シュヴァルツ・ブルグ

作者:秋月きり

 ぐしゃり。
 叩き潰した現地人の身体は温かく、ぬるりとした液体が手甲を朱に染める。幾多の戦場を渡り歩いてきたエインヘリアルの彼に、それは慣れ親しんだ光景であった。
「ふん。詰まらんな」
 甘露な蜜の如き芳醇なグラビティ・チェインで乾きを癒やしながら、しかし、男はつまらなそうに鼻を鳴らす。地球に送られてきて早数刻。男の行動はしかし、ただの虐殺に留まっていた。
 逃げ惑うだけの地球人を殺し、憎悪と拒絶を振りまくだけの仕事。グラビティ・チェインの潤い以外、男を奮わす要素は無い。
 これでは『上官殺し』の罪名も、『黒き壁』と呼ばれた自身の二つ名も、何より、この身に纏う星霊甲冑が泣くというモノでは無いか。
「これで恩赦を気取るつもりか……」
 体躯の良い地球人を斧の一太刀で斬り伏せながら、ぎりりと歯噛みする。
 苛立ちは、地球人の血如きでは拭えそうになかった。

「エインヘリアルによる虐殺事件を予知したの」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉に、ヘリポートに集ったケルベロス達の顔色が変わる。とりわけ、それが顕著に表れたのは鹿目・きらり(医師見習い・e45161)だった。
(「やっぱり……」)
 過去の戦いを通じ、エインヘリアルに警戒を抱いていた彼女にして、この邂逅は必然。
 もしもこれを運命と呼ぶのであれば、おそらく、そうなのであろう。
「予知に出てきたエインヘリアルは過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者で、憎悪と拒絶をもたらす命令を受けている様子。もちろん、人々の命が脅かされている実情も、無視するわけに行かないわ」
 都内の繁華街、それも日中の人通りが多い時間帯、と言うロケーションは多くの犠牲者を生むのに、あまりにも舞台が整い過ぎていた。
 急ぎ現場に向かい、これを撃破して欲しい。
 リーシャの言葉に、きらりは強く頷く。
「みんなの標的はエインヘリアル一体のみ。配下とかはいないから、純粋のその撃破だけになるわ」
 身長3メートルの体躯。並びに黒い星霊甲冑とバトルオーラを纏い、手にはルーンアックスを握っている。現地にさえ到着してしまえば、一目で看過出来るだろう。
「考えないと行けない事は二つ。人々の避難誘導をどうするか。そして、エインヘリアルをどう撃破するか、よ」
 聞けば、永久コギトエルゴスム化の刑罰に処される前は、防御に長けた戦士だったと言う。身に纏う恩恵もディフェンダーと言う事から、それは強く窺い知れた。
「となりますと、持久戦は不利になりますね」
 炎や氷、毒などのバッドステータスを頼りに少しずつ敵を削る戦いは、彼のエインヘリアルに対して効果が薄いようだ。
「そうね。バトルオーラによる治癒も考えると、装甲すら破壊する高い攻撃力での一点突破を行うべきと思うわ」
 ヘリオライダーの賛同は何処か心地よく、きらりはにふりと目を細める。
「凶悪なエインヘリアルを野放しにするわけに行かないわ。如何に高く堅い壁だとしても、それを乗り越える力がみんなにはあるって、思い知らせて上げて欲しいの」
 リーシャの激励はいつも通りに。故にきらりは是の言葉を持って応じる。
「それじゃ、いってらっしゃい」
「行ってきます!」
 それは、静かな決意と共に紡がれていた。


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)

