「私たちは進化しなければならない」
そこはいずこの拠点か、ダモクレスの重鎮『ジュモー・エレクトリシアン』は手にした何某かのコギトエルゴスムへ、囁きかけるようにいった。
「ケルベロスの戦闘力は、急激に進化しています……追い付き、凌駕するほどに」
それは進化か、死かの生存競争。降りるという選択肢はあろうはずもない。
「宝瓶宮グランドロンの宝……多くの犠牲を払わされましたが、その力、私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう」
やや間もおかず、関東は浦安近郊の工業団地で一つの火の手が上がった。
予知に捕えられたデウスエクスはケルベロスたちをバックヤードから追い返し、リザレクト・ジェネシスの戦いでも猛威を振るった『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪。
だがその暴れまわる肉体は褐色にくすみ。どこか生物めいた色を帯びていた。
『リザレクト・ジェネシス』後に撤退し、行方が分からなくなっていたダモクレス『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪が発見された。
情報へ集まったケルベロスたちに、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は地図上より千葉、浦安の工場団地の一角を指し示した。
「出現したダモクレスはモクレス『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪が二体ずつ、計四体。複数体いることから、おそらくは量産型だろう」
ダモクレスたちの狙いは工場の資材。邪魔な工場の従業員を殺害し、根こそぎ奪おうという魂胆だろうとリリエは説明する。
「幸い、敵の主目的は人命ではないようだ。今回は従業員に避難指示を出せる……現着までには避難は完了しているだろうから、皆は日輪と月輪の撃破に専念してほしい」
量産型といえ二種のダモクレスは強力であり、また過去のデータとは異なる気になる点もあるという。
「『攻勢機巧』日輪は巨大な右手、『防勢機巧』月輪は左手を模した強力なダモクレスだ。過去何度かの交戦でデータは揃っているが、今回も通用するか保障ない」
過去の戦いでは、日輪は破壊と斬撃、頑健と理力を中心とした火炎系の長距離グラビティを。月輪は破壊と魔法、頑健と敏捷を中心とした冷気系の近距離グラビティを使用している。
バックヤードの個体も今回の量産型も、能力の優劣以外、グラビティはほぼ同じらしい。
名前の通り『攻勢機巧』日輪はクラッシャー、『防勢機巧』月輪はディフェンダーのポジションが基本だ。
「また二種のダモクレスはどちらも、それぞれの属性で強力な範囲攻撃を搭載している。バックヤードの個体ほどの威力はないだろうが……過去の個体からの変化と合わせ、注意してほしい」
そこまでいうと、リリエは一度話を切った。
「……今回の個体だが、見た目がおかしい。こう、なんというかな……外装なんだが、機械らしからぬ褐色で柔らかさがある」
この変化は失われた妖精八種族、ゴーレム生命体のそれに近いらしい。
「恐らくダモクレスたちはコギトエルゴスムを埋め込んだ……復活させるのでなく、そのままパーツとして強化に使ったのだと思う」
今のところ戦闘能力などは大きく変化していないようだが、予測できない変化は警戒しておいた方がいいだろう。それにこれは悪い事ばかりでもない。
「敵がコギトエルゴスムを埋め込んでいるという事は、だ。日輪と月輪を撃破すれば埋め込まれたコギトエルゴスムを回収できるということだ」
これまでに回収されたコギトエルゴスムも解析が続けられている。新たなコギトエルゴスムが回収できれば、進捗はより一層はかどる事だろう。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの結果、ダモクレスもかなり追い込まれているとソフィアは予想します」
油断できない強敵ですが、と前置きしながらもソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は力強く言う。
「ここが正念場です。工場を守り抜き、ダモクレスの計画を頓挫させてみせましょう」
参加者 | |
---|---|
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954) |
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685) |
ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846) |
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568) |
●強奪手、来る
浦安の工場団地は同市内の有名テーマパークになぞらえ『鉄の国』とも称される、鋼鉄の町だ。
