略奪の鉄腕

作者:坂本ピエロギ

 歯車の噛みあう音が響く暗い部屋で、ひとりの女性が物思いに耽っていた。
 女性の名はジュモー・エレクトリシアン。
 かつてドレッドノート戦でケルベロスと刃を交えた指揮官の一人である。
「ケルベロスたちは今、急速に進化しています。最早その力を、無視できない程に……」
 ジュモーは語り掛けるような口調で、掌のコギトエルゴスムを見つめた。
 宝瓶宮グランドロンの宝――これを入手するのに、どれ程の犠牲を払ったことだろう。
「私たちにも進化が必要なのです。滅亡という未来を回避するための進化が」
 そう言って瞑目するジュモーの脳裏に蘇るのは、ここ数ヶ月の間に自分たちが積み重ねた苦い敗北の記憶だった。
 クロム・レックと運命を共にしたディザスター・キングと麾下の兵士たち。
 そして終末機巧大戦とリザレクト・ジェネシスで死んでいった数多くの同族たち。
 彼らのためにも、このコギトエルゴスムは無駄に出来ない。進化できない生命には、滅び絶える以外の結末は待っていないのだから。
「貴方を活用させてもらいましょう。私たちの進化の為に」

「お、おい! 何だあれは!」
 夕刻のコンビナートに、工場作業員の悲鳴が響いた。
 彼が指さす先、フレアスタックの炎が照らし出すのは空飛ぶ4本の機械腕。くすんだ褐色のカラーリングで統一された、ゴーレム生命体のような滑らかなフォルム。
 新たな生命体へと変化を遂げた『攻勢機巧』日輪と『防勢機巧』月輪の姿であった。
『目標地点に到達。これより資材の収集を開始する』
 ダモクレスたちは冷酷にそう告げると、破壊の嵐でコンビナートを包み込んでいく。
 掌で光るコギトエルゴスムで工場をくまなく照らしながら、略奪者たちは逃げ惑う作業員を虐殺し、工場の資材を次々に奪い去っていくのだった。

「皆さん、招集に応じて下さり感謝します。先程、リザレクト・ジェネシスの追撃を逃れたダモクレス『日輪』と『月輪』が、工場を襲撃する未来が予知されました」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はケルベロスたちをヘリポートに迎え入れると、緊迫した表情でそう告げた。
「『日輪』と『月輪』は工場の従業員を殺害し、工場の資材を根こそぎ略奪しようと目論んでいるようです。予知の情報によって従業員の避難は完了していますので、皆さんは現地に向かい、襲撃してくるダモクレスを残らず撃破して下さい」
 ムッカいわく、日輪と月輪は、これまで戦った個体とは異なる点が見られるという。
 腕のカラーリングはくすんだ褐色へと変わり、その腕部はゴーレムのような生命体を思わせるフォルムに変わっている。戦闘能力に大きな変化はないようだ。
 一体なぜ、そんな変化が起こったのか?
 首を傾げるケルベロスにムッカが告げたのは、彼らを驚かせるものだった。
「ダモクレスたちの体には異種族のコギトエルゴスムが埋め込まれています。それも恐らく、グランドロンに封印されていた妖精族のコギトエルゴスムです」
 残念ながら、この妖精族に関する情報は、予知からは得られなかったようだ。
 彼らがどんな姿なのか、どんな名前なのか、現時点では何ひとつ分かっていない。
「これまでに回収された二種族――タイタニアとセントールのコギトエルゴスムは本部で解析に回している最中です。今回の戦闘終了後に発見したコギトエルゴスムについても、回収を行っていただくようお願いします」
 ムッカはケルベロスたちに一礼すると、話の最後を締めくくった。
「日輪と月輪を撃破し、彼らの資材収奪を阻止し、コギトエルゴスムを回収する……困難な戦いですが、皆さんならば出来ると信じています。どうかよろしくお願いします」


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
咲嶺・麗華(天空に咲き佇む白銀の姫騎士・e18276)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
朧・遊鬼(火車・e36891)