■リプレイ

●バッティング・ラム
 鉄の臭いと悲鳴と怒号。それが戦場の全てだった。
 世界は侵略者――デウスエクスに狙われている。故に、この世界はいつ何時、戦場と化しても不思議は無い。それが理。それがこの世界の掟。
(「そうだとしても……」)
 痛みを覚える胸を押さえ、鹿目・きらり(医師見習い・e45161)は嘆息する。
 そうだとしても、無辜の人々が犠牲になる謂われなど無い筈だ。
「大丈夫です、皆さん! 私たちはケルベロスです! 皆さんを守りに来ました!」
 故に鼓舞の声を張り上げる。傍らでサターンが猫らしい鳴き声を奏で、その声は喧噪を掻き消すよう、拡がっていく。
「ケルベロスだぁ?!」
 喜色混じりの声が上がったのは逃げ惑う地球人からではなかった。
 鉄色の星霊甲冑を纏うエインヘリアルは、兜の下の口元をにやりと歪める。口元だけの破顔は、間違いなく笑みであった。
「ドーモ。初めまして。黒き壁=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
 エインヘリアルの正面に立ち、合掌を以て迎える忍びの名はクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)。ぴっちりとした忍び装束が惜しげも無く強調する豊満な肢体は、彼女が成熟した女性である事を十二分に伝えていた。
「弱者をいたぶる事しか出来ないゲスで無いと言うのであれば、拙者達とイクサを致すでござる」
 挑発めいた言葉と共に放たれた苦無――クナイ・ダートはしかし、手にした斧に弾かれてしまう。
 にぃっと笑うエインヘリアルに、しかし、クリュティアもまた、肉食獣の笑みで応戦する。今のはほんの小手調べ。挨拶代わりの一撃だった。
 そこに駆け寄る影があった。ケルベロスが一人。柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)だ。
「俺はオウガ、柴田・鬼太郎! ようデカブツ、でけえが昔の俺ほどじゃねえな。戦人以外の格下相手にいきってるだけじゃ詰まらねえだろ? 俺らケルベロスが相手になってやるよ!」
 宣言と共に振り下ろされた鋼の拳は、彼の背から生えた触腕であった。
「オウガメタルか!」
「応ともよ。行くぜ、鬼金! 虎!」
 共に戦場を駆け巡る相棒の名を呼ぶ彼の姿に、エインヘリアルはほぅっと溜め息じみた感嘆を零す。周囲に弾ける色取り取りの爆煙は、彼に寄るモノと行ったところか。
 周囲を見渡せば、エインヘリアルを囲む影は二人三人だけでは無い。現地人を鎮めたオラトリオを始め、声高に名乗ったシャドウエルフやオウガ。そして。
「我はヴァルキュリアの戦士、エメラルド!  『上官殺し』『黒き壁』、貴様の狼藉を許す事は出来ん。大人しく我々の指示に従う気はあるか!」
「裏切り者に従う理由はねえな!」
 高々と宣言するエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)に不遜の声を上げる。
 種としての矜持を持ち出すつもりは無いが、それでもヴァルキュリア如きに従う義理など持ち合わせていない。
 繰り出された電光石火の突きを籠手で弾きながらの台詞に、エメラルドは何を思うのか。苦虫を噛み潰した様なそれは、彼女の凄惨な過去を物語る様でもあった。
「そう、我らの仲間を虐めてくれるな。エインヘリアルよ」
 諫める様に飛び出してきたのは白銀の蹴りだった。
 飛び退き致命打を避けたエインヘリアルに、蹴りの主はくいっと片手を折り曲げ、挑発の言葉を口にする。
「お前の鎧が飾りでないと証明したいなら私達と戦え」
「いいだろう。元よりそのつもりだ。ドラゴニアン!」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)の挑発への呼応は、明らかな怒号だった。
 主人に付き従うテラもまた、怒号に威嚇を以て応じる。
「やれやれ。随分と辛気くさい面だな」
 揶揄の言葉はフィストの傍らに立つヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)から。台詞と共に撃ち出した鉛弾は鋭い音と共に星霊甲冑の表皮を削り、火花を散らす。
「その鎧もただの飾りじゃつまらんだろう」
「ぬかせ」
 挑発には挑発を。銃弾には斧刃を。ヴィクトルに振り下された一刀はしかし。
「させま……せんっ!」
 横合いから割り込んだきらりの薙刀で防がれてしまう。ガチリと響く金属音は刃と刃が重なった音だった。
「ほう。その細い身体で我が一刀を止めるか。オラトリオ!」
「へっ。戦闘狂め!」
 エインヘリアルが抱く感情は、まさしく悦楽だった。
 二度目の攻撃を叩きつけるべく、鬼太郎もまた、同じ表情を浮かべ、それに応じるのであった。

