日輪、月輪の襲撃

作者:零風堂

「ケルベロスの戦闘力は、急激に進化しています」
 それは何処か、正体不明の機器が立ち並ぶ場所で、ジュモー・エレクトリシアンは語り始める。
「私達ダモクレスも進化しなければ、いずれ滅び去る事でしょう」
 ジュモー・エレクトリシアンの手には、正体不明のコギトエルゴスムが握られていた。
「多くの犠牲を払い手に入れた、宝瓶宮グランドロンの宝……。私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう」
 そう言ってジュモー・エレクトリシアンが見遣る先には、『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪が、静かに佇んでいた。

 岡山県のとある工業地帯にある工場に、ダモクレスの襲撃があった。
 現れたのは巨大な腕型のダモクレス、日輪が2体と月輪が3体だ。日輪が工場の壁を砕き、ベルトコンベアに乗った何かの部品ごと工員を潰し、焼き尽くす。
 或いは月輪のひと振りによって凍て付かされ、凍った身体を握り砕かれる。
 そんな惨劇を繰り広げながら、巨腕は倉庫にあった資材を発見し、邪魔する者を蹴散らしながら、その資材を運び出してゆくのだった。

「『リザレクト・ジェネシス』後に撤退し、行方が分からなくなっていた、ダモクレス『日輪』と『月輪』が、工場を襲撃する予知が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)からの事件の説明に、集まったケルベロスたちも緊張した面持ちでを耳を傾ける。
「日輪と月輪は邪魔な工場の従業員を殺害すると、工場の資材を根こそぎ奪う略奪を行おうとしているようです」
 虐殺と略奪……。ダモクレスによるそんな事件を、放っておくことなどできない。
「予知の情報により、従業員の避難は完了させることができます。ですから皆さんには現地に向かい、襲撃してくるダモクレスを撃破していただきたいと思います」
 セリカの言葉に、ケルベロスたちも力強く頷いた。
「襲撃を受けるのは岡山県のとある部品工場で、船などに使われる大型の部品が製造されているようです。そのため工場内も広く、うまく立ち回れば工場内の設備や機械に邪魔されずに戦闘を行えるでしょう」
 それからセリカは、敵の特徴についても説明を開始する。
「日輪と月輪についてですが、かつて戦った時に比べて全体的に褐色にくすんだ色合いとなっており、機械というよりはどこか生物的な雰囲気が加えられたようです。なんらかの改造が施されたのかもしれませんが、戦闘能力などは大きく変化していない様子です」
 いったい何があったのだろうかと、セリカは小さく首を傾げる。
「現場には2体の日輪と3体の月輪、計5体のダモクレスが出現します。日輪は炎を放って広範囲に攻撃してきたり、爆発を起こしたりするようです。対して月輪は氷による攻撃を行って氷結させてきたり、氷の壁を作って防御力を高めることもできるようです」
 それぞれの能力を見極め、対処して欲しいとセリカは言う。
「あと敵は戦闘が始まれば撤退することはありませんので、戦闘に集中することができるでしょう」
 今後のためにも、必ず撃破しておくべきだろう。
「かつての戦いで取り逃した日輪と月輪を撃破し、工場を守ってあげてください」
 セリカはそう言ってケルベロスたちを激励し、話を終えるのだった。


参加者
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)
肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)

■リプレイ

 いつもなら、機器が動いて工員が行き来し、活気に溢れている筈の工場だが……。
 今そこには、静けさだけが広がっていた。
「こちらにおびき寄せられるといいですね」
 肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)が工場内の下見をしながら、仲間たちに呼びかける。
 今ここに工員の姿はなく、代わりに戦闘に備えたケルベロスたちの姿がある。
 鬼灯は敵と存分に戦える場所――工場内の機械や資材に邪魔されず、ある程度の広さのある場所がないかを確認していた。
「工場を守ることも仕事の内だからな」
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)も柱や機器の配置を記憶しながら頷く。
「工場の人たちの未来もやけど、コギトエルゴスムの未来も守ったらんと」
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)も工場内の配置を覚えつつ、戦闘の邪魔にならないよう機材を移動させたりしていた。
 あとは各自が機材や柱の影に身を潜め、その時を待つ。