■リプレイ

●一
 ヘリオンから降下して海沿いの道路を行くこと数分。
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)らが工場の門を潜ったのは、夕陽が水平線に足をつけた頃だった。作業員たちの気配はすでになく、あちこちに点された照明灯が、場内を縦横無尽に走るパイプラインを浮かび上がらせている。
「おー、丈夫ないい工場じゃねえか」
 海に面した化学工場を眺め、広喜はニッと無邪気な笑顔を浮かべた。
 かつて建造物破壊用ダモクレスだった彼にとって、建築物の構造解析はお手の物。修復を込みで考えても、戦闘の被害は少ない方が良い。被害を少しでも軽く抑えられそうな場所を探し出すと、広喜は仲間と迎撃準備を整え始めた。
「今日の敵はデカブツ揃いらしいな。全部ブッ壊して、妖精たちも助け出そうぜ!」
「そうだな。しかしドリームイーターと螺旋忍軍に続き、ダモクレスまでもが……妖精族を悪用する勢力は後を絶たんな」
 朧・遊鬼(火車・e36891)はパイプラインに飛び乗ると、夕日の彼方に映る4つの影に目を凝らした。
 一直線にこちらへ向かってくる機影は、日輪と月輪に間違いない。数分もしないうちに、戦闘が始まることだろう。
(「来い、ダモクレス。地獄の炎で焼き尽くしてやる」)
 資材防衛はもとより、敵の糧とされた妖精が悪用されるのを見過ごす気は遊鬼にはない。デウスエクスの計画は、残らず挫く心算だ。
「久しぶりの戦場ですね……頑張ります!」
 咲嶺・麗華(天空に咲き佇む白銀の姫騎士・e18276)はそう言って、いつでも仲間たちの回復に動けるよう、惨劇の記憶から魔力を抽出する準備を始めている。
 初陣を飾った先の戦いでは多くの教訓を得た。同じ過ちを繰り返さないよう自らに言い聞かせ、迫りくる敵を真正面から睨みつける。
「皆様、よろしく。絶対に負けられませんわ!」
 戦闘モードに入り、口調を一変させる麗華。そんな彼女と仲間たちを、日輪・月輪も捕捉したらしい。変貌を遂げた体で宙に浮かびながら、みるみるケルベロスに迫ってきた。
 丸みを帯びた流線形の指先。生物のような滑らかな動き。くすんだ褐色の掌を、朧に輝くコギトエルゴスムの光が照らす。
「あれこれと、手の尽きないことね」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)はそれを見て、蔑みを込めた声で言った。
「妖精たちを取り込んで、地球の資材を奪って……寄生虫か何かかしら」
 そう言ってアウレリアは、夫のビハインド『アルベルト』と共に、愛銃の銃口を月輪へと向ける。
 侵略者に渡すものなど何一つない。一機とて逃がす気はない。
 ただ一秒でも早く殲滅するのみだ。
「Etre surpris……きっとジュモーお母さまですわね。お変わりないようですの」
 一方でシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)は、どこか懐かしさを込めた目でダモクレスたちを見上げている。
「些か心苦しくはありますけれど……戦いとなれば容赦しませんわよ?」
 攻性植物『ヴィオロンテ』で四肢を囲いながら、シエナはにっこりと微笑む。分別のないきょうだいたちに、お仕置きを与えるような笑顔だった。
 対照的に、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)の浮かべる表情は苦い。
 脳裏に蘇るのは、かつてクロム・レック探索で日輪と刃を交えた記憶。傷つき、追われ、暴走した仲間たちを置いて泳ぎ続けた海の冷たさは、忘れようにも忘れられない。
「日輪、月輪……随分様変わりしてしまったな」
「ええ。私たちが海の底でお会いした機体とは別でしょうが……」
 それは彼と同じ作戦に参加していたアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)にとっても同じだった。
 ダモクレスたちは進化の力を得ても、その手を奪い取ることにしか使えないのだろうか。アリッサムはふと、寒い風を浴びたような寂しい気分になる。
(「彼らにも他人の命と寄り添い、支え合い、慈しみ合う進化を選んで欲しかったです」)
 アリッサムは祈りを終えて、縛霊手を装着した。ここからは戦いの時間だ。
 灼熱の炎を迸らせる日輪。氷結の冷気をギラつかせる月輪。
 全てを奪おうと襲い掛かるダモクレスを、ケルベロスは迎え撃つのだった。

