策略の女忍者

作者:なちゅい

●暗殺者同士の邂逅
 宵の口、街を行く一人のシャドウエルフの少女。
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)はぼんやりと歩いている。
 人の多い場所だと誰かにぶつかりそうなものだが、持ち前の身軽さもあって人の波を通り抜けていく。
 普段から、彼女はあちらこちらの旅団を渡り歩くことも多い。
 今日も依頼を終え、そちらへと向かっていた途中だったのだが……。
 意識せず、町の路地へと足を踏み入れていたことに気づいたリーナ。
 周囲には人の姿はない。どうやら、何者かに誘い込まれてしまったようだ。
「…………この感じは」
 こちらに向けられる殺気にリーナは表情こそ変えぬが、素早く周囲へと視線を巡らす。
 すると、彼女は足元に仕掛けられた地雷が起爆するのを察し、すぐさまその場から離れる。
「ああん、さすがね」
 頭上から落ちてきたその人影は、濃いオレンジ色の髪をツインテールにした、露出の高い少女。
 その敵の姿にリーナは目を見張り、構えをとる。
「悪いけど、アタシの為にその命もらうわね」
「……緋愛、どうして」
 どうやら、襲い来る螺旋忍軍とリーナは認識がある様子だが、相手は構うことなく襲い来る。思考操作でも受けてしまっているのか、あるいは……。
「ふふっ、アタシに見とれちゃっているのかしら?」
 相手は、自身の外見で相手をたぶらかす術にも長けた相手。
 リーナは仲間達が駆け付けるのを待つべく、その相手に応戦するのである。

●元暗殺者の少女の救援を
 デウスエクスの襲撃が予見され、ケルベロスが狙われていることが分かった。
 ヘリポートに集まるケルベロス達はその事件について確認すべく、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)から説明を受けていた。
「被害者となるのは、リーナ・スノーライトだよ」
 この場に、リーナ本人の姿はない。
 連絡も取れない状況となっていることから、すでにデウスエクスから襲撃を受けている可能性もある。
 それもあって、できるだけ早く現場に向かって救援へと当たりたい。

「現れるのは、螺旋忍軍が1人。【殲略家】焔・緋愛という名の女性だね」
 この敵は、愛らしい笑顔の裏で常に策を巡らす策謀家とのこと。
 自らの色気を含めて使えるものを全て使い、容赦なく相手を罠へとはめるのだそうだ。
 緋愛がリーナを狙う理由は不明だが、宵の口の時間に町の路地を通りがかったリーナを襲撃してくる。
 ご丁寧にも、周囲の人払いをした上で、だ。
「ただ、一般人が巻き込まれる危険がなくなるのは、こちらとしてもありがたいところだね」
 避難誘導を考えずにすむ為、デウスエクスとの交戦に集中できる。
 ケルベロスが現場に到着した時には、リーナは緋愛の襲撃に応戦しているはずだ。
 彼女をすぐ支援し、螺旋忍軍の焔・緋愛を撃破したい。

 一通り説明を受けたケルベロス達は、リーゼリットがヘリオンのチェックを始めると、互いに挨拶、顔合わせを行う。
「策謀家か。果たして、どんな策を巡らしてくるのか……」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が顎に手を当てて考えると、メンバー達がそれぞれ考えを口にする。
 今回の敵とリーナの関係性も気になるところだが……。
 そこで、離陸準備の整ったヘリオンに搭乗するよう、リーゼリットがケルベロス達に促す。
「どうか、彼女を無事に助け出してあげてほしい」
 そう一言願い、リーゼリットは操縦席へとついていくのだった。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)
四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)

