黄金咲き乱れる庭で

作者:黒塚婁

●黄金の庭
 あの花が、巧く育ったら。
 あの花が、綺麗に咲いたら。
 ――あの人を此処に呼んで、思いを伝えるのだ。

 秘密の花園というほどではないが、山の麓に通い出して、一年が経つ。
 ふとした縁から花を育て――否、環境的に、勝手に育つのだ。ただ、少し手を入れて。形を整え綺麗に咲くように。少し別の花を植え、全体の見栄えが良くなるように。
 しかしそんな苦労など何処吹く風と。
 蕾を綻ばせた花はそれだけで美しかった。
 柔らかな球体の花、鼻腔をくすぐる芳香。頭上に輝くミモザと、黄色のクロッカス、フリージア――節操はないが、黄金の庭と呼んでも差し障りない仕上がりではないだろうか。
 庭の中央に白いガゼボがあって、繊細な造りのテーブルセット。
 其処から見渡す光景は、彼女に『約束』を意識させる。
 ――ここまで育ったのならば、きっと。
 彼女が物思いに耽っていたその背後。はらはらと舞い落ちる花粉に、彼女は気付かなかった。そしてのそりと身を起こした植物にも。
 ミモザの香りが強くなったと思った瞬間、彼女の身体は樹木に搦め捕られていた。
 窮地に過ぎるは、あの人の横顔。
(「――私は、未だ何も伝えていないのに……」)
 黄色の奔流は、そんな思いごと彼女を呑んだ。

●思い
「ある女性が攻性植物に襲われる事件が起こった」
 極めて簡潔に、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はそう告げた。
 攻性植物化を促す謎の胞子、それを受け入れたミモザの樹木が変容し――自分を大切に世話してくれた女性を取り込んだのだ。
 急ぎ攻性植物を倒し、女性を救助してもらいたい。
 そう言いながら、辰砂は眉間に少し皺を寄せた。
「敵は一体……倒すのは難しくない。だが、内側に女性を取り込んでいるため、そのまま攻撃すれば女性は死亡してしまう」
 ミモザの攻性植物の足元には瘤があり、そこに女性が捕らわれているようだ。
 そこに直接攻撃をしても堅く守られており、引き摺り出すことは不可能。
「このケースの対応を充分知っているものもあろうが――彼女を救うには攻性植物にヒールをかけながら、回復不能ダメージの蓄積で倒すしかない」
 ゆえに、相手の様子を窺いながらの注意深い戦いとなるだろう、彼はそう告げる。
 戦場となるこの庭は、人払いも不要な私有地ゆえ、戦いに集中できるだろう。
 説明を終えた辰砂に、不意に声が掛かる。
 ――ところでその女性は何という名前なのだろうか。その問いに、ふむ、と辰砂は頷く。必須と思わず説明から省いたが、まるで不要とは思わなかったのだろう。
「ヨシノ、という六十ほどの女性だ。すっかり園芸から遠ざかっている夫のために、ひとりで庭を整えていたらしい……彼女がどんな存在であれ、出来うる限り力を尽くし……救出してもらいたい」
 デウスエクスの犠牲となろうとしている人を救うことこそ、ケルベロス達の本分であるのだから。
 彼は淡淡とそう告げて、今度こそ説明を終えるのだった。


参加者
卯京・若雪(花雪・e01967)
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
除・神月(猛拳・e16846)
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)

