微睡みパーティ~冥加の誕生日

作者:絲上ゆいこ

●3月3日、昼
 昼過ぎのヘリポート。
 ケルベロス――あなたを見つけた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)は、ウサギの耳を跳ねながら駆け寄って来た。瞳を覆う前髪からその瞳は伺えぬが、彼女はぴかぴかに微笑んでいるようだ。
「ねえ、ねえ! 今日はみんなをお誘いしているのよ!」
 あなたも準備をして来てほしいわ、なんて。
 冥加はあなたの手を引いた。

●ふわふわもこもこうさぎさんルーム
 床にたくさんのお布団のひかれた、ホテルの一室。
 ウサギをモチーフにした、ふわふわのお部屋。
 サイドテーブルには温かいお茶に、たくさんのお菓子。
 甘いチョコレートに、クッキー。
 フィナンシェに、マカロン。
 備え付けられたクッションも、ぬいぐるみもみんなみんなウサギさん。
 お気に入りのナイトウェアに身を包んだら。
 今日は眠たくなるまで、皆でパジャマパーティ!

 恋の話、将来の話、夢の話。
 好きなお店の情報交換、おしゃれの話!
 持ち寄ったお菓子を食べるのも、そのまま微睡みに飲まれるのも良いだろう。
「うふふー。今日はたくさん、たっくさんお話しましょうね!」
 ふかふかのオールインワンのナイトウェアに身を包んだ冥加は、甘いココアのカップを掲げて笑った。


■リプレイ


「うわー、ふわもこのうさぎに囲まれてとても可愛らしいお部屋です!」
 もふもふ狸めいたパジャマの翼猫。
 ぽんずを抱きしめたアイカは垂れ目を楽しげに細め、周りを見渡した。
 ふわふわもこもこ、ぬいぐるみ。
 甘い香りのオレンジピールのショコラティに、ちょっぴりほろ苦いミルクココア。
 うさぎをモチーフにした、あまぁいお菓子もたっぷり!
 眠たげな瞳の黒猫きぐるみパジャマのふわふわな尾を揺らしながら。
 アイカは早速、ビュッフェボードへと足を運ぶ。
「皆さんのパジャマ姿も素敵ですし、お菓子までこんなに……。最高ですね!」
「とてもテンションが上がりますね~」
 小さく畳んだ翼を揺らして。
 へにゃっと微笑んだアリシアも、今日は羊柄のパジャマでおめかしだ。
「えへへー、いっぱいいっぱい夜ふかししちゃいましょうね!」
 くまさんパジャマの下でぴこぴこ獣の耳と尾を揺らす、かりんの瞳もきらきら。
 ランドセルのような姿のミミックのいっぽも、毛糸の腹巻きとナイトキャップをつけて。
 ぴょんぴょん跳ねる、跳ねる。
 だってだって。いつもなら子どもは早く寝なさいっ、なんて怒られちゃうのに。
 今日は寝る前にお菓子を食べたって。
 夜更かしして、眠たくなるまでいーっぱいおしゃべりをしたって良いのです!
 あっ、ちゃんと寝る前に歯は磨くのです。
 かりんはせいぎのみかたですから!
