炎の右手、氷の左手

作者:なちゅい

●ジュモーの研究
 とあるダモクレスの拠点らしき場所。
 その室内で研究に当たっているのは、長い青髪のマネキンを思わせる女性型のダモクレスだ。
「ケルベロスの戦闘力は、急激に進化しています」
 彼女の名前は、ジュモー・エレクトリシアン。
 これまで幾度もケルベロスの前へとダモクレスを率いて立ち塞がってきた彼女は、自分達の状況に先の見えぬ不安を抱いていたようである。
「私達ダモクレスも進化しなければ、いずれ滅び去る事でしょう」
 それでも、淡々とした口調で語るのは、彼女が研究者であるがゆえか、それとも感情をほとんど現さぬダモクレスゆえか。
 閑話休題。
 そのジュモーの手には、球体をしたとても綺麗な宝石コギトエルゴスムが握られている。
 それは、体力を失ったデウスエクスの成れの果てだ。
「多くの犠牲を払い手に入れた、宝瓶宮グランドロンの宝……私たちの進化の為に有効に活用させてもらいましょう」
 彼女が視線を向けた先には、ずらりと立ち並ぶダモクレスの姿があった。

 しばらくして。
 そのダモクレス達はとある小規模な工場を襲っていた。
 見た目はゴーレム生命体を思わせる姿となっていたが、ダモクレスの知識に明るい者であれば、日輪、月輪だと気づいただろう。
 2体いる燃え上がる右手のような姿の日輪。そして、同じく2体いる凍った左手のような姿の月輪。
 それらは何かを探し求めるかのように工場内を徘徊し、従業員の命を奪っていくのである。

●工場を襲撃するダモクレスの撃破を
 ヘリポートにて。
 新たな事件が起きているとのことで、ケルベロス達は情報の確認にやってきていた。
「ダモクレス『日輪』と『月輪』が、工場を襲撃する予知が確認されたんだ」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の話によれば、襲ってくるダモクレス達は『リザレクト・ジェネシス』後に撤退し、行方が分からなくなっていた者達だ。
 彼らは邪魔な工場の従業員を殺害し、工場の資材を根こそぎ略奪しようと目論んでいるようだ。
「予知の情報を受けて、従業員の避難は完了しているよ」
 現地の工場へと向かい、襲撃してくるダモクレスを撃破して欲しい。

 現場は関東某所、小規模なパソコン工場だ。
 従業員が避難した工場の敷地内にやってきたダモクレスは、資材を求めて動き回る。
「つまり、狙うは倉庫だね」
 到着はダモクレスよりも少しだけ早いはずなので、倉庫を守るように布陣したい。
 また、追い込まれると、工場を狙って少しでも資材を奪おうと立ち回る可能性があるので、最後まで油断なきよう討伐へと当たりたい。
 現れるダモクレスは、日輪、月輪の量産型がそれぞれ2体ずつだ。
 全身が燃え上がる右手の姿をした日輪は、攻撃特化。クラッシャーとスナイパーとして炎、爆風、ミサイルを使って攻撃を行ってくる。
 対して、全身が凍った左手の姿をした月輪は防御特化。ディフェンダーとメディックとして、凍結光線、平手打ち、氷の壁を使ってくる。
「これらの敵はかつて、戦った頃に比べて『全体的に褐色にくすんでおり、生物的な要素が付け加えられている』ようだね」
 ただ、戦闘能力は大きく変化していないようなので、それを踏まえて作戦を練ってから戦いに臨みたい。

