花の兄

作者:雨音瑛

●梅園にて
 眩くも柔らかな光が、花弁の色を透かす。するとどうだろう、花弁自体も光を放っているように見える。
 カメラのシャッター音がどこか控えめなのは、不意に大きな音を立てればその光が消えてしまうように感じるからか。
 ほとんど月の見えない夜、梅園に集った人々は声を潜めて梅の花を見上げる。お茶と茶菓子を、あるいは梅酒とおつまみを手に。
 すると梅園の一角で、のそりと何かが起き上がった。
「眩しいねェ……」
 体長は3メートルほど。左の手には、何か鋭利な者が握られている。
「オレはなァ、眩しいのが苦手なんだ」
 ライトアップされた彼は、戦く人々をただ見下ろす。
「夜はよォ、静かに……」
 振り上げられた剣、その速度にただの地球人は反応できない。
「寝るもんだろォ? な?」
 ため息交じりの彼の言葉を、散った者が聞き届けられるはずもない。
 無論、そんなことを気にする男ではないから、次から次へと人々を手にかけてゆく。
「……これで、よし」
 梅園が静かになったその時、男は大きなあくびをひとつ、その場で横になって眠り始めた。

●春の夜
 マフラーを手放せないような日々の合間に、コートを脱ぎたくなる日が訪れる今日このごろ。砂川・純香(砂龍憑き・e01948)は、柔和な笑みを浮かべて話し始める。
「梅の花は好き? ……私? そうね、お店に来たら教えてあげるわ」
 笑みが悪戯っぽいものに変わったかと思えば、金の瞳は次第に真剣な色を帯び始めた。
「2月中旬頃から、全国各地で梅の開花が報じられているのよね。それに伴って、梅の咲く庭園ではいろんなイベントが開催されているの」
 人の集まる場所には、デウスエクスの襲撃も多い。もしやと思った純香がヘリオライダーに予知を依頼したところ、とある梅園をエインヘリアルが襲撃することが判明したのだ。
「梅園を襲うエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者とのことよ。放置すれば、多くの人々の命が奪われるわ」
 それに加え、人々に恐怖と憎悪をもたらすことで地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせる、なんてことも考えられる。
 ただちに、撃破を。それが、今回の仕事だ。
「現れるエインヘリアルは1体だけで、名前は『フェブル』というそうよ。攻撃力が高く、水瓶座のゾディアックソードを装備しているらしいわ」
 フェブルは使い捨ての尖兵として送り込まれている。そのため、敗退が確実となっても撤退することはないそうだ。
「戦闘になる場所は梅園ね。こちらは、ライトアップされた梅を見に来た人々が20人ほど。フェブルに攻撃を仕掛ければ、彼が一般人に襲い掛かることはないと聞いたわ」
 何よりフェブルは寝起きだ、攻撃を受けたと判断すれば応戦することに気を取られるだろう。そうなれば、ケルベロスが誘導せずとも人々が避難する時間を稼ぐことができる。
 必要な情報を話し終えた純香が、不意に相好を崩した。
「フェブルを撃破できたら、人々を呼び戻しがてら花見をする時間はあるみたい。休憩がてら、ゆっくりしていくのもいいんじゃないかしら? ……あら、梅の香り?」
 気のせいかしらと呟いて、純香は愉しげに笑うのだった。


参加者
藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
火岬・律(迷蝶・e05593)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)

