「ふう……」
高台にある公園から町を見下ろして、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は大きく息を吸う。
胸に吸い込む風はまだ冷たいけれど、冬の刺すような冷気はすでにない。
秋から冬へ、冬から春へ。季節は流れ、移り変わる。
先月は木陰に見えた雪も日を追うごとに姿を消して、今はどこにもその白さは残っておらず。
来月にもなれば桜の花が周囲を彩っていくことだろう。
「そうなったら、みんなで花見に来るものいいかもね」
「ああ、それは見てみたいわね」
「そうね……あれ?」
ふと、友人を思い浮かべながら呟いたリリーの言葉に、自然に答える声が一つ。
振り返れば、そこにはいつの間にか少女が一人、フェンスに背中を預けて眩しそうに町を見下ろしている。
青みがかった銀髪とロングコートを風に揺らし、左手に持ったザクロの果実を口に運べば甘酸っぱい匂いが風に舞う。
そして――、
「その右手――ドラグナー!?」
「冥竜王ハーデス様の配下、ペルセフォネ。短い付き合いになるけれど、覚えておいてもらえると嬉しいわ」
混沌化した右腕を胸に抱くようにして微笑んで、少女――ペルセフォネは、優雅に一礼する。
かつて、月喰島を舞台に陰謀を巡らせていた巨大ドラゴン『冥龍ハーデス』。
その企みはケルベロス達によって挫かれ、ハーデス自身も討たれることとなったのだが……。
「主の敵討ち……にしては遅くない?」
「立場とか義理とか、組織にいればいろいろとしがらみがあるのよ」
周囲の状況を探りながら硬い声で問いかけるリリーに、軽く苦笑しつつペルセフォネは肩をすくめて、
「それでも、何とか間に合ったから良しとしましょ」
「……?」
リリーが眉をひそめた直後、大きく咳き込んだペルセフォネの口元から赤い雫が零れ落ちる。
「重グラビティ起因型神性不全症……定命化と言った方がわかりやすいかしら?」
地球の重力に魂を引かれたデウスエクスに起こる、変化『定命化』。
いくつもの例外はあっても、その基本原則は『死』である。
「持ってあと一日くらいの命だけど……それでも、あと一回くらいなら十分戦える。だから――悪いけど、最後の相手になってもらえるかしら」
「間に合った、ね……」
口元の血を拭い、自分を見つめるペルセフォネに、リリーは小さく息をつく。
向き合っているだけでも十分にわかる。
命が尽きかけていても、相手の力は確実に自分よりも上だ。
戦って勝てる見込みは、甘く見ても十に一つあるかどうか。
それでも、
「……仕方ない、か」
背を向けてはいけないと、胸の奥から声がする。
眼下の町から届く誰かの声が、背中を押す。
だから、
「いいわ――来なさい!」
「……ありがとう」
得物を抜き放ち身構えるリリーに、ペルセフォネはわずかにうつむいて。
直後、顔を上げると同時に右腕を異形の大鎌へと変じさせる。
「――力を見せて、ケルベロス。あの方を倒したのがまぐれでも、何かの間違いでもなかったと。そう納得できるだけの強さを!」
●
「皆さん、急いで現場に向かってください」
集まったケルベロス達に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は焦った表情で口早に呼びかける。
「今から数分後、町外れの公園でリリーさんがドラグナーに襲われる未来が予知されました」
今も説明と並行してリリーに連絡を取ろうとしているものの……現状、どの手段でも連絡を取ることはできていない。
それが偶然なのか、相手の妨害なのかはわからない。
だが、どちらにせよ確かなことは一つ。
「このままであれば、リリーさんはドラグナーと一人で対峙することになります」
リリー自身も歴戦のケルベロスだが、それでもこのドラグナーを一人で相手取るのは難しいだろう。
――そして、倒れたリリーを相手が見逃す理由もない。
「今回現れたドラグナーの名は『ペルセフォネ』。以前皆さんたちと戦った『冥龍ハーデス』の配下で女性の姿をしたドラグナーです」
その目的が主の敵討ちなのか、それ以外の何かがあるのかはわからない。
だが、彼女がリリーを狙って現れたのは確かだ。
戦場となるのは町を見下ろす公園。