 一通り説明を終えたリーゼリットが離陸準備へと移る中、顔合わせするケルベロス達。
「ダモクレスもかなり追い込まれているようね」
 その最中で、ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)が主観を語る。
 そうでなければ、工場をダイレクトに狙って資材収集など行うはずもない。
 工場への被害を防ぐのはもちろんだが、現れるダモクレスを確実に撃破し、敵戦力の減少と資材奪取の阻止へと当たりたい。
「以上だね。準備が出来たら、声を掛けてほしい」
 皆の状況が許せば、できる限り急いで現地に向かうよと、リーゼリットも気合を入れていたようだった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●工場で下準備
 関東某所のパソコン工場へとやってきたケルベロス。
 この地にダモクレスが現れるということで、メンバー達は予め決めていた所定の場所へと移動していく。
 敵の狙いはパソコンの資材であり、それを奪取するとのこと。
「強盗みたいなダモクレスだなぁ……。それだけ、切羽詰まってるってことか?」
 右眼を地獄化させた青年、レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)はそんな主観を語ると、エゾオオカミの人型ウェアライダーの神居・雪(はぐれ狼・e22011)がやや怪訝そうに顔をしかめ、素っ気なく呟く。
「押し入り強盗みてぇな真似しやがって。何企んでるか分かんねぇけど、好きにさせるかっての」
「ダモクレスも、必死なんだろうが、こっちにも都合があるからな」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は被った帽子を押さえて、呟く。
「簡単には奪わせないぜ」
 地獄となった左腕を燃え上がらせ、彼はダモクレス討伐に意欲を見せるのである。

 工場はダモクレス接近に伴い、一般人は避難済み。
 閑散とした工場内で、ケルベロス達は一直線に倉庫前に布陣して敵を待つ。
 その際、鬼人の発案で、戦いの妨げとなりそうな設備、機器、フォークリフトなどを移動させる。
 また、一行は手早く保管されている資材を確認して、何が無くなったかすぐに把握できるようにしていた。
「ん、倉庫から資材を取らせないために、しっかりヒールするの!」
 確認したフェネックのウェアライダーのフォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)は元気に気合を入れる。
「ふふ、その意気よ。頑張りましょう」
 ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)も回復手として、フォンと一緒に前線メンバーを支える心づもりだ。

●資材を奪おうとする2対の手
 程なくして、工場へと姿を現したデウスエクスは4体。
 見た目は炎を纏った右手、量産型『攻勢機巧』日輪が2体。そして、氷を纏う左手、量産型『防勢機巧』月輪2体だ。
「日輪、月輪……バックヤードを護衛していたあの腕だね」
 青い長髪をポニーテールとした青年、クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)はそれを思い出しながらも、敵の布陣を確認する。
 各個集中撃破を目指すケルベロス一行。最優先撃破対象は、前線で身構える月輪だ。
「日輪月輪にはかつて、煮え湯を飲まされた経験がある」
 インディーズのバンドマンであるウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は以前、オリジナルと対したことがあるようだ。
「量産型といえど、侮れん」
 淡々と語る彼は肩にバスターライフルを担ぎ、手にはベースギターを構える。
「ああ、油断ならない相手だ。しっかり連携していこう」
 クリムがそれに応じ、槍を手に相手の出方を窺うと、敵も布陣を整えたままで接近してきた。
 黒い角と翼を持つ人派ドラゴニアン、天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)は後方、倉庫との距離を一度確認してから、静かに殺意を纏い始めて。
「また傍迷惑な事を……、さっさと退場願おうか」
 機械でできたそれらの手の形をした敵全てに、レヴィンは下ろしたゴーグルの中から視線を走らせる。
「資材を奪われない様、気を配らないとな」
「ふっふーん! どんな企みもまるっと防いでやるのデスよ! ロックに!」
 愛用のギターを手に、意気揚々とシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が叫ぶ。
「つっても、変に生身っぽいところがあるせいで、結構気味悪ぃなこいつ……」
 相手の姿に、雪は不気味がってしまう。
 以前、ケルベロスが対峙した時に比べ、それらの敵は機械的な部分だけでなく、生体的な要素が加わっていたのだ。
「関係ないデスよ!」
 いつでも元気なシィカに元気をもらい、雪は笑みを取り戻して敵と対する。
「それでは、今日も元気にロックに! ケルベロスライブなのデス! イェーイ!!」
 ぎゅいんとギターをかき鳴らす、シィカ。
 2つのギターの音色が響き始めた工場で、ケルベロスは侵入してきたダモクレスの討伐へと当たり始めるのである。

