3匹が喰らう!

作者:ゆうきつかさ

●螺旋忍軍ソフィステギア
「お前達の役目は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ、復活させる事にある」
 ソフィステギアが多数の犬型配下に対して、コギトエルゴスムを手渡した。
 犬型配下はドーベルマン型からチワワ型まで様々な犬種がいたものの、ソフィステギアの言葉を一語一句聞き逃す事なく、真剣な表情を浮かべて聞いていた。
「本星『スパイラス』を失った我々に、第二王女ハールは、アスガルドの地への移住を認めてくれた。妖精八種族の一つを復興させ、その軍勢を揃えた時、裏切り者のヴァルキュリアの土地を、我ら螺旋忍軍に与えると……」
 ソフィステギアが、何処か遠くを見つめる。
 ただし、ハールの人格は、信用に値しない。
 だが、追い込まれたハールにとって、螺旋忍軍は重要な戦力であった。
「ハールが目的を果たしたならば、多くのエインヘリアルが粛清され、エインヘリアルの戦力が枯渇するのは確実となる。我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
 そして、ソフィステギアの演説を終える。
 すべてをやり切ったような表情を浮かべ……。
 その目には迷いが無かった。
 それに応えるようにして、コギトエルゴスムの装飾品を与えられた犬型の螺旋忍軍達が、深々と頭を下げるのだった。

●3匹の獣型螺旋忍軍
「ヒャッハー! 死ね、死ね、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 ブルドッグの獣型螺旋忍軍が高笑いを響かせ、夜道を歩いていた一般人に襲い掛かった。
「ひ、ひぃ!」
 突然の襲撃に驚いた一般人が、ぺたんと尻餅をつく。
 だが、動けない。
 ドーベルマンの獣型螺旋忍軍に睨まれ、身動きひとつ取れなかった。
「あは、あはははは」
 そんな中、チワワの獣型螺旋忍軍が一般人に襲いかかり、まるで玩具で遊ぶようにしながら息の根を止めた。
 それと同時に装飾品に仕込まれたコギトエルゴスムが、人馬型の妖精八種族……セントールとして復活した。
「……?」
 だが、セントールはまったく状況を理解していないようだった。
 頭の上に浮かぶのは、沢山のハテナマーク。
 それでも、自分の事を復活させてくれたのだから、動物型螺旋忍軍が味方である事を理解した。
「わ、私は……どうすれば……」
 セントールが不安な表情を浮かべ、動物型螺旋忍軍を見た。
「ついてこい。俺が世界を見せてやる!」
 そう言ってドーベルマンの獣型螺旋忍軍が、セントールを連れて、その場を後にするのであった。

●セリカからの依頼
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知がありました。動物型の螺旋忍軍による襲撃事件が発生するのだが、その螺旋忍軍が『コギトエルゴスム』を装飾品を身に着けており、襲撃によって死亡した人間よりグラビティ・チェインを奪い、人馬型のデウスエクスが姿を現すという事件です。このコギトエルゴスムが、妖精八種族のものであるのは間違いありません。まずは、襲撃される一般人を守り、螺旋忍軍を撃破してください。そうすれば、妖精八種族のコギトエルゴスムを手に入れる事ができるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「戦闘が行われるのは深夜で、夜道を歩いていた一般人が襲撃されます。だからと言って、この一般人を避難させても、他の一般人が襲われるだけなので、まったく無意味です。襲撃を仕掛けてくる獣型螺旋忍軍は三人。ドーベルマンの獣型螺旋忍軍はクールでリーダータイプ。ブルドックの獣型螺旋忍軍は脳筋特攻タイプ、チワワの獣型螺旋忍軍は甘噛み拷問タイプです。動物型螺旋忍軍は『ケルベロスに近接単体グラビティで攻撃された』ターンのみ、一般人を攻撃する事はありませんが、遠距離攻撃や近接範囲攻撃の場合は、その攻撃を受けたり掻い潜ったりしながら、一般人を殺して、セントールを復活させてしまうでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「螺旋忍軍が妖精八種族のコギトエルゴスムを手に入れた経緯は判らないが、もしかしたら、第二王女や或いは別のデウスエクスの策略があるかもしれません。妖精八種族のコギトエルゴスムをこちらで確保できれば、グランドロンの探索でも有利になるでしょう。とにかく、一般人を殺させない事が重要になるので、その点をしっかり確認して連携するようにしてください」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
佐藤・しのぶ(スポーツ少女・e62849)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)

