綺麗なお友達

作者:白鳥美鳥

●綺麗なお友達
 機械宮殿の様な場所にパッチワークの魔女の3人が集まっていた。
 第七の魔女・クレーテは、牛の被り物を捨て去る。そこに現れたのはグレーテル。手にした『コギトエルゴスム』に、魔女の力(グラビティ・チェイン)を注ぎ込んだ。そして、その力を受けたコギトエルゴスムからタイタニアが現れる。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」

「あのね? 今日はね?」
 女の子が熱心に何かに話しかけている。すると、急に目の前に美しい蝶の羽を持ったタイタニアが現れた。
「……わあ、綺麗……!」
 少女は妖精の登場に満面の笑みを浮かべたが、直ぐに血を流して倒れてしまう。タイタニアは傷ついた少女にヒールを施すと、蝶の羽を羽ばたかせて飛び去って行ったのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、事件だよ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話し始める。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知があったんだよ。妖精を信じる純真な少年少女のグラビティ・チェインをうばって、妖精8種族の1種と思われる、妖精型デウスエクスが実体化する事件が起きたんだ。……どうやら、少年少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれていて、十分な力が溜まった段階でデウスエクスが実体化するという事みたいなんだ。夢の中にコギトエルゴスムを埋め込むという手段から、この事件の背後にはドリームイーターがいるんじゃないかとは思うんだけど、詳細はよく分からないんだ。ただ、出現する妖精型デウスエクスに被害者を殺す意図は無いみたいなんだけど、このまま放置する事は出来ないね」
 デュアルは詳細について話し始める。
 今回、大事なのは話す事かな。妖精を信じる純粋な少年少女でなければ、妖精型デウスエクスを復活させることは出来ないんだ。だから、まずは少女に実際にあって、色々な話をするなどして『妖精が嫌いになったり、妖精に興味を失う』様に仕向ければ復活が不可能となって、少女の夢の中からコギトエルゴスムが排出されるから、コギトエルゴスムを確保する事が出来る。また、説得に失敗した場合は、妖精型デウスエクスは戦闘はせずに撤退しようとするよ。復活したばかりで、それ程強力なデウスエクスではないから、撤退する前に強力な攻撃を叩き込めば撃破は出来るけど、それではコギトエルゴスムを得ることは出来なくなってしまう。妖精型デウスエクスが出現してしまった場合は、撃破するか見逃すかについては、現場の判断に任せるよ。攻撃を行わないなら1分程度の会話をするタイミングはあるかもしれないよ」
 デュアルはケルベロス達に言葉を投げかける。
「少女の目にはね、妖精が見えているんだ。だから、妖精なんていない、なんていう説得はとても難しいと思う。だけど、『妖精よりも興味を惹かれるもの』が出来れば妖精の姿も見えなくなって復活を防ぐことが出来る。興味を惹くものをプレゼントしたり、面白い話をしたり、素敵な体験をさせてあげるのも良いかもしれないね。みんなの頑張り、期待しているよ!」


参加者
長月・春臣(勇気の鎖・e03714)
牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
彼者誰・落暉(ウィッチドクターと心霊治療士・e41593)
 

