機械生命の学び

作者:木乃

●勝利の道にあるもの
「ケルベロスの戦闘力は急激に進化しています。私たちダモクレスも進化しなければ、いずれ滅び去ることでしょう」
 ジュモー・エレクトリシアンは、拳ほどの宝石を指でなぞり、思考する。
 敵戦力……否、個体の目覚ましいまでの強さにあるものを。
 あれはもはや成長ではない。成長と呼べるほど、生温いものではないと。
「多くの犠牲を払い手に入れた、宝瓶宮グランドロンの宝……私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう」
 ジュモーは手にした宝石を量産機の内部へ埋め込む。
 ――攻勢機巧、防衛機巧に酷似した機体は、色彩をくすませていく。
 さながら『鋼鉄のゴーレム』を彷彿とさせる。
 それらは天高く飛び立った直後、風穴がひらいた工場から断末魔が響いた。

「リザレクト・ジェネシス後に撤退してから消息不明だった『日輪』『月輪』が、工場を襲撃する予知が出ましたわ」
 集合したケルベロスにオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は、作戦概要を伝え始める……が、どうも腑に落ちない様子。
 依頼に関係するなら話題にするだろう。ケルベロス達は努めて気にせず、耳をかたむける。
「工場の従業員は殺害し、工場の資材のみを根こそぎ奪い去っていくようですわね……既に私のほうから通達し、従業員の皆様は避難を完了していますわ」
 ケルベロスには現地に向かい、襲撃するダモクレスを撃破して欲しいと、オリヴィアは迎撃するよう言い渡す。

 そこでやっと「すこし気になることがあるのですが」と、腑に落ちない理由を話し始めた。
「日輪と月輪は、以前の戦いに比べて『全体的に褐色にくすんでおり、生物的な要素が付け加えられている』のです……とはいえ、戦闘能力では大きな変化はありません」
 しかし、その原因についても、オリヴィアはすでに推測していた。
「おそらく、この日輪と月輪の変化は『コギトエルゴスム』の影響……それも『ダモクレスではない』ものを埋め込んだのでしょう。これまで回収されたコギトエルゴスムも解析を行っていますので、戦闘後に発見されるでしょうコギトエルゴスムの回収もお願いいたしますわ」
 ダモクレスの装甲が外殻となり、意図して破壊しようとしなければ、件のコギトエルゴスムを傷つけることはない。
 次に、ダモクレスの詳細について触れる。
「日輪が2体、月輪が1体の合計3体が襲撃しますわ。逃走することはないようですので、存分に力を奮ってスクラップにして頂けたら良いでしょう。攻撃は共通して自らの機体をぶつけたり、歯車を飛ばして切り裂きますわ。それと日輪は炎を、月輪は冷気を噴出して体力を奪うようですわよ」
 消耗を放置すれば回復が追いつかなくなるかもしれない。
 状態異常は素早く取り除くよう、オリヴィアは助言を送る。
「コギトエルゴスムを一部品として組み込むだなんて、前代未聞ですが……それだけ強力なデウスエクスなのかもしれませんわね。ぜひ皆様の手で回収……いえ、『救出』してさしあげてくださいませ」


参加者
ティアン・バ(なにせかみさまが死んだので・e00040)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ

