●屋上にて
友人の口からこぼれた「諦めなよ」という言葉に、瀬波・薫子は絶句した。なんで、と質問するまでもなく、友人が苦笑しつつ続ける。
「だって先輩、旧家の長男で婚約者いるって話だよ? ていうか婚約者、うちらのクラスの芳江なの知ってるよね」
「うん、文芸部の町田芳江さん。今の時間はちょうど校舎裏までゴミ運んでる。それはそれとして、なんで諦めないといけないの? 先輩、去年から身長5センチ伸びたし、飼ってる犬を常に『モフモフ』って呼ぶし、ピーマンは赤い方が好きだし、何より婚約者もいるくらい由緒正しい家の生まれなんだよ? あっ、そもそも先輩との出会いは私が1年生の二学期、始業式に遅刻して体育館に入れないでいたところをこっそり入れてくれてね、」
「ストップストップ、だから諦めないといけないんだってば。ていうか先輩周辺りの情報知りすぎ!」
「これくらいフツーだよ〜。ていうか婚約者ごとき、わたしの初恋の前には敵じゃないよね。むしろ障害がある方が……燃える!」
得意気になる薫子を見て、友人はゆっくりとため息をついた。
「……でも、未だに告白はしてないんだよね?」
こくり、とうなずく薫子。
「言いたいことは色々あるけど……あたしは用事があるから帰るわ。また今度、話を聞……きたくないかな……」
それじゃ、と手を振って、薫子の友人は屋上を後にした。
「なーんでわかんないかな?」
屋上のフェンスに背を預け、薫子は夕暮れの空を見上げた。
「……だって、初恋は実るべきだもの。だから、告白できないんだよ」
そう呟く薫子の眼前に、突如少女が現れた。薫子が問うよりも早く、少女は顔を近づけてくる。
「あなたからは、初恋の強い思いを感じるわ。私の力で、あなたの初恋実らせてあげよっか」
さらに近寄った少女が、戸惑う薫子へと唇を重ねた。とたん恍惚とする薫子の胸に、少女は鍵を差し入れる。
すると薫子の胸元からモザイクが噴き出し、もう一人の薫子ともいうべきものが形成された。当の薫子本人は、意識を失ってその場に倒れている。
「さぁ、あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」
「そうだよね、消すべきだよね。だって、初恋は実るべきだもの。そしたら告白しても、成功するよね……!」
フェンスをぶち抜き、もう一人の薫子は飛び降りた。語りかけた少女が既に姿を消していることを、気にも留めずに。
●桜咲く前に
卒業式も近い今日この頃、神乃・息吹(虹雪・e02070)は「迷える片思い乙女の恋心」が狙われるのではないかと心配していた。
実際にヘリオライダーに予知を依頼したところ、ドリームイーターが高校に出現することが判明したのだ。
「ドリームイーターは、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしいのよ」
今回狙われたのは、瀬波・薫子という高校二年生の女子。どうやら、初恋をこじらせた強い夢を持っていたようだ。
「彼女から生み出されたドリームイーターは、強い力を持つようなの。けれど、彼女の夢の源泉である『初恋』……それを弱めるような説得ができれば、弱体化が可能だとヘリオライダーから聞いたのよ」
いわく、対象への恋心を弱めるもよし、初恋という言葉の幻想をぶち壊すもよし。弱体化に成功すれば、有利に戦闘を進めることができるだろう。
「戦闘となるドリームイーターは1体よ。薫子さんから生み出されたドリームイーター……長いから、ひとまず『カオルコ』と呼べぶのよ」
カオルコが使用するグラビティは3種類。『障害は乗り越える』という強い意志から雷を生じさせる攻撃、大量の小さなハートで相手を覆って攻撃力を低下させる攻撃、そして自身を癒やすためのヒールグラビティだ。
「ケルベロスが現れると、カオルコはケルベロスを優先して狙ってくるの。だから、芳江さんが襲撃されているところに駆けつければ、彼女の救出は難しくないのよ」