●二
『敵性勢力を発見。ケルベロスと断定』
『これより排除を開始する』
 日輪と月輪は一斉に手を広げ、炎と氷の波動を浴びせてきた。
 狙いは前衛のようだ。とっさに機理原・真理(フォートレスガール・e08508)と相棒のライドキャリバーが、広喜と遊鬼を庇う。
「プライド・ワン、反撃ですよ! 必ず勝ってみせるのです!」
 真理は盾の兵装を重火器へと交換し、アームドフォートの主砲を発射した。
「どんな想いで、どんな手段で強くなっても、負けるわけにはいかないのです!」
 狙いは月輪の隊列だ。茜色の空を震わせる着弾の衝撃音に混じって、エンジンをふかしたプライド・ワンが炎をまとって日輪めがけ突撃。敵を業火で焼き焦がす。
 しかし、敵はリザレクト・ジェネシスを生き延びたダモクレスたちだ。量産型とはいえ、この程度で怯むような相手ではない。
 無論レッドレークもそのことは承知だ。彼はロケットランチャー型に変形させた赤熊手の照準を日輪に合わせ、轟竜砲でその機動力を奪いにかかった。
「強くなるための進化か。どうやら奴らは、大事なことを見落としているようだ」
「大事なこと、ですか?」
 縛霊手から発射する光弾を月輪めがけ打ち込みながら、アリッサムは首を傾げた。
 レッドレークは竜砲弾を発射し、直撃を受けて吹き飛ぶ日輪を凝視しながら答える。
「我々も進化しているということだ。あの時よりも、ずっと」
 目の前のダモクレスに怨恨はないが、地球を襲うならば容赦する気はない。
 大事な人と手を結び、そして守るために、レッドレークの手はあるのだから。
「貴様らの進化はここで行き止まりだ。グラビティ・チェインも、工場の資材も、何ひとつ奪い取れぬまま、ここで墜ちろ!」
『排除行動を続行する』
 返答替わりに紅蓮のコロナを放つ日輪。パイプを溶断する高熱を浴びてジグザグの傷跡を刻まれるのも構わず、拳を振りかぶって広喜が跳ぶ。
「へへ、量産型どうしブッ壊し合おうぜ!!」
「お怪我は平気ですの!? 今回復しますわ!」
 麗華のゴーストヒールを浴びて、広喜の炎は一瞬で掻き消えた。
 そして振り下ろされる、濃密な重力を帯びた蒼炎。『抉リ詠』の一撃を、あらん限りの力を込めて叩きつける。
「直せねえくらい、壊してやるよ!」
『――!!』
 指を砕かれ、悲鳴をあげる日輪。
 それを見た月輪たちは攻撃をやめてヒールグラビティを浴びせるが、日輪の浴びた炎は、しつこく傷口にとどまり続けて治癒を妨害する。
『修復データ、シーケンスチェック開始――』
「貴方たち、余所見をしている暇があるのかしら?」
 再度回復を試みる月輪をグラインドファイアで焼きつつ、アウレリアは艶やかに笑う。敵の連携を引き裂くように、アルベルトの金縛りで日輪を捉えながら。