「さて。そろそろ始めるとするか」
 短くなった煙草を踏み消したエリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)は、肺腑に残った紫煙をふぅっと吐き出すと、声を張り上げる。
 既にエインヘリアルの意識は仲間達――6人のケルベロスに向けられている。一般人に害を及ぼす事は無いだろう。
 だが、それでも、ここにいる誰もを傷つけさせない。それが彼らの望みだった。だから。
「皆はこっちだ。ちっと暴れさせて貰うんで、離れたところで応援してくれ!」
「彼らはケルベロス! それもトップクラスの連中だ! 皆を――私たちを信じて、出来る限り急いでここから逃げてくれ!」
 援護射撃はフレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)から放たれる。
 それを受け、彼らが戦場に留まる理由は無い。
「お願い!」
「頼んだ!」
「がんばえー。けるべろすー」
 老若男女問わない声援は、去りゆく人々から向けられたモノ。それを受けて、彼らが奮い立たない理由はない。
「ええ! 任せて!」
 応じるフレイアの表情は満面の笑みで、それ故、人々も安堵と共に戦場から離脱していく。
「さて。俺らも邪魔くせえ壁に立ち向かうとするか」
 傍らのロキを撫でながら、エアリスの視線は、戦音奏でる6人と1体に向けられていた。