■リプレイ

●犬型螺旋忍軍チワワ
「まさかボクの邪魔をするケルベロスがいたとはねぇ。同じ犬同士仲良くやろうよ。それとも、首輪をされているせいで、自分の考えとかってないのかな?」
 犬型螺旋忍軍チワワが小馬鹿にした様子で、ケルベロス達に視線を送る。
 一般人の男性を襲おうとした途端、ケルベロス達に邪魔をされたせいか、内心イライラ。
 そのせいで嫌味のひとつや、ふたつ、言ってやらなければ、気が済まなくなっているようだ。
「そう言われて、私達が『ハイ、どうぞ!』って答えるとでも思った? 状況が飲み込めていないセントール君を横取りするため、一般人を襲撃するなんて不粋すぎて見逃せないんだよ」
 喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)が不機嫌な表情を浮かべ、一般人の男性に凛とした風を使う。
 その間も、一般人の男性は状況が呑み込む事が出来ず、キョトン顔。
 ただひとつ分かっている事は、ケルベロス達が味方であると言う事だけだった。
「状況が呑み込めない……? 別にいいと思うけど? 知る必要もないんだし……。それに知ったところで、どうなの? 本当のことを言ったとしても、この人が信じる訳がないし……。それともアレかな? そう言う事を詳しく説明したら、襲っても良い訳?」
 犬型螺旋忍軍チワワが思わせぶりな態度で、一般人の男性をジロリと睨む。
「ひ、ひぃ!」
 その視線に気づいた一般人の男性が腰を抜かして、その場にぺたんと座り込んだ。
「そんな事はないけど……」
 佐藤・しのぶ(スポーツ少女・e62849)が嫌悪感をあらわにしながら、仲間達全員に護法覚醒陣を使う。
 おそらく、犬型螺旋忍軍チワワはケルベロス達がそう答えるのが分かっていながら、あえて質問をしたのだろう。
「だったら、説明する必要なんてないよね!?」
 犬型螺旋忍軍チワワは不気味な笑みを浮かべ、波琉那に向かって手裏剣を投げた。
「……クッ!」
 間一髪で、その攻撃をかわした波琉那が、稲妻突きで犬型螺旋忍軍チワワに反撃ッ!
 残念ながらマヒさせる事は出来なかったが、犬型螺旋忍軍チワワのプライドを酷く傷つける事には成功ッ!
「なかなか、やるじゃないか。ボクを此処まで怒らせたのはキミが初めてだよ。みんな、その前に死んでいたからね」
 犬型螺旋忍軍チワワが殺気立った様子で、激しくこめかみをピクつかせた。
 まさか、ここまで苦戦するとは夢にも思っていなかったのか、その表情には焦りの色すら見えていた。
 それを誤魔化すようにして、ケルベロス達に攻撃を仕掛けているものの、気持ちばかり先走っているせいで、攻撃の仕方が単純になっていた。
「じゃあ、これからもっと怒る事になるかも」
 しのぶが波琉那と連携を取りつつ、犬型螺旋忍軍チワワに月光斬を放つ。
「うぐ……! 馬鹿なッ!」
 その途端、犬型螺旋忍軍チワワが捕縛状態に陥り、まったく身動きが取れなくなった。
「それじゃ、行くよっ!」
 次の瞬間、しのぶがスターゲイザーを放ち、犬型螺旋忍軍チワワにトドメをさした。
 その一撃を食らった犬型螺旋忍軍チワワが口をパクパクさせた後、白目を剥いて息絶えた。
「キミを悪い事に利用なんて絶対にさせないんだからね! ちゃんと正しい方法で元に戻せる時まで守ってあげるんだから」
 そう言って波琉那が、足元に転がったコギトエルゴスムを素早く拾い上げ、ホッとした様子で溜息をついた。