■リプレイ

●よわきもの
 風が囁き、答えるようにミモザが揺れる。
 さざめく黄金の波を見つめ、エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968)は目を細め、美しい庭、そっと零す。
「いー香りの庭ダ。花を楽しむってガラじゃねーガ、攻性植物共に好き勝手させんのは気に入らねーナ」
 好戦的な視線を向け、除・神月(猛拳・e16846)が言う。
 そう、目に映る景色が美しいこそ――眼前に立ち塞がる異形が目立つ。本来華奢な印象を与える幹は奇怪に捻れ、忌むべき瘤を孕んでいる。腕を広げる柔らかな花は、ケルベロス達をも呑まんとするように鋭利な形に変貌していた。
 それを前に、髪にミモザを咲かせるシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は金の瞳を僅かに曇らせる。
 何の落ち度もない花が変貌してしまったのである。それもまた、痛ましい事だ。
「ああ――出来るだけ狙いを絞って仕留めたいところだな」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が肩を竦める。
 もしも相手を好きに暴れさせれば、この庭は壊れてしまう。同時に、自分達が好きに戦っての同じ――勿論、被害を考えない方が楽に戦えるのは自明の理であるが。
「庭を荒らしてもヒールすりゃ一発だが……それじゃあ、そこのばーさんが作った庭が違うものになっちまう」
 そいつはなんだか違うだろとハンナが笑う。
「そうだね。庭には極力傷を付けないようにしよう」
 深くアトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)が頷く。黒い毛並みの艶やかなキヌサヤも主に倣う。
「彼女も、何としても助けなければ」
 ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が静かに続ける。
 彼女にどういう事情があるのかは知らないが――。
「想いの籠もった美しい庭だと思うから」
 その想いを含めて守りたい。彼の金の眼差しは真っ直ぐに瘤へと注がれていた。
 皆の言葉に、心が温かくなるような心地を覚え――けれど、今それに浸ってはいられぬと。エヴァンジェリンはそれへと向き合い、息を吐きだす。
 馳せるために呼気を整えるタイミングで、心得ていると言わんばかり、フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)が杖の力を解き放つ。
 その手に納まる杖飾る銀と柘榴石がきらりと光を返して輝き――皆を守るように雷の壁が取り囲む。同時にそれは攻性植物を閉じ込める檻のようにも見えた。
 過去の戦場において幾度も背を任せあった彼女の、自分のリズムを熟知したような援護に口元に淡い微笑みを浮かべ、エヴァンジェリンは雷が奔るように地を蹴った。
 先陣を切る銀の矛。阻もうと伸ばされたミモザの腕を掻き分け、一点の光をそこへ穿つ。
 黄金の花吹雪が舞い上がる――幻のような世界を、恐れを知らぬとばかり身一つで飛び込んだのは、ハンナ。
「年寄りにあまり無理はさせられねぇからよ、さっさと助けてやるかね」
 輝く金の髪が、動きに合わせて踊る。
 一足で飛び込むと、くるりと背を向けながら脚を上げる。その鮮やかな動作は流水の如く。
「ちょいと揺れるぜ」
 振り上げるようにやや高めを狙った美しい弧を描く後ろ回し蹴りは、攻性植物の幹を一度撃ち、返して二撃目。強かに打ち込む。
 それを攻性植物がどう感じるかは解らぬが――左右交互に強い刺激を与えられ、ぐらぐらとしていた。
 ウリルがすかさず狂気を解き放ち、皆へと分ける。
 発した力とは裏腹に――彼は瘤の内部に封じられているヨシノへと、穏やかな言葉を送る。
「どうか頑張って欲しい。貴女の願いを叶える為に……」
 その祈りへ、若草色の瞳を確り開き。
 凛と、日本刀を高く掲げて、卯京・若雪(花雪・e01967)が念じる。
「どうか、加護を」
 下ろすは、大地の霊力と御業を籠めた一太刀。
 幹へと振るわれた創目掛け、その根を花や蔦が絡み、ゆっくりと這い上っていく。傍目には優しげな光景であるが――その動きを戒める大地に結ぶ堅い拘束でもある。
「どうか、お心を強く――もう暫しご辛抱ください」
 若雪がヨシノが取り込まれている部分へと声をかける。
 意識があったほうがいいのか、悪いのか。しかし、彼は届くと信じて、声をかける。
 合わせ、神月は背面に回り込み――ほら、こっちダ、とにやと笑い声を掛ける。
 くるりと指で回したリボルバー銃が彼女の掌に納まったかと思うと、既に撃鉄は落ちている。
 硝煙の匂いと火薬が爆ぜた光、ミモザの一枝を穿って落とす。
 本来の戦闘であれば、自らが成した攻撃の通りの良さに喜ぶところであるが。
「……コイツ、結構脆いナ?」
 大分加減しないと拙いか、神月は他のケルベロス達へと視線を向けた。
 そしてヨシノを抱えている所為かもしれないが、殆ど回避能力が無さそうだ。
「守りを厚めにしたほうが無難、だね」
 キヌサヤに羽ばたきによる支援を命じ、アトリが応じる。
「舞い上がれ、快癒の風!」
 彼女が発せば、シアの足元でそよ風と共に木の葉が踊る。
 それは瞬く間に消えるが、風の力は留まり、シアの施す治癒に祝福を重ねる。
「お任せください……」
 彼女は電撃を打ち込むと同時、攻性植物の創を魔力でぎゅっと縛り上げる。
 寄せられた創は消え、折れた枝は急速に成長し、元の枝振りを取り戻す。
 ――この花は彼らが本気を出せば、あっという間に手折れるのだろう。
 けれど、それでは意味が無い、フィーが首を振る。
「咲く花はそれだけでうつくしいものだけど……やっぱ大事に世話した人が無事でないとね」
 鮮やかな赤髪が揺れ――黄金の景色の中で、それはとてもよく映えた。