●鉄の城はそびえ立つ
「ク、ハ」
 喜色混じりの吐息は鉄の響きと共に。
 斧の一撃を鋼の拳で受け止めた鬼太郎はしかし、対照的な呻き越えを零してしまう。
(「重ぇ」)
 本当にこいつの纏う加護がディフェンダーなのかと疑いたくもなってしまう。それ程、彼の攻撃は強く、そして重かった。
「『黒き壁』とはよく言ったもんだな!」
 堅く鋭くそびえ立つ様は確かに壁だ。否、壁よりも砦壁、城塞であった。
 だが、それは蹂躙の理由にならない。強さは認めよう。だが、それが何もかもを恣にする免罪符にされてたまるか!
「てめぇ如きに鬼ヶ城が崩せるか?」
 仲間と合流したエアリスは、故に猛る。
 仲間を癒やし、防御を固めるのは、今の彼の矜持だ。それに堅さは彼奴の専売特許とも断ずるつもりも無い。
 ウイングキャットのロキもまた、短い鳴き声と共に、エインヘリアルへリングを飛ばす。斧のルーンを梳る一撃に、顔を歪めたのはエインヘリアルだった。
「やはりな! 堅くとも傷を負わんわけじゃねぇ!」
 虎のひっかき攻撃を背景に、自身の傷口を文字通り吹き飛ばしながら、鬼太郎は吠える。
 仲間達の攻撃は、そしてそこに込められたバッドステータスは確実にエインヘリアルを蝕んでいっている。
(「だが……」)
「舐めるな! 地球人共が!!」
 ヴィクトルの独白と、エインヘリアルの咆哮が重なる。刹那、エインヘリアルの身体を覆った治癒の闘気は、彼の身体を覆う不利益を弾き飛ばしていた。
(「ヘリオライダーの予知で判っていたことだけどな」)
 獣化した拳を叩き込むヴィクトルはしかし、己が付与した重圧を掻き消されていく様に落胆を禁じ得ない。
 敵が防御に自信を持っているという事は即ち、自己回復も多様すると言う事。ならば、敵が纏うバトルオーラは治癒に特化した物か。
「ならば!」
「回復を上回る攻撃を重ねるまで!」
 フィストの虚無、重なるテラの爪撃、そして、一人と一体に続くクリュティアの弧を描く斬撃からなる三条の攻撃は星霊甲冑を切り裂き、血をしぶかせる。
 だが。
「軽いな! ケルベロスが!」
 ふんと鼻で笑われてしまう。
 軽い。その言葉にフィストは臍を噛む。
 クリュティアが纏う加護はスナイパー、そして自身とテラの纏う加護はキャスターだ。高い命中力を誇るスナイパーが攻勢に転じるのは高いクリュティアの技量においても数割の確率。自身の纏うキャスターにダメージへの補助は無く、ましてこの身は使役者としての制約を受ける身。故にエインヘリアルの唾棄は正しいと言わざる得ない。
「ならば我が一撃はどうだ!」
 空気を裂く電光の一撃はエメラルドから。
 紛れもない雷――神鳴りの一撃に、「ぐがっ」と短い悲鳴が零れる。
「甲冑には電撃がよく効く――と言う事は無いだろうがな!」
 自身の魔力にクラッシャーの加護を上乗せした結果だ。ヘリオライダーの弁にあった破城槌としての役割は申し分ないだろう。
 重なるフレイヤの一刀は、紫電弾ける表皮毎、星霊甲冑の装甲を剥いでいく。
「聖なる力よ、天啓よ、私の力となり敵を貫きなさい!」
 連なる光条は、きらりの放つ聖光だ。杖、薙刀、そして彼女自身から放たれた光が貫くのは星霊甲冑の破砕部のみでは無い。鎧に覆われた皮膚すら焼き、辺りに焦げた臭いを立ち上らせた。
「サターン! お願い!」
 ひるむ暇はサーヴァントの為。主人の命を受け、サターンは短い声と共に清涼な風を前衛に届けていく。
「――少しはやると褒めてやろう」
 巨壁は立ち塞がり続ける。
 それを体現するかのように、エインヘリアルは獰猛な笑みを浮かべた。