「私はホットミルクにしようかな?」
「んと、ぼくはあったかーいココアが飲みたいです!」
「はーい、はい。かりんさん、あったかーいココアどうぞー」
 温かいココアを注いだカップを、気をつけてとアイカはかりんに手渡し。
「私はお手製のクッキーと、ハーブティを準備してきましたよ~」
 と、かごバッグを取り出したアリシア。
「アリシアさんお手製ですと!? ぜひ頂きます!」
「ぴゃわわわ! ぼくも、ぼくも食べますっ」
 アイカとかりんは、諸手を挙げて大歓迎。
 ふんわり、馥郁としたハーブの香り。


 ――おとなびて見えるようなのがいい。
 他所行きサイズの持参ぬいぐるみを傍らに、ティアンは白いネグリジェを揺らし。
 淡い桃色オフショルダーのネグリジェに身を包んだ萌花に、その白くて細い指先を委ねる。
「まあ、すごい、きれいです! ティアンの色ですね」
「萌花、流石だな」
 流石お洒落番長、と。息を呑むアイヴォリーとティアン。
 小さな刷毛を持つ萌花の赤いネイルのゆびさきが、魔法みたいにティアンの爪をブルー・グレー――夕闇色に染めてゆく。
「こうやって爪をキレイにして貰うと、なんだかあたたかい気持ちになるな」
 ぴるぴると長い耳を揺らし、ティアンは言葉を漏らす。
「ふふ、お洒落をすると気持ちが変わりますもの」
 ミルクティ色のパジャマ。
 くすくすと笑うと、アイヴォリーのショコラ色のリボンターバンがひょこひょこ揺れた。
「さぁてさて、今日のテーマはときめきの話しだっけ?」
 銀ラメのラインを施しながら、萌花が尋ねる。
「そうですねえ、わたくしの最近のときめいたお話をするならば」
「……アイヴォリーお姉さまのときめく話って、もはや恋バナなんじゃない?」
 萌花が肩を竦めて、くすくすと。ええ、とアイヴォリーは素直に頷く。
「わたくしは愛しい恋人に365日恋していますもの」
 ときめきと言えば、宵空色の彼のお話になってしまう事も必然だ。
「彼のスーツ姿が余りにも格好良くって、……色っぽくて。心臓を射抜かれたことかしら?」
 今でも思い出すだけで――死んじゃいそうな程。
「へえ。アイヴォリーの恋人は知っているが……、どうしてスーツを?」
「確かに。あたしも彼がスーツ着た経緯が超気になる、もっと詳しく聞かせてよ」
 どういう局面で彼がスーツを纏うのか、微妙に想像がしきれないティアン。
 ネイルを仕上げながら、萌花もふんふんと相槌を打つ。
「ふふ、仕事で偶に着るみたいなの。でも、でも。貴重だから、今も思い出すだけで鼓動が……」
 きゅっとウサギのクッションを抱きしめて、高鳴る胸を押さえつける様にアイヴォリーは囁いた。
 始まったばかりのパジャマパーティ。
 おしゃべりだって、始まったばかり。
「冥加、冥加、おたんじょうびおめでとなのですよ!」
「冥加さんおめでとうございます! こんなにとっても可愛いお部屋でお祝いなんて、素敵なのです……!」
 ふんわりふわふわパジャマに身を包むサヤが、ぱんぱかぱーんと両腕を上げて。
 きょときょと、少しばかり落ち着き無く。
 周りを見渡す月も、今日もドレスコードに沿って白パジャマ。お祝いの言葉を口に、胸前で両掌を合わせて微笑んだ。
「そう、ミョンも14歳になるのね」
 クッキーを齧るリィは、大きな角を傾けて首をかしげ。
「じゅうよんさい、……えっもうそんな、えっ?」
 10を超えた分は指を折り返し。サヤが指折り数える14。
 あれあれ、初めて会った時は一体幾つでしたっけ。
 リィはたっぷり角砂糖を落とした紅茶を一口、言葉を紡ぐ。
「私が14になった頃には一人前のレディだった訳だから、ミョンも今日からレディの仲間入りというわけね」
 男子の参加が無かった為、パジャマ姿のまま廊下に転がされていたボクスドラゴン。
 イドを膝上で抱いて、耳を揺らして笑う冥加。
 更にシャーマンズゴーストの夏雪の膝上に座らせて貰えば、今日はお姫様だ。
「うふふ、ありがとう。そう、もう14になるのよ! 立派なレディの仲間入りだなんて嬉しいわ。あれ、でもリィさんも同い年……」
「えっ、リィもじゅうよ、えっ?」
 もっと混乱するサヤ。
 あれあれ。時が経つのって、とっても早くないですか?