周囲に人気は無いので避難誘導を考える必要はなく、相手の逃走についても――、
「ドラゴン勢力の中で定命化の治療を研究していたペルセフォネは、自身も定命化に侵されて死の瀬戸際にあります」
残り僅かな命を使って自らケルベロスに挑んできた以上、逃げを打つ可能性は無いと思っていいだろう。
――無論、それは命がけで戦う怖さにもつながるのだが。
「研究を本分としていたペルセフォネですが、戦闘ができないわけではありません」
大鎌と化した右腕と、自在に操る魔法の数々。
近距離でも遠距離でも、状況に応じて攻撃手段を使い分けてくる立ち回りは、決して容易に攻略できるものではない。
――それでも、仲間の命がかかっている以上、負けるわけにはいかない。
口早に一通りの説明を終えると、セリカはヘリオンへと乗り込み……その直前で、一度ケルベロス達を振り返る。
「今から現場へ急行します。戦闘の始まりには間に合わないかもしれませんが……決着までには必ず間に合わせます」
致命的な遅れにさえならなければ、後はケルベロス次第。
リリーを助け、デウスエクスを倒し、みんなで無事に帰る。普段と同じ大事な戦い。
だから、
「皆さん――リリーさんをお願いします」
参加者 | |
---|---|
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
唯織・雅(告死天使・e25132) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607) |
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691) |
「――!」
風を切り裂く真空刃が届くよりも早く、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は地面を蹴る。
肩をかすめる刃を振り返ることなく、勢いを乗せて繰り出すのは手にした槍。
「はあぁぁぁあ!」
雷光を纏う槍を連続して突き出すリリー。
大鎌に変じた右手を振るい迎撃するペルセフォネ。
かわし、逸らし、受け止めて――。
「――そこ!」
「くっ」
タイミングを合わせた一撃がリリーを跳ね飛ばす。
体勢を立て直すリリーの視線の先で、ペルセフォネが呼び出すのは幻影竜。
――それが放たれる寸前、
「くれてやる、拾いな」
上空から飛び降りざまに、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が金貨を放る。
黄鉄鉱にて作られし偽りの金貨が地に落ち、響かせる魔性の音がペルセフォネの意識を惹きつけて。
狙いが乱れた幻影竜をフレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)の轟竜砲が打ち壊し、同時に無数の蝶がペルセフォネに襲い掛かる。
「援軍!?」
蝶の群れを切り払い、後ろに飛んで距離を取るペルセフォネ。
対して、蝶を放ったクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)は静かに手を合わせる。
「ドーモ。初めまして。ペルセフォネ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
「ええと……初めまして、クリュティアさん。ペルセフォネよ」
若干の困惑をにじませつつ挨拶を返すペルセフォネに、クリュティアは小さく頷いて身構える。
ヘリオンから降下しながらのアンブッシュ(奇襲)は避けられた。
挨拶も交わした。
――ここからは戦いの時間だ。
「待たせたな、これより救援を行う。SYSTEM COMBAT MODE」
間に合ったことにマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)はわずかに安堵の息を漏らし――意識を戦いのそれへと切り替える。
同時に、瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)の紡ぐ愛の歌と、唯織・雅(告死天使・e25132)の勇気を高める鮮やかな爆風が仲間達を包み込む。
「そう。そちらも――」
