出動準備を待つロボットの列。
彼らに語りかけると言うより、プログラムを打ち込むかのように機械仕掛けの女が呟く。
『ケルベロスの戦闘力は、急激に進化しています。私達ダモクレスも進化しなければ、いずれ滅び去る事でしょう』
そして懐から取り出した宝玉をロボット達に封入し、その変化を見守った。
最初に封入したロボット達は次第に変化を始め、どこか生物のような形状に変化する。
『多くの犠牲を払い手に入れた、宝瓶宮グランドロンの宝……私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう』
女……ジュモー・エレクトリシアンは満足そうに頷くと、問題が無いか経過を観察しながらロボット達に宝玉を埋め込んで行った。
そしてゴーレムとでも言うべき姿に変化したロボット達は移動を開始した。
●
「なんだアレは?」
「デウスエクスだ! 逃げろ!」
岡山県にある工場の一つに、ナニカが襲い掛って来た。
そいつは機械にも見えるが、生物にも見える。そして炎や氷で覆われているのが奇妙であった。
『採集活動を開始』
『障害を排除し、回収します』
炎に覆われた拳と、氷で覆われた拳が工場に現われた。
そいつらは働く人々を殺害すると、周囲の物資を強奪しはじめる。
積み上げられた資材に始まって、使えそうならば工場に使われている機械まで。
そいつらが立ち去った後、動く者は何も存在しなかった。
●
「リザレクト・ジェネシス』後に撤退し、行方が分からなくなっていた、ダモクレス『日輪』と『月輪』が、岡山県の工場を襲撃する予知が確認されました」
セリカ・リュミエールが地図と資料を手に説明を始める。
どうやらダモクレス達は邪魔な工場の従業員を殺害し、工場の資材を根こそぎ奪う略奪を行おうとしているらしい。
「みなさんが到着するころには従業員の避難は完了していますのでので、現地に向かい襲撃するダモクレスを迎撃してください」
セリカはそういうと敵の姿や能力が以前と違う事を教えてくれる。
「日輪・月輪については、かつて戦った頃に比べて……全体的に褐色にくすんでおり、生物的な要素が付け加えられています。ですが、戦闘能力能力などは大きく変化していないようですね」
基本は格闘で殴り掛り、属性に応じたグラビティなどを放つ程度の様だ。
だが炎や氷で覆われていることから、それらを使って果敢に攻撃して来ることはありえるだろう。
さらに対になって設計されていることから、変化したとしても連携して攻撃して来るのは間違いが無く油断はできない。
「みなさんのお陰で、リザレクト・ジェネシスの戦いの結果、ダモクレスもかなり追い込まれているのでしょう。このまま日輪と月輪を撃破し、工場を守ってあげてください」
セリカはそう言うと、軽く頭を下げて出発の準備に向かった。
参加者 | |
---|---|
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112) |
奏真・一十(無風徒行・e03433) |
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736) |
黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474) |
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788) |
人首・ツグミ(絶対正義・e37943) |
●
ポンポンと軽快な音を立て船が港に接岸し、古びたタイヤのストッパーでブレーキが掛る。
ケルベロス達は工場の資材搬入口に直接乗り込んだ。
「螺旋忍軍の次はダモクレスですか、色々動き出してますね」
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)は潮の香りの中に油の臭いを感じる。
工業油か何かだろうが、探せばもっと別の物もあるだろう。
「リザレクト・ジェネシスから大して月日も立っていないのに御苦労な事ダ。勤勉、と誉めるべきか、節操が無いと嗤うべきか……」
「ダモクレスは常に勤勉ですから、後者でしょう」