数か月前には東京湾マキナクロスの一部と化し、いま再び五大巧の量産型が送り込まれたのは偶然だけではないだろう。
「情報通り、住民は避難済。見通しの割に遮蔽が多いから注意して。各センサー、レーダー問題なし……奴の動きを漏らさず追え……!」
『強行偵察型アームドフォート』に接続された『増設レドーム・センサーユニット』がうなりをあげる。リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は言って降り立つや、把握された敵位置と行動を共有した。
「敵は強力で、一度は辛酸をなめた相手……それが量産型だけど、強化されて四体……」
「他のデウスエクスを埋め込んであるトカ、ナンかウチらみたいダナ!」
シャーマンズゴースト『まんごうちゃん』と背中合わせに警戒する羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)の声に、アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)は対照的に牙をむいた。
彼女もまた神を喰らう為に打たれた剣、レプリカント化以前に与えられた性根が共感を呼ぶのかもしれない。そう、前を行く疑似螺旋を宿したレプリカントの少女のように。
「上手くいけば、他種族の特性が得られるかもしれません。アプローチの違いこそあれ、記録で読んだ姉にも近いですね……きます」
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)の呼びかけにヒールドローンが縦ロール型の放熱索より生成、黄金比の回転螺旋を描いて浮上する。
『攻勢機巧』日輪、量産型『防勢機巧』月輪とも一度はオリジナルと相まみえた相手。単純な戦力比ではケルベロス側がやや不利だが、経験による予測と対策を加味すれば十分に逆転する範囲だ。
それは会敵した量産型たちにも承知のことであり、導き出される初手は唯一つ。
「迎撃レベル最大、モード『激凍氷河』」
「モード『豪焼炎河』」
無人の鉄工所をぶち破り、巨大な手と手、左右二対の炎と氷が嵐を呼んだ。ミリ秒単位の超過熱は燃焼の猶予すら与えず舗装を蒸発させ、街路樹と緑地帯を灰燼に変えた。
そこから更にコンマ秒、数十Kまでの冷却だ。グラビティを介した冷熱衝撃は、鋼鉄の標識や看板、堅牢な鉄筋コンクリート製の建造物まであらゆるものを粉砕し、瓦礫の山へと変えていく。
いや。
「最脅威目標、生存」
「否……全目標生存」
一体の量産型月輪の報告を、量産型日輪は驚愕と共に修正した。
「因縁深き日輪と月輪……私はあなたたちを追い、観察し、研究してきた……マキナクロスとなったこの町を、二度と蹂躙させない……!」
「あなたがたの行動は予測していました。ナノマシン再拡散、反攻準備します」
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が構えた『フェンス・オブ・アメジスト』のまばゆい輝きが破壊を拒絶した。
かつては敗れ砕かれた『アメジスト・シールド』は今や無類の防壁となり町と仲間たちを守り抜いた。
それを可能にしたのは彼女の力だけではない。ピコの『多重分身の術』が攻撃点をずらし、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)の『大自然の護り』が余波を抑え、力を結集させた結果だ。
「フローネさんたちの背中は私が、私たちが支えます! だから、思いっきり戦って!」
負ける事なんてありえない。結衣菜の激励が、ボディヒーリングのエクトプラズムと共に背中を押す。
「終わりか、ならここからはこちらの手番でいいな?」
守り切れた力は反撃につなげられる。有無を言わさぬ確認と共にギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が抜き撃った『白刃 不動』が、瓦礫ごと月輪を両断する。
「何だよ……鉄屑やめて、土塊に転向か?」
氷を操るダモクレスの掌に、より冷たい刀傷が刻まれる。深々と裂けた傷跡は、盲目の刀匠が鍛えた斬霊刀と達人の一撃の鋭さによるだけではない。
「切断面分析……硬度の低下にかわり靭性、展延性が向上してる。粘土か……皮膚のよう」
「nonsenseだな」
『電子戦・連携支援ユニット』の解析結果を読み上げるリティに、ギルフォードは唇を歪める。彼の手に伝わる感触は金属よりも柔らかく、粘り強く、生命の鼓動が確かにあった。
有機物の組成をもつダモクレス自体は珍しくもないが、この二種はそのような機種ではなかったはずだ。
「やっぱり……妖精さんに近づいてるんだね」
ドラゴニックハンマーを構える阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の心中から『殺戮衝動』がにじみ出す。