●見えぬ思惑
 パーツ工場というだけあり、清潔さを保つための設備もあってか、入り組んだ施設となっていた。
 部品や機材を狙うならば、それが大量に置かれている場所を狙うハズ……ケルベロスは検品用ベルトコンベアが並ぶ作業場を目指す。
「資源が欲しいばかりに目立つ襲撃などするから……」
「それだけ海中資源に頼っていたのだろう、易々と強奪できるものではないと学んでもらわねばな」
 目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)の呆れ交じりな一言に、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)はふむと顎をなでる。
 これより現れる二種3体のダモクレス。
 海底資源回収を目的とした拠点ダモクレスの直掩だった、日輪・月輪の量産機。
 思わぬ再戦の到来にレスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)は血潮を熱くさせた。
(「奴らのオリジナルには辛酸を嘗めさせられたからな……たっぷり仕返ししてやらねぇと、だ」)
 片角のみならず、亡き妻が遺した角環まで失い。ジリジリと怒りに胸が焦がされる。
 彼の様子にティアン・バ(なにせかみさまが死んだので・e00040)は気遣わしい視線を向けていた。
(「レスターは深い海の底で大切な形見を失って……好き放題して、私も気にくわないと思っていたところ」)
 この胸の獄炎。彼の人のために滾らせよう――ティアンが大きく息を吸うと、肺は鞴(ふいご)のように内なる炎を巻きあげる。
 突き当たりをいくつか曲がり、城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)が検品場の札を見つけ、一斉に突入する。
「なんとか先回りできたみたいねー?」
「コンテナは見当たらないけど、大きな機材なら身を隠すのに最適ですよね」
 神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)が周囲を見回して一息つき、ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)は死角になりそうな、ベルトコンベアのレーン脇で身を屈める。
 隠蔽性を高めようとジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)は隠密気流をまとう。

●合理性襲来企画
 ――周囲を緊迫した空気が包む。
 音一つ立たない工場では、息を潜めていても耳に入ってくる。
「まだ現れないのでしょうか……?」
 訝しむジュスティシアの言葉を聞きつけたように、ジェット音が急速に近づく。
「――! みんな、伏せて!!」
 見上げた橙乃の言葉に、マーク達は落下物に備える。
 咄嗟の機転もあって瓦礫の中でやり過ごすことが出来た……襲撃者は『内部の存在を一切考慮していない』
 部品だって持ち帰って分析してから解体、再構築、溶融すれば問題ない。
 ヒトであっても同じ事……それとも、グラビティ・チェインも持ち帰ろうという魂胆だったのか。
 それを知る由もないが……なんにせよ、内部の被害状況は度外視していたようだ。
 一般人なら十数人が即死する規模の損害を与えている。

 だが、ケルベロスの致命傷にはならない――敵影を捉えたと同時に純恋達は先制攻撃を仕掛けた。
「お前らのボスにゃあ深海で世話になった、こいつぁほんの礼だ!」
「レスター、ティアンも支援する」
 右腕に銀の獄炎をまとうレスターは尻尾で日輪二体に打撃を加え、ティアンが紙幣をばらまき異常状態に備える。
 ――許したのは一撃のみ。
 敵性対象を捕捉すると月輪の掌から凍気が、日輪の掌から炎が噴き出す。
 燃え広がる熱気はティアンの周囲まで迫った。
「こちらの気配にも気づいていますか」
 非戦闘時に効果を発揮する隠密気流も、使用者が戦闘態勢に入ってしまえば効果を失う。
 ジュスティシアは死角からの攻撃を断念し、瓦礫を身代わりに炎をかいくぐる。
「でたらめに動き回ると、ケガをするぞ」
「真さん、一緒に仕掛けます!」
 真の爆風とガートルードの砲撃が日輪の足止めにかかり、ボクスドラゴンの翔之助もブレスで援護する。
 最前衛から防衛すべくマークは三機の前に。
「SYSTEM COMBAT MODE――重力装甲、展開」
 躍り出るマークを中心に、不可視の防壁が橙乃達を包み込む。
 飛来する歯車を薄膜のような障壁が勢いを殺す。
「オウガメタルちゃん、よろしくー。テレ蔵くんもみんなの応援よろしくね?」
 オウガ粒子を放つ純恋に、テレビウムのテレ蔵くんはぴょこぴょこジャンプ。
 歯車を全身で受け止めるマークへ応援動画を流す。
 二機の日輪に攻撃が集中する中、ノーマークの月輪が自らの機体で拳を作る。
 突貫する拳をレスターはオーラで守りを固め、衝撃を全身で受け止めた。
「あなたの相手は私――止まって」
(「妖精族を好きに使役するかと思えば、今度はパーツですか……いい加減にして欲しいです」)
 先祖の英断に感謝しつつ、ジュスティシアは対物狙撃銃のトリガーを引く。
 月輪を抑えようと攻撃に専念するが、さすがに一人で相手取るには分が悪かった。
 遠距離攻撃にも対応する相手は後衛も射程範囲内。
 ジュスティシアに狙いを合わせた月輪は、歯車と本体で集中攻撃をかけた。
「ぐぅ、っ……!」
 日輪を狙っていたガートルードも抑えきれないと判断し、狙いを月輪に切り替えた。
 炎が天を衝き、凍える息吹が地を蝕む。
 ベルトコンベアだったものは煤と霜で侵食されていく。