「私は実質15歳みたいなものだから勘違いしないで」
 リィの短い反論。
 後5ヶ月もすれば、リィは15歳。
 今は同い年でも、学校の学年で言えば冥加と1つ違うのだ。
「皆さん、お若いのにしっかりされていますよね。学校生活等は如何ですか?」
 みんなの可愛いパジャマに目を奪われていた月も、少し落ち着いて首傾ぎ。
「うふふー、私は割りと成績もいいのよ!」
 冥加が片腕を上げてアピール。後ろに垂らしたうさみみフードが揺れる。
 ふうん、と喉を鳴らしたリィは瞳を眇めて、ロシアケーキをもう一枚。
「私も来年からは高校とか通ってみようかしら」
 大きな尾を体に巻きつける様に呟くと、少しだけ天井を見上げ。
「……でも一般人と交流するの正直面倒なのよね。選民思想じゃないけど、奇異の目で見られそうで」
「ううん、私は特に感じた事がないけれど……、場所にもよるのかしら?」
 リィの言葉に考えさせられる所があったのか、冥加は唸り声を漏らし。イドの頭をマッサージの様に揉む。
 うーん、とサヤも黒髪を揺らし。
「サヤは高校も大学も通っておりますが、気にしたことはございませんねえ」
 通ってみたいならよいのではないでしょーか?
 なんて、サヤは黒枸杞に菊花の散るお茶をかき混ぜる。
「やりたいことはやってみたほうがお得だな、って思うのですよ。――冥加とリィのこれからにも、いろいろあるとよいですねえ」
 なんてサヤがほう、と息を吐くと。瞳をまあるくするリィ。
「えっ、サヤ……、えっ? 大学生?」
「えっ?」
「? えっどういう意味です??」
「わ、若くみえるってお得ですよね!」
 顔を見合わせる4人。
 冥加がわたわたと手を振って。
「そ、そういえば、みんなお年頃なのだからっ。恋の話なんて聞きたいわっ」
 首を傾ぐと、リィはウサギのぬいぐるみを抱き寄せる。
「そうね。恋バナはサヤが得意らしいから、聞かせて貰うと良いわ」
「ううん、コイバナの手持ちは特段ないのですよねえ」
 振られたサヤはサヤで、うーんと更に首を傾げてしまう。
「月さんは大人ですし、なにかございますか?」
「えっ、えっ、こ、恋は……今の僕には縁遠いというか……!」
 あわあわとクッションで顔を隠してしまった月。
 夏雪が真似をして冥加のフードで顔を隠し。
「ふむ、ふむ。恋バナなら任せて下さい。私とアトリは恋人ですゆえ!」
 10代最後の思い出作りも兼ねてと。
 アトリと、その翼黒猫のキヌサヤとも。おそろいの黒猫パーカー。
 軽食を摘んでいたウルリャフトが、天の川みたいに綺麗な銀髪を揺らしてふんす、と拳を握りしめた。
「アトリは……。アトリはいつもかわいいし、とても素敵な人です。でも、でも。すぐ無理をするから困った人なのですよー」
 むむー。横に座るアトリを見るウルリャフトの瞳は、恋する乙女色。
 擽ったい視線に、アトリは翠髪を揺らして顔を小さく揺すり。
「もくひょーは、しあわせなかてーをきづくこと? ゆえ、ゆえ、今はお家を探しているところなのですー」
「幸せな家庭!」
「わあ……」
 冥加と、口元をクッションで覆った月は、感嘆の声を漏らし。
「ふふふふ。いわゆるひとつの、あいのす、なのです。……略して、あいす?」
「ウル、盛り過ぎだよ」
 自慢げな表情でキヌサヤを一撫でしたウルリャフトに、アトリは苦笑交じりに口を開いた。
「でも。ここだけの話、今後二人で住もうって話していて。――色々巡るつもり」
 愛の巣は……恥ずかしいけど否定は出来ないね、なんてアトリが漏らせば。
「お、おとなのお話なのです!」
 かりんもどきどき、獣耳をぱたぱた。
 その横でハーブティをカップに注いでいたアリシアも、ゆうるり微笑んで。
「恋のおはなしですか? ふふふ、私は初恋ならしたことありますよ」
「わー、初恋の話ですか? 聞きたいです、聞きたいです!」
 興味深い話に。猫用お菓子をぽんずに渡していたアイカも、長い耳をぴんと立てた。
 勢い余って床を転がるぽんず。わたわた。