●犬型螺旋忍軍ブルドッグ
「なんだ、テメエらは! 邪魔するんだったら、容赦はしねぇぞ!」
 同時刻、犬型螺旋忍軍ブルドッグはイラついた様子で、ケルベロス達に対して睨みを利かせていた。
 ケルベロス達の邪魔さえ入らなければ、一瞬にして終わっていた任務。
 それ故に、腹立たしさも倍増と言った感じで、鉄球をブンブンと振り回し、鼻息を荒くさせていた。
「ここで手を止めたら、その隙に犠牲者が出ちまいマス。ここは一歩も譲らネーゾ」
 だが、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は怯まない。
 このまま道を譲れば、確実に一般人が命を落とす。
 それが分かっていながら、道を譲るほどパトリシアも愚かではない。
「つーか、お前等には関係がねぇ事だろ? 別に知り合いって訳でもねぇんだからよォ! それともアレか? 正義の味方気取りってヤツか!?」
 犬型螺旋忍軍ブルドッグが嫌悪感をあらわにしながら、ジリジリと距離を縮めていく。
 隙あらば、撲殺。
 隙が無ければ、そのままタックル。
 そんな気持ちが伝わってくるほど、あからさまに攻撃モード。
「関係ない……か。だったら、何をしようが、俺達の勝手だろ。少なくとも、俺はお前を気に入らない」
 すぐさま、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が動物変身を解き、猫から元の姿に戻ると犬型螺旋忍軍ブルドッグに稲妻突きを放つ。
「グ、グガッ! よくもやりやがったなァ! お前等だけは、絶対にぶっ殺してやる!」
 その一撃を喰らった犬型螺旋忍軍ブルドッグが鼻息を荒くさせて、ヴォルフめがけて鉄球を振り下ろす。
 それに気づいたヴォルフが軽やかな身のこなしで、鉄球をギリギリのところでかわしていった。
「それなら試してみまショウカ。ワタシ達が本当に殺せるカ、どうカ」
 パトリシアが間合いを取りつつ、犬型螺旋忍軍ブルドッグから離れていく。
 なるべく遠くに。
 一般人の男性から遠ざかるようにして……。
 案の定、犬型螺旋忍軍ブルドッグが鼻息を荒くして、パトリシアに襲い掛かってきた。
 だが、犬型螺旋忍軍ブルドッグは気づいていない。
 それが罠だと言う事に……!
 本来、命を奪うべき相手をそっちの気で、ケルベロス達と戦いを始めてしまった事に……!
「さっきから騒いでいるだけで、全然殺せそうにないようだが……。それでも、本気を出しているのか……?」
 ヴォルフも犬型螺旋忍軍ブルドッグを挑発しつつ、懐に潜り込むと獣撃拳を叩き込む。
「……グハッ! ば、馬鹿なッ! 何故、こんな事にッ!」
 犬型螺旋忍軍ブルドッグが恨めしそうな表情を浮かべ、ケルベロス達をジロリと睨む。
 何もかもが、予定外。
 まったく予想をしていなかった事。
 しかも、ケルベロス達は強い。
 予想を上回るほど強かった。
 それ故に、攻撃が当たらず、ストレスが溜まるばかり。
 それでも、一発当てねば気が済まない程、犬型螺旋忍軍ブルドッグはイラついていた。
「いままでこうやって敵の裏をかいて戦ってきましたからネ。何故なら、ワタシ達の楽しみは、前提崩し、ちゃぶ台返しなんデスカラ……。それにコッチだって螺旋忍者ナンダ。ダカラ、そう簡単に負けないワヨ」
 パトリシアが素早い身のこなしで攻撃を避け、犬型螺旋忍軍ブルドッグに螺旋掌を叩き込む。
「グオオオオオオオオオオオオオオ、もう我慢できねぇ! 死ね、死ね、死ねええええええええええええええええええ!」
 次の瞬間、犬型螺旋忍軍ブルドッグが捨て身の覚悟で、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「……この状況で特攻か」
 ヴォルフが深い溜息を洩らし、犬型螺旋忍軍ブルドッグの攻撃を避けず、稲妻突きを炸裂させた。
「グガ……ゴフッ!」
 その一撃を食らった犬型螺旋忍軍ブルドッグが血反吐を吐き、崩れ落ちるようにして息絶えた。
 そこでコギトエルゴスムを回収し、犬型螺旋忍軍ブルドッグの死体を調べてみたが、これと言って気になるモノは見つからなかった。

