音々子の誕生日~階段通りの猫たち

作者:土師三良

●音々子かく語りき
 二月某日。
 ヘリポートの一角にたむろしていたケルベロスたちに――、
「皆さーん。今月の二十二日になにか予定はあります?」
 ――と、ヘリオライダーの根占・音々子が声をかけてきた。
「俺はとくにないけど」
 そう答えたのはヴァオ・ヴァーミスラックス。
「二十二日っていえば、おまえの誕生日だよな。なんかパーティーでもすんのか?」
「残念ながら、パーティーを開いてる暇はないんですよ。その日は知り合いの引越しを手伝わなくちゃいけませんから」
「じゃあ、なんで俺らの予定を訊いたんだよ?」
「できれば、皆さんにも引っ越しをお手伝いしていただきたいなぁ……と、思いまして」
「人手を集めなくちゃいけないほど大規模な引っ越しなのか?」
「大規模というほどじゃありませんけど、普通の引越しではないですね。お家じゃなくて、お店の引っ越しですから。ちなみにお店というのは猫カフェですよ」
「猫カフェ!?」
 ヴァオは思わず身を乗り出した。いや、彼だけでなく、猫好きな一部のケルベロスたちも。
「はい。猫カフェです。とあるビルの二階で営業していたんですけれど、もうちょっと広い五階のエリアに引っ越すことになりまして。そうなると、猫ちゃんたちも移動させなくてはいけないわけで……」
「つまり、俺たちに猫を運べというのか?」
「そういうことですね。キャリングケースに入れるもよし。リードに繋いで一緒に歩くもよし。普通に抱っこするもよし。おやつで釣るもよし。防具特徴の『動物の友』を使って先導するもよし。ただ、移動の際には階段を使ってください。ペット連れでエレベーターに乗ることは禁じられているので」
 ペットの体やリードがエレベーターの自動ドアに挟まれるという事故を防ぐための禁止事項であるらしい。
「まあ、とにかく、猫ちゃんを運ぶだけの簡単なお仕事でーす。でも、無理に手伝っていただかなくてもいいんですよ。なんのお礼もできませんから」
 にっこり笑う音々子。
 その笑顔を見て、皆は確信した。
 引っ越し業者を使わずにケルベロスに頼るのは経費を節約するためではないことを。
 そう、猫たちと触れ合える癒しの一時を音々子はプレゼントしてくれたのだ。