■リプレイ

●マギアアサシン救援劇
 徐々に暮れゆく街で、ケルベロスの一団が足早に駆け抜ける。
「この人は去年、僕を助けてくれた人だ! だから、今度は僕達が助ける番だ!」
 戦闘種族のオウガなれど、温厚さを抱かせる武蔵野・大和(大魔神・e50884)は大声で気合を入れる。
「リーナとは前に、オークの依頼で一緒になったからなー! 絶対に助けるぞー!!」
 緑髪に愛用のバンダナ着用した四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)も、依頼の縁あっての参戦だ。
「リーナさんの宿敵デスか」
 美しい金髪に自身と同じ名前の花を生やすスノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)は、今回の宿敵主にもいろいろあるのだろうと推察はするが、それはそれ。
「アタシとしては、アタシの役割を果たすだけデスネー」
「きっと急ぃでる。急ぎ急ぎ。早く動くの、大事」
 態度としては、急いでいるようにも見えるラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)だが、何せ彼女は普段からマイペースっぷりを発揮している。
 寒さ対策に暖かい服装で依頼に臨むラトゥーニはすでに眠さを覚え、うつらうつらとしてしまっている。
 それを、ミミックのリリが助けながら移動する形だ。
「焦ると失敗するし……、リリがもっと大きかったら楽なのに」
 ラトゥーニの脳裏に『改造』という言葉が浮かんだのは、今回の相手とも関係しているのかもしれない。
「リーナのピンチとあっては、駆けつけないわけにはいかないわ」
 銀髪ツインテールのルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)も旅団繋がりで仲良しである宿敵主の救援の為、魔砲少女の力を見せてやると意気込む。
「絶対に助けるわ……!」
 茶色の髪を後ろで纏めたシャドウエルフの少女、羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)も己の感情を吐露する。
 結衣菜にとっても宿敵主は友達であり、貴重かもしれない魔法少女の1人。
 相手が如何なる策謀を巡らせているか、結衣菜には知らないが……。
「ま、8人揃えばなんとかなるでしょ。勝つわよ、みんな!」
 呼びかけた仲間と共に、彼女は現場へと急ぐのである。

 とある街の路地ではすでに、2人の元暗殺者が対峙していた。
「生きていたの……?」
 襲ってきた相手に対し、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)が大きく目を見張り問いかける。
 死んだと思っていた暗殺者時代の相棒に違いない。
 だが、相手……螺旋忍軍へと堕ちた『殲略家』焔・緋愛はそれには答えず。
「悪いけど、アタシの為にその命もらうわね」
 敵はすでにこの路地に罠を張り巡らし、誘い込んだリーナを嵌めようと立ち回る。
 彼女も身軽さを活かして動き回り、罠にかからぬよう注意を払う。
 こうした形で襲撃を受けるのは、リーナも初めてではない。
 だからこそ、この予知を元に仲間達が駆け付けることを信じ、なんとかこの場を持ち堪えようと立ち回る。
 しかし、緋愛が得意としているのは罠だけではないことも、彼女は十分に承知していた。
「どう、アタシに見とれていいのよ」
 煽情的なポーズをとり、敵は相手を惑わすのを得意としている。
 グラビティとして緋愛が自らをアピールすれば、異性だけではなく、同性すらも落としてしまう。
 リーナはそれに抵抗し、降魔刀「叢雲」で切り掛かりながら更に問いかける。
「緋愛、何故わたしを狙うの……?」
 その生存を喜びたい一方で、自分の命を狙う見知った相手に、リーナは戸惑いを隠せない。
 だが、相手がまともに答える様子はなく。
「アタシの為なら、きっとリーナなら喜んで身を呈してくれるよね」
 投げつけてくる腰の小瓶は、相手の傷口を大きく抉ってくる。
(「やり口は知ってる……。でも、昔はこんなに強くは……!」)
 その力は、彼女が定命ならざる存在となり果てた事を示していた。
 主に地面へと張り巡らす地雷や落とし穴は、嵌まるだけでも致命傷となりうる。
 刃を振るった彼女は宙を舞って攻撃を仕掛けたが、見えない網に絡まれる。敵は空中にも罠を張っていたのだ。
「リーナのことなら、お見通しよ」
 落ちる先にはおそらく地雷が。
 リーナが覚悟を決めて身構えたその時、戦場に迸る雷光が放たれ、すぐさま網からリーナは逃れて飛び退る。
 同時に、割り込んできた影が緋愛の体を両腕に装着した戦籠手で殴りかかっていく。
「リーナー! 無事かー!?」
 それは、バンダナを揺らすリーフだ。
「悪いっすが、その辺でやめてもらうっすよ」
 雷撃を発した少女は杖を振るう。
 光の奔流の中、ひらひらとしたドレスの魔法少女へと変身し、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は着地して。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 くるっと回り、シルフィリアスは可愛く決めポーズをとってみせた。
 さらに、ルリィもまたバスターライフルを発射させ、牽制を行う。
「元相棒だと聞いたけど、好き勝手にはさせないわよ」
 いつも通り強気で元気な態度のルリィだが、その語気には怒りが含まれている。
「みんな、ありがとう……」
 無表情なリーナだが、その言葉には心からの感謝が込められていた。
「ふ~ん、あれが今の相棒なのかしらね」
 だが、緋愛が気にする素振りはまるで見られない。
 そう思考を改造されているのか、あるいは元々その程度の関係だったのか……。
「どういう関係か知らないけど、同じケルベロスの仲間を助けるのに理由はいらないぞー!」
「右に同じく。斬るkillシマスヨ」
 スノードロップも夜闇の中で、魔刀「血染めの白雪」を煌めかす。
 そこに駆け付けてきた雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)。
「遅くなった。支援に入ろう」
「はい、回復役として、ヒール中心にお願いします」
 サポートに駆け付けた彼へ、大和が端的に依頼を行う。
 周囲に人気がないことを、結衣菜は十分確認していたが、念を押して殺界を展開していくと、ルリィが再度相手を睨みつけて。
「私たち相手に可愛さで挑んだ事、リーナの命を奪おうとした事……」
 今度はチェーンソー剣を手にし、ルリィは飛び掛かる。
「死ぬより後悔しながら死になさい」
「い・や・よ。あなた達こそ、アタシの策にはまってしまいなさい」
 緋愛はさらりと受け流し、これ見よがしに自らの可愛さをアピールする。
「策ー!? そんなもんアッカンベーだ! 真正面から叩きつぶしてやるー!」
 そんな敵へ、リーフが叫びかけて舌を出して煽ってみせ、正面から攻撃を仕掛けていくのである。