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)が首を傾げると、ラーナは苦笑を返すほか無かった。
敵を褒めるのは漢の流儀だろうが、迷惑には違いない。
「俺も嗤うべきだってのには賛成。宝を奪って、それを使ってまずやることが泥棒かよ?」
「カカカ……。違いなイ」
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が呆れを含んだ調子で海に向かって毒付くと、ウォリアは同調こそするが馬鹿にしたような笑みでは無く、獲物を探す獰猛な笑みを浮かべた。
「しかし油断は禁物だぞ。コギトエルゴスムを目覚めさせることなく自軍強化の財とし、また次の目的は資材の確保……」
奏真・一十(無風徒行・e03433)は箱竜のサキミを肩から降ろし、最前線へ赴いた。
一同がやって来た海の向こうから、新たな客人が真似彼もせずにやって来たからだ。
「それらを使い、また何か企んでいるのでしょうね」
「そうだ。いかにも機械的、或いは合理的行動と言えよう」
歩調を合わせダリル・チェスロック(傍観者・e28788)は反対側に位置して両翼を築く。
一十は虹の様な闘気を放ち、いつでも戦えるように身構える。敵は既に戦闘態勢に入っており、いつ攻撃が来るか判らないからだ。
「来たな……。やることがセコいんだよ、上司にもそう通信しときなッ!」
あぽろも悪態を吐きながら太陽の一欠片を引き抜いた。
刃から零れる輝きは、かつて天に座して居た時の名残だろうか。
それに対応するかのように、ダモクレス達も戦闘態勢に入った。
赤く燃え上がる指先と、凍れる指先が握りつぶさんとケルベロスに迫る。
先手は炎の波、やや遅れて巨大な拳が三つ飛んで来た。
『見敵。……撃滅』
「気になることは多いですが、先ずは目の前の相手としっかり決着を付けましょうか」
炎をまき散らし、崩れ掛けた戦列へ襲い掛ってくる。
ダリルはすかさずその突撃を阻み、我身を盾に万力の様な指先を止めた。
ギリギリと締め上げる拳に抗い、他の盾役ともども戦線を立て直す。
こうしてケルベロスとダモクレスの戦いが始まったのである。
●
ダモクレスはいつものように挑んで来るが、その姿はどこか違って居た。
装甲の輝きも違ってはいるが、脈動するかのように明滅を繰り返す炎や氷、そして不規則に回転する歯車などがその例だ。
「熱ちちち。でも、この程度でへこたれたりはしないッスよ!」
黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474)は連続で攻撃を受けたものの、上手く受け止めて次の攻撃も捌き切った。
「私達で良かったと思っておきましょう。何とかなりますからね」
「集中攻撃は、むしろ望む所っッス! でも連携だなんて生意気っスね。僕たちの友情パワー、見せてやるっスよ!」
ダリルや白がカバーに入ったことで、傷付いた相手を狙ったのだろうとは判る。
しかし二人は元より壁役だ、受け身を取る態勢を整えてあるし、グラビティだって防御重視で固めていた。
「単純なパワーアップと言うより、生々しい感じですね、融合?」
「……くふ。進化と言うからには、『心』の1つくらい手に入れて欲しいものですねーぇ」
ラーナが変化を見て首を傾げるが、それでは属性が変わっただけだろうと、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は思う。
明確な差としては、やはり『心』の存在が大きいと確信して居た。
「見た目が変わった程度で進化とは、とてもとても」
「そうだな。歪んだ進化では私達は止められないと言う事を教えてやる」
距離とタイミングを窺うツグミに頷きながら、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は棍を構えて先行。
当たるを幸いに振り回し、戦場の暴君として荒れ狂った。
「叩きのめしてやれ!」
「あいよ! 強化した割には随分歪な姿になったじゃねえか、機械共!」
ソロは棍棒で押し込みつつも、決して援護に留まる気はなかった。