「そんなに長いお話でも無いですけれど。……だいぶ年上の人でしたが、ほんのりと憧れておりました」
 おっとりと首を傾いだアリシアのお手製ハーブティは、かりんの手へと。
「ひゃー、アリシアの素敵な思い出なのですね!」
「はい。……今は、恋愛よりも野菜やハーブを育てる方が楽しくて」
 くすくすとアリシアは、肩を竦めて笑う。
「……萌花は好きな人いる?」
 黄昏の海みたいに仕上がったネイルをゆびさきに。ティアンは、アイヴォリーの爪に取り掛かっている萌花にぽつりと尋ねた。
「え。あたしは世界の恋人、もなちゃんなんですけどー?」
 ピンクベージュに、月と星。ラインストーンを落としながら、戯けた萌花は視線を落として。
「なぁんて。……いるよ、好きな人」
 アイヴォリーとティアンは、同時に目をまんまるに。
「萌花も好きなひとがいるの?」
 アイヴォリーの言葉にどこかはにかむように。
「うん。やっぱ、特にときめいたのは好きって言われたときかなぁ」
 青い瞳をきらきら揺らす萌花は、甘く囁いた。
 さあ、ネイルも出来上がり。
「ふふー。その気持ち、よーく分かります。……まあ、オフィスでも使えるカラーにしてくれたのですね。流石の気配りです!」
 頷いたアイヴォリーは、天井の灯りに指先を透かす様。
「わあわあ、キレイ、キレイね。……ね、ティアンさんのときめきのお話も聞きたいわ!」
 仕上がったネイルを見ようと、寄ってきた冥加が首を傾ぐ。
「……ティアン?」
 ティアンは、と。灰色の瞳を眇め。
「いるよ。……特に、そう、手をのばしてくれた時。手を繋いだ事も何度もあったけれど」
 静かな夜みたいな声で語るティアンに、萌花が口を開いて。
「ねぇ、ティアンちゃん、その人に一番ときめいた時を教えてよ」
 次の言葉を待つ冥加が、わくわくと耳を揺らす。
「そうだな、……一番は、ティアンを欲してくれた時だ」
 ティアンはその瞳の奥に、思い出を燻らせる。
 彼が指先絡めてくれた記憶が褪せないように。
 仕上がりたての夕闇色の指を、そっと逆の手で包みあげて。
「あぁ、……欲してくれた時かぁ。わかるなぁ……」
 実感の籠もった声で、萌花は桃色の髪を靡かせる。
 品良く染めて貰った指先を掲げたまま。アイヴォリーは、ゆっくりと視線を皆に戻し。
 ああ。
 なんて、愛らしいお話。
 彩り纏った我ら乙女は、きっと訪れた春の花のようなのだろう、なんて。
「……ときめきとは。好きなひとを望み望まれる幸福を、ときめきと呼ぶのかも、しれませんね」
 ゆっくりと。
 柔く暖かくなった心を掌に掴む様に閉じた掌。
 ときめきを抱いて、朝が来るまで。
 こうして咲いていましょうか。
 そうすればときめく方からときめかせる方に――、なんて野望も叶うかしら?
「ニコニコするのも苦しいのも、ぜんぶが恋だと聞きましたよ」
 サヤには、よくわからないけれど。皆の言葉に耳を傾けて、サヤは瞳を閉じる。
「……そう言えばミョンの事を聞いていないわ。ミョンは何かいい感じの人とかそういう話は?」
「そうです、そうです。冥加さんはどうなのですかー?」
 リィがふと気がついた様に尋ねると、がーるずとーくの持ち合わせが無い月も首を傾げて。
「うふふ、えっと……えっと!」
 標的が自分になってしまえば、照れた様にぴょんと跳ねてリィと月へと抱きつく冥加。
 二人の耳元に、こっそり耳打ち。
 ――。
「……皆には内緒、よ」
 うふふ、と笑ってもう一度ぎゅうと二人に抱きついた。


「最近は良くあの服屋さんに行くのだけれど。……うん、あの駅前の角を曲がった店。あそこは色んなパーカーを揃えててね。これもそこで買ったんだ」
「ふふふー、アトリとお揃いで買いに行けてしあわせだったのです! おそろいパーカーだと、いつもかわいいアトリが更に倍ドンですね? ですね!」
 アトリの肩にもたれ掛かったウルリャフトが、キヌサヤをきゅっと抱きしめると。にゃ、とキヌサヤが擽ったそうに声を上げた。
「そういえば、アイカさん。ぽんずさんとの出会いってどんなものだったのですか?」