●『殲略家』焔・緋愛
 襲撃してきたデウスエクスは、リーナがよく知る相手。
 それだけに、手強くはあれども、相手の行動パターンが読めるのはプラスとみるべきか。
 ともあれ、この場は仲間と協力すべく、まずは仲間達の攻撃が効果的なダメージとなるよう、リーナは雷を纏わせた刃で切りかかっていく。
「ふふ、アタシが切れないようにしてあげるわ」
 相手が可愛らしいポーズを取ろうとしたところで、ルリィがツインテールを揺らして飛び込む。
「お前よりも私のがカワイイし、スタイルも良いわよね」
 相手も自分と同じツインテールで胸が大きい相手。
 それに、リーナのこともあって、ルリィは怒りを爆発させる。
「リーナの暗殺者だった過去は聞いてるけど、大事なのは今よ」
 静かに、それでいて、激しく怒りを燃え上がらせ、ルリィは激しくチェーンソー剣で斬りかかっていく。
 傷つくリーナへと、大和が球状に整えたオーラを蹴りだす。
 脚を使ってグラビティを行使するのは、大和がパン屋で働くからこそ。
 彼は腕や手を大切にべく、足技でグラビティを使いつつ仲間の守りへと当たる。
 リーフの翼猫チビと共にチームの癒し手となる結衣菜は前衛陣の為、エクトプラズムで疑似肉体を作り出す。
 それによって、しばし相手のチャームから逃れようという作戦。
 さらに、結衣菜のシャーマンズゴースト、まんごうちゃんが飛び込み、非物質化した爪で相手の体を薙ぎ払う。
 体をすり抜け、霊魂だけを傷めつける爪を緋愛は堪える。
 そこに、ミミックのリリが愚者の黄金をばら撒き、相手を逆に惑わそうとしていた。
「罠とか種も仕掛けも、ぁりそぅだからリリごー」
 主のラトゥーニは戦場をふらふら。
 前線にミミックを向かわせれば、きっと罠にかかってくれて自分が楽になるはずと、眠たげな表情の奥で考えていたらしい。
 いつも通りとはいえ、己のサーヴァントに厳しい少女である。
「この程度で、アタシを倒せると思っているのかしら」
 すると、リズムに乗るスノードロップが前のめりに飛び込み、
「我が声に従い現れよ、光刃の嵐! 踊レヤ踊れ! 刻めや刻メ! 汝を阻むものはなし!」
 すると、緋愛の足元に月と瞳の意匠を取り入れた魔法陣が展開していく。
「現れヨ! 魔剣招来・気狂い三日月」
 そこから現れた無数の三日月状の光る刃は、スノードロップの声に応じて狂ったように躍り出す。
「サア、狂気の月に切り刻まれるといいヨ」
 緋愛が如何に素早く、軽やかな身のこなしをしていようとも、光る刃から簡単には逃れられない。
「いいっすか。巨乳相手にかける慈悲などないっす!」
 刃に切り裂かれる緋愛へ、相手の豊満な胸部を見ていたシルフィリアスが言い放つ。
 彼女は自らの髪の束の先端から牙の生えた口を現し、緋愛へと食らいかかっていった。
 ただ、それはあくまで牽制の手段。
 魔法少女用マジカルロッド「カラミティプリンセス」を、シルフィリアスは相手へと突き付けて。
「行くっすよー」
 先端の宝石部分から放射される眩い光。
 シルフィリアスの放つエネルギー砲弾が緋愛の体を包み込む。
「きゃああん!」
 そこにいつの間にか跳び上がっていたリーフが頭上から強襲する。
「落下して、蹴ーる!!」
 攻撃を畳みかけられ、逃れられぬ緋愛は脳天からその一撃を浴びてしまう。
 軽く頭を揺らし、体に痺れを感じる敵だったが、すぐに微笑んで見せて。
「かかったわね?」
 それまで何事もなかった地面を突如起爆し、ケルベロス達を巻き込んで見せたのである。

