宝物を探しに

作者:黄昏やちよ


 とある小学校の校庭を貸し切って、休日にフリーマーケットが開かれた。
 その小学校に通う子の親や、地域の人たちが自分たちの家の物を持ち寄り小さめのブルーシートの上に広げて並べる。
 飽きてしまったゲームソフト、玩具、手作りのアクセサリーなど幅広い物が一つ一つ並べられている。
「ママ! ぼく、あれほしいよ!」
「もう、タクト。この間、パパにオモチャ買ってもらったばかりでしょう?」
「ふふふ、よろしければこちらお安くしますよ」
「あらっ、ごめんなさいそんなつもりは……」
 フリーマーケットならではの駆け引きや品ぞろえ、ここでしか楽しめない雰囲気がそこには存在した。
 ズン!
 地響きのような音。びくりと人々が肩を震わせ、揺れの中心となったその場所へと視線を向ける。
 校庭のど真ん中に突き刺さる巨大な牙。
「あれ、何?」
 小さな子供が指を指す。
 地面に突き刺さった牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
 竜牙兵は下卑た笑いを響かせながら、近くにいた子供に武器を振りかざす。
 血と臓物の溢れた校庭で、竜牙兵の咆哮が響いていた。


 ぺらりと、資料がめくられる音が静かな空間に響く。
「麗威さんの調査により、ひとつの事件が予知されました」
 集まったケルベロスたちを確認すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は事件について説明を始める。
「どうやら、休日の小学校で開催されるフリーマーケットに竜牙兵が現れるようです」
 交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592) が静かに眼鏡を押し上げる。
 麗威に続くようにセリカが口を開く。
「竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまいます。そうなってしまった場合、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます」
 ケルベロスたちは現場に到着した後、避難誘導については警察や警備員などに任せることが出来る。
「ケルベロスの皆さんには、竜牙兵を撃破することに集中していただきたいのです」
 セリカは手元の資料をめくるように、ケルベロスたちを促す。
「出現する竜牙兵の数は4体です。武器の内訳については、『ゾディアックソード』、『バトルオーラ』が1体ずつ、『簒奪者の鎌』が2体のようです」
 ケルベロスとの戦闘が始まった後は竜牙兵が撤退することはない。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
 セリカはケルベロスたちに一度深々と頭を下げる。
「皆さん、どうかご協力をお願いします。僕と共に、竜牙兵を打ち倒してください」
 麗威は何処か哀愁の漂う微笑みを浮かべるのだった。


参加者
菊池・アイビス(飼犬・e37994)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)
星野・千鶴(桜星・e58496)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)
星奈・惺月(星を探す少女・e63281)
アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)

■リプレイ

●竜牙兵4体セット、如何ですか?
 誰かにとってはもう不要となってしまったもの、誰かにとっては必要なもの……そこにはたくさんの人々の思い出の品が並んでいた。
 小さめのブルーシートの上に、それぞれ持ち寄った品物が広げられている。
 次の持ち主の手に渡ることを望む物たちが、訪れるであろう誰かを待っていた。
 そんな平穏な、柔らかな日の差す休日のこと。
 ズン!
 大きな音と共に、地面が割れるような振動。びくりと人々が肩を震わせ、揺れの中心となったその場所へと視線を向ける。
 校庭のど真ん中に突き刺さる巨大な牙。
「おかーさん、あれは何?」
 地面に突き刺さった牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「ケケケ! マズ、オマエからドラゴンサマのカテにシテヤロウ」
 下卑た笑い声を響かせながら、竜牙兵はその手に持った武器を近くにいた子供に振りかざそうとする。
「やめてぇーーー!」
 母親の声だろうか、悲鳴にも似た声。ああ、もうだめかと思われたその時。
「オドレら骨っ子はたちまちバラしてブルシに並べたるわ!」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させ、菊池・アイビス(飼犬・e37994)が竜砲弾で真っ先に子供を狙った卑劣な竜牙兵を狙い撃つ。
「ガッ!?」
 子供に意識が集中していたその竜牙兵は、突如現れたアイビスのその一撃に成す術もなく地面に倒れた。ふらふらとよろめきながら、その竜牙兵は落とした自分の武器を拾い上げる。
「うららかちゅうにはまださみいが、子供らとパパママの仲良しかいもん日和なんじゃい。空気読まんとなあオイ」
 子供を庇うように仁王立ちしながらアイビスは冷ややかな目で、竜牙兵を一瞥する。

