イマジネイターの誕生日~寄り添い、薫り、花ひらく

作者:猫目みなも

「寄せ植えに興味はありませんか?」
 春風の吹くヘリポートで、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はそんな風にケルベロスたちへと声を掛けた。
「ハーブの寄せ植え体験ができるガーデンカフェが、この近くにオープンしたそうなんです。行ってみたいなと思うんですけど、僕、そういうことはあまり経験がなくて……ケルベロスの皆さんが一緒なら、心強いかなと思ったんです」
 カントリー調にデザインされたガーデンカフェのチラシを見せつつ、イマジネイターはそんな風に言葉を続ける。
「ひと口にハーブの寄せ植えと言っても用途や楽しみ方によって色々あるようなので、どんな寄せ植えを作りたいか考えるだけでも楽しそうですね」
 香りを楽しむならばラベンダーやゼラニウム、摘み取ってハーブティーを淹れる楽しみ目当てならばレモンバームにカモミール、扱いに注意はいるけれどもミントなどなど。
 或いはセージやタイムにオレガノ、パセリを植え込んだ鉢をそのままキッチンの窓辺に置けば、料理のお供にも頼もしいだろう。そうした用途を見込むのであれば、シソやミツバといった和風の味わいも見逃せない。
 もちろんカフェと名乗るからには、テーブルでお茶やお菓子、軽食を楽しむこともできる。オーナー手ずから育てた自慢のハーブをふんだんに使ったメニューは、どれも美味しいこと請け合いだ。
「草花でいっぱいの花壇を眺めながら、ただのんびりお茶を楽しむのも勿論いいと思います。せっかくの暖かくていい季節ですし、ね」
 言って、少しだけ悪戯っぽくも見える笑みを見せて、イマジネイターは微かに首を傾げた。
「お店までは僕が間違いなくご案内します。ですので、もし興味のある方がいたら……一緒に、行ってみませんか?」


■リプレイ

●のびゆき、ゆめみる
 湿った土と、爽やかな新芽の匂い。鼻先まで近づいたそれを深く深く吸い込んで、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が目を細めた。
「良い香りに包まれますネ……」
 大事な家族の呟きにやはり笑顔で頷いて、ジェミ・ニア(星喰・e23256)は目の前に並ぶ沢山のハーブ鉢をぐるりと見回す。
「喫茶店を営むものとしては見逃せないよね!」
 香りが良いのは勿論、多彩なお茶にも使えるし、その上野性味と繊細さを共に備えた草姿はお洒落の一言。喫茶店に似合いの植物も様々だろうが、そこにハーブの寄せ植え鉢が入らないということはまずないだろう。
 ジェミの店の内装を思い浮かべるように一度目を閉じ、また開いて、エトヴァは素朴な風合いのテラコッタ鉢を両手で取った。
「鉢ハ……テラコッタが定番でショウカ?」
「一番出番が多いのはやっぱりミントかな……えっ、扱い難しいのですか?」
 首を傾げるジェミに、オーナーが頷いて仕切り板を差し出した。ミントは地下茎でどんどん増えて他の植物の居場所まで横取りしてしまうため、住処をきっちり分けてやると安全――そんな助言を受けて、エトヴァはまじまじと小さな葉を見つめる。
「ミントサン、元気いっぱいなのですネ……」
 同じ鉢に植え込んだレモンバームも、まだまだ幼い姿をしている。青みががった翠、黄色寄りの若緑、そして土の黒。小さな生命の織り成すモザイク模様にしばし見惚れた後で、二人はそれぞれ別の鉢を手に取った。背後に楽しげな秘密の気配を覚えつつ、エトヴァが選んだ木箱に植え付けていくのは、レモンバーベナにタイム、スウィートバジル。草丈に高低をつけ、花束を作るように寄せ植えた木箱の上を風が吹き抜ければ、ひと足早い夏を思わせる爽やかな空気が香る。そのひとかけらも逃すまいというように閉ざした唇で笑ったエトヴァの肩を、不意にジェミが叩いた。――どうやら、向こうももう一仕事終えたらしい。振り向けば、若葉とよく似た色の双眸が得意げにエトヴァを見つめていた。
