忍犬は影に潜み、人馬は闇に蘇る

作者:青葉桂都

●忍犬たちへの指令
 暗闇の中、女性が1人で立っていた。
 いや、1人ではない。彼女の前には数体の犬が姿勢を正して座っている。
「いいか。お前たちの使命は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ、復活させることにある」
 ゆったりとした服に身を包んだ女は犬たちの前に宝石のついた首飾りを置いた。
「本星『スパイラス』を失った我らに、エインヘリアルの第二王女ハールはアスガルドへの移住を認めてくれた」
 その条件がコギトエルゴスムを復活させること。妖精8種族の1種を復興させることができれば、ヴァルキュリアの土地を彼女ら――『螺旋忍軍』に与えるという。
 女が説明している間、犬たちは一声も吠えずに耳を傾けていた。
「ハールの人格は信用に値しない。しかし、追い込まれたハールにとって我らは貴重な戦力となりうるだろう」
 犬たちが頷く。
 いずれハールが目的を達成すれば、多くのエインヘリアルたちが粛清されて彼らの戦力は枯渇することだろう。
「我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
 女が言葉を切ると、犬たちは静かに平伏し、首飾りをくわえた。

●妖精の復活
 深夜、とある繁華街の外れを酔っぱらった男が歩いていた。
「あーあ、明日も仕事かあ……車に轢かれて骨でも折れば、会社を休める上に慰謝料も入ってひと儲けできるんだけどなあ」
 酔った勢いからよからぬことを考えていた彼は、これから交通事故どころではない災難にあうことをまだ知らなかった。
 物陰から飛びかかってきた5体の犬に噛みつかれて、彼は短い悲鳴を上げた。
 だが、その声は誰にも届くことなく、男はすぐに息絶える。
 犬たちの1体が首から下げていた宝石が変化し始めた。
 ほどなく、上半身は人で、下半身が馬という姿をしたデウスエクスが復活する。
「……ここはどこだ? いったいどうして……」
 戸惑って周りを見回してから、彼は犬たちに気づいた。
「お前たちが……俺を復活させてくれたのか。ありがたい。だが、なにが望みだ?」
 問いかける彼に、犬はついてくるよう身振りで示す。
 そして、デウスエクスたちは姿を消し、後には酔っ払いの残骸だけが残った。

●螺旋忍軍を阻止せよ
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は行方不明となっていた『宝瓶宮グランドロン』につながる予知がまたあったと告げた。
「動物型の螺旋忍軍による襲撃事件が発生するのですが、その螺旋忍軍が『コギトエルゴスム』を装飾品として身に着けているようなのです」
 襲撃で死亡した人物のグラビティ・チェインを奪い、コギトエルゴスムは人馬型のデウスエクスへと変化するという。
 人馬はおそらく妖精8種族の1種だと考えられる。
「襲撃を阻止して、螺旋忍軍を撃破していただけますようお願いします」
 そうすればコギトエルゴスムの手に入れることができるはずだ。
 襲撃が行われるのはとある繁華街だ。
 深夜、酔っぱらって歩いていた男が襲撃されてしまう。
「その人物を狙っていたというより、物陰が多く襲撃が行いやすい場所だから選ばれたと考えるべきでしょう」
 つまり、下手に襲撃前に対策すると予知されていない別の人物に狙いを変えてしまう可能性が高いということだ。
 現場は繁華街の外れの方で、時間が遅かったこともあって他の一般人は周囲にいない。
 狙われる男と、デウスエクスの排除に全力を尽くすことができる。
「5体の螺旋忍軍は犬の姿をしていますが、知能も犬並というわけではありません」
 犬たちは螺旋忍者と同等のグラビティを使用してくる。
 また、高速で回転しながら牙で引き裂いて、装甲を損傷させる技も使えるようだ。
「大事なことですが、螺旋忍軍は皆さんとの戦闘よりも、コギトエルゴスムの復活を優先して行動するようです」
 攻撃を受けながらも一般人を殺してグラビティ・チェインを奪おうとするのだ。
 ただし、接近戦の最中……それも、範囲攻撃ではなく単体に集中した攻撃を受けている状態ではうまく復活させることができないようで、一般人を攻撃しない。
「幸いなことに後方で距離を取って戦おうとする敵はいないようです」
 なお、もしも人馬型が復活した場合、混乱している人馬型はそのまま逃亡してしまう。螺旋忍軍はその逃亡を助け、ケルベロスを足止めしようとするようだ。
 人馬型にうまく攻撃を集中できれば撃破は可能かもしれないが、追いかけたり捕まえるのは無理だと考えていいだろう。
「螺旋忍軍が何故妖精8種族を復活させようとしているかは不明です。もしかすると、エインヘリアルが裏で関与しているのかもしれません」
 しかし、考えるのはまず一般人を守ってからのことだ。
 よろしくお願いしますと、芹架は頭を下げた。