●たえるもの
 黄金の向こうに幻を見る。
 優しい香りと、包み込むような温もり。それを守らなければ、という感覚。
「エヴァンジェリンさん!」
 叫んだのはフィーだ。だが彼女が何故声を上げたのか、解らない。
 すかさず薬液の雨が降る――肌を濡らす冷たさで覚醒したのは、彼女だけでは無い。
 拳と脚をクロスさせかけたハンナとアトリがはっと瞬く。
 死角より斜めに脚を振り上げたアトリを、咄嗟に気付いたハンナが身体を捻り、拳で応じようとしていた。互いの技が決まりきらぬタイミングで、眼が醒めた。
「……ハンナさん、笑ってない?」
「気のせいだろ」
 催眠にかかっていても本質は変わらぬ。自らが認める技巧者に仕掛けられ、身を守るために応戦するそのひとときは、幻であれ、愉快と思った可能性はある。
「スマン! 気力分けちまっタ!」
 自らの頬を叩きつつ、神月が言う。
 強烈な幻惑の力は予防をかけていても、ひとたびは身を縛る。その瞬間に覚醒するか否か、加護があっても、儘ならぬことはある。
 ただ、皆それへの覚悟と心構えをもって挑んでいた。
「いえ、また仕込めばよいだけのことです」
 冷静に告げ、若雪は刀を掲げた。緩く月をなぞるような斬撃が、根と、枝をまとめて斬り払う。
「その通り」
 ウリルが返した縛霊手の先から、巨大光弾が放たれ――揺れる金の花が散っていく。
 そして斬られた端から、まとめてシアが繋いでいく。まるでそんな傷などなかったかのように。
 その間に、キヌサヤが羽ばたいて、加護を追加していく。
「こっち殴られるより良かったかもね」
 雷の壁を重ね、フィーが朗らかに言う。実際、相手を回復されることより、こちらへ攻撃を向けられることのほうが怖いのは確かだ。
「ゴメン、アリガト。次――行くわ」
 皆の盾でありたいというのに。そんな叱咤を零し、エヴァンジェリンが矛を構え直す。
 ミモザの黄金の花弁を揺らし、毒の芳香を放つ。
 オーラを礫の如く走らせ、ハンナはその香りを消し飛ばす――無論、それで無効化できるわけではないが、皆の元へ届かせぬよう、そこで遮る。
 隙の無い構えを維持した彼女の背後、跳躍する影が追い越した。
 空中で身を捻り、アトリのエアシューズが鮮やかに孤を描く。鋭い蹴撃が、意志を持って腕を伸ばす枝を払う。
 懲りずに別の方角へ腕を伸ばしたソレを、神月の拳が打つ。何という事も無い大振りの一撃に見えるが、それは魂を喰らい、彼女に還元された。
 慎重に相手の状態を見つめ、シアは治療を繰り返す。この戦いは彼女の腕に維持されているに等しい。期待に応えるように、その手技は冴え渡り、敵を元の形に戻してみせる。
「もう一手、お願いします」
 それでも足りぬ、判断して彼女が声を発せば――エヴァンジェリンが槍持たぬ方の手をかざす。
「海の底の、一滴を。」
 深い深い海の底に沈む――誰にも知られず生まれる波紋を拾う。
 命育む海の力を湛える、清浄の一滴。
 優しい深い青を彼女がミモザの傷口へと零せば、何処までも染み渡る。
 それでも未だ深手か、若雪はひとたび様子を見た。
 ケルベロス達には薬液の雨が降らせ――慎重に、相手の様子を窺いながら、フィーは次の攻撃に備える。
 ――随分、弱ってきた。
「そろそろ、一撃に気をつけた方がよさそうだよ……!」