●奪い、もぎ取ろうとする機械の手
 1体が盾となり、全体的に前に出て攻め立ててくるダモクレス達。
 対するケルベロス達も、前衛を厚くして対していく。
「きっちり引導を渡して、借りの半分でも返せればいいが」
 ウルトレスがこのオリジナルと戦ったのは、クロム・レック・ファクトリアでのこと。
 あの時の苦い思い出を払拭すべく、ウルトレスはベースギターをかき鳴らしつつ、肩のバスターライフルから凍結光線を発射していった。
 こちらも盾を厚くはしているが、ダモクレス側の盾となる月輪が面倒な相手。
 凍結光線をその手のひらで受け止めた敵目掛け、こちらもギターを鳴らすシィカがドラゴンブレスを吹きかけ、前線の炎、氷と並ぶ一対の手に浴びせかけていく。
 シィカも自称ロックなメロディを奏でながら、この場を突破されぬよう十分に注意して敵の討伐に当たる。
 雪もまた、ライドキャリバーのイペタムと共に壁となっていた。
 グラビティにいささか難を覚えてはいた雪。どうやら、重力を宿して蹴りつけるグラビティの用意がなかったらしい。
 だが、雪は機体を燃え上がらせて突撃していくイペタムに続き、カムイの力を宿した『レプンシラッキ』で相手の手首を蹴りつけ、迅速な破壊を目指す。
 盾となる彼らを襲うダモクレス。
 日輪、月輪は攻撃方法こそ異なるが、この場を強引に突破しようと機を窺っているのは変わらない。
 日輪は拳を握りしめると爆発を巻き起こし、周囲に爆風を吹き付けてくる。
 月輪が厄介なのは、平手打ちでこちらの理性を奪い、気を引き付けようとしてくるところだ。
「ん、回復するの」
 フォンが火力役のメンバーにエネルギー光球を飛ばし、強化に当たる。
 その手前、ジャマーを任せた箱竜クルル、属性注入を回復役であるフォン、ユリアへと施している。
 後方にいることで、ある程度攻撃からは逃れている彼女達だが、日輪が飛ばすミサイルで体が麻痺なんて状況は避けたいところ。
 ユリアも雷の壁を構築して、敵が及ぼす異常回復に当たっていく。
 それらの援護を受け、鬼人が敵へと攻め入る。
「ここで止めなきゃ、今までの苦労が水の泡って奴だ」
 資源が乏しくなっているからこそ、強盗のような行いを働くダモクレス。
 こうした活動を水際で止めねば、また勢力を拡大しかねない。
 そう考えた鬼人は無名刀に空の霊力を纏わせ、盾となる氷の手を切り上げ、仲間のつけた傷を深めていく。
 続けざまに、十六夜が竜氣を纏わせた神刀【雷斬り】で、円を描くように盾となる月輪へと切りかかる。
 十六夜はさらに態勢を立て直し、後ろ足刀蹴りを喰らわせようとしていたようだ。
「狙うの、は関節部分……!」
 そして、仲間の火力の補助とすべく、クリムはゲシュタルトグレイブの刃に魔力を通わせる。
 素早くクリムは指の付け根を狙って切り掛かり、同時に躯体に氷を意味するイサのルーンを刻み、斬撃痕を凍らせていった。
 そこに、レヴィンが飛び込む。
「悪いな! 今月ピンチなんだよ!」
 ガトリングガンの残弾を気にする彼はドラゴニックハンマーを振り上げ、思いっきり月輪を殴りつける。
 渾身の一撃で、回路がショートした盾役の月輪。
 しかし、その背後にいた月輪が氷の壁を構築し、さらに狙撃役の日輪がミサイルを発してきた。
「なにぃ!?」
 飛んできたミサイルを浴びてしまい、レヴィンは素っ頓狂な声を上げた。
 爆炎の中、着地した彼はさらに、氷の壁に包まれて修復した敵へと攻撃を仕掛けるのである。