戦闘となるのは、校舎の裏手。カオルコが芳江を襲撃する時、周囲には他の学生や教師はいないらしい。
「……と、そういう感じなのだけれど。ドリームイーターを弱体化できれば、薫子さんの偏った初恋への思いも弱まるみたいなの。けれどあんまり強く説得しすぎると『もう恋なんてしない』という方向にこじれちゃうみたいだから、何事も加減が重要、ということだと思うのよ……」
難しいのね、とため息をつきつつ、息吹はケルベロスたちに助力を請うのだった。
参加者 | |
---|---|
八柳・蜂(械蜂・e00563) |
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884) |
リティア・エルフィウム(白花・e00971) |
平坂・サヤ(こととい・e01301) |
神乃・息吹(虹雪・e02070) |
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259) |
小鞠・景(冱てる霄・e15332) |
●二人
「いやぁ~初恋とか初々しいですよねぇ。あおはるですよ! あおはる!」
テンション高く話す細身の少女は、リティア・エルフィウム(白花・e00971)。しかし口調とは裏腹に、ボクスドラゴン「エルレ」と共に校舎裏へと向かう速度はかなりのものだ。
初恋、という単語に思案する平坂・サヤ(こととい・e01301)は、難儀なことですねえ、と零す。
今回戦うことになるドリームイーターは、『初恋』の気持ちを弱めるような説得ができれば、弱体化が可能となっている。
「とはいえ、ぜったいに恋が悪いとゆものではございませんゆえ」
この場で省みて貰えるように声がけを。それが、ケルベロスの選択であった。
そうしてたどり着いた先で繰り広げられる光景は、「初恋」や「青春」といった言葉のイメージからはほど遠いもの。
差し込む夕日が、今にも町田・芳江に襲い掛からんとするドリームイーター「カオルコ」を照らしていた。
緊迫した空気の中、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)を初めとした面々が、ドリームイーター「カオルコ」と町田・芳江の間に割って入る。
「わたしの実るべき初恋を、邪魔するの!?」
そう叫ぶカオルコを正面に、そして芳江を背にネロとサヤが立てば、リティアが芳江に声をかける。
「芳江さん、逃げてください!」
「は、はい!」
事情を説明するより、今は少しでも早くこの場を離れ、安全な場所へ向かって貰った方が良いのは確か。
眩いまでに鮮やかな夕日を背に浴びて、夜の娘は静かに口を開いた。
「好きになってしまったものな、叶えたいよな。けれど叶えたいが為に、君の想いを告げないのは駄目だ。口にしない想いは伝わらない。口にしてみなければ、叶うも叶わないも解らない筈だ」
それに、と進み出るのは神乃・息吹(虹雪・e02070)。
「初恋は実るべき、と言うけれど……お相手の気持ちは関係ないのかしら。恋愛って、1人じゃ出来ないのよ?」
虹色を帯びた螺鈿の瞳を瞬かせ、真っ直ぐにカオルコを見る。
「婚約者さんが殺されたら、先輩さんは悲しむわ。まして自分の所為で殺されたなんて知ったら、どう思うでしょうね。告白が成功するどころか、貴女は仇になってしまうんじゃない?」
「そうです、確かに芳江さんがいなくなれば先輩の婚約者がいなくなるでしょうけど、そんなことしたあなたに先輩が振り向くと思います? 否! 婚約者殺した憎い相手ですよ!」
重ねて、リティアが語気を強めた。
「先輩の婚約者をあなたが殺せたとしても……今まで、告白する度胸もなかったあなたが罪を隠して背負いながら先輩の隣にいられるような気はしないんですよね」
八柳・蜂(械蜂・e00563)が、僅かに首を傾げる。
「背負って、生きられる?」
短くも重い問いに、カオルコは戸惑うように目線を彷徨わせる。
「恋心は強さをくれるけれど、その強さは、そんなことをする為のものじゃないのよ。好きな人の幸せを願って身を引くのも、また強さだわ」