「じゃーん、和風ハーブ。上手に根付いたら今度何か作ってあげるね」
 目の高さまで掲げられたのは、妖精のようなシソとミツバの若芽。大葉おにぎりに三つ葉の卵とじ、それにめんつゆとのコラボレーション。ジェミの口から休みなく並べられる魅力的なアイデアに、エトヴァも嬉しげに微笑みを返して。
「……俺モ。バーベナのお茶や、香草焼きを作ってあげたいデス」
 そう遠くない距離から聞こえる幸せな食卓の予感に、四御神・清楓(洞ヶ峠のパトロネージュ・e07644)は小さく笑い声を零す。
「植えて眺めておしまいじゃなく、味わう楽しみもあるっていいわよね。わたしは紅茶が好きだから、ジャーマン・カモミールとレモンバーベナ、それと虫除けにニームを合わせようかしら」
 あなたは何を選んだの、と問いかけた先にいるのは、至極真剣な表情を浮かべるイマジネイター。清楓の選んだそれとよく似た風合い、サイズ感の木箱を前に、彼女は困ったように顔を上げた。
「実はまだ迷っているんです。どれもこれも魅力的で」
「小さめの鉢でいくつか作ってみるのもいいんじゃない? フレーバー違いのティーバッグを作るような気持ちで」
「成程……素晴らしいアイデアです!」
 ぱっと表情を輝かせてペパーミントの苗を取り、またイマジネイターは表情を変えた。
「……ミントって、他のハーブと一緒に植えてしまうと喧嘩になるんでしたっけ」
「大丈夫よ」
 言い切りながら、清楓は大きめのポリポットと鋏を手に取った。ポットの上部を切り広げ、そこにニームの苗を収めてやって、彼女はイマジネイターに視線を向ける。
「こうして一回り大きなポリポットに入れてあげると、そこから出ないから」
「わぁ……」
 感嘆に煌く赤い瞳がこちらを見つめていることが、少しばかりくすぐったい。小さく笑い、この後のお楽しみに彼女がどんな顔をするだろうとも考えて、清楓は鋏をイマジネイターに手渡した。
「うちにもハーブはあるけど……この三年、思ったほど増えなかったな」
 傍らの玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が呟いた言葉に、新条・あかり(点灯夫・e04291)は視線を落とす。まだ真っ黒な鉢の中、土のおもてに思い出すのは、一緒に暮らし始めた時の彼の言葉だ。
『どこにでも、好きなものを植えて良いよ』
 ……そう言って貰ったけれど、結局あかりが増やした緑は自室近くに数鉢のハーブだけ。同じ景色を思っていたのか、ふと陣内があかりの横顔に目を向けた。
「……遠慮してる?」
 ――あまりにも、完成されたあの箱庭に。僕のものを持ち込んで良いのかとずっと迷っていたんだ。
 微笑む陣内に対して思った言葉は、そっと胸の奥にしまい込む。代わりにちらと視線だけを返したあかりに、陣内は一層笑みを深めた。
「俺にとって大事なものがあるように、あかりにとっても大事なものがあるだろう?」
 頷き、再びあかりはまっさらな土の上に目を落とす。暗い暗い色を懐かしむようにしばらく見つめた後、ややあって彼女は立ち上がり、カモミールとクリーピングタイムの苗を手に戻ってきた。
 真剣な表情でひとつひとつ苗を移していくあかりの横顔に小さく頷き、陣内は自分が選んだアンティーク調の籠に向き直る。この古びた無機物の中に、これから新たな緑が伸びやかに育っていく。それが、何とはなしに誉れ高いことのように思える。微かに笑って、カンテラにも似た籠の中へと陣内が小さな家のオーナメントを飾ろうとしたその時。
 二人の肩が微かに触れて、ぬくもりが重なった。
