犬死にせざるもの

作者:土師三良

●犬狼のビジョン
「おまえたちの使命は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ、復活させることにある」
 黒いヴェールを被った美女――螺旋忍軍のソフィステギアはゆっくりと身を屈めると、頭を垂れた配下にコギトエルゴスムを与えた。
 傍目には、飼い犬に首飾りをつけているように見えるかもしれない。
 その配下は犬の姿をしていたのだから。
「本星スパイラスを失った我々に、第二王女ハールはアスガルドの地への移住を認めてくれた。妖精八種族の一つを復興させ、その軍勢をそろえた時、裏切り者のヴァルキュリアの土地を我ら螺旋忍軍に与える、と……」
 コギトエルゴスムを受け取った者以外にも二人(二匹?)の犬型の配下が控えていた。どちらも最初の一匹と同様、深く頭を垂れている。
「ハールの人格は信用に値しない。しかし、追い込まれたハールにとって、我らは重要な戦力足りうるだろう。そして、ハールが目的を果たしたならば、多くのエインヘリアルが粛清され、エインヘリアルの戦力が枯渇するのは確実となる」
 語り続けながら、ソフィステギアは立ち上がった。
 それに合わせて三匹の配下が頭を上げる。
「我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
 配下たちが遠吠えで答えた。

「お? でっかい犬だなぁ」
 薄暗い裏通りで声をあげたのは、ホームレスらしき中年の男。
 視線の先にはあの三匹の犬型螺旋忍軍がいる。もっとも、男はそれらをただの大型犬だと思っているようだが。
「首輪を付けてるってことは俺みたいな根無し草じゃねえな。きっと、飼い主は心配し……ぎゅあぁぁぁーっ!?」
 独白が絶叫に変わり、路地裏が鮮血の海に変わった。
 螺旋忍軍が男に襲いかかり、襤褸を纏った体を千々に引き裂いたのだ。
 そして、この世から退場した男に代わって、別の者が現れた。
 馬の体に女の上半身がついた異形の存在。
 コギトエルゴスムから復活したセントールである。
「……?」
 焦点の合ってない目で周囲を見回していたセントールであったが、やがて視線を固定した。
 自分を復活さてくれた螺旋忍軍たちに。
 螺旋忍軍のうちの一匹が『ついてこい』とばかりに首をしゃくってみせると、反転して夜の闇に消えた。
 その後を無言で追うセントール。螺旋忍軍を味方だと判断したらしい。
 他の二匹もセントールに続き、路地裏には無惨な死体だけが残された。

●ねむ嬢かく語りき
「螺旋忍軍の襲撃事件を予知しましたよ! 螺旋忍軍といっても、見た目は大きなワンちゃんなんですけどね」
 夜のヘリポート。発進準備が整ったヘリオンの傍で、ヘリオライダーの笹島・ねむがケルベロスたちに語り始めた。
「事件が起きるのは滋賀県草津市の繁華街の裏通りです。被害者は猿田(さるた)さんという住所不定無職の……まあ、所謂ホームレスさんですね。その猿田さんを三人というか三匹のワンちゃん型螺旋忍軍が殺害し、それによって得たグラビティ・チェインでコギトエルゴスムを復活させちゃうんです」
 コギトエルゴスムから復活するのは半人半馬のデウスエクス。そう、神話や伝承でおなじみのセントールだ。『宝瓶宮グランドロン』に保管されていたという妖精八種族のうちの一種族であることは間違いないだろう。
「というわけで、今回の任務でやるべきことは三つ! 猿田さんを守り抜くこと。螺旋忍軍を撃退すること。そして、セントールのコギトエルゴスムを回収することです。今後のグランドロンの探索を少しでも有利にするためにも、妖精八種族のコギトエルゴスムはできるだけたーくさん手に入れておかなくちゃいけませんからね」
 三つのうちの一つ目――猿田を守ることに失敗した場合、三つ目の目標であるコギトエルゴスム回収も自動的に失敗となる。猿田が螺旋忍軍に殺されれば、セントールが復活してしまうのだから。復活したセントールを倒すことも不可能ではないが、ケルベロスが殺してもコギトエルゴスムの状態にはならないので、回収失敗という結果は変わらない。
 そして、猿田を事前に避難させることもできない。予知の内容が変わり、別の誰かが襲われ、救出がより困難になってしまうからだ。
「敵は隙あらば猿田さんを殺そうとするでしょう。でも、近接対単タイプのグラビティの標的にされている間は猿田さんに手出しはできません。いえ、実際は手出しできないこともないのですけれど……その場合、猿田さんの息の根を止めるのが精一杯で、セントール復活の手順がおこなえないんですよ。だから、近接対単タイプのグラビティを重点的に使用してください。もちろん、全員が使う必要はありませんけど」
 そこまで説明したところで、ねむは首をかしげた。
「それにしても判りませんよねー。どうして、螺旋忍軍がセントールのコギトエルゴスムを持っているんでしょう? ハールか他の誰かがかかわっているのでしょうか? ……って、今はそんなことを考えてる時じゃありませんよね。猿田さんの救出に全力を傾けましょー!」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ

●大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
「きっと、飼い主は心配し……ぎゅあぁぁぁーっ!?」
 夜の裏通りで悲鳴をあげたのはホームレスの猿田さん。三匹の犬型螺旋忍軍に狙われた不幸なおじさんよ。
 ねむちゃんが予知したビジョンでは、この悲鳴は猿田さんの断末魔の絶叫だったんでしょうね。だけど、現実の世界ではビックリして大声を出しただけ。
 なぜなら、可愛すぎるオラトリオ――この言葉ちゃんが夜空から舞い降りて、螺旋忍軍の一匹にいきなりスターゲイザーを食らわせたから。
「落ち着いて、そこにいてね!」
 蹴りの後にダイナミックかつチャーミングな決めポーズを取りつつ、背後の猿田さんに声をかける私。うーん、完璧! もう、ホッッッントに完璧! 名実ともに天使!
 ……でも、悲しいかな、この可憐な姿に心奪われるギャラリーは皆無なのよねー。猿田さんはいっぱいいっぱいで、それどころじゃないだろうし、螺旋忍軍たちも私ばっかりに注目している余裕はないはず。
 だって、降下してきたケルベロスは私だけじゃないんだから。
「躾のなってない野犬かと思ったら……螺旋忍軍ですか」
 三匹を見据えて、ゾディアックソードをかっこよく構えたのはベルローズちゃん。
  その斜め前に着地した竜派ドラゴニアンの神崎くんが翼をバサバサさせたまま、黒犬めがけて炎を吐き出した。神崎くんってば、鱗だけじゃなくて炎の色もブルーなのね。もしかして、普通のドラゴンブレスじゃなくて、独自のグラビティなのかしらん。
 そして、残る一匹――白犬に向かって、黒い影がダッシュ! アーンド、キィーック! その正体は黒豹の獣人の玉榮くん。
 続いて動いたのは、片腕でお人形さんをひっしと抱きしめたアンセルムくんよ。回し蹴りみたいなフォームで蔦型の攻性植物を繰り出し、赤犬に絡みつかせたりなんかして、かっこいー! でも、その間ずっと人形を抱きしめっぱなしというのがなんとも……。
「尻尾を巻いて逃げてくれないかな? そのコギトエルゴスムだけを置いてね」
 そう語りかけたアンセルムくんに犬たちは唸り声で答えた。尻尾を巻いちゃうつもりはないみたい。
 だったら、こっちも遠慮なく、ね。