●攻め来る手を返り討ちに!
 工場での戦いは一層激しさを増す。
 相手が放ってくる爆風やレーザーを前線が受け止めてくれる間に、クリムはゲシュタルトグレイブで切り込み、回転連撃を浴びせかけていく。
 また、傷つく前線メンバーには、フォンが癒やしに当たる。
 指に嵌めた『碧瑠璃のシルバーリング』の内に秘める回復の力を、彼女は自らの尻尾に宿らせて。
「ん、癒しの力……飛んでくの!」
 大きく振り出し、フォンは発生させた緑色の回復玉を仲間へと放つ。
 強い回復の力で、たちまち前線メンバーは傷を塞いでいたようだ。
 そんな戦いの最中、サポートに駆け付ける者の姿が。
「ウルトレスさん!」
 バックヤードで日輪、月輪戦を支え切った戦友を助けるべく、フローネが前線へと入る。
「日輪の対処はお任せを! 月輪を仕留めてください!」
「支援、助かります」
 アメジスト・ビーム・シールドを展開するフローネの助けを借り、ウルトレスは感謝の言葉を口にしつつ、仲間と一気に攻勢を強めて。
「聴かせてやる。音楽(オト)ってのは、時にそれ自体が凶器になる――」
 激しく弦をかき鳴らして重低音を響かせる彼は、ボディ内蔵アンプで最大限に増幅させる。
 それを指向性スピーカーにより一点集中し、ウルトレスは目の前の敵へと浴びせかけていく。
 大きく手を広げてその爆音に耐えていた月輪だったが、回路が耐えきれなかったのか内部で爆発を起こし、黒煙を上げて崩れ落ちていった。

 1体を倒せども、まだ火力となる日輪が残っている。
「撃ち貫く!! 天導流・絶掌」
 次なる敵を見定め、日輪へと迫った十六夜が全身を包むオーラ、『竜魔闘装【リンドブルム】』を高めていき、零距離で寸勁を打ち込む。
 日本刀『越後守国儔』へと持ち替えた鬼人は切り込みながら、相手へと問いかける。
「お前達の目的はなんだ」
「…………」
 全く応じぬ敵に鬼人は大きく孤を描いて、相手の体の繋ぎ目を断ち切る様に刃を振り上げる。
 それでも握りかかってくる敵をシィカが抑え、殺神ウイルスを投擲し、傷が塞がらぬようにしていく。
「皆のサポート、最高にロックデス!」
 シィカは後方からの支援が十分に行き届いていることもあり、壁役と攻撃に徹することができていたようだ。
 同じく、チームの盾となる雪。
 工場内部ではあるが、事前にスペースを確保したことで、戦場を駆け回るイペタムがスピンをかけて体当たりをしていく。
 手の形をした敵の足を止めるとは、なんとも違和感のある言い回し。
 バランスを崩す敵へと雪は燃え上がるブーツで蹴りつけ、日輪の体にグラビティの炎を燃え上がせる。
 しかし、そいつはやや無理な体勢からも雪の体へとつかみかかり、握力によってきしませた彼女の体を引火させた。
 そこで、箱竜クルルが属性インストールで癒し、フォンが光の盾を展開していく。
 仲間の傷の支援と強化に当たるフォンは仲間の体の炎が鎮火しないことを見て、ユリアへと視線を向ける。
「ん、お願いするの」
 オラトリオの彼女がオーロラの光を発したことで雪の体の炎が鎮火したのを確認し、フォンは更に仲間の強化へと当たっていく。
 レヴィンに施された強化は、妖精によって祝福された矢。
 相手の守りを打ち砕く力を得たレヴィンは、思い切ってガトリングガンを連射する。
 無数の弾丸に体を貫通された日輪。
 体を完全に破壊され、機能を停止させたそいつは横倒しになって崩れ落ちていく。
 敵を倒したことよりも、レヴィンは大好きな銃を思いっきり発砲したことが嬉しく、恍惚とした表情を浮かべていた。

 残るは、後方の両手。
 相手の攻勢が削がれていく中、メンバー達は回復役の月輪に攻撃を集中させていく。
 纏うオーラコートを鋼の鬼と化したウルトレス。
 彼はベースのネック先端を突き入れるようにして攻撃していくと、相手の装甲がボロボロと崩れかける。
 強敵ではあるが、やはり量産型。
 モデルタイプである日輪、月輪に比べれば、やはり耐久に難がある為か攻めやすい相手だ。
「貫くは己の信念、穿つは悪しき妄念……」
 クリムは己の槍を媒体とし、巨大な魔力の槍を形成して。
「我が敵を突き抜けろ、ルーン・オブ・ケルトハル!」
 一気に投擲して相手の手のひらを貫くと同時に、クリムは魔力を炸裂させた。
 そいつは己の手前に展開させた氷の壁によってダメージを軽減させていたが、もはや虫の息。
 そこへ、日本刀「越後守国儔」を抜いた鬼人が接敵して。
「……刀の極意。その名、無拍子」
 無駄のない極地の技で剣戟を浴びせかけ、彼は相手の体を切り裂く。
 先に指2本が地面へと落下し、それを追うように本体も地面へと倒れていった。