(「この家にはな、赤い髪の妖精と無愛想な医者が住んでいるんだ」)
 言葉にするでもなく、けれど語らうように、陣内は指先でオーナメントの屋根を撫でる。それをしっかりと視界に収めた後、あかりは自分の鉢に手を触れた。愛おしむように掌全体で白い木箱の存在を感じながら、彼女もまた声には出すことなく囁く。
(「あなたの箱庭の中に、僕の場所を作ってくれてありがとう」)
 春の風が吹き抜け、若い緑を揺らして去っていく。

●ひらき、みのる
 春の風が、テラスから緑の匂いを乗せて吹き込んでくる。ふと風上を見て微笑んだ後、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)は机上の植木鉢に視線を戻した。控えめな大きさの鉢の中には、今しがたリュセフィーが自身の手で植え込んだハーブが揺れている。ラベンダーの甘い香り、カラミンサとイブキジャコウソウの澄んだ少し辛い香り。幾重にも重なり合う香りを立てているのは、白と淡い紫が上品に入り混じる寄せ植えだけではない。
 同じハーブを使ったハーブティーのカップを傾け、温かい湯気の香りをも楽しんで、ふとリュセフィーは振り返る。聞こえた足音の主が探していた相手だと知って、彼女はにこやかに立ち上がった。
「イマジネイターさん、お誕生日おめでとうございます!」
 祝福と共に手渡すのは、太陽を象るアクセサリー。着ている服にあつらえたかのような色合いを早速胸に挿して、面映ゆそうにイマジネイターが笑うのを、やはり笑顔でリュセフィーは受け止めた。
「あら、素敵なカフェじゃない。とても落ち着くわね」
 案内された席に腰を落ち着け、オルネラ・グレイス(夢現・e01574)は口元に指先をやる。
「ね、ね、凄いですよね! お姉ちゃんは何を頼みます?」
 咲き誇る花々にも目を輝かせつつ、華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は同じくらいキラキラしたままの目を姉へと向ける。そうねえ、と目移りする様子でメニューを眺めるオルネラの方に、ふふんと灯は身を乗り出して。
「良かったら、私が選んであげましょうか? ばっちり勉強してきたんです!」
「うふふ、それじゃぁお言葉に甘えちゃおうかしら」
 テーブルの下で今もめくられ続けている入門書は見なかったことにして、オルネラはにっこりと微笑んだ。わざわざこうして勉強してきて(と言うか、今もして)くれる妹のいじらしさが、今は何よりも愛おしい。
 しばらく机の上と下とに忙しく視線を動かした後、ややあって灯はメニューの一点を指差した。優しい色合いの写真に写っているのは、ハーブティーと焼き菓子のセットだ。
「ハーブティー、ローズマリーはどうでしょう。抗酸化作用……つまり、若返り効果があるとか!」
「あらあらうふふ」
 元気いっぱい提案した灯の表情は、次の瞬間固まった。先ほどとは明らかに温度の違う笑みを浮かべて、オルネラがこちらを見つめている――これは、『何か』を踏んでしまった、かもしれない。
「私って灯にとっては老けて見えるのね」
「え、あ、いえ、決してソンナワケデハ」
 あまりにもにっこりと笑っている姉の視線から逃げるように、灯は広げた本を机の上に立てて壁を作る。ぼそぼそと自分の分のラベンダーティーを注文する妹に小さな笑い声を零して、オルネラもまた店員に手を挙げた。
「効果は置いといて、折角灯が選んでくれたんですもの、それにするわ」
 運ばれてきたカップの中身は、香りも色も一級品。先ほど肩を縮めていたのが嘘のようにまたはしゃぎ出した灯に、オルネラは自分の焼き菓子をひと切れ差し出して。
「今度家で試しに作ってみようかしら。灯も一緒に作らない?」