■リプレイ

●花咲く夜に
 夜風に乗って、梅の香りが人々の鼻をくすぐる。
 同時にのそりと立ち上がる不穏な影はエインヘリアル「フェブル」のもの。寝起きゆえかやや緩慢な動作で、刃物を握りしめた左の手を振りかぶる。いざ、その凶刃が振り下ろされようとした瞬間、フェブルの腹部を「何か」が撃った。
「……? なんだァ?」
「気付くのが遅い」
 フェブルが寝起きの不機嫌そうな顔をいっそう不快そうに歪めて振り返れば、燻る黒の男が背に光を浴びて立っている。
「夜梅を見に訪れる者と使い捨ての尖兵とで目的行動が異なるのは当然、寝るものだと説かれても戸惑うでしょうね」
 ちらりフェブルの剣を見るは、火岬・律(迷蝶・e05593)。それが水瓶座のゾディアックソードと気付くや否や、小さくため息をついた。
「……水瓶座の性格はマイペースでしたか」
「何をぶつぶつと……オレの眠りを邪魔するなら、容赦しねェぞ……」
 眠たげな目をこすり、フェブルは剣を水平に構えた。水瓶と溢るる水のオーラが、ケルベロスの戦列に飛来する。
 前衛数人の体にいくつかの氷が纏わりつくと、フェブルと人々の間に立つ塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が黒き鎖を展開した。
「俊輝、続けて援護頼んだよ」
「ああ、任せろ」
 妻の言葉に頷きながらスイッチひとつ押し込んで、鮮やかな爆発を後衛の背後で発生させるは天原・俊輝(偽りの銀・e28879)。
「堂道さん、行けますか?」
「任せてくれッス! 綺麗な景色と来園者を守るために、頑張るッスよ!」
 何せせっかくの梅園だ、どんな事情があろうがエインヘリアルに滅茶苦茶にさせるわけにはいかない。九尾扇を構えた堂道・花火(光彩陸離・e40184)は庭園に位置取った仲間から陣形を見いだし、後衛に破魔の力を与える。
「地獄を見せて…あげよう、か?」
 円は、フェブルに向けて薬を投擲した。梅とは色も香りも異なるそれは、能力を減衰させる痺れ薬だ。
「春といえば真っ先に思い浮かぶのは桜だけど……梅も、とっても綺麗だよね」
 心なしか、夜の風が以前よりも温かく感じ、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は光に浮かぶ梅の花をちらりと見た。息を吸い込めば、梅独特の香りがする。
「みんなの楽しみを邪魔するヤツは、めっ! ……だよね、蓬莱?」
 水を向けられたウイングキャット「蓬莱」は不遜な態度で頷き、翼をはためかせる。
 ボクスドラゴン「シロ」が属性を注入して癒せば、ビハインド「美雨」は来園客の落とした酒瓶を飛ばしてフェブルへとぶつけて。
 未だ避難を続ける一般人に声をかけるのは、竜人の父と機人の母を持つ少女、隠・キカ(輝る翳・e03014)。
「きぃ達ケルベロスが、あなた達を守るよ。おちついて、ここから逃げて」
 玩具のロボ「キキ」を抱きしめながら、攻性植物「iris」にてフェブルを締め上げるキカだ。
「我等は番犬である、速やかに逃げられよ」
 と、旅烏にして武人のガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)も人々に速やかな避難を促す。けれどその視線は真っ直ぐにフェブルへ注がれ、折り曲げた四指にて挑発をも行う。
「此方に掛かって来い、相手をしてやるぞ」
「……相手ェ……?」
「来ぬというのなら、」
 長い息一つ吐きだし、ガイストは地面を蹴った。
「此方から仕掛けるまで」
 ガイストの手にした如意棒が、いわば三節棍のように折れ曲がる。そのまま殴りかかられると思っていたフェブルは予想外の武器の挙動に回避行動を取れず、無様に殴打を受ける。
「……お前ら全員、オレの眠りを邪魔するか……」
「ええ、そうですね。夜は静かに寝る時間です」
 亡き母からの贈り物である星空を映す瑠璃の瞳を細め、藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)はやや高い位置に立ち、フェブルを見下ろす。
「――けれど、雅を解さぬ殿方は嫌われますわよ? 眠りたいと仰るならば永遠の眠りを貴方にご提供致しましょう。……ポラリス、準備は磐石ですわね」
 千鶴夜の言葉にシャーマンズゴースト「ポラリス」はすぐに頷き、祈りを捧げて味方を癒やした。