かの機巧たちに埋め込まれたコギトエルゴスムは、元はデウスエクス……命あるものだ。それを道具のように扱う相手への嫌悪は、因縁の有無を問わず当然というべきだろう。
「必ず倒し、救い出してみせます! ソフィアさん!」
「はい!」
ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)のゾディアックミラージュが打ち込む星辰に、量産型日輪が手を開く。日輪炎陣、炎の結界が受け止める。
「無駄よ、その程度の護り……!」
拮抗する星辰と結界めがけ櫻は引き金を引く。殺意の破剣を乗せた轟竜砲がゾディアックミラージュを押し込み、結界をぶち抜いて炸裂した。
●進化する掌
結果の炎が尾を引きながら、量産型日輪が吹っ飛んでいく。
「資材を盾にできれば……とも考えたけど、徹底的にやる気かな」
強襲で綺麗に開けた大通りを『エアロスライダー』で滑走しながら、リティは更新される情報を『データリンク・エスコーター』で共有していく。
「強化されているとはいえ、出力はオリジナルには数段劣る……観測データ及び演算結果を同期。データエスコーター、共有情報を更新」
バックヤードでかの強敵と激突して数ヶ月、得られた情報を比較して沈黙の魔女は結論する。複数かつ混成という状況は楽観できないが、過大評価もよいことではない……もっとも、割り込む量産型月輪に飛び掛かる悪食少女レプリカントにその心配は不要か。
「ギヒヒヒ……冷たいヤツ、いただきまス!」
テーブルナイフのように構えられたアリャリァリャのチェーンソー剣が身構えた量産型月輪の掌を抉る。かのダモクレスが生物の手を模したものなら、最も装甲の分厚い部分だが百も承知。
「モード、冷扼……」
「そうはさせないよ」
瞬間、抑え込もうとする手を瑪璃瑠の『二律背反矛盾螺旋・現』が突き刺した。現を司り夢を護る血染めの布剣による血装刺突法、差し込まれた異物が氷壁の結界を砕き、アリャリァリャの足場となる。
「そうそウ、まず皮からダ……」
血装帯を蹴り、チェーンソー剣の打点を軸に空中回転。火花をあげ、手の甲へと一周した斬撃が月輪の小指を切断した。
「マニピュレータ五、重大な損傷」
「交代セヨ! タダチニ支援スル!」
「見た目の割によく喋るじゃねぇか!」
押しのけるように突っ込んでくる第二の量産型日輪に、ギルフォードが唇を歪める。片言に雄弁な日輪、饒舌に無口な月輪。その個性は量産型にも受け継がれているようだ。
否、受け継いだのは個性だけではない。
「拳を、開いた……?」
違和感に最初に気づいたのは瑪璃瑠。見せたことのない量産型日輪の挙動にライオンラビットの耳がピンと立つ。
量産型日輪の攻撃で掌を開くのは最初に見せた高熱放射があるが、その際は五指全てを開き切っていた。この掴みかかるような構えで思い当たるのは。
「この攻撃は……まずい、避けて!」
「モード、猛熱爆!」
その行動が意味することは聞いていたから、瑪璃瑠の声にギルフォードも反応できた。
「爆熱回路接続! ストームハング!」
「させるかよ!」
熱波ごと猛スピードで突っ込んでくる五指に大きくバックステップを踏み、ガジェットドリルへと変化した『ライセンス』だけを突き出す。
そのままなら爆破されるのみだが、交代した彼の前に突き立つのはフローネの『ココロの指輪』の銀色の剣。勢いを利用したそれは盾でもあり、破壊により量産型日輪の勢いをドリルめがけ滑らせた。
「不発……異常個体、学習シテイル!」
結果は相打ち。量産型日輪は中央二指を失ったが、ギルフォードをかすめた熱波も外套を焼き、彼に軽くはない熱傷とプレッシャーを与えている。
加えて、あるいは被害以上の衝撃も。
「お褒めに預かり光栄、といいたけど!」
「あのグラビティは、リザレクト・ジェネシスの個体には未搭載だったはず……」
櫻の放つフロストレーザーを復帰した氷壁が阻んだ隙、ピコの生成したヒールドローンがソフィアのそれと多重防壁を組む。
「急いで、まんごうちゃん! 進化の先『本物』だっていうなら……!」
まんごうちゃんの捧げた祈りをまとい、結衣菜のエクトプラズムがケルベロスたちの傷を塞ぐ。
口に出した警戒を裏付けるように、量産型月輪たちが拳を握った。
「凍結回路接続。モード『凍結撃』」
「たまげたナ! 『本物』になった!」
叩きつけたレゾナンスグリードを引きずり加速する氷の拳に、アリャリァリャは喚起交じりの驚愕を叫ぶ。
「癒しを、衝撃に備えて!」
一撃、二撃。癒しを拒絶する極寒の左ストレートがフローネを、まんごうちゃんを殴り飛ばす。『アメジスト・シールド』を支えた腕が、力場ごと凍り付き、ひび割れていく。
●繰り返しはさせない
結衣菜は息を飲んだ。
「目標撃破、確認」
「完全破壊、達成」
「――リミッター限定解除」
だがそれは再現された過去の悪夢にでも、勝利を宣言するダモクレスへでもない。
「廻れ」
瑪璃瑠の声が前方から聞こえる。
「廻れ」
振り向けば後方にも瑪璃瑠。だがほんの少し違う。特徴的なピンクの瞳がそこにはない。前には緋眼のメリー、背後には金眼のリル。
なぜわかったのか? 夢ならよくあることだろう?