■リプレイ

●ぴーとん
 吾輩は猫である。名はぴーとん。
 今日はこの猫カフェの引っ越しの日。それを手伝うべく、ケルベロスたちが集まってきたのだが……中には猫に慣れていない者もいるようだ。
「うーむ。どうやって抱けばいいのだ?」
 ほら、香箱をつくった雑種のサビ猫の前でシヴィル・カジャスが困惑している(なぜ、名前を知ってるのかって? 猫は鼠を捕るよりもたやすく個人情報をゲットできるのだ)。
「猫カフェに足を運んだことはあるのに、猫についてはなにも学んでこなかった……そんな自分が憎い!」
「まあまあ、落ち着いて」
 悔しそうに歯ぎしりするシヴィルをなだめながら、ロベリア・アゲラータムがお手本を見せるかのようにアメリカンショートヘアの若造を抱き上げて耳の裏をかき始めた。
 アメショはなにやらうっとりとした顔をしているが――、
「ああ、ピンクの肉球の誘惑には逆らえません」
 ――いつのまにやら、ロベリアもうっとり顔。指先を耳から肉球へと移動させ、ぷにぷにと押しまくってる。
「俺も触らせてもらっていいかな?」
 祖川・夢兎も横から手を出し、アメショの肉球をぷにぷにぷにぷに。ちなみに夢兎は反対の手で猫を抱いている。お高くとまったペルシャだ。
 そのペルシャをベルーカ・バケットが覗き込んだ。
「風格のある猫だね」
「うん。きっと、この猫さんは大物に違いない」
 アメショの肉球をぷにぷにするのをやめて、ペルシャを撫でる夢兎。こら、ペルシャ。喉を鳴らすくらいの反応は見せてやれ。猫カフェに勤めているくせにサービス精神のない奴だ。
「さて、私の好みは茶虎の和猫なんだが……まあ、別の猫が来てもそれはそれで構わん」
 ひとりごちながら、ベルーカが床に土鍋を置いた。
『土鍋=料理の道具』というトンデモ説を信じ込んでいる猫も少なくないが、もちろん、土鍋は料理の道具などではない。
 そう、猫用の罠だ。
 その証拠に件の土鍋にはいつの間にか猫が五匹も入り、寝息を立てている。うち二匹は茶虎だ。好みの猫をゲットできて良かったな、ベルーカ。
 キャパオーバー気味の土鍋をベルーカはそっと持ち上げ、中の猫たちを起こさないように抜き足差し足で歩き始めた。引っ越し先に移動するつもりなのだろう。それに続くは、アメショを抱いたロベリア、ペルシャを抱いた夢兎、そして、仲間たちの手付きを参考にしてサビ猫をおっかなびっくり抱き上げたシヴィル。
「どうかな、涼香さん? 良い感じだと思うんだけど……」
「うん! みんな、きっと気に入ってくれるよ。あ、こら! ねーさんは入っちゃダメ!」
 ん? あちらで泉賀・壬蔭と小鳥遊・涼香が声を交わしてるな。二人の前には大きな土鍋が置かれ、ねーさんというウイングキャットが身を押し込んでいる。
 なるほど。ベルーカと同様に土鍋で猫を誘い込む魂胆か。
 しかし、他の猫どもはともかく、吾輩は土鍋ごときに……いや、待て! 壬蔭が妙な動きをしているぞ! いったい、なにを……うぉっ!? 湯たんぽを毛布で包み、土鍋に投入したぁーっ! やだ、これ、ぜったいあったかくてきもちいーやつ!
「さー、猫ちゃんたち、こっちおいでー。あったかいよー。眠くなるよー」
 ねーさんを土鍋からどかして、涼香は猫たちに呼びかけた。
 それに応じて真っ先に土鍋に飛び込んだ猫は……そう、吾輩だ。毛布越しの湯たんぽの温かさに身を委ねつつ、毛布がかかっていない土鍋の縁に額を押しつけて、冷たい感触も楽しむ。ぬくぬく&ひえひえのコンボ!
「ねこ鍋大作戦、成功!」
 爽やかに笑う壬蔭。
 その横顔を愛しげに見つめながら、涼香もまた笑ってる。
 爆発しろ!

●与五郎左
 土鍋に骨抜きにされたぴーとんが運ばれていく。
 だが、私は移動しない。ここに残り、人間観察を続けさせてもらおう。観察しがいのある奴が沢山いるからな。
 例えば、あちらに立っているエトヴァ・ヒンメルブラウエだ。なぜか、猫の着ぐるみを纏っている。
「虎猫で決めてみまシタ」
 いや、決まってない。むしろ、思い切りハズしてるぞ。
 それなのに、エトヴァの横に立つ櫟・千梨は――、
「似合ってるぞ、トラエトヴァ」
 ――などとほざいてる。見損なったぞ。おまえはスルーしてガン無視してボケ殺しをするキャラだと信じていたのに……。
「虎猫とは判ってるね!」
 と、ジェミ・ニアまでもがエトヴァならぬトラエトヴァを称賛している。なにが『判ってる』のかが私には判らない。さっぱり、判らない。
「そうだ。ジェミにもこれを渡しておこう」
「ありがとうございます」
 猫耳を差し出す千梨。それを受け取り、嬉々として装着するジェミ。こいつら、自由すぎる……。
 まあ、いい。他の観察対象に目を移してみよう。
「あはっ! 如月ちゃんってば、モテモテじゃん」
 笑い声をあげた桜庭・萌花の視線の先にいるのは近衛・如月。じゃれつきたくなるようなヒラヒラした部分が多い衣装を着ているので、猫に囲まれている。おそらく、あれは『魔法少女』と呼ばれる特殊な職業(詳しいことは知らないが、かなりブラックな職業らしい)のコスプレだな。
「キミたち、如月おねーちゃんに運んでもらいたいの? じゃあ、ほら、おいでー」
 ひらひらに群がる猫たちを萌花が抱き上げ、次々と如月の頭や肩に乗せていく。
「も、もなちゃん! さすがに、これ以上は動け……にゃあ!?」
 生けるキャットタワーと化した如月がバランスを崩しかけたが――、
「でも、『おねーちゃん』なんて言われたら、音をあげて! られない! のよぉ!」
 ――なんとか踏ん張った。さすが、魔法少女。いや、コスプレだが。
 二人の少女が奮闘している間にジェミと千梨とトラエトヴァも猫を集め始めた。千梨が目をつけた猫は気難しい性質らしく、猫パンチを連打している。しかし、ちっとも効いてない。千梨め、防具特徴の『ペインキラー』を使っているな。
 一方、ジェミはふらふらになって、今にも倒れそうだ。攻撃を受けたようには見えないが……。
「あ、いけない! 子猫たちの可愛らしさのせいで魂が天国に行きかけました」
 そういうことか。
 おっと、萌花がこちらに来て、私に語りかけてきたぞ。
「キミはここがお気に入り? でも、お引越ししなきゃね」
 お気に入りというわけではないが、まだ動くつもりはない……しかし、意地を張ってもしょうがないな。今回だけはつきあってやろう。
 私は萌花に抱き上げられた。
 同じタイミングでトラエトヴァが大きなダンボール箱を持ち上げた。その中にいるのは……猫を抱いた千梨だ。やはり、自由すぎる。
「可愛いにゃんこサンが通りマース」
 千梨(と猫)がすっぽり収まった箱を抱えて、トラエトヴァは歩き出した。