■リプレイ

●綺麗なお友達
「あなたの羽、綺麗だよね? 蝶々の羽みたい!」
 きゃっきゃと話している女の子。その近くには何もいない。でも、彼女には何かが見えている様で、とても楽しそうに話していた。だから、その光景は少々異様だ。
 少女の名前は香奈。ケルベロス達は前もって香奈の両親に話を通して接触する事にした。
 妖精が見えている女の子は、妖精を信じる様な心を持った子だ。ファンタジー要素は生かすに越した事は無い。
 コンコン。秦野・清嗣(白金之翼・e41590)は、窓を叩く。それに驚いた香奈は窓の方に向かった。
 彼女の前には、ふわふわのボクスドラゴンの響銅が窓越しにこちらを見ていた。まんまるふわふわな不思議な生き物に興味を持った香奈は窓に手を伸ばす。
「や、こんにちは。窓を開けてくれる?」
 響銅が話しているかのようにみせながら、清嗣は香奈に話しかける。
「こんにちは。どうぞ」
 香奈は満面の笑みを浮かべながら窓を開けてくれる。その中に響銅が入り、香奈の胸元に飛び込むと、続けて清嗣、長月・春臣(勇気の鎖・e03714)とテレビウムのまうが入ってきた。まうもふわふわもこもこしていて、響銅と並ぶととても可愛らしい。
「こんにちは僕は春臣、オラトリオです、それと、この子はテレビウムのまう」
「まうちゃん……! この子のお名前は?」
 割と物おじせず、まうに触れる香奈は、清嗣に響銅を見せて尋ねた。
「さはり、っていうんだ。宜しくね」
「さはりちゃん……! ふふっ、可愛いね! それに翼の生えているおじさん達も、とっても不思議だし、綺麗で天使みたい!」
 目の前に妖精のタイタニアが見えていて話をする位の少女だからなのか、それとも好奇心旺盛なのか、香奈はキラキラした瞳で、まうと響銅、春臣と清嗣を見ている。ここまでキラキラした瞳で見て貰えると、何だかちょっと照れるし嬉しく感じてしまった。
「こんにちは香奈ちゃん。妖精ちゃんが迷子になったから連れて帰るために来たんだけど、仲良くしてくれてるんだ」
「妖精さんをお迎えに来たの? この、綺麗な妖精さんを?」
 急に香奈は寂しそうな顔になり、何もない所を見ている。余程、彼女の見ている妖精は綺麗なのかもしれない。
「うん。だけど、その前に僕達とも仲良くしてくれるかなぁ? それに、他のお友達も来てるんだよ」
 笑顔は絶やさず、清嗣は香奈に優しく語りかける。そして、彼の言葉を合図に、牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)、彼者誰・落暉(ウィッチドクターと心霊治療士・e41593)が香奈の部屋に入ってきた。
 狼のウェアライダーの青年に、カラスアゲハの様な蝶羽を纏った少女、サキュバスの男性。皆、オラトリオの二人とは全く違う姿だ。そんな彼等に香奈は目を丸くする。流石に一気に現れすぎて驚かせてしまったかとケルベロス達は思ったのだが……。
「わああ! すごーい! みんな、お友達なの?」
 相変わらず抜群の適応力を発揮する香奈。確かに、日本には地球人以外の種族も住んでいるが、千里は地球人ではあるけれど、他の四人は別種族。接点も多い方では無いだろう。だから、驚いたり怖がっても可笑しくは無いのだけれど、彼女の好奇心はそれを上回るらしい。逆に、これだけキラキラの笑顔で喜んでもらえると、新しく一般人の女の子の友達が出来た様な気さえしてしまう。
「お姉ちゃんの背中の羽……私のお友達と同じで蝶々みたい! 黒い色でも綺麗なんだね!」
 そう言われてしまうと、千里としては妖精じゃないとは言いづらい所ではあるのだけれど、オウガメタルはオウガメタルで興味を示してくれるかもしれないと思い直し、改めて笑顔で香奈に微笑む。
「お姉ちゃんの羽は、蝶々みたいだけど……本当はこういう姿なの。オウガメタルって言うもので、名前はクロ」
 千里はオウガメタルのクロを、纏っていた背中から掌にカラスアゲハ姿をさせて香奈に見せる。
「うわあ……綺麗。こんにちは、クロちゃん」
「こんにちは、香奈ちゃん」
 挨拶する香奈に、千里は蝶の姿をしたクロを、彼女の頭に乗せてあげる。それに、香奈は嬉しそうな顔をした。
「こんにちは、香奈ちゃん。俺はきばのくにりゅうじっていうんだ。宜しくな」
 自分の顔が怖い顔だと自覚している龍次は、出来るだけ優しい声でそう話しかける。そんな龍次に香奈はにっこりと笑った。
「こんにちは、わんちゃんのおじさん!」
「……いや、わんちゃんじゃなくて狼……後、おじさんじゃなくてお兄さん……」
「じゃあ、狼のお兄さん!」
 間違った見解を披露してくれる香奈に、龍次は小さい声で『狼』である事と『お兄さん』である事をアピールすると、すんなり受け入れて貰えた。……名前では無く『狼のお兄さん』になってしまっているが、この辺りはまあ、良いだろう。続いて落暉が挨拶をする。
「こんにちは、お嬢さん。お嬢さん、お名前は? おじさんは かわたれ らっきって言うんだ」
「らっきおじさん……。名前は香奈、香奈って言うんだよ!」
「うん、宜しくね、香奈ちゃん」
 一通り挨拶を済ませると、香奈は改めて周囲の来訪者を見回す。
「ええと、天使さんが二人に、さはりちゃんとまうちゃん、狼のお兄さんに、クロちゃんのお姉さん……それから、らっきおじさん……」
 確認する様にそう言いながら、香奈は落暉の所で目を留める。
「らっきおじさんは……ご本でも見た事無い姿なの。どうなってるのかな?」