「何も掴ませず、このまま鉄屑にしてあげるわ」
「そういうことだ。その守りを、砕かせてもらう!」
 音速の拳で日輪の保護を打ち砕きながら、遊鬼はナノナノに指示を飛ばした。
 敵の連携を分断することには成功したが、日輪の火力に味方の回復が追いついていない。
 せめて片方。日輪の片方を落とすまででいい、前衛のダメージを抑えたかった。
「ナノナノばりあだ、ルーナ! 皆を守れ!」
 ルーナはウインクを返すと、日輪の指から尖った尻尾を引き抜いて、ハート型のバリアで味方を覆い始めた。
 そこへ迫る2体の日輪。させじとシエナがアンクを叩きつけ、日輪の指を咬み千切る。
「このアンクは特別製ですの。見くびっていると、骨も残りませんわよ?」
 日輪たちは狙いをシエナに切り替えた。同時に掌から発射される熱波から、アウレリアと真理が身を挺してシエナを庇う。
 凍てつく寒波で追撃を試みる月輪。しかし、真理とアリッサムのパラライズ効果によって1体が攻撃に失敗する。
「いい調子ですね。もっと痺れるのですよ!」
「アウレリアさん、今のうちに回復を」
 ミサイルポッドから一斉発射した弾幕を張り、月輪の隊列を妨害する真理。息を合わせ、暴走ロボットのエネルギーを撃ち込んで加勢するアリッサム。
「ありがとう、助かるわ」
 アウレリアはシャウトを飛ばし、仲間を庇ってできた傷を癒した。体力は半分以上残っている。まだ暫くは戦えそうだ。
 集中砲火を浴び、回復を阻害された日輪は、体のあちこちから煙を吹いている。だが、ケルベロスたちは決して攻め急ぐことなく、慎重かつ着実に戦いを進めていく。
「根を張り、奪い、爆ぜろ!」
 BS耐性の保護が残る日輪めがけ、攻性植物『真朱葛』の胞子をばら撒くレッドレーク。
 機体に取り付いた火花形態の花冠が一斉に花開き、BS耐性の保護を吹き飛ばした。そこへコンビネーションを発動したシエナが、ヴィオロンテをけしかける。
「Dommage……逃がしませんの」
「こいつで終わりだぜ。あばよっ!」
 装着した警棒を、広喜がブンと振り下ろす。日輪は断末魔のような軋みを上げながら地面に激突し、すぐに動かなくなった。
「力を借りるぞ、ルーナ。今度は俺たちが攻撃する番だ」
 エクスカリバールに注がれる、ルーナの癒しのオーラ。
 そこへ遊鬼は地獄の炎を混ぜ合わせ、日輪へと跳びかかる。
「小さな花とて侮るなよ? ……さぁ、咲き誇れ」
 振り下ろされるエクスカリバール。『【妖精遊戯】梅鬼』のグラビティが日輪の傷口から白い梅花を咲かせ、治癒を阻害する火の粉を散らしながら、反撃の狼煙をあげるのだった。

