日輪と月輪

作者:ゆうきつかさ

●機械の城
「ケルベロスの戦闘力は、急激に進化しています。私達ダモクレスも進化しなければ、いずれ滅び去る事でしょう。多くの犠牲を払い手に入れた、宝瓶宮グランドロンの宝……私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう」
 ジュモー・エレクトリシアンが、危機感を覚えていた。
 このままでは、確実にダモクレスは滅びる。
 それを実感してしまうほど、ケルベロス達の存在は、脅威となっていた。
 故に、手段を選んでいる場合ではない。
 ジュモー・エレクトリシアンは、コギトエルゴスムに視線を落とす。
 それと同時に、コギトエルゴスムがゴーレム生命体のように変化し、量産型の日輪と月輪となって工場に攻撃を仕掛けるのであった。

●セリカからの依頼
「『リザレクト・ジェネシス』後に撤退し、行方が分からなくなっていた量産型『攻勢機巧』日輪と、量産型『防勢機巧』月輪が、工場を襲撃する予知が確認されました。どうやら、邪魔な工場の従業員を殺害し、工場の資材を根こそぎ奪おうとしているようです。既に従業員達は避難しているようなので、現場に向かいダモクレスを倒してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「日輪と月輪は2体ずつ存在しており、かつて戦った時に比べて、外装が褐色にくすみ、生物的な要素が付け加えられているようです。だからと言って、戦闘力が大きく変化している訳ではありません。また、この日輪と月輪の変化は、ダモクレスとは違う『コギトエルゴスム』を埋め込まれた事が理由なので、戦闘終了後に回収しておいてください」
 セリカが詳しい説明をしながら、ケルベロス達に資料を配っていく。
「とにかく、取り逃した日輪と月輪を撃破し、工場を守ってください。よろしくお願いします」
 そう言って、セリカがケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
阿木島・龍城(錬成せし鉄槌と碧刃の主・e03309)
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)