 ばがん! と工場の壁を破り、巨大な腕型のダモクレスたちが雪崩れ込んでくる。虐殺すべき工員たちの姿はなく、一瞬だけ躊躇った様子だったが……、すぐに資材を奪うという目的を果たさんと動き出した。
「はい、ストーップ!」
 そこに今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)が飛び込んで、流星の如き鋭さの跳び蹴りを浴びせかけた。一撃を受けた炎の腕、日輪はがきんとよろめいて、すぐさま日和に向き直る。
「かつて私の盟友が苦戦したという相手……。敵に不足はありません。量産型とは言え油断なく参りましょう」
 敵が攻撃に移るより早く、大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)が目前に割り込んで来た。ダッシュの勢いを乗せた膝蹴りを打ち込み、敵の人差し指部分を掴んで打ち上げるように更なる蹴りにつなげる。
 相手はぐわんと僅かに指先を震わせると、すぐに向き直って炎を迸らせてきた。
「ちっ……」
 グレインが腕を交差させ、仲間を守るように飛び込んで着地する。
「また派手に暴れる準備でもしようって魂胆か? 残念だったな、勝手な動きはさせねえぜ」
 敵の只中で魔力を込めた咆哮を上げ、びりびりと響かせた。
「それじゃあ、敵は全員ぶっ潰してェ! そのコギトエルゴスム、根こそぎいただこうかァ!」
 敵が怯んだ一瞬を突き、ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)が炎を蹴り出す。グラインドファイアが日輪に命中するも、直後、ククロイの視界が大きく揺れる。
 もう1体の日輪が炎を纏った拳を打ち込んできたのだ。
 拳とはいえほとんど鋼のタックルのようなその一撃に、ククロイは壁に叩き付けられる。
 さらに月輪が激しい冷気を指先に集め、投げつけるように周囲に撃ち出してくる。
「もうこれ以上あんたらの犠牲にはさせへんよ!」
 その身に埋め込まれたコギトエルゴスムにちらりと視線を送ってから、マリアは身に刻まれる冷気に耐えつつ、敵へと駆けていく。
 狙いは日輪。冷気と熱気の差に視界が歪むような感覚を受けるが、惑わされずに鋭い蹴りをその掌へと叩き込んだ。
「!」
 迸る月輪の冷気から身をかわし、マリアは敵との間合いを取り直す。
「こちらへ!」
 鬼灯は仲間たちを誘導しつつ、下見していた広い場所へ敵を誘う込むようにしていた。
 電撃杖『グローム』を掲げて構え、誘導を続けながら雷の壁を展開していく。

「余計なコトはさせないよ!」
 くるり、と敵の頭上……指上? に飛び上がり、打ち下ろすように蹴りを放った日和だったが、相手は中指を突き上げるようにしてその一撃を受け止める。
 何とか体勢を崩さずに着地した日和だったが、その瞬間を日輪の拳が狙っていた。
「正義の味方として、絶対に負ける訳には行きません」
 秋櫻が割り込み、その一撃から日和を庇う。秋櫻の全身に凄まじい衝撃が襲いかかるも、秋櫻は無表情にそのダメージに耐え、地面を踏み締めて体勢を保つ。
「絶対に惨劇を回避させます」
 更にそこから超至近距離でフォートレスキャノンをぶっ放し、反動で飛び退るのと同時に日和も掴んで一緒に間合いを取り直させた。
「風よ、力を貸してくれ!」
 グレインが自然の守りを発動させ、大自然から引き出した癒しの球を秋櫻へと放つ。しかしグレインの元には月輪が迫っており、凍った掌で掴みかかってくる。
「くっ……」
 咄嗟にゾディアックソードを横にして構え、完全に握られるのは防いだグレイン。
 身体が凍りつくより先に身を低くしてすり抜け、スライディングの要領で抜け出した。
「まさに手を焼く相手ってな」
 入れ替わりで前に出て、ククロイがチェーンソー剣を振り上げる。エネルギー循環のための赤いラインが光を放ち、高速回転する刃で日輪の身体を思い切り引き裂いた。
「がが、ガガガ……」
 日輪が僅かに揺らぎ、炎を迸らせて仲間たちを包んでゆく。赤く輝く光からは、ヒールの効果があるように見えた。
「まずは攻撃を当てられるように!」
 マリアがオウガメタルを操り、黒太陽を具現化させる。そこから放たれる絶望の黒光が、炎に包まれた日輪と月輪を灼くように照らしていった。
「お願いします!」
 その間に鬼灯がエレキブーストを発動させ、活力の雷を日和へと叩き込む。日和はぱちぱちと迸る力を、ガントレットに集めた。
「壊しちゃうよー!」
 日和がガントレットのジェット噴射で突っ込み、そのままパンチを叩き込む。
 相手も受けようとしたのか掌を広げたが、日和の一撃はそのど真ん中をぶち抜き、爆発四散させた。
 残った日輪に感情の起伏などは見られないが、即座に炎を纏った拳を作って日和に迫る。
「進化の犠牲……、ですかね。されど私は敵の踏み台になってスクラップになるつもりは毛頭ないです」
 秋櫻がそれを庇い、正面から拳を受け止める。
 全身のダメージは深いが、それでも両腕をガキンと打ち合せ、腕のブレスレットを微かに鳴らした。
 それだけで、勇気が漲るとばかりに奥歯を噛みしめ、降魔真拳で敵のエネルギーを奪い取っていった。
 一方では月輪の放つ氷河から、グレインが仲間たちを守ろうと前に出ていた。
「貸してくれ、傷つけないための力を」
 グレインの身体にも魔力の氷が広がっていくが、辛うじて耐え、自然の守りの力で体勢を整える。
「随分冷たそうだな。手袋でもしたらどうだ?」
 その間にククロイが月輪に迫り、チェーンソー剣を振り上げていた。
「投影『地球人』! 超力刃一閃ッ!」
 自らの蓄積したデータを読み込み、武器へと破壊の力を集中させる。そのまま鋭く繰り出された一撃が、月輪の指の根元を裂いた。
「癒しに回りますね」
 集中攻撃で敵を切り崩すケルベロスたちだが、敵の攻撃も激しい。マリアは急ぎメディカルレインの薬液を振り撒いて、仲間たちの体力を回復させていく。
 すかさず、といったタイミングで月輪が冷気を解き放ってくるも、このダメージは鬼灯がオウガメタルから光を解放し、その輝きで癒していった。