 残りが日輪1体となれば、ケルベロスも後は畳みかけるだけ。そいつが平手打ちを食らわせてくるのも、今更な状況だ。
 資材を奪わせず、後退もさせぬよう鬼人は注意深く敵の行く手を遮る。
 その中で、レヴィンは再び、嬉しそうに竜鎚から砲弾を発射していく。
 僅かに動きを止めた敵目掛け、燃え上がるイペタムが突撃していくと、雪がその衝突の後に炎を伴う一蹴を叩き込む。
 それに合わせ、シィカもまたロックに燃え上がる蹴りで追撃していた。
 炎に塗れ、態勢を崩しかけた敵を直視した十六夜は一度納刀し、瞬歩で相手と間合いを詰めて。
「戴くぞ、貴様の業……天導流神殺し、血神蓮華」
 神刀『神裝【布都御魂】』を抜刀し、居合で日輪へと連撃を浴びせかけていく。
 それらの全ての斬撃は、計算されて繰り出されている。
 相手の体から溢れ出す炎が満開の蓮華となったところで、十六夜は納刀して。
「……散華」
 炎の蓮華が全て鎮火し、火の粉が霧散していく。
 それと同時に、日輪は天を仰ぐように倒れていったのだった。

●修復して工場見学
 全てのダモクレスが崩れ落ちたのを確認し、十六夜は殺意を少しずつ抑え始めて。
「皆、お疲れ様」
「ええ、お疲れ様。手当てしましょうね」
 ユリア絵が微笑み、十六夜の傷を癒す。
「……資材は奪われなかったけど、ぶっ壊れたりもしてねぇよな?」
 雪が工場へと被害を確認したところ、精々外壁が破壊された程度のもの。
 クリムがドローンを飛ばしていたところ、シィカはギターで楽しげに演奏し、それらを幻想交じりに修復していたようだった。
 一通り恋人からもらったロザリオに手を当て、無事に終わったことを祈っていた鬼人。
「……ああ、問題ない。資材は無事だ」
 状況確認後、彼は工場の管理者へとそれを報告する。
 その後、鬼人はウルトレスが調べていたダモクレスの残骸へと近づく。
 生体部分が作られたものか、それとも組み込まれたものなのかと確認していたところ、正体不明のコギトエルゴスムを発見した為、2人は回収することにしたようだ。

 事後処理も終わる頃には、従業員が戻ってくる。
 パソコンの生産ラインが動き出したことで、メンバー達は折角だからと工場見学させてもらうことにしていた。
「ん、すごいの」
 ベルトコンベアで運ばれてくるノートパソコン。
 その内部が少しずつ組み上がっていくのがわかり、フォンは目をしばたかせつつ感嘆してそわそわとしていた。
「製品自体も勿論凄いけど、製品を組み立てたり、検査する機械も凄いよなー!」
 そのフォンに応じていたのは、戦闘が終わってゴーグルを外していたレヴィンだ。
 彼もまた、思わぬ動きをする機器に少年のように目を輝かせていた。
 一方で、レプリカントであるウルトレスは、違った見方をしていて。
(「かつて自分もダモクレスとして、こんな工場で作られたのだろうか?」)
 彼はしばし、物思いに耽っていたようだ。
 程なく、完成していくノートパソコンの数々。
 組み上がるその工程を一通り目にし、製品チェックの為に電源が入るその商品に小さく唸って。
「……高度な技術は魔法と区別が付かない、か」
 魔術を使うクリムだが、機械の緻密さこそ本当の魔法のようだと感じてしまうのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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