「オマエ……ケルベロスか!?」
 吹き飛ばされた竜牙兵とは別の個体が、声をあげる。
「コロセ! コロセ!」
 また別の個体が、逃げ遅れた子供に武器を振るおうとする。
 ザッ!
 空気を切るような音。子供の前に割って入り、竜牙兵の攻撃を一身に受けた男がいた。
「おーお、こりゃまた骨董品っぽいのが降って来やがった」
 ニィッと口角を上げてエリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)は笑う。
 じわり、じわりと広がる赤色が着ている服を染め上げてゆく。
 竜牙兵の注意を引き付けるように、わざとよろめいて見せ、その場に片膝をついた。
「不良漫画みてぇだな!」
 雷を左拳に纏わせた交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が、助走をつけたそのままの勢いでエリアスごと竜牙兵を殴り倒す。
「がはっ……お前でも、不良漫画とか読むんだな……」
 お互い信頼しきっている者同士なのであろう。麗威の本気、全身全霊を傾けたその一撃すらエリアスは当然の如く受け入れた。
 エリアスの傍らにいるウイングキャット『ロキ』すらも、子分のことを心配する素振りもなくふよふよと浮いている。一連の流れは、少々乱暴なツッコミとでもいうかのように周囲は受け入れていた。
「うふふ。いい度胸ね。わたしたちの目の前で子どもたちに手を掛けようとするなんて。これはめいっぱい、痛ーいお灸を据えてやらないといけないわね?」
 凛とした声でアーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)が竜牙兵の注意を引き付けるように言う。
「フリーマーケットは……。笑顔がいっぱいの場所。ここに……。悲劇は必要ない……。から……。骨っ子……やっつけないと……。ね」
 星奈・惺月(星を探す少女・e63281)もアーデルハイトの言葉に続く。
「クソ! ケルベロスドモガ! ゾロゾロト!」
 計画を邪魔されたことを悔しがっているのだろうか、竜牙兵はみっともなく地団駄を踏んでいた。
 竜牙兵たちは一旦体勢を立て直し、ケルベロスたちへと注力することになる。
 ケルベロスたちが竜牙兵の注意を引き付けている間、背後では警察官による避難誘導が進んでおり、校庭に一般人の姿は一人もいなくなっていたのだから。