摩擦で炎を巻き上げて大炎上、あぽろが飛び込んで来るというのに勢いを留めもしない。
あぽろであれば当然の様に潜り抜ける、そう判断して棍を振り回し続けた。
「他人の命を使って、それで進化したつもりかよ? 笑わせるぜ!」
あぽろが描く白銀の三日月は太陽の輝きを照り返し、凍れる拳に切り掛る。
それは一度振り下ろされた後、弧を描いて受け止めようとする指先を抜けて掌を切り裂いた。
「くふふ。そ-れ、いきますよーぅ」
ツグミはここで一気にミサイルをばらまいた。
仮想領域にしまわれている数本の中型弾頭が小形ミサイルをばらまき、無数の爆列を引き起こす。
狙いは火力と言うよりも、足を止めて相手の邪魔をする為だ。
「まずは動きを止めるか。こちらもイクゾ!」
その動きを見ていたウォリアは、フンと鼻を鳴らすと飛び込んで蹴りを放った。
軸足を固定し、足を重りにクルンと一回転。
尻尾による打撃……いや、大剣での斬撃とも思える勢いで叩きつける。
しかし氷を帯びたダモクレスが、掌を広げてカットイン。炎の掌を守りに入った。
『状況打開までの間、防御態勢構築』
「防ぎますか。まあ私でもそうしますが……だがしかし! それはこちらの望む所」
ダリルはテイルブレードならぬテイルスイングをジャンプで避けると、穂先を下に落下。
途中で翼をはためかせ、速度を上げてショートダッシュの突撃を掛けた。
狙うは仲間の攻撃を受け止めた盾役のダモクレスだ。
『邪魔者、排除』
「それはこちらも同じこと。人命や物資は勿論の事、コギトエルゴスムのひとつもくれてやるわけには参らぬ」
一十は周囲を見渡し、敵味方がガップリ四つに組み合っているのを確認した。
状況は始まったばかりで、これから一進一退の攻防が本格的に始まるだろう。
「そこに何が眠っているものか、そいつの正体に興味があるんでな。……はじめよう。君の為の膳立てだ」
一十は指を弾いて慣らし、音魂によって言祝いだ。
これから始まる激しい戦いに備えて、意思を活性化させ闘志を燃え上がらせる。
古来より戦いの前には銅鑼を鳴らし、太鼓を叩いて闘志をかき立てると言うではないか。
「攻撃は最大の防御……なんて言うッスけどね。マーブルも援護するッス!」
白は精霊を宿らせた腕時計に、盾と剣を一体化させたまま具現化させる。
それは刃が鱗の様に連なった形状をしており、振るえば剣、敷きつめれば盾として機能する。
だが、ひとたびウネリを持たせれば、蛇の様にしなって鞭と成って叩きのめすのだ。弾かれた様にオルトロスのマーブルも続き、主人とは別の敵に炎を浴びせる。
「さてさて。ここまでは予定通りですが、どうなることやら」
ラーナは紫電を前衛の周囲に落とし、結界を築いて守りに入った。
打撃戦が始まる前に防備を整え、長期戦に備えて迎え討つ構えだ。
僅かに目を大きく開き、戦いの趨勢を見守るのであった。
●
凍気と共にケルベロス達を遮断していたダモクレス、その一体がようやく地に落ちた。
防御型を先に狙っており、相手している間にももう片方が襲ってくるので治癒に時間が取られたからだ。
だが苦戦もそれまで、防御型ゆえにカバーに入った分だけ傷も付いている。
「ウォリア!! 遅れるなよ」
「オウ!」
ソロは来援したウォリアに押し出されるように動き出した。
戦いの天秤を傾け、終わりをもたらすべく勝利に向かって飛翔する。
「code-F……解放!」
ソロはカバーしてくれた盾役たちに構うこと無く、全てのグラビティを背中に集めて急加速。
蒼白きエネルギーの本流は翼にも似て、超高速での戦闘機動を可能にする。
「さあ天に輝く七つ星と一つの星を見よ。我らこそが永遠の夜に終わりを告げる黎明、朝を告げる夜明けの鐘!」
煌々と輝く赤と蒼の光が闘気と共に姿かたちを作りあげる。
地獄の炎をもって我身と無し、ウォリアは無数の分身を作りあげたのだ。
そして高速で飛ぶソロは、無数のウォリアの中で位置を入れ替えながらダモクレスを翻弄する。
「取り込んだ宝玉ごと浄化してやるぜ……! 喰らって消し飛べ、『超太陽砲』!!」
あぽろが地に刃を突き刺すと、陽炎の弓が現われ居出る。
己に宿した太陽の化身が、無手になったことで力を溢れさせたのだ。掌から膨大な力が漏れ出すが、あぽろはソレを束ねて撃ち放つ!