参加者
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)

■リプレイ

●町外れの番犬
 繁華街の外れを酔っ払いが歩いている。
 男に、牙を研ぎ澄ませた忍犬が襲いかかろうとしていた。
 だが黒い犬が飛びかかろうとしたところに、割り込んだ者がいた。
「ハン、妖精復活させて手土産にしようってか。手段が手段じゃなきゃあ、俺等が邪魔する事もなかったんだろうがよ」
 デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)が忍犬の牙を体で受け止める。
「下手打ったモンだな、ご愁傷さん」
 犬の頭をつかんで投げ飛ばすと、デレクは唸りをあげて回転する剣を構えた。
「単純な話です。誰かが蘇るために誰かを殺めなければならないなら私はそれを認めない。それだけの話です」
 別の方向からしかけた白犬の牙を無表情に斧で受け止めたのはマリオン・オウィディウス(響拳・e15881)だ。
 彼らだけではない。8人のケルベロスと2体のサーヴァントが地面に座り込んだ酔っ払いを取り囲み、忍犬たちの接近を阻んでいた。
 白犬が飛び退く。
「人馬の彼らは私たちが他の方法で蘇らせる手立てを探しますよ」
 マリオンは白犬ではなく、自らが相手をする手はずの忍犬を目で追う。
「セントールとはまだ敵対になっていないし、ここで仲間に引き入れたい所っす」
 代わって白犬と対峙するのは、巫女装束をまとったツインテールの少女だ。
「負けていい戦いなんてないっすけど、ここできっちりと勝って敵対しないようにしたいっすね」
 神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)が雷をまとい、御祓い棒を一気に伸ばした。
「新種の妖精種族ってのは、昔各種族等を調査していた俺としては気になるところだが」
 くちばしのような形をした鋼の口を開いたのはククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)だ。
「誰かの命を犠牲にさせるわけにはいかねぇからなァ!」
 白衣のレプリカントは距離をとって敵に狙いをつける。
 その横で、同じく犬たちを狙うのは銀髪紅眼のドラゴニアンだ。
「私欲のためにセントールを復活させるべく、一般人を殺めるか。セントールを手駒にさせるのも、無辜の人を虐殺するのも、やらせんよ」
 フレイア・アダマス(銀髪紅眼の復讐者・e72691)はボクスドラゴンのゴルトザインと共に犬たちを鋭い眼光でとらえている。
 犬たちも素早く陣形を整えて、牽制のうなり声を上げている。
「猫の日前後だというのに何故、犬型螺旋忍軍しか出てこないんだ……!」
 そんな敵の姿を見て、嘆息したのは熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)だった。
 首を左右に振ると、ウェーブのかかった髪が揺れる。
「まぁ、猫型螺旋忍軍が出てきても戦いにくいから、いいけれどー」
 嘆きながら、まりるももちろん酔っ払いへの接近を阻む立ち位置を選ぶのは忘れない。
(「なんで螺旋忍軍はマスタービーストのことを知っているんだ? しかも様って……。それじゃまるで……」)
 敵と対峙しながら、牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)は頭に疑問符を浮かべていた。
「……いや、まだ情報がないよな、今はこっちをどうにかしないと」
 まずは為すべきことを。そう決めて、彼はアームドフォートに装着したバイオレンスギターを構えた。
 互いにしかける隙をうかがい、戦いは今にも始まろうとしていた。
 ボロボロの黒いスーツをはおった男が、包帯の合間から犬たちをにらみつける。
 夜風がスーツを揺らすと、青黒い混沌の水で構成された腕が覗いた。
「……貴様らの思い通りにはさせん、ここで叩き潰す」
 そして、副島・二郎(不屈の破片・e56537)の鋭い言葉が、開戦の合図となった。

