顔で、蔓を伸ばしてくる。
 締め付けられ、絡め取られそうになったが、今度は『柳枝の陣』も期待通りの威力を発揮し、すんでのところで避け得た。
「はやく、こちらを片付けましょう」
 短髪の男を抑えにかかっている仲間を見やり、みのりは『熾炎業炎砲』をハエトリグサに向けて放つ。
「舐めるな! クソがッ!」
 ハエトリグサは大きく跳躍してそれを避け、破壊光線を放ってきた。
「いたた……! こんなもので、負けませんから!」
 身を灼かれ顔をしかめながらも距離を詰め、みのりは鋭い一撃を放つ。
 今度は命中し、引き裂かれたハエトリグサの葉が凍てつく。
「くそったれ」
 ケルベロスとの戦いの前から、すでに少なくない手傷を負っていたのだ。ハエトリグサは憎々しげに舌打ちすると、ちらりと雑木林の方を見やる。
「逃がすか。『ナポリ』!」
 グレアの叫びに応じ、ミミックは跳躍しようとしたハエトリグサの足にかぶりつく。
「よい一撃です」
 わずかに口の端を持ち上げたペリムの掌から、ドラゴンの幻影が姿を現す。放たれた炎が動きを止められたハエトリグサを襲い、焦がしていく。
 嫌な臭いが周囲に立ちこめ、ケルベロスたちも顔をしかめた。
「クソがクソがクソがぁッ!」
「すみません、目を逸らさないでくださいね?」
 まるで、話の通じないクレーマーを落ち着かせようとでもしているように。
 穏やかな口調でみのりが放ったのは、『揺蕩う銀月(ムーン・シェイカー)』。銀月のエネルギーが襲い、ハエトリグサは顔を引きつらせて動きを止めた。
 大きく踏み込んで、一が間合いを詰める。
「果実をどこで手に入れた? 言えば放してやるぞ」
 一が光り輝く左手で、ハエトリグサの首根っこを掴みながら問う。
 しかしながらハエトリグサは応えず、ただ血走った目でこちらを睨むだけだ。はたして、話が通じているのかいないのか。
「気になるところですが、それどころではなさそうですね」
 と、ペリムは『アイスエイジ』でもって、反撃しようとするハエトリグサの毒針を封じ込めた。
「まともに答えられるはずもなし、聞くだけ無駄か」
 そう言った一は漆黒の右手で、その頭蓋を粉砕した。

●力とは
「始原の楽園より生まれし剣たちよ。我が求めるは力なり。蒼き輝きを放つ星となりて敵を討て!」
 ラズリアの周囲に魔方陣が浮かび上がり、蒼く輝く剣が姿を現す。無数の剣が、短髪の男に襲いかかる。
 しかし男は、流水のような巧みな体裁きでそれを避け、逆にラズリアに蔓を伸ばし、彼女を絞め殺そうとした。
 仲間たちがハエトリグサと交戦している間、サラとラズリアは短髪の男を抑えにかかっていた。
 しかし敵はなかなか手強く、今もサラが蔓に絡め取られ、締め上げられている。
 それを救おうと打ち掛かったラズリアの攻撃も不発に終わったのだ。
「遅くなりました、助太刀します!」
 そこに、ハエトリグサを葬った仲間たちが来援した。
 大地は『破鎧衝』で幾重にも伸びる蔓をブチブチと引き裂いていく。
「ラズリアさんを頼んだよ!」
 その間、大地のボクスドラゴン『ジン』が『属性インストール』で、彼女の傷を癒やしていった。
「まだまだ……!」
 サラも一声叫ぶと、絡みつく蔓をふりほどいて立ち上がる。
「自らの器を越えた力を手にしたところで……決して良い結果にはなりません」
「そうだ。それに格闘家なら、己の肉体で戦うものだぞ?」
「うるせぇ! 空手とか……いちいち持ち出すな! どうでもいいんだよ、あんなものは!」
 一が挑発すると、短髪の男は怒鳴り返してくる。
 目の色は変わり、もはや正気を保っているとも言いがたいのだが。それだけ、この男にとって重要な、あるいは神経を逆なでされる物事だったのか。
 再び蔓を地面に打ち立てると、浸食された地面は一とグレア、そして大地を飲み込んだ。
「倒れんよ、この程度では。私の力は、守るべき者のための力なのだからな!」
 本当は激痛に襲われている。しかしグレアはそれに耐えておくびにも出さず不敵に笑い、