現の二律背反矛盾螺旋と対になる『二律背反矛盾螺旋・夢』が揺れている。場の意識が混濁し、二人の間に流れる莫大な魔力の流れに世界が歪んでいく。
『夢現よ廻れ!』
「ありがとうございます、結衣菜さん!」
「っ!?」
暗転一瞬。結衣菜はフローネが纏う『ダイアモンド・フロスト』の白銀に『翠緑の恵み』の木の葉が移ることに……それを自分が投げかけた事に気づいた。凍り砕けた盾などなく、攻撃はしかと受け止められている。
そしてもう一体の量産型月輪は……なんということだろう。
「おぉ冷たい! 冷やっこいナー! もっともっと、咲くがいい炸くがイイ!」
もう一体は攻撃すらできなかった。かのものの場所は『おお、見渡せばそこは花畑』……アリャリァリャのチェーンソー剣が量産型月輪の掌を貫通し、スプリンクラーのように零距離から左目の破壊光線を照射し続けているではないか!
「ももも目標、撃撃ゲキげげげげげキキキィー!」
霧か靄か、白い煙を上げながら量産型月輪の体が爆ぜた。
「……唐突ですが質問を失礼します。七宝さん……今、私たちは攻撃されてなかったでしょうか」
「白昼夢だよ、きっと。ただの悪い夢」
首をかしげるピコ、瑪璃瑠は首に掛けた『月光のエピタフ』を揺らして微笑む。悪夢のような現実も『夢現輪廻転生』してしまえば唯の夢だ。
改ざんされた現実は攻撃を拒絶し、強力なヒールグラビティのように受けた傷を癒す。それは把握してなお妙な気分だ。
「防勢ノ!?」
「掌ひっくり返された気分かよ、先生? 同情はしないがな」
量産型日輪が手首を回せば、ギルフォードとリティの姿。初手で破壊しつくした工場跡を隠れ蓑に、敵を見失った日輪へと二人は一挙踏み込んだ。
「コギトエルゴスムの進化は攻防に影響が大きいみたい。念入りにやっておこう」
「ならこれだ。『終末』program起動、code:『EDA』認証」
腰の『対デウスエクス高周波ブレード』を鞘走らせるリティを前に、ギルフォードもまた切り札を抜く。
鍵剣型ガジェット『ライセンス』にあしらった『黙示録』がどす黒く脈動する。歯車が回り、火花が炎と吹きあがる。
「ソレハ終末ノ……ッ!?」
量産型日輪は最期を言えなかった。リティの『月光斬』が音声回路までを深々と両断したのだ。
切り開かれた間隙に『死滅呼びたる終焉の戦火』の右手がねじ込れていく。
「サア! 『攻勢機巧』よ! 劫火に包まれて滅んじまいなぁ!!」
回路を鷲掴み、解放。歪な掌が膨れ上がり爆裂、火柱へと変えられていく。引き抜いた手の中には、姿を戻した鍵剣と、宝玉のようなコギトエルゴスム。
あまりの圧倒的な破壊に、幾人かがほっと息をついた。
「状況、危険……危険……応答なし……なし……」
だが残り一対のダモクレスには、そんな余裕はありはしない。
「そう。大変そうなところ悪いんだけど……余所見しないでくれないかな」
「残骸からも得られるデータがあります。通信も、機体も、何一つダモクレスに渡しはしません」
ダモクレスさえも硬直させる櫻の『執着の魔眼』が月輪の指をピンと伸ばし、うねるピコのロックオンレーザーが五指を丁寧に貫いた。
●ローバーハンド・ドロップ
「Look at me! Look at me! Look……Look……!」
櫻の執着心の具現化した石化の魔眼が量産型月輪の月輪氷壁を侵していく。氷から石へ、奪われる結界に抗うように量産型月輪は冷気を放ち、量産型日輪の五指が突進する。
「量産といえど、五大巧……一筋縄ではいきませんね」
けして楽な戦いではない。大きく展開し続けている『アメジスト・シールド』も、彼女一人で庇える範囲は限界がある。