「あっ、ぼくも聞きたいですっ!」
 アリシアの問いに、かりんもうんうんと頷き。
「ぽんずとの?」
 アイカはころんと転がったぽんずを眺めながら、過去に思いを馳せるように言葉を紡ぐ。
「そうですね……。両親と最後の冒険に出たときに森の奥の遺跡で見つけたんです」
「……最後の」
 ぱちぱち、と瞬きするかりんとアリシア。
「そこでたぬきのような猫のような愛くるしさに一目惚れ! それからずっと一緒です!」
 と、ぽんずのぽっちゃりわがままボディを抱げたアイカは、楽しそうに笑った。
「ねえねえ。アリシアさんも、かりんさんも。将来の夢とか教えて下さいよー」
「将来の夢……ですか」
「ぼくは、せいぎのみかたになるのです!」
 クッキーを片手にかりんが元気よく宣言。
 大切な大切なミミックのいっぽにそのまま、ぎゅーっと抱きついて。
 ――この子は『兄様』からの贈り物。
 ぼくがせいぎのみかたになるためのはじめの一歩なのだから。
「そうですね。私はまだこれといって決まっていませんが……」
 アリシアはうーん、と。少し考えた様子で、ハーブティのカップを軽く揺らし。
「……植物と関わるお仕事が出来たら素敵だなと思います」
 語り部、という一族の役目以外の『やりたいこと』が定まっておらず。
 漠然とした心地悪さを抱え続けてきたアリシアに、少しだけ見えてきた将来。
 ハーブの香りが、心地よく鼻腔を擽る。
「それは素敵ですねー」
「アリシアにぴったりなのです!」
 同意の言葉に、少しだけ照れくさそうに肩を竦めるアリシア。
 かりんは、そんな二人を見上げて。
「ねえ、ねえ。ふたりとも、今夜は寝かせないのですよ!」
 持ってきた駄菓子だって、クッキーだって、まだまだたくさん!
 お菓子も、おしゃべりしたい事も、まだまだたくさん。
「大人のおねえさん達のお話、まだまだいーっぱい聞きたいですもん!」
 いっぽに抱きついたまま。かりんは、ねー! と微笑んだ。
 いつもよりずうっと夜更かし。
 窓の外にはきらきら星空。
「……ん、ん」
 いつの間にか黒猫パーカーの耳をぺったり倒して。
 アトリにもたれ掛かったまま、蒼い瞳をうとうとと蕩けさせるウルリャフト。
 肩を竦めて。
 愛しい人の無防備な姿に、アトリは瞳を細める。
「……ウル。おいで」
 アトリがぽん、と膝を叩くと。ウルリャフトはパーカーの耳を、ぴょこんと立てた。
「むにゃ……、うゆ……。ひざまくら、よいのです?」
「うん、今日くらいはね」
「……えへー、アトリー」
 キヌサヤを抱っこしたまま。ウルリャフトがアトリの膝に頭を載せると、まるで猫のように丸くなり。
 ウルリャフトの背を撫でるアトリは、皆の花が咲くような会話へと耳を傾ける。
 後で、自分も眠たくなったら。
 黒猫3匹、並んで川の字で丸くなろう。
 ――いつか、一緒に暮らす日のように。
 気がつけばボディケアの話から、リィの尾を布で磨く冥加。
「ドラゴニアンは大変ね」
「たしかに、たしかに。ボディケアにたくさん時間がかかりそうですねえ」
「今日はミョンとサヤがしてくれるから、楽で良いわね」
「ふふ、今日は私がピカピカにしちゃうわ!」
「よいですねえ、リィをぴかぴかにしちゃいましょー」
 サヤと冥加が腕を掲げて。
 夏雪に持たれかかった月が、そんな皆の様子をこっくりこっくり眺めている。
 ……こんな素敵で楽しい日は、まだ終わって欲しくないなあ、なんて。
 かくん、と抱きしめたクッションに突っ伏した。
 夏雪が引き寄せた布団を、月に掛けてやる。
 ふわふわもこもこのお部屋での、乙女たちのおしゃべりはまだまだ続くのだ。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月3日
難度:易しい
参加:11人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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