「ええ。間に合ったのはわたしたちも同じよ。あなたの最後を見届けて上げるわ!」
ペルセフォネの視線を受け止め見返す氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)の隣で、リリーはそっと息をつく。
一人では届かない相手だった。
だけど、仲間がいてくれるなら、この刃も届くはず。
「皆! ありがとう……本当に、助かったわ」
数舜前よりも軽く感じる得物を構え、リリーは仲間と共に地面を蹴る。
戦いは避けられない。
他の道を選ぶには、時間も、関係も、どれもが足りない。
だから、
「戦いは避けられないのなら……ここで決着をつける!」
●
「識別情報入力 攻撃目標設定 支援開始」
「援護するわ!」
マークとかぐら。二人の展開する無数のドローンが戦場を舞う。
上空からはマークのレーザードローンが援護射撃を行い、かぐらの超小型ドローンはリリーの手足に取り付いて動きを後押しする。
(「うまくいくわよね……ま、ぶっつけ本番でも使いこなさないとね」)
初めての装備に、かぐらの胸中に若干の不安がよぎるものの――その効果は期待を裏切らない。
「ふっ!」
ドローンの後押しを受けてリリーが突き出す槍は、守りを抜けてペルセフォネの腕を切り裂く。
まずは一撃。
「でも!」
間合いを取るリリーと追うペルセフォネ。
そこに、体勢を低くしたクリュティアが切りかかる。
咄嗟に狙いを切り替えた大鎌が振り上げられ、
「えっ!?」
「参る!」
振り上げられる大鎌の刃を足場に、クリュティアは大きく上空へと飛び上がる。
その動きにペルセフォネは目を丸くするも、即座に空中へと真空刃を放つ。
だが、
「なんの!」
クリュティアが腕を振るえば、そこから走るケルベロスチェインが近くの木へと絡みつき。
空中で大きく軌道を変えたクリュティアを捉えられずに真空刃は空を切る。
そのまま、木を足場に飛び込むクリュティアの脳裏をよぎるのは、ドラグナーによって焼かれる故郷の光景。
(「今の拙者は、あの時のように何も出来ぬ小娘ではござらぬ」)
ケルベロスとして力を得た。
戦いの経験も積んだ。
何より、頼りになる仲間がいる。
――その仲間を殺させる訳にはいかない。
「命が尽きかけであろうとも、拙者の友に手を出そうというのであれば許さぬでござる。デウスエクス殺すべし慈悲は無いのでござる!」
迎撃に動く腕を泰孝のクイックドロウが弾いてそらし、飛びのくペルセフォネが踏み込む先は――ライフルを構える雅の正面。
「いったぜ、唯織嬢ちゃん」
「構造的弱点、演算完了……ケルベロスの力と、チームワーク。冥土の土産に……ご高覧あれ」
泰孝の声に頷き、雅の放つ銃弾がペルセフォネの肩を撃ち抜いて、
「FIRE」
「合わせろ、ゴルトザイン!」
そこにマークがガトリングを、フレイアのボクスドラゴン『ゴルトザイン』がブレスを撃ち込んで。
「こ、の!」
弾丸に打たれながらも、放つ真空刃がかぐらを襲う。
とっさに割り込んだ寧々花が剣を振るって切り払うも、完全には防ぎきれずに肩から血がしぶく。
「「おお!」」
その機を逃さず踏み込むペルセフォネ。
同時に踏み込むフレイア。
二人の大鎌と蹴撃がぶつかり合い、弾かれて。
足を止めたペルセフォネを、リリーの放つ気咬弾とマークの砲撃が退かせる。
(「大丈夫、やれる」)
回復支援のドローンを操りながら、かぐらは小さく息をつく。
続けざまに撃ち込まれる雅の遠隔爆破とマークのガトリング連射をかわし、フレイアの轟竜砲を切り払うペルセフォネ。
その力は決して甘く見ていいものではない。
だが、ケルベロス達も劣らない。
攻撃を相殺し、止まることなく冷気を集めるペルセフォネ。
しかし、泰孝のジャンクアームから走る影がペルセフォネを捉えれば、刻まれた怒りの呪縛に導かれて生み出す吹雪は泰孝へと襲い掛かり、
「なに、チップ一枚で攻撃を寄せれるなら安いもんさ。うまく使い潰せよ」
「いえ……セクメト。そちら……任せます」
――その氷雪を、雅のウイングキャット『セクメト』が受け止める。
セクメトの傷をかぐらのドローンが癒すと同時に、クリュティアの呼び出す蝶がペルセフォネを包み込み。
寧々花の『悠久のメイズ』に縛られたペルセフォネにリリーのフォーチュンスターが撃ち込まれる。