●犬型螺旋忍軍ドーベルマン
「やれやれ、この状況で邪魔が入るとは……。俺もつくづく運がない。まあ、どちらにしても殺せばいい事。俺を敵に回した事を後悔するんだなッ!」
 一方、犬型螺旋忍軍ドーベルマンは心なしか喜んでいる様子で、ケルベロス達を睨みつけていた。
 元々、一般人を殺すだけでは面白みがないと思っていたせいか、ケルベロス達が現れた事は、逆に好都合。
 ここで命を懸けた殺し合いをするのも悪くない。
 そんな気持ちが少なからず、あるのかも知れない。
「そう言えば、ドーベルマンって警察・軍用犬でも有名な奴でしたよねぇ。スパイラスでも犬種は豊富なんですかねぇ……」
 霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)が興味津々な様子で、犬型螺旋忍軍ドーベルマンに視線を送る。
 一見するとドーベルマンだが、実際にはドーベルマンとは似て非なるモノ。
 そもそも進化の過程が違うはずなので、あまり深く考えるべきではないのかも知れない。
「セントール復活のために一般人を虐殺しようとは……。その時点で気に入りません。躾のなっていない犬はお仕置きです」
 旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)が犬型螺旋忍軍ドーベルマンの前に立ち、躊躇う事なくキッパリと言い放つ。
「ほお……お前等が、お仕置き……ねぇ。だったら、俺も躾をしてやらねぇと駄目だなァ!」
 犬型螺旋忍軍ドーベルマンが吠えるようにして叫び、ケルベロス達に攻撃を仕掛けていく。
 その攻撃は激しく、反撃を仕掛ける余裕すらない程だった。
「……全く。ロングレンジからの砲撃や魔法が私の本領なのに、こうして不得手な白兵戦を強いられるとは、面倒なことだ。だが、やるしかないならやってやる! 貴様らのせいで血が流れる結果なんて、見たくはないからな!」
 嘉内が犬型螺旋忍軍ドーベルマンの攻撃を受けつつ、反撃を仕掛ける機会を窺った。
 しかし、元々不得意な白兵戦。
 犬型螺旋忍軍ドーベルマンの気を引く事は出来ても、反撃する事は難しかった。
「はぁーい! それじゃ、出張動物病院の診療を始めますよ~! まずは予防接種!!!」
 すぐさま、裁一が犬型螺旋忍軍ドーベルマンの死角に回り込み、嫉妬暗殺術を炸裂させた。
「な、何をした……」
 その一撃を食らった犬型螺旋忍軍ドーベルマンがマヒ状態に陥り、怯えた様子で裁一を睨む。
「ドッグフードとは即ち犬が食べ物になること! すなわち、スライムの餌になるべし! 故に、デストローイ!」
 裁一がイイ笑顔を浮かべながら、ブラックスライムを捕食モードに変形させ、犬型螺旋忍軍ドーベルマンを丸のみした。
 しかも、犬型螺旋忍軍ドーベルマンはマヒ状態に陥っているため、まったく反撃する事が出来ず、そのまま骨すら残さず消化された。
「セントール、ですか。私達の力になってくれればいいのですが……」
 そう言って嘉内が足元に転がっていたコギトエルゴスムを回収した。
 これでセントールが仲間になると確定したわけではないが、色々と試してみる価値はあるだろう。
 そしてケルベロス達は一般人の男性を無事に家まで送り届けた後、ようやく帰路につくのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月21日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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