■リプレイ

●日輪
「壊れた工場と、今から破壊される量産型の機械……。これで雨が降ってたら、最高の廃墟環境♪」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は量産型『攻勢機巧』日輪と戦うため、仲間達と共に町外れにある工場にやってきた。
 工場の入口には日輪が陣取っており、今にも工場に突っ込んでいきそうな勢いだった。
「雨……ですね」
 その途端、阿木島・龍城(錬成せし鉄槌と碧刃の主・e03309)が、突然降り出した雨に気づく。
 それは何の前触れもなく降り始め、日輪のボティに当たるたび、雨が蒸発してジュージューと音を立てていた。
「……天も戦いを望んでいると言う事かのう。それにしても、まさか先の大戦では懲りず、また工場略奪とは……。これは仕置きが必要のようじゃのう?」
 そんな中、カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)が髭を撫で回し、懐のリボリバー銃を取り出すと、弾倉に弾丸を込めて撃鉄を起こす。
 それに合わせてボクスドラゴンも、己の得物を振り回し、何やらヤル気満々になっていた。
「クククッ……、天才のわたしに怖いものなどない! 当然、こんな怪しい相手などわたしの敵ではないわ!」
 一方、宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)は天才的なオーラを放ち、日輪の前に陣取った。
 それに応えるようにして、日輪が日出武に体当たりッ!
 ……日出武は思った。
 せめて格好いい決め台詞を言うまで待て、と……。
 これでは、待ての命令を聞かず、御飯を食べてしまうワンコと同じではないか、と……!
「……聞こえなかったか? わたしは天才……。故に、この程度の怪我……怪我のうちには入らないッ!」
 だが、日出武は立ったッ!
 ……ドヤ顔で立ったッ!
 全身の骨と言う骨が悲鳴を上げてはいるものの、いまさら泣き言が言っていられるような状況ではない。
 両足がガクガクと震え、まるでリズムを刻んでいる状態であっても、ここで崩れ落ちる訳にはいかなかった。
「……と言うか、こんなんにコギトエルゴスムを使うとか……流石はダモクレス。ロマンがない!」
 それに気づいた朔耶が日出武に肩を貸し、生暖かい視線を日輪に送る。
 オソラク、量産型の中でも、下の下。
 評価に値しない程、残念な量産型のような印象を受けた。
 それ故に、まったく空気を読まず、ただ目的を果たす事だけを考えているのだろう。
 その間もオルトロスのリキが日輪を牽制しつつ、攻撃を仕掛けるタイミングを窺っていた。
「ククククク……、さっきは油断してしまったが、ノーダメージだッ! 大量出血して、今にも死にそうな感じに見えるかも知れないが、これは……血糊だからなッ!」
 そんな中、日出武はあっちの世界とコンタクトしつつ、必要以上に強がった。
 いまさら、痛いなんて言えない……言える訳がない。
 目から大量の汗が零れ落ちてはいるものの、これは決して涙ではないッ!
 故に、何度か視界が真っ暗になったとしても、それは単なる気のせい。
 気にしたら、負けなヤツである。
 それでも、日輪は容赦しない。
 日出武に対して、執拗に轢き逃げアタック!
 まるで親の仇で言わんばかりに、二度轢き、三度轢きッ!
 おそらく、日出武でなければ、合い挽き肉になって、出荷されているレベル。
 そのせいで、まったく反撃を仕掛ける事が出来ず、何度も宙を舞っては、地面に身体を打ちつけた。
「まさか、我が身を犠牲にして、日輪の気を引くなんて……!」
 それを目の当たりにした龍城が、拳をギュッと握り締め、自らの感情を押し殺す。
 日出武が意図した訳ではないかも知れないが、仲間達には自らの身を犠牲にして戦う姿が焼き付いた。
 その間も日出武は何度も轢かれ、そのたび立ち上がって、自らが無敵である事を強調した。
 だが、実際にはズタボロで、いつポックリ逝っても、おかしくないような状態ッ!
「これはただの戦いではないッ! 日出武……弔い合戦じゃ!」
 そのため、カヘルが日出武の仇討ちと言わんばかりのノリで、ボクスドラゴンと連携を取りつつ、日輪に攻撃を仕掛けていった。
 日輪もこれには圧倒され、先程とは立場が逆転する勢いで、カヘル達の攻撃を喰らっていた。
 それを見守るようにして、日出武が守護霊的な立場でカヘルの背後に浮かび、『い、いや、死んでないからッ!』と言わんばかりに、何やら口をパクパクさせた。
「……解放。ポテさん、お願いしますっ!」
 次の瞬間、朔耶が持っていた杖を梟の姿に戻し、自らの魔力を込めて、日輪にブチ当てマヒさせた。
 続いて、カヘルが間合いを取り、日輪に狙いを定める。
 既に、腰は限界。
 今にも爆発しそうな勢いでダメージが蓄積しているものの、このチャンスを逃したら最後。
 ……二度とチャンスは訪れないッ!
 ならば、腰の犠牲など、安いモノ。
「これでトドメじゃああああああああああ!」
 カヘルが覚悟を決めた様子で、リボルボー銃を構え、日輪の身体を撃ち抜いた!
 その一撃を食らった日輪が全機能を停止させ、ガラクタの山を築き上げた。
 そして、カヘルも腰の爆弾が爆発し、真っ白に燃え尽きた様子で、ヘナヘナと崩れ落ちた。
「コギトエルゴスムを回収……と……」
 そんな中、日出武が朦朧とする意識の中、コギトエルゴスムを回収した。
 血まみれの状態で立つ姿は、まさに……漢ッ!
 降り注ぐ雨が身体についた血を流し、真っ赤な水溜りを作っていく。
 その間も日出武は立ったまま、その場から動こうとしなかった。
「日出武さん、無事だったんですね。日出武……さん!?」
 龍城がホッとした様子で駆け寄り、そこですべてを悟った。
 ……日出武は何も答えない。
 戦いに突かれたのか、目を閉じたまま、まったく動こうとしない。
 だが、その表情は実に安らかで、とても満足げであった。
 もう誰も彼の安らぎを邪魔する者はいない。
 先程まで日出武のまわりを飛び回っていた死神達も、御役御免とばかりに、次々と天に昇っていく。
 そんな中、日出武は立ったまま……眠っていた。