●庭園の一幕
 仲間が正面から攻撃を仕掛ける間に、花火はフェブルの背後へと回り込んだ。叩き込むは狙い澄ました達人級の一撃、フェブルの背には背びれのように氷が生える。自身のグラビティの効果を確認する花火の目に、梅の花が映った。
 広い、とは言えないまでも、狭い、とも言えない庭園において、どこに位置取ろうとライトアップされた梅の花が目に入る。
「……本当に綺麗ッス」
 だからこそ、何人もの人が訪れていたのだろう。そこを襲うデウスエクスの根性に歯噛みしつつ、キカへと場所を譲る。
「きょうはきれいな花の夜だよ、だれもきずつけられちゃだめ。もしたおすなら、きぃ達をたおしてからにして」
「……今日は眠るに丁度いい夜だ、オレの眠りを邪魔するヤツは……許さねェ」
「どうしても、暴れるの? ……それならきぃが、あなたを壊す。――動いちゃだめだよ、もっと痛いから」
 キカが凛とした声で言い放てば、フェブルの視界を閃光が襲う。無数の光の槍が手足を刺し貫くそれは妄想だと認識しても、幻痛をもって苛む。
 その隙を、千鶴夜は見逃さない。
 リボルバー銃「Altair」を構えてから引き金を絞るまでの間は1秒にも満たない。父譲りの濡羽色の髪が反動で揺れるのと、銃弾がフェブルの足を貫通するのはほぼ同時であった。
 大人顔負けの射撃技術は天性のもの、加えて弛まぬ研鑽に因るものだ。
 ポラリスの祈りによる癒しを、フェブルは疎ましそうに見つめている。次いで自身の身体を見れば、ケルベロスによってつけられた傷は数多。庭園の地面を削って描く魔法陣で、フェブルは僅かな癒しと耐性を得る。
「……眠ィな」
「よそ見とは、いい度胸ですね」
 大きなあくびをするフェブルに、律はバトルオーラ「調息」を纏い音速の拳を叩き込んだ。鎧越しの手応えではあるが、フェブルの漏らしたうめき声で確かに効いていると解る。
「加護は破壊しました、ガイストさん」
「承知した」
 ガイストは、律の経営する店で稀に世話になっている身だ。どこか気安さのようなものを感じつつ返答し、フェブルの眼前まで迫る。
「梅の香に血の臭いを混ぜるのは無粋……と、汝は思わんのであろうな」
 ため息ひとつ、ガイストは如意棒を手にした。受け止めようとするフェブルの動きは読みやすく、その間を縫って棍の先端を、側面を、的確に叩き込む。
 ガイストが至近距離で戦闘に臨むのは、庭園を傷つけないためだ。
 それは、ライトニングロッド「金針」を手にする翔子も同じようで。金針の先端から奔る雷撃を、フェブルのみに当たるよう、正確に放つ。
「いずれ人が戻ってくるこの場所だからね、梅の木に傷が無い方がいいだろうさ」
 たとえヒールで修復できるのが解ってはいても、なるべく自然の景観を残したいもの。ねえ、と俊輝を見れば、静かに頷くのが見える。
 見た目に違わず至極穏やかな態度のまま、俊輝はフェブルを見据えた。
「其処で止まって下さい」
 首を傾げるフェブルが踏み出そうとしたその時、豪雨がフェブルを包み込んだ。さらに美雨がフェブルを金縛りにしている間に、シロがヒールに勤しむ。
「うーん、順調だね! 蓬莱、私たちも行くよ!」
 隣の蓬莱に声をかけ、円は黒色の魔力弾をフェブルへと放った。続く蓬莱はタイミングを見計らい、尻尾のリングを素早く飛ばす。
 直後、蓬莱の尻尾と円の掌がお互いを讃えるように触れあった。