●忍犬たちは闇に踊る
 真っ先に動いたのは黒犬の一体だった。猛然と回転しながら迫る攻撃を、マリオンのミミックである田吾作が仲間をかばって受ける。
 すぐさま反応したのは主であるマリオンだ。
 田吾作の真後ろへと接近したが、それは別にミミックを気遣いに行ったわけではない。
 無表情のまま、サーヴァント越しにルーンアックスを無言で振り下ろす。
 敵はいまだに酔っ払いを狙っている。ヘリオライダーの予知で知っていたケルベロスたちは、それぞれ対するべき相手をあらかじめ決めていた。
 フレイアは龍次と共に、黒い犬に狙いをつけている。
 数で言えば味方は敵の倍の数かいるが、しかし個々の能力で言えば敵のほうが格上だ。航法からしっかりと狙いをつける。
「犬の姿の螺旋忍軍、か。珍しいデウスエクスもいたものだな」
 拳を握る。15のときにすべてを失って、それ以来研鑽を続けてきた拳。
「だが、犬であろうが珍しかろうが、人に仇成そうとするなら魂を食らって復讐の糧にするまでだ」
 もう1体の黒犬が氷結の螺旋を放ってマリオンの腕を氷漬けにする。
 そこに、フレイアは走り込んだ。
 オーラをまとったバトルガントレットが黒犬を打ち、降魔の力が魂を吸い取った。
「あんまり得意じゃないんだけどなっ! 獣撃拳っ!」
 フレイアに続いて中距離から龍次も狼の拳を繰り出している。
 うっとうしげにうなる犬たちは、酔っ払いに手を出す機を逸したようだった。
 他の犬たちとの戦いも、もう始まっていた。
 白犬には対しているのは結里花と二郎だ。
「忍犬……こんな形の螺旋忍者もいるんすね……まあ、敵の形が何であれ、敵なら倒す、それだけっす」
 大蛇をかたどった大木槌を結里花が振り上げる。
「さあ、神宮寺の巫女の務めを果たしましょう。神宮寺流戦巫女、神宮寺結里花。参ります!」
 戦闘態勢に意識を切り替えた少女の口調が変わった。
 振り下ろした木槌が白犬を打つ。
 彼女の攻撃が命中したことを確かめてから、二郎は輝く盾をマリオンの前に生成して支援している。
 残る3人が対しているのはこげ茶の犬たちだ。
 デレクは突進してきた1体の前に立ちふさがった。
 衝撃と共に体内へ注がれた気が、彼の内側で破裂する。
「犬と人が戦ってる……飲み過ぎたかなあ……」
 血を吐き出したデレクの後ろで、酔っ払いが呆然と呟いた。
「ったく、いい気なモンだぜ」
 思わず語気が荒くなったのは、仕事中で自分が飲めないからではない。はずだ。
「酔っ払いさん、歩くのが難しいなら転がって戦線から離れてくれると嬉しいなー」
 まりるが言葉をかけながら、忍犬へと接近した。
「右の方を狙うよ! 外したらお願いねー」
 エクスカリバールを振り上げて、彼女は宣言した通り敵を引き裂く。
「なら、俺はこっちだなッ! 蹴りとばすぜッ!!」
 ローカストの魂を宿したククロイが足に玉虫色の輝きを宿して跳躍すると、勢いよく突っ込んでもう1体を蹴り飛ばした。
 デレクは2人に続くかどうか一瞬考えたが、どうやらこげ茶の2体はキャスターだ。先ほどの攻撃で動きが鈍った彼には厳しい。
「俺は回復に回らせてもらうぜ。ったく……ツマんねーモン喰らってんじゃ無ェよ!」
 自らを叱責しながら、自分と仲間に注がれた気を貪り喰らい、デレクは黒炎を残滓として振り撒いた。
「螺旋忍軍の気を喰らったって、とてもいい気分にゃなれそうにねえな」
 不機嫌に呟き、彼はまたこげ茶の犬に合わせて前進した。
 接近して攻撃を続けなければ男守りきれないため、ケルベロスの行動は制限される。
 それを補って支えるのはマリオンやデレク、田吾作といった防衛役だ。
「……とはいえ、5匹がかりで来られるのは少々難易度が高いですね」
 マリオンは冷静に自分や仲間の負傷状況を見極めて呟く。
 田吾作の負担が大きいが、今は気にしてはいられない。
(「どれか1体だけでもなるべく早めに片付けましょう」)
 そうすればマリオンも回復に回る余地ができる。
 ……それに、力なき者へ暴虐を振るう犬たちを長く生かしておく気にもならない。
 手数があるのが厳しいが、ケルベロス側の攻撃が防がれているわけではない。
 マリオンはこげ茶の敵と対峙したまま、白いキャスケットの下からちらりと白犬を見た。
「……後は勇気だけ」
 瞬時に消えたマリオンが白犬の眼前に現れ、必殺の斧を叩き込んだ。
 結里花は一瞬にして目の前に現れたマリオンを認識すると、素早く呪を唱えた。
「大いなる水を司る巳神よ、その身を激流の槍と為し、仇なすものを追い詰め捕らえ喰らいたまえ。急急如律令!」
 御祓棒を振ると、彼女の頭上に巳神の化身たる八岐大蛇が現れる。
 斧が痛打を与えた白犬へ8本の首が伸びていく。
 それは水の槍と化して忍犬を追い詰め、そして飲み込む。
 水が消えたあとには、圧し潰された犬の残骸だけが残っていた。