●月輪
(「……あれか」)
 一方、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は仲間達と共に工場の裏に回り、何度もシャッターに体当たりを仕掛ける月輪を発見した。
 月輪は工場のシャッターに体当たりを仕掛けているものの、大量の雨で地面がぬかるんでいるせいで、なかなか思うように動く事が出来なかった。
 そのせいで、なかなかシャッターを壊す事が出来ず、ぬかるみに足を取られるような形で、近くにあるドラム缶にぶつかっていた。
「まさか、エインヘリアルの宝物として扱われていたコギトエルゴスムが、こんな事に使われているとは……。ダモクレスにとっては実験道具も同じ、いうことですか。まるでうちら地球の民を屍隷兵にするみたいに……そんなん許せへん。コギトエルゴスムの妖精かて、こんな道具扱い望んどらんと思うんです。やから、一刻も早く解放しておかないと……」
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)が月輪に視線を送り、色々な意味で危機感を覚えた。
 しかも、月輪は半ば暴走状態に陥っており、工場を破壊する事だけに全力を注いでいるようだった。
 そのため、ケルベロス達の存在に気づくと、ケモノのような機械音を響かせ、降り注ぐ雨を凍らせながら、体当たりを仕掛けてきた。
「月輪の攻撃なんて、がっちり受け止めてやるッ!」
 ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が真正面から月輪の体当たりを、自慢の腹筋でガッチリと受け止めた。
 それでも、月輪が地面を削る勢いで迫り、ジェミを弾き飛ばそうとした。
 だが、ジェミをまったく動かず、逆に勢いよく放り投げられ、工場の壁にめり込んだ。
「みんなでボコるにゃ!」
 その間にアイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)がライドキャリバー『インプレッサターボ』と連携を取りつつ、月輪に攻撃を仕掛けていった。
 しかし、月輪に反撃するだけの余裕はなく、ガチガチギガガッと耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達を威嚇するだけに留まった。
「だいぶ怒っているようね。だったら、掛かってきなさい! ただし、今度は本気で……。さっきの攻撃くらいじゃ、この腹筋に傷をつける事が出来ないわよ」
 ジェミが月輪を挑発しながら、気力溜めで腹筋を固くした。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
 その挑発に乗るようにして、月輪が水飛沫を上げて、再びジェミに突っ込んだ。
 だが、ジェミは微動だにしないッ!
 その間も月輪がジェミを押し倒す勢いで突っ込んできたものの、足元の地面がめり込むだけで、ジェミはまったく動かない。
「そのコギトエルゴスムの未来、あんた達にはもうあげへんよ」
 次の瞬間、マリアが降りしきる雨を切り裂く勢いで、月輪にスターゲイザーを炸裂させた。
 しかし、月輪は……動けないッ!
「まさか、これで終わりか? まだ本気じゃないよな?」
 ヴォルフが皮肉混じりに呟きながら、『敵の破壊』を約束する事で精霊を召喚し、月輪の治癒を完全に阻害した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
 次の瞬間、月輪がジェニを振り払うようにして、邪魔なパーツを纏めて排除し、半ば骨組みのような状態でケルベロス達に襲い掛かってきた。
「んにゃにゃにゃにゃにゃっ!」
 それに驚いたアイクルが尻餅をつきそうな勢いで、後ろに下がっていく。
 間一髪で月輪の攻撃を避けたものの、そのままでは押し潰される事は、必至ッ!
「この一撃は必ず当てます!」
 すぐさま、マリアが月輪めがけて、ドラゴニックスマッシュを放つ。
「グギギィッ!」
 その一撃を食らった月輪が身体を仰け反らせ、怒り狂った様子でアイクルを握り潰そうとした。
「そんなに戦いたいんだったら、俺が相手をしてやろう」
 ヴォルフが稲妻突きを放ち、月輪を軽々と吹っ飛ばした。
 その拍子に月輪のパーツが弾け飛び、悲鳴にも似た機械音が辺りに響く。
 しかし、ヴォルフは攻撃の手を止めず、ただ純粋に破壊の対象として、月輪にダメージを与えていった。
 それでも、月輪は諦めない。
 まるで最後の足掻きとばかりに、自分の身体に降り注いだ雨を凍らせ、全身トゲだらけになりながら、再びケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「だったら……こいつで、フィニッシュよっ!」
 それを迎え撃つようにして、ジェミが全身の筋肉に気合を入れ、身体に刺さった氷のトゲをへし折り、血まみれになりながら、月輪に破鎧衝を炸裂させた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオン!」
 それと同時に月輪の身体が木っ端微塵に砕け散り、核となっていたコギトエルゴスムが地面に落ちた。
「やったにゃ♪ これで回収成功にゃ♪」
 そう言ってアイクルがコギトエルゴスムを回収し、今にも歌い出しそうな勢いで、嬉しそうに鼻歌を歌うのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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