●三
 夕陽が沈み、照明灯が照らす夜の工場で、ケルベロスとダモクレスの戦いは続く。
 残る1機の日輪は火力を担う広喜と遊鬼、そしてレッドレークの攻撃を浴び続け、次第に傷を増していった。
 しかしケルベロスもまた、無傷の者は一人もいない。
 敵の連携を分断するために火力を分散し、日輪の撃破に時間をかけたことで、前衛の体力は容赦なく削り取られていく。
 何度目かの撃ち合いの果て、満身創痍の日輪が紅蓮の光線を発射し、遊鬼を庇った真理が膝をついた。あと1発、直撃を受ければ倒れてもおかしくない状態だ。
 真理は歯を食いしばり、両手にヒールグラビティを集中し始める。
「……まだ、戦えるのですよ……!」
 両手の指先を変形展開。10種類の最先端医療器具が、真理の擦れた外皮を、火花を吹くパーツを、精緻な手つきで塞いでいく。
『攻撃目標を変更――』
「へへっ。誰を狙うって、おい?」
 好機とみた日輪が、更なる攻撃を試みた。そこへ広喜が、パイプを足場に跳ぶ。
「壊れるまで戦うのが、量産型の任務だよなあっ!」
 重機のごとき体躯から抉リ詠の拳が降り下ろされ、日輪の親指が折れ曲がった。
「レッドレーク!」
「ああ、任せろ」
 レッドレークが赤熊手を担ぎ、噴射力で宙へと飛びあがる。
『機能……低……下――』
「有機的進化のついでに、『心』も得られれば良かったのにな」
 速度と重力を込めて振り下ろされる赤熊手。
 日輪は破片をまき散らしながら地面をのたうち回り、やがてその機能を永久に止めた。
「此処は貴方たちの袋小路。死出の旅路に向かう一方通行よ」
 パラライズを振り切って、氷結の波動を放つ月輪。それをアウレリアは一手先んじ、敵の指先を狙ったクイックドロウの銃弾で波動の威力をそぎ落とす。
 月輪の攻撃が後衛に押し寄せる。レッドレークを庇ったアウレリアの負傷が深いことを見て取ったアリッサムは、回復のフォローに回った。
「麗華さん、手伝います」
「はい……っ! 感謝いたしますわ……っ!」
 麗華は汗と血でぐしゃぐしゃに顔を汚しながら、一歩も引かずに回復の魔力を抽出し続けていた。アリッサムは火傷を負った顔で麗華に微笑み、花言葉の御呪いを唱え始める。
「大丈夫。もう一息、頑張りましょう」
 『花獄の舞~瑠璃唐草~』。巫女の舞を捧げるアリッサムを暖かい光が照らし、一面の青がアウレリアを包んでいく。
「”可憐”な青は、幸福の兆し。困難を乗り越え、”どこでも成功”です」
 傷を癒し、立ち上がるアウレリア。
 シエナはヴィオロンテに命じ、攻性捕食の一撃で鋼の指を齧り、毒を注ぎ込む。
「Salut……これで、お別れですわ」
『ダメージレベル上昇中……危険……』
「とどめだ!」
 内部構造を侵食され悶える月輪めがけ、遊鬼はエクスカリバールを投擲。回転するバールが命中し、派手な音を立てて月輪を撃墜した。
「暴れないで欲しいのですよ。中の妖精さんを、傷つけたくはないのです!」
 真理が最後の月輪を狙って、改造チェーンソー剣を抱えて迫った。チェーンソーを振るい、外装をはぎ取る。露出した機械部分をワイヤーのように絡めとったのは、レッドレークの真朱葛だ。
「月輪。ひとつ尋ねる」
 直撃を受けた月輪を容赦なく締め砕きながら、レッドレークは問うた。
「貴様らの手は、何のためにある? この美しい世界を、人々を傷つけるためか?」
『排除……排除す……る……』
 冷たい光を掌に湛え、最後まで攻撃を試みる月輪。
 敵が返した言葉に、レッドレークは餞の言葉を送る。
「さらばだ。手を取り合えなかったこと、残念に思うぞ」
 ギギギ――ガシャン。
 ひしゃげた音が工場に響いたのを最後に、月輪は活動を停止した。
「み、皆さん! 大丈夫ですか!?」
「このくらい平気なのです。支援、助かったのですよ」
 慌てて仲間たちに駆け寄って、ゴーストヒールをかけて回る麗華。口調の戻った彼女を、真理は笑顔で労った。
「よしっ! 俺たちの勝ちだぜっ!」
「ああ。お疲れ様だ」
 手を掲げて駆け寄る広喜と掌をぶつけ合うレッドレーク。
 二人の鳴らすハイタッチが、ケルベロスの勝利を告げた。

●四
 工場の被害は、幸いにして軽微で済んだ。
 修復を終えて程なく、ケルベロスたちはダモクレスの死骸からコギトエルゴスムの結晶を無事に回収することに成功した。
「無事でよかったのです。巻き込んでしまって、ごめんなさいなのですよ」
 謎に包まれた妖精の結晶を月の光にかざし、真理はそっと語りかけた。
「貴方は、私たちの敵になるのでしょうか? それとも……」
 ふと見ればアリッサムとアウレリアも、コギトエルゴスムを静かに眺めている。
「……これも新たな妖精族なのでしょうか?」
「ええ、恐らくね。どんな方たちなのかしら」
 回収した4つの結晶は本部で解析が行われる事だろう。彼らが眠りから目覚める日は来るのか、ケルベロスとどのような関係を結ぶのか……その答えが出る日は、きっと近い。
「Bonjour……妖精さん、ようこそ地球へ」
 シエナはそう言ってお辞儀をし、仲間たちと帰路に就く。
 妖精たちと分かり合う日がくることを、心から祈りながら――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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