「ボクをこれ以上、怒らせるなよ!」
 日和が左眼を閉じ、右眼で睨みつける。相手の気を体内で爆発させ、ずがんと日輪が崩れ落ちた。
 仲間の崩壊に構わず、月輪がその身体を握ろうとしてくるが……。
「近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除。対象補足……貴方は私から逃れられません」
 速く、鋭く駆け込んで来た秋櫻が超高速の打撃を次々に浴びせかける。ばぎゃんと装甲が爆ぜ割れて、ククロイの刻んだ亀裂から爆発し、月輪もその動きを止めた。
 残った月輪が氷河を解き放って攻撃してくるが、そちらにはグレインは立ち向かう。
 冷気に耐えて突破し、星座の力を宿した一撃を叩き付ける!
「その炎も氷も、打ち砕く! もちろんお前らの計画もな」
 中指を思い切りぶち砕いた一撃で、月輪は爆発四散するのだった。

「お前らの手が掴むのは『絶望』だァ!!」
 ククロイが武器を放り上げ、肘から先を高速回転させる。握ろうとしてくる月輪だったが、ククロイは親指をスパイラルアームで抉り取り、そのまま駆け抜けて敵の攻撃をかわした。最後にぱしっと、投げた武器をキャッチすることも忘れない。
「これで最後です……!」
 鬼灯がエレキブーストを使い、マリアに雷の力を託していく。マリアはオウガメタルを全身に纏い、鬼のような形態へと変化していった。
「その防御、破らせてもらいます」
 築かれた氷の壁をぶち抜いて、マリアが月輪にタックルをぶちかます。四散する氷の瓦礫の中で、月輪は激しくその身を震わせ……。やがて、稼働するのを止めたのだった。

「ふえーっ、疲れた! 数が多い相手だったから余計に疲れたよーっ。帰って早く寝よっと」
 戦いの終わりに、やれやれといった様子で日和が呟く。
「そういえば、コギトエルゴスムは確保した? 見つけるまでがお仕事だよーっ」
 日和がちらりと敵の残骸のほうへと視線を向けると、ちょうどククロイがそこで回収作業を行っているところだった。
「……あった。こいつだな」
 ククロイはそう言って、敵の体内に埋め込まれたらしきコギトエルゴスムを回収していく。
「工場の人たちにとって大切なんはこれからですからね。うちらとこのコギトエルゴスムの関係もやけど」
 マリアも回収作業を丁寧に手伝いながら、後は現場を片付けとヒールかと息を吐く。
 こうしてケルベロスたちは工場の襲撃を未然に防ぎ、敵の体内に埋め込まれていたコギトエルゴスムの回収にも成功したのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月14日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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