「お家でハーブのお菓子なんて素敵! 私も私も! 作りたいです!」
 自分の庭をハーブガーデンにするのは難しいけれど、一鉢くらいならいけるかもしれない。そう首を傾げる灯と、お茶のお代わりを運んできた店員にお菓子のレシピを聞いてみるオルネラが一緒にキッチンに立つ日は、そう遠くないのかもしれない。
 イマジネイターを誘って二人掛けのテーブルに座った上里・もも(遍く照らせ・e08616)は、広げたメニューに視線を走らせ、軽食のページを開いたところで目を丸くした。
「まずはハーブティと……オムレツ? オムレツ!?」
 一体どんな感じでオムレツにハーブが入るのか、まるで想像もつかない。分かる? と正面に目を向ければ、同じページを見ていたらしい彼女も無言で首を横に振った。
「え、ちょっと注文してみたい……きみは何を注文する?」
「気になりますよね……やっぱり、僕も同じものを!」
 お互い頼んだ軽食は同じだけれど、ドリンクは別々のものを。自分の頼んだハーブティーについて、ももは待ち時間の暇潰しにでもと唇を開く。
「あの癖のない爽やかなレモンの風味がね、結構好きなんだ。あとレモングラスを使う料理もあるし、ちょっと買って帰ろうかな」
 近所になかなか売ってなくてさ、と屈託なく笑う彼女に、それならここにお連れできてよかった、とイマジネイターも笑みを返す。そこから広がる話は、出かける近所のこと、買い物に行く店、好きな食べ物――なんでもない、他愛もない日常のことばかり。
 やがていくつめかの話の切れ目が訪れた時、丁度よくハーブティーとハーブ入りの炭酸水、それに二皿のオムレツが運ばれてきた。ハーブソルトを効かせたオムレツにバジルやベビーリーフが散らされた皿を早速写真に収めようとして、あ、とももは照れたように笑う。
「あのさ、誕生日おめでとう」
 手渡したティーバッグの中身は、先程彼女自身が好きだと語ったレモングラス。それぞれの好きを知って、重ねて、もっともっと好きなものが増えていったら――それはきっと、何より幸せだ。
「えっ、誕生日だったの!? おめでとー!」
 隣席で花壇を眺めていたアウロラ・エミール(ドワーフの自宅警備員・e79159)が、ももの言葉に気付いて振り返る。投げかけられた祝いの言葉に、イマジネイターは笑って頭を下げた。
「って、ジャージ姿でこういう店に来てよかったんだろうか……」
「汚れてもいい服で来ている人も少なくないですしね。きっと大丈夫ですよ」
 自分の服装を周りと見比べるアウロラの呟きを、イマジネイターがそうフォローする。一瞬考えるような素振りを見せた後、アウロラは強く頷いた。
「……うん、気にしない! 兎に角、今を楽しもう!」
 そうして彼女の目の前に運ばれてきたのは、とろとろの半熟ハーブオムレツにフルーツを添えたワッフル、そしてイマジネイターの前にあるのと同じ炭酸入りのドリンクだ。
「ハーブソーダってネットで見つけてさ、気になってたんだよね。味、どうだった?」
「美味しいですよ! 甘い香りで、でも風味はさっぱりしていて……あっ、オムレツともぴったりです」
「よし、いただきますっ!」
 勢いよく手を合わせ、早速アウロラはグラスを取る。ご馳走様を言ったら、この店を教えてくれた彼女にお礼を言わないと――そんな思いを強めるように、喉を滑り落ちる炭酸が弾けた。
 四つの椅子に囲まれたテーブルを挟んで座り、暁人と摩琴は互いにフォークを手にしていた。
「こういう所の軽食って凄く美味しいよね。オムレツとかも少し変わった風味で」
「ん~、これ、ボクは好きだなぁ」
 幸せそうにまたひと口オムレツを頬張る摩琴の表情を見れば、いよいよそれがよほど美味しいのだろうと思えてくる。自分のナイフとフォークを置いて、暁人は僅かに首を傾けた。
「摩琴さんのはどんな味かな? 一口もらっても……」