「盾よ、我が意思と共に、干戈を防ぐ防壁となれ」
 自らの周りに盾となる障壁を展開し、得物を構え直して短髪の男に迫る。
 男の蔓がグレアを襲ったが、それは障壁に弾かれ、わずかに身体には届かなかった。
「少年。どんな力を持ったとしても、力は振り回すものではないのだ。
 ……今はもう、分からないかもしれないが」
「正義無き力は暴力なり、とも言います。強大な力に飲み込まれたのですね……。
 人の姿を残しているモノと戦うのは、心が痛みますが」
 ヴェルーリヤも悲しげにかぶりを振りつつ、
「それならば、覚悟を持ってお相手します! 大地さん!」
 放たれた電気ショックは大地の傷を癒やすとともに、彼の力をもブーストさせる。
「任せて!」
 超加速した大地は、短髪の男目がけて一直線に突進する。
「もう、元の姿になんて戻れないんですよ! わかってるんですか!」
「戻る必要がどこにある! すげぇ力じゃねぇか!」
 が、男は灌木に絡めた蔓を引っ張って、すんでのところでそれを避けた。
 避けられてしまった大地だが、その程度で旺盛な戦意が衰えることなどない。再び身構え、飛びかかろうとする。
 だがその前に、
「お願いします、相摸様!」
 オーラを溜めて気力を振り絞った一に、ラズリアがさらに『脳髄の賦活』を与える。
 限界まで引き上げられた一の脳細胞はその一撃にも驚異的な力を与え、
「ぐわぁッ!」
 放たれた蹴りは、防御の構えをとって防いだはずの、男の腕さえ粉砕した。
「構えが、甘いんじゃないか。へこたれずに、もっと修行しておくんだったな」
「うるせぇんだよ! 今の俺には、オレには、オレニハコノ『チカラ』ガアルンダッ!」
 男は天を仰いで吠え、四方八方に蔓を伸ばしていった。
「駄目だ。どうしようもないよ」
「……まだあれだけ動けるなんて」
 大地は苦々しく呟き、サラは驚愕しつつ、ともに襲い来る蔓を切り落とす。
「もはや、破壊衝動だけで戦っているのですね」
 ヴェルーリヤは嘆きながらも、サーヴァントを引き連れて襲い来る蔓によって傷ついた仲間たちの傷を癒やしてまわる。
「せめて、これ以上は苦しまないようにしてあげましょう。
 ……バカですよ、本当に。こんな姿になって」
 みのりが悲しげに目を伏せる。ほんの一瞬だけ。
 目を見開いたみのりは縛霊手で殴りつけ、そこから網状に広がった霊力で男を絡め取った。
「そのまま、抑えていてください」
 そう言ったペリムの表情が一変している。普段は、たとえ戦いのさなかであってもその陽気な風貌は失われないのだが。
 今の彼女は、さながらデウスエクスの命を狩る死神であった。
 紫色の瞳が、妖しく光る。
「我は冥府に誘う礎! 汝の魂に儚い運命を……Sterblich Zeit!」
 叫ぶや、冥府の魔力を満身に宿す。その力は大上段から振り下ろされた剣から衝撃波となって、短髪の男を襲った。
 男の全身、そして寄生した蔓までもがズタズタに引き裂かれ、浄化されていく。
「オレハ、オレハツヨクナリタインダ……! ダレヨリモ……!」
「もし。
 もし生まれ変わることが出来たなら、次はまっとうな人生を送ってね……」
 呟くペリムの表情は、決して死神のそれではなかった。


「ひどいですね、戦いのあとは……」
 ペリムが地面に描いた守護星座が、攻性植物によって侵食されていた大地を癒やしていく。
「私、明日も出勤早いんですけどね……」
 みのりはそんな事を呟きながらも、泣き笑いの表情で穴を掘っていた。少年たちの遺骸、もはや残骸と呼ぶしかないそれを、せめて葬ってやる。
 その作業を手伝いながら、グレアは独りごちた。
 せめて、気づいて逝けただろうか。力のみを求めても、そこには何も無いのだ、と。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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