●散花
「ほら、これで大丈夫だ。行ってきな」
 俊輝の傷を塞いだ翔子は、彼の背をぽんと押す。
 翔子へと柔らかな笑みを向けた俊輝は、フェブルを攪乱するような動きでやがて彼の懐へと飛び込んだ。如意棒による一撃を加え、戦列に戻ればシロの属性を注入されてまた癒しを得る。
 美雨が小石を礫にしてぶつけ、それに混じって蓬莱のリングもフェブルを打つ。
 虚無球体を放った円は素早く仲間を見渡し、大きく手を挙げた。
「次は……千鶴夜ちゃん、お願いしてもいいかな!」
「お任せください、円さん」
 丁寧に一礼し、千鶴夜はAltairを構える。
「ジャックポット」
 それは、銃火器を用いた戦術の基本。フェブルの足を大胆にも撃ち抜くさまは大胆で、再び礼をするさまは優雅そのもの。
 ポラリスの召喚した炎がフェブルを包み込むと、花火が飛び出した。
「地獄の炎は、力任せに燃やすだけが取り柄じゃない!火力全開、手加減なしッス!」
 両腕の肘から先に灯る地獄の炎、その勢いが強まる。全力で振りかぶり、狙うはフェブル胴体。地獄の炎は炎を纏った旋風へと形を変え、無数の傷を刻んだ。
 フェブルの攻撃は重いものばかりだが、役割を分担し、連携すれば恐るるに足らず。憂うことが無いからこそ、花火は武器も拳も全力で叩きつけられるのだ。
「……くそ、うぜェ……」
「わわっ!?」
 円の真正面から振り下ろされようとした剣は、俊輝が片腕にて受け止めた。
「俊輝さんありがと! でも大丈夫?」
「ええ、防具のおかげで大したことありません」
 そんな会話を交わすケルベロスを睨み、フェブルは剣を持ち直した。
「ちっ……眠気が酷い、な」
「……眠りたいならさっさと寝ろ、独りで」
 容赦ない言葉と斬撃を繰り出し、律は打刀を鞘に収めた。
「白い花がきらきらしてる。それでもあなたは、きれいって思えないんだね」
 風に運ばれた花弁ひとつが、キカとフェブルの間を分断するように舞って行く。
「……きれい? なにがだ?」
「あなたがこの世界をきれいだって思えたらよかった」
 黒き残滓を細く鋭く伸ばしたキカは、寂しそうな笑みを浮かべた。もはや黒の槍と化した残滓は、フェブルの腹部を貫く。
「其方、フェブルと言ったか? どんな罪を犯したのだ?」
「……罪? なんだったかな、忘れちまったよ」
 口元から血を流しながら、フェブルはガイストの問いに答えた。
「そうか、ならば――推して参る」
 答えにならぬ応えには、何ら関心はない。
 太刀風を劈き、無言にて龍を喚ぶだけだ。
 翔龍はフェブルの喉首に喰らい付き、千切り斬り捨て、夜の闇に紛れた。
 後に残ったのは、僅かに匂う鉄銹。それもほんの少しの間、強く吹いた風が梅の木を揺らし、梅の香が辺りを包み込む。
 ざぁ、と舞う花びらと葉は、砕けたフェブルの身体を運ぶように流れていった。

●夜光
 ヒールグラビティで修復した庭園に人々が戻ったことに、そして何の遠慮もなく梅の花を見られることに、円は満面の笑みを浮かべていた。
「被害もなく終えられて良かったんだよ!」
 蓬莱をもふもふしながらお茶を飲み、闇に浮かぶような梅花を見上げる。

「梅も綺麗だけど……オレはあいつらが気になるッス!」
 花火が急ぐのは、池の方。そっと覗き込めば、ゆるり泳ぐ錦鯉たちが見えて破顔する。
「……お前たちも無事で良かったッス!」
 安心した後は、遠慮なくお茶とお茶菓子をいただく花火だ。吐いた息は僅かに白くも、どこか温かな気配を感じる。
「こういう所にはなかなか自主的に来ないから、良い経験ッス」
 何より、守れた眺めは代えがたいもの。今度は昼の時間帯に訪れて楽しもうと、花火は穏やかな時間を過ごす。