 橙乃はカプセルを放ち、日輪の装甲をウイルスで蝕む。
 右手を守るように、もう一機の右手が橙乃に頭上から拳を落とす……それを純恋が真っ向から受け止めていた。
「げんこつなんて、子供じゃないんだからねー?」
 痺れる腕を軽く振って、純恋は菫色の光で周囲を照らす。
「痛いの痛いの飛んでいけー」
 彼女を中心に広がる菫の花畑。
 あふれる香気は前衛に立つ者達を快復させ、真の具足型オウガメタルが銃器に変化する。
「もう一機の妨害が厄介だな……凍って黙っているがいい」
 爆撃で動きを制限させていた真は、好機と見てもう一機を消耗させようと凍結弾を撃ち放った。
 赤褐色の機体は当たり所が悪かったのか、人差し指の一部が落ち、導線を露出。
 マークのレーザー砲撃と機銃掃射がさらに消耗させる。
「――……レスター」
 短い呼びかけだが、マークの言わんとすることはレスター自身が一番よく解っていた。
 レスターが勢いに任せて懐へ。
「バックヤードはどこへ逃げやがった、なあ!?」
 語る口はないのか。敵に塩を送る、なんて非合理的行動をとらないだけか。
 レスターの問いに大破する日輪は、歯の欠けたギアをつま弾き、それをレスターは叩き落とす。
「仕留める」
 銀の炎が刃を走り、太古の竜の形を成す。
 迸る銀焔の梁竜は怨敵を見据え、その鋭い牙で中破した右腕に食らいつく!
 バキバキと手首からひしゃげる日輪は、痙攣するように不自然な挙動を見せて墜落……黒煙を上げて消失。
 もう一機も何割かダメージを受けている。
 ここから一気に、という時――テレ蔵くんが後方に走った。

 テレ蔵くんは低空飛行しようとする月輪を強引にはじき、自らも壁に強かに打ちつけられる。
 攻撃の優先順位が全体で決まりながら、抑え役は一人――その影響をダイレクトに受けていたのがジュスティシアだった。
「まだ、戦える……問題ない」
 凍気の噴出と交互に遠距離攻撃を放つ月輪だが、ガートルードが狙いを変えるまでに蓄積された負傷もある。
 ジュスティシアの疲労は飛び抜けていた。
 続行できたのは、ティアンの集中治療によるところも大きいが……離脱まで時間の問題か。
「――”祈りの門は閉さるとも、涙の門は閉されず”」
 ティアンの言葉に天上より門が出ずる。
 開かれし門より溢れる光は涙となり。涙の滴がジュスティシアの痛みを和らげていく。
(「見かけ以上の強敵だと思っていましたが……」)
「こっちにもいますよ!」
 星型のオーラを蹴りこみ、ガートルードがさらに砲撃形態の竜槌で追撃。注意を引く。
 ベルトコンベアごと潰そうと月輪はガートルードに拳を放つ。
 粉砕される装置は火花を散らした。