●犬には難しかった仕事
 5体いた敵のうち1体が倒れると、戦況は確実にケルベロスへと傾いた。
 もっとも、隙を見せれば酔っ払いが狙われるのは同じこと。前後不覚に陥りながらも少しずつ戦場から離れようとしていたが、忍犬たちは同じだけ彼との距離を詰めている。
 ケルベロスを倒すことよりも……そしておそらくは、彼ら自身の命よりも、妖精を蘇らせることのほうが重要なのだろう。
「ワンちゃん達には何かしらの使命があるようだが、知ったこっちゃねぇ! 遠慮なく全員倒させてもらうぜェ!!」
 ククロイは赤熱するブラックスライムを手に、こげ茶の犬へと吠えた。
 こげ茶の犬たちは分身を付与して攻撃に耐えようとしている。
 だが、白犬を倒した結里花が加勢に来て、その守りを崩す。
「邪魔です! どきなさい!」
 彼女の霊力に反応して放電する羽衣をまとい、鋭い蹴りが敵を断つ。
 ゴルトザインのブレスも追撃を加えた。
「いつまでも犬とたわむれてるつもりはないんだよねー」
 まりるが1体を相手取っている間に、デレクが敵をズタズタに切り裂いた。
 傷ついた敵に反撃する間を与えず、ククロイは一気に接近した。
「何もかも喰らい尽くせェ! アギトォ!」
 燃焼のアギトの名を持つブラックスライムが、溶岩のごとく流れて忍犬に襲いかかる。
 赤熱するスライムは足元にまとわりつき、捕食形態となった自らの内部へと呑みこみ、喰らい尽くす。
 残ったのは、犬が身に付けていた装飾品……コギトエルゴスムだけだった。
 黒犬のうち片方はクラッシャーで、もう一方はディフェンダーのようだった。
 守られながら打撃役はケルベロスたちの体力を削り取る。
 咆哮と共に放った氷結の螺旋がフレイアを貫いた。
「無事か、アダマス?」
 二郎はマインドリングをはめた手を向けながら問いかける。
「心配には及ばぬ。こんなところで、私は、私達は――負けるわけにはいかんのだ!」
 声を上げ、フレイアが自らを奮起させる。英雄たらんとする意志を込めて、彼女は拳を強く握った。
 その声は二郎の心も揺さぶっていたが、彼はそれ以上声をかけることなく、ただフレイアの前に光の盾を出現させた。
 自分はただの武力であればいい。その想いを胸に、二郎は仲間を支え続ける。
 マリオンも癒しの風を吹かせて回復する間に、龍次が不慣れな動きながらも気で忍犬を内部から吹き飛ばす。
 そして、裂帛の気合いを上げたフレイアの爪が、防衛役の黒犬を引き裂いたのは数分後のことだった。
 残り2体。
 死に物狂いの攻撃から、デレクやマリオンが仲間をかばう。
「いい加減しくじったって気づきやがれ」
 デレクが吐き捨てた。
 痛打を受けたディフェンダーたちのために二郎が踊った。フェアリーブーツをはいて舞い踊ると、彼の体を構成する青黒い水があらわになる。
 混沌の水から生れたて花びらのオーラが仲間たちを癒していく。
 対して、かばってくれる仲間を失ったクラッシャーは傷つく一方だ。
 マリオンの斧が引き裂いた表皮に、フレイアの降魔の拳が突き刺さる。
 龍次はもはや敵に力が残っていないと判断し、3機の小型誘導戦闘機を召喚した。
「ファング、ロア、ネイル! あいつがターゲットだ、行け!」
 中距離から飛ばしたドローンは、その連携を最大限に発揮して黒犬を追い詰める。
 ファングのミサイル、ロアのガトリングを避けたその先には、ブレードを構えたネイルが待っていた。
 ドローンの刃が深々と敵を断ち、残る敵は1体きりとなった。
 最後の敵へとケルベロスたちの攻撃が集中する。
 分身して自らを守ろうとする敵に、結里花とククロイが接近した。
「ぶち抜け、白蛇の咢!」
「傷口を拡げてやるよォ!」
 エネルギーを噴射する木槌が敵を打ち、チェーンソー剣が切り刻む。
 フレイアと龍次の拳が、デレクのチェーンソー剣が、二郎のハンマーが、そしてマリオンの斧が次々に敵を襲った。
 キャスターである忍犬は立て続けに繰り出した攻撃の一部を回避してなんとか生き延びたが、そこが限界だった。
 まりるは最後の犬の前に立った。
「わんこに懐かれるならいいけど、お前らの中身は螺旋忍軍だろう、謹んで殴り返しますのでー。猫ぱんち!」
 三毛猫のウェアライダーである彼女は、猫の手を犬へと叩きつける。
 だが、それで終わりではない。
「木漏れ日が揺れる道で 切なさを知る理由は 君に」
 胸の内に生まれた切なさは、犬ではない螺旋忍軍にじゃれつかれたせいか。その切なさを、彼女は何度も何度も何度も繰り返し叩き付ける。
 切ない猫パンチは心に降る雨のように忍犬へと降り注ぎ、最後には打ち砕いた。