●三毛・フジコ
 あたしは世にもレアな雄の三毛猫。でも、心は乙女よ。
 今、他の猫たちと列を作って、階段をのぼってるところ。先頭にいるのは本物の猫じゃなくて、澄まし顔のウイングキャットだけどね。雀の学校の先生さながらに教鞭を振って、あたしたちを先導してるの。
 でも、先導されなくてものぼると思う。だって、後ろから――、
「列からはみ出しちゃダメだよー」
 ――って、猫の着ぐるみに身を包んだ瑞澤・うずまきが四つん這いで迫ってくるんだもの。
 てゆーか、着ぐるみ好きのケルベロス、多すぎない? 琴宮・淡雪も黒豹の着ぐるみを着てるじゃない。
「あら? この子たちったら――」
 黒い腕に抱いた何匹かの子猫を見下ろす淡雪。
「――尻尾を立てて、威嚇しているように見えますわ。でも、気のせいですねー」
 気のせいじゃないわよぉーっ! ……と、心の中でツッコんでるうちに(肉声では叫ばないわ。下等な人語なんか喋れないもの)あたしたちは踊り場に到達した。
 あら? ここにもサーヴァントを使って猫を運んでいる奴がいるわね。
「足下に気をつけてくださいねー」
 イッパイアッテナ・ルドルフよ。その横でミミックがエクトプラズムでボールを作って、猫たちの興味を引きつけている。
 ソフィア・フィアリスもミミックを従えてるわね。こちらのミミックは炊飯器型。蓋(上顎?)を開けて、中に猫を入れて運んでる。
「SNSとかに載せたら、『家電猫』って感じで映えないかしら?」
 辞めときなさい、ソフィア。本物の炊飯器に猫を入れてると勘違いされて、『動物虐待!』だの『不衛生!』だのというコメント殺到で炎上コースまっしぐらよ。
 皆より少し遅れ気味に階段をのぼってるオラトリオのリーズレット・ヴィッセンシャフトもSNS映えを意識してるのかしら? 六枚の翼を広げて、それぞれに猫を乗せてるわ。
「翼を荷台代わりにしちゃうなんて、リズさん、かっしこー! ……って、自画自賛してたけど、これはちょっと厳しいかも。ね、猫さん、ザラザラ舌で翼を舐めないで!」
 悪戦苦闘してるわね。
「うずも淡雪もリズも甘すぎる! この勝負、もらったっすよ!」
 と、光の翼を展開した鍔鳴・奏が不敵に笑いながら、リーズレットの頭上を追い越していくわ。
「人類の叡智をもってすれば、にゃんこたちを手懐けることなど容易!」
 奏が抱えてる毛布(中に何匹かの猫が包まれてるみたい)に付着していた『人類の叡智』の産物らしき粉がパラパラと落ちた。あれは――、
「マタタビ粉か!?」
 ――リーズレットが叫んだかと思うと、こぼれ落ちてくる粉を手に取り、前を行く淡雪の着ぐるみに擦り込み始めた。
「こうなったら、マタタビ戦争だぁー! そーれ、淡雪さんも猫フェロモン増し増しぃー!」
「元凶たる奏様にお返ししますわー!」
 淡雪はジャンプして、奏の翼に粉を擦りつけた。その拍子に奏が体勢を崩したもんだから、また沢山の粉が降ってきたわ!
「ふにゃ~ん。なんか、ふわふわしてきたよぉ~」
「う、うず? キミ、マタタビが効いちゃうの?」
 マタタビ酔いしたうずまきを見て、奏はびっくり仰天。
 こんなカオスなコントにつきあってんない。こいつらは放っておいて、先に行かせてもらうわ……と、思ったけど、あたしにもマタタビが効いてきたみたい。腰がくだけて、歩けない。く、悔しい! でも、喉が鳴っちゃう! ゴロゴロゴロ♪