「いいよ、はい、あ~ん!」
 無邪気に差し出されたオムレツの断面から、溶けたチーズが糸を引いている。それをしっかりと自分の口で受け止めて、暁人はしみじみと頷いた。
「……美味しい、ありがとう。俺のも一口食べる?」
「ありがと! あ~ん♪」
 美味しい、と満面の笑みで叫ぶ恋人の姿に、暁人が嬉しげな笑みを見せる。けれどその耳元がいつもより赤いのに気付き、次に自分が無意識に何をしたのかに気付いて、摩琴は次の瞬間頭を抱えた。
「……あ、……っ!? あぁ~うぅ~……」
 唸る彼女も何故かいつもより愛らしく見えて、暁人はしばらく何も言わずに摩琴を眺めていた。どれほどそうしていた後だろうか、テーブルに焼き菓子の皿が置かれる音が、摩琴を現実に引き戻す。
「あ。……ね、暁人」
「何?」
「隣に。座っていい?」
 視線だけを上げて問うてくる彼女に、暁人はただ頷いた。二人の距離が縮まり、ハーブティーの水面が揺れる。あと少し近付けば息の音も聞こえそうな距離に、暁人の心臓が一層高鳴る。――この鼓動も、もう少しでも寄れば聞こえてしまうだろうか。
 その緊張すらも幸せで、だからこそこの時間が楽しくて。
 また一緒に出かけよう。そう思ったのは、きっとどちらも。
 近くを通った店員を呼び止め、燈・シズネ(耿々・e01386)はメニューの一点を指差した。
「オレ、チーズオムレツ!」
 言って促すように視線を滑らせれば、真剣にメニューと睨み合っていたラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)も顔を上げた。ネトルマフィンの文字へ少しだけ名残惜しそうに目をやった後、彼はそのすぐ上の写真を示して。
「じゃあ、ラベンダーケーキを」
「頼むと思った」
 注文を復唱して去っていく店員の足音に、シズネの悪戯っぽい声が重なる。そこへやり返すように笑みを浮かべて、ラウルは両手でメニューを閉じた。
「俺も、シズネはオムレツ頼むと思った」
 互いが互いのことを思い当てられるのが、何となくくすぐったい。陽だまりの座席で笑い合いながら待っていたご馳走は、ほどなくしてやって来た。
「いただきます! ……わ、ぷるっぷる……」
 不器用に大きく切り分けたオムレツをぱくりと含めば、口いっぱいに広がるハーブの芳香とチーズのコク! とろける半熟卵は舌を焼きそうに熱々だけれど、それでもシズネのフォークは止まらない。
「おいひい……」
 あまりに幸せそうな彼の様子ににこにこと手を止めていたラウルも、そこで思い出したように菫色のケーキにナイフを入れる。瞬間、ふわりと甘い花の香りが立った。
「このケーキ……シズネの髪色とお揃いだね」
「ん?」
 だから惹かれたのかな、と笑えば、目の前のシズネはオムレツを頬張ったまま首を傾げた。その様が楽しくて愛しくて、ラウルは口元を綻ばせる。そのままケーキを口に含めば、一層濃い香りが鼻の奥までを満たした。
「なあなあ、こいつさ。ちゃんと育つといいなあ」
 二人で寄せ植えたエストラゴンの鉢を指先で突いて、シズネが笑う。いいな、と言いながらそれ以外の未来などないとでもいうような表情に、ラウルもまた、確かな笑みを浮かべた。
「育つよ。ちゃんと育てて、君が美味しいって言う料理を作るね」
「やった、楽しみ!」
 開け放たれた窓の外へと、喜びの声が零れ出る。
 楽しげな言葉を乗せて、柔らかな香りを含んで、温かな光を抱いて。春の風が、吹いていく。

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年4月23日
難度:易しい
参加:14人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。