微笑みながら告げる、息吹。
彼女の言葉に、カオルコがたじろいだように見えた。
●想い
「でも! わたしは、先輩と……!」
小さな大量のハートが、息吹に向かって渦を成して迫る。
地獄化した左腕を顔の前に構え、蜂が受け止める。もはや癖となったその動きは滑らかで、痛みを引き受けることに躊躇などしないかのよう。
蜂は思う。確かに恋は素敵だ、と。けれど、人を狂わせもするから怖くもある、と。
「まぁ、今回に限って言えば、全部ドリームイーターが悪いんですけど」
小さく笑って、纏わり付くハートを振り払うように腕を降ろす。
「燃えるような恋……ってよく聞きますし。とりあえず、燃えてみます?」
なんて蜂が口にすれば、ネロの炎の息がまさに薫子を燃え上がらせた。
「高校を出た後も君の人生は続いてゆく。魅力的な男性、運命を感じる男性、そんな相手ときっと出会う」
カオルコの身体に炎が灯るのを見ながら、ネロは語りかける。
「もしも初恋が駄目でも躓いている暇はない。大事なのは最後に誰を選んで誰と添い遂げるかなのだから」
「そうです! こんなことするよりも自分を磨きなさいな! たくさんの出会いを経験してステッキーな女性になったら、先輩だって婚約者を張り倒してあなたに振り向くかもしれませんよ? ね、はっちー!」
リティアの説得は、あくまでポジティブに。エルレの体当たりがあと一歩のところで回避された後は、星辰の剣で加護の魔法陣を描き、自身のいる列に癒しと耐性を付与して。
くすり笑う蜂が纏う攻性植物は、紫色の花が綻ぶヘリオトロープ。手袋ごしに撫でれば花々の間に黄金色の果実が実り、その光で後衛を照らし出す。
リティアの言葉にゆっくり頷く三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)は、ライトニングロッドの先端から癒しと賦活の雷撃を飛ばし、蜂を包み込んだ。
「恋は盲目ってね。一途な事は悪い事じゃないけどさ、少しその目を開いてみたら、もっと広い世界があるかもよ?」
軽く声をかける千尋は、まずは仲間による説得の推移を見守るつもりでいるようだ。
底抜けに明るい青目を髪の隙間から覗かせ、サヤは竜槌を一振り、砲弾を撃ち出した。
「そもそも、初恋は実らないって決めたのは、誰でしょう。薫子は、いちどでも先輩や芳江のこころを聞いたのです? じぶんの初恋だけを後生大事に抱えていたって、それは恋にも愛にもならないのですよ」
着弾、爆風。髪を抑え、サヤは続ける。
「薫子がほんとうに欲しいものは、薫子だけじゃあ手に入らないものですゆえ。ちゃあんと手を離して、相手に渡さないとだめなのです」
「ほしい、もの……」
普段なら「恋する乙女は応援してあげたい派」の息吹。しかしこの恋は応援するわけにはいかないと、エクトプラズムで疑似肉体を作り出し、自らの耐性を高める。
自身にもあったかもしれない、けれど思い出すことはかなわない初恋。だから薫子よりも少しだけ長く生きた経験を伝えるなら、と、小鞠・景(冱てる霄・e15332)も口を開いた。
「失敗を恐れていては、何も得られません。とはいっても、怖かったり、不安だったり……色々あるとは思います」
灰色の髪をなびかせ、剣の切っ先で魔法陣を描く。
「ですが、伝えたい気持ちがあるなら。搦手ではなく、正々堂々と」
浮かび上がる光が、前衛の加護をさらに強固なものとする。
「自分で掴み取らなかったら。与えられた恋の成就になってしまったら。……気持ち一つ伝えられなかったことを、きっと後悔すると思います」
「そうだ。だが、静かにこのまま想い続けるのも勇気を出して告白するのも相手のことを考えて身を引くのも、自由。その初恋を如何するかは君の自由だ」
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)は二本のチェーンソー剣を水平に構える。
「そ、そうだよ、わたしの自由……!」