●雪の華と桜の花
「その不作法、その命であがなってもらいましょう。さあ、覚悟なさい」
 アーデルハイトは縛霊手の掌から青白く光る光弾を、前に立ちはだかる竜牙兵に発射する。光り輝くそれは、一瞬雪の華に見えた。
「綺麗に見えたらもうお終い」
 ひらひら、桜吹雪。アーデルハイトの雪の華に見えた光弾の後に続く、桜の花びら。
 視界に広がるピンク色。
 美しいその相反する二つに見とれていたのだろうか、竜牙兵は一瞬動きを止めたように見えた。
 星野・千鶴(桜星・e58496)の金色の瞳が最も後ろに立つ竜牙兵をとらえた。
 まるで呼吸するかのように、それが当然のものであるかのような動きで終夜・帷(忍天狗・e46162)が飛び出す。
 動きの鈍っている竜牙兵に、帷は日本刀を鞘から抜き……斬りつける。
「小さな星屑の私だけど あなたの力になれたかな もし…もう一度あなたに会えるなら 一筋の涙を力に変えて 流星となってあなたの元へ」
 惺月の歌声が、静かな校庭に響く。炎を纏った惺月が竜牙兵へ飛び蹴りを喰らわせる。
 まるでそれは一筋の流れ星のようで。
「……簡単に生み出せる戦力と言うのはなんとまぁ、面倒ですね」
 クラウディオ・レイヴンクロフト(羽蟲・e63325)が小さく呟く。
「大丈夫、後ろはお任せ下さい。皆さんを支えて見せますとも……何があろうと、ね」
 意味深な言葉を口から零しながら、クラウディオはエリアスへヒールを試みる。
 禁断の断章を紐解き詠唱する『脳髄の賦活』によって、エリアスの傷ついた体を癒していく。
「悪ィな。助かったぜ、クラウディオ」
 クラウディオに回復を施されたエリアスは、ゴキゴキと首を鳴らし、ぐるぐると腕を回してみせる。まだまだ戦えるぞとアピールするように。
「お前なら、まだ回復もいらねぇだろう」
 傍らに立つ麗威が煽るように言う。
「当たり前だ」
 エリアスはニヤリと笑って応えてみせた。

「帷さん!」
 千鶴が想い人の名を呼ぶ。今だ、とでもいうかのように。
「……成敗する」
 走り出した帷が抜身の刀を構えた。その鋭い切先が、竜牙兵を貫いた。
「ガ……ッ」
 苦しげな声が漏れたかと思うと貫かれた竜牙兵がずるりと、帷に倒れこんでくる。
 帷が刀を素早く抜き取り、後ろへと下がり距離をとると、支えをなくした竜牙兵はゆっくりと地に斃れて消えていくのだった。
「まずは、一体……だな」
 まるで刀についた血を振り払うようにして、帷が小さく呟いた。
「イマイマシイ!」
 後衛の竜牙兵がやられたのを見て、竜牙兵が憎々しげに叫ぶ。
 叫んだかと思えば、近くにいた麗威に狙いを定め、そのエモノを振るった。
 ザン!
 重量のあるそれが麗威の身を引き裂く。その勢いでカラリと眼鏡が竜牙兵の足元に転げ落ちた。
 じわりとシャツに広がる赤色、じくじくと斬られた箇所が熱くなる。
「ギャハハハ!」
 下卑た笑いと共に、その竜牙兵は眼鏡を踏みつける。眼鏡のレンズが割れる音が小さく聞こえたかと思うと麗威はその眼鏡を拾い上げ……。
「そんなに気に入ったなら、くれてやる!」
 再び雷を左拳に纏わせ、眼鏡を握りしめたままゲラゲラと笑っていたその竜牙兵を思いきり殴り倒した。
「ガァ!?」
 まるで少年漫画のように綺麗に宙を舞う竜牙兵。スローモーションで再生しているかのようにゆっくりと。
 どうっと音をたてて、地面に伏したかと思えば、竜牙兵はそのまま動かなくなってしまった。
「度が合いませんでしたか?」
 踏みつけられたことにより、フレームが歪み、レンズの割れてしまった眼鏡を再びかけながら麗威はにっこりと笑ってみせた。
「とてもお似合いですよ、交久瀬」
 褒めているのか、毒を吐いているのかどちらともとれるニュアンスでクラウディオは言の葉を紡いだ。『脳髄の賦活』によって、麗威を癒しながら。