 日輪から月輪にシフトすれば、日輪は巻き返しを図るだろう。
 ――優先順位を決めることは酷だが、この時点で最善を尽くさねばならない。
「こちらもすぐに片付ける」
 真は頭数を減らす――日輪との早期決着が最善と判断し、攻撃目標をシフトせず。
 マークと純恋は支援を強化し、前衛の防御と後衛の命中率を強化する。
 前のめりに攻撃を続けるレスターが日輪の装甲を削ぎ落とし、翔之助の火力支援がさらなる被弾を促す。
「――空隙拡散」
 大気の隙間に視線を注ぎ、真は銃口を向ける。
「氷弾よ、大気を斬り裂け!」
 針の孔を通す繊細で精密な一撃だった。
 氷の弾丸は微細な空気の流れを押し通し、弾道を描いて――中破する日輪の真芯を貫いた。
 巧みなスナイプが日輪の中心部から亀裂を走らせ、内部崩壊を急激に促す。
 けたたましい音を立ててベルトコンベアに衝突する日輪……バラバラとキューブ状に砕け、さらに分子レベルで崩壊する。

(「誰も倒させない……皆がちゃんと帰れるように、ティアンが支える」)
 魔法の木の葉をガートルードに飛ばすティアンも、月輪は標的に選び始めた。
 画面にヒビが走るテレ蔵くんも自らに応援動画を向けつつ、ジュスティシア達の援護に奔る。
 幸いしたことはブリザードが届かぬことだろう……相手の行動パターンが注意しながら、後衛3人で時間稼ぎするには限界が見え始めたとき。
「――お前も潰しに来てんだよ!!」
 レスターが力任せに鉄塊剣『骸』を叩きつけた。
 日輪二機を撃破した5人も疲労の色が見えていたが、残り1機とあって気勢に衰えはない。
「テレ蔵くん、ナイスファイトよー。ガートルードさん、回復するわね」
 サーヴァントに労いの言葉をかけつつ純恋は祝福された矢を施す。
「攻撃モード、単体特化に移行――殲滅する」
 砲口を向けたマークは月輪へ一斉攻撃を開始し、橙乃も加勢する。
「ふぅ、はぁ……みんなでやれば怖くない、ですよね!」
 煤まじりの汗を軽く払い、ガートルードはナイフを持ち直す。
 ジュスティシアも気力で立っている状態だが、もう一踏ん張りと膝に力を込める。
「勝手に組み込んだコギトエルゴスム――私たちが身柄を保護します!」
 文字通り、一矢報いるべく弓を番え――心が無くとも、思考する回路があるのなら!
 エネルギーの矢が放物線を描き、純恋達の頭上を越えて月輪に突き刺さる。
 装甲の僅かな隙間をとらえたジュスティシアの一撃に、月輪はのたうち回って無差別攻撃を始めた。
 ――前後不覚に陥ったその瞬間、勝負は決したも同然だった。
 ガートルード達の一斉攻撃に月輪は為す術もないまま、解体処分されて短い命を終えた……。

●三つの魂
 ダモクレスは倒したが、取り込んだコギトエルゴスムは別個体。
 一つの器に二つの魂を入れていた状態だった――ティアン達は工場内を修復しつつ、コギトエルゴスムを捜索する。
「ひとつめ、見つけたぞ。……これもやはり妖精族なのだろうか」
「その可能性が高そうだが、解析結果次第だな」
 ティアンから受け取ってレスターは光にかざしてみた。
 透明度の低い琥珀色のそれは、ゴツゴツした手触りだが心地よくもあり……きっとそんな種族なのだろうか?
「オレも発見した」
「私もベルトコンベアに落ちちゃってたの、見つけたわー。3つだから、これで全部よね?」
 真はターコイズに似たもの、純恋はロードナイトに似たコギトエルゴスム……温かみを感じられることから、死に絶えたものではないことが解る。
「もう大丈夫ですからね……会えるの、楽しみにしてますね!」
 まだ見ぬ隣人との邂逅に思いを馳せ、ガートルードは眠れる魂に呼び掛ける。
 ……その目覚めは遠からずやってくると信じて。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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