 警告を発すると同時、ミモザの枝がぎゅっと一束に絡み合い、槍と化して伸びる。
 凄まじい速度で突き進むそれへ挑むは、ハンナ。
「力比べか? いいぜ」
 不敵に笑って、音速の拳で応えた。
 両者の間で高い音が弾ける――打たれ、ばらばらと落ちた枝の数々が、諦めず彼女の脚に絡みつく。
「藍は静謐と調和を齎す色。夜空の抱いた輝きは君が為…、ってね。」
 フィーが薬瓶から深い藍色の液体を撒けば、地には星辰で描いたが如き魔法陣が浮かび上がり、その中央に立つハンナの傷を癒やす。
 枝が消えたことで空いた軌道を狙い、アトリが腕を上げる――流れるような鮮やかな射撃は太い枝をひとつ吹き飛ばす。
 そしてそれはシアの治療を受けても、枯死したまま甦らなかった。
 リングより光の剣を精製したウリルが、それの近くまで迫り、声を掛ける。
「あと少し。どうか耐えて欲しい」
 光の軌跡が斜めに走る。
 彼によって幹に刻まれた創は、長年あったもののように乾いた傷口を晒した。
 死が迫る自覚はあるのだろうか――ミモザは、彼らに対抗すべく、全ての力を花へと注ぐ。枝は瑞々しさを取り戻し、黄金の輝きが甦る。
 ――周囲に見劣りせぬ美しい輝き。
 けれど、エヴァンジェリンは何かを否定するように、小さく首を振る。
 ミモザは春を呼ぶ花――そんな花に人を傷つけてほしくない。
「だって、もっと優しい花のはずよ」
 強い視線で相手を見つめている彼女に、そうだね、フィーが笑って頷く。
 攻性植物を討ち、庭を守り、何事もなかったように修復をするのは難しいことではない。しかし――。
「咲かせた想いは、ヨシノさんにしか語れないものだから」
 その言葉に、ダナ、と神月は応え。
「へ、じゃア、仕上げといくカ!」
 呵々と笑い、片腕を天へと突き出した。鋭い目つきで、相手へと警告を発する。
「なんせドラゴンが振りかざしてたグラビティだゼ? 生半可なモンだと思うんじゃねーゾ!」
 たちまち暗雲が立ちこめたと思うと、彼女はミモザを指差す。
 破壊的な暴風が、ミモザの花を滅茶苦茶に裂いた。
 けれどそれは一瞬の事、殆どの花は残った儘――しかし、呪いの楔はしかと打ち込まれた。
「春を呼ぶ花、ミモザ……『思いやり』の花。どうかその人を、返して。彼女の願いの為にも」
 エヴァンジェリンは祈る。広げた翼から聖なる光を放ち、その罪を照らす。
 星座の重力を宿した剣を水平に広げ、若雪が畳み掛ける。
「目映い黄金の庭には、貴方の姿と平穏こそを――必ず取り戻します」
 重い一閃は瘤のやや上。先程ウリルが穿った創に重ねて、より深く広くその幹を斬りつける。
 黄金から、黄色へ。その黄味も一気に色褪せていく。
「どうか、戻って来てください」
 声を向けながら、シアが幾度と繰り返してきたように。その傷を癒やす。
 けれど、塞がりきらぬ――傷口を中心に石化は加速し、ミモザを石へと変じていく。
 最後の抵抗とばかり蠢いていた枝も徐々に動きが緩慢になっていく。
 抗う力は失われた――確信したことで、アトリが瘤近くへ銃弾を撃ち込み、砕いた孔を更にハンナが叩き割った。
 そして、その中で力なく横たわるヨシノを救い出す。
 ――衰弱こそしているが、呼吸は正常、ぬくもり通う、生きたままの彼女を。