厄介な範囲攻撃も、一人を狙うなら単体攻撃と同じこと。
中衛の泰孝に攻撃を集める作戦は、今のところうまく回っている。
回復の負担が減る分ケルベロス達は攻撃に専念でき、少しずつ戦いの流れはケルベロス達へと向いてゆく。
だが、相手はドラグナー。
究極の戦闘種族『ドラゴン』の眷属。
「まだよ――まだ終われない!」
マークのバスタービームを大鎌で切り払い、同時にペルセフォネの手に凝縮される白の冷気。
幾度となく見せてきた氷の術。
――だが、
「COVERING」
「防ぎます」
瞬間、背筋に走った感覚に、マーク、雅、そして寧々花が前衛を守るように前に出て――直後、純白の嵐が吹き荒れる。
「――くっ」
叩きつけられる衝撃と冷気に、ショルダーシールドを構えてこらえるマークの体が接地用パイルごと後へと押し込まれ。
寧々花の漆黒のヘビープレートが弾け飛び、あらわになった聖職服が一瞬で白く染まる。
「願うは此の詩聴く人へ、昼と陽の御加護を……っ」
「こんなところで、私は、私達は――負けるわけにはいかんのだ!」
『活力』と『躍動』をもたらす一編の詩を歌い上げ、寧々花を癒す雅の口から声が漏れ。
雅の背に手を当てたフレイアが、不曉不屈の咆哮で仲間達を支える。
「まだ、こんな力を……!?」
「いや……」
表情を険しくして治癒のドローンを飛ばすかぐらに、フレイアは静かに首を振る。
泰孝のクイックドロウに動きを阻まれ、リリーの槍を幾度も受け。
クリュティアの月光斬に肩を切られながらも、反撃の大鎌が彼女を捉えて跳ね飛ばすペルセフォネ。
口元からこぼれる血は負傷によるものか、それとも迫る寿命によるものか。
どちらでも構わないと、肩で息をしながらもケルベロス達を見据える瞳にあるのは、
「あれは、意地と――」
「――執念でござるな」
フレイアの言葉を、着地したクリュティアがつなぐ。
残された命を賭してでも、主の敵に挑むその気迫。
それこそが、今の致命的ともいえる力のもと。
無論、何度もできるものではない。
重ねた加護も、刻み込んだ呪縛も、変わらずに存在している。
依然、状況は変わらない――一瞬、浮かんだ考えを、寧々花は小さく首を振って追い払う。
「文字通り、背水の陣ということですか……油断や慢心は期待出来ないですね」
「ああ。ともすれば私達こそ喉笛に喰らいつかれかねん」
寧々花に頷き、フレイアは小さく笑みを浮かべる。
敵討ちを目指す身として、その姿は他人とは思えない。
フレイア自身も同じ立場ならそうしただろうし、敵味方を超えた好感さえ覚える。
「だが、こちらとて易々と味方を倒されるわけにはいかんのでな」
幻影の竜を手にした槍の一閃で切り払うと、フレイアは地を蹴る。
相手が命を賭けるならば、自分達も相応の覚悟を持たなければ仲間は守れまい。
「全身全霊を以て、相手させてもらうぞ!」
「見せてみなさいケルベロス!」
●
「はっ!」
振り下ろされる大鎌と、迎え撃つ寧々花の剣。
ぶつけ合い、受け流し、反動も加えて寧々花が振るう渾身の刃がペルセフォネの胴を薙ぎ。
よろめきながらも首を狙って振るわれる反撃を、寧々花は後ろへと飛んで回避して。
追撃をかけるペルセフォネに、クリュティアの呼び出す蝶が押し寄せる。
「こんなもの!」
その群れに、足を止めることなくペルセフォネは踏み込む。
何度も見たからこそ、威力はわかっている。
故に、止まらない。止められない。
――そう、考える。
「確かに拙者のバタフライは実際威力不足。しかし、それは布石でござる!」
クリュティアの拳から雷光がほとばしり、蝶へと意識を向けるペルセフォネへと降り注ぐ。
雷撃に打たれて足が止まったペルセフォネ。
だが、その手は止まることなく幻影の竜を呼び出して――。
「冥竜王ハーデス……あぁ、思い出したぜ」
その幻影を、泰孝の銃弾が打ち消す。
飛来する銃弾が足を撃ち抜くが――それ以上に無視できないのは、その言葉。
「貴方は……」
「あぁ、あのアッサリやられた、駆け出しだったオレに深手を負わせるぐらいしかできなかったドラゴンだろ?」
「き……」
目の前に現れた、主の仇が口にする侮辱の言葉。
挑発だ、と判断するだけの冷静さは重ねられた怒りの呪縛に塗りつぶされて、
「――貴様ぁ!」