狙いは過たず、光の柱が残る盾役を溶解。
氷の残骸が崩れ落ち溶け落ちれば、残るは炎のダモクレスのみだ。
コレが戦いを決定付け、少し早いが勝利を祝う祝砲となったと言える。
「おーや。これは少し予定を変えますかねーぇ」
「ならその間は私が踊っておきましょう」
敵の数が一定数を割った事でツグミは使う技を切り替えた。
ダリルはその僅かな判断の間に飛び込んで、回し蹴りを放ってダモクレスを揺るがせる。
「ではでは、ご静聴あれ! きっと楽しい時間になりますよーぅ♪ ええ、本当に。自分にとっては」
ツグミは両手をパンと打ちつけたが、パンとは響かない。
音がするのは右手だけ、鼻歌のように呪いの詩を紡ぐ。
右手を箸のようにして、料理の様に敵をつまめば、ウオオンと不協和音を奏でて怨霊たちが暴れ回る。
浴びせた炎は溶鉱炉のように、崩したバランスは全身の稼働を不確かにする。
「大丈夫ですか?」
「なんとかな。サキミも居るし、まあなんとかなる」
ラーナが声を掛けると、一十は振るったばかりの刃を杖代わりにして、箱竜のサキミに治療してもらって居るところだった。
燃え盛って居た炎が消え、言うほどの傷は無い。
「なら集中治療で構いませんね」
「申し訳ないっス。連続で受けたのがまずかったッスね」
複数の治療が不要ならばとラーナは白の傷を切除し、女の子の肌に痕が残らない様に縫い直した。
白はナイフをダモクレスに突き刺したまま礼を言うと、そのまま刃を滑らせて装甲の間に突き立てる。
「それにしても、妖精種が関与しているなら、どんな感じなんでしょうね、あまり良い気もしないので、剥がしにいきましょうか」
「気には成りますが、今は被害を抑えるのが先ですしね」
ラーナの言葉にダリルは頷き、迫りくるダモクレスに向き直った。
そこには炎の息吹を吐き出し、火山の様に燃え盛る敵がいる。
ダモクレスに組み入れられた妖精は、巨人かゴーレムか、はたまたノームなど他の存在か。気にはなるが今は倒す他あるまい。
●
防御型であった氷の掌が落ちるまでの時間より、攻撃型の炎の掌を駆逐するのは早いと思われた。
だがダモクレスとて、ただでやられる様なヤワな相手では無い。
『抹殺!』
「いかん! 必ず止めろ!」
「任せるッすよ!」
掌と掌を打ち合わせる行為を、合掌と言う。
高速で挟み込もうとする攻撃がケルベロスに迫り、一十と白は間に合えと必死で走った。
「助かった……が、当然まだやれるな?」
「もちろんッスよあちこち痛いけど、なんとかなるッス」
もうもうとあがる爆煙で、ソロは白に声を掛けてから振り向きもせずに走り出す。
カンカンと高下駄の音を立て、機械仕掛けの刃を振るって呪われた一撃を繰り出した。
吸い上げたグラビティで以前に受けた傷を治しつつ、そのまま押し込んで行く。
「そら、後は任せたぜ!」
「フン。言われるまでもナイ」
あぽろの刃が輝いて、炎よりも鮮烈な一撃でダモクレスを刻む。
そこへウォリアが襲い掛り、グラビティと闘気で作りあげた剣で粉砕した。
これで残るはあと一体、足止めや役が抑えて居たり、範囲攻撃で削って居たこともあり時間はそう掛らないだろう。
「今の状況なら攻撃した方が早そうですね」
「くふふ。まあそんな感じですかねーぇ。時間を掛けて倒すのも嫌いじゃないですが」
ダリルは相手の指先を打ちおろしてガードをこじ開け、地面に接敵すると同時に反射で即座に切り替えす、稲妻の様な一撃を浴びせた。
そこへツグミがファミリアを放ち、崩れた態勢を助長する。
こうなればもう倒したも同然、炎を内側から漏らし、崩れかけたダモクレスに最後の時間が訪れた。
「せめてもの慈悲だ。安らかな最期を迎えるがいい」
一十が告げると、ダモクレスの亀裂から白百合が咲き誇る。
花弁が開きツタが伸び、炎の勢いに負けぬほどだ。
そのまま苔むす岩の如く大地に固定すれば、まるで年月の過ぎた廃墟の機械のようでもある。
「おわったッス~」
「お疲れ様でしたーぁ!」
白がへたりこんだままい気を着くと、バーブルが駆け寄ってペロペロ。
うすら笑いだったツグミは、今度こそ満面の笑みを浮かべて勝利を祝った。
「しかし、コギトエルゴスムを回収……したら良いんでしょうかーぁ?」
「戦利品だと思えば良いんじゃないか?」
ツグミがゴソゴソと残骸を漁り始めると、ソロは念の為にトドメを確認しつつ頷いた。
「そうだナ。味方に付くかどうかはあとで考えればいい。今は少しでも情報が必要ダ」
「では何が入って居るのか判らんが、注意して回収しておくとしよう」
ウォリアが残骸の一つを無造作に踏み砕くと、一十は植物を操って倒したばかりのダモクレスから宝玉を取り出す。
「他にも何か手掛かりがあれば良いのですけどね」
「それもそうですが、治癒くらいはしておきましょう」
ダリルも彼らに習って調べ始めたが、ラーナは傷付いた仲間達にヒールを掛けてからその列に続く。
「これで一件落着だな。凱旋といこうか!」
あぽろは仲間達の姿に勝利を祝って、この日の事件に終わりを告げた。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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