 温かなお茶とお菓子を食べて、綺麗な花と匂いを感じて待つは春。
 キカはキキを抱き上げて、梅の花をしっかり見せてあげる。
「白くてちいさな梅の花、きれいでかわいいね、キキ。今夜はもうちょっとだけ、夜ふかししようね」
 だって、少しばかり寒くても――今日は、温かいお茶があるのだから。

 梅の香を楽しみながら過ごすひとときは、千鶴夜の身を癒すには十分だ。
 静かに梅を見遣りつつも、隣に座るポラリスが落ち着かないことに気付く。
「……あら、ポラリス。もしかしてお菓子が欲しいのかしら?」
 ポラリスは、少し恥ずかしそうにこくりと頷いた。
「ふふ、未だ貴方は花より団子なのかも知れませんわね。では、お菓子を買ってきましょう」
 千鶴夜が席を立つと、梅の花弁が一枚こちらに向かって舞い落ちてゆく。何気なく視線で追うと、それはやがてポラリスの手にした湯飲みに落ち、ふわりと浮かでいた。

 梅見酒とつまみを購入した律は、ゆっくりと梅園を散策した。途中、梅の木の下、その一角に空席を見つけて腰掛ける。
 座った先に見える、赤い霧の様に散らばった梅花。頭上になった枝から匂う、梅の香り。
 それらをつまみに一杯やると、見慣れた竜人が通りかかるのが見えた。
「おや……ガイストさん。お疲れ様でした。よろしければ、いかがでしょうか」
 軽く頭を下げ、と酒を勧める律。
「有り難く頂くとしよう」
 と、ガイストは酒を口に含んだ。
「……花の兄、梅が咲いたら春ですね」
 そう零しながら、律は雪深い山で暮らしていた時のことを思い出した。水墨の景色から、日に日に命が萌える――その先駆けに心が騒いだことも。
 共に戦ったガイストや、集った人々は何を想い、照らされて妖艶に甘く、静かに咲く梅の花を見遣るのだろうと、律は静かに杯を傾けた。
 ガイストも、自身で購入した梅酒をグラスに注ぐ。次いで梅を見遣る視線は、戦闘時とは異なり、理知的だ。稀には花を愛でるのも良いと、口の中に広がる独特の甘みを感じながらひらり舞う花弁たちを視界に収める。
「うむ。梅がこぼれるまでの時は短い」
 ならば、今この時を存分に楽しむだけだ。

 定位置である翔子の腕に巻き付いたシロは、満足そうに体を休めている。翔子がシロの背を撫でると、目の前に梅酒とおつまみが差し出された。その手は見慣れた俊輝のものだと瞬時に判別し、翔子は笑みを浮かべた。
「好きだったろう? ほら、持ってきたぞ」
「お、さんきゅ。梅を見ながら梅酒を呑むなんて贅沢な時間だねェ」
 俊輝の側にいる美雨も、既にお茶とお菓子を楽しんでいる。
 さっそく一口、梅酒を味わう翔子。グラスに当たる氷の音は、戦闘で火照った体にも心地よい。
「あー、確かに贅沢な夜だ」
 つまみも一口、笑みを交わすふたり。
「梅ってのはさ」
 一呼吸置き、翔子は梅酒をグラスに注ぐ。
「他の花より先立って、寒いうちから咲くから『花の兄』なんだってさ」
「花の兄か、寒いなか先陣切って咲いている姿を弟達に見せるんだな」
 なるほど、と納得する俊輝は、梅の花を見ながらお茶を飲む美雨を見て、笑みを浮かべている。
「確かに色んな花が満開の時より、寒空の一輪の梅の方が春を感じるなァ」
 不思議だよなァ、と呟いた矢先、目の前を梅の花びらが通り過ぎて行った。花弁はまた誰かの前を通り、その人の顔をほころばせる。
「また、春がくるんだね」
 翔子が少しばかり上を見上げれば、赤と白の花弁が絡まるように宙を舞っていた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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