●ねがうもの
 庭は――全く無傷とはゆかぬ。戦闘によって、多少大地は踏み固められてしまっているし、攻性植物が長く留まった場所など、尚更だ。
 それでも、この庭の美しさの殆ど損なわれていない――これも、ケルベロス達の配慮の賜だ。
 ヨシノを救い、庭も守った。
 自身の仕事に及第点か、とハンナは薄く笑む。ただ、ここで一服といかぬところが、少し辛かった。
 ケルベロス達の治療で意識を取り戻したヨシノは、ガゼボの椅子に身を休め、案ずるように寄り添うキヌサヤの背を撫でながら、そんな庭を眩しそうに見つめている。
「もし良ければ、庭を整え続ける理由を教えてもらえないかな……?」
 問うたのはアトリ。
 彼女は大した理由ではないのだけど、と断って、儚く笑う。
「あの人は病気になってから、何事も億劫そうで――この庭を見て、もう一度、花への愛を。何かを大切に育てる事を思い出して欲しいって。勝手にやっていることなのだけど」
 昔――ヨシノが若かりし頃、黄金の庭が見たいという我が儘をいったことで、この庭は整えられたらしい。
 庭の中央のガゼボと、テーブルセット。此処にそれを置くということは、そこで過ごす時間を大切にしたいと願うから。
(「こんな風に中庭にテーブルを置いて、二人で一緒にお茶を飲みたいと――」)
 ウリルは家で待つ妻との語らいを思い出して、顔を綻ばせる。
「俺は妻とこういう庭を造りたい。彼女の喜ぶ顔が見たい――きっと、貴方も」
 きっと当時の夫はそう考え、今はヨシノがそれを考えている。
 心が解ったからこそ、彼は静かに瞑目した。
「宜しければ……庭の修繕のお手伝いをさせてもらえませんか?」
「はい、私達で何かお手伝いできる事がありますか?」
 若雪が尋ねれば、微笑んだシアが深く頷く。
 目を丸くしたヨシノに、力仕事なら任せナ、と神月が笑って――彼女も笑った。

 そんなやりとりを見守りながら、フィーがそういえば、とエヴァンジェリンを振り返った。
「ね、バレンタインにエヴァンジェリンさんに貰ったミモザのお花、凄く綺麗だった……僕ねぇ、花を綺麗に育てられる人はとっても愛情深くて強い人だと思うんだー」
 大事にされた花って、見て分かるものだしね、と。
 彼女がエヴァンジェリンに笑顔を向けると、彼女も静かに笑う。
「ふふ、アリガト、フィー。照れちゃうけど……送りたい人、例えばフィーを思って育てていたら花が、応えてくれた……ここの庭みたいにね」
 想いが伝わりますように、春を待ち、春を告げ。春を見送る優しい花を。

 重なるように、シアの言葉が風に乗って響いた。
「貴方が想いを遂げられますように。祈っています」

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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