●シュヴァルツブルグ
 鉄と鉄が打ち合う音が響き、詠唱が、それに伴う魔力の迸りが自身の敵を打ち砕いていく。
(「嫌な予感はしたんだがな」)
 ヴィクトルは嘆息する。
 戦いは長期戦――泥沼と化していた。当然だ。守りを主軸とする敵に対し、自身らが用意した攻撃手は2名。スナイパーの加護を纏うクリュティアは数撃に一度、ダメージ増大の恩恵を発するが、回数が少なければ然程の驚異になり得ておらず、鬼太郎やエアリスのサーヴァントは言わずもがな。そもそも一般のケルベロスと比較すれば、サーヴァントの攻撃は低くなってしまう。
(「もう一人、クラッシャーがいれば……」)
 エメラルドの内心は複雑だった。
 破城槌。ヘリオライダーによる助言の指し示す先が攻撃特化であったのは間違いないだろう。
 だが、だからと言って誰が皆を責められる?
 減衰と言う枷を考慮すれば、三名にクラッシャーを託す行為――即ち、ディフェンダーを二名にまで減らす策など狂気の沙汰だ。よしんば、減衰を無視して前衛を厚くしても、エインヘリアルの能力は全て対単騎向け。減衰は自身らの不利にしかならない。
(「だけども……」)
 きらりは息を整えながら独白する。
 安全を優先する事も策の一つ。
 だが、この世界で何かを成した者の須くは、賭けに打ち勝ったからこそ得るものがあった。それも事実なのだ。
 そして、旋回した斧がボクスドラゴン――ゴルトザインの竜体を吹き飛ばす。無数の粒子に溶け、消え行くサーヴァントに、フレイヤは整った顔立ちを歪めていた。
「ふはははは。甘露甘露!」
 奪ったグラビティ・チェインに歓声を上げるエインヘリアルに、フレイヤはびしりとグレイヴを突きつける。
「渇くか? 飢えるか? エインヘリアル! だが、貴様の渇望が、飢餓が、満たされる事は無いと思え!」
「ほう」
 何故だと問う。戯れの様に。逆上の様に。エインヘリアルを言葉そのもので貫く様、フレイヤは自身の弁を重ねた。
「守りに長けた力を持っていながら、ただ暴虐のままに力を振るうのみ。持てる力と行動が食い違うから、魂が飢えているのだよ! 故に、私が貴様のその苛立ちごと、食らってやる! 私の中で、人を守り救うことを知り、満たされるがいい!」
 そしてフレイヤの拳が唸る。
 超至近距離から放たれた拳――いわゆる正拳突きは鎧を砕き、エインヘリアルの胸板へと叩き込まれる。
「戯れ言を」
 気管に混じった血を唾ごと吐き捨てるエインヘリアル。
 それが皮切りだった。
「俺たちは限界だ。それは認めよう。だが――それは貴様もだろ?!」
 鬼太郎の虹纏いの踵落としはエインヘリアルの脳天を貫き。
「ご立派な鎧と俺の角、どっちが強いか力比べと行こうか!」
 まるで石筍の如く伸びたエアリスの鬼角は、百舌の早贄の如く、エインヘリアルの身体を貫く。
「フィスト、合わせろ! eins、zwei、drei!」
「これが私の為すべき事だ!」
 ヴィクトルの早撃ちと、フィストの電光石火の突き――奇しくも速度を誇る双撃がエインヘリアルに叩き込まれる。
「ココでゴートゥーアノヨ致すのがお主の運命なのでござる! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 弾丸と槍撃。それに貫かれたエインヘリアルを強襲するのは飛びかかり、無数のクナイ・ダートを射出するクリュティアであった。身のこなし鮮やかな軽業の後、遅れて彼女の性別を強調する曲線が帷子の下、ふるりと揺れる。
「がっ! 吠えるな! 番犬共が!」
 自身の矜持を抱き、エインヘリアルは咆哮する。
 振り上げる斧の一撃。砕くは目の前にいるオラトリオ。ケルベロス全てを血だるまにする事は叶わずとも、一人くらいは道連れにすろ。その決意と共に振り下ろされた一撃はしかい。
「霊弾よ、我が武器に宿り、敵の動きを封じよ!」
 きらりの放出したエクトプラズム弾に阻まれ、弾かれてしまう。
「相殺――だとっ?!」
「全てを守る。そう決めました!」
 無辜の地球人だけで無く、仲間達だけで無く、自分自身も。
「これが、『守る』と言う事です!」
 その言葉は誇らしく高らかに。張った胸は賛美を以て。
 きらりの笑顔に、一瞬、守勢に重きを置いたエインヘリアルは我を忘れてしまう。
 ならばこそ。
 それが敗因だった。
「これが私の全力だ――受けてみろ!」
 エメラルドによる全身全霊の吶喊。自身の全てを光弾に転じた戦乙女の体当たりを受け、身体を覆う星霊甲冑に無数のひびが入る。
「貴様ら――」
 それが末期の叫びとなった。

●罪の数え歌
 ヒールが街を癒やしていく。砕けた壁や道路、建物は幻想を抱きながらも、変わらない風景を取り戻していく。
「あいつがどんな罪を犯そうが知った事じゃねーが、罪人には禄なのがいない」
 ヴィクトルの弁は辛辣だった。
 それも当然と思う。まったく、地球侵略を目論む者に禄なのなんているわけ無いのだ。
「それでも私たちは勝てました。皆さんの協力のお陰です」
 皆で一丸となればどんな巨悪も倒せる。
 きらりの言葉に一同は虚を突かれた表情を浮かべ、そして笑い合うのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。