勢いづくカオルコに対し、アラドファルは横薙ぎから摩擦炎を熾した。三つ編みに結わえ付けたお守りが跳ねるように揺れ、カオルコの傷口がいっそう燃え上がる。
「でもどうか、人を想うのなら押し付けてはならないという事に気付いてほしい。叶うか、叶わないか、そこに絶対の答えはない」
眠たげな瞳のまま紡がれる言葉は、柔らかくも真剣だ。
「初恋は特別な響き。だから特別な恋の後は……きっともっと素敵な恋だと思う」
初恋が全てではない。想うことで、人は変わっていく。そう話すアラドファルを前に、カオルコは胸の前で拳を握りしめた。
●願い
カオルコに言葉を向けると同時に、彼ら彼女らの心のうちには他人事ではない、あるいは他人事だからこそ複雑な思いがあった。
初めての恋心――かどうかは不明だが――で機械人形から人に成った蜂は、恋は素敵なことだと思っている。けれど失った左腕と同時に、彼女もまた「捨てられた」。壊しかけた心で思ったのは「恋なんてしなければ」。
今の蜂にとって恋は憧れ、機械の自分にはもったいないもの、だ。
蜂は指先から毒針を放ち、冷たく熱く痛みを与える蜂毒をカオルコに与える。カオルコに深く突き刺さるそれに絡め、籠められた微かな恨みはどのような種類のものだったのだろう。
一方、ドラゴンの幻影を放つサヤは恋も愛もよくわからない、という。伝え聞いたものでそれとなく把握はしているが、自分の持つ「誰かを想うと灯りが灯る」ものは恋とは考えていない。
「初恋を実らせたいとゆのは、変わりたいとゆことでしょうに。実った果実は、居心地の良い枝から飛び出さないとだめなのですよ」
驟の火雨にてカオルコに炎を付与する景は、実のところ過去の記憶がない。だから初恋があったかすら定かではないし、現時点で恋が何なのかは不明だ。それに、景が恋をしたとしても。その気持ちは、きっと押し殺してしまうだろうから。
せめて薫子には、という気持ちは景のエゴ、なのかもしれない。
虚無魔法を詠唱するネロの目は、意図せずとも優しいものになってしまう。
初恋は叶えたいもの、であるけれど。
想いを告げる勇気のない者は、そんなことを願う権利すらきっと、無い。
「いつかきっと君を選ぶ男が現れる。だから薫子、どうか帰っておいで。初恋なんかで足を留めている暇は、今の君には無い筈だ」
かつての自分に告げるように、ネロはカオルコへと語りかける。
女子の気持ちに疎いアラドファルではあるが、その分を差し引いても充分な言葉は届けられた。それに、心強い仲間たち――は、気付けば全員女子で、男子はアラドファル一人だけであった。
薫子から一番理解が遠い存在かもしれないアラドファルの言葉は、彼女に届いているだろうか。
「これでも恋人が居る身、恋愛が嫌にならないでほしいと願うのだが」
細やかな光が、カオルコを貫く。それは、アラドファルの「針星」だ。
「炎を拡げて回りつつ、初恋の未練は断ち斬るってね? ほら、初恋じゃないけど素敵な恋を実らせた人も一杯いるさね」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、千尋は仲間を見遣る。けれど次の瞬間には斬霊刀「無銘」にて傷を、炎を斬り広げている千尋だ。刀を鞘に収めた後、千尋は漆黒の髪を払って成り行きを見守る。
「初恋じゃ、なくても……」
その先は口をつぐみ、カオルコは受けた傷をいくらか癒す。しかし塞がる傷は少なく、リティアは何かに気付いたようにエルレを見遣った。
意図を察し、エルレはカオルコに体当たりをする。戦闘開始時は回避された攻撃であるが、すんなり当たるようになっている。足止めの効果もあるかもしれないと、リティアは確かめるようにエアシューズで駆け、摩擦で熾した炎と共にカオルコを蹴りつけた。
「……っ!」
手応えが、当初より確かに大きい。
「やったー! 説得、効いてるみたいですよ!」
カオルコは、ゆっくりと口を開いた。そうして彼女が声にしたのは、どれもケルベロスたちが届けた言葉たちだった。その口調は自身の思いを確かめるようでもあった。