●それはただの夢
 酔っ払いは、夢ではないことにようやく気づいたようだった。
 青ざめている彼にまりるが近づく。
「酔っ払って見た夢だ、忘れよう!」
 アルコールの分解を助けるドリンクを手渡して彼女は告げる。
「ケガはしてないかい? 治してあげるから見せてごらん」
「い、いえ……大丈夫です」
 ククロイの問いに酔っ払いは首を勢い良く横に振った。
「目がさめたんだったら、さっさと帰れ。これ以上危ない目に合わないうちにな」
「……酔うのもいいが、程々にしておくんだな。……悪い夢を見るぞ」
 デレクや次郎に声をかけられて、彼は早口でケルベロスたちに礼を言って去って行く。
「ま、無事だったんならよかったんじゃないっすかね」
 普段の口調に戻った結里花が彼の背をながめる。
「忘れないうちにコギトエルゴスムを回収しておこうか。なにか細工されてないといいんだけどな」
 龍次が言った。
「そうですね……見た感じおかしなところはなさそうですが」
 マリオンが冷静に、螺旋忍軍のうち何体かが装着していた宝石を観察する。
「……妖精種族って8種族いるんだよな? これで、えっと……あとなん種族かな? わかってないんだっけ? 他の種族もこういう風に使われるのかな……」
 宝石を手にして龍次が呟く。
「可能性はあるな。まずは、利用されずにすんでよかったというところか」
 フレイアが言った。
 いつの間にか姿を消した次郎が周囲のヒールを終えていたので、他の者たちも宝石を手に引き上げる。
 回収したコギトエルゴスムがどうなるのか今はわからないが……少なくとも、デウスエクスに利用されることだけは、もうないはずだった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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