激高のまま、ディフェンダーの動きよりも早く踏み込むペルセフォネが大鎌を振るい。
直後、泰孝のジャンクアームが宙に舞う。
腕と共に胴体を深々と切り裂かれ、後ろへと跳ね飛ばされた泰孝は地面に倒れこみ、
「はっ」
「――っ、しまっ!」
そして、二つの声が響く。
軽い笑い声は泰孝から。
悔恨の声はペルセフォネから。
「言ったろう。うまく使い潰せと」
かぐらの手を借りて身を起こしながら、泰孝は皮肉気な笑みを浮かべる。
泰孝が立っていた――ペルセフォネが誘いこまれた場所は、ケルベロス達の陣形の中心。
無策で踏み込めば、四方から狙われる危険地帯。
「TARGET IN SIGHT」
「押し込みます」
マークのバスタービームと雅のゼログラビトン。
バスターライフルを操る二人の十字砲火が撃ち込まれ、
「ゴルトザイン!」
「セクメト……合わせて」
それで止まることなく、ゴルトザインが、セクメトが、全ての砲撃がそれに続く。
ここを勝負どころと見た全力射撃。
「おぉ!」
それを無理やりに突っ切ったペルセフォネに、フレイアがハンマーを打ち下ろす。
「ペルセフォネ! 残り僅かな命を賭してでも主の敵に挑んで来た貴様に、私は好ましささえ感じている!」
振り下ろすハンマー、受け止める大鎌。
ぶつかり、拮抗し――そして、大鎌の刃に無数のヒビが走り、砕け散る。
舞い散る破片に、フレイアはわずかに視線を走らせ、
「……だからこそ、その魂、食わせてもらうぞ。貴様の生き様を忘れないように。私の本懐を遂げる糧とするために!」
降りぬく降魔の一撃は、破片と共にペルセフォネを打ち据えて魂を削り取る。
そして、
「……届かない、か」
得物を失い致命傷を受けて、悔しそうに、そしてどこか晴れ晴れとしたようにペルセフォネは空を見上げる。
「こっちも全力よ、アタシ達だって散々ドラゴンと戦ってきたんだから」
「……そっか」
呟きに答えて、リリーは大きく息を吸い込む。
始まりは自分とペルセフォネの出会いからだった。
ならば、終わらせるのも自分の役目だろう。
「リリーさん。最後の締め……」
「カイシャクは任せたでござる!」
「――ええ!」
雅とクリュティア、二人に頷くとリリーは歌を紡ぎだす。
耀星伝承・第四節【征誼】。
それは、一族に代々歌い継がれた妖精伝承歌。
歌の中で活性したグラビティチェインは螺旋の舞で練り上げられて渦を巻き、対象を征服するが如く苛烈な連撃となって降り注ぐ。
――そして、
「そして我と我等へ徒成す者に、宇宙と虚空の理の、捌きと裁きの鉄槌を降せ」
――歌が終わった時、そこには何も残っていなかった。
●
「立てますか?」
「ああ、大丈夫だ」
静けさが戻った公園で、ケルベロス達は時を過ごす。
戦いの傷跡はかぐら達のヒールによって消え去って、公園は幻想を交えながら元の姿に戻ってゆく。
寧々花が甲冑のパーツと一緒にジャンクアームも拾って渡せば、泰孝はフェンスにもたれて大きく息をつく。
幸い手当は間に合ったが、怪我は決して軽くない。
「実際手強かったでござるが、無事で良かったのでござる」
皆が無事だったことに、安堵の息を漏らすクリュティア。
強敵だった――実力も、その意思も。
「――」
わずかに残った大鎌の破片を無言で握りしめると、マークはそれを一番大きい木の根元に突き刺す。
ほどなくして消え去る、それでも確かに彼女がいたことを示す、名もなき墓標。
雅が一輪の白菊を供え、かぐらも並んで手を合わせる。
「決して、方法は。誉められた物では、ありませんが……彼女なりの。幕引きの、方法が。これだったのかも……しれませんね」
「……満足だったか? 敵ながら、見事な戦いぶりだったよ。もし貴様がこちら側にいれば、良き友になれたかもしれんな」
惜しむように呟くフレイアに、リリーもそっと頷きを返す。
母星に戻れず、戦う以外の道は無い。
それでも、とリリーは彼女へ祈りを捧げる。
人知れず散った、誇りを胸に戦いに臨んだ相手に敬意を表して。
(「……せめて、安らかに」)
作者:椎名遥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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