●策士策にはまる
 巻き起こる爆発の中、ケルベロス勢は前衛陣がしっかりと緋愛が仕掛けた地雷に耐えていた。
 そんな中、リーナが相手の死角から刀で切りかかる。
 すでに与えた傷を活かし、動きを封じていこうとするが、緋愛はまだ余裕を見せている。
 大和が掌底を使って癒しの拳を振るい、地雷で怯んだメンバーの癒しに当たる中、ラトゥーニはふと考える。
「今回は相手1人だしリリ、ぃらなぃ子?」
 デデーン。
 哀愁漂うミミックへ、主からの容赦ない追い打ち。
 しゅんとするリリを、ラトゥーニはさらに容赦なく敵に向けてほん投げる。
「眠ぃしリリに残って、もらわなぃと帰る時面倒そぅ、だからがんばれがんばれ」
 ふらふらする本人は、全く気にすることなくごーいんぐまいうぇいである。
 さて、盾役が防いだとはいえ、火力役にも爆発の影響は及ぶ。
 煤で体を汚しつつも雷撃を発するシルフィリアスを含めた前衛陣へ、ライトニングロッドを操るリュエンが雷の壁を構築して支援に当たる。
 さらに、翼猫のチビが翼を羽ばたかせ、シャーマンズゴースト、まんごうちゃんが無言で祈りを捧げ、盾役メンバーの癒しに当たる。
 まんごうちゃんの主である結衣菜が仲間の状態と体力を確認しながら、回復の合間に攻撃にも出る。
 夜天弓セレネを引いて動き回る敵を狙い、自動追尾する矢で射抜いていく。
「あぁ……ん……!」
 いくらデウスエクスとなっても、これだけのケルベロスが攻撃を仕掛ければ、緋愛自慢の可愛らしさも台無しとなっていく。
「死者の呪怨ヨ、魔剣を導け」
 仲間の元相棒とはいえ、スノードロップはまるで容赦をみせずにガンガン刃で切りかかる。
「コレは怨讐ノ刃。お前ガ殺したものが魔刀を導ク」
 怪しく煌めく魔刀の刃。
 スノードロップがそれを緋愛の体深くへと食い込ませると、チビの主であるリーフが戦籠手を嵌めた指で素早く突き、相手の脚の動きを止める。
「ううっ……!」
 態勢を整え直し、三色の小瓶を投げ飛ばして応戦する緋愛だが、ルリィはそれを浴びてもさほど反応を見せない。
 それどころか、3体に分裂したルリィが同時に衝撃波を放つ。
「お前には分かるまい! 私の身体を通して出る力が! 滅殺!!」
 その衝撃波の後を追い、ルリィは立て続けに相手の体を切り裂いていく。
 とにかく、派手な攻撃で相手の気を引くメンバー達。
「僕が只の盾役だと思うのは大間違いです!」
 それまで、防御、回復に当たっていた大和も、タイミングを見てエアシューズを燃え上がらせ、緋愛の体へとサマーソルトキックを叩き込む。
「いくっすよ! グリューエンシュトラール!」
 前方では再び、ロッドの先に光を集め、シルフィリアスがエネルギー塊を浴びせかけていけば、緋愛の体がくらつく。
 その直後、シルフィリアスはウインクして決めポーズを忘れない。
 満を持して、そこに近づくリーナ。
 ケルベロス達の攻撃は、リーナに気を払わせぬようにする為の策だったのだ。
「目覚めよ力……わたしの刃は全てを断ち、全てに死を与え討ち滅ぼす……!」
 自らの魔力とグラビティを使い、背には魔力でできた4対の漆黒の翼。そして、手には黒く輝く一振りの魔力刃を手にする。
「リーナさん、決着を付けてください!」
「やっちゃえリーナー!」
 大和やリーフの声援を背に受け、他のメンバー達も固唾を飲んで見守る中、リーナが飛び込む。
「ア……アタシ達、相棒よね?」
 そこで、瞳を潤ませ、両手を合わせて懇願する緋愛。
 しかしながら、相棒だからこそ、それが演技だとすぐにリーナは察し、諦観したように溜息をついてから加速して。
「黒死に呑まれ滅びろ……!」
 全力をもって、その刃で緋愛を止める。
「きゃああああ…………」
 魔力刃から巻き起こる滅びの魔力渦が彼女を飲み込んでいく。
 それが収まると、路地を再び静寂が支配し始めたのだった。