●ぐりぐり君
「ああ! 猫、可愛い! 可愛いは猫! 控えめに言っても、天使ぃーっ!」
 九条・小町はかなりの猫好きらしい。退いちゃうほどにハイテンション。でも、天使なんて甘っちょろいものに例えられるのは心外だな。猫というのは孤高の野獣なのさ。がおー!
 野獣たる僕を前にしても、小町は表情を緩めっぱなし……と、思いきや、いきなり険しい顔をして横手に怒鳴りつけた。
「ちょっと、夜ってば! 変態を見るような視線を向けないでよ!」
「……」
 無言で肩をすくめたのは、床で胡座をかいてる藍染・夜。べつに変態を見るような目はしてないと思う。ただ、ちょっとなまぬるーいだけ。
 一方、夜に向けられた小町の視線はといえば、なまぬるいどころか嫉妬の炎でめらめら燃えている。夜の周りばっかりに猫が集まってるのが気に食わないみたい。
「ふふふ……」
 夜は小町から猫たちに視線を移すと、静かに笑いながら、その猫たちの腹を撫で始めた。どの猫も気持ち良さそう。夜が防具特徴の『動物の友』を使っているからかな。あと、落ち着いた物腰も影響してるのかも。
 だけど、僕には通じないよ。『動物の友』を使おうが、美味しそうな餌をちらつかせようが、この鋼のごとき精神力は……わおぅ!? あっちのほうで比嘉・アガサがとんでもない物を持ち出したぞ!
「猫ってヤツは、市販の玩具なんかよりも日常的な道具を好む傾向があるんだよね」
 あれはコンビニやスーパーでもらえるビニール袋! カサカサいう音やクシャクシャした歯応え(誤食・誤飲には気をつけてね)が堪らないんだよね! 人間たちも対猫用兵器としてのビニール袋の価値にようやく気付いたらしく、もうすぐ有料化するんだってさ。きっと、一袋が百万円くらいするんだろうなー。
「一枚だと心許ないから、二枚重ねにしといた」
 アガサが置いた二百万円分(推定)の袋に僕まっしぐら!
「はい、捕まえた」
 ふにゃあー!?

 ……というわけで、アガサが手に下げたビニール袋から顔だけをちょこんと出した状態で僕は移動中なのだ。
「このまま、連れて帰りたぁ~い!」
 と、ネベロングの子猫を抱きしめて頬ずりしながら、小町も移動中。その後ろ姿をなまぬるーい目で見つつ、夜がのんびり歩いてる。口笛を吹きながらね。そして、口笛に導かれているかのように何匹もの猫がぞろぞろと後に続いているよ。あいかわらず、モテモテだ。
 そうこうしているうちに階段に差し掛かった。
 あ? 新条・あかりが釣竿型の玩具を動かして、猫たちを(物理的ではなく、精神的に)釣ってるぞ。
「よし、三匹つれた」
 振り返って釣果を確認した後、あかりはまた前に向き直って階段をのぼり始めた。
 その横をオラトリオの大弓・言葉が飛んでいく。やんちゃそうな猫を抱いてるけど――、
「ちょっと、暴れないでー!」
 ――てこずってるね。
「あ、判った。抜けた羽が気になるのね。じゃあ、一枚あげるから……って、翼のほうをむしらないでー!」
 甘いよ、言葉。猫は、自然に抜け落ちた羽よりも自分でむしった羽に価値を見いだすものなのさ。だって、孤高の野獣だもん。
 言葉だけじゃなくて、だいごろーとかいうウイングキャットも飛んでるな。主人の忍足・鈴女の羨ましげかつ恨みがましげな眼差しを浴びながら。
「おまえは良いでござるね。空を飛べるから。この状態で階段をのぼるのは……地味にキツいでござるよ。ひー」
 鈴女は頭に猫を乗せて、荷物が入ってると思わしき箱を抱えて運んでる。もう汗だく。でも、だいごろーは涼しげな顔をして、手伝いもしない。きっと、こいつも孤高の野獣なんだな、うん。
「あれ? 一、二、三……四、五? 増えてる!?」
 あかりがまた振り返って、後方の猫を数え直した。
 確かに変なのが二匹ふえてるね。
 一匹は楽しげに玩具にじゃれついてるウイングキャット。
 もう一匹は、その主人の玉榮・陣内。柴犬サイズの黒豹に変身して、キリッとした表情を取り繕ってるけど……孤高の野獣には程遠いよ。十年早いね。