●出血大サービス
「コロシテヤル!」
 残った二体が叫ぶ。片割れが鎌を大きく振りかぶる。
 竜牙兵は鎌をクラウディオへと振り下ろそうとする。しかし、その攻撃は飛び出してきた麗威によって阻まれることになる。
「が、は……!」
 クラウディオが受けるはずだったその攻撃を、彼を庇うことによってまともに受けることとなった麗威はごぼりと口から赤い液体を零す。
「気を付けろ、鬼しか渡れん針山だ!」
 エリアスが腕と拳から無数の角を生やし、拳で地面を穿つ。地中より長く伸ばした角を敵の足元付近に針山のように出現させ、相方を傷つけた竜牙兵を足止めする。
「ナッ!?」
「麗威を倒すのはテメェじゃねぇ、この俺だ!」
 勢いそのままに、拳で竜牙兵を殴り飛ばす。同時にロキも飛び出したかと思うと、爪を伸ばして鋭く引っ掻いた。
「てめえらの主も懲りんのう。何匹おってもブッ壊して返品したるわ言うとるんに!」
 アイビスが言った。今回送られた四体の竜牙兵全てをクーリングオフしてやらんとばかりの叫びだ。当然だろう、竜牙兵はこちらが望んで現れているわけではないのだから。
 間隙に、アイビスは手刀や蹴りから細い帯状の螺旋力を放つ。竜牙兵に辿り着く直前に、直前する。そして……その螺旋力は、竜牙兵を刺し貫いた。
「カハッ……」
 貫かれた勢いのままに、地面に堕ちていく竜牙兵。ごろりと転がったそれは、一瞬ピクリと動いたかと思わせると微動だにしなくなった。
「オドレら骨っ子なんぞ、誰も買うてくれやしねえがのう!」
 狙ったのかそうでないのか、ブルーシートの上に転がった竜牙兵だったものをアイビスは一瞥すると、皮肉たっぷりにそう言ってやるのだった。

「さあ頑張って、麗威。まだまだ戦える、そうでしょう?」
 アーデルハイトが『気力溜め』を用いて回復を行う。雪の女王を思わせるアーデルハイトのオーラが麗威の傷を優しく癒していく。
 四体いた竜牙兵も今や一体のみとなっていた。
 千鶴が残った一体の竜牙兵に喰らいつくオーラの弾丸を放つ。
「フリーマーケットの……。みんなの笑顔を守るために……頑張る気……満々」
 惺月がすうっと息を吸い込んだ。惺月の唇から奏でられるのは、『悠久のメイズ』だった。
 奇蹟を請願する外典の禁歌が、その場に響き渡る。
「要らぬのならば削ぎましょう。不要な頁は、断ち落とさねば」
 クラウディオが詠唱する。
 数多の魔導書を創り、或いは廃棄し続けた『魔法の断裁機』を竜牙兵の頭上に召喚する。断裁機は規定通りの寸法に従い、不要な頁を強制的に断裁する。
 不要な頁……竜牙兵は、投げ捨てられるように地面に堕ちた。そしてそのまま、動くことはなかった。

●貴方だけの宝物を探しに
 竜牙兵が全て斃された後、ケルベロスたちによって現場はヒールを施された。
「おにーちゃん、さっきはありがとう」
 最初にアイビスが庇った子供だろうか、妙齢の女性の背後から恥ずかしそうにお礼を言った。
「おうなんぞ欲しいもんあったらいうてみいオイちゃんが買うてや……」
「これ! あんまり甘やかすでねえ」
「アッハイだめですね」
 女性にぴしゃりと手を叩かれ、アイビスは退散せざるをえなかった。
「帷さん、こっちこっち!」
 千鶴が帷の袖を引っ張りながら、小さなお店を見て回る。帷は千鶴に引かれるがまま、暫く彼女に付き合うことになるのだった。
「ネコグッズ探したい……かも」
「古本なんかがあれば、幾らか買いたいところですが」
 惺月とクラウディオが、自分たちの欲しい物を言う。
 アーデルハイトや麗威、エリアスもフリーマーケットを見て回りたいというのだ。
「掘り出し物でも探してみるか!」
 エリアスの言葉に、仲間たちはこくりと頷く。
 平穏が訪れたこの場所で各々の宝物を探しに、小さなお店に足を運ぶのだった。

作者:黄昏やちよ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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