やがて言い終えたカオルコは、意を決したようにケルベロスを見渡す。
「けれど。だから。踏み出す勇気が必要、なんだよね」
そう言って、カオルコは涙をこぼしながらも笑った。
ケルベロスたちの言葉は、確かにカオルコに届いていたのだ。
「あとはイブたちに任せて。貴女自身の為にも、必ず止めてみせるのよ」
息吹は表情を緩め、掌から竜の幻影を放った。
●日は沈む、けれど
弱体化したカオルコ相手に、ケルベロスたちは畳みかけてゆく。
蜂が傷を斬り広げ、サヤが凍結の竜槌を振り下ろす。
景の降らせる薬液の雨で回復は充分と踏んだ千尋は、レーザーブレードユニットを起動する。右腕部に形成された光刃を振るうさまは、手刀のそれだ。
「両手の刀だけがアタシの剣じゃないんだよねぇ―――三本目の刃、受けてみるかい?」
同時に、瞬時に間合いを詰めてカオルコの胴体を一閃する千尋。
「悪夢は俺達が払おう」
カオルコの頭部を強かに蹴り、アラドファルは後方を見遣る。
「イブ、頼んだぞ」
「任せて。それじゃアダム、お願いなのよ」
何かと息吹の白い角に乗ろうとするサバクミミズク「アダム」に魔力を籠め、撃ち出す。
「ステッキーな女性になるため、何だったら私がプロデュースしますよ!」
明るく声をかけるリティアが、星屑を纏った蹴りを喰らわせる。するとカオルコが笑った、気がした。
薫子が最初に取った選択は「告白をしない」こと。けれど「初恋は実るべき」とも考えていた。
つまり、薫子は自身の初恋が実らないことを理解していたのだ。その悲しい思いを汲んだからこそ、リティアは終始明るく声をかけていた。
エルレのブレスで、炎がいっそう強くなると、ネロは地面を蹴った。
「剣の愛する君は鞘、剣に愛された故に君が鞘、」
薫子の初恋を鞘に見立て、ネロは力を突き立てる。風穴ひとつ開けてしまえよと、閉じた心に薫風を招き入れるんだと。
「――、ネロも、ネロの初恋もほろ苦い。……言えない所まで君と一緒だ、薫子」
ネロの言葉をかき消すように、炎の熱が散りゆく。
カオルコの端々に見えていたモザイクが輝き、弾けて消えた。
結局のところ、この初恋をどうするべきだったのか。正しい答えが分からないまま、アラドファルはヒールを終えて一息つく。
「さて、この後如何なるのか……とても気になるが、甘酸っぱい青春を邪魔してはいけないな」
呟き、屋上に急ぐ女子たちを見送るのだった。
屋上では、薫子がひとり倒れていた。ネロはカオルコに駆け寄り、彼女の様子を確かめる。
「……怪我は無いようだ。……おや、気がついたようだな」
「あ、あなたたちは……?」
ケルベロスであること、そして事件のあらましを景が説明すると、薫子はうなだれた。
「そう、ですか……迷惑かけてごめんなさい……」
「失恋したとしても――まだ、次があります。酸いも甘いも、後で振り返れば、きっと良い思い出に」
景は、ゆっくりと首を振る。
次いで、息吹はしゃがみこんで薫子と目線を合わせた。
「ね、貴女の恋の話を聞かせてくれない? 幾らでも付き合っちゃう!」
「い、いいんですかあーーーー!! ぎいでぐだざいぃぃいいいい!!」
涙と鼻水混じりに、薫子は息吹へと抱きついた。その後は、薫子による遠慮なしのマシンガントークだ。
実際のところ、息吹自身、恋愛経験はそんなに無かったりするのだが――もちろんそれは秘密のまま、薫子の良き話し相手を務める。
すぐには無理でも、一生懸命な恋をしたこと自体はきっと良い思い出に変えられるはず。
だから今は、次の恋へ踏み出せるように、全部吐き出して。
「……たとえ受け止められなくても、また次の芽吹きがやってくる。卒業の季節ですねえ」
二人のやりとりを聞きながら校庭を見下ろすサヤの目には、綻び始めた桜が見えた。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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