「おじさんはサキュバスなんだけど……確かに余り御伽噺には出て来ないかもしれないね。ムフロンという羊の仲間の角や蝙蝠の羽、尻尾もあるんだよ。触ってみたいかい?」
「うん!」
 確かにサキュバスは、小さい子供の御伽噺には出て来ないだろう。特に気になるのだろうか、落暉の角を触ってみたりしている。
「コウモリさんの羽があるなら、お空を飛べるの?」
「うーん、残念だけど、おじさんは飛べないんだ。でも、清嗣くんや春臣くんは空を飛べるよ」
 話を振られた清嗣と春臣は自らの翼を見せる。清嗣の翼は四対八翼、春臣はお話に良く出てくる天使と同じ一対二翼。翼の数では清嗣の方が多いけれど、背が高くがっしりとした体形の春臣も一対二翼でも十分迫力があった。
「空を飛んでみたい?」
「うん! ……でも」
 清嗣の言葉に元気よく香奈は返事をしたものの、視線を龍次や千里に向ける。二人の事も凄く気になるらしい。
「じゃあ、後で長月君と一緒に飛ぼうか?」
「うん! ありがとう!」
 清嗣の提案に、香奈は嬉しそうに頷くと龍次や千里の所に再びやって来た。
「狼のお兄ちゃんが持っているのは楽器?」
「ああ。これはギターって言うんだ。これを奏でて演奏するんだよ。こういう風に……」
 龍次が奏でるのは、ゆっくりとした優しい曲。それに合わせて、千里はクロを蝶の姿で飛ばしてあげる。優しい音楽に、綺麗な蝶の舞。それは、とても綺麗な世界だった。香奈もうっとりしているが、それを見守るケルベロス達もその綺麗な世界に癒される気持ちになる。自分達は戦う事だけでは無くて、こうして小さな女の子に夢を与えられる事を強く実感した。それは、とても大きい事で。
「……妖精さんも素敵だけれど……香奈の知らない所では、こんなに綺麗で不思議な物が一杯なんだね。ご本の中だけかと思っていた事も……本当は触れることも出来るんだ」
 香奈の中で、妖精と同じくらい……それよりももっと上の世界が広がっていく。
 コトリ。そう音がしたと思うと、香奈の傍にはコギトエルゴスムが落ちていた。それに気が付き、ケルベロス達は、ほっと一息つく。もう、彼女は無事だ。恐らく、妖精や見ていたタイタニアを忘れる事は無いだろう。でも、他にももっと素敵な事が沢山ある事を知って、彼女の世界は広がったのだ。
 コギトエルゴスムは、香奈に気がつかれないように、そっと回収する。
「香奈ちゃん。ちょっと見ていて?」
 安心と、香奈が喜んでくれた事に対して、千里はプレゼントを渡したくなった。手のひらの上にクロを呼び寄せる。クロはキラキラと光りだし、メタリックバーストの様な綺麗な軌跡を描くと香奈の手の中に到着する。それはチョコレートの入った可愛いプレゼント。
「わあ……、ありがとう、クロちゃんのお姉さん!」
「……喜んでくれて嬉しいな」
 満面の笑顔の香奈に、千里も嬉しくなる。
「クッキーもありますよ。良かったらどうぞ。それとも、一緒に作ってみますか? まうの形のものとか」
「うん、作りたい! それと、天使さんの翼とかお花とか、狼さんとか、クロちゃんとか、さはりちゃんとか……らっきおじさんは……角? 翼? 尻尾?」
「じゃあ、全部作っちゃおうか? おじさん達も手伝うよ」
「わーい、やったー!」
 サキュバスはどれにしたら良いだろうという顔の香奈に、落暉はそう提案する。それに、香奈は嬉しそうに微笑んだ。
「……後」
 くるりと香奈は龍次の方を向く。何だか期待でキラキラした瞳をしていた。
「狼のお兄さんも触っても良い? 狼さんって触った事無いもん!」
「俺で良ければいくらでもどうぞ」
「やったー! あたーっく!」
「わ、くすぐったい、くすぐったいっ」
 香奈は早速、龍次に抱きつくと、撫でるだけでなく顔をすり寄せてみたり、尻尾を触ってみたり……怖がるどころかじゃれつく姿に思わず笑みが零れる。
 その後は、色々な形をしたクッキー作りに皆で励んだり、焼いている間に、香奈はクロを肩に、まうと響銅を抱いて、落暉に本を読んで貰ったり、龍次に音楽を弾いて貰ったり。
 その後は、談笑しながら焼き立てのクッキーを食べて、その後は春臣と清嗣と一緒に空の散歩を楽しんだり。
 満面の笑みをずっと浮かべる香奈を見ていると、こちらも嬉しくなるし、楽しくなる。そして、この純粋な気持ちをずっと香奈に持って貰いたい、そう思う。
「また会いたくなったらお手紙をおくれ」
 香奈にとって夢の様な時間を過ごした後、遊び疲れて眠くなってきた彼女に清嗣は住所を渡す。
「本当に? 本当に遊びに来てくれる?」
「うん。まうと一緒に遊びに来るよ」
「今度は狼姿を見せてあげても良いかもな」
「ええ、またクロと一緒に……」
「次はおじさんのお勧めの本を持って来てあげるね」
 不安そうな香奈に、春臣、龍次、千里、落暉は笑顔を見せる。
「じゃあ、またね?」
 自らに咲いているコケモモの花を香奈に手渡すと清嗣は微笑む。
「うん、また遊んでね!」
 次の来訪はいつになるか分からないけれど、また、香奈と過ごす時間はケルベロス達にとっても貴重な時間になると思う。
 その純粋な……綺麗な心を持った少女がその心を持ち続けてくれる様に。
 それを見守る事も素敵な事だと、改めて心に刻むのだった――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月6日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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