●比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
「あの猿田氏なる御仁は――」
 ブレスを吐き終えた晟が振り返って猿田のおっちゃんの姿を確認し、すぐに犬たちに向き直った。喉の奥でブレスの残り火がまだ燃えているらしく、口を開け閉めする度に青い火の粉が撒き散らされてる。
「――佐々木殿の知り合いかなにかか?」
「うん。川っぺり生まれ、ダンボール育ち、家ない奴はだいたい友達……って、そんなわけないやん。でも、知り合いやのうても、放っておくわけにいかんよね」
 真顔で尋ねる晟にノリよく答えたのは佐々木のおっちゃっん。元ダモクレスのレプリカントだけど、猿田のおっちゃんと同じくホームレスだ。
 かく言うあたしも一時期はホームレス同然の暮らしをしてたんだよね。まあ、沖縄だから、寒さに凍えることはなかったよ。それに比べて、こっちのホームレスは冬場は大変だろうな。
 ……なんて柄になく感慨にふけってたら、犬どもが反撃してきた。牙で、爪で、わけのわかんない忍術みたいなので。
 じゃあ、反撃への反撃といこうか。
 御業を呼び出し、鎧に変える。着せた相手は佐々木のおっちゃん。
 最年長のおっちゃんが半透明の鎧姿(自分で装着させといて言うのもナンだけど、ぜっんぜん似合ってない)になっている間に、最年少の白も鎧を纏った。御業の鎧じゃなくてオウガメタルだけど。
「なにも知らないセントールを利用させるわけにはいかない……これ以上、無駄な血を流させないためにも!」
 勇ましい声をあげて、赤犬に戦術超鋼拳を叩きつける白。ドラゴニアンなんだけど、まだ子供だから、晟ほどの迫力はないかな。でも、敵に与えたダメージは小さくないはず。
 そして、更にダメージ追加。佐々木のおっちゃんがスターゲイザーをぶち込んだから。

●神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
 ベルローズ君がゾディアックソードの切っ先でアスファルトを削り、スターサンクチュアリの守護星座を描いた。
 私がいる位置はその範囲外だったが、それでもヒールとエンチャントを授かった。相棒であるラグナルの属性インストールによって。
 他のサーヴァントたちも健闘していた。玉榮君のウイングキャット(名前くらいつけてやれ)は清浄の翼で仲間たちを癒し、テレビウムのテレ坊は凶器(壊れた傘だ)で黒犬に挑み、ラグナルの同族のぶーちゃんはボクスタックルで白犬を牽制している。このぶーちゃんというのは臆病な奴なのだが、今日はサーヴァント仲間が多いから、ちょっと気が大きくなっているようだな。
 ぶーちゃんのメッキが剥がれぬうちに白犬を倒したいところだが……そちらは玉榮君に任せて、私は先程と同様に黒犬の相手をしよう。
 錨型のドラゴニックハンマー『溟』を構えて踏み込む。
 身を屈めて跳躍せんとする黒犬。だが、四つの足が地面から離れるよりも早く、鎖を手にした和服姿の少女――ビハインドの百火君(一之瀬君の亡き妹らしい)が背後に出現した。
 彼女のビハインドアタックに合わせて、『溟』をゴルフクラブさながらにスイング。黒犬は錨の鉤に横腹を抉られ、吹き飛ばされた……が、ビルの壁を蹴って私に飛びかかり、左腕に噛みついてきた。
 牙を立てられた場所が氷結していく。螺旋氷縛波に相当する攻撃なのだろう。もっとも、敵の横腹も氷結しているが。先程のスイングはアイスエイジインパクトだったからな。
 噛みついたままの黒犬を振り解くべく、腰を落として左腕を地面に叩きつける。アスファルトが砕かれ、無数の破片が跳ね上がったが、黒犬は無傷。瞬時に離れ、横手に飛び退いている。
 私が距離を詰めようとした時、奇妙な音が聞こえてきた。

●アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
 おかしな音の発生源は白犬のようだけど……神崎の様子がおかしい。どうやら、音に影響を受けて、白犬のほうに意識を向けているらしい。
 黒犬をノーマークにするのが敵の狙いなんだろうね。でも、そうはいかない。その手の作戦はこちらも想定済みだ。
「黒い奴を頼む」
「うん」
 と、声をかけあったのは玉榮と一之瀬。
 その黒白コンビが向かった先にいるのは白犬と黒犬。黒い玉榮の狙いは白犬で、白い一之瀬の狙いは黒犬。なんだか、ややこしいぞ。
 玉榮の後を追っていたウイングキャット(名前くらいつけてあげなよ)が尻尾をピンと立てると、そこに付いていた花輪が季節外れのヒマワリに変わった。しかも、燃えてるヒマワリ。
 玉榮がヒマワリを取り、日本刀の鍔のあたりに挿すと、たちまちのうちに刀身に炎が燃え広がった。その刀を白犬めがけて振り下ろし、斬り裂くと同時に焼いていく。
 一之瀬のほうは如意棒をヌンチャク型に変えて、斉天截拳撃を黒犬に食らわせている。
 これでノーマークの敵はいなくなった。残された赤犬はボクらが叩くからね。
「犬型だけじゃなくて、猫型の螺旋忍軍もどこかにいるのかな?」
 玉榮に護殻装殻術を施しながら、比嘉が呟いた。彼女は猫系の人型ウェアライダーだから、そういうことが気になるのだろう。
「まあ、どうでもいいけど」
 あ、どうでもいいんだ……。
「フェネック型とかレッサーパンダ型とかネザーランド・ドワーフ型とかの螺旋忍軍がいたらどうしよう? 可愛すぎて攻撃の手が鈍っちゃうかもー!」
 恐るべき事態を懸念(『杞憂』とも言うね)して、大弓が身を震わせている。まあ、身を震わせながらも、赤犬をしっかり攻撃してるんだけど。簒奪者の鎌に地獄の炎を乗せて、ブレイズクラッシュ。
 そして、炎の次は氷。佐々木が大器晩成撃を打ち込んだから。
 赤犬はかなりグロッキーのようだ。なにせ、三匹の中で誰よりも多く攻撃を受けているからね。
 では、楽にしてあげようか。

●ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
 アンセルムさんの戦術超鋼拳を受け、空中に弾き飛ばされる赤犬。
 地面に落ちた時、それは死体と化していました。
 落ちてきたのは死体ばかりではありません。小さな金属片も私の足下に落ちてきました。アンセルムさんに殴られた時に壊れた首輪の一部。名前らしきものが刻まれています。『TONY THE SWALLOW』。
「なぜ、わざわざ名札など付けるのですか? 飼い主とはぐれてしまった時の用心ですか?」
 犬たちを挑発しながら、私はまたゾディアックソードで守護星座を描きました。今度の対象はアガサさんと白さんとアンセルムさん。怒りを付与されたと思わしき晟さんをキュアしたほうがいいかと思いましたが(立ち位置を回復役に定めているので、今の私のヒール系グラビティにはキュアが伴うのです)敵が二匹だけとなったら、もう必要ないでしょう。異常耐性も付与されていますし。
「飼い犬だろうと野犬だろうと、人を襲うような子は捕まっちゃうのよ! 本物のワンコならちょっと可哀想だけど、凶悪なデウスエクスだから同情の余地なーし!」
 言葉さんが黒犬にスターゲイザーをぶつけました。その衝撃で黒犬は後方によろめく……かと思いきや、横に飛ばされました。砂塵や礫を含んだグラビティの強風を受けたのです。どうやら、その風を起こしたのはアガサさんのようですね。
「Friedrich Ludwig Anton Martha Martha Emil Eins=Bahner_02」
 あら? 風の音に紛れて、電子音声のようなものが聞こえてきましたが……誰の声でしょう?

●一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
 機械じみた声を出したのは照彦殿だった。
 いや、声だけじゃない。レーザーも出した。標的は黒犬だ。
 見事に命中。
 にもかかわらず、照彦の表情は浮かない。
「なにか問題でも?」
 気力溜めで自分を癒しながら(たぶん、怒りをキュアしようとしているのだろう)晟隊長が尋ねると、照彦殿は情けない声で答えた。
「この光線のグラビティを使うとな、最後に食べたもんの記憶が消えてしまうねん。満腹感は残ってんのに楽しい食事の記憶だけが消えてしまうんはけっこう切ないでぇ」
 うーん。確かに切ないかも。
「せやけど、なんか口の中にカレーの味が残ってるわ。きっと、最後に食べたんはカレーやな」
「惜しい。カレーまんだよ」
 訂正しつつ、アンセルム殿が蹴りの要領でストラグルヴァインを放つ。
 黒犬はギリギリで身を躱したけど、そのギリギリのところに僕はマインドソードを振り下ろした。
「ねむ殿の差し入れのカレーまんを皆で食べたんですよ。ヘリオンでの移動中にね」
 と、アンセルム殿の言葉(といっても、言葉殿のことじゃないよ)を僕は補足したけど、照彦殿は首をかしげている。やっぱり、思い出せないみたい。
 楽しい記憶が消えてしまうのは辛いことだろうね。
 悲しい記憶がいつまでも消えないのも辛いけど……。

●玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
「あなたたちが誰に飼い慣らされているのか知りませんが、私たちに虐められてキャンキャン鳴きわめいても飼い主さんは助けてくれませんよ。所詮は捨て駒でしょうから」
 仲間たちをメタリックバーストで援護しながら、ベルローズが犬たちを挑発している。アギー(アガサのことだぜ。念のため)並みに辛辣だな。
「あたしと同じくらい毒舌とか思ってるよね?」
 俺を横目で一睨みした後、黒犬めがけてスターゲイザーを放つアギー。こいつめ、知らないうちにテレパスに進化しやがったな。
 テレパス娘の蹴りを黒犬を躱せなかった。数分前に倒された赤犬よりもは粘ったが、そろそろ限界のようだ。
「もう限界のようだな」
 ほうら、白も同じことを言ってるぞ。
 兄の言葉(といっても、あっちでアイドルめいたポーズを取ってる言葉のことじゃないぞ)が合図であったかのように、百火が鎖を伸ばして黒犬を絡め取った。
 間髪を容れずに白が懐に飛び込み、掌底を叩き込む。小さな体に似合わぬ強力な一撃だったらしく、黒犬は動かなくなった。ちなみに『小さな体』ってのは野郎たちと比べた場合の話。角を入れたら、女性陣(もちろん、テレパス娘も含む)よりは背が高い。
 さて、残るは一匹。
 猫(名前なんかいらない)の尻尾から燃えるヒマワリをまた拝借して刀に挿し、俺は白犬に斬り込んだ。最初の頃はかろうじて命中といった感じだったんだが、状態異常の累積によって敵の機動力が削がれている上にメタリックバーストでこちらの命中率がアップしているので、今回はいとも簡単に当てることができた。
 燃える刃が離れぬうちに凍れる錨が白犬を打ち据えた。晟のアイスエイジインパクトだ。
 そして、すぐに第三の……いや、最後の攻撃が決まった。
 ベルローズのシャドウリッパー。蹴り上げられた爪先が白犬の喉を斬り裂き、血煙が噴水のように夜空へと伸びる。
 断ち切られた首飾りが地面に落ちた。そこに刻まれた名は『IRVING THE MOONLIGHT』。
 ムーンライトか。嫌な名前だ。
 こいつの出自はウェアライダーだったのだろうか?
 そうだとしたら、知っているはずだがな。月の光がどれだけ忌まわしいものか……。

●佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
「猿田殿……いい奴だったな」
 はい。晟くん、無表情でボケるの巻き。
「いや、べつに死んでないからね」
 はい。アンセルムくん、これまた無表情でツッコむの巻き。
「あはははは……」
 二人の横で白くんが苦笑しとる。『無理して大人ぶってる感』が漏れまくってる子やねんけど、笑とる顔は年相応に見えるね。
 で、無表情漫才のネタにされた猿ちゃんはというと……なんか、茫然自失としとるな。べつに怪我はしてないけど、状況がまだ把握できてへんみたい。
 そこにアガサちゃんが近付いて――、
「ほら」
 ――と、缶コーヒーを差し出した。ああ見えて、優しい娘やねん。いや、『ああ見えて』とか言うたらアカンか。
「どうぞ、照さん」
 お? タマちゃんが煙草を勧めてきた。もろとこ、もろとこー。
「照さんって……どうして、そういう生活スタイルなんですか?」
 なんや、変なことを訊いてきたな。タマちゃん、オッサンの伝記でも書くつもりかいな? まあ、ええわ。隠すことでもないし。
「たいしたことちゃうねんけど、普通に都会で機械に囲まれる生活が嫌になってもうてん。あんまダモクレス時代と変わらんなぁー思て。ほんで、会社を辞めてんけど、案外なんとかなるやん? まあ、ケルベロスやっとって収入あるからこそやけどな。ケルベロスのお給金をもろた日はな、家無し仲間と一緒に飲みに……って、ちょお、タマちゃん! なんで笑ってんの?」
 オッサン、なんか笑うようなこと言うたかなー?

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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