●甘いものを食べてしんみりと
 事後、メンバー達は戦場となった路地へと手早くヒールで修復していく。
「何か軽食でも食べていきましょう」
 夕食時とあって、修復の手伝いに回っていたルリィが提案すると、周囲に癒しの風を吹かせていた結衣菜が何やら気にかけて。
「あ、勝ったあとは料理パーティはやめよう? リーナちゃんの料理は、その……ね?」
 多少しどろもどろになりつつも、結衣菜が喫茶店の料理を食べるよう促すと、リーナが頷いて。
「うん、行こう……」
 少ししんみりした態度で、彼女は仲間達を誘う。

 表通りへと戻り、メンバー達は席について注文する。
 女性メンバーが多いこともあり、ルリィはケーキセットを注文すると、スノードロップは「ンー……」と少し唸ってから同じものを頼む。
「こう見えても、カロリーとか気を使ってるデスヨ」
 戦闘で思いっきり動いたから、大丈夫と判断したのだろう。
 なお、スノードロップはロイヤルミルクティーを合わせてオーダーしていたようだ。
 ラトゥーニはそれまで戦闘の間を含めて終始眠たげな様子だったが、卓にケーキが運ばれてくれば、その甘い匂いもあって僅かに眠気が引いていたようだ。
「改めて……、救出、ありがとう……」
 皆の元に注文の品が運ばれてきたところで、リーナが立ち上がり、礼を述べる。
 先ほどの敵について話すのだろうと察した大和。
 彼は多めに頼んだ軽食を食べる手を止め、一言問う。
「大丈夫ですか? 言える範囲で構わないんですよ?」
 リュエンも何も言わぬが、小さく頷いて同意する。
 すると、リーナは誰かに聞いてほしいと考えたのか、緋愛との関係についてぽつぽつと語り出す。
 ――彼女が元暗殺者時代の相棒であること。
 ――組織の壊滅後、消息不明となっていたこと。
 その後の経緯は分からないが、利用されたのかもしれないし、生きる為に自ら螺旋忍軍となったのかもしれない。
 ……それでも。
「あの子を説得や救う事はできなかったのかな」
 かつての相棒を倒したことに、悲しみを滲ませるリーナ。
 しばらく、黙するメンバー達の中、立ち上がったリーフが何も言わず肩に手を置く。
 リーナはぼんやりと窓から夜空を見上げ、本当の意味で自由になったかつての相棒の顔を思い浮かべるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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