●ガタム・タムラ
 この近辺のボス猫だった俺様ではあるが、半年ほど前に引退し、今は猫カフェで隠居の身。
 とはいえ、ボス猫としての矜持を忘れたわけじゃねえから――、
「ふふふふふ。これが欲しければ、素直についてくるのです! さあさあさあ!」
 ――と、ちゅーるちゅるしたくなる液状おやつでミリム・ウィアテストが誘ってきても、どっしり構えて動かないぜ。そう、絶対に動かない。ちゅーるちゅるしない。
「市販品だけじゃなくて、自作のちゅるちゅるベーストもあるぞー!」
 くそっ! アラタ・ユージーンもおやつ攻撃を始めやがった。だが、ガン無視だ。おやつごときで雄のプライドが買えると思うな。
「クッキーとドライササミと削り節も持ってきた。ちなみにクッキーも自作だ。市販品を味見して作ったんだが、味だけじゃなくて匂いにも自信がある。うちの先生に協力してもらったからな」
 先生というのはアラタのウイングキャットらしい。ちゅるちゅる。しかし、ウイングキャットが協力したからといって美味くなるとは限らないぜ。ちゅるちゅる。奴らは猫とは似て非なる者。ちゅるちゅる。味覚が違……はうあ!? いつの間にか、無意識のうちにちゅーるちゅるしてたぁーっ!
「よいしょっと!」
 ちゅるちゅるしている隙をついて、アラタが俺を抱き上げた。
 そして、頭のあたりに鼻を近付けた。
「日向の匂いがするー。えへへ、役得、役得ぅ」

 こうして、俺は新天地(二階上がっただけ)へと連れていかれた。
 他の猫どもは既に到着済み。俺が最後の一匹だったらしい。
「はい。じゃあ、ご褒美におやつをあげるよー」
 あかりが五匹の猫に例の液状おやつを舐めさせている。猫といっても、そのうちの一匹は陣内だが。反射的に食いついた後で『あ、やべ!?』みたいな顔をしたけど、けっこう気に入ったんじゃね?
「音々子さんも舐めます? クセになりますよー」
 ミリムが根占・音々子に液状おやつを勧めてる。だが、それだけでは終わらず、キャラメルマキアートを淹れて、皆に配った。
「猫さんのラテアートを描いてみましたー」
 本当だ。カップの中の茶色い水面で白い猫が笑ってやがる。
「今日は音々子殿の誕生日ということでござったね。では、鈴女の労働の汗をプレゼント! ……いやいや、ジョークでござるよー」
 タオルで巻いたペットボトルを鈴女が音々子に渡した。ちなみにタオルは音々子の似顔絵の刺繍つき。そっくり。
「誕生日、おめでとうございます! そして、いつもありがとうございます!」
「はい! ねっこねこな肉球型の髪留めをプレゼント! すっごく似合うと思う!」
「おばちゃんはお豆腐ケーキを持ってきたわ。『猫でも食べられる』で検索したら、いろんなお菓子が出てきてね。ちょっと作ってみたくなっちゃったのよ」
 イッパイアッテナ、言葉、ソフィア、それに他の連中も音々子を取り囲んでいく。
 皆の楽しそうな声を聞きながら、俺は大きな窓の横まで行き、そこでねそべった。
 しばらく、日向ぼっこでもしておくぜ。人間たちの好きな『日向の匂い』ってやつをを蓄えとくためにな。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月11日
難度:易しい
参加:26人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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