櫻へ殺到する災炎指剣を『エメラルド・ソード』で払い、ビーム駆動する翠石色の刀身を叩きつけて抑え込む。だが重なるように後衛を襲う激凍氷河の冷気までは。
「頼めますか……?」
「任せて。フローネさんが支えてくれたから、まだまだ戦えるよ」
結衣菜と、彼女らを支えるまんごうちゃんが頷く。戦いは支えあいだ。前衛のみで構成したダモクレスに比べ、ケルベロスは数と支援は段違いにある。
「ソフィアも致命には届いていません。一、二撃は大丈夫です」
「では足止めを頼めますか? 阿賀野さんを援護します」
拮抗する櫻にはピコとソフィア、瑪璃瑠が加勢する。
大自然の護りが荒らされた緑地帯に力を与え、ピコの拡散するナノマシンと共に冷気の嵐を受け流す。布陣の不利を悟った量産型月輪は向きを変えようとするが、瞬間。
「回り込みました、櫻殿!」
「予測外の攻撃。意図……!?」
すくいあげるようなソフィアのキャバリアランページ。重装甲の量産型月輪には微々たるダメージだが、体勢を崩され足止めされたのは致命的だった。
「サセヌ」
「貴様はウチの獲物だゾ!」
日輪炎陣を形成しようとするとする量産型日輪にはアリャリァリャが降魔真拳で食らいつく。
「熱イ! 熱クて美味しイ!」
炎ごと肉体を引き千切らんとデスロールする彼女の回転する視界には、『K20C型:1,995cc直列4気筒直噴DOHCターボエンジン』のグラビティを全開にした櫻のスターゲイザーが量産型月輪を撃ち抜くのが見えた。
「三つ目、とったわ。そっちは……」
「……出会い頭のnonsense、って話。どう思う?」
櫻が振り向けば、そこには当然アリャリァリャが文字通り、量産型日輪を食い散らかす姿。リティの感想にギルフォードは『亡き上官の耳当て』に手をやった。
「……お互い様だねぇ……と。コギトエルゴスムまで食うなよ!」
あまりの食いっぷりに等身大の声が思わず漏れるが、一瞬。いう間も二人は量産型日輪へと駆けだしていた。
「その風穴、広げさせてもらおうか!」
白刃の絶空斬がアリャリァリャの食いちぎった穴を押し広げていく。内から噴き出す炎をエアロスライダーで受け、リティは飛ぶ。
宿敵にして後継機ダモクレスから頂いた高機能ボードの機能は未だ限定的だが、使い勝手と耐久力は装備の中でも群を抜く。
「我ガ炎ガ……!」
まさに一閃、まさに辻斬り。すれ違いざまの『居合い斬り』が両断する。あふれる炎の爆発より早く、エアロスライダーは工業団地の直線を走り抜けていった。
「デウスエクス同士の戦いは今までずっと、こんな感じだったんだろね……なんだか、嫌なんだよ」
片付けられたダモクレスの残骸と、その体内より救出されたコギトエルゴスムを見比べ、ぽつりと瑪璃瑠はいう。
これでも一個の生命なのに、デウスエクスたちは物同然に雑に扱う。そのことが堪らなく心をささくれさせる。
「エインヘリアルの虜囚の次は、ダモクレスの改造パーツ扱いだなんて……いくら何でも妖精さんたちが不憫だわ。こんなこと、許されていいわけがない」
「ボクたちはケルベロスで、コギトエルゴスムを壊せちゃうからなのかな。そう思えるのは」
そうだとしたら、なおさらデウスエクスの手に置いておくわけにはいかない。少女はそっとコギトエルゴスムをしまい込む。
「手ごたえはありました。私たちなら、やれるはずです」
フローネは仲間と自分を勇気づけるように言う。敵の進化は様々で先行きは見えない。だが自分たちなら、デウスエクスの弄ぶ妖精種族の心も、きっと守れるはずだと。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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